(平成30年8月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、被相続人であるH(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人である審査請求人F、同G及び同D(以下、順に「請求人F」、「請求人G」及び「請求人D」といい、3名を併せて「請求人ら」という。)が、原処分庁から、請求人D名義の預金口座に入金された資金及び上場株式の購入資金に相当する預け金返還請求権が本件被相続人の相続財産であるなどとして、相続税の更正処分等を受けたため、当該各資金は本件被相続人から請求人Dに過去に贈与されたものであるから相続財産には当たらないとして、当該更正処分等の全部又は一部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件被相続人の親族関係等
     平成26年12月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した本件被相続人(昭和○年○月○日生)の相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人は、本件被相続人の配偶者である請求人F、長女である請求人G及び長男である請求人D(昭和○年○月○日生)の3名である。
  • ロ 本件被相続人及び請求人Dの経歴等
    • (イ) 本件被相続人は、昭和59年頃に○○を退職した。その後、K社の代表取締役に就任した。また、本件被相続人は、昭和62年9月○日に設立されたM社(平成18年5月1日以後は、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条第1項の規定により株式会社として存続する特例有限会社)(以下「本件会社」という。)の代表取締役に就任した。
    • (ロ) 請求人Dは、昭和59年に就職し、平成2年にd県勤務となるまでは、e市内にある本件被相続人の自宅で、本件被相続人及び請求人Fと同居していた。その後、請求人Dは、平成18年に再びe市勤務となってからは、請求人Dの家族とともに、本件被相続人の自宅の隣に建築した建物(以下「本件自宅」という。)で居住している。
  • ハ 本件会社の概要
     本件会社は、e市f町○−○を本店所在地、土地建物の所有及び賃貸並びに有価証券の保有及び運用等を目的とし、上場株式を現物出資するなどして設立された法人である。
     なお、設立当初における取締役には、本件被相続人、請求人F及び請求人Dの3名が就任した。
  • ニ 請求人D名義の預金口座への入金等
    • (イ) 請求人D名義のJ銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件預金口座」という。)に、昭和62年6月26日から平成4年7月24日までの間に、別表1のとおり、N証券から計31,173,797円、P証券から計2,088,046円、Lの○○貯金の解約金から計11,685,108円、Q証券から4,486,400円及びR社の株式売却代金766,258円の合計50,199,609円が入金された(以下、当該入金された50,199,609円を「本件入金資金」という。)。
    • (ロ) 請求人D名義で昭和62年6月26日までに、S社の株式3,000株が4,971,340円で購入された(以下、当該株式3,000株を「本件S社株式」といい、その購入資金4,971,340円と本件入金資金50,199,609円との合計55,170,949円を「本件資金」という。)。
  • ホ 本件相続開始日現在において、本件資金が原資となった資産(後記4の(1)のニ参照)が請求人Dに帰属することについては、請求人らと原処分庁の双方に争いはない。

(3) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に別表2の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
     上記申告書には、平成27年9月5日付の「遺産分割協議書」(以下「本件分割協議書」という。)が添付されており、そこには、本件分割協議書に記載のない本件被相続人の資産及び負債は、請求人Fが相続する旨記載されている。
  • ロ 原処分庁は、上記イの申告に含まれていない次の(イ)ないし(ハ)の各財産は、本件相続に係る相続財産であり、本件分割協議書にこれらの財産が記載されていないことなどから、いずれも未分割財産であるとして、平成29年6月30日付で、請求人らに対し、別表2の「更正処分等」欄のとおり、本件相続税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
    • (イ) 本件資金に相当する金額(以下「本件資金相当額」という。)の預け金返還請求権55,170,949円
    • (ロ) 未収入院給付金420,000円(以下「本件給付金」という。)
       本件給付金は、本件被相続人を契約者及び主たる被保険者として、T生命との間で締結した生命保険契約に基づき支払われるべき入院給付金である。
       なお、請求人Fは、平成27年1月20日に、本件給付金の支払を受けた。
    • (ハ) 生命保険契約に関する権利138,595円(以下「本件解約返戻金請求権」という。)
       本件解約返戻金請求権は、本件相続開始日現在において、上記(ロ)の生命保険契約を解約するとした場合に解約返戻金の支払を求めることができる権利である。
       なお、当該生命保険契約の契約者は、平成27年1月20日に、請求人Fに変更された。
  • ハ 請求人らは、本件資金相当額の預け金返還請求権は存在せず、本件給付金及び本件解約返戻金請求権は請求人Fが相続した財産(分割財産)であるから、本件相続税に係る請求人らの各納付すべき税額は、別表2の「審査請求」欄の各「納付すべき税額」欄に記載の金額になるとして、1本件各更正処分については、請求人Fはその全部の取消しを、請求人Gは123,488,500円を超える部分の取消しを、請求人Dは188,273,300円を超える部分の取消しを求め、2本件各賦課決定処分については、いずれもその全部の取消しを求めて、平成29年9月27日に、それぞれ審査請求をするとともに、同日、請求人Dを総代として選任する旨を届け出た。

