(平成31年2月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、小切手で受領した売上代金を売上げに計上していなかったとして、法人税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、当該売上げを計上していなかったことにつき、事実の隠ぺい又は仮装の行為があったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、請求人には事実の隠ぺい又は仮装の行為はないとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成9年7月○日に設立された、紳士服、婦人服及び子供服の企画等を目的とする法人である。請求人の取締役は、D(以下「D代表」という。)のみであり、従業員は、D代表の妻E(以下「妻E」という。)のみである。
  • ロ 請求人が保管している平成26年10月8日付のF社宛の納品書(控)には、「つなぎ」及び「パターン修正代」合計266,400円の納品をした旨記載があり、また、同日付のF社に対する請求書(控)には、税抜金額266,400円、消費税額等(税率8%)21,312円及び当月請求額287,712円(以下「本件売上額」といい、本件売上額に係る取引を「本件取引」という。)とする旨記載がある。
  • ハ F社は、本件取引に係る代金として、平成27年1月15日付で額面金額287,712円の小切手(以下「本件小切手」という。)を振り出した。
  • ニ 妻Eは、平成27年1月16日、G銀行H支店において、本件小切手を現金化した。本件小切手の裏面には、F社の住所、法人名及び代表取締役としてJ(以下「F社J代表」という。)の記名押印並びに妻Eの署名がある。
  • ホ 請求人は、平成26年6月1日から平成27年5月31日まで及び平成27年6月1日から平成28年5月31日までの各事業年度(以下、順次「平成27年5月期」及び「平成28年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限内に申告した。また、請求人は、平成26年6月1日から平成27年5月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)における消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限内に申告した。
  • ヘ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成29年10月11日、請求人の所在地に臨場し、法人税等の実地の調査(以下「本件調査」という。)を行った。
  • ト 請求人は、本件調査担当職員から本件売上額が平成27年5月期の売上げ及び本件課税期間の課税売上高に計上されていないことの指摘を受けて、平成30年3月16日、本件各事業年度の法人税及び本件課税期間の消費税等について、別表1及び別表2の各「修正申告」欄のとおり記載して、それぞれ修正申告をした。
  • チ 原処分庁は、これに対し、平成30年3月27日付で、平成28年5月期の法人税及び本件課税期間の消費税等について、別表1及び別表2の各「賦課決定処分」欄記載のとおり、重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • リ 請求人は、平成30年6月18日、本件各賦課決定処分に不服があるとして審査請求をした。

