(令和元年9月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、事業所得の金額の計算上、請求人の配偶者に対して支払った青色事業専従者給与を必要経費に算入して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該青色事業専従者給与の金額のうち労務の対価として相当であると認められる金額を超える部分の金額は必要経費に算入できないとして、更正処分等を行ったのに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 所得税法第56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》は、居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む事業所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとする旨規定している。
  • ロ 所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第1項は、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢15歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む同法第56条に規定する事業に従事するもの(以下「青色事業専従者」という。)が当該事業から同法第57条第2項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与(以下、青色事業専従者に対する給与を「青色事業専従者給与」という。)の支払を受けた場合には、同法第56条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するもの(以下「類似同業者」という。)が支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る事業所得の金額の計算上必要経費に算入する旨規定している。
  • ハ 所得税法施行令第164条《青色事業専従者給与の判定基準等》第1項は、所得税法第57条第1項に規定する政令で定める状況は、次に掲げる状況とする旨規定している。
    • (イ) 青色事業専従者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度
    • (ロ) その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及び類似同業者に従事する者が支払を受ける給与の状況
    • (ハ) その事業の種類及び規模並びにその収益の状況

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の事業
     請求人は、平成20年4月にa市内に開業した「Z歯科医院」(以下「本件歯科医院」という。)において歯科医業(以下、本件歯科医院に係る事業を「本件事業」という。)を営む歯科医師である。
  • ロ 本件配偶者の本件事業への従事
     請求人の配偶者であり、請求人と生計を一にするX2(以下「本件配偶者」という。)は、歯科衛生士として、本件歯科医院開業当初から本件事業に従事しており、平成26年及び平成28年(以下「本件各年」という。)において、いずれの年も年間を通じて青色事業専従者として本件事業に従事していた。
  • ハ 請求人に係る青色申告の承認及び青色事業専従者給与に関する届出
    • (イ) 請求人は、平成20年5月9日、原処分庁に所得税の青色申告承認申請書を提出し、平成20年分以後の所得税の申告について、所得税法第143条《青色申告》に規定する青色の申告書により提出することにつき原処分庁の承認を受けた。
    • (ロ) 請求人は、平成20年5月9日、同月以後の青色事業専従者給与の支給に関して、「専従者の氏名」欄に本件配偶者の氏名、「仕事の内容・従事の程度」欄に歯科衛生士・事務、「給料」欄の「金額(月額)」欄に〇〇〇〇円、「賞与」欄に夏に支給する賞与は〇〇、冬に支給する賞与は〇〇と記載した青色事業専従者給与に関する届出書を原処分庁に提出した。
    • (ハ) 請求人は、平成21年3月16日、同年1月以後の青色事業専従者給与の支給に関して、「給料」欄の「金額(月額)」欄に〇〇〇〇円、「賞与」欄に夏に支給する賞与は〇〇、冬に支給する賞与は〇〇と記載した青色事業専従者給与に関する変更届出書を原処分庁に提出した。
    • (ニ) 請求人は、平成24年3月15日、同年1月以後の青色事業専従者給与の支給に関して、「給料」欄の「金額(月額)」欄に〇〇〇〇円、「賞与」欄に夏に支給する賞与は〇〇、冬に支給する賞与は〇〇と記載した青色事業専従者給与に関する変更届出書を原処分庁に提出した。
