(平成31年2月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、マンションの管理組合法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、マンション屋上部分の一部を携帯電話等の基地局の設置場所として賃貸して得た収入について、法人税等の申告をした後、当該収入に係る費用を損金の額に算入していなかったとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該費用は損金の額に算入することができないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が、当該処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 行政手続法第8条《理由の提示》第1項本文は、行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第2項は、当該処分を書面でするときは、同条第1項にいう理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
  • ロ 法人税法第4条第1項は、内国法人は、この法律により、法人税を納める義務がある旨及びただし書で、公益法人等又は人格のない社団等については、収益事業を行う場合に限る旨規定している。
  • ハ 法人税法第22条(平成30年法律第7号による改正前のもの。)《各事業年度の所得の金額の計算》第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とするとし、同項第1号で当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、同項第2号で前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額とする旨規定している。
  • ニ 法人税法施行令第6条《収益事業を行う法人の経理の区分》は、公益法人等は、収益事業から生ずる所得に関する経理と収益事業以外の事業から生ずる所得に関する経理とを区分して行わなければならない旨規定している。
  • ホ 法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達)15−2−5《費用又は損失の区分経理》(以下「本件通達」という。)は、公益法人等が収益事業と収益事業以外の事業とを行っている場合における費用の額の区分経理については、(1)として、収益事業について直接要した費用の額は、収益事業に係る費用の額として経理する旨、及び(2)として、収益事業と収益事業以外の事業とに共通する費用の額は、継続的に、資産の使用割合、従業員の従事割合、資産の帳簿価額の比、収入金額の比その他当該費用の性質に応ずる合理的な基準により収益事業と収益事業以外の事業とに配賦し、これに基づいて経理する旨を定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、「F」と称するマンション(以下「本件マンション」という。)を管理する管理組合法人であり、建物の区分所有等に関する法律第47条《成立等》第13項に基づき、法人税法の規定の適用については同法第2条《定義》第6号に規定する公益法人等とみなされる。
  • ロ 請求人は、平成7年5月12日、G社(以下、後にその権利義務を承継した者を含め「本件PHS会社」という。)との間で、PHS基地局設置契約(継続的にPHS基地局の設置場所の賃料を得る契約であり、以下「本件PHS基地局賃貸契約」という。)を締結した。
     本件PHS基地局賃貸契約の概要は、次のとおりである。
    • (イ) 請求人は、本件PHS会社がPHS基地局(以下「本件PHS基地局」という。)を、本件マンションのうち、請求人が管理する共用部分である屋上の塔屋に設置することを承諾する。
    • (ロ) 本件PHS会社は、本件PHS基地局の設置工事及び維持管理を行い、請求人に対し、本件PHS基地局の設置場所の賃料を、請求人が管理業務を委託しているH社(以下「本件管理会社」という。)の金融機関口座に振り込む。
    • (ハ) 本件PHS会社は、請求人の事前の許可を得た上、本件PHS基地局の保守、点検又は維持等の事由により、本件PHS基地局の設置場所に立ち入ることができる。
  • ハ 請求人は、平成12年3月31日、J社(以下、「本件携帯電話会社」という。)との間で、本件マンションの屋上の一部を賃貸する契約(以下「本件携帯電話基地局賃貸契約」といい、本件PHS基地局賃貸契約と併せて「本件各賃貸契約」という。)を締結した。
     本件携帯電話基地局賃貸契約の概要は、次のとおりである。
    • (イ) 請求人は、本件マンションの共用部分のうち、屋上の一部を賃貸部分として、本件携帯電話会社に賃貸する。
    • (ロ) 本件携帯電話会社は、当該賃貸部分を携帯電話の無線基地局(以下、本件PHS基地局と併せて「本件各基地局」という。)の機械室及びアンテナの設置場所として使用し、賃料を本件管理会社の金融機関口座に振り込む。
