(平成30年9月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、共同相続人である審査請求人らが、相続により取得した土地は財産評価基本通達24−4《広大地の評価》に定める広大地に該当するなどとして相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該土地の一部は広大地に該当するとして同請求の一部を認める更正処分を行ったことから、審査請求人らが同処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 相続税法第22条《評価の原則》は、同法第3章《財産の評価》で特別の定めのあるものを除くほか、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
  • ロ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成29年9月20日付課評2−46ほかによる改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)24−4(以下「広大地通達」という。)は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為(以下「開発行為」という。)を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(評価通達22−2《大規模工場用地》に定める大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの(その宅地について、経済的に最も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築することを目的とするものであると認められるものをいう。)を除く。以下「広大地」という。)で路線価地域に所在するものの価額は、原則として、その広大地の面する路線の路線価に評価通達15《奥行価格補正》から20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めに代わるものとして次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した価額に、その広大地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
     (算式)0.6−0.05×(広大地の地積/1,000平方メートル

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 相続について
    • (イ) 審査請求人F(以下「請求人F」という。)、同H(以下「請求人H」という。)、同J(以下「請求人J」という。)及び同K(以下、「請求人K」といい、これら4名を併せて「請求人ら」という。)は、平成24年6月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したL(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人である。
    • (ロ) 請求人らの間で、平成25年4月10日に遺産分割協議が成立し、請求人F、請求人H及び請求人Jは、本件被相続人に係る相続財産のうち、別表1記載の各土地(なお、同表の「略称」欄記載の略称については、以下、本文及び別表においても使用する。また、本件1土地及び本件2土地を併せて「本件各土地」、本件3土地及び本件4土地を併せて「本件私道」、本件1土地ないし本件10土地を併せて「本件各土地等」という。)などを取得した。
  • ロ 本件相続開始日における本件各土地等の利用状況等について(別図1参照)
    • (イ) 本件被相続人に係る相続財産のうち、評価額に争いのある土地は、本件各土地である。
    • (ロ) 本件1土地は、本件私道の北側に面する、地積が785.35平方メートルの土地であり、平成6年9月22日に建築された延床面積796.53平方メートル、総戸数12戸の鉄骨造陸屋根3階建集合住宅(以下「本件集合住宅」という。)の敷地及び本件集合住宅の入居者用の駐車場として利用されていた。