    • (ホ) 請求人は、平成26年3月17日、「給料」欄の「金額(月額)」欄に〇〇〇〇円、「賞与」欄に夏に支給する賞与は〇〇、冬に支給する賞与は〇〇と記載した青色事業専従者給与に関する変更届出書を原処分庁に提出した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成26年分及び平成28年分(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、事業所得の金額の計算上、本件配偶者に対して支払った青色事業専従者給与の額(平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円)を必要経費に算入して、別表1の「確定申告」欄のとおり、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ロ 請求人は、平成29年11月29日、本件各年分の所得税等について、別表1の「修正申告1」欄のとおりとする各修正申告書を提出した。
  • ハ 請求人は、平成30年3月27日、本件各年分の所得税等について、別表1の「修正申告2」欄のとおりとする各修正申告書を提出した。それらの異動の事由は、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する本件配偶者に係る青色事業専従者給与の額を、平成26年分について〇〇〇〇円から〇〇〇〇円に、平成28年分について〇〇〇〇円から〇〇〇〇円に、それぞれ減額する内容であった(以下、当該各異動の後の青色事業専従者給与の額を「本件各青色専従者給与額」という。)。
  • ニ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員による調査の結果、本件各青色専従者給与額のうちに所得税法第57条第1項に規定する青色事業専従者の労務の対価として相当と認められる金額(以下「適正給与相当額」という。)を超える部分の金額があり、当該超える部分の金額は請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができないとして、平成30年6月15日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税等についての各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、上記ニの各処分に不服があるとして、その全部の取消しを求め、平成30年9月10日に審査請求をした。

2 争点

本件各青色専従者給与額は本件配偶者の労務の対価として相当か否か、また、相当と認められない場合、本件配偶者の適正給与相当額は幾らか。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件各青色専従者給与額は、以下のとおり、本件配偶者の労務の性質及びその提供の程度、請求人の事業に従事する他の使用人が支払を受けた給与の状況、請求人の事業と同種の事業でその規模が類似する同業者(以下「本件類似同業者」という。)の青色事業専従者が本件各年において支払を受けた給与の状況に照らして、著しく高額であり、本件配偶者の労務の対価として相当であるとは認められない。 本件配偶者は、以下のとおり、使用人の労務管理といった本件事業の経営上重要な業務に従事しており、その程度も所定の勤務時間内にとどまることはなく、労務の性質、労務提供の程度等からすれば、請求人が本件配偶者に対して支払った本件各青色専従者給与額は、労務の対価として相当である。
(1) 本件配偶者の労務の性質
 本件配偶者は、本件事業において、1歯科衛生士業務、2レセプト請求に関する業務、3銀行手続に関する業務、4窓口受付事務、5使用人の給与計算事務及び6現金出納帳の作成等の経理事務の労務に従事していた。
(1) 本件配偶者の労務の性質
 本件配偶者は、原処分庁が主張する「原処分庁」欄の(1)の1ないし6の業務に加え、7使用人の労務管理等に従事していた。
 特に上記7のうち使用人の労務管理については、有能で経験豊富な歯科衛生士の確保が最近の歯科診療所経営の重点課題であるため、請求人が青色事業専従者である本件配偶者に対して求めており、なおかつ評価している最大の労務であり、余人をもって代え難いものである。
(2) 本件配偶者の労務提供の程度
 本件配偶者の労務提供の程度を示す客観的な資料はなく、また、本件事業の事業主である請求人自身が、本件配偶者の労務提供の程度を明確に把握していたとも認められない。
(2) 本件配偶者の労務提供の程度
 本件配偶者は、勤務時間内は、よほどの事情がない限り院内で、労務管理、歯科衛生士として診療の補助、窓口受付事務に従事している。本件配偶者についてのタイムカードは作成していないものの、レセプト請求に関する業務については、現在カルテの作成等も電子化が進み、診療時間内はパソコンが使用できないことから、診療終了後の夜間等に自宅で作業しているという事実がある。
(3) 適正給与相当額の検討内容 (3) 適正給与相当額の検討内容
イ 本件各青色専従者給与額は、本件事業に従事する本件配偶者以外の使用人(以下「本件使用人」という。)のうち、歯科衛生士で年間を通じて本件事業に従事した者(以下「本件歯科衛生士」という。)が本件各年において支払を受けた給与の額の平均額及び本件歯科衛生士の中で本件各年において支払を受けた給与の額が最も高い者の給与の額に比して、いずれの年分においても著しく高額であると認められる。 イ 原処分庁は、本件配偶者の業務内容を十分に把握していない。