    • (ハ) 請求人は、本件携帯電話会社が負担する電気料金の計算のため、月末ごとに電力量計を検針し、本件携帯電話会社に報告する。
  • ニ 請求人は、平成23年10月1日から平成24年9月30日までの事業年度(以下「平成24年9月期」といい、他の事業年度についても同様に、その末月に「期」を付していう。)ないし平成27年9月期までの各事業年度(以下、これらの事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の間、本件各賃貸契約に基づき、本件PHS会社及び本件携帯電話会社に対し、本件マンションの共用部分の一部を賃貸し、本件PHS会社及び本件携帯電話会社から賃料収入(以下「本件各賃料」という。)を得た(以下、本件各賃料を得る事業を「本件賃貸事業」という。)。
  • ホ 請求人は、本件各事業年度において、本件管理会社との間で、管理委託契約(以下「本件委託契約」という。)を締結した。
     本件委託契約の概要は、次のとおりである。
    • (イ) 請求人は、本件マンションの管理に関する業務を本件管理会社に委託する。
    • (ロ) 本件管理会社の行う管理業務の内容は、事務管理業務、管理員業務及び建物・設備(本件各基地局に係る記載はない。)管理業務である。
    • (ハ) 請求人は、本件管理会社に対し、事務管理業務及び管理員業務の対価として、毎月次の内訳による管理委託費(以下「本件委託費」という。)を支払う。
      • A 管理組合の会計の収入及び支出の調定並びに出納に関する費用
      • B マンションの維持及び修繕に関する企画並びに実施の調整に関する費用
      • C 管理組合運営支援に関する費用
      • D 管理員業務に関する費用(以下「本件管理員業務費」という。)
    • (二) 請求人は、本件管理会社に対し、建物・設備管理業務について、次のとおり、各業務実施の都度、対価を支払う。
      • A 昇降設備保守業務
      • B 建築設備等定期検査業務
      • C 貯水槽清掃業務
      • D 設備点検業務(以下、当該設備点検業務について請求人が支払う対価を「本件点検費」という。)
      • E 地下タンク漏えい点検業務
    • (ホ) 上記(二)のDの設備点検業務に係る仕様書である「設備点検業務仕様書」によれば、設備点検は、共用設備の機械的、電気的な機能低下及び故障を予防保全することを目的とし、本件管理会社は、共用設備の機械部品等の劣化状況及び作動状況を把握することとなっている。
  • ヘ 本件各基地局の電力は、本件マンションの電気設備から配電されており、当該電気設備は、本件点検費を対価として行う点検の対象となっている。
  • ト 請求人は、本件各事業年度において、本件委託契約に基づき、本件管理会社に対し、本件委託費及び本件点検費を支払った。
  • チ 請求人は、本件各事業年度において、K社との間で、本件マンションの共用部分を対象とする保険契約を締結し、当該保険契約に基づいてK社に保険料(以下「本件保険料」といい、本件保険料のうち火災保険料を「本件火災保険料」という。)を支払った。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度の法人税について、本件賃貸事業が法人税法上の収益事業に該当するとして、本件各賃料を益金の額に算入し、当該収益事業に係る費用を損金の額に算入せずに、別表1の「確定申告」欄のとおり、いずれも平成28年1月26日に期限後申告をした。また、請求人は、平成24年10月1日から平成25年9月30日までの課税事業年度(以下「平成25年9月課税事業年度」という。)及び平成25年10月1日から平成26年9月30日までの課税事業年度(以下「平成26年9月課税事業年度」といい、平成25年9月課税事業年度と併せて「本件各課税事業年度」という。)に係る復興特別法人税について、別表2の「申告」欄のとおり、また、平成26年10月1日から平成27年9月30日までの課税事業年度(以下「平成27年9月課税事業年度」という。)に係る地方法人税について、別表3の「確定申告」欄のとおり、いずれも平成28年1月26日に期限後申告をした。
  • ロ 原処分庁は、平成28年2月10日付で、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、上記イの法人税の期限後申告に係る無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、本件委託費、本件点検費及び本件火災保険料(以下、これらを併せて「本件各経費」という。)については、収益事業と収益事業以外の事業とに共通する費用(以下「共通費用」という。)に該当するとして、本件各経費の額に、本件賃貸事業の収入の額及び本件賃貸事業以外の収入の額の合計額のうち、本件賃貸事業の収入の額の占める割合(以下「本件収入割合」という。)を乗じて算出した金額を収益事業に配賦される費用の額として区分経理し、当該区分経理した金額(以下「本件区分経理額」という。)が、本件各事業年度の損金の額に算入されるとして、平成28年11月29日に別表1ないし別表3の「更正の請求」欄のとおり更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をした。
