ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 平成30年10月〜12月分 >>(平成30年10月17日裁決)
(平成30年10月17日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人D、同F及び同G(以下、順次「請求人D」、「請求人F」、「請求人G」といい、併せて「請求人ら」という。)が、請求人らの母親の相続に係る相続税の申告に際し、相続財産である不動産の価額を不動産鑑定士による鑑定評価額に基づき評価したところ、原処分庁が、当該不動産は評価通達に定める評価方法によって評価すべきであるとして、当該相続税の各更正処分等をしたことに対し、請求人らが、原処分庁による当該不動産の評価額が時価を超え、原処分には当該不動産の価額を過大に評価した違法があるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
別紙2のとおりである。なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文でも使用する。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
- イ H(以下「本件被相続人」という。)は、平成26年12月○日に死亡し、同人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
本件相続の共同相続人は、本件被相続人の二女のJ、二男の請求人D、三女のK、四女のL、養女の請求人F及び養女の請求人Gの6名である。 - ロ 本件被相続人は、本件相続の開始時に、d市所在の別表1記載の1の(1)及び(2)の各土地(以下「本件各土地」という。)、本件各土地上に存する別表1記載の2の建物(以下「本件家屋」という。)及びe市所在の別表1記載の3の建物(以下「本件倉庫」といい、本件各土地及び本件家屋と併せて「本件各不動産」という。)を所有していた。本件各不動産の本件相続の開始の日における現況等は、以下のとおりである。
- (イ) 本件各土地について
- A 本件各土地は、第一種低層住居専用地域に所在し、本件家屋の敷地として利用されている宅地であり、その登記記録上の地積(以下「公簿面積」という。)は合計393.44uである。なお、本件各土地の北西部分にはコンクリートの壁と屋根を有した車庫が設置されている。
- B 本件各土地の西側には、幅員3.52mの私道(建築基準法第42条《道路の定義》第2項に規定する道路。以下「本件接面道路」という。)が存し(なお、本件接面道路の一部が本件各土地に含まれているか否かについては、後記のとおり争いがある。)、接面部分には、擁壁(以下「本件擁壁」という。)が設置されている。
- C 本件各土地は、本件接面道路との接面部分の一部において、西向きに傾斜するがけ地等となっている。また、本件接面道路は南から北向きへの緩やかな下り傾斜であり、本件各土地は、車庫の敷地部分は本件接面道路と等高であるが、その他の部分は本件接面道路から約1mないし1.5m高い位置にある。
- (ロ) 本件家屋について
本件家屋は、本件各土地上に存する居宅であり、平成26年度の固定資産税評価額は、1,646,696円である。 - (ハ) 本件倉庫について
本件倉庫は、本件被相続人が所有していた土地上に存し、平成26年度の固定資産税評価額は、156,087円である。
- (イ) 本件各土地について
- ハ 請求人らは、別表2の「申告」欄のとおり、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに共同して原処分庁に提出した。
本件申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」に記載された本件各不動産の各価額は、本件各土地が31,400,000円、本件家屋が零円、本件倉庫が零円である(以下、上記各価額を「請求人ら主張価額」という。)。
また、本件申告書には、M不動産鑑定士(以下「M鑑定士」という。)作成の平成27年10月6日付の内示メモと題する各書面(以下「本件各内示メモ」という。)が添付されていた。本件各内示メモには、本件各不動産の評価内示額及びその理由の要旨が記載されており、当該評価内示額は、請求人ら主張価額と同額であった。 - ニ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成28年8月31日、本件相続税についての調査に着手したところ、請求人らは、平成29年5月16日、預貯金の計上漏れがあったとして、別表2の「修正申告」欄のとおり、本件相続税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を共同して原処分庁に提出した。本件修正申告書に記載された本件各不動産の各価額は、請求人ら主張価額と同額である。
