(平成30年8月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、固定資産課税台帳に価格が登録されていない土地を取得した審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該土地の所有権の移転の登記の際に納付した登録免許税の額が過大であるとして還付通知をすべき旨の請求をしたところ、原処分庁から、過誤納の事実は認められないとして還付通知をすべき理由がない旨の通知処分を受けたため、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項は、同法別表第一の第1号に掲げる不動産の登記(所有権の移転の登記もこれに含まれる。)の場合における課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額による旨規定している。
  • ロ 登録免許税法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、登録免許税法別表第一の第1号に掲げる不動産の登記の場合における同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在において地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に掲げる固定資産課税台帳に登録された当該不動産の価格(以下「台帳価格」という。)を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定している。
  • ハ 登録免許税法施行令附則第3項は、登録免許税法附則第7条に規定する政令で定める価額は、台帳価格のある不動産については、次の(イ)又は(ロ)に掲げる当該不動産の登記の申請の日の属する日の区分に応じ次の(イ)又は(ロ)に掲げる金額に相当する価額とし、台帳価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産で台帳価格のあるものの次の(イ)又は(ロ)に掲げる当該申請の日の区分に応じ次の(イ)又は(ロ)に掲げる金額を基礎として当該登記に係る登記機関が認定した価額(以下「登記機関認定額」という。)とする旨規定している。
    • (イ) 登記の申請の日がその年の1月1日から3月31日までの期間内であるものは、その年の前年12月31日現在における当該不動産の台帳価格に100分の100を乗じて計算した金額(第1号)
    • (ロ) 登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在における当該不動産の台帳価格に100分の100を乗じて計算した金額(第2号)
  • ニ 登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第1項柱書及び同項第3号は、登記機関は、登記を受けた者が過大に登録免許税を納付して登記を受けた事実があるときは、遅滞なく、当該過大に納付した登録免許税の額その他政令で定める事項を登記を受けた者の当該登録免許税に係る同法第8条《納税地》第2項の規定による納税地の所轄税務署長に通知しなければならない旨規定し、また、同法第31条第2項は、登記を受けた者は、当該登記の申請書(当該登記が官庁又は公署の嘱託による場合にあっては当該登記の嘱託書とする。)に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、当該登記を受けた日から5年を経過する日までに、政令で定めるところにより、その旨を登記機関に申し出て、同条第1項の通知をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
  • ホ 地方税法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項は、総務大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め、これを告示しなければならない旨規定している。
  • ヘ 固定資産評価基準(昭和38年12月25日付自治省告示第158号)第1章《土地》第3節《宅地》は、宅地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法によるものとする旨定め、また、各筆の宅地の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」によって付設するものとするとし、「市街地宅地評価法」による各筆の宅地の評点数は、路線価を基礎とし、「画地計算法」を適用して付設する旨定め、この場合において、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、「画地計算法」の附表等について、所要の補正をして、これを適用するものとする旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成28年5月○日に、d県との間で、別表1の順号1ないし8記載の各土地(登記地目はいずれも宅地。地積の合計は○○平方メートルである。以下、当該各土地を併せて「本件各土地」という。)を購入する旨の契約を締結し、同日にその引渡しを受けた。
     なお、当該契約の契約条件の一つとして、本件各土地の一部に、○○のいずれかを開設し、10年以上運営することが定められている。
  • ロ d県○○(以下「本件登記嘱託者」という。)は、平成28年5月○日に、本件各土地について、売買を原因として、登記権利者を請求人、登記義務者をd県とする所有権の移転の登記(以下「本件登記」という。)をD法務局e支局に嘱託した(以下、当該嘱託を「本件登記嘱託」という。)。
  • ハ 本件各土地は、登録免許税法施行令附則第3項第2号に規定する基準日である平成28年1月1日現在において、台帳価格がなく、本件各土地に係るe市長発行の平成28年度の固定資産評価通知書(以下「平成28年度通知書」という。)では、登記地目及び現況地目はいずれも宅地で、本件各土地の評価額はいずれも零円とされていた。また、平成28年度通知書の「備考」欄には、近傍宅地の1平方メートル当たりの価額として別表1の「平成28年度の近傍宅地の1平方メートル当たりの価額」欄のとおりの価額(以下「本件近傍地価額」という。)が記載されていた。
  • ニ 本件登記嘱託に当たって、本件登記嘱託者は、本件近傍地価額に本件各土地のそれぞれの地積を乗じ、本件登記に係る登録免許税の課税標準たる不動産の価額を○○○○円(1,000円未満切捨て)、登録免許税の額を○○○○円(以下「本件税額」という。)と算出した。請求人は、平成28年5月○日に、本件税額を納付し、本件登記嘱託者は、請求人が納付した領収証書を貼付した本件登記に係る登記嘱託書を原処分庁に提出した。
  • ホ 原処分庁(D法務局e支局登記官F)は、平成28年5月○日に、本件登記嘱託を受け、本件各土地の価額として上記○○○○円が適正であると認定し(以下、当該価額を「本件登記官認定額」という。)、本件税額が納付されていることを確認し、本件登記に係る手続を完了した。
  • ヘ 本件各土地に係るe市長発行の平成29年度の固定資産評価証明書によれば、平成29年1月1日を基準日とする本件各土地に係る平成29年度の各台帳価格(以下「平成29年度各台帳価格」という。)は、別表1の「平成29年度各台帳価格」欄のとおりであり、いずれも1平方メートル当たり18,000円である。
  • ト 請求人は、平成29年度各台帳価格の合計額○○○○円(1,000円未満切捨て)が、本件登記の時における本件各土地の正当な価額であり、これを基礎に計算した登録免許税の額○○○○円と、上記ニの本件税額との差額○○○○円は過誤納であるとして、平成29年6月14日に、登録免許税法第31条第2項の規定に基づき、同条第1項に規定する還付通知をすべき旨の請求をした。
  • チ 原処分庁は、上記トの還付通知をすべき旨の請求に対し、平成29年7月3日付で、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分をした。
  • リ 請求人は、平成29年8月24日に、上記チの還付通知をすべき理由がない旨の通知処分の全部の取消しを求めて、審査請求をした。
  • ヌ 原処分庁は、平成30年4月1日付人事異動により、D法務局e支局登記官FからD法務局e支局登記官Eとなった。

