(平成31年3月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、法人税の所得金額の計算上、益金の額に算入した不動産開発に関する開発権の譲渡代金について、原処分庁が、事実を仮装して計上時期を繰り延べたとして、法人税の青色申告の承認の取消処分及び法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ロ 法人税法第22条(平成30年法律第7号による改正前のもの。)《各事業年度の所得の金額の計算》第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨、同条第4項は、同条第2項に規定する当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。
  • ハ 法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項第3号は、青色申告の承認を受けた内国法人につき、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該事業年度まで遡って、その承認を取り消すことができる旨規定し、この場合において、その取消しがあったときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書は、青色申告書以外の申告書とみなす旨規定している。
  • ニ 消費税法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨、同項第9号は、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨、それぞれ規定している。
  • ホ 消費税法第6条(平成28年法律第15号による改正前のもの。)第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、同法別表第1に掲げるものには、消費税を課さない旨規定し、同表第1号には、土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡及び貸付けが掲げられている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人の状況
    • (イ) 請求人は、平成21年12月○日に設立された不動産の売買、あっせん、仲介、賃貸及び管理を主たる目的とする株式会社である。
    • (ロ) 請求人は、平成22年2月23日に、原処分庁に対して法人税の青色申告の承認の申請を行い、平成21年12月○日から平成22年10月31日までの事業年度(以下「平成22年10月期」といい、他の事業年度も同様に表記する。)以後の各事業年度の法人税について、青色申告の承認があったものとみなされた。
  • ロ 請求人の開発事業の状況等
    • (イ) 請求人は、J市長に対し、関連会社等が所有するa市d町の土地に○○を開発する事業(以下「本件開発事業」という。)に係る開発行為許可申請書を、平成○年○月○日付で提出し、同年○月○日付で当該申請に係る開発行為許可通知書を受領した。
    • (ロ) 請求人とK社は、平成27年8月21日付で本件開発事業に係る開発権を譲渡する開発権譲渡契約書(以下「本件契約書」といい、本件契約書に係る契約を「本件契約」という。)を作成した。
       本件契約書の概要は、次のとおりである。
      • A 第2条(権利内容)第1項
         本件契約における開発権とは、本件契約書の「本件開発権のリスト」に記載のある1都市計画法及び森林法等に基づく許認可(以下「本件許認可」という。)、2本件開発事業のために発注した設計業務等の関連契約(以下「本件開発関連契約」という。)上の権利義務及び地位、3地価、環境、○○等に関するレポート(以下「本件レポート」という。)及び4本件開発関連契約に基づいて作成された図面その他の図書(以下「本件開発関連図書」という。)並びにこれに係る権利利益の総称を意味する(以下「本件開発権」という。)。
      • B 第2条第2項
         請求人は、本件開発権をK社に移転し又はK社がこれを取得するために必要な手続を開始し、可及的速やかに完了するよう最大限努力し、開始後逐次手続進捗状況をK社に対して書面で報告する。
         なお、本件開発関連契約の移転については、K社の満足する内容の引継契約が締結されること、本件レポート及び本件開発関連図書については、請求人が表明する保証内容が正しいことを確認するため第三者の承諾書を得ることを要する。
      • C 第2条第3項
         請求人は、前項の手続の完了のみを停止条件として、本件開発権の全てをK社に対して有効かつ何らの瑕疵、違反、取消事由、無効事由、解除事由、負担のない状態で移転し、又は取得させなければならない。
      • D 第5条(書面等の引渡し)
         請求人は、本件契約書の「引渡し書類等のリスト」に記載のある書面等(以下「本件書面等」という。)をK社に引き渡し、これらに関する請求人の権利を全てK社に移転する。
         「引渡し書類等のリスト」は、要旨次のとおりである。
        • (A) 「本件開発権のリスト」に記載のある全ての書面。
        • (B) 本件許認可を取得するために提出した書面、本件許認可を証する書面及び本件許認可の変更等の書面並びに本件許認可に関連して行政当局から受領した書面の全て。
        • (C) 本件許認可のK社への移転又はK社による取得に関して関係当局に提出した書面及び関係当局から受領した書面の全てのほか、本件レポート及び本件開発関連図書を取得するに当たり締結した契約書。
      • E 第6条(譲渡金の支払)
