(平成30年10月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員の調査による指摘を受けて相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、相続財産の一部を申告していなかったことに隠ぺいの行為が認められるとして重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該隠ぺいの行為はないとして、重加算税の賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
  • ロ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の養母F(以下「本件被相続人」という。)は、平成27年2月○日に死亡し、請求人が本件被相続人の権利義務を相続した(以下「本件相続」という。)
     なお、請求人のほかに本件相続に係る相続人はいない。。
  • ロ 本件被相続人は、生前、G農業協同組合(現「H農業協同組合」、以下「本件農協」という。)との間で、自らを共済契約者及び被共済者とする別表1の順号1から順号3までに記載の各建物更生共済契約(以下、別表1の順号1から順号3までに記載の各建物更生共済契約を併せて「本件各共済契約」という。)を締結していた。
     また、本件被相続人は、本件農協において、普通貯金1口座、定期貯金12口座(以下、当該普通貯金口座及び当該各定期貯金口座を併せて「本件各貯金口座」という。)及び別表2記載の出資金(以下「本件出資金」という。)を有していた。
  • ハ 別表1の順号1の建物更生共済契約は、平成27年6月6日にその共済期間が満了した(以下、当該建物更生共済契約を「本件満期共済契約」といい、別表1の順号2及び順号3の各建物更生共済契約を併せて「本件各継続共済契約」という。)。
  • 二 請求人は、平成27年8月14日から同月21日にかけて、本件農協に対し、次のとおり手続等をした。 
    • (イ) 平成27年8月14日
      • A 本件各共済契約について、本件相続の開始日時点における解約返戻金相当額等が記載された「解約返戻金相当額等証明書」(以下「本件解約返戻金相当額等証明書」という。)を取得した。
         なお、本件解約返戻金相当額等証明書に記載された本件各共済契約に係る解約返戻金の額は、別表1の「解約返戻金相当額」欄に記載のとおりである。
      • B 本件各貯金口座について、本件各貯金口座を解約した上、その払戻金を本件農協J支所において請求人が新たに開設した請求人名義の普通貯金口座(口座番号○○○○、以下「本件請求人口座」という。)に振り込むよう依頼することなどを記載した「相続手続依頼書」を提出した。
      • C 本件各貯金口座に係る本件相続の開始日現在における各貯金残高が記載された「相続貯金等残高証明書(兼相続貯金等評価額証明書)」(以下「本件貯金等残高証明書」という。)の発行を依頼した。
    • (ロ) 平成27年8月17日
      • A 本件満期共済契約について、共済金1,000,000円と税引後の割戻し金12,297円との合計額1,012,297円(以下「本件満期共済金」という。)の支払請求手続を行ってその支払を受けた上、本件満期共済金の額に相当する金員を本件請求人口座に入金した。
      • B 本件各継続共済契約について、共済契約者及び被共済者を請求人に変更する手続を行った。
    • (ハ) 平成27年8月21日
      • A 上記(イ)Bの依頼に基づき、本件各貯金口座が解約され、その払戻金が本件請求人口座に入金された。
      • B 上記(イ)Cの依頼に基づき、本件貯金等残高証明書を受領した。
  • ホ 本件出資金は、本件農協の総代会における手続を経た後、別表2「出資金払戻額」欄記載の金額(234,022円)が払い戻され、平成28年6月21日、当該出資金払戻額に相当する金額が本件請求人口座に入金された。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件相続に係る相続税について、相続税の申告書に、別表3の「当初申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、当該申告を「本件当初申告」という。)。
  • ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成29年7月から同年10月にかけて本件相続に係る相続税の調査を行い、請求人に対し、本件当初申告において、土地の評価誤り等があり、また、本件各共済契約に係る権利及び本件出資金(以下「本件各財産」という。)が申告漏れとなっている旨を指摘した。
  • ハ 請求人は、本件調査担当職員の指摘を受けて、別表3の「修正申告」欄のとおり記載した相続税の修正申告書を平成29年11月16日に提出した。
  • ニ 原処分庁は、請求人に対し、平成29年12月4日付で、本件相続に係る相続税について、別表3の「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、本件各賦課決定処分のうち、重加算税の賦課決定処分に不服があるとして平成30年2月21日に審査請求をした。

