(令和5年4月12日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により取得した宅地に小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該宅地の一部は当該特例を適用することができないとして相続税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語等については、以下、本文及び別表においても使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 相続の状況
    • (イ) G(以下「本件被相続人」という。)は、令和元年10月○日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
       本件相続に係る共同相続人は、いずれも本件被相続人の子であるH(以下「本件長女」という。)及び請求人の2名である。
    • (ロ) 本件相続に係る遺産分割協議は、令和2年3月1日付で成立し、本件相続に係る相続財産のうち次表の順号1の土地(以下「本件宅地」という。)及び本件宅地の上に存する同表の順号2の建物(以下「本件共同住宅」という。)は請求人が取得した。
  • 順号 財産の種類 所在・地番 地目又は種類(構造) 地積又は床面積
    土地 d市e町○○○○ 宅地 181.85平方メートル
    建物 d市e町○−○ 共同住宅
    (木造2階建)
    185.08平方メートル
  • ロ 本件共同住宅の状況
     本件共同住宅は、木造2階建て全8部屋で構成されており、本件相続の開始の直前において、101号室、103号室及び105号室の3部屋が貸し付けられ(以下、当該3部屋を「本件各貸付部分」という。)、102号室、201号室、202号室、203号室及び205号室の5部屋が空室であった(以下、当該5部屋を「本件各空室部分」という。)。
  • ハ 申告等の状況
    • (イ) 請求人は、別表1の「申告」欄のとおり、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに本件長女と共同で提出した。
       本件申告書において、請求人及び本件長女は、本件宅地について、別表2の1の「申告」欄のとおり評価した上、同表の2の「申告」欄のとおり本件特例を適用した価額を課税価格に算入した。また、請求人及び本件長女は、本件長女がJ社の年金受給権(以下「本件年金受給権」という。)を生命保険契約の保険金として取得したとして、他の生命保険金と併せて相続税法第12条《相続税の非課税財産》第1項第5号の非課税財産を控除した価額を課税価格に算入した。
    • (ロ) 原処分庁は、これに対し、別表1の「更正処分等」欄のとおり、令和4年3月28日付で本件相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
       本件更正処分において、本件宅地は、別表2の1の「更正処分」欄のとおり評価された上、同表の2の「更正処分」欄のとおり本件特例を適用した価額が課税価格に算入されている。また、本件更正処分において、本件年金受給権は、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項第1号に規定する生命保険契約の保険金に該当しないとして、同法第12条第1項第5号の非課税財産を控除しない価額が課税価格に算入されている。
    • (ハ) 請求人は、令和4年6月17日、本件更正処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

(1) 本件各空室部分に係る本件宅地の部分に本件特例の適用があるか否か(争点1)。

(2) 本件年金受給権に関して過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各空室部分に係る本件宅地の部分に本件特例の適用があるか否か。)について

原処分庁 請求人
以下の理由により、本件各空室部分に係る本件宅地の部分に本件特例の適用はない。 以下の理由により、本件各空室部分に係る本件宅地の部分に本件特例の適用がある。
イ 本件宅地に被相続人等の事業の用以外の用に供されていた部分があること イ 本件宅地に被相続人等の事業の用以外の用に供されていた部分がないこと
(イ) 措置法施行令第40条の2第4項の規定によると、本件特例の適用を受けようとする宅地等のうちに被相続人等の事業の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の事業の用に供されていた部分に限って本件特例を受けることができるものとされているから、本件宅地の全体が本件特例の適用を受けることができるのは、本件被相続人が本件相続の開始の直前において、本件共同住宅の全8室を貸付事業の用に供していた場合に限られると解するのが相当である。 (イ) 本件特例に係る法令には、「賃貸割合」を乗じて計算するとは規定されておらず、貸付事業の用に供していれば本件特例は適用されるものであるから、本件各空室部分を除いた賃貸割合を乗じて計算する必要はない。
