(令和元年8月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)に交付された外国法人の株式は剰余金の配当に当たるなどとして、所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該株式を取得したことに実質的な利益は発生していないなどとして、それらの処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 行政手続法関係
     行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項本文は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
  • ロ 国税通則法関係
     国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。
  • ハ 所得税法関係
    • (イ) 所得税法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)第24条《配当所得》第1項は、配当所得とは、法人から受ける剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本剰余金の額の減少に伴うもの及び分割型分割(法人税法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第12号の9に規定する分割型分割をいう。)によるものを除く。)、利益の配当、剰余金の分配、投資信託及び投資法人に関する法律第137条《金銭の分配》の金銭の分配、基金利息並びに投資信託及び特定受益証券発行信託の収益の分配(以下「配当等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
       なお、平成29年法律第4号による改正後の所得税法(以下「改正所得税法」という。)第24条第1項では、上記の「剰余金の配当」から除かれるものとして、株式分配(法人税法第2条第12号の15の2に規定する株式分配をいう。)が新たに加えられている。
    • (ロ) 所得税法第25条《配当等とみなす金額》第1項柱書及び同項第2号は、法人の株主等が当該法人の分割型分割(法人税法第2条第12号の12に規定する適格分割型分割を除く。)により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の同条第16号に規定する資本金等の額のうち、その交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、所得税法第24条第1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす旨規定している。
       なお、改正所得税法第25条第1項第3号では、みなし配当に当たる事由の一つとして、当該法人の株式分配(法人税法第2条第12号の15の3に規定する適格株式分配を除く。)が新たに加えられている。
  • ニ 法人税法関係
    • (イ) 法人税法第2条第12号の2は、分割法人とは分割によりその有する資産及び負債の移転を行った法人をいう旨規定し、同条第12号の3は、分割承継法人とは分割により分割法人から資産及び負債の移転を受けた法人をいう旨規定している。
    • (ロ) 法人税法第2条第12号の9は、分割型分割とは、次に掲げる分割をいう旨規定している。
      • A 分割の日において当該分割に係る分割対価資産(分割により分割法人が交付を受ける分割承継法人の株式その他の資産をいう。)の全てが分割法人の株主等に交付される場合の当該分割(同号のイ)。
      • B 分割対価資産が交付されない分割で、その分割の直前において、分割承継法人が分割法人の発行済株式等の全部を保有している場合又は分割法人が分割承継法人の株式を保有していない場合の当該分割(同号のロ)。
  • ホ 会社法関係
     会社法第2条《定義》第29号は、吸収分割とは株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう旨、また、同条第30号は、新設分割とは1又は2以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう旨をそれぞれ規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
     請求人は、従前、G社の株式を保有していたが、平成14年頃、同社がH社に吸収合併され、H社の株式が割り当てられたことにより、H社の株主となった。そして、請求人の平成27年10月末現在のH社の株式の保有数は、18,992株であった。
     請求人は、H社の株式をアメリカ合衆国(以下「米国」という。)のJの証券口座(以下「本件証券口座」という。)において保有し、毎年、H社の配当金を収受していた。
  • ロ H社の事業分割について
    • (イ) H社は、1939年に創業し、コンピュータやプリンターなどを中心とした、コンピュータ関連機器の開発、製造、販売、サポートなどを行う米国のK州に登記上の本店を置く法人であり、L証券取引所に上場していた。
