(令和元年11月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が法人税等の確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁が、請求人が所有する山林の売却により生じた所得に係る法人税等の決定処分等をしたのに対し、請求人が、原処分において損金の額として認められた費用等とは別に損金の額に算入されるべきものがあるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 法人税法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、1当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額(第1号)、2上記1に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(第2号)及び3当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(第3号)とする旨、同条第4項は、同条第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び同条第3項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨、それぞれ規定している。
  • ロ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第2項は、同法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、当該納税者に対し、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成〇年〇月○日に設立された農場、山林及び果樹園の経営等を目的とする有限会社(平成18年5月1日以後は、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条第1項の規定により株式会社として存続する特例有限会社)であり、平成〇年〇月○日に解散した。平成15年6月18日から請求人が解散するまでの間、代表取締役(平成27年11月13日に取締役が1名となった後は取締役)はEであったが、請求人の解散に伴い、Eが清算人となった(以下、同人を「本件代表者」という。)。
  • ロ 請求人は、平成14年3月20日、G社から、別表1記載の1ないし11の山林11筆(以下「本件山林」という。)を含む土地(以下「本件土地」という。)を18,000,000円で購入した。
  • ハ 請求人は、青色の申告書以外の申告書(いわゆる白色申告書。以下「白色申告書」という。)を提出する法人であり、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度の法人税について平成25年6月20日に、平成25年4月1日から平成26年3月31日まで及び平成26年4月1日から平成27年3月31日までの各事業年度(以下、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度と併せて「前3期各事業年度」という。)の法人税について法定申告期限までに、白色申告書に所得金額を「〇〇〇〇円」と記載して、各確定申告書(別表一(一)のみ)を原処分庁にそれぞれ提出した。
  • ニ 請求人は、平成27年6月12日、H社との間で、本件山林を100,000,000円で譲渡する旨の契約(以下「本件契約」といい、本件契約に基づきされた本件山林の譲渡を「本件譲渡」という。)を締結し、同日、本件契約に基づき、H社から手付金10,000,000円を現金で受領した。
  • ホ 平成27年12月18日、H社から、請求人名義のJ銀行○○支店の口座番号○○○○の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)に、本件契約に係る売買代金の残金90,000,000円が振り込まれ、本件契約に基づき、同日、本件山林につき売買を原因とする所有権移転登記がなされた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税及び平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」といい、本件事業年度と併せて「本件事業年度等」という。)の地方法人税(以下、法人税と併せて「法人税等」という。)について、いずれも確定申告書を原処分庁に提出しなかった。
  • ロ 原処分庁は、平成30年4月27日付で、別表2の「決定処分等」欄のとおり、本件事業年度等の法人税等の各決定処分及び重加算税の各賦課決定処分をした。
  • ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、平成30年7月26日に再調査の請求(以下「本件再調査請求」という。)をしたところ、再調査審理庁は、同年10月24日付で別表2の「再調査決定」欄のとおり、当該各処分の一部を取り消す再調査決定をした(以下、その一部が取り消された後の本件事業年度等の法人税等の各決定処分を「本件各決定処分」といい、重加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)。
  • ニ 請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成30年11月26日に審査請求をした。

2 争点

