(平成31年2月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人A、同B及び同D(以下、順に「請求人A」、「請求人B」及び「請求人D」といい、これらを併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した家屋及びその敷地について、不動産鑑定士による鑑定評価額等に基づき相続税の申告をしたところ、原処分庁が、相続財産の価額は、財産評価基本通達に基づく評価額によることが相当であるなどとして、相続税の更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、当該評価額は時価を上回る違法があるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 相続税法
     相続税法第22条《評価の原則》は、相続等により取得した財産の価額は、同法第3章《財産の評価》で特別の定めのあるものを除くほか、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
  • ロ 財産評価基本通達
    • (イ) 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)1《評価の原則》の(2)は、財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続等により財産を取得した日をいう。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価通達の定めによって評価した価額による旨定めている。
       また、評価通達1の(3)は、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する旨定めている。
    • (ロ) 評価通達89《家屋の評価》は、家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条《固定資産課税台帳の登録事項》(平成29年法律第2号による改正前のもの。)の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下同じ。)に1.0を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
  • ハ 固定資産評価基準
    • (イ) 固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(昭和38年自治省告示第158号。ただし、平成28年総務省告示第145号による改正前のもの。以下「固定資産評価基準」という。)第2章《家屋》第1節《通則》の一《家屋の評価》は、家屋の評価は、木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」という。)の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法による旨定めている。
    • (ロ) 固定資産評価基準第2章第3節《非木造家屋》の一《評点数の算出方法》の1は、非木造家屋の評点数は、当該非木造家屋の再建築費評点数を基礎として、これに損耗の状況による減点補正率を乗じて付設するものとし、再建築費評点数に経過年数に応ずる減点補正率を乗じて求める方法によるものとする旨、ただし、需給事情による減点を行う必要があると認めるときは、上記方法によって求めた評点数に需給事情による減点補正率を乗じて求めるものとする旨定めている。
    • (ハ) 固定資産評価基準第2章第3節の五《損耗の状況による減点補正率の算出方法》の1は、経過年数に応ずる減点補正率(以下「経年減点補正率」という。)は、家屋を通常の維持管理を行うものとした場合において、その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として定めたものとする旨定めている。
    • (二) 固定資産評価基準第2章第3節の六《需給事情による減点補正率の算出方法》は、需給事情による減点補正率は、建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等について、その減少する価額の範囲において求めるものとする旨定めている。
