(令和元年11月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の母が、原処分庁による調査の結果に基づいて、請求人の亡兄の相続に係る相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、申告漏れ相続財産のうち、母が関与税理士に伝えなかった預金については、母がこれを隠ぺいし、相続財産として申告しなかったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、母は当該預金を隠ぺいしたものではないなどとして、母の死亡に伴い納税義務を承継した請求人が原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
     また、通則法第65条第2項は、同条第1項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、同項の過少申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
  • ロ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の兄であるF(以下「本件被相続人」という。)は、平成27年4月○日に死亡し、本件被相続人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
     なお、本件相続に係る相続人は、本件被相続人の母であるG(以下「本件相続人」という。)のみである。
  • ロ 本件相続人は、平成27年5月15日、H銀行○○支店において、別表1の本件被相続人名義の預金3口(口座番号○○○○、○○○○及び○○○○。以下「本件預金」という。)を解約し、同支店の本件相続人名義の口座に預け入れる相続手続をした。
  • ハ 本件相続人は、平成27年8月10日、本件相続に係る相続税の申告書の作成をJ税理士に依頼した。
  • ニ 本件相続人は、本件相続に係る相続税について、相続税の申告書に別表2の「当初申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した(以下、当該申告を「本件申告」という。)。
  • ホ 本件相続人は、平成30年4月24日、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)を受けた。
  • ヘ 本件相続人は、平成30年7月17日、本件調査の結果、本件預金のほか本件被相続人名義のK銀行の預金や国債など合計〇〇〇〇円の相続財産の申告漏れがあるとして、課税価格及び納付すべき税額を別表2の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を提出した。
  • ト 請求人は、本件相続人が平成30年7月○日、死亡したことから、通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項の規定により、本件相続人の納税義務を承継した。
  • チ 原処分庁は、平成30年8月27日付で、請求人に対して、別表2の「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした(以下、当該重加算税の賦課決定処分を「本件重加算税賦課決定処分」という。)。
  • リ 請求人は、本件重加算税賦課決定処分を不服として、平成30年11月24日に審査請求をした。

2 争点

本件預金の申告漏れについて、本件相続人に通則法第68条第1項に規定する事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件相続人は、平成27年5月15日に、H銀行○○支店において本件預金を解約して同支店の本件相続人名義の口座に預け入れ、本件相続の開始日において本件預金があることを知っていたにもかかわらず、J税理士に本件預金の存在を伝えることなく、本件申告において本件預金を本件被相続人の相続財産に含めなかった。このことは、通則法第68条第1項に規定する事実の隠ぺい、又は仮装したところに基づいて故意に脱漏したと評価することができる。
 また、本件調査は本件相続人の同意の下で円滑に実施されたところ、本件預金をJ税理士に伝えなかったとする供述はJ税理士の立会いの下、本件相続人から任意に得られたものであり、信用性に疑いがあるものではない。
 なお、本件預金は本件被相続人名義であるところ、本件相続人は、本件調査担当職員に対し、本件預金は本件被相続人のものと考えてよい旨申述しており、加えて、本件調査において、本件預金が本件相続人のものであるとする事実は確認されていない。
本件相続人は、本件預金を除く約○○○○円超の財産の存在をJ税理士に伝えていたところ、約○○○○円の本件預金だけを伝えないことに利益はなく、本件相続人には、本件預金を隠ぺいする意図はなかった。
 また、本件相続人が本件調査担当職員に行ったとされる供述を記述した調査報告書には、本件相続人の署名押印が無く真正に作成されたものとは認められず、○歳という極めて高齢である本件相続人の供述には、任意性及び信用性に疑問があり人道的見地からも故意に関する証拠となり得ない。
 仮に、本件相続人が、J税理士に本件預金の存在を伝えなかったとしても、本件被相続人が闘病生活の中、本件相続人が本件預金の管理の実権を握っていたと思われることから、本件預金を自己の財産と認識していたからにほかならず、隠匿とも故意の脱漏とも評価する要素がない。
 以上のとおり、通則法第68条第1項に規定する隠ぺいに該当する事実はない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度の趣旨は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい又は仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとする行政上の措置である。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。
 しかし、上記重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件調査において、本件預金の預金通帳は使用済通帳として本件相続人から本件調査担当職員に提示された。
  • ロ 本件相続人は、H銀行○○支店の本件相続人名義の口座について、本件預金を原資とする金員の預入れをした日(平成27年5月15日)以降、平成30年4月26日に至っても当該口座を解約していなかった。