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2 争点

本件登記官認定額は、本件登記の時における本件各土地の価額として過大であるか否か。

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3 争点についての主張

請求人 原処分庁
本件各土地は、市街化調整区域内の住宅の建築が制限された土地であり、また、規模が広大であることや遺跡が存在しているなどの特殊性があるから、同様の条件にある土地を近傍の類似する土地として選定し、当該土地の価額を本件登記に係る登録免許税の課税標準の額の算出の基礎とすべきである。
 しかしながら、原処分庁が課税標準の額の算出の基礎とした本件近傍地価額は、e市長が本件各土地の周辺の道路(以下「本件周辺道路」という。)に付された固定資産税の路線価(以下「固定資産税路線価」という。)と思われるところ、本件周辺道路に面した土地(近傍宅地)と上記のような特殊性がある本件各土地とは類似性がないことから、本件近傍地価額を課税標準の額の算出の基礎とすることは相当でない。
 結局、本件各土地に類似する台帳価格のある土地はないというべきところ、e市長から通知された平成29年度各台帳価格が、平成29年度の固定資産の課税明細書によれば非住宅用地として適正に評価されていること、本件登記嘱託の時点と平成29年1月1日時点とで、本件各土地の利用状況や周辺の地価等には変化がないことからすると、本件登記に係る課税標準の額は平成29年度各台帳価格の合計額と同額の○○○○円(1,000円未満切捨て)とするのが相当であり、本件登記官認定額との差が非常に大きいことからしても、本件登記官認定額は過大というべきである。
本件各土地は、平成28年1月1日時点の台帳価格はなかったところ、請求人が主張するような事情に精通するe市長は、平成28年度通知書により、本件各土地について本件近傍地価額を通知した。
 原処分庁は、登録免許税法施行令附則第3項に規定する本件各土地に類似する不動産の台帳価格について、上記のとおり事情に精通するe市長の通知する本件近傍地価額に本件各土地のそれぞれの地積を乗じた価額を本件登記に係る登録免許税の課税標準の額と認定したのであり、これは合理的に算出されたものといえる。
 なお、登録免許税の額は、その登記の時に確定するものであるから、その後の事情により価額に変更が生じたとしても、原処分庁の職務権限の範囲からすれば、還付通知をすべき旨の請求に応じることはできない。
 したがって、本件登記官認定額は適正であって、過大ではない。