    • (ホ) 固定資産評価基準第2章第4節《経過措置》の三は、在来分の家屋の評価額については、改築等がない場合は、同章第1節から第4節の二までによって求めた家屋の価額と前年度の家屋課税台帳又は家屋補充課税台帳に価格として登録された価額のいずれか低い価額とする旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人A及び請求人Dは、平成27年12月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したE(以下「本件被相続人」といい、本件被相続人の死亡により開始した相続を「本件相続」という。)の子であり、請求人Bは、本件被相続人の妻である。そして、本件相続に係る共同相続人は、請求人らの3名である。
  • ロ 本件相続に係る相続財産のうち、別表1−1の順号1ないし6の各土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地上に建築された別表1−2の建物(以下「本件家屋」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)については、平成28年9月23日、請求人らの間で本件相続に係る遺産分割協議が成立し、請求人Aが本件土地の本件被相続人の持分(2分の1)及び本件家屋(持分2分の1)を、また、請求人Bが本件家屋(持分2分の1)をそれぞれ取得した。
  • ハ 本件家屋は、昭和45年5月10日に建築された鉄骨・鉄筋コンクリート造地下1階付8階建の店舗・○○・居宅(延床面積1,967.45u)であり、本件家屋の状況等は、次のとおりである。
    • (イ) 本件家屋の地下1階及び1階部分は、本件相続開始日において、貸店舗として利用されていた。
       なお、本件被相続人は、本件家屋の地下1階部分についてはHと、また、1階部分についてはJ社とそれぞれ賃貸借契約を締結しており、本件相続開始日において、賃料は月額合計510,000円であった。
    • (ロ) 本件家屋の2階ないし4階部分は、平成18年まで○○として利用されていたが、本件相続開始日において何らの利用もされていなかった。
    • (ハ) 本件家屋の5階部分は、昭和60年頃までK教室として利用されていたが、本件相続開始日において何らの利用もされていなかった。
    • (二) 本件家屋の6階部分は、本件相続開始日において、本件被相続人及び請求人Bの居宅として利用されていた。
    • (ホ) 本件家屋の7階及び8階部分は、本件相続開始日において、電気設備等の機械室であった。
  • ニ 本件土地は、評価通達14《路線価》に定める路線価に基づき評価する地域内の評価通達14−2《地区》に定める○○地区に所在しており、本件土地の所在地の評価通達27《借地権の評価》に定める借地権割合は60%、評価通達94《借家権の評価》の(1)に定める借家権割合は30%である。
  • ホ 請求人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に別表2の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
  • ヘ 請求人らは、本件相続税の申告において、本件不動産の価額は、M不動産鑑定事務所の代表取締役であるL不動産鑑定士が作成した鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)に基づく鑑定評価額(以下「本件鑑定評価額」という。)であるとして、本件家屋の解体除去を前提とし、その価額を考慮せず、本件土地の価額を15,656,000円(更地価格を85,656,000円とした上で、当該更地価格から本件家屋の解体除去費用として70,000,000円を差し引いた額)とした。
     なお、本件鑑定評価書の要旨は別紙4のとおりである。
  • ト 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成30年1月15日付で、請求人らに対し、本件相続税について、別表2の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下、順に「本件A更正処分」、「本件D更正処分」及び「本件B更正処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、順に「本件A賦課決定処分」及び「本件D賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • チ 請求人らは、平成30年3月1日、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に不服があるとしてそれぞれ審査請求をし、同日、請求人Aを総代として選任し、その旨を当審判所に届け出た。