    • (ロ) H社の取締役会は、平成27年10月1日、以下を骨子とする事業分割(以下「本件事業分割」という。)案を承認し、プレスリリースした。
       当該プレスリリースの内容は、要旨、次のとおりである。
      • A H社は、平成27年11月〇日、M社とN社の独立した2社に分割され、前者はH社の企業向け技術インフラ事業、ソフトウエア事業、サービス事業及び金融事業(以下、これらの事業を併せて「エンタープライズ事業」という。)を継承し、後者はH社のプリンター事業及び個人向けシステム事業を継承する。
      • B 本件事業分割は、平成27年10月21日を基準日(以下「本件基準日」という。)とし、本件基準日現在のH社の株主が保有するH社の株式に対し、M社の株式を比例的に分配する(H社の株式1株に対し、M社の株式1株を割り当てる。)方法によって行われる。
      • C 本件事業分割は、平成27年11月〇日に実行され、H社はN社に社名変更し、N社の株式は引き続きL証券取引所で取引される。一方、M社は新たにL証券取引所に上場されるが、事業分割後両社には資本関係はなく、独立した上場会社としてそれぞれ別個に運営される。
      • D 本件基準日現在のH社の株主は、M社の株式の交付を受けるため、何らかの行為をすることは要求されず、その対価の支払をすることも、H社の株式と交換することもない。
    • (ハ) H社の株主には、平成27年10月8日付で、本件事業分割に関連する詳細事項が記載された「INFORMATION STATEMENT」と題する書面が交付された。同書面には、本件事業分割が、米国内国歳入法(Internal Revenue Code。以下「米国歳入法」という。)第355条及び同第368条(a)(1)(D)に適合する組織再編成であり、米国内国歳入庁(Internal Revenue Service。以下「IRS」という。)から、税制適格の組織再編成である旨を認定する「private letter ruling」(以下「個別ルーリング」という。)の交付を受けることを条件とする旨、記載されている。
    • (ニ) H社、M社及びその他の関係会社は、平成27年10月31日付で、「SEPARATION AND DISTRIBUTION AGREEMENT」と題する契約書に基づく契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
  • ハ 請求人のM社株式の取得について
     本件事業分割は、平成27年11月〇日、上記ロの(ロ)のとおり実行され、請求人は、本件証券口座においてM社の株式18,992株(以下「本件株式」という。)を取得した。
     なお、請求人は、本件株式の取得について、米国で課税されなかった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成27年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した(以下、当該確定申告書を「本件確定申告書」といい、本件確定申告書による申告を「本件確定申告」という。)。
     なお、請求人は、本件確定申告において、H社から交付を受けた本件株式に係る所得をその所得計算に含めていなかった。
  • ロ 原処分庁は、平成28年9月8日、請求人の所得税等の実地の調査に着手した(以下、当該調査を「本件調査」といい、本件調査を担当した原処分庁所属の調査担当職員を「本件調査担当職員」という。)。
  • ハ 原処分庁は、本件調査の結果に基づき、平成30年2月5日付で、請求人の平成27年分の所得税等について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
     本件更正処分等において、原処分庁は、請求人がH社から交付を受けた本件株式は所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当するとした。本件更正処分等に係る通知書(以下「本件通知書」という。)に記載された処分理由は、要旨、別紙のとおりである。
  • ニ 請求人は、本件更正処分等のうち、本件株式の交付を配当等とする部分に不服があるとして、平成30年4月27日に再調査の請求をした。
  • ホ 再調査審理庁は、平成30年7月25日付で本件更正処分等に対する再調査の請求をいずれも棄却する再調査決定をした。
  • へ 請求人は、平成30年8月22日、再調査決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして審査請求をした。

2 争点

(1) 本件通知書の処分理由に不備があるか否か(争点1)。

(2) 請求人が受けた本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当するか否か(争点2)。

(3) 本件確定申告が過少申告であることについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件通知書の処分理由に不備があるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件通知書に記載された配当所得に関する処分の理由には、1請求人が、本件証券口座に入庫された本件株式について、本件確定申告書に記載していなかったこと、2本件株式は、本件契約により、法人であるH社から同社の株主としての地位に基づき同社の剰余金の配当を受けたものと認められること、3本件株式の取得は、配当所得として申告する必要があることが記載されている。