    • (ハ) 本件2土地は、本件私道の南側に面する、地積が692.81平方メートルの土地であり、本件被相続人の自宅の敷地として利用されていた。
    • (ニ) 本件私道は、西側が幅員約15mの主要地方道d線(以下「本件県道」という。)、東側が幅員約5mの市道e線○号(以下「本件市道」という。)に接しており、本件県道から約12.5mまでの部分の幅員は6m、それ以外の部分の幅員は4mであった。
    • (ホ) 本件5土地は、請求人Jの夫が所有する家屋の敷地として利用されていた。
    • (ヘ) 本件6土地は、本件集合住宅の入居者用の駐車場として利用されていた。
    • (ト) 本件7土地、本件9土地及び本件10土地は、いずれも貸家の敷地として利用されていた。
    • (チ) 本件8土地は、空き家となっている家屋の敷地であった。
    • (リ) 本件各土地等は、評価通達に基づきM国税局長が定めた平成24年分財産評価基準書によれば、評価通達13《路線価方式》に定める路線価方式により評価することとされた地域に所在する土地である。
  • ハ 本件各土地付近の行政的条件等について
    • (イ) 行政的条件について(別図2参照)
      • A 本件各土地は、都市計画法第7条《区域区分》第2項に規定する市街化区域内に所在している。
      • B 本件各土地のうち本件県道から20m以内の区域は、都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する用途地域が近隣商業地域で、建築基準法(平成26年法律第39号による改正前のもの。)第52条《容積率》第1項第2号に規定する容積率が200%、建築基準法第53条《建ぺい率》第1項に規定する建ぺい率が80%である。
         また、本件各土地のうち本件県道から20m超の区域は、用途地域が第一種中高層住居専用地域で、容積率は200%、建ぺい率は60%である。
    • (ロ) 開発許可等について
       a市が定めた「a市開発指導基準」(以下「本件指導基準」という。)では、要旨次のとおり定められている。
      • A 都市計画法第7条第2項に規定する市街化区域において、開発区域の面積が500平方メートル以上で、かつ、3区画以上に分割する開発行為を行う場合は、同法第29条《開発行為の許可》の規定に基づく開発行為の許可を受けなければならない。
      • B 開発区域内に設置する区画道路(開発区域の区画を形成し画地の交通の用に供する道路をいう。)の幅員は6m以上とする。
      • C 主として住宅の建築の用に供する目的で行う開発行為の場合、開発区域内の道路は、原則として、開発区域外の幅員6m以上の道路に接続する。
      • D 開発区域の面積が1,000平方メートル未満の場合には、転回広場を設置せずに袋路とすることができる。
      • E 開発行為により築造する一画地の面積は135平方メートル以上とする。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らは、本件相続に係る相続税について、申告書に別表2の「申告」欄のとおり記載して、本件被相続人の孫であるNとともに法定申告期限までに申告をした。
  • ロ 請求人らは、平成29年5月8日、本件各土地がいずれも広大地に該当するなどとして、それぞれ別表2の「更正の請求」欄記載のとおりとすべき旨の各更正の請求(以下「本件各更正請求」という。)をした。
  • ハ 原処分庁は、本件各更正請求に対してその一部は認めたものの、本件各土地についてはいずれも広大地に該当しないなどとして、平成29年8月2日付で、別表2の「更正処分」欄記載のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をした。
  • ニ 請求人らは、平成29年10月31日、本件各更正処分を不服として、原処分の一部の取消しを求めてそれぞれ審査請求をした。
     なお、請求人らは、請求人Fを総代として選任し、審査請求の日と同日にその旨を当審判所へ届け出た。