トップに戻る

2 争点

請求人には通則法第68条第1項に規定する事実の隠ぺいがあったか否か。

トップに戻る

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
  通則法第68条第1項に規定する事実の隠ぺいがあった。   通則法第68条第1項に規定する事実の隠ぺいはなかった。
  • (1) F社J代表は、本件取引における決済方法が銀行振込みから本件小切手に変更されたことについて、自分から変更してほしいと頼んではいない旨申述している。F社との3回の取引のうち、過去2回はいずれも銀行振込みによる決済であったにもかかわらず、本件取引が本件小切手で決済されたことについて、D代表は、具体的な理由を何ら示していないことからすると、F社J代表の申述内容の信用性に疑いを差し挟む合理的な理由は見当たらない。
     また、F社J代表は、頼まれなければ裏判を押すことはない旨申述している。一般的に、小切手で支払をする際に振出人が裏判を押印することは、持参人による現金化を可能とする目的で行われ、小切手の受取人の便宜を考慮した行為であって、盗難や紛失等のリスクを勘案すれば、振出人が自発的に行うことは考え難く、F社J代表のこの申述内容も不自然、不合理な点は認められない。
     さらに、D代表は、自らの都合に合わせて事前連絡の上、本件小切手を受け取りに来ていることがうかがわれ、その翌日に換金されている。
     これらのことを併せ考えれば、本件取引に係る決済方法が銀行振込みから本件小切手に変更されたことについて、D代表がF社J代表に依頼したところに基づくものと考えられ、更に、その依頼に当たり本件小切手に裏判を押印することまでも求めたと認めるのが相当である。
  • (2) そして、本件小切手の記載事項、D代表及びF社J代表の各申述からすれば、D代表は、銀行振込みでなければ売上げに計上されないことを認識していたからこそF社に決済方法を本件小切手に変更してもらい、F社から本件小切手を受け取り、妻Eに本件小切手を換金させたと認めるのが相当である。
     そうすると、本件売上額を総勘定元帳の売上高勘定に計上しなかったことは、単なる計上漏れということはできず、D代表が意図的に計上しなかった、すなわち、脱漏と認めるのが相当である。
  • (1) 請求人は、F社との営業上のやり取りをF社J代表の子であり、F社の元取締役のKと行っており、F社J代表とはほとんど面識がない。
     したがって、F社J代表の本件調査担当職員に対する申述は、一般的な取引に関して申述したものと推察され、F社J代表のみの申述をもって事実を正確に把握しているとはいえない。
     また、F社との過去の取引は3回しかなく、過去2回の取引の決済方法が銀行振込みであることは間違いないが、いずれも3年以上前の取引であり、本件取引の決済方法が変更されたことに関して、別段特異な点は見受けられない。
  • (2) 請求人は、D代表と妻Eの二人だけで営む零細小規模法人であり、営業、外注手配等全ての業務を二人で行っており、常に日常業務に追われ、経理が後回しになることが多くある。業務の繁忙等から本件小切手の受領の入力を失念したことが、本件売上額が売上計上漏れとなった原因であり、単なる経理ミスであって、仮装、隠ぺいによるものではない。
  • (3) 請求人が本件調査の際に提示した請求書(控)つづりには、本件取引に係る請求書(控)がつづられており、意図的に本件売上額を計上していないとすれば、当該つづりを提示することはあり得ない。
  • (4) 原処分庁は、請求人が本件売上額を計上するのを単に失念した、又は経理ミスで記帳漏れとなった可能性を排除できておらず、これらを覆す明確な故意の脱漏を立証しているとは認められない。

トップに戻る

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項は、上記1の(2)のとおり、通則法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
 そして、通則法第68条第1項にいう「事実を隠ぺいし」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいしあるいは故意に脱漏することをいうと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、本件各事業年度において、売上先に対して、原則として各月の20日又は月末締めで請求書を発行し、翌月末までに請求人名義のL銀行M支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件口座」という。)に代金を振り込むよう依頼していた。
  • ロ 請求人の経理及び現金管理は、妻Eが担当していた。妻Eは、「○○会計」という名称のソフトウエアを使用して会計帳簿を作成しており、売上げの入力は本件口座の預金通帳の入金事績に基づいて行っていた。また、銀行振込み以外の方法で売上代金を受領した場合には、一旦、妻Eが預金口座に当該売上代金を入金した上で、売上げの入力をすることとしていた。
  • ハ 請求人は、売上先に発行する請求書について、請求書と請求書(控)を1組として50組がつづられた○○社製の請求書つづり(以下「請求書つづり」という。)を使用していた。また、請求人は、継続的に取引があるN社及びP社へ売上代金を請求する際にはそれぞれ単独の請求書つづりを使用し、その他の売上先には同じ請求書つづりを使用していた。
  • ニ 請求人が平成30年8月28日に当審判所に提示したその他の売上先用の請求書つづり(以下「本件請求書つづり」という。)の内容等は、次のとおりである。
    • (イ) 本件請求書つづりは、平成17年11月30日付の請求書(控)を1組目として、順次時系列順に請求書(控)がつづられており、最後に使用した請求書は47組目の平成29年10月24日付で、その後に続く3組の請求書及び請求書(控)は未使用である。また、本件請求書つづりには、仕損じたものや未使用分を含め、請求書(控)が50枚全て残されている。
    • (ロ) 本件請求書つづりには、本件取引前のF社との3回の取引に係る請求書(控)(平成22年5月20日付33,600円、同年11月30日付301,350円及び平成23年4月30日付68,775円)もつづられている。このF社との3回の取引については、いずれも売上げに計上されており、平成22年5月20日付の請求書(控)に係る売上代金は現金で受領した後、本件口座に入金され、同年11月30日付及び平成23年4月30日付の各請求書(控)に関する各売上代金はF社から本件口座に振り込まれていた。
  • ホ 平成27年5月期において、売上代金を本件口座への振込み以外で受領した取引は、本件取引を除くとQ社との2回の現金取引であった。このQ社との2回の取引については、いずれも売上げに計上されており、売上代金として受領した現金は本件口座に入金されていた。
  • ヘ F社は、平成○年○月○日、R地方裁判所の破産手続が開始され、平成○年○月○日に同地方裁判所の破産手続が終結した。

