(平成31年2月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、売買により取得した建物の所有権移転登記の申請に際して納付した登録免許税について、当該建物の固定資産課税台帳の価格には、取得日前に発生した著しい損耗が反映されておらず、これを基に納付した登録免許税の額が過大であったとして、過誤納を理由に原処分庁に対し還付通知をすべき旨の請求をしたところ、原処分庁が還付通知をすべき理由がない旨の通知処分をしたのに対して、請求人が同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項は、不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額による旨規定している。
  • ロ 登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第1項第3号は、登記機関は、登記を受けた者が過大に登録免許税を納付して登記を受けたときは、遅滞なく、登記を受けた者の当該登録免許税に係る納税地の所轄税務署長に、当該過大に納付された登録免許税の額等を通知しなければならない旨規定している。
     また、登録免許税法第31条第2項は、登記を受けた者は、当該登記の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、当該登記を受けた日から5年を経過する日までに、その旨を登記機関に申し出て、同条第1項の通知をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
  • ハ 登録免許税法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、不動産の登記の場合における同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在において地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に掲げる固定資産課税台帳に登録された当該不動産の価格(以下「台帳価格」という。)を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定している。
  • 二 登録免許税法施行令附則第3項第2号は、登録免許税法附則第7条に規定する政令で定める価額は、台帳価格のある不動産については、登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在における台帳価格に100分の100を乗じて計算した金額とする旨規定している。
  • ホ 登録免許税法施行令附則第4項は、登記の目的となる不動産について、台帳価格が付された後に増築、改築、損壊、地目の変換その他これらに類する特別の事情があるため、登記官が台帳価格から計算した金額に相当する価額を課税標準の額とすることを適当でないと認めるときは、当該台帳価格から計算した金額を基礎とし、当該事情を考慮して当該登記官が認定した価額を不動産の課税標準の額とする旨規定している。
  • ヘ 地方税法第341条第5号は、価格とは、適正な時価をいう旨、同条第9号は、固定資産課税台帳とは、土地課税台帳、土地補充課税台帳、家屋課税台帳、家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳を総称する旨規定している。
  • ト 地方税法第349条《土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準》第1項は、家屋に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を、当該家屋の基準年度に係る賦課期日における価格で家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録されたものとする旨規定している。
  • チ 地方税法第403条《固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員の任務》第1項は、市町村長は、一定の場合を除くほか、固定資産評価基準(同法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項の規定により、総務大臣が定め、告示したもの。以下「評価基準」という。)によって、固定資産の価格を決定しなければならない旨規定している。
  • リ 評価基準第2章第3節一《評点数の算出方法》は、非木造家屋の評点数は、当該非木造家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに損耗の状況による減点補正率を乗じて付設する旨定めている。
  • ヌ 評価基準第2章第3節五《損耗の状況による減点補正率の算出方法》は、非木造家屋の損耗の状況による減点補正率は、経過年数に応ずる減点補正率(以下「経年減点補正率」という。)によるものとする旨、ただし、天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて経年減点補正率によることが適当でないと認められる場合においては、損耗の程度に応ずる減点補正率(以下「損耗減点補正率」という。)によるものとする旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
     請求人は、不動産のコンサルタント業等を営む法人である。
  • ロ 請求人が取得した不動産
    • (イ) F市G町○−○、○−○所在の建物は、昭和46年12月10日に新築された後、平成6年頃改修工事が行われ、改修後の建物(以下「本件建物」という。)は別表1のとおり表示登記がなされた。
       当該改修工事が行われた後、本件建物は、主に○○店として使用されていた。その後、本件建物は、平成○年○月○日、H社が競売により取得した。
    • (ロ) J社は、平成27年2月27日、H社からF市G町○−○ほか1筆の土地及び本件建物を売買により取得した。なお、これら不動産の所有権移転登記は行われなかった。
    • (ハ) 請求人は、平成27年5月8日、J社から上記(ロ)の土地及び本件建物を売買により取得した。
  • ハ 登録免許税の納付状況等
     請求人は、平成27年12月25日、原処分庁に対して本件建物の登記申請書(F法務局受付第○○号)を提出するとともに、登録免許税○○○○円を納付して、売買を原因とする所有権移転登記を受けた(以下、当該所有権移転登記を「本件登記」という。)。
     本件登記に係る登録免許税の課税標準の額○○○○円(以下「本件課税標準額」という。)は、本件建物の平成27年度の台帳価格を基礎とした価額であった。
  • ニ 本件建物の固定資産税評価額及び税額の変更に係る請求人への通知
     F市は、請求人からの申出により、平成29年4月26日、本件建物の現地調査を行った結果、要旨、次のとおり請求人に通知した。
    • (イ) 平成29年5月23日付「建物の損耗に伴う評価の見直しについて」と題する文書により、本件建物に係る評価項目別の損耗の状況及び固定資産税評価額を○○○○円から○○○○円に補正し、固定資産税相当額を○○○○円から○○○○円に補正した旨(以下、当該文書を「本件通知文書」といい、本件通知文書に記載された本件建物の損耗を「本件損耗」という。)。
    • (ロ) 平成29年5月31日付平成28年度及び平成29年度の固定資産税の各「価格等決定(修正)通知書」により、本件建物の台帳価格を変更(上記(イ)の固定資産税評価額と同額)した旨。
    • (ハ) 平成29年10月5日付「固定資産税評価額の変更について」と題する文書により、平成27年5月8日の取得日以前から本件損耗が確認できたことから、少なくとも本件建物の取得時の価格を変更する必要があると判断し、平成28年度から台帳価格を変更(上記(イ)の固定資産税評価額と同額)するとともに不動産取得税の算定根拠となる価格についてK県県税事務所に情報提供した旨。
  • ホ 還付通知の請求
     請求人は、平成29年12月8日、原処分庁に対し、本件課税標準額の計算の基礎とした本件建物の平成27年度の台帳価格には、本件損耗が反映されておらず、本件建物の登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、本件損耗が反映された価額によるべきであるから、上記ハの本件建物の登記申請において納付した登録免許税の額○○○○円のうち○○○○円の過誤納があるとして、登録免許税法第31条第2項の規定に基づき還付通知をすべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をした。
  • ヘ 原処分
     原処分庁は、請求人に対し、平成29年12月14日付で本件還付通知請求について還付通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
     なお、原処分庁は、平成30年4月1日付人事異動により、F法務局登記官LからF法務局登記官Mとなった。
  • ト 審査請求
     請求人は、平成30年3月5日、本件通知処分の全部の取消しを求めて、審査請求をした。