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2 争点

本件各土地は、広大地に該当するか否か。

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3 争点についての主張

請求人ら 原処分庁
(1) 本件各土地について
  • イ 本件各土地が所在するその地域(広大地通達に定める「その地域」をいう。以下同じ。)は、1本件各土地の南東側には公園や神社あるいは○○、北側には小学校や寺院があり、これらにより、土地の利用状況の連続性や地域の一体性が分断されていること、2本件各土地の北西側には水路、南側には比較的幅員の広い本件県道があり、これらにより地域の一体性が分断されていることから、別図3の太線で囲んだ範囲(以下「請求人ら主張地域」という。)である。
(1) 本件各土地について
  • イ 本件各土地が所在するその地域は、行政区域、都市計画法上の用途地域、道路等の土地利用の連続性及び地域の一体性を分断する客観的な状況を総合勘案すると、本件県道より東側で、第一種中高層住居専用地域及び近隣商業地域の2つの用途地域の影響を受ける地域のうち、別図3の破線で囲んだ範囲(以下「原処分庁主張地域」という。)である。
  • ロ 標準的使用とは、その地域における「最も一般的な不動産の使用方法(建物の用途)」をいうのであり、その判定に当たっては、当該地域内の現状のみならず将来の動向をも併せて分析し、慎重に見極めなければならない。
     請求人ら主張地域における「最も一般的な不動産の使用方法(建物の用途)」は、次の点を総合的に考慮した結果、戸建住宅の敷地である。
    • (イ) 建物の用途別件数の割合をみると、戸建住宅が80.0%と圧倒的に多いこと。
    • (ロ) 宅地の利用傾向が集合住宅の敷地に移行しつつある状態ではないこと。
    • (ハ) 地方において、地主が土地保有を前提として集合住宅を建築するのは、投資採算性を欠き、極めて個別的な事情が介在した土地利用の一形態にすぎないこと。
    • (ニ) 本件各土地の周辺で状況が類似する地価公示標準地(a−○)の標準的使用は、低層住宅及び戸建住宅の敷地とされていること。
  • ロ その地域における標準的使用は、必ずしも一つに限定されるものではなく、標準的使用の判断においては、用途別の面積割合が一つの指標となるものである。
     原処分庁主張地域に存する宅地の用途別の面積割合は、戸建住宅の敷地が52.18%、集合住宅の敷地が21.43%、店舗・事務所等の敷地が26.39%であり、当該地域は、戸建住宅のほか、集合住宅及び店舗・事務所が混在する地域であると認められ、これらの用途のいずれもが、当該地域における標準的な使用形態であると認めるのが相当である。
     なお、地価公示標準地(a−○)については、周辺の土地の利用現況を「中規模一般住宅が多い閑静な住宅地域」とされているが、請求人らがいうように、標準的使用が低層住宅地及び戸建住宅地である旨の判定はされていない。
  • ハ 請求人ら主張地域における標準的使用である戸建住宅の標準的な宅地の地積は、1同地域で近年において開発業者が分譲した1画地当たりの地積は約100平方メートルであること、2同地域における戸建住宅の地積は約150平方メートルまでが多くを占めていることから、100平方メートルないし150平方メートルである。
  • ハ 原処分庁主張地域における戸建住宅として使用する場合の標準的な宅地の地積は、1同地域における戸建住宅の開発事例によると130平方メートルないし210平方メートルの範囲で開発行為が行われていること、2同地域における戸建住宅の平均地積が186.03平方メートルであることを併せ考慮すると、130平方メートルないし210平方メートルである。
(2) 本件1土地について
 本件1土地は、本件集合住宅の敷地として利用されており、請求人ら主張地域における標準的使用に供されているとはいえないから、既に開発を了しているマンション・ビル等の敷地用地又は現に宅地として有効利用されている建築物等の敷地のいずれにも該当しない。
 そして、本件1土地の地積785.35平方メートルは、請求人ら主張地域における標準的な宅地の地積である100平方メートルないし150平方メートルに比べて著しく広大であり、a市において開発許可が必要とされる500平方メートル以上であり、本件1土地について開発行為を想定した場合には、別図4のとおり、相当規模の公共公益的施設用地の負担が生じることになる。
 したがって、本件1土地は、広大地に該当する。
(2) 本件1土地について
 本件1土地は、開発を了している本件集合住宅の敷地として利用されており、本件相続開始日後も相当の期間において利用することが見込まれ、近い将来において新たな開発行為を行うべき事情は見当たらず、原処分庁主張地域における標準的な使用形態の一つである集合住宅の敷地として有効に利用されているものと認められる。
 したがって、本件1土地は、広大地に該当しない。
(3)  本件2土地について
 本件2土地の地積692.81平方メートルは、請求人ら主張地域における標準的な宅地の地積である100平方メートルないし150平方メートルに比べて著しく広大であり、a市において開発許可が必要とされる500平方メートル以上である。
 本件2土地について開発行為を想定した場合には、別図5のとおり、本件私道のうち6mの幅員を確保することが可能な部分のみを含めて開発行為を行うのが最も合理的かつ現実的であり、このように開発行為を行った場合には、相当規模の公共公益的施設用地の負担が生じることになる。
 なお、本件私道を利用し、本件県道から本件市道にかけて幅員6mの開発道路を開設しようとする場合には、駐車場の移設や貸家の入居者の立ち退き等が必要となり、現実的に不可能である。
 したがって、本件2土地は、広大地に該当する。
(3)  本件2土地について
 本件2土地について開発行為を想定した場合は、別図6のとおり、本件私道を利用し、本件私道のうち幅員が6m未満の部分について本件2土地内から道路用地の一部を提供して本件私道の幅員を6mに拡幅することによって、新たな道路を開設することなく開発行為を行うことができることから、公共公益的施設用地の負担が必要とは認められない。
 したがって、本件2土地は、広大地に該当しない。