2 請求人Bの審査請求の適法性について

国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定しており、処分が審査請求人にとって不利益なものでなければ当該処分の取消しを求める審査請求の利益がないことになるところ、相続税の更正処分が不利益処分に当たるか否かは、当該更正処分により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきこととなる。
 この点、請求人Bが取消しを求めている本件B更正処分については、課税価格の合計額を増加させるものではあるが、別表2の請求人Bの「納付すべき税額」欄のとおり、納付すべき税額に変動はなく、請求人Bにとって不利益なものとはいえない。
 したがって、本件B更正処分の取消しを求める審査請求は、通則法第92条《審理手続を経ないでする却下裁決》第2項に規定する審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかなものに該当することから、却下すべきである。

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3 争点

評価通達の定めにより評価した本件不動産の価額は、時価を上回る違法があるか否か。

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4 争点についての主張

原処分庁 請求人ら
  • (1) 本件家屋について
  • (1) 本件家屋について
  • イ 評価通達では、家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額を基礎として計算した金額によって評価する旨定められているところ、本件家屋の固定資産税評価額については、固定資産評価基準の定めに基づき、再建築費評点数を基準として、これに家屋の損耗の状況による補正等を行って評価する方法により適正に算定されており、本件家屋の価額の算定過程に不合理な点は認められない。
     また、本件家屋の固定資産税評価額は、本件家屋が新築後45年経過していることに伴う経年減点補正率を乗じて算出され、この経年減点補正率が、時の経過による減価や維持管理の劣化についても考慮したものであることからすれば、本件家屋の老朽化や維持管理の劣化等についても同補正率に加味されている。
  • イ 本件家屋の固定資産税評価額は、本件家屋の未償却残高と大きな乖離があり、平成6年度から本件相続開始日まで据え置かれ、その間の減価が全く反映されておらず、一般常識からかけ離れた評価がされている。
  • ロ 本件家屋は、本件相続開始日において、その一部が貸店舗や本件被相続人等の居宅として利用されており、耐用年数が未経過であることに加え、原処分に係る調査担当職員が行った本件家屋の現地確認によっても建物内外において建築後の経年によることを超えて著しく老朽化又は損耗している事実は認められない。
     したがって、本件家屋を解体除去することを前提とする本件鑑定評価書に合理性はない。
  • ロ 本件家屋は、12階から4階までが○○という特殊な構造で、再利用が困難な建物であり、2○○が一つの構造で○○が複数ある最近の様式ではない上、F市G通りにおいて○○として再利用するとしても採算が取れず、3本件家屋に使用されているアスベストの除去並びに○○で使用していた有害物質(PCB)を含んだ大型電気機器の撤去及び処理が必要となる。
     また、本件家屋は、2階より上階は居宅として利用せざるを得ない状況であるため、修繕や小型の電気機器を撤去しながら経済性を考慮しないで使用しているのが現状であるから、経済的な観点から再利用価値があるとはいえない。
     そして、本件鑑定評価額と評価通達の定めに従って評価した価額とに著しい乖離が存在する。
     したがって、本件家屋を解体除去することを前提とする本件鑑定評価書に合理性はある。
  • ハ 以上のとおり、本件家屋の固定資産税評価額は適正に算定されており、本件鑑定評価書に合理性はないから、本件家屋の価額は、評価通達の定めに従って評価した価額によるべきである。
  • ハ 以上のとおり、本件家屋の固定資産税評価額は正しく評価されたものではなく、本件鑑定評価書に合理性はあるから、本件家屋の価額は、本件鑑定評価額によるべきである。
  • (2) 本件土地について
     上記(1)のロのとおり、本件家屋は、本件相続開始日において、貸店舗や本件被相続人等の居宅として利用され、相応の価額を有していた状況にあって、本件家屋を解体除去することを前提に、その費用を本件土地の価額に反映させるべき事情は見当たらない。
     したがって、本件鑑定評価書に合理性はないから、本件土地の価額は、評価通達の定めに従って評価した価額によるべきである。
  • (2) 本件土地について
     上記(1)のロのとおり、本件家屋は、特殊な用途の建物であることや法的に処理しなければならない有害物質を含んだ再利用価値のない建物であり、本件不動産の価格形成の際の阻害要因にしかならないことから、本件家屋の解体除去費用が本件土地の価額に食い込むことも十分あり得る。
     また、本件鑑定評価額が本件家屋を解体除去することを前提とするものであっても、本件鑑定評価書の評価手法に誤りはない。
     したがって、本件鑑定評価書に合理性はあり、本件土地の価額は、本件鑑定評価書に基づき更地価格から本件家屋の解体除去費用を差し引いた額とすべきである。
  • (3) 本件不動産の価額について
     上記(1)及び(2)のとおり、評価通達の定めに従って評価した本件不動産の価額(本件家屋は○○○○円、本件土地については52,754,619円のうち、本件被相続人の持分(2分の1)26,377,309円)は、客観的交換価値を適正に評価したものと推認されるから、時価を上回る違法がない。
  • (3) 本件不動産の価額について
     上記(1)及び(2)のとおり、本件鑑定評価書に基づいた本件不動産の価額(本件家屋は零円、本件土地については15,656,000円のうち、本件被相続人の持分(2分の1)7,828,000円)は、客観的交換価値を適正に評価したものと認められるから、評価通達の定めに従って評価した本件不動産の価額は、時価を上回る違法がある。