(1) 請求人が費用と主張する金額(別表3に記載の各金額。以下「本件各金員」という。)は、本件事業年度の損金の額に算入されるか否か(争点1)。

(2) 請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽又は仮装」に該当する事実があったか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各金員は、本件事業年度の損金の額に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件各金員は、以下の理由により、本件事業年度の損金の額に算入されない。 本件各金員は、以下の理由により、本件事業年度の損金の額に算入される。
イ 本件各金員は、1請求人が支出したとは認められないもの並びに2その支出の内容が不明であること及びその支出が請求人のいかなる業務と関連するのかが不明であることから請求人の事業の遂行上必要であるとは認められないものである。
 また、本件各金員のち、本件事業年度以外の事業年度に帰属する販売費、一般管理費その他の費用の額については、帰属する事業年度の損金の額に算入すべきものである。
イ 本件各金員は、本件山林を維持管理し、価値を高めるための工事等の費用であり、請求人が請求人の事業に関連して支出したもの、又は本件代表者が請求人に代わって、請求人の事業に関連して支出したものである。
ロ 請求人が平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度の法人税の確定申告書に添付した平成18年3月31日現在の貸借対照表には、土地が固定資産として計上されているが棚卸資産としては計上されていないこと、及び請求人は本件山林に太陽光発電施設の設置場所として賃貸するための防災工事等を行っていることから、本件譲渡は固定資産の譲渡に該当するものと判断され、本件譲渡による収入に係る原価と認められる金額は、原処分において既に本件事業年度の損金の額に算入されている。 ロ 本件譲渡は棚卸資産の譲渡に当たるから、本件山林を転売するまでの各事業年度において生じた本件各金員は、全て本件山林の売却に係る原価の額に当たり、法人税法第22条第3項第1号の規定に該当することから、本件山林を売却した日の属する事業年度である本件事業年度の損金の額に一括して算入すべきである。
ハ 本件各金員が本件事業年度の損金の額に算入されるためには、本件各金員それぞれが、本件事業年度において、法人税法第22条第3項各号の規定のいずれかに該当することが必要なのであって、本件土地の売買が請求人の唯一の事業であるか否かということは関係がない。 ハ 請求人は、別段の経常的な事業を営んでいなかったのであるから、請求人の唯一の事業は本件土地の売買であり、本件各金員が、本件山林の売却に係るものであることは明らかである。

(2) 争点2(請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽又は仮装」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
以下の事実からすると、請求人は、本件事業年度等の法人税等について、申告すべき所得金額及び納付すべき税額が生ずることを明確に認識していながら、確定的な意思に基づいて無申告を貫いたものと認められ、このことは、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認められることから、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったことは、通則法第68条第2項に規定する事実の隠蔽又は仮装に該当する。
  • イ 請求人が、本件事業年度の直前の2事業年度について、いずれも法定申告期限内に申告をしていたこと。
  • ロ 本件代表者は、本件山林の購入及び売却に係る契約に関与しており、本件契約の存在及びその取引金額を認識していれば、本件事業年度等の法人税等について、申告すべき所得金額及び納付すべき税額が生ずることを容易に認識し得たと認められること。
  • ハ 本件代表者は、本件契約を締結した平成27年6月の直近である同年3月に、原処分庁所属の職員に、山林を譲渡する場合に法人税額が生じない特例はないかという相談をしていたこと。
  • ニ 本件代表者は、原処分庁所属の原処分調査に係る調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)による請求人の事業に係る書類の提示要求に対し、「税務署が勝手にしたらよい。」、「確定申告はしない。」、「そのうち時効が来る。」などと申述し、書類の提示を拒否し続けたこと。
  • ホ 本件代表者は、合理的な理由なく、本件預金口座から、自己が管理していたと認められる本件代表者の母名義の預金口座に6,000万円を振り替えるなどして、本件譲渡に係る売買代金の一部を移動させ、請求人に納税するための資金がないとの外形を整えたこと。
以下のとおり、請求人に通則法第68条第2項に規定する隠蔽又は仮装に該当する事実はない。
  • イ 本件代表者は、本件山林の売却代金から、本件山林の取得費及び費用を差し引くと赤字となり税金が生じないと考えたから申告をしなかったものであり、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図していたわけではない。
  • ロ 本件代表者は税法に関する知識がなく、原処分庁に対する適正な指導を希望して相談等をした。
  • ハ 上記イと同様の理由で、本件調査担当職員に対しても、必要がないと考えたから請求人の事業に係る書類を提示しなかった。