     なお、請求人が適用した本件収入割合は、本件各事業年度とも7%である
  • ニ 原処分庁は、本件各更正の請求のうち、法人税及び復興特別法人税に係る更正の請求に対して平成29年11月29日付で、また、地方法人税に係る更正の請求に対して平成30年4月2日付で、それぞれ更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」といい、更正の請求に対してその更正をすべき理由がない旨の各通知書を以下「本件各通知書」という。)をした。
     本件各通知書には、処分の理由として、要旨、次の記載がある。
    • (イ) 本件各事業年度の法人税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分について
       請求人は、本件区分経理額を損金算入すべき金額として算出している。しかしながら、本件各賃貸契約には、請求人が本件各基地局の維持管理及び点検を実施する旨の記載がなく、また、本件各基地局の定期的な見回りは本件各基地局の設置会社が行っており、本件各賃料は本件各経費の有無にかかわらず発生するものであり、本件各経費は、本件各基地局の維持管理等を目的として支出されたものとは認められず、法人税法第22条第3項の規定により、損金の額に算入することはできない。
    • (ロ) 本件各課税事業年度の復興特別法人税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分について
       平成25年9月期及び平成26年9月期の法人税の額に誤りがあるとは認められないことから、本件各課税事業年度の復興特別法人税の額が過大であるとは認められない。
    • (ハ) 平成27年9月課税事業年度の地方法人税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分について
       平成27年9月期の法人税の額に誤りがあるとは認められないことから、平成27年9月課税事業年度の地方法人税の額が過大であるとは認められない。
  • ホ 請求人は、本件各通知処分に不服があるとして、法人税及び復興特別法人税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分に対して平成30年2月26日に、また、地方法人税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分に対して平成30年4月26日にそれぞれ審査請求をした。
  • ヘ そこで、これらの審査請求について併合審理をする。
     なお、本件各賦課決定処分についてもあわせ審理する。

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2 争点

(1) 原処分に係る理由付記に、原処分を取り消すべき記載不備があるか否か(争点1)。

(2) 本件区分経理額は、本件各事業年度の損金の額に算入されるか否か(争点2)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(原処分に係る理由付記に、原処分を取り消すべき記載不備があるか否か。)について

請求人 原処分庁
  原処分における理由付記には、処分の理由について、本件通達のことが全く記載されておらず、本件通達で定める共通費用としての計上が認められない理由が記載されていないので、適正な理由付記ではない。   原処分における理由付記は、その処分の対象となった事実及び原処分庁の具体的な判断根拠が明示されていることから、不備はない。

(2) 争点2(本件区分経理額は、本件各事業年度の損金の額に算入されるか否か。)について

請求人 原処分庁
  • イ 本件各経費は、次の(イ)ないし(ハ)の理由から共通費用に該当する。
  • イ 本件各経費は、収益事業に直接要した費用とは認められず、また、次の(イ)ないし(ハ)の理由から共通費用に該当しない。
  • (イ) 本件委託費について
     本件マンションの管理に関しては、全面的に請求人が本件管理会社に委託しており、収益事業を含めた会計処理や総会支援業務のほか、管理員による電力量計の検針、屋上の清掃、通信設備の外観目視点検等が行われていることから、本件委託費は、本件賃貸事業に係る収入を継続的に得るためにも必要な費用であり、本件通達の(2)の共通費用に該当する。
  • (イ) 本件委託費について
     本件委託費は、仮に本件管理会社が本件マンションの屋上及び塔屋の設備等の外観目視点検等を行っているとしても、当該行為は本件各基地局の設置にかかわらず実施されるものであるから、本件賃貸事業及び本件賃貸事業に付随する行為から生じた費用であるとはいえない。
  • (ロ) 本件点検費について
     本件各基地局は本件マンションの電気設備により電力が供給されているところ、当該電気設備は本件点検費に係る保全及び点検の対象であって、その年2回の点検業務は、本件委託契約に基づき、本件管理会社により実施されているから、本件点検費は本件通達の(2)の共通費用に該当する。