(ロ) また、措置法通達69の4−24の2では、相続開始の時に一時的に賃貸されていなかった部分も貸付事業の用に供されていた宅地等に含まれる旨定めている。 (ロ) 国税庁のホームページに掲載されているタックスアンサーNo.5400-2では、「事業の用に供した日」とは、現実に入居がなかった場合でも、建物が完成し、入居募集を始めていれば、事業の用に供したものと考えられる旨記載されている。
(ハ) 本件相続の開始の直前において、本件各空室部分については、賃借人が入居していなかった。
 また、1本件各空室部分は、賃貸されていない期間が本件相続の開始の前後にわたり長期に及んでいると認められること、2本件各空室部分が空室となった直後から新規の入居者を募集しているなどの事情はなかったと推認できること、3本件各空室部分についていつでも入居可能な状態に空室を管理していたとする事情も認められないことから、本件各空室部分は、本件相続の開始の直前において一時的に賃貸されていなかったと認められるものではない。
 そして、請求人のインターネットサイトの募集広告については、いつ、誰が新規の入居者の募集を依頼したなどの具体的な内容が明らかでないことから、本件各空室部分について空室になった直後から新規の入居者の募集をしていたとは認められない。
 したがって、本件各空室部分に係る本件宅地の部分が本件相続の開始の直前において貸付事業の用に供されていたとは認められない。
(ハ) 本件共同住宅は、本件相続の開始日の直前において、本件各空室部分があったものの、維持管理を行っており、その費用は一般的に経費として認められていることからも分かるように、貸付事業以外の用に供しておらず、空室であっても事業を営んでいた。
 また、本件各空室部分については、本件被相続人が複数のインターネットサイトで入居者の募集をしている。
 したがって、本件宅地は、その全てが貸付事業の用に供されていた宅地である。
ロ 請求人が、本件被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該貸付事業の用に供していなかったこと
 本件各空室部分は、令和元年8月から令和3年9月までの間は空室であるところ、請求人が、本件相続の開始の時から本件相続税の申告期限までに、本件各空室部分について新規の入居者を募集するなど、いつでも入居可能な状態に空室を管理していたとは認められないことから、本件各空室部分に係る本件宅地の部分について、請求人が本件被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該貸付事業の用に供していたとは認められない。
ロ 請求人が、本件被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該貸付事業の用に供していたこと
 本件相続の開始の時以降、請求人は本件各空室部分については、新たな入居者の募集を行っていないが、複数のインターネットサイトでは、本件相続の開始の時以降も募集広告が出ているので、請求人が本件被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該貸付事業の用に供していた。

(2) 争点2(本件年金受給権に関して過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。)について

請求人 原処分庁
以下の理由により、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する事情がある。 以下の理由により、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する事情はない。
イ 本件年金受給権の申告方法について、本件長女が税務職員へ相談したところ、明確な回答がなく不十分な対応をされ、また、生命保険金として取りあえずそのまま申告するよう指導された。 イ 本件長女による本件年金受給権の申告方法に関する税務職員への相談については、具体的な相談内容などの事実関係が明らかではない。
ロ 請求人は、本件相続税の申告後、法定申告期限までに適切な指導を受けていれば、適切な申告ができていたし、故意に誤った申告をしたものではない。 ロ 相続税法は、相続税について申告納税制度を採用しており、申告納税制度の下では、税務署長からの申告誤りの指摘の有無にかかわらず、自らの判断と責任において、法令の規定に基づき課税標準等及び税額等を正しく計算し、法定申告期限内に申告しなければならないことからすれば、原処分庁が本件年金受給権に係る申告誤りについて法定申告期限までに指導しなかったとしても、そのことをもって正当な理由があると認められるものがある場合に該当する事情とはならない。