また、請求人らは、平成29年5月16日、調査担当職員に対し、M鑑定士作成の本件各土地及び本件家屋に係る鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)を提出した。本件鑑定評価書に記載された本件各土地及び本件家屋の各価額は、請求人ら主張価額のうち本件各土地及び本件家屋に係るものと同額である。 - ホ 本件各内示メモ及び本件鑑定評価書の各内容(以下、併せて「本件鑑定評価等」という。)は、要旨、別紙3のとおりである。
- ヘ 原処分庁は、本件各不動産について、いずれも評価通達の定める評価方法によって評価すべきであり、これによると、本件各土地、本件家屋及び本件倉庫の各評価額はそれぞれ37,481,653円、1,646,696円、156,087円(以下、これらの価額を「原処分庁主張価額」という。)であるとして、平成29年10月10日付で、別表2の「更正処分等」欄のとおり本件相続税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
- ト 請求人らは、原処分の全部の取消しを求めて、平成29年10月24日、審査請求をし、同日、請求人Dを総代として選任し、届け出た。
2 争点
原処分庁主張価額が本件各不動産の時価を超え、原処分には本件各不動産の価額を過大に評価した違法があるか。
3 争点についての当事者の主張
原処分庁 | 請求人ら |
---|---|
次のとおり、原処分庁主張価額は、本件各不動産の時価を超えるものではなく、原処分には本件各不動産の価額を過大に評価した違法はない。 | 原処分庁主張価額には、以下の問題点がある。これに対し、本件鑑定評価等は、これらの問題点を適切に評価し、本件各不動産の評価額を請求人ら主張価額と同額としている。 したがって、請求人ら主張価額を超える原処分庁主張価額は、時価を超えるものであり、原処分には本件各不動産の価額を過大に評価した違法がある。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
4 争点に対する当審判所の判断
(1) 法令解釈等
- イ 相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
この点、相続財産は多種多様であるから、その客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価することとしたときには、その評価方法等により異なる評価額が生じて納税者間の公平を害する結果となったり、課税庁の事務負担が過重となって大量に発生する課税事務の適正迅速な処理が困難となったりするおそれがある。
そこで、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則としてこれに定める画一的な評価方法によって相続財産を評価することとされている。このように、評価通達の定める評価方法によって相続財産を評価することは、税負担の公平、効率的な税務行政の運営という観点からみて合理的であると考えられ、その上で、評価通達の定めによる相続財産評価の方法は、適正な時価を算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められている。
以上によれば、評価対象の相続財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を失わず、かつ、上記評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別な事情の存しない限り、相続財産の評価に当たっては、評価通達の定める評価方法によって評価を行うのが相当であり、かかる評価額をもって、当該相続財産の時価であると事実上推認することができるものというべきである。 - ロ ところで、家屋の価額については、評価通達89が、その家屋の固定資産税評価額に1.0の倍率を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。この固定資産税評価額については、地方税法第341条第5号が、価格とは適正な時価をいう旨規定し、同法第403条第1項が、市町村長は、一定の場合を除くほか、総務大臣が定めて告示した固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならない旨規定している。そして、固定資産評価基準は、家屋の評価について、当該家屋の再建築費を求め、これに家屋の損耗の状況及び需給事情による各減点補正を行うなどの評価方法を定めている(固定資産評価基準第2章第1節の一、第2節の一の1、第3節の一の1など)。固定資産評価基準の定めるかかる評価方法は、一般的な合理性を肯定することができるものであり、当審判所もこれを相当と認める。よって、家屋については、評価通達89が依拠する固定資産評価基準の定める評価方法が、適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を失わず、かつ、上記評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別な事情の存しない限り、評価通達の定める評価方法によって評価を行うのが相当である。