  • (ロ) 本件点検費について
     本件点検費は、本件各基地局の設置にかかわらず実施される点検作業の対価であると認められることから、本件賃貸事業及び本件賃貸事業に付随する行為から生じた費用であるとはいえない。
  • (ハ) 本件火災保険料について
     本件火災保険料は、本件マンションの共用部分の一部である屋上、塔屋及び管理員室を含めた本件マンションの共用部分に対応するものであるから、本件通達の(2)の共通費用に該当する。
  • (ハ) 本件火災保険料について
     本件マンションの共用部分を対象として請求人が負担する本件火災保険料は、本件各基地局の設置にかかわらず請求人が負担することから、請求人が本件各基地局を原因とする損害が補償される保険料を負担する理由は認められない。
  • ロ 以上のとおり、本件各経費は、共通費用に該当し、本件通達の(2)を適用して収益事業に配賦される額を損金の額に算入すべきである。
     そして、本件通達の(2)の文理構成は、各基準を並列的に示しており、各基準に優劣はないところ、請求人は同通達に示す収入金額の比である本件収入割合によることを選択したものである。
     本件区分経理額は、本件通達の(2)に掲げられている「収入金額の比」を基準とし、本件各事業年度における本件収入割合が7%であることから、本件各経費の額に7%を乗じて計算した妥当な金額であり、損金に算入すべきである。
  • ロ 仮に、本件各経費が共通費用に該当するとしても、本件収入割合によるあん分方法は、以下のとおり本件通達に照らして合理的な方法ということができないから、本件区分経理額は、本件各事業年度の損金の額に算入されない。
  • (イ) 請求人は、本件区分経理額を算出して更正の請求を行っているところ、本件賃貸事業の収入の額が消費税率の変動を除き毎事業年度定額であるにもかかわらず、本件賃貸事業の収入の額の増減以外の理由により、対応する本件区分経理額が変動することは不合理である。
  • (ロ) 本件管理会社により本件各基地局の外観目視点検等が実施されているのであれば、本件管理会社における維持管理及び点検作業全体の作業時間のうち、外観目視点検等に係る作業時間等を基礎としたあん分割合により収益事業に配賦される費用の額を算出するなどの方法が合理的である。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(原処分に係る理由付記に、原処分を取り消すべき記載不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     行政手続法第8条第1項本文が、申請に対して拒否の処分をする場合は同時にその理由を申請者に示さなければならないとしているのは、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。
     このような理由の提示を求めた趣旨に鑑みれば、更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分に付すべき理由は、上記の趣旨を充足する程度に具体的な根拠を明らかにするものであることが必要であり、かつ、それで足りると解するのが相当である。
  • ロ 検討
     本件各通知処分は、本件各更正の請求に対して、原処分庁がした更正をすべき理由がない旨の通知処分であるから、行政手続法第8条第1項に規定する「申請により求められた許認可等を拒否する処分」に該当する。したがって、原処分庁は、同項の規定に基づき、請求人に対して本件各通知処分の理由を示さなければならない。
     これを本件についてみると、本件各通知書には、上記1の(4)のニの(イ)のとおり、法人税の更正の請求について、賃料収入は本件各経費の有無にかかわらず発生するものであり、また、本件各経費は本件各基地局の維持管理等を目的として支出されたものとは認められず、法人税法第22条第3項の規定により、本件区分経理額を損金の額に算入することはできない旨記載され、これを前提として、同(ロ)及び(ハ)のとおり、復興特別法人税及び地方法人税の更正の請求について、申告額が過大であるとは認められない旨、それぞれ記載されている。
     そうすると、本件各通知書に記載された理由には、国税通則法第23条《更正の請求》第1項に規定する更正の請求ができる場合に該当しないことについて、原処分庁の恣意の抑制と請求人の不服申立ての便宜という趣旨を充足する程度に具体的な根拠を明らかにしているといえるから、行政手続法第8条第1項の趣旨に照らし、法令の要求する理由の提示として欠けるものはないと認められる。
     したがって、原処分に係る理由付記に、原処分を取り消すべき記載不備はない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、原処分における理由付記には、処分の理由について、本件通達で定める共通費用としての計上が認められない理由が記載されていないので、適正な理由付記ではない旨主張する。