 以上の記載によれば、本件通知書における処分の理由は、原処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨を充足するものと認められるから、行政手続法第14条の趣旨に照らし、法の要求する理由の提示として欠けるものではない。
本件更正処分等に係る通知書は、税務調査の経緯や態様に照らし、原処分庁が調査して得られた事実とその評価を明らかにして、該当する条文の文言を指摘しこれに当てはめる記述となっていなければ、理由の提示として不十分であり、行政手続法第14条第1項本文に反し、処分の違法の理由となるものである。
 本件通知書の結論部分では、所得税法第24条第1項の条文の一部を指摘するものの、収入時の評価額が収入金額となることの根拠条文を指摘しておらず、必要な条文のうちの一つの指摘を欠いている。
 また、請求人は単に利益剰余金を原資とする金員の交付を受けたのではなく、本件株式の交付を受けたものであるから、原処分庁が「剰余金の配当」と評価する理由など併せて示さなければ、理由の提示として不十分である。
 したがって理由の提示に違法があり、本件更正処分等は取り消されるべきである。

(2) 争点2(請求人が受けた本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
次の理由から、本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当する。 次の事実を勘案すると、本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当しない。
イ N社の平成28年10月期の連結財務諸表の記載から、同事業年度中に「利益剰余金(Retained earnings)」が減少したことが認められ、また、請求人の本件株式の取得は、H社が本件契約を基因として、H社の株主に対し、当該株主としての地位に基づいて交付したことによるものと認められることから、本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する「剰余金の配当」に該当する。 イ 請求人が株式を所有していたH社は、会社を分割して2つの独立した上場会社となったが、分割前のH社の株価と、分割後のM社株式及びN社株式の合計株価はほぼ同等であり、当該分割の前後において、全体としての株式の価値の増減は見られない。
ロ 改正所得税法第24条第1項及び第25条第1項(第3号及び第4号に係る部分に限る。)の規定は、施行日(平成29年4月1日)以降に行われた同法第24条第1項に規定する株式分配について適用する旨規定しており、施行日前に行われた本件株式の交付について、当該各規定は適用されない。 ロ 本件事業分割は、親会社であったH社の株主資本を子会社であったM社に投資したことになり、M社に対する投資対価としてM社の株式が分配されたものであるから、H社の株主がM社に投資したことになり、剰余金の配当とする根拠はない。
ハ 本件事業分割は、米国の課税上、税制適格の組織再編成として、H社及びM社の双方の株主が非課税の取扱いとなっている。
ニ 仮に、上記イないしハの主張が採用されないとしても、本件株式の交付は、H社からM社が独立して事業を行うための株式分配であるから、改正所得税法第24条第1項及び同法第25条第1項第3号に規定する株式分配のうちの適格株式分配に該当するというべきである。
 そして、この事業分割は、改正所得税法の施行前に行われたものであるが、以前から非課税とされていた適格分割型分割による株式交付との公平の点や、企業再編に税法が合わせたもので改正法の立法事実は変わらない点から、改正所得税法の趣旨に照らし所得税法を解釈すべきである。

(3) 争点3(本件確定申告が過少申告であることについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)について

請求人 原処分庁
本件調査は、着手から本件更正処分等がされる日まで約17か月という長期間にわたっており、請求人に不要な経済的、精神的負担を強いたことは不当である。また、長期間の調査にもかかわらず、その間に本件調査担当職員から交付された説明文書の内容は本件更正処分等の理由とは異なるものであったことから、税務行政を専門に執行する本件調査担当職員にとっても、本件に対する課税関係を認定するのが困難であったということができる。したがって、請求人が、本件株式の交付について申告しなかったことに、納税者の責めに帰することができない客観的な事情が存するというべきである。
 また、請求人以外にM社の株式の交付を受けた者の中で、これを配当所得又はみなし配当所得のいずれにも当たらないとして確定申告し、それが是認された者が多数存するのであれば、請求人に対し本件賦課決定処分を行うことは不当又は酷なものであるのは明らかである。
 したがって、本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる。
請求人の主張する事情は、本件確定申告書において、本件株式の取得が配当所得に当たるものとして税額の計算の基礎とされていなかったことについて、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとは認められない。