4 当審判所の判断

(1)  争点1(本件各金員は、本件事業年度の損金の額に算入されるか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、本件再調査請求に至って初めて、本件事業年度の損金の額に算入される追加の費用がある旨主張し、当該費用を支出した証拠として、1領収証等の写し、2請求書等の写し、3納品書等の写し、4見積書等の写し、5平成25年6月14日から平成26年10月6日までの期間に係るK銀行○○支店の請求人名義の普通預金通帳(口座番号○○○○)の写し及び6L社と請求人との取引履歴を記載したものと思われる書面の写しを再調査審理庁に提出した。
    • (ロ) 請求人は、当審判所に対し、上記(イ)の各書類とおおむね同様の証拠書類(以下「本件当初提出証拠書類」という。)のほか、追加の証拠書類(以下「本件追加提出証拠書類」という。)として、別表3の「本件追加提出証拠書類」欄に記載のものを提出した(以下、本件当初提出証拠書類及び本件追加提出証拠書類を併せて「本件領収証等」という。)。
    • (ハ) 本件各金員のうち、本件事業年度において支出されたと認められるものは別表3の順号156の金員のみであり、当該金員は、平成27年7月22日、収入印紙購入のために支出されたものであった。
  • ロ 本件代表者の申述
    • (イ) 本件代表者は、平成29年3月31日、本件調査担当職員に対し、本件山林の売却に関し、帳簿書類等は作成していない旨申述した。
    • (ロ) 本件代表者は、本件再調査請求に係る調査において、再調査審理庁所属の調査担当職員に対し、別表3の順号20の金員は、本件山林の工事に使用する重機械を取得するために支出したものであり、当該重機械は、平成26年8月の台風の時に、水に浸かって壊れてしまった旨申述した。
  • ハ 本件各金員の損金該当性等についての検討
     本件各金員が損金の額に算入されるためには、法人税法第22条第3項各号の規定のいずれかに該当する必要があるところ、本件譲渡が棚卸資産の譲渡に該当するか固定資産の譲渡に該当するかは別として、まずは、本件各金員が同項各号の規定に該当するか否かを検討する。
     なお、本件各金員のうち、1別表3の順号105及び順号152の各金員は、いずれも請求人が誤って振り込んだものであること並びに2同表の順号119の金員は、同表の順号117のM協同組合との取引に係る金員と重複するものであることから、同表の順号105、順号152及び順号119の各金員は、いずれも本件事業年度の損金の額に算入できるものではないと認めるのが相当であるため、以下、当該各金員を本件各金員から除いて検討する。
    • (イ) 法人税法第22条第3項の法令解釈等
       法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、同項第1号の当該事業年度の収益に係る売上原価等の額、同項第2号の販売費、一般管理費その他の費用の額、及び同項第3号の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとする旨規定している。当該各規定に照らせば、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することができる支出は、当該法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきであり、支出のうち、使途の確認ができず、業務との関連性の有無が明らかではないものについては、損金の額に算入することができないというべきである。  
    • (ロ) 本件各金員の法人税法第22条第3項第1号の該当性について
       請求人は、上記ロの(イ)のとおり、本件山林の売却に関し、帳簿書類等は作成しておらず、さらに、本件各金員に係る本件領収証等の業務関連性について個別に説明を求めても、全て原価の額に該当する旨を主張するのみで客観的かつ具体的な説明をしなかった。また、当審判所の調査によっても、本件各金員はいずれも、法人税法第22条第3項第1号に規定する「売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額」に該当するとは認められない。
    • (ハ) 本件各金員の法人税法第22条第3項第2号の該当性について
       上記イの(ハ)のとおり、本件各金員のうち、本件事業年度において支出されたものは別表3の順号156の金員のみであり、その他については、本件事業年度において支出されたものはなく、債務として確定していた可能性のある金員もない。
      そこで、別表3の順号156の金員について検討すると、証拠として提出されたレシートの内容からは、上記イの(ハ)のとおり、収入印紙の購入のための支出であったことは認められるものの、上記ロの(イ)のとおり、請求人は、帳簿書類等は作成しておらず、また、当審判所の調査によっても、当該収入印紙の用途、請求人の業務との関連性及び請求人の支出であることを客観的に判断することはできない。
       したがって、本件各金員はいずれも、法人税法第22条第3項第2号に規定する「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額」に該当するとは認められない。
    • (ニ) 本件各金員の法人税法第22条第3項第3号の該当性について