- ハ また、国税庁ホームページのタックスアンサー「No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」には、
道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるものや
地盤に甚だしい凹凸のある宅地など、その利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められる宅地の価額は、その利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額を10%減額して評価することができる旨記載されており、課税実務においても、同様に取り扱われている(以下、当該10%減額の取扱いを「本件取扱い」という。)。本件取扱いは、その付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく利用価値が低下していると認められる部分のある宅地の価値に減価が生じることを考慮するものであり、当審判所もこれを相当と認める。よって、本件取扱いが適用される相続財産については、本件取扱いに定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を失わず、かつ、上記評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別な事情の存しない限り、本件取扱いの定める評価方法によって評価を行うのが相当である。
(2) 認定事実
請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
- イ 本件各土地について
- (イ) 本件接面道路に付された平成26年分の路線価は、115,000円/uである。
- (ロ) 当審判所が、本件各土地について本件接面道路を含まないものとして、それ以外の部分を計測したところ、間口が24.35mで、奥行きが北端につき15.78m、南端につき16.8mの台形であった。
- (ハ) 本件各土地は、西側部分に地積69.08uの西向きのがけ地等(本件各土地全体に占める地積割合17.56%)を有している。本件各土地のうち当該がけ地等及び車庫の敷地部分以外は、東から西向き及び南から北向きへ緩やかな下り傾斜となっている。
- (二) 本件各土地の東側隣接地(所在地番はd市f町○−○、住居表示は同町○−○。)は公示地(地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定により公示された標準地をいう。以下同じ。)「d−○」に選定されており、その地積は165uである。
- ロ 本件家屋について
- (イ) 本件家屋の壁面や窓枠等にはひび割れがあり、雨樋は破損し、天井の一部は抜けている。
- (ロ) 本件家屋の床や柱には大きな損傷等がない。
- (ハ) 本件家屋内には多数の荷物等が積み上げられている。
- ハ 本件倉庫について
- (イ) 本件倉庫の天井にはベニヤ板が貼られ、床にはコンクリートが打たれている。
- (ロ) 本件倉庫には入口沿いに多数の段ボール箱が積み上げられているため、内部に立ち入ることができない。なお、当該段ボール箱には大きな損傷等がない。
(3) 検討
- イ 本件各土地の私道負担について
請求人らは、公図に、本件各土地と西側隣接地との間に道路の表示がないことから、本件各土地の一部が道路として利用されていることは明らかである旨主張する。
しかしながら、上記(2)のイの(ロ)のとおり、本件各土地は、本件接面道路を含まないものとして計測すると、間口が24.35mで、奥行きが北端につき15.78m、南端につき16.8mの台形で、これらを基に算定した地積が396.6615u((15.78m+16.8m)×24.35m÷2)であり、公簿面積393.44uを上回っている。そうすると、本件各土地の一部が、本件接面道路の一部として道路利用されているとは容易には認められない。
よって、原処分庁が、本件各土地につき、私道負担が生じていないものとして算定したことは相当である。 - ロ 本件各不動産の評価方法について
上記イのとおり、原処分庁が、本件各土地につき、私道負担が生じていないものとして算定したことは相当であるから、このことや上記(2)のイないしハの本件各不動産の状況を前提に、本件各不動産を評価通達、固定資産評価基準及び本件取扱いの定める評価方法によって評価すると、別紙4のとおり、本件各土地の評価額は37,481,653円、本件家屋の評価額は1,646,696円、本件倉庫の評価額は156,087円となり、原処分庁主張価額と一致する。