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2 争点

本件資金相当額の預け金返還請求権があるか否か。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人ら
以下のとおり、本件資金の原資は本件被相続人に帰属するものと認められ、また、本件被相続人と請求人Dとの間で贈与やその他の債権債務関係があったとは認められないことからすると、請求人Dには本件資金の給付を受けるべき法律上の原因はないため、本件被相続人は、請求人Dに対し、本件資金相当額の預け金返還請求権(不当利得返還請求権)を有している。 以下のとおり、請求人Dは、本件被相続人から、本件資金の原資を幼少の頃より一貫して贈与を受けてきたのであり、本件資金も請求人Dに帰属するものであるから、本件被相続人は、請求人Dに対し、本件資金相当額の預け金返還請求権を有していない。
(1) 本件資金は、その後、本件会社に現物出資された上場株式の取得原資に充てられているところ、当該取得原資について、本件被相続人が本件預金口座で運用した金銭であり、本件被相続人が請求人Dのために貯めていた金銭である旨を請求人Dが申述したこと、そして、上記の上場株式の購入手続やその資金の用意などの財産の管理・運用を本件被相続人が行っており、自身はその詳細を覚えていない旨を請求人Dが申述したことからすると、本件資金の原資は、本件被相続人が自らの財産を管理運用したものであることが認められる。 (1) 本件資金の原資は、請求人Dが幼少の頃より本件被相続人から贈与を受けたものである。
 そして、請求人Dは、昭和59年に就職すると同時に、請求人D名義の証券口座や預貯金などを管理運用するようになっており、本件会社の株式(平成18年5月1日より前は「出資」、以下同じ。)へ運用替えしたのも、請求人Dの判断に基づいたものである。
 なお、請求人Dの財産の管理運用を本件被相続人が行っていた旨を請求人Dが申述したとする原処分庁の主張部分は誤りである。すなわち、当該申述は、原処分庁所属の調査担当職員から本件被相続人の財産の管理運用方法について問われたため、本件被相続人が管理運用していた旨回答したにすぎない。
(2) 本件被相続人が、本件資金を請求人Dに対し贈与する意思を表示したという客観的な証拠はなく、また、請求人Dにおいても、贈与を受けた詳細についての具体的な記憶がないことから、本件資金に係る贈与があったとは認められない。 (2) 本件被相続人は、○○を退職してからの管理記録及び贈与記録は保管していたが、多忙な○○時代の贈与については、記録及びそのことを証明する贈与税の申告書を残していなかったにすぎない。請求人Dにおいても、幼少の頃に本件資金の原資を贈与してもらったことは記憶している。
 また、1平成3年から本件相続開始日の間にも、本件被相続人は、請求人Dに対して、総額1億円を超える財産を贈与していたこと、2本件被相続人が毎年作成していた「総括表」と題する書面には、本件被相続人の財産として本件資金相当額の預け金返還請求権は記載されていないこと、3請求人Dは、本件資金を原資に取得された本件会社の株式から発生した配当金を取得していたが、それでも、本件被相続人から、当該預け金返還請求権について返済を求められたことがないことからすれば、本件被相続人も、本件資金の原資は、請求人Dに贈与されたものと認識していたことは明らかである。