         K社は、本件開発権の譲渡及び本件契約に定める本件開発権に係るその後の義務の履行の対価として、本件契約書の「本取引条件」記載の条件(以下「本件取引条件」という。)が成就したことをK社が請求人に対して確認する通知書に記載する決済予定日又は請求人とK社が別途合意する日に、請求人に対して、譲渡金○○○○円並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)○○○○円の合計○○○○円(以下「本件譲渡代金」という。)を支払う。
         なお、本件譲渡代金の一部は、K社の関連会社であるL社の増資に伴う新株によって支払う。
         本件取引条件は、要旨次のとおりである。
        • (A) L社の資本金が46億円以上に増資されること。
        • (B) L社の普通株式が請求人に対して発行されること。
        • (C) 請求人が、決済日までに、本件契約における一切の履行義務又は遵守義務を履行し、遵守していること。
        • (D) 本件許認可、本件レポート、本件開発関連図書、本件開発関連契約上の地位、その他本件契約に定める関連書面及び物の全てが有効にK社に移転し、又は有効にK社により取得され、名義変更その他の承継手続が全て完了していること。
    • (ハ) 請求人、K社及びL社は、平成27年8月24日付で本件取引条件についてL社の株式発行に関する基本合意書(以下「本件基本合意書」という。)を作成した。
       本件基本合意書は、L社の普通株式の発行の前提となる条件として、要旨次のとおり定めている。
      • A 本件契約を含む本件開発事業に関連する契約が締結され、その全てが履行されていること。
      • B 本件契約について、上記(ロ)のEの(A)、(C)及び(D)の条件が全て成就していること。
    • (二) K社は、本件開発事業に係る開発許可に基づく地位を請求人から平成27年8月21日に承継したとして、平成○年○月○日付で開発許可に基づく地位の承継承認申請書をJ市長に提出しており、当該申請書には本件契約書の写しが添付されている。その後、K社は、J市長から平成○年○月○日付で開発許可に基づく地位の承継承認通知書を受領した。
    • (ホ) 請求人とK社は、平成27年10月27日付で開発権譲渡契約変更覚書(以下「本件覚書」という。)を作成した。
       本件覚書の概要は、次のとおりである。
      • A 請求人及びK社は、本件譲渡代金の支払条件を変更し、本件譲渡代金のうち66,000,000円を、平成27年11月2日に、K社が請求人の指定する銀行口座に振り込むことに合意した。
      • B 請求人及びK社は、本件契約上の義務の履行その他の本件取引条件が満たされていないことを確認の上、これらについては今後請求人及びK社が協議する。
    • (へ) 請求人とK社は、本件開発関連契約の移転手続が進まず手続完了のめどが立たなかったため、協議を重ねた結果、本件開発関連契約の移転手続の完了を待たずに清算することとし、本件開発権の譲渡対価の残金の支払方法を、L社の増資に伴う新株の発行によらず、振込みによることで合意した。
       当該合意を受けて平成28年7月6日付で作成した清算合意書(以下「本件清算合意書」といい、本件契約書、本件基本合意書及び本件覚書と併せて「本件各契約書等」という。)には、請求人及びK社は、請求人からK社に対して、本件開発関連契約に係る契約上の地位及びこれに基づく権利義務が承継されておらず、本件取引条件が実際には成就していないことを確認するが、本件清算合意書の締結をもって本件取引条件が成就したものとみなし、K社は、請求人に対し、本件譲渡代金の○○○○円から平成27年11月2日に支払われた66,000,000円を控除した金額である○○○○円の支払義務があることを認める旨記載がある。
       なお、当該金員は、平成28年7月13日に、K社から請求人名義の銀行口座に振り込まれた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成27年10月28日に、平成27年11月1日から平成28年10月31日までの課税期間(以下「平成28年10月課税期間」という。)を適用開始課税期間とする消費税課税事業者選択不適用届出書を原処分庁へ提出した。
  • ロ 請求人は、平成27年10月期の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
     また、平成26年11月1日から平成27年10月31日までの課税期間(以下「平成27年10月課税期間」という。)の消費税等について、確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
  • ハ 請求人は、平成28年10月期(以下、平成27年10月期と併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、本件譲渡代金を益金の額に算入した上で、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
  • ニ 原処分庁は、本件譲渡代金の収益計上の時期は、K社がJ市長から開発許可に基づく地位の承継承認通知書の交付を受けた時であり、請求人が課税時期を繰り延べたことに隠蔽又は仮装があるとして、平成29年12月26日付で、平成27年10月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をするとともに、別表1の「更正処分」欄及び別表2の「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)並びに平成27年10月課税期間の消費税等の更正処分(以下「本件消費税更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をし、その処分の通知書を、請求人に対し、平成29年12月27日に送達した。
  • ホ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成30年3月27日に審査請求をした。