 したがって、本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件通知書の処分理由に不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されることから、当該処分の理由が上記の趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由の提示として不備はないものと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     本件通知書には、処分理由として、別紙のとおり、1請求人が、本件株式を本件証券口座に入庫させる方法により受領したこと、2本件株式については、本件事業分割に伴い、法人であるH社から同社の株主としての地位に基づき、同社の剰余金の配当を受けたものと認められること、3上記1及び2から、本件株式は、所得税法第24条第1項に規定する剰余金の配当に該当し、本件株式の交付日である平成27年11月〇日における評価額を配当所得として申告する必要があると認められるところ、本件確定申告書に計上されていなかったこと等が記載されており、課税の根拠をその基礎となる事実関係及び適用法令を提示して具体的に説明したものということができる。したがって、行政手続法第14条第1項本文の趣旨に照らし、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという同項本文の要求する理由の提示として欠けるところはないというべきであり、本件通知書の処分理由に不備はない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件通知書は、本件株式の収入時の評価額が収入金額となることの根拠条文を指摘しておらず、また、本件株式の分配を「剰余金の配当」と評価する理由も示していないから、理由の提示に違法があり、本件更正処分等は取り消されるべきである旨主張する。
     しかしながら、本件通知書には、上記ロのとおり、本件株式の交付について、課税の根拠となる適用法令及び剰余金の配当と判断する事実関係のいずれについても記載されており、行政手続法第14条第1項本文の趣旨に照らしても十分であるから、請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2(請求人が受けた本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 所得税法第24条第1項は、配当所得について、法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、投資信託及び投資法人に関する法律第137条の金銭の分配、基金利息並びに投資信託及び特定受益証券発行信託の収益の分配に係る所得をも含むとしており、配当所得を決算手続に基づく利益の配当に限定していない。そして、これらの規定において、利益配分の性格を有しない基金利息や各種収益の混合体というべき投資信託の収益の分配等がいずれも配当所得に含まれていることを考慮すると、所得税法上の配当所得の概念は、相当に広範なものと考えるべきであって、法人がその株主等の出資者に対し、出資者としての地位に基づいて分配した利益は、その名目のいかんにかかわらず、所得税法上の配当所得に該当すると解するのが相当である。
    • (ロ) また、所得税法第24条第1項の規定は、法人から受ける剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限る。)のうち、資本剰余金の額の減少に伴うもの及び分割型分割によるものを配当所得から除くとしている。そして、同項に規定する分割型分割とは、法人税法第2条第12号の9のイ又はロが掲げる分割をいうところ、法人税法は、同号にいう分割の意義について特段の定義規定を設けておらず、我が国の会社法を準拠法として行われる分割に限るとはしていないことからすると、法人税法にいう分割は、我が国の会社法に準拠して行われる分割に限られず、外国の法令に準拠して行われる法律行為であっても、我が国の会社法上の分割に相当する法的効果を具備し、我が国の会社法上の分割に相当するものと認められる場合には、法人税法上の分割に該当するものとして取り扱って差し支えないものと考えられる。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件事業分割前のM社の新規設立について
       M社は、平成27年2月〇日、米国のK州法に準拠し、H社の100%子会社として、H社のエンタープライズ事業を承継する目的で設立された法人である。また、その設立時にM社が発行した普通株式は1,000株であるところ、その全てをH社が引き受けている。
    • (ロ) 本件事業分割後のN社について
      • A N社の平成28年10月期の「Form10-K」(我が国の有価証券報告書に相当するもの)には、要旨、次のとおり記載がある。
        • (A) 平成27年11月〇日、H社のエンタープライズ事業を継承するM社の事業分割が完了し、当該事業分割に伴い、H社はN社に商号変更した。
        • (B) 平成27年11月〇日、本件基準日(同年10月21日)にH社の株主であった者は、H社の普通株式1株に対し、M社の普通株式1株が交付され、この交付された普通株式の総数は約18億株であった。