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4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件被相続人、請求人ら及び本件会社の各名義の財産の管理運用等
    • (イ) 本件被相続人名義の財産の額は、昭和50年時点で約2億8千万円、請求人Dが就職した翌年の昭和60年時点で約8億5千万円であった。
    • (ロ) 本件被相続人は、本件被相続人、請求人D及び請求人F(以下、請求人Dと請求人Fを併せて「請求人Dら」という。)並びに本件会社の各名義の資産及び負債(以下、当該各名義の資産及び負債を併せて「本件財産」という。)について、「H収資推移」(「収資」は原文ママ)、「総括表」及び「○○ファミリー総資産」などと題する各書面等(以下「本件各書面等」という。)に、当該各名義別に、年ごとの財産の運用状況等を記録していた。
    • (ハ) 上記(ロ)の総括表は、本件被相続人が、昭和59年から平成12年までの各年における本件財産の状況について、本件被相続人、請求人Dら及び本件会社の各名義別に、資産及び負債の種類ごとに区別して記載したものである(以下、この総括表を「本件総括表」といい、当該各年の総括表を「本件各総括表」という。)。ただし、平成8年から平成12年までの本件総括表には、請求人Dらの各名義の記載はなく、本件被相続人及び本件会社の各名義別に記載されている。
       このうち、平成6年の本件総括表には、「特記事項」欄に本件被相続人が本件会社の株式を請求人Dの配偶者である○○に贈与した旨の記載がされているものの、「貸借対照表」欄の「M社株」欄には、請求人Dの資産として記載されている。一方、婚姻により転居した請求人Gについては、本件各総括表には請求人G名義での資産及び負債のいずれも記載はなく、例えば、平成5年の本件総括表の「特記事項」欄に、請求人Gに対して本件被相続人が住宅取得資金を贈与した旨の記載がされているだけである。
       また、昭和60年及び昭和63年ないし平成12年までの本件総括表の「純収入使途」欄には、名義ごとの収入合計を合算した金額の使途が、「支出」欄や「運用」欄に名義ごとに区別されることなく記載されている。
    • (ニ) 昭和62年及び昭和63年の本件総括表には、請求人Dが、上場株式を本件会社に現物出資した旨、平成2年の本件総括表には、本件被相続人が所有する本件会社の株式を請求人Dへ譲渡した旨の記載があるが、他方で、本件各総括表のいずれにおいても、本件被相続人の資産には、請求人Dに対する預け金又はこれに類似する内容の資産の記載はなく、その他の本件各書面等においてもそのような記載はない。
    • (ホ) 本件預金口座の入出金は、その預金通帳により、昭和58年1月29日以降のものが確認できるところ、当該各預金通帳には、平成17年11月9日までの主な入出金について、本件被相続人による「○○」等の入金原資や「贈与税」等の出金後の使途等に係るメモ(以下「本件入出金メモ」という。)が記載されていた。
       なお、請求人Dが本件自宅に居住するようになった平成18年以降の入出金については、本件被相続人によるメモ書はない。
  • ロ 本件入金資金の原資
     本件入金資金の入金元等は別表1のとおりであるが、その原資については、1N証券、P証券及びQ証券からの各入金は、その振込原因等が明らかでなく、Lの○○貯金の解約金のうち、平成2年4月13日の6,430,440円及び同年8月1日の2,137,662円の各入金額は、請求人D名義の○○貯金を解約した資金を入金していることが確認できたが、残りの○○貯金の名義は明らかでなく、3R社の株式売却代金であることは判明しているものの、その株式の名義は明らかでない。
  • ハ 本件S社株式の購入資金の原資
     本件S社株式の購入資金の原資については、その内容等が明らかでない。
  • ニ 本件資金の運用状況等