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2 争点

(1) 本件譲渡代金の収益計上の時期はいつか(争点1)。

(2) 本件開発権の譲渡は、課税資産の譲渡等に該当するか否か(争点2)。

(3) 請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の事実があったか否か(争点3)。

(4) 請求人の帳簿書類につき法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由があったか否か(争点4)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件譲渡代金の収益計上の時期はいつか。)について

原処分庁 請求人
  次のことから、本件譲渡代金の収益計上の時期は、平成27年10月期である。   次のことから、本件譲渡代金の収益計上の時期は、平成28年10月期である。
  • イ 本件契約書には、上記1の(3)のロの(ロ)のEの(D)のとおり、本件許認可、本件開発関連契約、本件レポート及び本件開発関連図書は、決済日前に適法かつ有効にK社に移転し取得されている旨記載されており、本件基本合意書にも、K社に移転又は取得され承継手続が全て完了している旨記載されている。
  • イ 請求人は、本件清算合意書の締結時までに、本件契約書の第2条第2項に定める本件開発権をK社へ移転又は取得させる手続を完了していなかったので、同条第3項に定める停止条件が成就しておらず、本件清算合意書の締結時まで本件開発権はK社に移転していなかった。
  • ロ K社は、平成○年○月○日付で開発許可に基づく地位の承継承認通知書の交付を受けており、K社の代表取締役であるMも、本件契約の締結日に、本件開発権を請求人から引き渡されたという認識である旨申述している。
  • ロ 本件契約は実質的には本件清算合意書の締結時まで成立しておらず、本件開発関連契約についてはK社に移転又は取得されていなかった。そして、請求人とK社は、本件取引条件が成就していないことを確認し、本件清算合意書の締結をもって本件取引条件が成就したものとみなすことに合意しているので、本件開発権は平成28年7月6日に譲渡されたというべきである。
  • ハ 本件開発権は、棚卸資産に該当するところ、上記イのとおり、K社に対する本件書面等の引渡しが全て完了しており、上記ロからすると、K社が開発許可に基づく地位の承継承認通知書の交付を受けた日がK社において使用収益ができることとなった日であると認められるので、本件開発権は平成○年○月○日に譲渡されたというべきである。

(2) 争点2(本件開発権の譲渡は、課税資産の譲渡等に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
  本件開発権は、土地の上に存する権利と認められず、本件開発権の譲渡は課税資産の譲渡等に該当する。   本件開発権は、土地を使用収益する権利であるから土地の上に存する権利であり、本件開発権の譲渡は課税資産の譲渡等に該当しない。

(3) 争点3(請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
  次のことから、請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の事実があった。   次のことから、請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の事実はない。
  • イ 本件清算合意書によって、K社が請求人に対し支払義務を負うのは、本件開発権の引渡しが前提になるべきであるほか、本件覚書において、本件譲渡代金の一部の支払に合意しており、本件開発権の譲渡が成立していることを前提に本件覚書が作成されたと認められる。
  • イ 請求人とK社は、上記(1)の「請求人」欄のロのとおり、本件清算合意書の締結時において本件取引条件が成就していないことを確認した上で、本件清算合意書をもって本件取引条件が成就したものとみなすことに合意している。
  • ロ 1Mは、本件開発権を平成27年8月21日に請求人から引渡しを受けたと認識した上で、K社の土地仕入高勘定に計上した旨申述し、総勘定元帳にその旨記載されていること、2L社の増資をすること及びL社の株式が発行されることについて、その期限が定められていないこと、3本件清算合意書において、本件取引条件の不成就を確認しつつ、本件譲渡代金の残金の支払に合意したことに照らすと、本件契約において、このような取引条件が設定されていることは、不自然不合理である。
  • ロ 原処分庁は、請求人とK社が通謀の上、消費税の免脱を目的として事実を仮装し、仮装の事実に基づいて課税標準額を過少に記載した平成27年10月課税期間の消費税確定申告書を提出したなどと主張するが、請求人とK社が通謀した証拠を示しておらず、原処分庁の主張は、本件契約に係る本件取引条件が不自然不合理であるという誤った評価から、請求人とK社の通謀を推認するというものであり、根拠が極めて不十分である。
  • ハ したがって、請求人は、K社と通謀して内容虚偽の本件各契約書等を作成し、消費税等の税負担を免れることを意図して消費税課税事業者選択不適用届出書を提出した上で、関与税理士に対して本件契約が成立していないと虚偽の説明を行うことで事実を仮装し、平成27年10月課税期間の消費税確定申告書を提出したものと認められることから、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動を行った上で国税の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実を仮装したものと認められる。