(3) 関係人の各答述等及びその信用性について

  • イ F社J代表の答述等
    • (イ) F社J代表は、平成29年11月22日、本件調査担当職員に対して、F社は、平成○年○月○日に清算結了しており、当時の帳簿書類が手元に残っておらず、また、請求人との決済方法については、銀行振込みか小切手か現金のうちどれかまでは覚えていない旨申述した。
    • (ロ) F社J代表は、平成30年1月26日、本件調査担当職員に対して、要旨次のとおり申述した。
      • A 請求人との取引の決済方法が、銀行振込みから本件小切手に変更になったことについては、こちらから決済方法を当初の振込みから小切手へ変更してほしいと頼んでいない。
      • B 本件小切手に裏判を押すことは、頼まれなければ押すことはない。
      • C 本件小切手を請求人に振り出す際には、事前にD代表から連絡があり、本件小切手を受け取りに来た。
    • (ハ) F社J代表は、平成30年9月4日、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
      • A 本件取引については、3年以上も前のことであり、F社と請求人とは継続的に取引があったのではなく、数度取引があっただけなので覚えていない。また、請求人との取引の決済方法がどのようなものであったのか覚えていない。
      • B F社は、私を入れて4人の会社であり、私の長男と次男K(以下「担当者K」という。)も従事していた。請求人との取引では、私か担当者Kがやり取りをしていたと思う。
  • ロ 担当者Kは、平成30年9月5日、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
    • (イ) 請求人との取引を担当していたのは、私である。
    • (ロ) 本件取引は、請求人との最後の取引だと思う。確か、D代表から本件取引の支払がないとの連絡があったので、そもそも請求書が来ていないと伝えた。その後、本件取引に係る請求書が郵送であったか持って来たのかは覚えていないが、当該請求書を受け取ったので、本件小切手で支払ったと記憶している。また、D代表が本件小切手を受け取りに来たと記憶している。
    • (ハ) 本件取引を小切手で決済したのは、F社では、銀行振込みによる決済を決まった時期にまとめて行うこととしていたが、本件取引に係る請求書が遅れてきた関係で、銀行振込みを行う時期からずれ、個別に銀行振込みを行うのが手間だったので、本件小切手で支払ったと記憶している。
  • ハ 信用性の検討
    • (イ) F社J代表は、上記イの(ロ)のA及びBのとおり、本件調査担当職員に対し、請求人との取引の決済方法が、銀行振込みから本件小切手に変更になったことについては、こちらから決済方法を変更してほしいと頼んでおらず、また、本件小切手に裏判を押すことは、頼まれなければ押すことはない旨申述している。
       しかしながら、その申述の前後において、上記イの(イ)及び(ハ)のAのとおり、F社J代表は、請求人との決済方法について覚えていない旨申述及び答述していることからすれば、F社J代表の本件取引に係る記憶は明確なものとはいえず、F社J代表の同イの(ロ)のA及びBの各申述は、F社における一般的な事項を述べたものと認めるのが相当である。
    • (ロ) これに対し、上記ロの担当者Kの答述は、本件取引の決済方法が本件小切手となった経緯を具体的に説明しており、D代表から本件取引の支払がないとの連絡があった旨の答述は、上記1の(3)のロ、ハ及び上記(2)のイのとおり、本件取引の決済が請求日付から本件小切手の振出しまでに約3か月を要しており、通常の取引と比較して本件取引の決済が遅れていた事実と整合する。そして、F社は、上記(2)のヘのとおり、平成○年○月○日に破産手続が終結しており、請求人と取引関係にないため、担当者Kには虚偽の答述を行ったり、事実を隠したりする動機もないことから、担当者Kの答述は信用することができる。