       請求人からは、法人税法第22条第3項第3号に規定する損失の額に該当する金員についての具体的な主張はなく、当審判所の調査によっても、本件各金員のうち、本件事業年度に発生した損失の額に相当すると認められる金員はない。なお、上記ロの(ロ)のとおり、本件代表者は、請求人が取得した重機械が水に浸かって壊れてしまった旨申述しているが、それにより何らかの損失が生じていたとしても、当該損失は平成26年8月に発生したものであるから、本件事業年度の損金の額に算入すべきものではない。
       したがって、本件各金員はいずれも、法人税法第22条第3項第3号に規定する「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」に該当するとは認められない。
    • (ホ) 小括
       以上のとおり、本件譲渡が棚卸資産の譲渡に該当するか固定資産の譲渡に該当するかを判断するまでもなく、本件各金員は、請求人の本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、本件譲渡は棚卸資産の譲渡に当たることから、本件山林を転売するまでの各事業年度において生じた本件各金員は、全て本件山林の売却に係る原価の額であるから、本件事業年度の損金の額に一括して算入すべきである旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(ホ)のとおり、本件各金員は、請求人の本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない
    • (ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイ及びハのとおり、本件各金員は、請求人が請求人の事業に関連して支出したもの、又は本件代表者が請求人に代わって請求人の事業に関連して支出したものであり、また、請求人は、別段の経常的な事業を営んでいなかったのであるから、本件各金員は、本件山林の売却に係るものであることは明らかである旨主張する。
       しかしながら、上記ハのとおり、本件各金員はいずれも、法人税法第22条第3項各号の規定に該当しないから、本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽又は仮装」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第2項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、当該納税者に対して重加算税を課する旨規定している。この隠蔽又は仮装に基づく無申告に対して重加算税を課する制度は、納税者が無申告について隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
     したがって、重加算税を課するためには、納税者による無申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、無申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告行為を要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに申告をしなかったような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件土地の購入に係る不動産売買等契約証書及び本件契約に係る売買契約書には、本件代表者の記名なつ印があった。
    • (ロ) 本件代表者は、平成27年3月頃、原処分庁所属の職員に対し、請求人が所有する山林を譲渡する場合に法人税額が発生しない特例がないかどうかという趣旨の相談(以下「本件相談」という。)をした。
    • (ハ) 本件調査担当職員は、平成29年3月14日、本件事業年度等の法人税等の調査のため本件代表者の自宅に臨場し、請求人の事業の状況を聴取し、本件代表者から本件契約に係る売買契約書及び本件預金口座に係る通帳の提示を受けるとともに、本件契約に係る売買代金の決済方法等の説明を受けた。
      また、本件代表者は、本件調査担当職員に対し、本件契約に係る売買代金を原資として、本件事業年度において本件代表者の親族からの請求人の借入金に係る返済をした旨申述した。
    • (ニ) 本件調査担当職員は、平成29年3月31日及び同年4月14日、本件事業年度等の法人税等の調査のため本件代表者の自宅に臨場し、請求人の事業に係る書類の提示を求めたが、本件代表者は、請求人の事業に係る書類、領収証等の整理ができていないことを理由に、上記(ハ)の同年3月14日に提示した書類以外の書類の提示をしなかった。
      また、平成29年4月14日、本件代表者は、本件調査担当職員に対し、請求人の本件事業年度の所得の計算においては、上記(ハ)の借入金に係る返済の額を差し引くべきである旨申述した。
    • (ホ) 本件調査担当職員は、日程調整や請求書、領収証等の確認のため、平成29年5月9日から同年10月23日までの間、16回にわたって本件代表者に電話をかけたが、電話が通じなかったり、電話が通じても請求人はこれに応じなかった。
    • (へ) 本件調査担当職員は、平成30年1月10日及び同月15日、本件代表者に電話をかけ、調査のための日程調整及び請求人の事業に係る書類の提示等を要請したが、請求人は、これに応じなかった。
    • (ト) 本件調査担当職員は、平成30年4月9日、本件代表者に電話をかけ、調査の状況の説明のための日程調整を要請したが、本件代表者は本件調査担当職員に対し、「勝手にしろ、申告もしない。」などと発言し、これに応じなかった。