(4) 争点4(請求人の帳簿書類につき法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由があったか否か。)について

原処分庁 請求人
  請求人は、平成27年10月期において本件開発権が移転したことを認識した上で、上記(3)の「原処分庁」欄のハのとおり、関与税理士に対して虚偽の説明を行って本件譲渡代金を帳簿記録に記録せず、平成27年10月期の益金に算入しなかった。
 したがって、請求人は、平成27年10月期に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録したので、法人税法第127条第1項第3号に規定する取消事由に該当することから、本件青色取消処分は適法である。
  請求人は、帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録していないので、法人税法第127条第1項第3号に規定する取消事由に該当しないことから、本件青色取消処分は取り消すべきである。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件譲渡代金の収益計上の時期はいつか。)について

  • イ 法令解釈
     法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ(法人税法第22条第2項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条第4項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと解される(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件契約書の第2条第2項(上記1の(3)のロの(ロ)のB)に定める本件開発関連契約は、本件開発事業のために発注した設計業務等の複数の契約であるところ、その契約上の権利義務及び地位の移転については、一部の契約を除き、本件清算合意書の締結時までに引継契約が締結されていなかった。
    • (ロ) 本件各契約書等には、本件開発関連契約について、K社に対し、その契約上の権利義務及び地位が移転又は取得されていることを示す記載はなかった。
  • ハ 当てはめ
     本件譲渡代金の収益は、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと解されるところ、その権利が確定する時期は、請求人が本件開発権について契約に定められた物又は権利の全てを引き渡し、移転又は取得させた時と認められる。
     本件契約書の第2条第1項(上記1の(3)のロの(ロ)のA)において、本件開発権には、本件許認可だけではなく、本件開発関連契約上の権利義務及び地位、本件レポート及び本件開発関連図書並びにこれに係る権利利益についても含まれている旨定められ、同条第2項(同B)において、請求人の手続面における義務が定められ、同条第3項(同C)において、同条第2項の手続の完了のみを停止条件として本件開発権の全てをK社に対して移転し又は取得させなければならないと定められていることから、本件開発権に係る同条第2項の手続が完了するまでは、権利の移転の効力の発生が停止しているとみるのが相当である。
     そうすると、請求人が本件開発権について契約に定められた物又は権利について、その全てを引き渡し、移転又は取得させたといい得るためには、本件契約書の第2条第2項に手続面における義務の一つとして定められている本件開発関連契約に係る契約上の権利義務及び地位の移転について、引継契約が締結される必要があるが、上記ロの(イ)のとおり、本件清算合意書の締結時までに、一部の契約を除き、引継契約が締結されていなかった。
     本件取引条件は、上記1の(3)のロの(ロ)のEのとおり、本件開発関連契約に係る契約上の地位及びこれに基づく権利義務の承継を含む本件契約における一切の履行義務又は遵守義務を履行し、遵守していることであり、請求人及びK社は、同(へ)のとおり、本件取引条件が実際には成就していないことを確認した上で、本件清算合意書の締結をもって本件取引条件が成就したものとみなすことに合意し、本件譲渡代金の残額を請求人に支払うこととした。
     そうすると、本件清算合意書の締結により、本件契約書の第2条第2項に定める手続が完了し、同条第3項に定める停止条件が成就したものとみるのが相当である。
     したがって、本件清算合意書が締結された平成28年7月6日に、本件譲渡代金の収入すべき権利が確定したと認められるから、本件譲渡代金の収益計上の時期は、平成28年10月期である。
  • ニ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、本件開発権について、本件契約書及び本件基本合意書に基づき、K社に移転又は取得され承継手続が全て完了していることを前提に、本件譲渡代金の収益計上の時期は平成27年10月期である旨主張する。
     しかしながら、上記ハのとおり、本件清算合意書の締結時までに、本件契約書の第2条第2項の手続は完了しておらず、原処分庁の主張はその前提を欠いている。
     また、原処分庁が、本件契約書に「本件許認可、本件開発関連契約、本件レポート及び本件開発関連図書は、決済日前に適法かつ有効にK社に移転し取得されている」旨記載されており、本件基本合意書にも「K社に移転又は取得され承継手続が全て完了している」旨記載されていると主張する点については、上記1の(3)のロの(ロ)のEの(D)及び同ロの(ハ)のBのとおり、本件開発権の譲渡又は本件契約に定める本件開発権に係るその後の義務の履行の対価を支払う条件及びL社の普通株式の発行の前提となる条件を定めているのであって、それらの条件が成就されているとの趣旨ではない。そして、上記ロの(ロ)のとおり、本件各契約書等には、本件開発関連契約について、K社に対し、その契約上の権利義務及び地位が移転又は取得されていることを示す記載はなかった。
     したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件開発権の譲渡は、課税資産の譲渡等に該当するか否か。)について

