(令和5年8月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、インド共和国所在の外国法人に対して支払った金員について、原処分庁が、当該金員は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に当たり、国内源泉所得に該当するとして、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分等を行ったことに対し、請求人が、当該金員の一部は「技術上の役務に対する料金」に該当しないなどとして、処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等の要旨は別紙2のとおりである。
 なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、エレクトロニックス製品、電気製品、情報関連機器の企画、開発、輸出入、販売、設置、工事及び保守管理並びにアプリケーションソフトウエアの企画、開発等を目的とする法人であり、家電や住宅設備をスマートフォンのアプリから操作することのできる「○○○○」の開発及びサービスの提供を主要事業としている。
  • ロ 請求人は、インド共和国(以下「インド」という。)に所在するJ社に対して、J社が発行したインボイス(以下「本件J社請求書」という。)に基づき、別表1−1のとおり金員を支払った(以下、J社に対して支払った各金員を「本件各J社支払金」という。)。
     J社は、インドの国内法である「THE LIMITED LIABILITY PARTNERSHIP ACT,2008」(以下「インドLLP法」という。)第12条(1)に従って設立されたソフトウエア及びハードウエア製品の開発を事業目的とするリミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ(以下「LLP」という。)であり、請求人は、J社の出資持分の99.9%を保有している。
     なお、インドLLP法の第3条(1)は、LLPは、この法律に基づき設立される法人であり、そのパートナーの法的主体とは別個の法的主体であるものとする旨規定している。
  • ハ 請求人は、インドに所在するK社との間で、平成31年1月4日から契約の効力を生ずるとする「〇〇〇〇Agreement」と題する書面(以下「本件K社契約書」という。)を作成し、「○○〇〇Platform」(以下「本件プラットフォーム」という。)に関する契約(以下「本件K社契約」という。)を締結した。
     また、請求人は、K社に対して別表1−2のとおり金員を支払った(以下、K社に対して支払った各金員を「本件各K社支払金」という。)。
  • ニ 請求人は、インドに所在するL社(以下、J社及びK社と併せて「本件各インド法人」という。)との間で、令和元年7月11日、「MASTER SERVICES AGREEMENT」と題する書面(以下「本件L社契約書」という。)を作成し、請求人がL社に対してウェブサイト及びモバイルアプリの設計及び開発に関するサービスの提供を依頼する旨の契約(以下「本件L社契約」という。)を締結した。
     また、請求人は、L社に対して別表1−3のとおり金員を支払った(以下、L社に対して支払った各金員を「本件各L社支払金」といい、本件各J社支払金及び本件各K社支払金と併せて「本件各支払金」という。)。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各支払金の支払の際に、源泉徴収に係る所得税を徴収せず、法定納期限までにこれを納付しなかった。
  • ロ 原処分庁は、令和4年5月27日付で、要旨本件各支払金が日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当し、同条第6項及び所得税法第162条の各規定により、国内源泉所得とみなされることになるため、請求人には、同法第212条等の規定に基づき源泉徴収に係る所得税の納付義務があるなどとして、請求人に対し、別表2の「納税告知処分等」欄のとおり、源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をした。
     このうち、本件各K社支払金の源泉徴収に係る所得税の額について、原処分庁は、本件各K社支払金を本件通達に定める税引手取額として、グロスアップ計算により算出した。
     なお、本件各インド法人は、令和4年5月2日、請求人を経由して、租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令(以下「租税条約等実施特例法施行省令」という。)第2条《相手国居住者等配当等に係る所得税の軽減又は免除を受ける者の届出等》第1項に規定する届出書を提出したことから、原処分庁は、各納税告知処分に当たり、租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(平成31年4月1日前に支払を受けるべきものについては、平成31年法律第6号による改正前のもの。以下「租税条約等実施特例法」という。)第3条の2《配当等又は譲渡収益に対する源泉徴収に係る所得税の税率の特例等》(平成31年法律第6号による改正前は《配当等に対する源泉徴収に係る所得税の税率の特例等》)第1項の規定に基づき、日印租税条約第12条第2項に規定する10%の限度税率を適用した。
  • ハ 請求人は、原処分を不服として、令和4年8月26日に審査請求をした。
  • ニ 原処分庁は、令和5年4月11日付で、上記ロの各納税告知処分等のうち、平成30年6月、平成30年7月及び令和元年5月の各月分について、別表2の「訂正告知処分等」欄のとおり、減額する各訂正告知処分及び不納付加算税の各変更決定処分をした。以下、上記ロの各納税告知処分(各訂正告知処分に係る月分については当該訂正告知処分後のもの)を「本件各納税告知処分」といい、上記ロの不納付加算税の各賦課決定処分(各変更決定処分に係る月分については当該変更決定処分後のもの)を「本件各賦課決定処分」という。