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2 争点

請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人
  次のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があった。   次のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為はない。
(1) 請求人は、平成27年8月14日から同月17日にかけて、本件各共済契約について、本件解約返戻金相当額等証明書を取得したこと、本件満期共済契約について、本件満期共済金の支払請求手続及び受領をしたこと、並びに本件各継続共済契約について、被共済者等の名義を請求人に変更する手続を行ったことが認められる。
 また、請求人は、本件出資金について、平成27年8月14日に払戻請求を行い、平成28年6月21日に払戻額を本件請求人口座への入金により受領したことが認められる。
(1) 請求人が、本件当初申告に当たり、本件各共済契約及び本件出資金に関する書類を本件税理士に提示しなかったのは、平成27年10月○日に請求人の叔母が亡くなったことへの対応のため、本件被相続人に係る相続財産の関係書類の整理に慎重さを欠いていたこと、本件被相続人の主たる生活場所が遠隔地であったため、請求人は、本件被相続人と詳細に話し合う機会がなく、相続財産の全容を把握し難かったこと、並びに請求人は、本件各共済契約及び本件出資金に関する知識が乏しかったため、本件各財産が相続財産に当たるとの認識に欠け、本件税理士に提示することを失念していたことによるものである。
(2) 請求人は、上記(1)の各手続を行ったことから、本件各財産の存在を十分に認識していたものと認められ、また、本件当初申告に当たり申告書の作成を依頼したK税理士(以下「本件税理士」という。)からの指示に基づいて本件解約返戻金相当額等証明書を取得し、本件出資金の払戻請求をしたのであるから、本件各財産が相続財産に該当することも認識していたと認められるところ、本件当初申告に当たり、その存在を本件税理士に一切伝えず、本件農協における本件被相続人の相続財産として、本件貯金等残高証明書のみを提示していたことが認められる。
 これらのことからすると、請求人は、本件各財産が相続財産であるとの認識の下、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づく過少申告をしたものと認められる。
(2) 上記(1)のとおり、本件当初申告から本件各財産が申告漏れとなった理由は、請求人の単なる知識不足等から生じた過失であり、請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為はない。
 なお、請求人が本件税理士に本件当初申告に係る申告書の作成を依頼したのは平成27年10月15日であり、請求人が本件出資金の払戻しを請求したのは平成28年3月22日であるから、原処分庁の主張には、前提となる事実関係に誤認がある。

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4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成27年8月14日、本件農協に対し、本件出資金について「出資持分の譲受請求および脱退届出書」を提出した。当該届出書には、本件被相続人の死亡が脱退事由である旨が記載されていた。
     なお、請求人は、当該届出書とともに上記1(3)ニ(イ)Bの相続手続依頼書を本件農協に提出したが、当該依頼書にも、本件出資金について、その全額の払戻しを受ける旨を記載していた。
  • ロ 請求人は、本件相続に係る申告手続等に当たり、平成27年10月15日から数回にわたって本件税理士と面会した。
     なお、面会の主な内容は以下のとおりである。
    • (イ) 請求人は、平成27年10月15日、本件税理士に対し、本件被相続人及び請求人の戸籍謄本などのほか、本件貯金等残高証明書並びに本件被相続人の取引金融機関及び取引証券会社に係る残高証明書等の書類を手渡した。
    • (ロ) 本件税理士は、同日、請求人に対し、追加で資料等を持参するように依頼したが、その際、相続財産には、農業協同組合が取り扱っている建物更生共済契約に関する権利や農業協同組合に対する出資金が含まれるという個別具体的な説明をしなかった。
    • (ハ) 請求人は、その後、本件税理士と面会するも、本件各財産の存在を本件税理士に告げず、また、本件解約返戻金相当額等証明書及び本件出資金に関する書類を提示しなかった。