そして、上記(1)によれば、本件各不動産に適用される評価通達、固定資産評価基準及び本件取扱いの定める評価方法が一般的な合理性を失わず、かつ、上記評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別な事情(以下、単に「特別な事情」ということもある。)の存しない限り、原処分庁主張価額が本件各不動産の時価であると事実上推認することができる。
この点、請求人らは、次のとおり、本件各不動産には、特別な事情が認められる旨主張するので、以下検討する。- (イ) 本件各土地について
- A 規模
請求人らは、本件各土地は、標準的な画地の地積150uの2倍以上の規模があり、標準的な画地に比して市場性が劣ることが特別な事情に当たる旨主張する。
確かに、本件各土地の公簿面積は393.44uである一方(上記1の(3)のロの(イ)のA)、本件各土地の東隣の公示地の地積は165uであるから(上記(2)のイの(二))、本件各土地の地積は大きい。しかしながら、地積規模の大きな土地であることからは、売買における取引総額が高額となることが考えられ、そのことにより、想定し得る購入者の範囲が狭まるということはあり得るとしても、土地の取引価格は、その土地の存する地域の状況、当該取引の時点における経済環境等の影響を受けるものであり、最終的には取引当事者の合意によって定まるものであることからすれば、上記のように想定し得る購入者の範囲が狭まることによって、当然に当該土地の取引価格が低下するという関係にあるとはいえない。
また、本件鑑定評価等は、規模の大きな土地の減価率(別紙3の1の(1)のロの(イ))について、本件各土地を分筆・分割して売却を行う場合に発生する費用負担の率も勘案しているが(原処分関係資料)、当該費用負担の有無や額は、それらを考慮するか否かも含めて一義的に定まるものではない。
以上の諸事情に照らせば、本件各土地の規模は、特別な事情には当たらないものと認められる。 - B 地勢等
請求人らは、本件各土地は、高低差が激しく、段々状の部分や傾斜地があり、車庫の設置部分が道路面まで落ち込んで段々状となっているなど、多様な形態が入り組んだ複雑で特殊な地勢であるため、「通常の用途に供することができないと認められる部分」の地積を求めることが困難である上、平坦地部分の市場性も低下すること及び
劣化が激しい本件擁壁の改修・補強工事が必要であることが特別な事情に当たる旨主張する。
- (A) 地勢
地勢に関しては、評価通達20−4が、がけ地等を有する宅地の評価について、その宅地の総地積に対するがけ地部分等通常の用途に供することができないと認められる部分の地積の割合及びそのがけ地等の方位に応じたがけ地補正率を乗じた価額によって評価する旨定めており、また、本件取扱いが、道路より高い位置にある宅地や地盤に甚だしい凹凸のある宅地など著しく利用価値が低下している宅地について、その利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額の10%の減額を認めている。
これを上記Bのの事情についてみると、高低差があることについては、がけ地部分等通常の用途に供することができないと認められる部分に対応したがけ地補正率を乗じることにより、車庫の設置部分のみ道路面まで落ち込んでいることについては、道路より高い位置にある宅地などその利用価値が低下している宅地であるとして、本件取扱いが定める10%の減額により、それぞれ適切に評価をすることができるものであり、現に、原処分庁主張価額は、上記各点を評価している(別紙4、原処分関係資料)。また、本件各土地のうちがけ地及び車庫の設置部分を除く部分については、西向き及び北向きに緩やかに傾斜しているにすぎず(上記(2)のイの(ハ))、その利用に格別の支障を生じさせるものとはいえないから、減価要因とは認められない。
以上によれば、上記Bのの事情は、評価通達及び本件取扱いにより評価される事情であるか、減価要因とは認められない事情であるから、特別な事情には当たらないものと認められる。
なお、本件鑑定評価等は、本件各土地について、過半が西向きに傾斜しているなどとして、地勢による25%の減価をしているが(別紙3の1の(1)のロの(二))、M鑑定士は、本件鑑定評価等に当たり、本件各土地及び本件家屋を外観から目視するのみでそれらに立ち入っていないことからすると(請求人ら提出資料)、上記減価の判断は、客観的な合理性を直ちに肯定することができない。 - (B) 擁壁
当審判所の調査によっても、客観的にみて、本件擁壁の改修・補強工事が必要であると認めるに足りる証拠はないから、上記Bのの事情は、その前提となる事実を欠くものであり、特別な事情には当たらない。