 なお、過少申告加算税は、本件申告書に係る申告が単に過少申告であるという客観的事実のみによって、請求人に対し課されることとなるので、請求人が故意に誤った申告をしたものではないとしても、そのことをもって過少申告加算税が課されないこととはならない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各空室部分に係る本件宅地の部分に本件特例の適用があるか否か。)について

  • イ 法令解釈等
    • (イ) 本件特例は、別紙の2の(1)及び(2)のとおり、1相続財産である宅地等が、相続の開始の直前において、被相続人等の貸付事業の用に供されていて、建物の敷地の用に供されているものであって(措置法第69条の4第1項)、2被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、被相続人の親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していることなどの要件を満たす「貸付事業用宅地等」(同条第3項第4号)に該当するときに適用されるものである。
    • (ロ) また、措置法施行令第40条の2第4項では、別紙の2の(4)のとおり、本件特例の適用を受けようとする宅地等のうちに被相続人等の事業の用以外の用に供されている部分があるときは、当該被相続人等の本件特例に規定する事業の用に供されていた部分に限ると規定している。
    • (ハ) そして、措置法通達69の4−24の2では、別紙の2の(6)のとおり、1貸付事業の用に供されていた宅地等であるか否かは、相続開始の時において、当該宅地等が現実に貸付事業の用に供されていたかどうかにより判定することを原則としつつ、2貸付事業の用に供されていた宅地等には、貸付事業に係る建物のうちに相続開始の時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合における当該部分に係る宅地等の部分が含まれることを定めている。
       この点、本件特例の趣旨は、相続の開始の直前において、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等が相続人等の生活基盤の維持のために不可欠のものであること、雇人及び取引先等事業者以外の多くの者の社会的基盤にもなり、事業を継続させる必要性が高いことなどから、相続の開始の直前に事業の用に供されていた宅地等に限って、相続税の課税価格の計算上減額を認めたものであると解されるから、同69の4−24の2において、上記1のとおり、原則として相続開始の時に当該宅地等が現実に貸付事業の用に供されていたかどうかにより判定するとされた定めは、当審判所においても相当であると認められる。また、被相続人等が従来から貸付事業を行ってきた宅地等上の建物について、相続開始の時にたまたま一時的に賃貸されていなかった部分がある場合にまで、当該建物の部分に係る宅地等の部分が貸付事業の用に供されていなかった旨の判定を行うことは実情に即したものとはいえないと考えられることから、一時的に賃貸されていなかったと認められる当該建物の部分に係る宅地等の部分も貸付事業の用に供されていた宅地等に含まれる旨の上記2の定めも、当審判所において相当であると認められる。
       そして、本件特例の趣旨等からすれば、上記の「一時的に賃貸されていなかったと認められる」場合とは、賃貸借契約が相続開始の時に終了していたものの引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在し、現に賃貸借契約終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結されたなど、相続開始の時の前後の賃貸状況等に照らし、実質的にみて相続開始の時に賃貸されていたのと同視し得るものでなければならないというべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件被相続人は、平成20年5月21日、K社○○店(以下「本件不動産業者」という。)との間で、本件共同住宅に関して一般媒介契約を締結した。
       なお、本件共同住宅に関して、本件被相続人と本件不動産業者は上記契約以外の契約は締結しておらず、本件不動産業者は本件共同住宅に係る集金業務及び管理業務を行っていない。
    • (ロ) 本件共同住宅については、平成20年5月頃から本件申告書の提出期限(以下「本件申告期限」という。)に至るまで、複数の不動産業情報サイト(以下「本件各情報サイト」という。)に、問合せ先を本件不動産業者として入居者の募集をする旨の広告が掲載されていた。
       なお、本件不動産業者では、オーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続しており、また、広告の掲載のみでは手数料を取らず、新たに入居者があるときに仲介手数料を取っている。
    • (ハ) 本件不動産業者は、平成20年5月に本件被相続人と上記(イ)の一般媒介契約を締結してから、本件申告期限に至るまでの間、本件共同住宅に関して入居者を仲介した実績はない。