 また、原処分庁は、本件配偶者が診療補助業務のほか窓口受付事務や使用人の給与計算事務等に従事している事実を認めておきながら、他の労務を排除し、診療補助業務のみに従事する本件歯科衛生士の給与の額と比較検討する手法を採用しており、当該手法に意味は認められない。
ロ 原処分庁は、1Y2国税局管内で歯科医業を営む個人事業者であること、2青色申告者で所得税の青色申告決算書を提出している者であること、3歯科医業に係る年間の売上金額が請求人の売上金額の2分の1以上、2倍以下の者であること、4青色事業専従者が歯科衛生士の資格を有する配偶者のみの者であること及び5歯科医師の資格を有する者を常勤で雇用していない者であることの基準を設け、本件類似同業者を機械的に抽出し、本件配偶者と類似性を有する者を本件類似同業者に従事する青色事業専従者(以下「本件類似同業青色専従者」という。)として選定していることから、本件各青色専従者給与額と本件類似同業青色専従者が本件各年において支払を受けた給与の額の平均額とをそれぞれ比較することは、合理性があると認められる。
 そうすると、本件各青色専従者給与額は、本件類似同業青色専従者が本件各年において支払を受けた給与の額の平均額とそれぞれ比較して、いずれの年分においても著しく高額であると認められる。
ロ 原処分庁は歯科衛生士の資格を青色事業専従者が有していることを類似同業者の抽出条件の一つとして挙げているが、その前提となる青色事業専従者の労務に従事した期間や労務の性質及びその提供の程度が不確定な状況で、どのようにその類似性を担保するのかといった問題がある。
(4) 適正給与相当額
 本件配偶者の労務提供の程度を示す客観的な資料はなく、また、本件事業の事業主である請求人自身が、本件配偶者の労務提供の程度を明確に把握していたとも認められないことから、本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額については、本件各青色専従者給与額と本件歯科衛生士が本件各年において支払を受けた給与の額とを比較する方式ではなく、本件各青色専従者給与額と本件類似同業青色専従者が本件各年において支払を受けた給与の額の平均額とを比較する方式により算定した各給与の額とするのが相当である。
 そうすると、本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額は、平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円となる。
(4) 適正給与相当額
 本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額は、上記1の(4)のハのとおりである。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

所得税法第56条は、居住者と生計を一にする親族が、その居住者の営む事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合のその対価に相当する金額は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとする旨規定している。
 また、所得税法第57条第1項は、青色申告の承認を受けている事業者の場合は、同法第56条の規定にかかわらず、上記親族で専らその居住者の営む同条の事業に従事するもの(青色事業専従者)が当該事業から支払を受けた給与の金額のうち、政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、必要経費に算入することができる旨規定しており、所得税法施行令第164条第1項は、その状況として、1労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、2その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及び類似同業者に従事する者が支払を受ける給与の状況並びに3その事業の種類及び規模並びにその収益の状況を掲げている。
 上記各規定の趣旨は、居住者と生計を一にする親族がその居住者の営む事業に従事する場合には、その事業に従事する居住者と生計を一にする親族にその事業に従事する対価としての給与を無制限に必要経費に算入することを認めると、その額が恣意的に定められ、所得の分散によって課税の適正性・公平性が阻害されることになるため、所得税法第57条第1項及び所得税法施行令第164条第1項が掲げる状況を総合的に考慮して、労務の対価として相当と認められる部分に限って事業所得の金額の計算上、必要経費として算入することを認めたものと解される。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件配偶者の労務の性質について
    • (イ) 本件配偶者は、本件各年において、本件事業に年間を通じて従事しており、その労務内容は、1歯科衛生士業務、2窓口受付事務、3経理事務、4レセプト請求に関する業務、5使用人の給与計算事務、6銀行手続に関する業務、7診療所の外回りの掃除、8歯科診療所経営に必要となる会議及びセミナーへの出席、9本件使用人が労務に従事する様子を注視し、本件使用人の様子に異変を感じた場合には当該使用人と面談を行うこと並びに10退職を申し出た本件使用人と面談をし、当該使用人が退職しないよう解決策を提案することであった。