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4 当審判所の判断

(1) 法令解釈等

  • イ 評価通達の合理性について
     相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。しかし、客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法をとった場合には、その評価方式等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となったりするおそれがある。そこで、課税実務上は、特別の定めのあるものを除き、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則としてこれに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。このように、あらかじめ定められた評価方式によってこれを画一的に評価することは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点から見て合理的であり、当審判所においても、評価通達に定められた評価方法によらないことが正当として是認されるような特別の事情がない限り、評価通達に規定された評価方法によって画一的に評価することが相当であると解される。
  • ロ 広大地通達について
    • (イ) 広大地通達の趣旨等について
       広大地通達は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものの価額について、減額の補正を行う旨定めている。
       このような減額の補正を行うこととした趣旨は、1評価の対象となる宅地(以下「評価対象地」という。)の地積が、評価対象地の価額の形成に関して直接影響を与える特性を持つ評価対象地の属する地域の標準的な地積に比して著しく広大で、2評価の時点において、評価対象地を当該地域において経済的に最も合理的な開発行為を行うこととした場合に、道路、公園等の公共公益的施設用地の負担が必要な宅地については、当該開発行為により宅地の区画形質の変更をした際に公共公益的施設用地として潰れ地が生じ、評価通達15ないし評価通達20−5による減額の補正をしただけでは十分といえない場合があることから、このような宅地の評価に当たっては、潰れ地が生じることを評価対象地の価額に影響を及ぼすべき客観的な事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うこととしたものと解される。
       このような広大地通達の趣旨に照らすと、評価対象地につき、現に最有効使用がされていない場合であっても、その時点における当該宅地の属する地域の標準的使用の状況に照らして、当該宅地を分割することなく一体として使用することが最有効使用であると認められるいわゆるマンション適地などの場合には、公共公益的施設用地の負担の必要がないものと考えられるから、このような宅地は広大地に該当しないものと解するのが相当である。また、既に開発行為を了しているマンションなどの敷地用地や現に宅地として有効利用されている建築物の敷地用地などについては、標準的な地積に比して著しく広大であっても、特段の事情がない限り、広大地には該当しないことになるものと解される。
    • (ロ) 「その地域」について
       広大地通達でいう「その地域」とは、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性及び地域の一体性を分断する場合がある客観的な状況等を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
    • (ハ) 「標準的な宅地の地積」について
       広大地通達における「標準的な宅地の地積」は、評価対象地の付近で状況の類似する地価公示の標準地又は都道府県地価調査の基準地の地積、評価対象地付近の標準的使用(その地域で一般的な宅地の使用方法)に基づく宅地の平均的な地積などを総合勘案して判断するのが相当である。
    • (ニ) 「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」について
       広大地通達における「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」とは、標準的使用が戸建住宅の敷地である場合は、その地域における標準的な宅地の地積に基づき、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合にその開発区域内に道路等の開設が必要なものであると解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件各土地と用途地域、容積率及び建ぺい率が同一の地域は、a市b町○丁目全域と同○丁目の一部を併せた地域であり、当該地域は、大別して戸建住宅や集合住宅などが混在する、土地の利用状況がおおむね同一と認められる地域である。
  • ロ 本件各土地を中心として上記イの地域の状況をみると、本件各土地の北西から南東には、幅員約15mの本件県道が敷設されており、北から北東には、寺院及び小学校が立ち並び、東から南東には神社、公園及び○○がある。また、本件各土地の北西には、本件県道から上記寺院の方向に幅約3mの用水路がある。そして、これらの道路や公共施設などによって土地の利用状況の連続性及び地域の一体性が分断されている。
  • ハ 本件集合住宅は、本件相続開始日において、総戸数12戸のうち11戸が賃貸の用に供されており、残りの1戸には本件被相続人の孫であるNが入居していた。
  • ニ 本件集合住宅の減価償却資産の耐用年数等に関する財務省令で定める耐用年数は47年であり、当該建物について、外観上建築後の経年によることを超えて著しく老朽化又は損傷している事実は認められない。

(3) 当てはめ

本件審査請求については、上記3のとおり、本件各土地が広大地に該当するか否かに関して争いがあるが、この点を除き、本件相続に係る相続財産の評価につき、評価通達の定めによることについては請求人らと原処分庁の間に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、評価通達に定められた方式によらないことが正当として是認されるような特別な事情は認められない。
 そこで以下、評価通達の定めに従って判断する。