    • (イ) 本件入金資金は、請求人Dの勤務先からの給与の入金、証券会社からの入金及び本件預金口座の預金通帳の「摘要」欄に「テイキヨキン」と記載された入金と合わせて、主として、1上場株式(U社、V社及びJ銀行の各株式)の購入資金(以下「本件上場株式購入資金」という。)に充てられ、当該上場株式を本件会社へ現物出資することにより、請求人D名義の本件会社の株式として運用されているもの、2本件被相続人から本件会社の株式を譲り受けるための資金(以下「本件株式譲受資金」という。)に充てられ、請求人D名義の本件会社の株式として運用されているもの、3請求人D名義の○○貯金(以下「本件○○貯金」という。)として運用され、平成18年4月及び5月に、それまでに生じた利息とともに本件預金口座に入金された後、本件自宅の建築資金に充てられているものに分類される。
       なお、平成3年以降、請求人Dの勤務先からの給与は本件預金口座には入金されていない。また、請求人Dは、d県勤務中の生活費は社内預金で賄っていた。
    • (ロ) 本件預金口座の預金通帳及び届出印は、請求人Dがd県勤務となった平成2年から本件自宅に居住するようになった平成18年までの間は、本件被相続人の自宅の金庫に保管され、その間における当該預金通帳の記帳は本件被相続人によって行われていたほか、本件入出金メモには、「V社買」(昭和62年7月30日にした3,881,080円の出金に係る記載)、「U社、X社買」(昭和62年7月7日にした14,481,890円の出金に係る記載)など、本件上場株式購入資金として出金した旨が読み取れる記載、「M社株買」(平成2年8月20日にした34,373,000円の出金に係る記載)という本件株式譲受資金として出金した旨が読み取れる記載及び「○○貯金」(平成3年10月31日にした4,000,000円の出金に係る記載)など、本件○○貯金として運用するために出金した旨が読み取れる記載がある。
       その後、請求人Dは、平成18年にe市勤務となり、本件自宅に居住してからは、本件預金口座の預金通帳及び届出印を本件自宅で保管するようになった。
    • (ハ) 本件S社株式は、上記(イ)の1の上場株式と同様、本件会社へ現物出資され、請求人D名義の本件会社の株式として運用された(以下、当該株式と上記(イ)の1及び2の請求人D名義の本件会社の株式を総称して「本件株式」といい、本件株式と上記(イ)の3の○○貯金を併せて「本件化体財産」という。)。
    • (ニ) 本件会社は、○○の資産を管理する目的で、本件被相続人が発案し設立したものであり、本件会社の設立当初の定款(昭和62年9月3日付)、社員総会議事録(昭和63年2月22日開催)及び臨時社員総会議事録(平成2年8月13日開催)には、それぞれ上記(イ)の1の当該現物出資及び上記(イ)の2の本件被相続人から請求人Dに対する本件会社の株式の譲渡があった旨の記載とともに、本件被相続人及び請求人Dの記名・押印がある。
  • ホ 本件会社の配当金の申告状況等
     本件会社では、平成13年から平成26年までの間、平成22年を除いた各年に剰余金の配当を実施している。また、少なくとも平成19年ないし平成21年及び平成26年の各年9月に開催された各株主総会の議事録には、それぞれ剰余金の配当を決議した旨の記載とともに、本件被相続人及び請求人Dの記名・押印がある。
     請求人Dは、少なくとも平成21年分及び平成23年分ないし平成26年分の所得税又は所得税及び復興特別所得税の申告において、本件会社から本件預金口座に振り込まれた配当金を配当所得として申告していた。
  • ヘ 本件被相続人から請求人Dに対する贈与
     「H贈与(〜2014)」と題する書面には、平成3年から平成26年までの間に、本件被相続人から請求人Dに対して、総額1億1千万円を超える土地、本件会社の株式及び現金等が贈与されていた旨が記載されており、少なくとも、平成3年分及び平成7年分ないし平成25年分(平成16年分及び平成20年分を除く。)の贈与税の各申告内容が確認できたが、その財産の中には、本件資金や原処分庁の主張する本件資金相当額の預け金返還請求権(不当利得返還請求権)は含まれていない(なお、本件被相続人は、平成17年には、請求人Dに対し、700万円の現金を贈与し、それは本件自宅の建築資金に充てられた。)。