        • (C) 本件事業分割後、N社はM社の普通株式を保有していない。
        • (D) N社は、IRSから、本件事業分割が、税制適格の組織再編成である旨を認定した個別ルーリングを取得した。
      • B N社の平成28年10月期の「Form10-K」に添付された平成27年10月31日付の連結貸借対照表及び平成28年10月31日付の連結貸借対照表には、エンタープライズ事業を構成しN社の非継続事業(discontinued operation)としてM社に移転する資産及び負債の流動項目・固定項目のそれぞれの合計額が区分掲記されている。また、同様に添付された平成28年10月31日付の連結株主資本等変動計算書によると、本件事業分割により、N社の利益剰余金が37,225百万米国ドル(以下「米ドル」という。)減少しているものの、本件事業分割に係る資本剰余金の変動はない。
    • (ハ) 本件事業分割後のM社について
       M社の平成28年10月期の「Form10-K」に添付されている連結株主資本等変動計算書には、本件事業分割によりM社が新たに発行した普通株式数は1,803,719千株、資本金組入額が18百万米ドル(額面価額は1株当たり0.01米ドル)、資本準備金組入額が37,296百万米ドルと記載されている。
    • (ニ) 米国における組織再編成とその課税に関する規定について
      • A 米国の法令には、我が国の会社分割法制のような権利義務の一般承継(包括承継)を特徴とする分割法制は存在しない。
      • B 米国歳入法第368条(a)(1)(D)は、ある法人の資産の全部又は一部の他の法人への譲渡で、当該資産の譲渡の直後に、資産取得法人が、その対価として同法人の株式その他の有価証券を資産譲渡法人に交付し、資産譲渡法人が資産取得法人を支配した上で、資産譲渡法人の株主に対し、当該株式その他の有価証券を、同法第355条に規定する税制適格取引として分配するものを組織再編成の一つとして規定している。
      • C 米国歳入法第355条は、法人(「分配法人(distributing corporation)」と定義される。)による当該法人が支配する法人(「被支配法人(controlled corporation)」と定義される。)の株式等の税制適格の現物分配について規定している。
      • D 本件事業分割においては、上記(ロ)のAの(D)のとおり、N社はIRSから個別ルーリングを取得しており、米国歳入法第355条所定の税制適格要件を全て満たしたものと認められる。
    • (ホ) 請求人の本件株式の取得日等
      • A 請求人は、本件事業分割が実行された平成27年11月〇日が日曜日であったことから、同月〇日付で本件証券口座において本件株式(18,992株)を取得した。
      • B 平成27年11月〇日のL証券取引所におけるM社の株式の1株当たりの価額は〇〇〇〇米ドル、同日の1米ドル当たり対顧客直物電信相場の仲値は〇〇〇〇円であった。
  • ハ 検討
     上記イの法令解釈及び上記ロの認定事実を前提に、本件株式の交付が、所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当するか否かについて検討する。
    • (イ) 本件株式の交付は、剰余金の配当に該当するか否かについて
       所得税法第24条第1項は、法人から受ける剰余金の配当を同項所定の「配当等」として掲げ、当該配当等に係る所得を配当所得という旨規定する(上記1の(2)のハの(イ))。
       本件事業分割は、上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、米国歳入法第355条及び同法第368条(a)(1)(D)に適合する組織再編成であるところ、米国における組織再編成では、上記ロの(ニ)のB及びCのとおり、同法に定める税制適格要件に適合させることを前提に、ある法人が他の法人に資産を譲渡し、その対価として資産取得法人の株式等の交付を受け、両社の支配従属関係を成立させた上で、資産取得法人(被支配法人)の株式等が資産譲渡法人(分配法人)の株主に分配されるという類型の分割が一般的に行われている。
       そして、本件事業分割では、上記1の(3)のロの(ロ)及び(ハ)のとおり、H社が、その有するエンタープライズ事業に係る資産及び負債をそれぞれM社に移転するとともに、その対価としてM社の株式の交付を受け、当該受領したM社の株式が、H社の株主に比例的に分配されたと認められるところ、H社によるM社の株式の交付に当たっては、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件事業分割に伴いH社から商号変更したN社の連結株主資本等変動計算書上、利益剰余金のみが減少していることが認められる。
       したがって、請求人に対する本件株式の交付は、H社の株主としての地位を有する者に対し、H社の利益剰余金を原資として行われたものということができるから、所得税法第24条第1項に規定する剰余金の配当に該当すると認められる。
    • (ロ) 本件事業分割が、法人税法第2条第12号の9に規定する分割型分割に該当するか否かについて