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4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件各土地は、いずれも都市計画法第7条《区域区分》に規定する市街化調整区域に所在する。また、本件各土地は、別図のとおり、一団の土地を構成するものであり、全体としてみれば、周囲は道路に接面している不整形な土地である。
     なお、本件各土地には「G遺跡」が存在し、本件各土地のほぼ全域が埋蔵文化財包蔵地となっているため、e市の取扱いとして、本件各土地の地中を80cm以上掘削する開発を行う場合には、発掘調査が必要となることがあり、当該調査に係る費用は当該開発を行う者の負担となる。
  • ロ 「G遺跡」は、昭和○年に本件各土地内におけるd県立H施設の建築工事中に発見されたものである。本件各土地においては、同施設の拡張工事等に併せて五次にわたる調査が行われているところ、これまでに発掘調査が行われた地積を合計しても、本件各土地の合計地積の1割に満たない(○○平方メートル)。それぞれの発掘調査においては、土器等の遺物や住居跡等の遺構が発掘されており、平成3年に行われた直近の発掘調査においては、調査対象とされた○○平方メートルの発掘調査に2か月を超える期間を要している。
  • ハ 本件周辺道路に付された平成28年度の固定資産税路線価は、別図に記載のとおりである。平成28年度通知書の本件近傍地価額は、1本件各土地が道路に接面している場合は、その道路の固定資産税路線価と、2道路に接面していない場合は、近接する道路の固定資産税路線価と、3複数の道路に接面している場合は、最も高額の固定資産税路線価とそれぞれ同額である。
     なお、当該路線価の付設に当たっては、埋蔵文化財包蔵地であることを理由とした減額等の考慮ないし補正はなされていない。
  • ニ e市長は、平成29年度の台帳価格の決定に当たり、本件各土地には、規模が大きいことや、ほぼ全域が埋蔵文化財包蔵地であることなどの特殊性が認められることから、個別標準地として不動産鑑定士に意見を求めた上で、埋蔵文化財包蔵地であることについては、当該不動産鑑定士の意見(個別的要因として2割の減価が相当であるとした。)を踏まえ、本件各土地の客観的交換価値を2割(1平方メートル当たり○○○○円)減額させる要因と評価した。
  • ホ 請求人は、前記1の(3)のイのd県との間の契約に当たり、○○を運用予定施設とする事業を計画した。