(2) 検討

  • イ 資産の帰属の認定について
     資産の帰属を認定するに当たっては、その名義が重要となることはもちろんであるが、他人名義で資産の取得をすることも特に親族間においてはみられることからすれば、その取得の原資を出捐したのは誰か、その資産の取得を意思決定し、実際に手続を行ったのは誰であるか、その管理運用を行っていたのは誰であるか等や、その名義と実際に管理運用している者との関係を総合考慮して判断するのが相当である。
  • ロ 本件資金の管理運用等の状況からの検討
    • (イ) 本件被相続人は、少なくとも平成7年までの間、本件総括表に、請求人Dらの財産を各人別に記載していた(上記(1)のイの(ハ))。
    • (ロ) また、本件被相続人は、請求人Dが昭和59年に就職する以前から平成17年11月9日までの間、本件預金口座の預金通帳に本件入出金メモを記載しており(上記(1)のイの(ホ))、本件入出金メモには本件入金資金のその後の使途についての記載もある(上記(1)のニの(ロ))。
    • (ハ) さらに、本件預金口座の預金通帳及び届出印は、少なくとも、請求人Dがd県勤務となった平成2年から本件自宅に居住するようになった平成18年までの間は、本件被相続人の自宅の金庫に保管され、当該預金通帳の記帳や本件入出金メモの記戴は本件被相続人が行っていたこと(上記(1)のニの(ロ))や、d県勤務中の請求人Dの生活費は請求人Dの社内預金によって賄われていたこと(上記(1)のニの(イ))からすれば、本件預金口座の入出金を請求人Dが自ら行っていたとは認め難い。
    • (ニ) 上記(イ)ないし(ハ)のことからすると、平成18年に請求人Dがe市勤務となり本件自宅に居住し、本件預金口座の預金通帳及び届出印を本件自宅で自ら管理するようになるまでの間は、本件資金について、本件被相続人が管理運用していたものと認めるのが相当である。
  • ハ 本件資金の原資の帰属について
     上記(1)のロ及びハのとおり、本件資金の原資の一部については、その名義は判明しているものの、残りの原資に至っては、その名義すら判明していない。
     しかしながら、資産の帰属の認定に当たっては、上記イのとおり、その管理運用を行っていたのは誰であるか等や、その名義と実際に管理運用している者との関係などを総合考慮して判断すべきものであるところ、上記ロの(ニ)のとおり、本件資金の管理運用は本件被相続人が行っていたほか、本件預金口座及び本件S社株式の名義は本件被相続人の長男である請求人Dであること、本件資金は約5,500万円と多額であること、上記(1)のイの(イ)のとおり本件被相続人は多額の財産を有していたこと、本件被相続人以外の第三者(請求人Dを含む。)が本件資金の形成に関与したことをうかがわせる事情は認められないことなどからすると、本件資金の原資は本件被相続人に帰属する財産であったとみるのが自然である。
  • ニ 本件化体財産の帰属について
    • (イ) 上記ハのとおり、本件資金の原資は、本件被相続人に帰属する財産であったと認められ、上記ロの(ニ)のとおり、本件資金の管理運用は本件被相続人が行っていたものと認められることから、上記(1)のニの本件資金の運用から生じた本件化体財産は、本件化体財産が生じた時点では、本件被相続人に帰属していたものと認められる。
    • (ロ) しかしながら、その後、本件化体財産は本件相続開始日現在において請求人Dに帰属している(前記1の(2)のホ)。そして、1本件被相続人が平成17年に請求人Dに対して本件自宅の建築資金として700万円を贈与していること(上記(1)のヘ)、2請求人Dが本件自宅を建築する際、本件化体財産の一部である本件○○貯金がその建築資金に充てられていること(上記(1)のニの(イ))、3請求人Dが本件自宅に居住するようになった平成18年以降、本件預金口座の預金通帳及び届出印を請求人Dが自身で管理するようになったこと(上記(1)のニの(ロ))及び4請求人Dの本件株式の配当金に係る所得税又は所得税及び復興特別所得税の申告状況(上記(1)のホ)などを総合的に考慮すれば、本件化体財産の帰属は、平成18年頃に、贈与により請求人Dに移転したものとみるのが相当である。
  • ホ 本件資金相当額の預け金返還請求権の存否等について
     上記ロ及びハのとおり、本件資金及び本件資金の原資の管理運用は、本件被相続人が行っていたものであり、そうであれば、本件入金資金を本件預金口座に入金したり、その後、請求人D名義の上場株式の購入資金に充てたりしたことは、本件財産の管理運用の一環として、請求人Dの名義で本件被相続人が実質的に行っていたものと認められること、上記ニの(ロ)のとおり、平成18年頃に本件化体財産は本件被相続人から請求人Dに贈与されていたことからすれば、そもそも本件資金相当額の預け金返還請求権は存在はおろか発生していたとすらいえない。したがって、これに反する原処分庁の主張は採用できない。
     なお、上記ニの(ロ)のとおり、本件化体財産の贈与がされたのは、平成18年頃であることからすれば、相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》の適用も問題となることはない。
  • ヘ 請求人らの主張について
     請求人らは、前記3の「請求人ら」欄のとおり、請求人Dは本件被相続人から本件資金の原資を幼少の頃から一貫して贈与を受けてきたものであること、請求人Dは、昭和59年に就職すると同時に、請求人D名義の預貯金等の管理運用をするようになったことから、本件資金も請求人Dに帰属するものである旨主張する。
     しかしながら、1本件資金の原資の贈与については、これを裏付ける的確な証拠はなく、かえって、本件被相続人が本件資金の原資を管理運用していたこと等の各事情に照らせば、本件資金の原資は、本件被相続人に帰属する財産であると認められる(上記ハ)。また、2本件預金口座の預金通帳には、昭和58年1月29日から平成17年11月9日までの間、継続して本件入出金メモがあること等の各事情に照らせば、本件預金口座の管理運用を請求人Dが行っていたとは認められない(上記ロ)。
     したがって、この点に関する請求人らの主張は採用できない。