       また、本件不動産業者は、1か月に1回程度、広告掲載の依頼者に入居の状況を確認しているところ、平成26年当時の本件共同住宅について、102号室、105号室、202号室、203号室及び205号室が空室であると把握していたが、本件被相続人と連絡が取れなかったことにより、平成27年以降の本件共同住宅の空室の状況を把握していない。
       なお、下記(ニ)のとおり、平成26年当時の本件共同住宅の105号室は、実際には空室ではなく賃貸中であった。
    • (ニ) 本件相続の開始の時及び本件申告期限における本件共同住宅の賃貸状況等は、次表のとおりである。
       なお、上記1の(3)のイの(ロ)のとおり、遺産分割協議により本件宅地及び本件共同住宅は請求人が取得したところ、本件共同住宅の101号室、103号室及び105号室の賃貸については、請求人が本件被相続人の貸付事業を引き継いでいる。
  • 部屋
    番号
    賃貸状況 《本件相続の開始の時の賃貸状況が次の場合》
    賃貸中:賃貸借契約日
    空室:空室時期(本件相続の開始の時までの期間)
    本件相続の開始の時 本件申告期限
    101 賃貸中 賃貸中 平成13年6月9日契約
    102 空 室 空 室 平成27年4月以前から空室(4年6か月以上)
    103 賃貸中 賃貸中 平成15年4月30日契約
    105 賃貸中 賃貸中 平成25年5月15日契約
    201 空 室 空 室 令和元年8月から空室(約2か月)
    202 空 室 空 室 平成27年4月以前から空室(4年6か月以上)
    203 空 室 空 室 平成27年4月以前から空室(4年6か月以上)
    205 空 室 空 室 令和元年5月から空室(約5か月)
  • ハ 検討
    • (イ) 本件宅地は、本件相続の開始の直前において、本件被相続人の貸付事業の用に供されていたと認められるか否か
       上記イの(イ)及び(ロ)で述べたことからすれば、本件相続の開始の直前において、本件宅地が貸付事業の用に供されていたと認められるのは、本件共同住宅のうち貸付事業の用に供されていた部分に係る本件宅地の部分に限られることとなり、その判定は、同(ハ)のとおり、措置法通達69の4−24の2の定めによることが相当であるところ、本件共同住宅の賃貸の状況は、上記ロの(ニ)のとおり、本件相続の開始の時において、本件各貸付部分と本件各空室部分があることから、それぞれの部分に係る本件宅地の部分について、貸付事業の用に供されていたと認められるか否かを検討する。
      • A 本件各貸付部分に係る本件宅地の部分
         本件各貸付部分は、上記ロの(ニ)のとおり、本件相続の開始の時において、各賃借人に貸し付けられていたから、本件各貸付部分に係る本件宅地の部分は、本件相続の開始の直前において、本件被相続人の貸付事業の用に供されていたと認められる。
      • B 本件各空室部分に係る本件宅地の部分
        • (A) 本件各空室部分については、上記ロの(ニ)のとおり、本件相続の開始の時において、いずれも貸し付けられておらず空室であった。
           そこで、上記イの(ハ)のとおり、本件各空室部分が、一時的に賃貸されていなかったと認められるものであるか否かについて検討する。
        • (B) この点、上記ロの(ニ)のとおり、本件各空室部分のうち102号室、202号室及び203号室については、平成27年4月以前から空室であり、本件相続の開始の時において少なくとも4年6か月以上の長期にわたって空室の状態が続いていたのであるから、客観的に空室であった期間だけみても、実質的にみて本件相続の開始の時に賃貸されていたのと同視し得る状況にはなかったというべきであるから、一時的に賃貸されていなかったものとは認められない。
        • (C) また、本件各空室部分のうち201号室及び205号室については、上記ロの(ニ)のとおり、本件相続の開始の時から約2か月前又は約5か月前にそれぞれ入居者が退去しており、空室であった期間は長期にわたるものではない。
           しかしながら、これらの空室についても、本件相続の開始の時において一時的に賃貸されていなかったものとは認められない。
           すなわち、上記ロの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件被相続人は平成20年に本件不動産業者と一般媒介契約を締結し、本件各情報サイトには本件相続の開始の時においても本件共同住宅の入居者を募集する旨の広告が掲載されていたものの、本件不動産業者が本件共同住宅に関して入居者を仲介した実績がないこと、本件不動産業者が本件被相続人と連絡が取れなかったことにより平成27年以降の本件共同住宅の空室の状況を把握していなかったこと、本件不動産業者ではオーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続する扱いをしていたことからすれば、平成27年以降においては、本件被相続人が上記一般媒介契約及び上記広告を放置していたにすぎず、積極的に本件共同住宅の新たな入居者を募集していたとはいえない。現に、上記ロの(ニ)のとおり、本件各空室部分のうち201号室及び205号室については、本件申告期限までの期間をみても、新たな入居者はなく、空室のままの状態であった。