なお、本件取扱いが、道路より高い位置にある宅地などその利用価値が低下しているものについて10%の減額を認める趣旨には、擁壁などの設置が必要になることも含まれているものと解されることからすると、仮に本件擁壁の改修・補強工事が必要であったとしても、そのことは、本件取扱いによる10%の減額に包含されるものであり、特別な事情には当たらないというべきである。
- (A) 地勢
- A 規模
- (ロ) 本件家屋及び本件倉庫について
請求人らは、本件家屋については、約30年間空き家のまま放置された状態であったため、再び住宅として使用するには、修繕工事等が必要であること、本件倉庫については、老朽化が著しく、その敷地の最有効使用の観点から取り壊すべきものであることが特別な事情に該当する旨主張する。
そこで検討すると、固定資産評価基準第2章第2節の一の1及び第3節の一の1は、木造家屋及び非木造家屋の評価額のいずれについても、原則として、再建築費に、経過年数に応じた損耗の状況による減点補正率(以下、当該補正率による減価を「経年減点補正」という。)を乗じるとし、当該減点補正率によることが、天災、火災その他の事由により当該家屋の状況からみて適当でないと認める場合にあっては、家屋の各部分の再建築費に損耗の程度に応ずる減点補正率を乗じた価額の合計とする旨定めている。
これを本件についてみると、上記(2)のロのとおり、本件家屋は、壁面や窓枠等にひび割れがあったり、雨樋が破損していたり、天井が抜けていたりするものの、床や柱には大きな損傷等がないため、内部の移動や風雨をしのぐことも可能であり、現に多数の荷物等が置かれ、躯体自体も保持されていることからすると、居宅としての機能を一応維持しているということができ、経年減点補正を越えて更なる減価を要するものとまでは認められない。
また、上記(2)のハのとおり、本件倉庫は、天井にベニヤ板が貼られ、床にコンクリートが打たれ、多数の段ボール箱が大きな損傷等もなく置かれていることからすると、倉庫としての機能を一応維持しているということができ、経年減点補正を越えて更なる減価を要するとは認められない。
以上のとおり、請求人らの主張する本件家屋及び本件倉庫の現状は、いずれも固定資産評価基準に定められた経年減点補正により評価される事情であるから、特別な事情には当たらないものと認められる。 - (ハ) 特別な事情についての小括
上記(イ)及び(ロ)のとおり、特別な事情として請求人らの主張するような事情をもって、評価通達、固定資産評価基準及び本件取扱いの定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別な事情があると認めることはできず、また、上記評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性が失われているということもできない。そして、本件において、他に、上記評価方法が一般的な合理性を欠くことや、上記評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別な事情があることを認めるに足りる証拠はない。
- (イ) 本件各土地について
- ハ 争点についての結論
以上によれば、本件各不動産の時価は、私道負担が生じていないものとして、評価通達及び本件取扱いの定める評価方法によって評価した原処分庁主張価額であると認めるのが相当であるから、当該評価方法によって評価した原処分庁主張価額が時価を超えるものとは認められず、原処分に本件各不動産の価額を過大に評価した違法があるものとも認められない。
5 原処分の適法性について
(1) 本件各更正処分
上記4の(3)のハのとおり、原処分庁主張価額が本件各不動産の時価を超えるものとは認められず、原処分に本件各不動産の価額を過大に評価した違法はない。このことを前提に請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表2の「更正処分等」欄と同額となる。そして、本件各更正処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
よって、本件各更正処分はいずれも適法である。
(2) 本件各賦課決定処分
上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。以上を前提に本件各更正処分に係る過少申告加算税の額を算定すると、別表2の「更正処分等」欄と同額となるから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
6 結論
よって、本件審査請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとする。
別表1 本件各不動産(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(省略)
別紙1 共同審査請求人(省略)
別紙3 本件鑑定評価等の要旨(省略)
別紙4 評価通達の定める評価方法等による評価額(省略)