トップに戻る

2 争点

本件登記の時における本件建物の登録免許税法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額はいくらか。

トップに戻る

3 争点についての主張

請求人 原処分庁
  不動産の所有権の移転の登記における課税標準たる不動産の価額については、登録免許税法第10条第1項の主旨からすると、登記を受ける時の時価によることが原則であると規定されているものと解され、登録免許税法附則第7条は、効率的な行政運営の観点から、飽くまで政令で定める価額によることができると規定しているにすぎない。
 本件に関しては、平成27年度の台帳価格によることなく、当方から提出した資料によって、本件損耗に基づく見直し後の台帳価格を、登記を受ける時の時価として認定すべきである。
 また、登録免許税法施行令附則第4項において、登記官が特別の事情があるため台帳価格を課税標準の額とすることを適当でないと認めるときは、課税標準たる不動産の価額は当該事情を考慮して当該登記官が認定した価額とすることとされている。
 この点、F市による台帳価格の変更決定及びK県による不動産取得税還付の事実を鑑みれば、本件登記の時の価額が平成27年度の台帳価格より約56.5%減価し、平成27年度の台帳価格と本件登記の時の価額には、通常想定されている時価の変動を遥かに超えたかい離があったことは明らかであり、登記官において台帳価格を課税標準の額とすることが適当でない特別な事情があると判断すべきであるから、登録免許税法施行令附則第4項の規定により当該事情を考慮して価額を変更すべきである。
  不動産の所有権の移転の登記における課税標準たる不動産の価額については、当該登記の時における不動産の価額によると規定されており(登録免許税法第10条第1項)、この不動産の価額とは、登記を受ける時の時価と解されている。
 しかしながら、この不動産の時価は、容易に鑑定評価できるものではないから、簡便で公正な課税に基づく迅速な登記事務の処理の実現を図るため、登録免許税法附則第7条により、当分の間、台帳価格を基礎とした価額によることができるとされている。
 登記実務上も原則として同様の取扱いがなされており、本件においても、平成27年1月1日現在の台帳価格を基礎として正当に算定されている。
 また、登録免許税法施行令附則第4項の適用があるといえるためには、建物の増築等といった特別な事情のほか、それを原因として、台帳価格が時価とかい離していること、すなわち、台帳価格と比較できる建物の増築等の事情を考慮した後の価額を資料によって明らかにする必要がある。
 この点、請求人が提出した本件通知文書その他の資料によっても、本件建物に確認された状態の発生が平成27年度の台帳価格に反映されているか否かが明らかでなく、また、本件登記の時における本件建物の価額が明確に示されてもいないから、台帳価格を課税標準の額とすることが適当でない特別の事情があるとは判断できず、その特別の事情を原因として考慮した後の本件登記の時における本件建物の価額を認定するに足りる証拠はない。