    • (ロ) 本件歯科医院における本件配偶者の肩書は主任歯科衛生士であり、本件配偶者は、本件各年において、上記(イ)の1の歯科衛生士業務としては、歯科医師による歯科診療業務の補助業務、患者の口腔内の清掃、患者の歯の型取り、患者への歯磨き指導に加え、本件事業に従事する歯科衛生士への指示を行い、新規採用された本件使用人への指導の中心的役割も担っていた。
  • ロ 本件使用人の労務の性質について
     本件使用人は、本件各年において、上記イの(イ)の3ないし10の各業務には従事していなかった。
     また、本件使用人のうち歯科衛生士は、本件各年において、本件配偶者が行っていた歯科衛生士業務のうち、上記イの(ロ)の歯科医師による歯科診療業務の補助業務、患者の口腔内の清掃、患者の歯の型取り、患者への歯磨き指導以外の業務にはほとんど従事していなかった。
  • ハ 本件各年において、本件使用人はタイムカードにより本件事業に従事した時間が管理されていたが、本件配偶者については、本件事業に従事した時間を管理するためのタイムカードはなく、更に本件配偶者が本件事業に従事した時間を確認できる客観的資料は存在しなかった。
  • ニ 原処分庁は、本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額について、次の方式でそれぞれ検討した。
    • (イ) 原処分庁は、本件配偶者が、本件事業において、1歯科衛生士業務、2レセプト請求に関する業務、3銀行手続に関する業務、4窓口受付事務、5使用人の給与計算事務及び6現金出納帳の作成等の経理事務の労務に従事していたと認定した上で、本件各青色専従者給与額と本件歯科衛生士が本件各年において支払を受けた給与の額の平均額及び本件歯科衛生士の中で本件各年において支払を受けた給与の額が最も高い者の給与の額とをそれぞれ比較した。
       なお、本件歯科衛生士が本件各年において支払を受けた給与の額は、別表2−1及び別表2−2のとおりである。
    • (ロ) 原処分庁は、1Y2国税局管内で歯科医業を営む個人事業者であること、2青色申告者で所得税の青色申告決算書を提出している者であること、3歯科医業に係る年間の売上金額が請求人の売上金額の2分の1以上、2倍以下の者であること、4青色事業専従者が歯科衛生士の資格を有する配偶者のみの者であること及び5歯科医師の資格を有する者を常勤で雇用していない者であることの基準を設け、本件類似同業者を機械的に抽出し、本件類似同業青色専従者を選定した上で、本件各青色専従者給与額と本件類似同業青色専従者が本件各年において支払を受けた給与の額の平均額とをそれぞれ比較した。
       なお、本件類似同業青色専従者が本件各年において支払を受けた給与の額及びその平均額は、別表3−1及び別表3−2の「原処分庁主張額」欄のとおりである。
       また、原処分庁は、上記5「歯科医師の資格を有する者を常勤で雇用していない者であること」の基準(以下「本件基準5」という。)について、以下のとおり適用した。
      • A 原処分庁は、本件基準5における「常勤」に関し、常勤で雇用されていない歯科医師とは、「毎日一定の時間、常時勤務していない歯科医師、また、本務として専任でない歯科医師」と定義した。
      • B 原処分庁は、原処分に係る調査において請求人から提示された本件使用人のタイムカードから、本件使用人のうちの歯科医師の稼働時間数を確認し、請求人を本件基準5に該当する者と判断した。
      • C 原処分庁は、平成26年賃金構造基本統計調査における一般労働者である歯科医師の年間の給与の額(賞与等を含む。)7,342,800円を常勤で雇用されている者の年間の給与の額の目安とするとともに、請求人の類似同業者の青色申告決算書、その者の使用人に係る給与支払報告書等の記載内容を確認した上で、請求人の類似同業者が本件基準5に該当するか否かの判断を行った。
         なお、上記の判断を行う際、原処分庁は、請求人の類似同業者に雇用されている歯科医師の個別具体的な勤務時間等の勤務状況に基づく判断は行っていなかった。
    • (ハ) 原処分庁は、本件配偶者の労務提供の程度を示す客観的な資料はなく、また、本件事業の事業主である請求人自身が本件配偶者の労務提供の程度を明確に把握していたとも認められないことから、本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額の算定は、上記(ロ)の方式により行った。
  • ホ 本件各青色専従者給与額と本件歯科衛生士が本件各年において支払を受けた給与の額との比較
    • (イ) 本件事業においては、本件使用人として歯科医師、歯科衛生士、助手、歯科技工士及び用務員が従事しており、本件使用人の中でその労務の性質が最も本件配偶者と類似するのは、その職種から本件歯科衛生士であると認められる。
    • (ロ) 本件歯科衛生士のうち最高給与額は、別表2−1及び別表2−2のとおり、平成26年はX3の〇〇〇〇円、平成28年はX4の〇〇〇〇円である。