           そうすると、本件各空室部分のうち201号室及び205号室についても、本件相続の開始の時の約2か月前又は約5か月前にそれぞれ入居者が退去した後は、賃貸される具体的な見込みがあったとはいえず、空室のままの状態にされていたというほかないから、実質的にみて本件相続の開始の時に賃貸されていたのと同視し得る状況にはなく、一時的に賃貸されていなかったものとは認められない。
        • (D) 以上からすれば、本件各空室部分は、いずれも、一時的に賃貸されていなかったとは認められないから、本件相続の開始の直前において、本件各空室部分に係る本件宅地の部分は、本件被相続人の貸付事業の用に供されていたとは認められない。
    • (ロ) 本件宅地が「貸付事業用宅地等」に該当するか否か
       本件各貸付部分に係る本件宅地の部分は、上記(イ)のAのとおり、本件被相続人の貸付事業の用に供されており、上記ロの(ニ)のとおり、請求人が本件相続の開始の時から本件申告期限までの間に本件宅地に係る本件被相続人の貸付事業を引き継ぎ、本件申告期限まで引き続き本件宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していると認められるから、措置法第69条の4第3項第4号に規定する「貸付事業用宅地等」に該当する。
       他方で、本件各空室部分に係る本件宅地の部分は、上記(イ)のBのとおり、本件被相続人の貸付事業の用に供されていたとは認められず、また、請求人が本件相続の開始の時から本件申告期限までの間に本件宅地に係る本件被相続人の貸付事業を引き継ぎ、本件宅地を貸付事業の用に供していたとも認められないから、措置法第69条の4第3項第4号に規定する「貸付事業用宅地等」に該当しない。
    • (ハ) 小括
       したがって、本件各空室部分に係る本件宅地の部分は、本件特例を適用することができない。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、本件宅地の全てを貸付事業の用に供していた旨、本件特例に係る法令には「賃貸割合」を乗じて計算するとは規定されておらず、貸付事業の用に供していれば本件特例は適用されるものである旨を主張する。
       しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、措置法施行令第40条の2第4項は、本件特例の適用を受けようとする宅地等のうちに被相続人等の事業の用以外の用に供されている部分があるときは、当該被相続人等の事業の用に供されていた部分に限り、本件特例の適用を受けることができる旨規定している。そして、同項は、本件特例の趣旨が、同(ハ)のとおり、生活基盤の維持及び個人事業者の事業の継承等を図るために、相続の開始の直前に事業の用に供されていた宅地等に限って、特に相続税の課税価格の優遇措置を認めたものであることを踏まえて、被相続人等の事業の用に供されている宅地等であっても、事業の用以外の用に供されている部分があるときは、当該部分は本件特例の適用の対象から除外する旨の規定であると解される。そうすると、宅地等のうち事業の用以外の用に供されている部分の有無の判断についても、上記趣旨に沿って行われなければならないというべきである。具体的に検討すると、例えば、宅地等上にある共同住宅の一部の部屋を賃貸用とし、その他の部屋を賃貸用としていなかった場合に、当該共同住宅の一部の部屋を賃貸用としていたことをもって、当該宅地等の全部が貸付事業の用に供されていたと判断し得るとされてしまうと、本件特例の適用範囲が不明確になる上、その適用範囲が安易に拡大され、本件特例が濫用されるおそれも生じかねないから、上記の場合には、賃貸用としていた部屋に相当する宅地等の部分に限って本件特例の適用を認めることが、本件特例及び同項の趣旨に沿うものであるというべきである。
       また、同項の文言上も、被相続人等の事業の用以外の用に供されていた「部分」と規定されているところ、「部分」とは、必ずしも物理的に分割した一部のみを指すのではなく、割合的に分割した一部を指すこともあるから、共同住宅の全部屋のうち賃貸用としていた部屋に係る割合をもって、賃貸用としていた部屋に相当する宅地等の部分を特定し、その部分に限って本件特例の適用を認めることは、同項の文理に反するものでもない。