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5 当審判所の判断

(1) 法令解釈等

  • イ 相続税法第22条にいう時価及び評価通達について
     相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。しかし、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、相続税等に係る課税実務上は、従来から、国税庁において、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から、評価通達を定め、各税務署長が、評価通達に定められた評価方法に従って統一的に相続財産の評価を行ってきたところであり、このような評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、その結果、評価通達は、単に課税庁の内部における課税処分に係る行為準則であるというにとどまらず、一般の納税者にとっても、相続税等の納税申告における財産評価について準拠すべき指針として通用してきているところである。
     そして、評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められていることなどからすれば、相続税に係る課税処分の審査請求において、原処分庁が、当該課税処分における課税価格ないし税額の算定が評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価してしたものであることを、評価通達の定めに即して主張・立証した場合には、その課税処分における相続財産の価額は「時価」すなわち客観的交換価値を適正に評価したものと事実上推認することができるというべきである。
     したがって、このような場合には、審査請求人において、評価通達の定めに従ってしたという原処分庁の財産評価の基礎となる事実関係に認定の誤りがある等、その評価方法に基づく相続財産の価額の算定過程自体に不合理な点があることを具体的に指摘して、上記推認を妨げ、あるいは、不動産鑑定士による合理性を有する不動産鑑定評価等の証拠資料に基づいて、評価通達の定めに従った評価が、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の「時価」を適切に反映したものではなく、客観的交換価値を上回るものであることを主張立証するなどして上記推認を覆すことなどがない限り、当該課税処分は適法であると認められることになる。
  • ロ 家屋の評価について
     評価通達89は、家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている(上記1の(2)のロの(ロ))。
     ところで、上記の家屋の固定資産税評価額である地方税法第381条第3項の規定により家屋課税台帳に登録された家屋の基準年度の価格又は比準価格とは、同法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第5号に規定する適正な時価をいうところ、同法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項は、総務大臣は、固定資産評価基準を定め、これを告示しなければならない旨、また、同法第403条《固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員の任務》第1項は、市町村長は、一定の場合を除くほか、固定資産評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならない旨、それぞれ規定している。
     そして、固定資産評価基準は、家屋の評価について、木造家屋及び非木造家屋の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとし(上記1の(2)のハの(イ))、また、非木造家屋の評点数は、当該非木造家屋の再建築費評点数を基礎として、これに損耗の状況による減点補正率を乗じて付設するものとし、再建築費評点数に経年減点補正率等を乗じて求める方法によるものとする(上記1の(2)のハの(ロ))などの評価方法を定めている。
     すなわち、上記の評価方法は、再建築費(評価の対象となった家屋と全く同一のものを、評価の時点にその場所に建築するとした場合に必要とされる建築費のことで、再建築費評点数に評点1点当たりの価額を乗じたものがこれに相当する。)を求め、当該家屋の時の経過によって生ずる損耗の状況による減価等をするというものであり、かかる評価方法は一般的な合理性を肯定することができるものである。
     そうすると、市町村長が固定資産評価基準に従って決定した家屋の固定資産税評価額は、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り、当該家屋の適正な時価と推認するのが相当である(最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決・集民210号283頁参照)。
     以上のことからすると、適正な時価であると推認された家屋の固定資産税評価額に依拠して評価する評価通達89は、当審判所においても相当と認める。

(2) 認定事実

請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ F市長は、本件家屋の平成27年度の固定資産税評価額について、上記1の(2)のハの(イ)ないし(ホ)に則り、再建築費評点数(277,855,768点)に経年減点補正率0.3316(住宅、アパート用建物で経過年数45年)を乗じて算定した評点数(92,136,972点)に、評点1点当たりの価額1.10円を乗じて算定した価額(101,350,669円)が、平成26年度の固定資産税評価額(○○○○円)を上回ったため、平成26年度の固定資産税評価額と同額の○○○○円と決定し、固定資産課税台帳に登録の上、平成27年4月、本件被相続人に対し、課税及び資産の明細を通知した。
  • ロ 請求人A及び請求人Bは、平成30年4月、F市に対し、本件不動産の固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)について見直しを求めたところ、F市長は、固定資産税等の算定過程に誤りがあったとして、同年7月10日付で、請求人Aに対し、地方税法に基づき平成26年度以降の固定資産税等の修正を行った旨の通知をした。
     なお、本件相続開始日までの年度(平成26年度及び平成27年度)の固定資産税等に係る通知の内容は、要旨次のとおりである。
    • (イ) 本件家屋について
       本件家屋の用途変更(○○から併用住宅に変更)により、平成27年度の固定資産税評価額を○○○○円と決定(修正)した。その結果、平成27年度の固定資産税等について、還付金○○○○円(以下「本件還付金」という。)が発生した。
       なお、上記の決定(修正)に当たって、非木造家屋の評点数につき需給事情による減点は行っていなかった。
    • (ロ) 本件土地について
       本件土地の用地区分の修正により、平成26年度及び平成27年度の固定資産税等について、納付すべき税額合計○○○○円(以下「本件納付金」という。)が発生した。