    • (ハ) 本件各青色専従者給与額は、上記(ロ)の本件各年の最高給与額と比較して、平成26年分が〇〇倍(〇〇〇〇円を〇〇〇〇円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)、平成28年分が〇〇倍(〇〇〇〇円を〇〇〇〇円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)となる。

(3) 判断

本件各青色専従者給与額が本件配偶者の労務の対価として相当か否かについて、本件各年における本件配偶者の労務の性質及びその提供の程度を前提として、本件各青色専従者給与額と労務の性質が本件配偶者と最も類似する本件歯科衛生士が本件各年において支払を受けた給与の額とを比較する方式(以下「使用人給与比準方式」という。)及び本件各青色専従者給与額と請求人の類似同業者の事業に従事する青色事業専従者が本件各年において支払を受けた給与の額の平均額とを比較する方式(以下「類似同業専従者給与比準方式」という。)により、以下検討する 。
 なお、所得税法施行令第164条第1項第3号に規定する状況(上記(1)の3)については、使用人給与比準方式及び類似同業専従者給与比準方式の中で、併せて検討する。

  • イ 本件配偶者の労務の性質
     本件各年における本件配偶者の労務の性質は、上記(2)のイの(イ)のとおり、歯科衛生士業務のほか各種業務に及んでいたが、本件歯科衛生士は、上記(2)のロのとおり、上記(2)のイの(ロ)の本件配偶者が行っていた歯科衛生士業務のうち、歯科医師による歯科診療業務の補助業務、患者の口腔内の清掃、患者の歯の型取り、患者への歯磨き指導以外の業務にはほとんど従事していなかった。
     また、上記(2)のイの(ロ)のとおり、本件配偶者は、歯科衛生士としては本件歯科衛生士が行っていた業務に加え、本件事業に従事する歯科衛生士への指示を行い、新規採用された本件使用人への指導の中心的役割も担っていた。
     以上に照らせば、本件配偶者の労務の性質は、本件歯科衛生士の労務の性質とは異なると認めるのが相当である。
  • ロ 本件配偶者の労務提供の程度
     本件配偶者の労務提供の程度については、上記(2)のハのとおり、本件各年において、本件配偶者が本件事業に従事した時間を記録した証拠は存在しない。
     したがって、本件配偶者が、本件各年において本件事業に従事していた時間は、客観的な証拠によって認定することはできず、本件配偶者の労務提供の程度を明らかにすることはできない。
  • ハ 適正給与相当額の検討
    • (イ) 使用人給与比準方式
       本件配偶者の労務の性質については、上記イのとおり、本件歯科衛生士が行っていた業務以外の歯科衛生士業務やその他の各種業務も含まれていることから、本件歯科衛生士の労務の性質とは異なると認められるものの、これらの業務は、歯科衛生士の資格以外の資格を必要とするような類いの業務ではないと認められる。また、上記(2)のホの(イ)のとおり、本件使用人の中でその労務の性質が最も本件配偶者と類似するのは、本件歯科衛生士であると認められる。
       これらのことから、当審判所において、本件各青色専従者給与額と本件歯科衛生士が本件各年において支払を受けた給与の額とを比較したところ、上記(2)のホのとおり、本件各青色専従者給与額は、所得税法施行令第164条第1項第2号が規定する「その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況」に照らすと高額であると認められるものの、上記ロのとおり、本件配偶者の労務提供の程度が明らかでないため、労務提供の程度が明らかな本件歯科衛生士が支払を受けた給与の額を基に比較することは相当でない。
       したがって、本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額を算定するに当たって使用人給与比準方式によることは相当ではない。
    • (ロ) 類似同業専従者給与比準方式
       類似同業専従者給与比準方式は、業種の同一性、事業規模の類似性等の基礎的要件に欠けるところがない限り、本件事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する青色事業専従者の給与の額を平均することで、本件事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する青色事業専従者の個別具体的事情が捨象される合理的な方法と認められる。
      • A 原処分庁が採用した類似同業専従者給与比準方式の検討
         当審判所が、原処分関係資料を基に、原処分庁が採用した類似同業者の抽出基準及び抽出状況を調査した結果、原処分庁は、上記(2)のニの(ロ)のとおり、本件類似同業者を抽出していると認められる。
         原処分庁の抽出条件である、上記(2)のニの(ロ)の1「Y2国税局管内で歯科医業を営む個人事業者であること」及び同3「歯科医業に係る年間の売上金額が請求人の売上金額の2分の1以上、2倍以下の者であること」という基準は、所得税法施行令第164条第1項第3号に規定する請求人の事業の種類及び規模並びにその収益の状況を考慮しているから、類似同業者を選定するものとして相当である。