     しかしながら、本件各通知書には、本件区分経理額が損金の額に算入されない理由として、本件各通知処分の根拠となった事実及び法令並びに原処分庁の判断根拠が示されており、上記ロのとおり法令の要求する理由の提示として欠けるものはないから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件区分経理額は、本件各事業年度の損金の額に算入されるか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件委託費は、本件管理会社へ委託された本件マンションの管理に関する業務のうち、次の業務に要する費用である。
      • A 事務管理業務
         事務管理業務は、管理組合の会計の収入及び支出の調定並びに出納などの会計の管理に関する事務であり、具体的には、予算決算対比表(本件各賃料が含まれる。)などの作成のほか、本件各賃料を含めた出納の管理も含まれる。
      • B 管理員業務
         管理員の1日の勤務時間は8時30分から17時まで(12時から13時まで及び15時から15時30分までを除く。)で、休日及び休暇は、日曜日、祝日、国が定める休日及び原則として第一土曜日並びに夏季休暇2日及び年末年始休暇3日である。
         管理員業務の詳細を定めた管理員規約には、収益事業に関する具体的な業務を定めた記載はないものの、管理員は、管理員業務として1共用部分に係る鍵の管理、2建物、諸設備及び諸施設の外観目視点検並びに3検針報告などの業務を行っており、当該管理員業務には、本件賃貸事業の賃貸部分である屋上及び塔屋(以下「本件賃貸部分」という。)の外観目視点検や収益事業に係る電力量計の検針が含まれる。
         なお、管理員が行う本件賃貸部分の外観目視点検及び電力量計の検針は、いずれも毎月1回実施され、その結果が本件管理会社に報告されており、また、外観目視点検及び電力量計の検針にそれぞれ要する時間は、1階の管理員室から屋上の本件各基地局及び塔屋の内部を確認した上で往復するのに要する時間20分に書類の整理時間10分を考慮して、それぞれ30分が妥当であることから、1か月当たりの収益事業に係る従事時間は1時間となる。
    • (ロ) 本件点検費は、本件管理会社が外部業者へ発注して実施している設備点検の費用であり、本件各基地局に配電するために必要な電気設備が、点検の対象となっている。
    • (ハ) 本件保険料に係る保険契約は、本件マンションの共用部分を対象としており、請求人による一括契約方式により締結され、主な内容として、火災保険は火災により共用部分が消失した場合、地震保険は地震又は噴火などを原因とした火災又は損壊による共用部分の損害が生じた場合、その他特約はマンションの共用部分に起因する事故等により損害が生じた場合の損害賠償を保障している。
       なお、当該保険契約の締結及び保険料の支払状況は次のとおりである。
      • A 平成24年1月27日付保険契約
         請求人は、平成24年1月27日に本件マンションについて保険期間平成24年3月1日から平成25年3月1日までの保険契約を締結し、本件火災保険料227,630円、地震保険料181,420円及びその他特約保険料182,530円の合計591,580円を平成24年3月1日に一括で支払った。
      • B 平成25年1月10日付保険契約
         請求人は、平成25年1月10日に本件マンションについて保険期間平成25年3月1日から平成26年3月1日までの保険契約を締結し、本件火災保険料227,630円、地震保険料181,420円及びその他特約保険料182,530円の合計591,580円を平成25年3月1日に一括で支払った。
      • C 平成25年1月28日付保険契約
         請求人は、平成25年1月28日に本件マンションについて保険期間平成26年3月1日から平成31年3月1日までの5年間の保険契約を締結し、本件火災保険料924,140円、地震保険料806,600円及びその他特約保険料2,441,470円の合計4,172,210円を平成26年3月1日に一括で支払った。
         なお、当該保険料4,172,210円のうち、平成26年9月期に係る保険料は、平成26年3月1日から9月30日までの保険期間に係る486,758円、平成27年9月期に係る保険料は、平成26年10月1日から1年間の保険期間に係る834,442円である。
    • (二) 本件マンションの共用部分の床面積は1,649.38u、屋上の面積は712.85uであり、本件保険料に係る保険契約の対象となる全体面積は合計2,362.23uである。
       なお、屋上の面積のうち本件賃貸部分の面積は別表4の「合計面積」欄のとおり167.775uであり、また、1階の管理員室の床面積は47.35uである。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件各経費が共通費用に該当するか否かについて
       公益法人等は、収益事業を行う場合に限り、当該収益事業から生じた所得についてのみ法人税が課される(法人税法第4条第1項)ところ、公益法人等の当期の益金の額に算入されるのは、収益事業及びその付随行為から生じた収益に限られるのであるから、当期の損金の額に算入される費用も、収益事業及びその付随行為から生じた費用に限られる。