(2) 法令解釈

  • イ 登録免許税法第10条第1項は、不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額について、当該登記の時における不動産の価額による旨規定しているところ、当該登記の時における不動産の価額とは、当該登記の時における不動産の客観的交換価値、すなわち時価であると解される。
  • ロ 登録免許税法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額について、同法附則第7条は、当分の間、台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定しているが、これは、登録免許税が、登記の時に特別の手続を要せずに納付すべき税額が確定するいわゆる自動確定の租税であることに鑑み、不動産の登記に係る登録免許税の課税標準の額も、登記の時における当該不動産の価額に基づいて算出することとしたものであるが、他方で、登記の時における不動産の客観的な価額を評価することは容易でなく、登記の都度、登記官において個々の不動産の価額を評価することは実際的でないばかりか、不動産の価額に関する評価が関係者によって多岐に分かれるおそれがあることから、課税の公平・納税者の便宜等を考慮して、台帳価格のある不動産の場合には、専らその台帳価格によって登録免許税の課税標準の額を算出することとしたものである。
  • ハ 登録免許税法施行令附則第3項に規定する台帳価格のない不動産の価額
    • (イ) 登録免許税法施行令附則第3項が、台帳価格のない不動産について、当該不動産に類似する不動産で台帳価格のあるものの当該台帳価格に100分の100を乗じて計算した金額を基礎として、当該不動産の価額を算出することとした趣旨は、台帳価格のない不動産についても、飽くまで台帳価格に依拠してその価額を求めることにより、台帳価格のある場合とない場合とで、課税の公平や価額の均衡を図ることにあると解される。そして、このような同項の趣旨に照らすと、同項所定の「当該不動産に類似する不動産」とは、当該不動産と価額の均衡が図られる近傍類似の不動産を意味するものというべきであり、当該類似性の有無は、価額の均衡が図られる場合の諸事情である、不動産の形状、地積、間口、奥行き、利用状況及び接道状況、土地利用に係る行政上の規制等の内容等を比較して判断すべきであると解される。
    • (ロ) 一方、台帳価格のない不動産について、当該不動産に類似する不動産が存在しない場合又は類似する不動産が把握できない場合には、他の方法により求めた登記の時の価額を課税標準たる不動産の価額(時価)とするものと解するのが相当と認められる。ただし、登録免許税における不動産の課税標準の額は、登録免許税法附則第7条及びこれを受けた登録免許税法施行令附則第3項に規定するとおり、不動産の台帳価格を基礎としているのであり、固定資産課税台帳には、固定資産評価基準によって決定された価格を登録するものとされていることからすると、台帳価格のない不動産について、固定資産評価基準によってその価額を算出し、その算出した価額が不動産の時価を表さないといえるような特段の事情がない限り、当該価額をもって登録免許税の課税標準たる不動産の価額と解するのも、上記ロで述べた登録免許税の課税標準たる不動産の価額を台帳価格に基づいて求めることとしている理由にかなうものとして相当であると認められる。

