(令和2年12月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、納税者E社の滞納国税を徴収するため、不動産の公売公告処分及び最高価申込者の決定処分を行ったのに対し、審査請求人(以下「請求人」という。)が、公売不動産の隣接地の実質所有者は請求人であり、隣接地の一部が公売不動産に含まれているため、請求人の権利が侵害されているとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、一般土木建築の設計施工請負等を目的として、平成8年7月○日に設立された法人であり、代表取締役はBである。
     また、E社(以下「本件滞納法人」という。)は、一般土木建設業、貸ビル、貸マンション業及び管理業務等を目的として、昭和60年9月○日に設立された法人であり、令和元年7月20日から令和2年1月27日までの代表取締役はFであるが、その前後の期間の代表取締役はBである。
  • ロ 原処分庁は、本件滞納法人の滞納国税を徴収するため、平成4年8月14日、本件滞納法人が所有する別表記載の不動産(以下「本件公売不動産」という。)を差し押さえた。
  • ハ 原処分庁は、令和元年10月18日、本件公売不動産について公売公告を行い(以下「本件公売公告処分」という。)、その後、同年11月18日、最高価申込者の決定を行った(以下、「本件最高価申込者決定処分」といい、本件公売公告処分と併せて「本件各公売処分」という。)。
  • ニ 請求人は、登記上の所有名義は第三者のG(a県e市f町○−○に所在する寺院)であるものの請求人が実質所有している本件公売不動産の隣接地と、本件公売不動産との境界を原処分庁は誤り、本件各公売処分を行っていることから、隣接地の所有者としての権利が侵害されているとして、令和元年11月7日、本件公売公告処分に対する再調査の請求をし、その後、同月27日、本件最高価申込者決定処分に対する再調査の請求をした。
  • ホ 再調査審理庁は、令和元年12月16日付で、原処分庁は境界が判然としない本件滞納法人が所有する本件公売不動産を公売しているにすぎず、本件公売不動産が公売されたとしても、請求人は、直接自己の権利又は法律上の利益を侵害された者に当たるとはいえないので、本件各公売処分の取消しを求める請求の利益を有しないとして、いずれも却下の再調査決定をした。
  • ヘ 請求人は、令和2年1月17日、再調査決定を経た後の本件各公売処分に不服があるとして審査請求をした。

2 請求人の主張

本件公売不動産の隣接地であるa県e市f町○−○及び同○の土地(以下「本件隣接地」という。)は、登記上の所有名義はGとされているが、平成29年6月19日付合意書により、本件滞納法人がGのために昭和60年代から行ってきたG所有地の管理業務及び借地整理業務に係る管理委託報酬及び立替金の代物弁済として、本件滞納法人又は請求人に譲渡されている。
 本件公売不動産と本件隣接地との境界について、本件滞納法人と請求人との間に争いはなく、境界は客観的に明らかであり、本件公売不動産の公簿地積は合計1,112.15uとされているが、実際の地積は461.22uしかなく、登記されている地積が誤りであることは明らかである。
 原処分庁は、本件公売不動産の使用状況として、12棟の家屋を明記し、第三者所有建物の敷地として賃貸しているとして本件公売公告処分をしているが、このうち6棟の建物は本件隣接地上にある建物であるから、原処分庁は本件公売不動産と本件隣接地との境界を誤っており、本件隣接地の所有者である請求人の権利を侵害している。

3 当審判所の判断

(1) 審査請求の審理に当たっては、まず、請求人が不服申立てをすることができる資格を有するか否かを判断する必要があるところ、国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定しており、この「国税に関する法律に基づく処分に不服がある者」とは、その処分によって直接自己の権利又は法律上の利益を侵害された者であることを要すると解される。

(2) これを本件についてみると、請求人は、本件各公売処分の名宛人ではなく、上記2のとおり、本件隣接地の所有者として権利が侵害されていると主張する第三者である。そこで、本件各公売処分において、第三者である請求人が直接自己の権利又は法律上の利益を侵害された者に当たるかどうか以下検討する。

  • イ 土地はその性質上、人工的に特定の範囲を定め、地域、地番、地目、地積を明らかにして表示登記をすることにより、公法上、一筆の土地ごとに特定されている。
     そして、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第89条《換価する財産の範囲等》第1項の規定では、公売処分は、差し押さえた財産について行うものであるところ、1不動産の差押処分は、地番により特定された一筆の土地ごとに行われ、徴収法上、差押処分に当たっては、現況図を添付することもなく、現地における特定も法定されていないこと、2不動産の差押えに当たっては、徴収法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》第3項の規定により、差押えの登記を関係機関に嘱託しなければならず、また、同項が規定している土地への差押登記は、不動産登記法第16条《当事者の申請又は嘱託による登記》第1項及び同法第34条《土地の表示に関する登記の登記事項》第1項第2号の規定によって、公法上の一筆の地番ごとにされていることからすると、差押処分の効力は、嘱託登記により差押登記が付された地番以外の土地に及ぶと解することはできず、当該地番の土地にしか発生しないこととなる。そうすると、公売処分もまた、公法上の一筆の土地を対象として行われるものである。
  • ロ 以上のとおり、徴収法上、土地の差押手続は、土地の地番ごとに行うことから、差押処分の効力も当該地番の土地にしか及ばない。そして、上記1の(2)のロの差押処分で特定された本件公売不動産の地番の土地に、本件隣接地の地番の土地が含まれることは法律上あり得ないから、請求人は、本件公売不動産について所有権を主張しているわけではなく、本件隣接地の所有権を主張する者にとどまるものというべきである。
     そうすると、本件各公売処分により、請求人において直接自己の権利又は法律上の利益が侵害されることはないから、請求人は、本件各公売処分について不服申立てをできる者には当たらないというべきである。
  • ハ ところで、上記2のとおり、請求人は、本件隣接地の登記名義はGとされているが所有者は請求人であると主張し、また、公簿地積は合計1,112.15uの本件公売不動産について、実際の地積は合計で461.22uしかないと主張していることから、基礎的な事実関係の調査等を踏まえ、本件審査請求に係る請求人の主張の真意を慎重に確認する必要があると考えられたため、当審判所において担当審判官を指定し、通則法第97条《審理のための質問、検査等》の規定に従い、審理関係人に対する聴き取りや現地確認を行うなどの職権調査を実施し、公簿その他の証拠書類を検査したものである。しかしながら、当審判所における職権調査の結果を踏まえても、上記イ及びロの判断を覆すに足る事実を証拠上認定できず、したがって、請求人は、本件各公売処分によって、直接自己の権利又は法律上の利益が侵害された者とは認められないというべきである。

(3) 以上のとおり、請求人は、通則法第75条第1項に規定する「国税に関する法律に基づく処分に不服がある者」に該当しないので、本件審査請求はいずれも不適法なものである。) 

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