(2) 法令解釈

通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

(3) 検討

  • イ 本件各共済契約について
     請求人が、1本件各共済契約について、上記1(3)ニ(イ)Aのとおり、本件相続の開始日時点における解約返戻金相当額等が記載された本件解約返戻金相当額等証明書を取得したこと、2本件満期共済契約について、上記1(3)ニ(ロ)Aのとおり、満期共済金の支払請求手続を行い、その支払を受けたこと、3本件各継続共済契約について、上記1(3)ニ(ロ)Bのとおり、共済契約者及び被共済者を請求人に変更する手続を行ったことが認められる。これらの事実からすれば、請求人は、本件各共済契約に係る権利が別表1の「解約返戻金相当額」欄記載のとおりの財産的価値を有しており、これを本件相続により承継したとの認識を有していたことが認められる。しかしながら、請求人が行った上記1から3までの手続は、建物更生共済契約の共済契約者が死亡した場合において、その建物を承継する相続人が通常行う手続と外形上何ら異なることがなく、その後、相続人が全ての相続財産を対象として、税務官庁に申告をすれば何ら違法・不当な点を認めることができないものである。したがって、請求人が上記1から3までの手続を行ったからといって、それだけで直ちに請求人に過少申告の意図があったと認めることはできないし、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動であるということもできない。
     この点、請求人が、上記(1)ロ(ハ)のとおり、本件税理士に本件各共済契約の存在を告げず、本件解約返戻金相当額等証明書を提示しなかったことから、本件各共済契約の解約返戻金の額が本件当初申告において申告されず、本件当初申告が過少申告となっていることは事実である。しかしながら、上記(1)ロ(ロ)のとおり、本件税理士は、請求人に対して、相続税の申告手続等の説明に当たり、建物更生共済契約に関する具体的な説明を行っていなかったと認められる。このような状況において、請求人が本件税理士に対して本件各共済契約の存在を告げなかったとしても、直ちに、本件各共済契約の存在が念頭にあったにもかかわらず、あえてこれを告げなかったとまでは認めることができないから、請求人に過少申告の意図があったと認めることはできないし、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動であるということもできない。
     さらに、請求人は、本件満期共済金の額に相当する金員を原処分庁が容易に把握し得ないような他の金融機関や請求人名義以外の口座などに入金したのではなく、解約した本件各貯金口座の払戻金の入金口座である本件請求人口座に入金していることからしても、本件満期共済金について、原処分庁をしてその発見を困難ならしめるような意図や行動をしていない。
     以上のことからすると、請求人が本件各共済契約に係る権利の財産的価値及びこれを承継した事実を認識した上で、本件各共済契約の存在を本件税理士に告げなかったとしても、これらのことをもって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動であるということはできず、そのほかに請求人の過少申告の意図を外部からもうかがい得るような特段の行動があったことも認められない。
  • ロ 本件出資金について
     本件出資金も本件各共済契約と同様である。請求人は、上記(1)イのとおり、本件農協に対し、本件出資金に係る譲受請求及び脱退の手続をしていることから、本件各共済契約と同様に、請求人は、本件出資金が財産的価値を有しており、これを本件相続により承継したとの認識を有していたことが認められる。しかしながら、これらの手続も、相続人が通常行う手続と何ら異なることがないものである。また、本件税理士は、上記(1)ロ(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人と面会した際、本件農協に対する出資金の残高証明書を取得することを指示せず、出資金に関する具体的な説明をしなかったというのであるから、請求人が本件税理士に対して、本件出資金の存在を告げなかったとしても、請求人に過少申告の意図があったことまでは認めることができない。
     さらに、上記1(3)ホのとおり、本件出資金についても、本件各共済契約と同様に、その払戻金が本件請求人口座に入金されていることから、原処分庁をしてその発見を困難ならしめるような意図や行動をしたとは認められない。
     以上のことからすると、請求人が本件出資金に係る権利の財産的価値及びこれを承継した事実を認識した上で、本件出資金の存在を本件税理士に告げなかったとしても、これらのことをもって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動ということはできず、そのほかに請求人の過少申告の意図を外部からもうかがい得るような特段の行動があったことも認められない。
  • ハ 小括
     上記イ及びロのとおり、請求人において、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めることはできないから、請求人が本件各財産を本件当初申告の相続財産に含めなかったことについて、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められない。

(4) 原処分庁の主張について

原処分庁は、請求人が本件各財産の存在を十分に認識しており、また、本件税理士からの指示に基づき、本件解約返戻金相当額等証明書を取得し、本件出資金の払戻請求をしたのであるから、請求人は本件各財産が本件相続に係る相続財産であると認識していたと認められるところ、本件当初申告に当たり、本件税理士に本件各財産の存在を一切伝えず、本件農協に係る相続財産として本件貯金等残高証明書のみを本件税理士に提示したことなどが、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たる旨主張する。
 しかしながら、請求人が、本件貯金等残高証明書及び本件解約返戻金相当額等証明書を受領する前に、本件税理士からこれらを取得するよう具体的な指示を受けたとは認められず、上記(3)イ及びロのとおり、請求人が、本件各財産が相続財産であることを認識した上で、本件各財産の存在を本件税理士に告げなかったとしても、これらのことをもって、請求人が当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たると評価することはできない。
 したがって、原処分庁の主張は採用することができない。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

以上のとおり、請求人が本件各財産を本件当初申告の相続財産に含めなかったことについて、隠ぺい又は仮装の行為に基づくものであるとは認められないから、請求人につき、通則法第68条第1項所定の重加算税の賦課要件を満たさない。
 他方、請求人につき、本件各財産が修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、同法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、本件各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において、請求人の納付すべき過少申告加算税の額を計算すると、別表4記載のとおりであると認められる。
 したがって、本件各賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分は違法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由があるから、原処分の一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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