       そして、本件委託費を対価として本件管理会社が行う本件マンションの管理に関する業務は、上記イの(イ)のとおり、本件各賃料を含む事務管理業務並びに本件賃貸部分の外観目視点検及び収益事業に係る電力量計の検針を含む管理員業務であるから、本件委託費は、共通費用に該当すると認められる。
       次に、本件点検費に係る設備点検は、上記1の(3)のヘのとおり、本件各基地局に電力を供給するために必要な電気設備を対象として実施されるものであり、本件賃貸事業に必要な点検であると認められることから、本件点検費は、共通費用に該当すると認められる。
       また、本件保険料は、共用部分を対象とする保険に係るものであり、その対象部分に本件賃貸部分が含まれていることから、本件火災保険料は、共通費用に該当すると認められる。
       以上のとおり、本件各経費は、いずれも共通費用に該当すると認められる。
       さらに、上記イの(ハ)の地震保険料及びその他特約保険料も本件火災保険料と同様の理由から、共通費用に該当すると認められる(以下、本件各経費には、当該地震保険料及びその他特約保険料を含むものとする。)。
    • (ロ) 本件各経費の合理的な配賦について
       共通費用については、常に一律の基準で配賦するのではなく、個々の費用の性質及び内容などに応じた合理的な基準により、それぞれ収益事業と収益事業以外の事業に配賦するのが相当である。
       この場合の費用の区分経理については、本件通達の(1)で、収益事業に直接要したものについてはその収益事業の固有の費用とし、また同(2)で、共通費用については、合理的な基準によりそれぞれの事業に配賦することとして、区分経理の基準を明らかにしており、本件通達の取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
       そして、本件各経費については、次のとおり、A 建物全体の維持管理に要する費用で当該維持管理の業務に従事する者の全体の従事時間のうち、本件賃貸事業に関係がある業務に従事した時間に応じて収益事業に配賦するのが合理的と認められる費用、B 建物の共用部分の維持管理に要する費用で共用部分の全体面積のうち、収益事業に対応する面積(以下「収益事業対応面積」という。)に応じて収益事業に配賦するのが合理的と認められる費用、C 従事者の従事時間や対象物の面積等の基準によって、収益事業と収益事業以外の事業に明確にあん分することができない費用に分類することができるから、以下、これらの分類に応じて収益事業に係る本件各経費の合理的な配賦方法を検討する。
      • A 本件管理員業務費は、管理員が一定の時間を業務に従事したことに対する対価としての性質を有することからすれば、本件管理員業務費のうち、管理員が本件賃貸事業と関係がある業務に従事した時間に対応する費用の額は、請求人が、収益事業に係る収入を得るために、費用の支出を要したものということができる。
         したがって、本件管理員業務費については、本件委託契約における管理員の本件各事業年度の全体の従事時間のうち、管理員が本件賃貸部分の外観目視点検及び電力量計の検針に要した時間の占める割合(以下「管理員従事時間あん分割合」という。)により収益事業に配賦する方法が、収益と費用の対応関係をより具体的に明らかにすることができ、合理的であると認められる。
      • B 本件保険料については、保険金額が建物の面積を基準として算出されることから、保険料も面積を基準としてあん分するのが相当であり、本件保険料に係る保険契約の対象となる共用部分の全体面積のうち、1本件賃貸部分の面積に、2管理員室の面積に管理員従事時間あん分割合を乗じて算出した面積を加えた、収益事業対応面積の占める割合(以下「共用面積あん分割合」という。)により収益事業に配賦する方法が、収益と費用の対応関係をより具体的に明らかにすることができ、合理的であると認められる。
      • C 本件委託費のうち本件管理員業務費以外の費用及び本件点検費については、上記(イ)のとおり共通費用とは認められるものの、その費用の性質及び内容などに応じて従事者の従事時間や対象物の面積等の基準によって、収益事業と収益事業以外の事業に明確にあん分することができなかった。
         そして、これらの費用について、請求人は本件収入割合によってあん分しているところ、当該費用は、収入の多寡に応じて変動するものとはいえないものの、本件収入割合によるあん分は、一般的な合理性を有するあん分方法の一つであり、本件において当該費用についてのあん分方法として著しく不合理とまではいえない。
         したがって、これらの費用については、本件収入割合によるあん分も妥当するものと認められる。
         上記AないしCの分類に応じて、本件各経費をそれぞれの費用の性質及び内容などに応じて収益事業にあん分する割合は、別表5のとおりとなり、また、本件各経費に当該割合を乗じて本件各事業年度の収益事業に係る費用として損金の額に算入すべき金額を算出すると、別表6の「収益事業に係る費用の額」の各「合計」欄のとおりとなる。