(3) 当てはめ

  • イ 本件登記官認定額について
    • (イ) 本件各土地は、前記1の(3)のハのとおり、登録免許税法施行令附則第3項第2号に規定する基準日である平成28年1月1日現在において、台帳価格がなかったことから、本件各土地の課税標準たる不動産の価額は、同附則第3項の規定により、本件登記嘱託の日において本件各土地に類似する不動産の台帳価格を基礎として登記機関が認定した価額によることができる。
    • (ロ) 原処分庁は、e市長が発行した平成28年度通知書の「備考」欄に記載された本件近傍地価額に本件各土地の地積をそれぞれ乗じて、本件登記官認定額を算出したものと認められる。
       しかしながら、本件近傍地価額は、上記(1)のハのとおり、本件各土地が接面等している道路に付された固定資産税路線価といずれも同額であると認められるところ、本件各土地は合計地積が約○○平方メートルの不整形な土地であることなどに鑑みれば、上記固定資産税路線価に画地計算法に基づく補正等の所要の修正が行われていない本件登記官認定額は、本件各土地に類似する不動産の台帳価格であるとはいえないから、登録免許税法施行令附則第3項に規定する登記機関認定額として適正なものとはいえない。
  • ロ 原処分庁の主張について
     原処分庁は前記3の「原処分庁」欄のとおり、1本件登記官認定額について、e市長が本件各土地に類似する不動産の価額として通知した本件近傍地価額を基礎としたものであるから、合理的に算出されたものである旨、2登録免許税の額は登記の時に確定し、その後の事情により価額に変更が生じたとしても、還付通知をすべき旨の請求の理由とはならない旨、それぞれ主張する。
     しかしながら、1については、本件登記官認定額は、上記イの(ロ)のとおり、画地計算法に基づく補正等の所要の修正を行うことなく、本件近傍地価額に本件各土地の地積をそれぞれ乗じたにすぎないものであることからすれば、合理的に算出されたものと認めることはできない。また、2については、上記の所要の修正は、本件登記の時点で既に存在していた事情に基づき行われるべきものであり、本件登記の後の事情により行われるものではないから、その主張は前提を欠いている。
     したがって、原処分庁の主張には、いずれも理由がない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の「請求人」欄のとおり、本件登記に係る課税標準の額は、本件登記嘱託の時点と平成29年度各台帳価格の基準日である平成29年1月1日時点とで、本件各土地の利用状況や周辺の地価等には変化がないから、平成29年度各台帳価格の合計額と同額とするのが相当である旨主張する。
     しかしながら、本件登記に係る登録免許税の課税標準たる不動産の価額の基準日は、平成28年1月1日となるのであるから、これと異なり、平成29年1月1日を基準日とする平成29年度各台帳価格を算出の基礎とする請求人の主張には理由がない。
  • ニ 当審判所が認定する本件各土地の価額について
    • (イ) 上記イ、ロ及びハのとおり、本件各土地の価額について、本件登記官認定額及び請求人の主張する価額は、いずれも採用することができない。また、当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件登記嘱託の日において、本件各土地の周辺に、前記1の(3)のイ及び上記(1)のイでみた本件各土地の形状、地積、間口、奥行き、利用状況及び接道状況、土地利用に係る行政上の規制等が類似すると認められる土地は確認されなかった。
    • (ロ) ところで、上記(2)のハの(ロ)のとおり、本件登記嘱託の日において、本件各土地に類似する不動産が存在しない場合又は類似する不動産が把握できない場合にあっては、登記の時の当該不動産の現況を踏まえた上で、当該不動産自体の平成28年1月1日現在における台帳価格相当額を、台帳価格の決定の基準である固定資産評価基準に則して算出し、これをもって登録免許税法施行令附則第3項に規定する登記機関認定額と解することも、同項が、可能な限り台帳価格に依拠して登記の時における不動産の価額を求めることによって課税の公平を図ろうとした趣旨に沿うものとして相当であると認められる。
    • (ハ) そこで、本件各土地について、前記1の(3)の基礎事実及び上記(1)の認定事実を基に、前記1の(2)のヘの固定資産評価基準に則して、本件各土地の台帳価格相当額(算定の基準日は、登録免許税法施行令附則第3項第2号の規定により、本件登記嘱託の日の年の1月1日である平成28年1月1日となる。)を算出すると、以下のとおりとなる。
       本件各土地を一団の土地とみた上で、複数の周辺道路が存する(別図参照)ことから、本件周辺道路の平成28年度の固定資産税路線価(37,500円を正面路線価とみる。)を基として、固定資産評価基準及び本件各土地の所在するe市の「e市土地評価事務取扱要領」に定める不整形地等の各種補正率等を適用して本件各土地の1平方メートル当たりの価額を算出し、それに本件各土地の地積を乗じて、本件各土地の台帳価格相当額を求めると、別表2のIのとおり、本件各土地の価額は、○○○○円となるから、当該価額から1,000円未満を切り捨てた○○○○円をもって、登録免許税法施行令附則第3項所定の登記機関認定額ひいては登録免許税の課税標準たる不動産の価額と認めるのが相当である。