トップに戻る

4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件建物の平成27年度の台帳価格
     本件建物の平成27年度の台帳価格は、地方税法第349条第1項の規定による基準年度の価格であるところ、F市作成の計算書によると、評価基準に基づき算出した再建築費評点数を基礎として、これに、経年減点補正率(平成27年度の台帳価格の算定で適用された経年減点補正率を以下「本件経年減点補正率」という。)を用いて、別表2のとおり算定されており、当該台帳価格は○○○○円である。
  • ロ 本件建物の平成28年度の台帳価格
     本件建物の平成28年度の台帳価格は、評価基準に基づき算出した再建築費評点数を基礎として、これに損耗減点補正率(経年減点補正率(本件経年減点補正率と同率)に平成6年の再建築費評点数に占める補正後の再建築費評点数の割合を乗じて求めた補正率。平成28年度の台帳価格の算定で適用された損耗減点補正率を以下「28年損耗減点補正率」という。)を用いて、別表3のとおり○○○○円と算定されている。
     なお、28年損耗減点補正率は、別表4のとおりである。
  • ハ 本件建物の現地調査等
    • (イ) F市による現地調査
       F市による本件建物の現地調査において、本件損耗は平成27年5月8日以前から生じていたものと認められた。また、本件建物の本件損耗の状況について、1外壁南側のタイルが一部剥がれていること、2内部仕上げについては撤去済みである場所や劣化が激しく一部剥がれている場所があること、3床仕上げについてはタイル仕上げ等が残っている部分があるものの、ひび割れ又は喪失している部分が多いこと、4屋根仕上げについては防水層の著しい劣化に伴う雨漏りが生じていること、5電気設備については電灯コンセント配線設備及び蛍光灯用器具は取替えを要する部分が多く、その他の電気設備は設備全部の取替えを要するものであること、6運搬設備については一部が撤去されていることや再稼動させる場合は設備全部の取替えが必要であることなどが認められた。
    • (ロ) 当審判所による現地確認
       当審判所における本件建物の現地確認において、本件建物の1階及び2階部分については、○○等は撤去済みであり、壁及び柱の内装は撤去され下地がむき出しになっていること、床の石張りは所々剥がれていること、天井についても下地がむき出しになっていること、及び配線等は一部切断されている箇所が存することが確認された。

(2) N組合の理事長の答述について

  • イ 理事長の答述内容
     本件建物の管理を行っているN組合の理事長(以下「理事長」という。)は、当審判所に対し、要旨、次のとおり答述した。
    • (イ) N組合が本件建物の管理を行うこととなった時期は、従前の所有者であるH社が本件建物を競売により取得した後である。
    • (ロ) H社が、平成20年又は平成21年頃、本件建物内の○○、内装等の撤去工事(以下「本件撤去工事」という。)を行った。
    • (ハ) N組合は、平成22年又は平成23年頃から、本件建物の1階部分を当該組合の組合員が利用する駐車場として使用していた。
    • (二) 雨が降った時には、本件建物の上の階から滝のように水が流れ出てきた。
    • (ホ) 上記(イ)の競売以降、本件建物の状況が変わったのは、本件撤去工事を行った時だけである。
  • ロ 答述内容の信用性
     上記イの理事長の答述は、上記(1)のハの(イ)のF市による現地調査の結果の一部とも整合しており、理事長には、請求人にとって有利な答述をする特段の動機はないものと考えられることから、その内容は信用できるものと認められる。