  • イ 本件各土地が所在する「その地域」について
     「その地域」については、上記(1)のロの(ロ)のとおり、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性及び地域の一体性を分断する場合がある客観的な状況等を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域をいうところ、上記(2)のイ及びロ並びに別図2のとおり、a市b町○丁目○番ないし○番、同○番、同○番、同○丁目○番ないし○番及び○番の一部の地域内には一級河川等の大きな河川や山等、いわゆる幹線道路、鉄道、大きな公園等は存在せず、さらに、当該地域はおおむね同一の行政区域及び都市計画法による建築物の用途制限下にあることが認められ、その環境及び利用状況はおおむね同一であると認めることができる。
     以上によれば、別図3の太線で囲まれた当該地域(以下「本件周辺地域」という。)は、その利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域と認めることができる。
     なお、これは請求人ら主張地域と一致する。
  • ロ 本件周辺地域における宅地の使用状況について
     当審判所のa市に対する調査の結果等によれば、本件周辺地域における平成24年1月1日現在の宅地の使用状況は大別して、別表3のとおりであったことが認められる。そして同表をみると、建物の棟数では戸建住宅(179棟)が総棟数(237棟)の約76%と、また面積では戸建住宅用地(28,297.43平方メートル)が全体面積(40,460.86平方メートル)の約70%とそれぞれ一番多く占めていることからすれば、本件周辺地域における宅地の標準的使用は、戸建住宅であると認めるのが相当である。
  • ハ 本件周辺地域における「標準的な宅地の地積」について
     本件周辺地域には地価公示の標準地や都道府県地価調査の基準地が存在しないから、本件周辺地域における標準的な宅地の地積は、本件周辺地域における標準的使用に基づく宅地の平均的な地積などを総合勘案して判断することとなる。
     この点について、1当審判所のa市に対する調査の結果等によれば、本件周辺地域において戸建住宅の分譲を目的とした開発行為が行われた事例が平成6年に1件存し、当該開発行為によって分譲された戸建住宅用地の1区画の地積は約135平方メートルないし約205平方メートルであったことが認められること、2上記1の(3)のハの(ロ)のEのとおり、本件指導基準によれば、戸建住宅の敷地の1区画当たりの最低地積は135平方メートルとされていること、3別表3のとおり、本件周辺地域における戸建住宅の敷地の平均面積は158.09平方メートルであることからすると、本件周辺地域において戸建住宅の敷地として使用する場合の標準的な宅地の地積は、おおむね135平方メートルないし205平方メートルであると認められる。
  • ニ 本件各土地の広大地該当性について
     上記イないしハによれば、本件1土地の地積785.35平方メートル及び本件2土地の地積692.81平方メートルは、いずれも開発行為を行う際に許可を受けなければならない面積である500平方メートル以上であり本件周辺地域における標準的使用に係る標準的な宅地の地積を著しく上回っていることから、本件各土地は、いずれも広大地通達にいう「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」であると認められる。
     そこで、本件各土地について、それぞれの広大地該当性を以下検討する。
    • (イ) 本件1土地について
       本件集合住宅は、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、本件1土地をその敷地として平成6年に建築され、上記(2)のハのとおり、総戸数12戸の全てに賃借人等が入居しており、入居率100%を実現していたと認められる。また、上記(2)のニのとおり、本件集合住宅につき財務省令で定める耐用年数は47年であり、本件集合住宅は、その外観上、建築後の経年によることを超えて著しく老朽化又は損傷している事実も認められないことからすると、今後相当の期間利用することができるものと認められる。そうすると、本件1土地は、開発行為を了した上、本件集合住宅の敷地として使用されていると認められ、近い将来において新たな開発行為を行う必要があるなどの特段の事情は認められない。
       そして、上記ロのとおり、本件周辺地域における宅地の標準的使用は戸建住宅ではあるが、別図2のとおり、本件周辺地域の大部分は、都市計画法上の用途地域として中高層住宅(一般的には3階建て以上の集合住宅)の良好な住環境を保護するために指定された第一種中高層住居専用地域であり、現に別表3のとおり本件周辺地域には、一定程度の割合で集合住宅用地として利用されている土地が存することからすれば、本件1土地は、本件集合住宅の敷地として現に有効に利用されているというべきである。
       したがって、本件1土地は、既に開発行為を了している本件集合住宅の敷地として、現に有効に利用されており、特段の事情も認められないから、広大地に該当しないものと認められる。
    • (ロ) 本件2土地について
       上記ロのとおり、本件周辺地域における宅地の標準的使用は戸建住宅であり、いわゆるマンション適地には該当しないものと認められるところ、上記ハのとおり、本件周辺地域において戸建住宅の敷地として使用した場合の標準的な宅地の地積は、おおむね135平方メートルないし205平方メートルであると認められることから、本件2土地を標準的な宅地の地積で区画割をした場合には、4区画程度とするのが相当であると認められる。
       そこで以下、原処分庁が主張する開発想定図及び請求人らが主張する開発想定図の合理性を判断した上で、本件2土地を標準的な宅地の地積に分割した場合、公共公益的施設の負担が必要となるか否かについて検討する。