       所得税法第24条第1項は、同項に規定する「法人(略)から受ける剰余金の配当」のうち資本剰余金の額の減少に伴うもの及び法人税法第2条第12号の9に規定する分割型分割によるものを当該剰余金の配当から除くとしている。この点、本件株式の交付がH社から商号変更したN社の資本剰余金の額の減少に伴うものと認められないことは、上記ロの(ロ)のBのとおりである。そこで、本件株式の交付が、同号の9に規定する分割型分割によるものといえるか否か、具体的には、米国の法令に準拠して行われた本件事業分割を法人税法上の分割のうちの「分割型分割」に該当するものとして取り扱えるか否かについて検討する。
       我が国の会社法上の分割では、分割の対象とされた分割会社の権利義務は、事業譲渡(会社法第467条《事業譲渡等の承認等》第1項参照)の場合のように個別に承継・移転されるのではなく、吸収分割契約又は新設分割計画により、承継会社又は新設会社に一括して承継されるという一般承継の法的効果が付与される(上記にいう「一般承継」とは、法令上、ある者が他の者の権利義務の全てを一体として受け継ぎ、法律上その権利義務に関して他の者と同じ地位に立つことをいい、「包括承継」ともいう。)。
       他方、米国においては、上記ロの(ニ)のAのとおり、権利義務の一般承継を特徴とする会社分割制度は存在しない。すなわち、我が国の会社法上の分割が、上記のとおり、法的効果としての権利義務の一般承継をその本質的要素とするのに対し、本件事業分割はかかる要素を欠いており、この点において、本件事業分割は、我が国の会社法上の分割に相当する法的効果を具備するものとはいえないというべきである。そして、本件における全証拠等によっても、他に本件事業分割を我が国の会社法上の分割に相当するものと認めるべき特段の事情も認められない。そうすると、本件事業分割を法人税法上の分割に相当するものとして取り扱うことはできない。
       したがって、本件事業分割は、法人税法第2条第12号の9に規定する分割型分割には当たらないというべきである。
    • (ハ) 小括
       以上のとおり、請求人に対する本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する法人から受ける剰余金の配当のうち、資本剰余金の額の減少に伴うもの及び法人税法上の分割型分割によるもののいずれにも該当しないものとして、同項所定の配当等に該当するものと認められる。
  • ニ 配当所得の金額について
     上記ハの(イ)のとおり、請求人に対する本件株式の交付は、剰余金の配当と認められる。そして、本件事業分割日が日曜日に当たるため、L証券取引所の翌営業日である平成27年11月〇日の本件株式の価額が、配当所得の金額となる。そこで、上記ロの(ホ)に従い、請求人が保有する本件株式(18,992株)に、同日のM社の1株当たりの株式の価額(〇〇〇〇米ドル)を乗じ、更に、本件株式の取得は外貨建取引に該当するため、その換算については、当該取引日である同日の対顧客直物電信相場の仲値(〇〇〇〇円)を乗じて算定すると、本件株式の取得に係る配当所得の金額は〇〇〇〇円となる。
     なお、本件は外貨建取引であることから、所得税法第57条の3《外貨建取引の換算》第1項の趣旨に従い、対顧客直物電信相場の仲値により換算した金額によってこれを評価する。
  • ホ 請求人の主張について
    • (イ) 本件事業分割後の株価等について
       請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイ及びロのとおり、分割前のH社の株価は、分割後のM社の株式とN社の株式の株価の合計とほぼ同等であり、当該分割の前後において、全体としての株式の価値の増減は見られない旨、また、請求人は、H社がその子会社であったM社に投資をしたことで、M社からその投資対価として M社の株式が分配されたものであるから、H社の株主がM社に投資したことになるため、剰余金の配当ではない旨主張する。
       しかしながら、請求人が本件事業分割により交付を受けた本件株式は、上記ハの(イ)のとおり、H社の株主としての地位に基づき、その利益剰余金を原資として交付されたものと認められ、本件株式の交付を受けたことで請求人が剰余金の配当を得たことは明らかである。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 米国における課税上の取扱いについて
       また、請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のハのとおり、本件事業分割が米国において非課税の取扱いとなっていることから、請求人に本件株式の交付による実質的な利益は生じていないと主張する。
       しかしながら、我が国と米国とは別個の租税管轄権に属し、それぞれ独立した法体系を形成することから、一方の国における課税上の取扱いが、他方の国の課税上の取扱いに影響を及ぼすことはない。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 適格株式分配の該当性について