  • ハ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、1本件委託費について、本件管理会社が行う本件マンションの屋上及び塔屋の設備等の外観目視点検等は本件管理会社が本件マンションの維持管理のために行っている行為で本件各基地局の設置にかかわらず実施されるものであること、2本件点検費についても、本件各基地局の設置にかかわらず実施される点検作業であることから、本件委託費及び本件点検費は、本件賃貸事業及び本件賃貸事業に付随する行為から生じた費用であるとはいえず、3また、本件火災保険料は、本件各基地局の設置にかかわらず本件マンションの共用部分を対象としている保険契約に係る保険料であることから、請求人が本件各基地局に係る保険料を負担する理由は認められない旨主張する。
       しかしながら、請求人は、本件PHS会社及び本件携帯電話会社に対して、本件各基地局の設置場所を提供するに当たり、当該設置場所を賃貸人の義務として維持管理しなければならないのであり、本件委託費及び本件点検費は、その維持管理の業務を行う本件管理会社への対価であるから、収益事業と収益事業以外の事業の両方について生じた費用であると認められ、また、本件保険料は、保険契約の対象に本件賃貸部分が含まれていることから、本件建物の共用部分のうち、本件賃貸部分の維持管理にも必要な保険に係る費用であると認められる。
       したがって、原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) また、原処分庁は、請求人が主張するあん分割合について、本件賃貸事業の収入の額が消費税率の変動を除き毎事業年度定額であるにもかかわらず、本件賃貸事業の収入の額の増減以外の理由により、対応する費用の額が変動することは不合理であり、本件管理会社により本件各基地局の外観目視点検等が実施されているのであれば、本件管理会社における維持管理及び点検作業全体の作業時間のうち、外観目視点検等に係る作業時間等を基礎としたあん分割合により収益事業に配賦される費用の額を算出するなどの方法が合理的である旨主張する。
       しかしながら、本件委託費のうち本件管理員業務費以外の費用及び本件点検費は、上記ロの(ロ)のCのとおり、本件収入割合より合理的な配賦の基準を見いだすことができなかった。
       したがって、原処分庁の主張には理由がない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、本件区分経理額の算出に当たっては、本件通達の(2)の文理構成が、各基準を並列的に示しており、本件では、本件収入割合によることが妥当である旨主張する。
     しかしながら、本件区分経理額の算出に当たっては、常に一律の基準で配賦するのではなく、個々の費用の性質及び内容などに応じた合理的な基準により、それぞれ収益事業と収益事業以外の事業に配賦するのが相当である。
     したがって、上記ロの(ロ)のとおり、本件管理員業務費については、管理員従事時間あん分割合により、また、本件保険料については、共用面積あん分割合により収益事業に配賦するのが合理的であるから、本件管理員業務費及び本件保険料については、請求人の主張を採用することはできない。

(3) 本件各通知処分の適法性について

以上によれば、請求人の本件各事業年度における法人税の所得の金額の計算上、損金の額に算入すべき金額は、別表6の「収益事業に係る費用の額」の各「合計」欄のとおりであることから、法人税の所得金額及び納付すべき税額は、別表7の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、これらの金額はいずれも確定申告の金額を下回る。
 また、請求人の本件各課税事業年度の復興特別法人税の納付すべき税額及び平成27年9月課税事業年度の地方法人税の納付すべき税額は、別表8及び別表9の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、これらの金額はいずれも申告及び確定申告の金額を下回る。
 なお、本件各通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各通知処分は別紙1ないし別紙7の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件各通知処分は、その一部を取り消すべきであり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する事情は認められない。
 以上に基づき、当審判所が認定した無申告加算税の額は、別表7の「無申告加算税の額」欄のとおりとなり、これらの金額はいずれも本件各賦課決定処分の金額を下回ることとなる。
 したがって、本件各賦課決定処分は、別紙1ないし別紙4の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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