(平成31年2月5日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、請求人から提供された担保不動産に対する抵当権の設定後に当該担保不動産上に築造された請求人の建物について差押処分をしたのに対し、請求人が、滞納国税を徴収するためには当該担保不動産の差押えで十分であるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第52条《担保の処分》第1項は、税務署長等は、担保の提供がされている国税についての延納を取り消したときは、その担保として提供された金銭以外の財産を滞納処分の例により処分してその国税及び当該財産の処分費に充てる旨、同条第4項は、同条第1項の場合において、担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税及び処分費に充ててなお不足があると認めるときは、税務署長等は、当該担保を提供した者の他の財産について滞納処分を執行する旨それぞれ規定している。
  • ロ 民法第389条《抵当地の上の建物の競売》第1項は、抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は土地とともにその建物を競売することができる旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ A税務署長は、平成8年2月27日付で、請求人が納付すべき平成7年3月○日相続開始に係る相続税について、延納の許可をし、平成8年2月28日受付で、その担保として提供された、請求人の所有する土地及び別表1の順号1記載の建物について、抵当権設定登記がされた。
     なお、上記の土地は、平成9年1月14日に、別表1の順号2から順号4までに記載の各土地に、それぞれ分筆された。
  • ロ 請求人は、平成9年頃、別表1の順号2記載の土地の上に別表1の順号5記載の建物(以下「本件物置」という。)を築造した。
  • ハ A税務署長は、平成25年10月17日付で、上記イの延納の許可(平成23年10月26日付で延納条件の変更許可をした後のもの。以下同じ。)に係る第18回分以降の分納額について当該許可を取り消した。
  • ニ A税務署長は、平成25年11月18日付で、別表2記載の請求人の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、通則法第52条第1項の規定に基づき、国税徴収法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》及び同法第86条《参加差押えの手続》に規定する各手続により、別表1の順号1及び順号2の各不動産(以下、別表1の順号2の不動産を「本件土地」という。)について担保物処分のための差押えを、別表1の順号3及び順号4記載の各不動産について担保物処分のための参加差押えをした。
     また、当該差押えに係る差押書及び当該参加差押えに係る参加差押通知書は、いずれも平成25年11月20日に請求人に送達され、同日受付で、当該差押え及び当該参加差押えに係る各登記がされた。
  • ホ 原処分庁は、平成27年6月18日付で、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、本件滞納国税について、A税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ヘ 原処分庁は、平成30年2月5日付で、本件滞納国税を徴収するため、通則法第52条第1項及び民法第389条第1項の各規定に基づき、国税徴収法第68条第1項及び同条第3項に規定する各手続により、本件物置について担保物処分のための差押えをした(以下「本件差押処分」という。)。
     また、本件差押処分に係る差押書は、平成30年2月6日に請求人に送達され、同日受付で、本件差押処分に係る差押登記がされた。
  • ト 請求人は、本件差押処分を不服として平成30年4月25日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年6月14日付で棄却の再調査決定をした。
  • チ 請求人は、再調査決定を経た後の本件差押処分に不服があるとして、平成30年7月11日に審査請求をした。

トップに戻る

2 当審判所の判断

(1) 本件差押処分の適法性について

  • イ 民法第389条第1項は、「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。」と規定しているところ、当該規定は、民事執行における競売手続において、土地利用権のない建物の存続を図る形で売却することにより社会経済的損失を回避するとともに、競売手続の円滑な運営を目的として、土地の抵当権に内在する換価権を建物に拡大したものと解される。そして、かかる要請は、滞納処分における公売手続においても当てはまると解され、また、通則法第52条第1項は、担保権を実行するための要件及びその方法を規定しているにすぎず、国税を担保するために設定された抵当権であっても、当該抵当権に内在する換価権の及ぶ範囲については実体法である民法に委ねていると解するのが相当であることからすると、国税の担保の処分においても民法第389条第1項が適用されると解される。
  • ロ そこで検討すると、上記1(3)イからヘまでのとおり、本件土地が平成7年3月○日相続開始に係る相続税の延納の担保として提供されて抵当権が設定されたところ、当該抵当権の設定後に本件土地上に本件物置が築造され、その後、当該延納の許可が取り消され、原処分庁は、本件土地及び本件物置を一括して公売に付すために担保権の実行として本件物置を差し押さえたのであるから、本件差押処分は、通則法第52条第1項及び民法第389条第1項の要件を充足している。
     この点、請求人は、1本件滞納国税を徴収するためには、別表1の順号1から順号4までに記載の各不動産の差押えで十分であること、2平成7年3月○日相続開始に係る相続税について、既に約7,000万円を納付しており、本件滞納国税についても1日でも早く完納するため努力していること、3本件物置は、請求人の家族の生活必需品を収納している大切なものであることなどから、本件差押処分は違法である旨主張する。
     しかしながら、上記1については、本件差押処分は、通則法第52条第4項の規定に基づき行われたものではなく、本件土地及び本件物置を一括して公売に付すために同条第1項及び民法第389条第1項の各規定に基づく担保権の実行として行われたものであって、担保として提供された財産の処分の代金を滞納国税及び処分費に充ててなお不足があると認めることを要件とするものではないから、請求人の主張は採用することができない。
     また、上記2及び3については、いずれも請求人の事情であって、本件差押処分の適法性の判断を左右するものではないから、請求人の主張にはいずれも理由がない。
     なお、本件差押処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件差押処分は適法である。

(2) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

トップに戻る

トップに戻る