    • (ニ) なお、別表2のHの埋蔵文化財包蔵地補正額について補足すると、上記(1)のハのとおり、本件周辺道路に付された路線価は、埋蔵文化財包蔵地であることを考慮せずに付されたものであるから、本件各土地の価額を算定するに当たっては、本件各土地のほぼ全域が埋蔵文化財包蔵地であることを個別的要因として補正する必要があるか否か、必要があるとして補正額をどのように評価するかを検討することとなる。
       そこで、まず補正の要否についてみると、本件各土地には、「G遺跡」が存在し、これまでの発掘調査においても各種の遺物や遺構が発掘されており、本件各土地のほぼ全域が埋蔵文化財包蔵地である。このような本件各土地において開発を行う場合、それが地中を80cm以上掘削するものであれば、発掘調査が必要となることがあり、そのための期間を要する上、その費用は開発を行う者の負担となる(以上につき、上記(1)のイ及びロのとおり。)。そして、本件各土地の規模(地積約○○平方メートル)、前記1の(3)のイの契約条件、上記(1)のホの運用予定施設の内容等に照らせば、本件各土地を有効に開発、利用するためには、相当規模の開発行為を要することが明らかであり、上記(1)のロに記載したこれまでの発掘調査の状況に鑑みれば、相当額の発掘調査費用と相応の調査期間を要するおそれが現実的に認められる。そうすると、埋蔵文化財包蔵地であることは、本件各土地の適正な時価に影響を与える要因とみるべきであり、本件各土地の台帳価格相当額を算出する上でも、考慮する必要があるものというべきである。
       続いて、補正額をどのように評価するかについてみる。上記(2)のハの(ロ)のとおり、台帳価格のない不動産について、固定資産評価基準によってその価額を算出し、その算出した価額が不動産の時価を表さないといえるような特段の事情がない限り、当該価額をもって登録免許税の課税標準たる不動産の価額と解することが相当であるところ、上記(1)のニのとおり、e市長は、平成29年度の本件各土地の台帳価格の決定に当たり、本件各土地を個別標準地とし、当該個別標準地の価額の決定に際し、埋蔵文化財包蔵地であることが価額に与える影響として、1平方メートル当たり○○○○円の減額を相当としていることからすれば、本件登記時点においても同様の減額をすることが相当であると認められる。
       そして、固定資産評価基準第1章第12節《経過措置》の一は、標準地の適正な時価を求める場合には、地価公示価格及び不動産鑑定士の鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の7割を目途として評定する旨定めているところ、埋蔵文化財包蔵地による減価相当額についても、この定めに従い0.7を乗じると減価相当額は1平方メートル当たり○○○○円となる。
       ところで、本件各土地のうち別表1の順号8の土地の○○平方メートルについては、埋蔵文化財包蔵地に指定されておらず、上記(1)のロのとおり、○○平方メートルについては既に発掘調査を了していることから、これらの地積の合計12,577.29平方メートルについては、埋蔵文化財包蔵地であることの補正は不要であると認められる。そうすると、本件各土地の合計地積○○平方メートルから、上記12,577.29平方メートルを差し引いた○○平方メートルについて、埋蔵文化財包蔵地であることを考慮し補正を行うことが相当であるから、埋蔵文化財包蔵地による減価相当額の1平方メートル当たり○○○○円に、当該地積○○平方メートルを乗じると、○○○○円が求められる。
       以上の次第で、別表2のHの「金額等」欄のとおり、埋蔵文化財包蔵地補正額を○○○○円とした。
    • (ホ) したがって、本件登記官認定額のうち、上記(ハ)の○○○○円を超える部分については、課税標準の額として過大であると認められる。

(4) 原処分の適法性について

上記(3)のニの(ハ)のとおり、本件登記に係る登録免許税の課税標準の額は○○○○円となる。そして、これを基に、租税特別措置法第72条《土地の売買による所有権の移転登記等の税率の軽減》の規定により本件登記に係る登録免許税の額を計算すると、○○○○円(100円未満切捨て)となり、これと請求人が既に納付した本件税額(○○○○円)との差額である○○○○円については、登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法令の規定に従っていなかったものと認められ、過誤納と認められる。
 したがって、請求人の還付通知をすべき旨の請求は、上記過誤納の限度で理由があり、原処分のうち、上記過誤納に係る部分は違法であるから、当該部分を取り消すべきである。
 なお、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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