(平成30年10月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、動産(楽器類)の公売公告処分を行ったのに対し、請求人が、当該動産の見積価額が低廉であるから当該公売公告処分は違法であるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第95条《公売公告》第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読替え後のもの。以下同じ。)は、差押財産を公売に付するときは、公売の日の少なくとも10日前までに、次に掲げる事項を公告しなければならない旨規定している。
    • (イ) 公売財産の名称、数量、性質及び所在(第1号)
    • (ロ) 公売の方法(第2号)
    • (ハ) 公売の日時及び場所(第3号)
    • (二) 売却決定の日時及び場所(第4号)
    • (ホ) 公売保証金を提供させるときは、その金額(第5号)
    • (ヘ) 買受代金の納付の期限(第6号)
    • (ト) 公売財産の買受人について一定の資格その他の要件を必要とするときは、その旨(第7号)
    • (チ) 公売財産上に質権、抵当権、先取特権、留置権その他その財産の売却代金から配当を受けることができる権利を有する者は、売却決定の日の前日までにその内容を申し出るべき旨(第8号)
    • (リ) 前各号に掲げる事項のほか、公売に関し重要と認められる事項(第9号)
  • ロ 徴収法第96条《公売の通知》第1項は、国税局長は、同法第95条の公告をしたときは、同条第1項各号(第8号を除く。)に掲げる事項及び公売に係る国税の額を滞納者に通知しなければならない旨規定している。
  • ハ 徴収法第99条《見積価額の公告等》第1項は、国税局長は、公売財産のうち、不動産、船舶及び航空機を公売に付するときは公売の日から3日前の日までに、競り売りの方法又は同法第105条《複数落札入札制による最高価申込者の決定》第1項に規定する方法により公売する財産及びその他の財産で国税局長が公告を必要と認めるものを公売に付するときは公売の日の前日までに、見積価額を公告しなければならない旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

  • イ 原処分庁は、平成17年2月21日までに、請求人の別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、E税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ロ 原処分庁は、平成22年6月14日付で、本件滞納国税を徴収するため、別表2記載の動産(以下「本件動産」という。)を差し押さえ(以下「本件差押処分」という。)、徴収法第60条《差し押えた動産等の保管》第1項の規定に基づき、本件動産を請求人に保管させた。
  • ハ 原処分庁は、平成28年2月19日、請求人に保管させていた本件動産について、請求人の保管を解除し、搬出した。
  • ニ 原処分庁は、平成○年○月○日付で、本件動産を公売するため、買受申込期間を同年○月○日から同月○日などとする公売公告処分をしたものの、当該公売公告処分に係る公売を当該買受申込期間前に中止した。
  • ホ 原処分庁は、平成○年○月○日付で、本件動産を公売するため、売却区分番号を○○○○−○○及び○○○○−○○として、徴収法第95条第1項及び同法第99条第1項の各規定に基づき、公売の日を同月○日、売却決定の日時を同日14時30分などとする各公売公告処分(以下「本件公売公告処分」という。)及び見積価額を各々12,000円とする見積価額公告を行うとともに、同法第96条第1項の規定に基づき、同月1日付の各公売通知書により公告事項及び公売に係る国税の額を請求人に通知した。
  • ヘ 請求人は、平成29年12月11日、本件公売公告処分を不服として再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、平成30年3月7日付で棄却の再調査決定をした。
  • ト 請求人は、平成30年4月6日、再調査決定を経た後の本件公売公告処分に不服があるとして審査請求をした。

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2 争点

 

本件動産の見積価額が低廉であるという理由で本件公売公告処分は取り消されるべきか否か。

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3 争点についての主張

(1) 原処分庁

見積価額は、公売公告において公告が必要とされている徴収法第95条第1項各号に掲げる事項ではない。
 また、公売公告は、徴収法第95条第1項において、公売の日の少なくとも10日前までに公告しなければならない旨規定されているところ、同法第99条は、公売財産が同条第1項第1号及び第2号に掲げる以外の財産で国税局長が公告を必要と認めるものであるときは公売の日の前日までに見積価額を公告しなければならない旨規定しており、見積価額公告は、法令上、公売公告処分の後にされることが予定されている行政行為であるといえる。そして、仮に後にされる行政行為に瑕疵があったとしても、それによって先に行った行政処分が違法となることはないことからすれば、かかる見積価額公告の内容によって、公売公告処分の適法性が左右されることはないと解される。

(2) 請求人

本件動産に係る見積価額は低廉であるから、本件公売公告処分は違法であり取り消されるべきである。

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4 当審判所の判断

(1) 争点について

見積価額は、上記1の(2)のイのとおり、徴収法第95条第1項に規定する公売公告事項ではなく、同ハのとおり、公売公告とは別個独立に公告されることが予定されている上、見積価額の公告は、公売公告がされた後においてもすることができることとされている。この点、上記1の(3)のホのとおり、本件公売公告処分と見積価額公告は同時にされたことが認められるものの、徴収法の定めに鑑みると、法的には、別個独立の公告が同時にされたものと評価するほかないものである。
 そうすると、見積価額の適否は、徴収法上、見積価額公告の後に行われることとなっている最高価申込者の決定処分又は売却決定処分の違法事由を構成し得るものの、公売公告処分の適法性には影響せず、本件公売公告処分の違法事由を構成し得ないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 請求人のその他の主張について

請求人は、平成○年○月○日付の公売公告処分に係る公売が中止された(上記1の(3)のニ)後に原処分庁所属の徴収職員から本件動産を返還する旨の連絡があったにもかかわらず、それが実行されずに本件公売公告処分が行われたのは違法である旨主張する。
 しかしながら、仮に請求人が主張するとおり原処分庁所属の徴収職員が請求人に対して本件動産を返還する旨の連絡をしていたとしても、原処分庁としては、本件動産を請求人に引き渡すことなく占有を続けていること及び本件公売公告処分を行っていることから、本件差押処分を解除する意思がなかったことは明らかであり、これに反する趣旨の発言を一担当者がしたとしても、そのことによって、本件公売公告処分の適法性は左右されない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件公売公告処分の適法性について

以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、上記1の(3)のホのとおり、本件公売公告処分は、徴収法所定の要件を満たしている。
 また、本件公売公告処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件公売公告処分は適法である。

(4) 結論

よって、本審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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