(3) 本件各更正処分の適法性について

  • イ 上記(2)のホのとおり、本件資金相当額の預け金返還請求権が発生していたとは認められない。
  • ロ また、前記1の(3)のロのとおり、原処分庁は、本件給付金及び本件解約返戻金請求権について、本件分割協議書に記載された相続財産の中に含まれていないことから、いずれも未分割財産であると認定した。
     しかしながら、1前記1の(3)のイのとおり、本件分割協議書には、本件分割協議書に記載のない本件被相続人の資産及び負債は、請求人Fが相続する旨記載されていること、2前記1の(3)のロの(ロ)のとおり、請求人Fが本件給付金を受領していること、3前記1の(3)のロの(ハ)のとおり、本件解約返戻金請求権に係る保険契約者は、本件相続開始日以後に、請求人Fに変更されていることからすれば、請求人Fが相続した財産(分割財産)と認めるのが相当である。
  • ハ 上記イ及びロの判断を前提として、本件相続税に係る請求人らの各納付すべき税額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄の各「納付すべき税額」欄のとおり、請求人Fの納付すべき税額は○○○○円、請求人G及び請求人Dの各納付すべき税額は、更正処分における各納付すべき税額をいずれも下回ることとなる。
     なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、請求人Fに対する更正処分については、その全部を取り消し、請求人G及び請求人Dに対する各更正処分については、別紙2及び別紙3の各「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 上記(3)のハのとおり、請求人Fに対する更正処分については、その全部を取り消すこととなるから、請求人Fに対する過少申告加算税の賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
  • ロ 上記(3)のハのとおり、請求人G及び請求人Dに対する各更正処分については、いずれもその一部を取り消すこととなるから、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額はそれぞれ○○○○円となる。
     これに基づいて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第65条《過少申告加算税》第1項の規定により、過少申告加算税の額を計算すると、いずれも○○○○円となるが、その額が5,000円未満であるため、同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、全額を切り捨てることとなる。
     したがって、請求人G及び請求人Dに対する過少申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

(5) 結論

以上によれば、審査請求には理由があるから、原処分の全部又は一部を取り消すこととする。

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