    • (チ) 本件調査担当職員は、平成30年4月11日、同月13日及び同月19日、本件代表者に電話をかけ、調査の状況の説明のための日程調整を要請したが、本件代表者は本件調査担当職員に対し、「勝手にしろ、そのうち時効が来る。」などと発言し、これに応じなかった。
    • (リ) 請求人は、平成27年12月25日、本件預金口座から、本件代表者の母であるN名義の口座に60,000,000円を振り替えた。
  • ハ 検討
     原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたことが、請求人の一連の行動からうかがえ、通則法第68条第2項に規定する隠蔽又は仮装の事実があったと認められる旨主張するので、以下、検討する。
    • (イ) 請求人は、上記1の(3)のハのとおり、前3期各事業年度の法人税について、いずれも所得金額を「○○○○円」と記載して各確定申告書をそれぞれ提出しており、本件事業年度の直前の2事業年度については、法定申告期限内に各確定申告書をそれぞれ提出していた。また、上記1の(3)のイ、ロ及びニ並びに上記ロの(イ)のとおり、本件代表者は、本件山林の購入及び売却に係る契約に関与していた。さらに、本件代表者は、上記ロの(ロ)のとおり、本件相談をしていた。
      これら請求人の行動からは、請求人が本件事業年度等の法人税等について、法定申告期限までに申告する必要があることは認識していたと認められる。
    • (ロ) 本件代表者は、上記ロの(ニ)ないし(チ)のとおり、本件調査担当職員の度重なる税務調査への協力要請に応じなかったことは認められるものの、上記ロの(ハ)のとおり、本件調査担当職員が、平成29年3月14日、本件事業年度等の法人税等の調査のため本件代表者の自宅に臨場した際には、本件契約に係る売買契約書及び本件預金口座に係る通帳を提示し、本件契約に係る売買代金の決済方法等について説明している。また、請求人は、上記ロの(ハ)及び(ニ)のそれぞれのまた書のとおり、本件事業年度等の法人税等の調査当初から、事業に関連する支出の存在を主張し、さらに、上記(1)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、再調査審理庁及び当審判所に対し、当該支出に関する証拠書類を提出したことからすると、当該支出が、法人税法第22条第3項各号の規定により本件事業年度の損金の額に算入することができるか否かは別として、請求人は本件譲渡による所得が生じていないと認識していた可能性も否定できない。これらのことからすると、当該協力要請に応じなかったことをもって明確な無申告の意図に基づく行為であったと評価することはできない。
    • (ハ) なお、上記ロの(リ)のとおり、請求人が、本件預金口座から、N名義の口座に60,000,000円を振り替えた事実は認められるものの、上記1の(3)のホのとおり、本件契約に係る売買代金の残金90,000,000円は、一旦は本件預金口座に入金されていたのであるから、その後、請求人が60,000,000円をいずれかの口座に振り替えたとしても、そのことが無申告の意図に基づく行為と評価する余地はない。
    • (ニ) 以上のとおり、請求人は、本件事業年度等の法人税等について、法定申告期限までに確定申告書の提出が必要であったことを認識しながら、これをしなかったことは認められるものの、無申告行為そのものとは別に、請求人が、当初から法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとはいい難い。
       したがって、請求人に、通則法第68条第2項に規定する隠蔽又は仮装の事実があったと認めることはできない。

(3) 本件各決定処分の適法性について

上記(1)のハのとおり、本件各金員は、本件事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入されないこととなる。当審判所において、これに基づき算出した請求人の本件事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額並びに本件課税事業年度の地方法人税の課税標準法人税額及び納付すべき税額は、いずれも本件各決定処分と同額となる。
 また、本件各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各決定処分は適法である。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(2)のハのとおり、請求人の行為は、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たさないところ、他方、期限内申告書の提出がなかったことについて、同法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、当審判所において、請求人が納付すべき本件事業年度の法人税に係る無申告加算税の額を計算すると〇〇〇〇円(別紙1の「取消額等計算書」の4参照)となり、また、請求人が納付すべき本件課税事業年度の地方法人税に係る無申告加算税の額を計算すると〇〇〇〇円(別紙2の「取消額等計算書」の3参照)となる。
 したがって、本件各賦課決定処分は、いずれも無申告加算税相当額を超える部分の金額につき違法があるから、その一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すのが相当である。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る