         また、上記(2)のニの(ロ)の2「青色申告者で所得税の青色申告決算書を提出している者であること」及び同4「青色事業専従者が歯科衛生士の資格を有する配偶者のみの者であること」という基準についても、類似同業者を選定するものとして合理性が認められる。
         ところで、原処分庁は、類似同業者の抽出に当たって、上記(2)のニの(ロ)のAのとおり、本件基準5の「常勤」に関し、常勤で雇用されていない歯科医師とは、「毎日一定の時間、常時勤務していない歯科医師、また、本務として専任でない歯科医師」と定義していたことが認められるが、「毎日一定の時間、常時勤務していない歯科医師、また、本務として専任でない歯科医師」という定義自体がそもそも明確であるとは言い難い。
         なお、原処分庁は、上記(2)のニの(ロ)のBのとおり、原処分に係る調査において請求人から提示された本件使用人のタイムカードから、本件使用人のうちの歯科医師の具体的な稼働状況を確認し、請求人を「歯科医師の資格を有する者を常勤で雇用していない者である」と判断しているのに対し、上記(2)のニの(ロ)のCのとおり、請求人の類似同業者が本件基準5に該当するか否かを判断する際、雇用されている歯科医師の個別具体的な勤務時間等の勤務状況をその該当性の判断に用いていないため、本件基準5について、抽出された本件類似同業者と請求人との間に必ずしも類似性が認められるとは言い難い。
         以上のことからすれば、原処分庁が採用した本件基準5は、抽出基準として相当でない。
      • B 当審判所が採用した類似同業専従者給与比準方式の検討結果
         上記(2)のニの(ロ)の原処分庁が採用した抽出基準のうち、1Y2国税局管内で歯科医業を営む個人事業者であること、2青色申告者で所得税の青色申告決算書を提出している者であること、3歯科医業に係る年間の売上金額が請求人の売上金額の2分の1以上、2倍以下の者であること及び4青色事業専従者が歯科衛生士の資格を有する配偶者のみの者であることという基準は、上記Aのとおり、類似同業者を選定するものとして合理性が認められる。
         なお、当審判所は、上記抽出基準の1につき、本件各年の中途において開廃業、休業又は業態を変更しておらず、また、申告に対する更正処分等が行われ不服申立て、訴訟が係属している者は除く、という前提を付加するとともに、本件各年につき年間を通じて青色事業専従者給与を支払っていることという基準を付加することが相当と判断した。
  • ニ 適正給与相当額の算定
     本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額を算定するに当たっては、上記ハの(イ)のとおり、使用人給与比準方式によることは相当でなく、上記ハの(ロ)のとおり、類似同業専従者給与比準方式によることが相当である。
     そこで、上記ハの(ロ)のBの抽出基準により選定された類似同業者の青色事業専従者が本件各年において支払を受けた給与の額の平均額を計算すると、それぞれ別表3−1及び別表3−2の「審判所認定額」欄のとおり、平成26年が〇〇〇〇円、平成28年が〇〇〇〇円となる。
     そうすると、本件各青色専従者給与額は、類似同業専従者給与比準方式により算定した本件各年の上記のそれぞれの金額と比較して、平成26年分が〇〇倍(〇〇〇〇円を〇〇〇〇円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)、平成28年分が〇〇倍(〇〇〇〇円を〇〇〇〇円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)となり、本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額と認めることはできない。
     したがって、本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額は、上記のとおり、類似同業専従者給与比準方式により算定した平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円となる。
  • ホ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、本件配偶者の労務の性質及び労務提供の程度については、上記3の「請求人」欄の(1)及び(2)のとおりであり、それらのことからすれば、請求人が本件配偶者に対して支払った本件各青色専従者給与額は、労務の対価として相当なものである旨主張する。
       しかしながら、本件配偶者の労務の性質及びその提供の程度を前提として、使用人給与比準方式及び類似同業専従者給与比準方式により検討しても、請求人の主張する本件各青色専従者給与額が適正給与相当額と認められないことについては、上記ハ及びニのとおりである。