(3) 検討

  • イ 法令解釈
    • (イ) 登録免許税法第10条第1項に規定する不動産の価額
       登録免許税法第10条第1項は、不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額について、当該登記の時における不動産の価額による旨規定しているところ、当該登記の時における不動産の価額とは、当該登記の時における不動産の客観的交換価値、すなわち時価であると解される。
    • (ロ) 登録免許税法附則第7条に規定する台帳価格
       登録免許税法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額について、同法附則第7条は、当分の間、台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定しているが、これは、登録免許税が、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する自動確定方式による国税で、流通税的な性格を有し、このような性格を持つ登録免許税において、登記官が、課税標準たる不動産の登記の時における時価をその都度判断することは容易ではなく、不動産の価額に関する評価が関係者によって多岐に分かれるおそれがあることから、課税の公平・納税者の便宜や登記事務の迅速化等を考慮して規定したものと解される。
    • (ハ) 登録免許税法第10条第1項に規定する不動産の価額と同法附則第7条に規定する台帳価格の関係
       上記(イ)及び(ロ)からすると、簡易迅速な税額確定が求められる登録免許税においては、台帳価格という課税基準を一律に適用することにより課税の公平が担保されることから、登録免許税法第10条第1項に規定する課税標準たる不動産の価額は、基本的には台帳価格によるべきであると解される。
       しかしながら、台帳価格が何らかの理由により不動産の時価を表していない場合には、不動産の価額は飽くまで時価であることに照らし、登記官は、他の方法により求めた不動産の価額(時価)を登録免許税の課税標準として採用することができると解するのが相当である。
       
  • ロ 当審判所が認定する本件建物の登録免許税の課税標準たる不動産の価額について
    • (イ) 本件建物の損耗の状況等について
       本件建物は、請求人の申出によるF市の現地調査を経て、請求人が本件建物を取得した平成27年5月8日以前から、本件損耗が確認できたとして、28年損耗減点補正率により、平成28年度及び平成29年度の台帳価格の変更決定が行われている(上記1の(3)のニ)。
       本件建物の現地調査等の結果(上記(1)のハ)によれば、本件建物は、設備面においては取替えを要するものがあること、壁等の内装が撤去され下地がむき出しになっている場所があることなどが認められ、また、理事長の答述内容(上記(2))によれば、H社が、平成20年又は平成21年頃、本件撤去工事を行ったこと、本件撤去工事後、本件建物の状況に変わりはないことなどの事情が認められる。
       以上のことからすると、本件建物に生じた損耗は、平成27年5月8日前後において短期的に発生したものでなく、遅くとも平成27年1月1日時点で既に本件損耗と同様の損耗が生じていたものと推認できる。
    • (ロ) 本件建物の平成27年度の台帳価格及び登録免許税の課税標準たる不動産の価額について
       本件建物の平成27年度の台帳価格が、何らかの理由により本件建物の時価を表していないという事情がない限り、登録免許税法第10条第1項に規定する課税標準たる不動産の価額は、基本的には当該台帳価格によるべきであると解される。
       しかしながら、本件建物には、遅くとも平成27年1月1日時点で本件損耗と同様の損耗が既に生じていたものと推認される(上記(イ))ところ、当該損耗の事情が本件建物の平成27年度の台帳価格に考慮されていないこと(上記(1)のイ)からすれば、本件建物の登録免許税の課税標準たる不動産の価額について、当該台帳価格によるのは相当でない。
       そして、登録免許税における課税標準たる不動産の価額は、登録免許税法附則第7条及びこれを受けた登録免許税法施行令附則第3項第2号に規定するとおり、不動産の台帳価格を基礎としているのであり、固定資産課税台帳には評価基準の定める評価方法によって決定された価格を登録するものとされていることからすると、本件建物については、改めて評価基準の定める評価方法に従ってその価額を算出し、その算出した価額が本件建物の時価を表さないといえるような特段の事情がない限り、当該価額をもって登録免許税の課税標準たる不動産の価額とすることが相当である。
    • (ハ) 本件建物の登録免許税の課税標準たる不動産の価額の算定について
       本件建物の登録免許税の課税標準たる不動産の価額について、改めて評価基準の定める評価方法に従って算定したところ、次のとおりとなる。
      • A 評価基準は、非木造家屋の減点補正率について、経年減点補正率によることを基本とし、天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて、経年減点補正率によることが適当でないと認められる場合においては、損耗減点補正率によるものとする(上記1の(2)のヌ)と定めている。
      • B これを本件建物についてみると、本件建物の平成27年度の台帳価格は、再建築費評点数に本件経年減点補正率を乗じ、その結果に評点1点当たりの価額を乗じて決定されている(上記(1)のイ及び別表2)。
      • C しかしながら、本件建物には、遅くとも平成27年1月1日時点で本件損耗と同様の損耗が既に生じていたものと推認できること(上記(イ))からすれば、本件建物の登録免許税の課税標準たる不動産の価額を評価基準の定める評価方法に従い算定するに当たっては、本件経年減点補正率を適用して算定するべきではなく、28年損耗減点補正率と同率の損耗減点補正率(以下「本件損耗減点補正率」という。)を適用して算定するべきである。
      • D そして、本件建物の平成27年度の台帳価格は、本件損耗減点補正率によって算定されていない点を除けば、評価基準の定める評価方法に基づいて適正に算定されていると認められるところ、F市が平成27年度の台帳価格を決定する際に採用した再建築費評点数に、本件損耗減点補正率を乗じ、その結果に評点1点当たりの価額を乗ずることによって求めた、○○○○円(別表5)が評価基準の定める評価方法に従って算定した価格というべきである。
      • E そうすると、本件建物の平成27年度の台帳価格(○○○○円)は、評価基準の定める評価方法に従って算定した価格(○○○○円)を上回ることになるから、本件登記の時における本件建物の登録免許税の課税標準たる不動産の価額は○○○○円(別表6の1欄)であると認めるのが相当である。
         なお、当審判所の調査によれば、上記価額が、本件建物の時価を表さないといえるような特段の事情があるものとは認められない。