上記(1)のハのとおり、本件譲渡代金の収入すべき権利が確定した時期は、本件清算合意書が締結された平成28年7月6日であると認められ、消費税法上の取扱いについても同様に、本件譲渡代金に係る資産の譲渡等の時期は平成28年7月6日(平成28年10月課税期間)であると認められる。
 請求人は、上記1の(4)のイのとおり、平成28年10月課税期間を適用開始課税期間とする消費税課税事業者選択不適用届出書を提出しており、平成28年10月課税期間は免税事業者となっている。
 したがって、本件開発権の譲渡が課税資産の譲渡等に該当するか否かを判断するまでもない。

(3) 争点3(請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の事実があったか否か。)について

本件譲渡代金に係る資産の譲渡等の時期は、上記(2)のとおり、平成28年10月課税期間であると認められるところ、原処分庁は当該資産の譲渡等の時期を平成27年10月課税期間であるとして本件消費税更正処分を行っていることから、下記(5)のハのとおり、本件消費税更正処分は違法であってその全部を取り消すべきであり、同ニのとおり、本件賦課決定処分についてもその全部を取り消すべきである。
 したがって、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の事実があったか否かを判断するまでもない。

(4) 争点4(請求人の帳簿書類につき法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由があったか否か。)について

  • イ 検討
     本件譲渡代金の収益計上の時期は、上記(1)のハのとおり、平成27年10月期ではなく、平成28年10月期であると認められるので、請求人が平成27年10月期の帳簿書類に本件譲渡代金を記載又は記録しなかったことは適正であり、その他平成27年10月期の帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載又は記録した事実は認められない。
     したがって、請求人の帳簿書類につき法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由は認められない。
  • ロ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、本件譲渡代金の収益計上の時期が平成27年10月期であることを前提に取消事由を主張する。
     しかしながら、本件譲渡代金の収益計上の時期は、上記(1)のハのとおり、平成28年10月期であると認められるから、請求人は、平成27年10月期の帳簿書類を適正に記載又は記録しており、原処分庁の主張はその前提を欠いている。
     したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(5) 原処分の適法性について

  • イ 本件青色取消処分
     本件青色取消処分については、上記(4)のとおり、請求人の帳簿書類につき法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実は認められないから、本件青色取消処分は違法であり、取り消すべきである。
  • ロ 本件法人税各更正処分
     本件法人税各更正処分については、上記(1)のハのとおり、本件譲渡代金の収益計上の時期は平成28年10月期であると認められ、これと上記イによる本件青色取消処分の取消しを考慮したところにより本件各事業年度の法人税の所得金額、翌期へ繰り越すべき欠損金額及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「確定申告」欄と同額になるから、本件法人税各更正処分は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきである。
  • ハ 本件消費税更正処分
     本件消費税更正処分については、上記(2)のとおり、本件譲渡代金に係る資産の譲渡等の時期は平成28年10月課税期間であると認められ、これにより平成27年10月課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表2の「確定申告」欄と同額になるから、本件消費税更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
  • ニ 本件賦課決定処分
    上記ハのとおり、本件消費税更正処分はその全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

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