(4) 検討

上記(2)のイのとおり、請求人は、売上先に対して、原則として各月の20日又は月末締めで請求書を発行し、翌月末日までに売上代金を本件口座への振込みを依頼しているが、上記1の(3)のロ及びハのとおり、本件取引は、請求日付から本件小切手を受領するまで約3か月を要しており、請求人の通常の取引の請求から決済までの期間と比較すると代金の受領が遅れている。また、上記(3)のロの(ハ)及びハの(ロ)のとおり、信用できる担当者Kの答述によると、F社は、銀行振込みによる決済を決まった時期にまとめて行っていたため、個別に本件売上額を振り込むのではなく、本件小切手により決済したことが認められる。
 これらの事実から判断すると、本件取引については、請求人の通常の取引と比較して決済が遅れていることから、D代表が本件売上額の支払を督促するためF社に連絡し、F社側の事情で銀行振込みではなく本件小切手で決済されたと認めるのが相当であり、D代表が本件売上額を脱漏する目的でF社に依頼し、銀行振込みから本件小切手に決済が変更されたものではない。そして、本件小切手によって受領した売上代金が故意に本件口座に入金されなかったとの事実を認定するに足りる証拠もない。
 以上によれば、D代表が本件売上額を脱漏したとは認められず、その他の証拠によっても請求人に本件売上額を脱漏したとする事実も認められないことから、請求人に通則法第68条第1項に規定する事実の隠ぺいがあったと認めることはできない。

(5) 原処分庁の主張について

  • イ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、F社J代表の上記(3)のイの(ロ)の各申述を根拠に、D代表がF社J代表に依頼し、本件取引に係る決済方法を銀行振込みから本件小切手に変更してもらい、更に、その依頼に当たり本件小切手に裏判を押印することまでも求めた旨主張する。
     しかしながら、上記(3)のハの(イ)のとおり、F社J代表の各申述は、一般的な事項を述べたにすぎず、上記(4)のとおり、本件取引の決済が本件小切手により行われたのは、F社側の事情によるものであると認めるのが相当であり、D代表がF社J代表に本件取引の決済方法の変更を依頼した事実は認められないことから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
  • ロ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、D代表は売上代金が銀行振込みされなければ売上げに計上されないと認識していた旨主張する。
     しかしながら、上記(2)のホのとおり、平成27年5月期に現金で受領したQ社の売上代金がいずれも売上げに計上されていること及び同(2)のニの(ロ)のとおり、F社から売上代金を現金で受領した平成22年5月20日付の請求書(控)に係る取引が売上げに計上されていることから、請求人が売上代金を現金で受領した場合でも売上げに計上されていることが認められるほか、D代表が、売上代金が銀行振込みされなければ売上げに計上されないと認識していたことを裏付ける証拠も認められない。したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったと認めることはできないから、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。他方、平成28年5月期の法人税の修正申告及び本件課税期間の消費税等の修正申告に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 以上のことから、本件各賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の金額については、いずれも違法であり、また、平成28年5月期の法人税の修正申告及び本件課税期間の消費税等の修正申告について、通則法第65条第1項の規定により過少申告加算税の額を計算するといずれも5,000円未満となり、通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により加算税が5,000円未満であるときはその全額を切り捨てることとなるから、本件各賦課決定処分のいずれもその全部を取り消すこととなる。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る