       なお、上記(2)のハのとおり、本件配偶者の労務提供の程度を示す客観的な資料はなく、また、本件事業の事業主である請求人自身が本件配偶者の労務提供の程度を明確に把握していたとも認められず、当審判所に対して、請求人からその程度に関する資料の提出もない状況の中では、請求人の主張を基に適正給与相当額を算定することはできない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(3)のイのとおり、原処分庁は本件配偶者の業務内容を十分に把握していない旨主張する。
       しかしながら、原処分庁は、原処分に係る調査の結果、本件配偶者が、1歯科衛生士業務、2レセプト請求に関する業務、3銀行手続に関する業務、4窓口受付事務、5使用人の給与計算事務及び6現金出納帳の作成等の経理事務の労務に従事していたと認定していたと認められるから、原処分庁が本件配偶者の業務内容を十分に把握していなかったとはいえない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(3)のイのとおり、原処分庁は、使用人給与比準方式の検討において、本件配偶者が診療補助業務以外の業務にも従事している事実を認めながら、診療補助業務のみに従事する本件歯科衛生士が本件各年において支払を受けた給与の額と本件各青色専従者給与額とをそれぞれ比較する手法を採用しており、当該手法に意味は認められない旨主張する。
       しかしながら、原処分庁は、所得税法施行令第164条第1項の規定に従い、本件各青色専従者給与額と労務の性質が本件配偶者と最も類似する本件歯科衛生士が本件各年において支払を受けた給与の額の平均額及び本件歯科衛生士の中で本件各年において支払を受けた給与の額が最も高い者の給与の額とをそれぞれ比較し検討したものであって、原処分庁の検討に意味が認められないとはいえない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ニ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(3)のロのとおり、原処分庁は歯科衛生士の資格を青色事業専従者が有していることを類似同業者の抽出条件の一つとして挙げているが、その前提となる青色事業専従者の労務に従事した期間や労務の性質及びその提供の程度が不確定な状況で、どのようにその類似性を担保するのかといった問題がある旨主張する。
       しかしながら、仮にそのような不確定な状況であったとしても、上記ハの(ロ)のとおり、類似同業専従者給与比準方式は、本件事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する青色事業専従者の個別具体的事情が捨象される合理的な方法であり、また、その類似性の担保に問題は認められない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 本件各更正処分の適法性について

当審判所で認定した本件配偶者の本件各年分の適正給与相当額は、上記(3)のニのとおり、平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円となる。
 以上を前提として、本件各年分の事業所得の金額を計算すると、平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円となり、請求人にはその他の所得金額はないから、本件各年分の総所得金額は、平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円となる。
 そして、当該総所得金額に基づき本件各年分の請求人の納付すべき税額を算定すると、平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円となり、本件各更正処分における金額(平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円)をいずれも下回るから、本件各更正処分はいずれもその一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

本件各更正処分は、上記(4)のとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分の基礎となる税額は、平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円となる。
 また、これらの税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、国税通則法(平成26年分については平成28年法律第15号による改正前のもの。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の過少申告加算税の額は、平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円となり、本件各賦課決定処分の金額(平成26年分が〇〇〇〇円、平成28年分が〇〇〇〇円)にいずれも満たないから、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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