(3) 検討

  • イ 上記(1)のイのとおり、評価通達に基づいて評価した本件不動産の価額は、本件相続開始日における「時価」すなわち客観的交換価値を適正に評価したものと事実上推認することができる。
  • ロ これに対し、請求人らは、合理性のある本件鑑定評価書に基づく本件鑑定評価額が本件相続開始日における本件不動産の時価であり、評価通達の定めに従って評価した本件不動産の価額は、時価を上回る違法がある旨主張することから、本件鑑定評価書が合理性を有し、請求人らの主張立証によって上記イの推認を覆すことになるか否かについて、以下検討する。
    • (イ) 本件鑑定評価書の合理性について
       本件鑑定評価書においては、別紙4の4の(1)のロの(ロ)のとおり、本件不動産の最有効使用の判定に当たって、本件家屋は、大改修を行っても収益性回復は困難であり、機能的、経済的観点から市場性が全く認められないため、解体除去が必要であると判断している。
       しかしながら、上記1の(3)のハの(イ)及び(二)のとおり、本件家屋の地下1階及び1階部分は貸店舗として、本件家屋の6階部分は本件被相続人及び請求人Bの居宅として利用されていたことからすると、本件相続開始日において、本件家屋の○○以外の部分の多くが現に利用されていたことは明らかであるから、本件家屋のうち少なくとも賃貸用及び居住用に供されている部分については、相応の経済価値があったと認められる。
       そうすると、本件鑑定評価書においては、本件不動産の最有効使用のためには本件家屋の解体除去が必要であると判断しているが、不動産鑑定評価基準(平成14年7月3日付国土交通事務次官通知)の総論第6章《地域分析及び個別分析》第2節《個別分析》のU《個別分析の適用》の2《最有効使用の判定上の留意点》の(7)に定めるところの現実の本件家屋の用途等を継続する場合の経済価値と本件家屋を解体除去した場合の解体除去費用等を適切に勘案した経済価値との十分な比較考量がされているとは認め難く、本件不動産の最有効使用は鉄骨造2階建店舗・事務所及びその敷地であるとの判断に至った具体的根拠も示されていない。
       したがって、本件鑑定評価書における本件不動産の最有効使用の判定は、直ちに合理性を有するものとは認められないから、本件不動産の最有効使用のためには本件家屋の解体除去が必要であると判断した本件鑑定評価書に合理性があるとは認めるに足りない。
    • (ロ) 本件鑑定評価額の時価としての相当性について
       本件鑑定評価書においては、別紙4の4の(2)のとおり、本件土地の更地価格から本件家屋の解体除去費用を控除して本件鑑定評価額を決定している。
       しかしながら、上記(イ)のとおり、本件不動産の最有効使用のためには本件家屋の解体除去が必要であると判断した本件鑑定評価書に合理性があるとは認めるに足りない。
       したがって、本件土地の更地価格から本件家屋の解体除去費用を控除した本件鑑定評価額は、本件不動産の時価を適正に評価したものであるとは認め難い。
    • (ハ) 小括
       以上のとおり、本件家屋の解体除去を前提とした本件鑑定評価書に合理性があるとは認めるに足りず、本件鑑定評価額は本件不動産の時価を適正に評価したものであるとは認め難いことからすると、請求人らにおいて、本件鑑定評価書に基づき、評価通達の定めに従った評価が本件不動産の「時価」を適切に反映したものではなく、客観的交換価値を上回るものであることの立証がされたとは認められない。
       したがって、本件鑑定評価書に基づく請求人らの主張立証によって、評価通達の定めに従って評価した本件不動産の価額が時価であるとの事実上の推認を覆すには至らない。
  • ハ また、上記(1)のロのとおり、市町村長が固定資産評価基準に従って決定した家屋の固定資産税評価額は、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り、当該家屋の適正な時価と推認されることとなる。
  • ニ これに対し、請求人らは、本件家屋の固定資産税評価額は、一般常識からかけ離れたものであるなどと主張することから、本件家屋の時価を算定するに当たり、請求人らがその主張において具体的に指摘する点が、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情に当たるか否かについて、以下検討する。
    • (イ) 上記4の「請求人ら」欄の(1)のイについて