      • A 原処分庁が主張する開発想定図について
         原処分庁が主張する開発想定図は、別図6のとおり、本件2土地の南西に接する本件私道及び本件2土地の北に接する本件私道を利用し、その幅員が6mとなるよう本件2土地内に拡幅した上、本件2土地内に区画道路を設けることなく、本件2土地を4分割するものである。そして、分割後の各土地は、おおむね155平方メートルの地積となり、その地域の標準的な宅地の地積に分割されることとなる。
         しかしながら、上記1の(3)のハの(ロ)のBのとおり、本件指導基準によれば、開発区域内に設置する区画道路の幅員は6m以上とすることとされているところ、原処分庁が主張する開発想定図によれば、本件私道を含めた開発区域内において幅員が6m以上となる道路が分断されることとなり、また、原処分庁が主張する開発想定図に従い、本件私道に隣接する各土地に道路を拡幅したとしても、1本件6土地内に拡幅した場合、本件集合住宅の入居者の駐車場を他の場所に移設する必要があると考えられること、2本件5土地内に拡幅した場合、別表1の「取得者」欄に記載のとおり、本件相続により本件5土地を取得したのは、請求人Jであり、本件2土地を取得した請求人F及び請求人Hではないこと、3本件7土地内に拡幅した場合、借家人の立ち退きの必要があると考えられることから、これらの事情を考慮すると、原処分庁が主張する開発想定図は、合理性があるものとは認められない。
      • B 請求人らが主張する開発想定図について
         請求人らが主張する開発想定図は、別図5のとおり、本件2土地の南西に接する本件私道を利用し、その幅員が6mになるよう本件2土地内に拡幅した上、本件2土地内に区画道路を設け、本件2土地を4分割するものである。この場合、区画道路は袋地になるものの、本件2土地の地積692.81平方メートルと本件3土地の地積296.88平方メートル(別表1)を合計しても転回広場の設置が必要となる1,000平方メートル(上記1の(3)のハの(ロ)のD)を下回ることから、当該開発区域に転回広場を設置する必要はないほか、本件2土地を取得した請求人F及び請求人H以外の者に係る所有権や賃借権を侵害するような事情もない上、分割後の各土地の地積は135.53平方メートルないし161.05平方メートルとなり、その地域の標準的な宅地の地積に分割されることなどを考慮すると、請求人らの主張する開発想定図には合理性があるものと認められる。
      • C 小括
         以上によれば、本件2土地について開発行為を行うとした場合には、請求人らが主張する開発想定図に基づき4分割することが相当であり、その際、本件2土地内に区画道路を敷設する必要があるものと認められることから、本件2土地は、公共公益的施設用地の負担が必要と認められる土地であると認められる。
         そうすると、本件2土地は、1マンション適地に当たらず、2その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大であり、3戸建住宅の敷地として区画割する際、本件私道の一部も含めて開発行為の許可を受ける必要があり、本件2土地の地積、形状等からすると、本件2土地内にも区画道路を敷設する必要があると認められることから、本件2土地は公共公益的施設用地の負担が必要と認められる土地であると認められる。
         したがって、本件2土地は、広大地に該当すると認められる。
  • ホ 請求人らの主張について
     請求人らは、標準的使用とは、その地域における「最も一般的な不動産の使用方法(建物の用途)」をいうものであるとし、本件周辺地域では、1戸建住宅の戸数の割合が圧倒的に多いこと、2宅地の利用傾向が集合住宅の敷地に移行しつつある状態ではないこと、3地方において、地主が土地保有を前提として集合住宅を建築するのは、投資採算性を欠き、極めて個別的な事情が介在した土地利用の一形態にすぎないこと、4周辺の地価公示の標準地(a−○)の標準的使用は、低層住宅及び戸建住宅の敷地とされていることから、当該地域における標準的使用は、戸建住宅の敷地である旨主張する。
     しかしながら、本件1土地は、上記ニの(イ)のとおり、本件集合住宅の敷地として既に開発行為を了している上、現に有効に利用されているから請求人らの上記1ないし4の主張は採用できない。
  • ヘ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、本件各土地の所在するその地域は、原処分庁主張地域である旨主張するが、原処分庁主張地域と本件周辺地域との境界には幅約50cmの水路があるものの、当該水路により土地の利用状況の連続性及び地域の一体性が分断されるとは認められず、原処分庁主張地域と本件周辺地域には、公法上の規制の差異なども認められないから、原処分庁の主張は採用できない。

(4) 本件各更正処分の適法性について

上記(3)のニの(イ)のとおり、本件1土地は広大地に該当せず、上記(3)のニの(ロ)のCのとおり、本件2土地は広大地に該当するから、これに基づき本件各土地の評価額を計算すると、それぞれ別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 そして、請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ別表5記載のとおりとなり、いずれも本件各更正処分の額を下回るから、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙2ないし別紙5の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 結論

よって、請求人らの各審査請求にはいずれも理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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