(4) 当事者の主張について

  • イ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄のとおり、登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、登録免許税法附則第7条により、当分の間、台帳価格を基礎とした価額によることができるとされ、登記実務上も原則として同様の取扱いがなされており、本件においても、平成27年1月1日現在の台帳価格を基礎として正当に算定されている旨主張する。
     しかしながら、本件建物の平成27年度の台帳価格が何らかの理由により本件建物の時価を表していないという事情がない限り、登録免許税法第10条第1項に規定する不動産の価額は、基本的には当該台帳価格によるべきであると解されるところ、本件建物に生じた損耗の事情は当該台帳価格に考慮されていない(上記(3)のロの(ロ))のであるから、本件建物の登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、当該台帳価格を基礎として算定すべきではない。
     したがって、原処分庁の主張には理由がない。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、登記官は、平成27年度の台帳価格を課税標準の額とすることが適当でない特別な事情があると判断すべきであるから、登録免許税法施行令附則第4項の規定により当該事情を考慮して登録免許税の課税標準たる不動産の価額を変更すべきである旨主張する。
     しかしながら、平成27年度の固定資産税の賦課期日は、平成27年1月1日であるところ、本件建物に生じた損耗は、遅くとも同日には既に生じていた損耗であること(上記(3)のロの(イ))が推認され、登記の目的となる本件建物に台帳価格が付された後に生じたものではないから、本件損耗は、登録免許税法施行令附則第4項に規定する「特別の事情」に該当しない。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) 本件通知処分の適法性について

本件登記の時における本件建物の課税標準の額は、○○○○円(別表6の2欄)となり、本件建物の登記に係る登録免許税の額は、○○○○円(別表6の5欄)となる。
 そうすると、上記登録免許税の額○○○○円と請求人が既に納付した登録免許税の額○○○○円との差額である○○○○円については、登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法令の規定に従っていなかったものに当たり、過誤納と認められる。
 したがって、本件通知処分は違法である。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、本件通知処分の全部を取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る