       請求人らは、本件家屋の固定資産税評価額は、平成6年度から本件相続開始日まで据え置かれ、その間の減価が全く反映されておらず、一般常識からかけ離れた評価がされている旨主張する。
       しかしながら、非木造家屋の固定資産税評価額は、上記1の(2)のハのとおり、固定資産評価基準の定めに基づき、再建築費評点数を基礎として、これに損耗の状況による減点補正率等を乗じて求めた評点数に評点1点当たりの価額を乗じて求める方法により決定されるところ、上記(2)のロにおいてF市長が固定資産税評価基準に従って決定(修正)した本件家屋の平成27年度の固定資産税評価額は、当該方法により適切に決定(修正)されており、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件家屋について経年減点補正率によることができない損耗が生じているとは認められず、当該価額の算定過程に不合理な点があるとは認められない。
       したがって、本件家屋について、請求人らが主張するような、固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情は認められない。
    • (ロ) 上記4の「請求人ら」欄の(1)のロについて
       請求人らは、本件鑑定評価書に基づいて、本件家屋は、1○○という特殊な構造で再利用が困難な建物であり、2一般的な○○としての転用も含めて採算が取れず、3アスベストの除去及び大型の電気機器の撤去及び処理が必要である旨、また、本件家屋は、42階より上階は居宅として利用せざるを得ないため、現状、経済性を考慮しないで使用していることから、再利用価値があるとはいえない旨主張する。
       しかしながら、当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件家屋の○○部分は、再利用のための投下費用などを織り込んだ形で賃料を低くして賃貸用に供することなどにより、一定の価値を生み出す可能性も考えられるため、再利用が困難であるとは言い切れない上、本件鑑定評価書には○○以外への用途の転用の可否を具体的に検討した記載はなく、○○以外への転用を否定する根拠は乏しいこと、また、上記(2)のロのとおり、請求人A及び請求人Bの申出によりF市長によって行われた本件不動産の固定資産税等の見直しにおいても需給事情による減点を行っていなかったことからすれば、本件鑑定評価書によって直ちに上記1及び2の事情を認めることは困難である。さらに、上記3の事情については、アスベストの除去時あるいは大型の電気機器の撤去及び処理時に、それに係る費用を増加させるものではあるものの、本件相続開始日において、これらの除去等に係る作業が行われていた事実も認められず、また、当該事情は本件家屋の利用自体を妨げるものではないと認められる。
       そして、上記ロの(イ)のとおり、現に本件家屋の一部が賃貸用及び居住用として利用されていたことからすれば、本件家屋の○○部分に係る事情のみをもって本件家屋全体の経済価値がないものとは認め難く、むしろ本件家屋には相応の経済価値が認められる。
       したがって、上記1ないし4の各事情については、これらが具体的に本件家屋の価額に影響することを認めるに足りないから、本件家屋の時価を算定するに当たり、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情とは認められない。
    • (ハ) 小括
       以上のとおり、請求人らの主張において、本件家屋の時価を算定するに当たり、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情は認められず、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件家屋について、当該特別の事情は認められない。
  • ホ まとめ
     上記ロの(ハ)のとおり、本件家屋の解体除去を前提とした本件鑑定評価書に基づく請求人らの主張立証によって、評価通達の定めに従って評価した本件不動産の価額が時価であるとの事実上の推認を覆すには至らないものと認められる。
     また、上記ニの(ハ)のとおり、本件家屋について、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情があるとは認められないことから、固定資産評価基準に従って決定した本件家屋の固定資産税評価額が適正な時価であると推認される。
     したがって、評価通達の定めに従って評価した本件不動産の価額は、相続税法第22条に規定する時価として相当なものであるというべきである。