       さらに、請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のニのとおり、本件株式の交付は、H社からM社が独立して事業を行うための株式分配であるから、平成29年の税制改正において新たに導入された適格株式分配に該当するものであり、同改正後の規定は従来から非課税とされていた分割型分割による株式の交付との公平の点や、企業再編に税法が合わせたもので改正法の立法事実は変わらない点から、本件株式の交付も改正所得税法の趣旨に照らして解釈すべきと主張する。
       しかしながら、請求人の主張する改正所得税法第24条第1項及び同法第25条第1項の各規定は、当該改正所得税法の附則により、平成29年4月1日以後に行われる株式分配について適用されるため、同日前にされた本件株式の交付に上記改正所得税法の各規定は適用されない。
       平成29年度税制改正では、分割法人が行っていた事業の一部を、分割型分割により新たに設立する分割承継法人が独立して行うための分割が適格分割とされるとともに、これと同様の効果があると考えられる親法人がその株主等に対して行う子法人株式の全部の分配について、株式分配として組織再編税制の対象とされたことから、この改正の一環として、所得税法上の配当所得の規定についての所要の見直しが行われたものである。したがって、従来から非課税として明記されるべき類型であったという上記請求人の主張は、請求人独自の見解というべきものであり、採用できない。

(3) 争点3(本件確定申告が過少申告であることについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     「過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として通則法第65条第4項が定めた『正当な理由があると認められる』場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である」(最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参照)。
  • ロ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、税務行政を専門とする本件調査担当職員にとっても本件に対する課税関係を認定することが困難であったといえるから、請求人が本件株式の交付について申告しなかったことに納税者の責めに帰することができない客観的な事情が存する旨主張する。
       しかしながら、所得税法は、いわゆる申告納税制度を採用し、納税者自らが課税標準及び税額を算出し、これを申告して第一次的に納付すべき税額を確定させるという体系になっており、申告納税制度の下における所得税等の確定申告は、納税者自身の判断と責任においてなされるべきものであるから、請求人が本件証券口座で取得した本件株式について所得として認識しなかったとしても、そのことは、請求人の主観的事情といわざるを得ず、真に納税者の責めに帰することができない客観的な事情が存するとはいえない。
    • (ロ) また、請求人は、請求人以外にM社の株式の交付について配当所得に該当しないとして確定申告し、それが是認された者が多数存するのであれば、請求人に対し本件賦課決定処分を行うことは不当又は酷である旨、更に、本件調査が長期間にわたっており、請求人に不要な経済的、精神的負担を強いたことは不当である旨主張する。
       しかしながら、M社の株式の交付に関し、仮に法の適用を免れる者があったとしても、そのことを理由に本件更正処分等が違法となるものではないし、また、本件確定申告の後に行われた本件調査に関する事情は、本件確定申告が過少となったことの事情には当たらない。したがって、請求人の主張する上記の事情は、いずれも真に納税者の責めに帰することができない客観的な事情とはいえない。
  • ハ 小括
     以上によれば、本件確定申告が過少申告であることについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

(4) 本件更正処分の適法性について

上記(1)及び(2)のとおり、本件更正処分等に係る処分理由の記載に不備はなく、また、本件株式の交付は所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当するものと認められ、上記(2)のニのとおり、本件株式の取得に係る配当所得の金額は〇〇〇〇円となる。そして、当審判所に提出された証拠資料等に基づき、請求人の平成27年分の総所得金額及び所得税等の納付すべき税額を計算すると、別表2のとおりとなり、本件更正処分の額をいずれも上回る。
 また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、本件更正処分を取り消すべき事由は見当たらない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であるところ、上記(3)のとおり、本件更正処分により請求人の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所においても、平成27年分の所得税等に係る過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
 また、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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