(3) 本件調査担当職員が、平成30年4月26日付で作成した調査報告書には、要旨、本件調査担当職員が本件預金について、J税理士に「基本的には、先生に見せていないということは隠ぺいととられませんか。」と問い掛けたのに対し、J税理士は「わたしにみせていないのだからそうなります。」と申述した旨の記載があった。

(4) J税理士は、平成31年3月25日、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。

  • イ 本件相続人から本件預金に係る通帳を提示されなかったことは事実だが、本件相続人が本件預金を隠ぺいしたのか又は(本件預金に係る通帳の)単なる提示漏れだったのかどうか、確たることは分からない。
  • ロ 本件調査担当職員から受けた調査結果説明の内容を本件相続人に伝え、修正申告書に押印をしてもらったが、その際、本件相続人に変わった様子はなく、私の話も理解していたと思う。

(5) 検討

原処分庁は、本件預金の申告漏れについて、本件相続人が本件預金の存在を知っていたにもかかわらず、J税理士へ本件預金の存在を伝えなかったことについて、事実の隠ぺいあるいは故意に脱漏したと評価できる旨主張する。
 しかしながら、この主張の根拠となる上記(3)によれば、J税理士が本件調査担当職員に対し、「わたしにみせていないのだからそうなります。」と述べているだけであって、申述時におけるJ税理士の認識を述べているに過ぎない。この申述内容からは、本件相続人がJ税理士に対して、本件預金の存在を、過失により伝えなかったのか、意図的に伝えなかったのかということまでは判別できず、あえて本件預金の存在を伝えなかったという意図まで読み取ることは到底できない。
 そして、その他の原処分庁から提出されている証拠や当審判所に対するJ税理士の答述(上記(4)のイ)を踏まえても、本件相続人が本件預金の存在をJ税理士に伝えなかったことは認められるとしても、必ずしも本件相続人が本件預金を相続財産であることを認識した上で、あえてこれを伝えなかったとまで認めることはできない。
 また、本件相続人は、上記1の(3)のロのとおり、本件預金について自ら解約手続を行い、本件相続人名義の口座へ入金していた事実からすれば、本件相続人が本件預金の存在を知っていたことは認められる。しかしながら、本件相続人は、本件預金を原処分庁が容易に把握し得ないような他の金融機関や本件相続人名義以外の口座などに入金したのではなく、解約した本件預金の口座と同じ金融機関の本件相続人名義の口座に入金していたのである。また、上記(2)のロのとおり、本件相続人は、平成27年5月15日に当該入金をした後、平成30年4月26日に至っても当該口座を解約していなかった。これらのことからすると、本件相続人が原処分庁をして本件預金の発見を困難ならしめるような意図や行動をしているとは認められない。
 さらに、本件相続人は、本件預金の預金通帳が使用済通帳として破棄できる状況にありながら、本件調査が行われるまで保管し、上記(2)のイのとおり、本件調査の際には、本件調査担当職員の求めに応じて、本件預金の使用済通帳を素直に提示していること、本件調査担当職員から本件預金を含めた本件被相続人名義の財産の申告漏れを指摘されると、上記(4)のロのとおり、特段の弁明をすることなく当該事実を認め、修正申告の勧奨に応じて修正申告をしていることなどの事情からしても、本件相続人が、本件預金を故意に本件申告の対象から除外する意図があったものとは認め難い。そして、その他原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、本件預金を故意に本件申告の対象から除外したと推認させる事実を認めるに足りる証拠はない。
 これらによれば、本件相続人が当初から相続財産を過少に申告する意図を有し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものと認めることはできない。
 そうすると、通則法第68条第1項に規定する課税標準等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められない。

(6) 本件重加算税賦課決定処分の適法性について

以上のとおり、本件相続人が本件預金を本件申告の相続財産に含めなかったことについて、隠ぺい又は仮装に基づくものであるとは認められないから、通則法第68条第1項所定の重加算税の賦課要件を満たさない。
 他方、本件預金が修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、同条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、本件重加算税賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件重加算税賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき違法である。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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