       そうすると、本件共同住宅の一部が賃貸されていたことをもって、本件宅地の全部が貸付事業の用に供されていたということはできないから、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイ及びロのとおり、本件共同住宅は、本件相続の開始の直前においては本件各空室部分があったものの、全てを貸付事業の用のみに供し、維持管理を行っており、それ以外の用途に供していない旨、本件各空室部分については、本件被相続人が複数のインターネットサイトで入居者の募集をしていた旨を主張する。
       しかしながら、上記ハの(イ)のBで述べたとおり、本件各空室部分については、本件被相続人が本件各情報サイトの広告を放置していたにすぎないなど、実質的にみて本件相続の開始の時に賃貸されていたのと同視し得る状況にはなく、一時的に賃貸されていなかったものとは認められない。
       また、本件各空室部分に係る本件宅地の部分が積極的に貸付事業以外の用に供されていなくても、貸付事業の用に供されていたものではない以上、措置法施行令第40条の2第4項に規定された「事業の用以外の用に供されていた部分」に該当するというべきである。
       したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件年金受給権に関して過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈
     過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
     上記の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
  • ロ 当てはめ及び請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件年金受給権の申告方法について、本件長女が税務職員へ相談したところ、生命保険金として取りあえずそのまま申告するよう指導されたこと、及び、本件相続税の申告後、法定申告期限までに適切な指導を受けていれば、適切な申告ができていたし、故意に誤った申告をしたものではないことをもって、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する旨を主張する。
       しかしながら、本件長女が税務職員にしたという相談の内容については、請求人の主張を踏まえても具体的に明らかになっていない上、税務職員による誤指導があったことを裏付ける証拠も見当たらない。
       また、税務署長が、納税者に対して申告の誤りについて法定申告期限までに是正できるよう措置を講ずべき旨定めた法令の規定はない上、相続税の申告は、本来、納税者自身の判断と責任においてなされるべきものであるから、原処分庁が法定申告期限内に請求人に本件相続税の申告の誤りを指摘せず、請求人が故意に誤った申告をしたものではなかったからといって、そのことをもって「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するとはいえない。
       なお、過少申告加算税は、上記イのとおり、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則として課されるものであり、過少申告の故意は課税要件ではないから、請求人が故意に誤った申告をしたか否かは、過少申告加算税の賦課決定の適法性の判断を左右するものではない。
    • (ロ) 以上によれば、請求人の主張する事情は、いずれも通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当せず、請求人の主張には理由がない。
       また、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人の主張する事情以外にも、同号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する事実は認められない。

(3) 本件更正処分の適法性について

上記(1)のとおり、請求人は、本件各空室部分に係る本件宅地の部分について本件特例を適用することはできないから、これを前提に、当審判所が請求人の本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「更正処分等」欄の各金額と同額となる。
 また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件更正処分は適法であり、上記(2)のとおり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しない。
 そして、当審判所においても、請求人の過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における金額と同額であると認められる。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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