(4) 請求人らの主張について

  • イ 請求人らは、上記4の「請求人ら」欄の(1)のロのとおり、本件家屋は、本件鑑定評価額と評価通達の定めに従って評価した価額とに著しい乖離が存在する旨主張する。
     しかしながら、上記(3)のロの(イ)のとおり、本件鑑定評価書における本件不動産の最有効使用の判定は、直ちに合理性を有するものとは認められず、また、上記(3)のホのとおり、本件家屋の価額は、評価通達89の定めに従って評価した価額が、相続税法第22条に規定する時価として相当なものであるというべきである。
     したがって、請求人らの主張は採用できない。
  • ロ 請求人らは、上記4の「請求人ら」欄の(2)のとおり、本件家屋を解体除去すべき諸事情(同欄の(1)のロの1ないし3)は本件不動産の価格形成の際の阻害要因にしかならないことから、本件家屋の解体除去費用が本件土地の価額に食い込むことも十分あり得るし、本件鑑定評価書の評価手法に誤りはない旨主張する。
     しかしながら、上記(3)のロの(ロ)のとおり、本件土地の更地価格から本件家屋の解体除去費用を控除した本件鑑定評価額は、本件不動産の時価を適正に評価したものであるとは認め難い。
     したがって、請求人らの主張には理由がない。

(5) 本件不動産の価額について

当審判所において、評価通達の定めに従って本件不動産の価額等を算定すると、次のとおりである。

  • イ 本件家屋の価額について
    原処分庁が本件家屋の価額を算定する際に基にした平成27年度の固定資産税評価額については、上記(2)のロの(イ)のとおり○○○○円から○○○○円に修正されたことから、当該修正後の固定資産税評価額を基に本件家屋の価額を算定すると、別表3の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円となる。
  • ロ 本件土地の価額について
     原処分庁が本件土地の価額を算定する際に行った端数計算を補正して本件土地の本件被相続人の持分(2分の1)の価額を算定すると、別表4の「審判所認定額」欄のとおり26,377,372円となる。

(6) 固定資産税等の修正に伴う本件還付金及び本件納付金に係る本件相続税の取扱いについて

  • イ 本件還付金○○○○円については、本件被相続人が死亡した時点において受領する権利を有していたと解され、本件還付金を受領する権利は本件被相続人の相続財産を構成するものと認められる。
  • ロ 本件納付金○○○○円のうち、本件被相続人の持分(2分の1)に相当する○○○○円については、本件被相続人の債務となり、相続人に承継されるから、相続財産の価額より控除すべき債務になるものと認められる。

(7) 本件A更正処分及び本件D更正処分の適法性について

上記(5)及び(6)に基づき、本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、請求人A及び請求人Dの納付すべき税額は、本件A更正処分及び本件D更正処分の税額をいずれも下回ることから、本件A更正処分及び本件D更正処分は、いずれもその一部を別紙2及び別紙3のとおり取り消すべきである。
 なお、本件A更正処分及び本件D更正処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(8) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(7)のとおり、本件A更正処分及び本件D更正処分の一部が取り消されることに伴い、請求人Aの過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円、請求人Dの過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円となる。
 また、この税額の計算の基礎となった事実が、本件A更正処分及び本件D更正処分の処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の額を計算すると、本件A賦課決定処分及び本件D賦課決定処分の額をいずれも下回ることから、本件A賦課決定処分及び本件D賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙2及び別紙3のとおり取り消すべきである。
 なお、本件各賦課決定処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

6 結論

以上のとおり、請求人Bの審査請求は不適法なものであるからこれを却下し、請求人A及び請求人Dの各審査請求には理由があるから、いずれも原処分の一部を取り消すこととする。

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