2 争点

(1) 本件各支払金は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当するか否か(争点1)。

(2) 本件各K社支払金について源泉徴収に係る所得税の額をグロスアップ計算で算出すべきか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各支払金は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
次のとおり、本件各支払金は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当する。 次のとおり、本件各支払金は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当しない。
イ 本件各J社支払金について イ 本件各J社支払金について
(イ) 本件各J社支払金は、請求人がJ社に対し依頼したAI・IoTを活用したサービスプラットフォームに係るシステムのソフトウエアの開発の対価であり、当該ソフトウエア開発は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術的性質の役務」に該当することから、当該役務の対価である本件各J社支払金は、「技術上の役務に対する料金」に該当する。
 また、J社は、インドLLP法に基づき設立された法人で、パートナーである請求人とは別個の法的主体であり、J社の従業員は請求人の従業員ではない。
 本件各J社支払金は、J社に対する支払金であり、本件各J社支払金は、請求人の従業員に対する支払金とは認められず、日印租税条約第12条第4項に規定する「支払者のその雇用する者に対する支払金」に該当しない。
(イ) J社は請求人がパートナーとして出資し、設立したLLPであり、法人格を有しているとしても、J社の利益及び損失は持分に応じて請求人に帰属するため、請求人とJ社が一体となって活動していることに変わりはなく、J社は請求人のインド支店的な存在である。
 請求人とJ社との間には、何ら契約が存在しておらず、本件各J社支払金は、J社の維持・管理に必要な資金の送付であることから、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」には該当しない。
 また、請求人とJ社は、一体となって製品開発並びにソフトウエア及びサービス開発を行っており、請求人が直接指揮命令を行い、給与支払権限も有していること等から、J社の従業員は実質的に請求人の従業員と同等であり、当該ソフトウエア開発に関係する費用は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」から除かれる「支払者のその雇用する者に対する支払金」に該当する。
(ロ) 本件各J社支払金の計算方法が、J社の運営に必要な費用の合計額に○%の利益を加えて計算されたものであったとしても、当該計算方法は、上記ソフトウエア開発の対価の金額の計算方法であることと矛盾は生じない。 (ロ) 本件各J社支払金は、J社の運営維持のために支出した毎月の費用の合計額に○%の利益を付加した金額であり、業務を委託した対価ではないこと等から、「技術上の役務に対する料金」に該当しない。
ロ 本件各K社支払金について
 請求人がK社に依頼した本件プラットフォームの開発は、コンピュータプログラムに関して専門的な知識を有する技術者によって提供された役務であるから、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術的性質の役務」であり、当該役務の対価である本件各K社支払金は、「技術上の役務に対する料金」に該当する。
ロ 本件各K社支払金について
 本件K社契約は、K社が開発した既存のソフトウエアに日本で利用するために機能を追加して完成した本件プラットフォームを請求人が購入する契約である。
 また、本件各K社支払金は、そのソフトウエア購入代金と機能の追加に係るカスタマイズ代金であるところ、本件K社契約において、1請求人は、本件プラットフォームに組み込まれた全てのソフトウエアコンポーネント及びアルゴリズムに対する全ての完全な権利を有する旨及び2遅くとも最終支払日の18ヶ月後には本件K社契約に記載された全ての相互義務は失効する旨定められており、請求人は複製・改変版・派生製品の国内外への再販売ができるようになることから、本件各K社支払金は、著作権の使用料の対価でもなく、ソフトウエアの譲渡対価である。
ハ 本件各L社支払金について
 請求人は、L社に対して、ウェブサイトの制作やモバイルアプリの開発を依頼しており、ウェブサイトのUI/UXデザイン及びモバイルアプリのUI/UXデザインに関する事項は、ウェブサイトの制作やモバイルアプリの開発の一部であることから、これらの役務は、コンピュータプログラムに関して専門的な知識を有する技術者によって提供された役務といえ、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術的性質の役務」であり、当該役務の対価である本件各L社支払金は、「技術上の役務に対する料金」に該当する。
ハ 本件各L社支払金について
 請求人は、L社にウェブサイトの制作及びUI/UXデザイン並びにモバイルアプリのUI/UXデザインを依頼したが、ウェブサイトの制作については請求人の求める成果物の納品がなかったことから対価を支払っていない。
 本件各L社支払金は、ウェブサイトのUI/UXデザイン及びモバイルアプリのUI/UXデザインの対価であり、UI/UXデザインは、画面の絵を描くことであり、プログラミングなど専門的な知識は必要なく、コンピュータプログラムとは関係ないことから「技術上の役務に対する料金」に該当しない。

(2) 争点2(本件各K社支払金について源泉徴収に係る所得税の額をグロスアップ計算で算出すべきか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人とK社との間においては、本件K社契約書第11条の4により、いかなる請求、責任及び費用からも請求人がK社を補償することについて合意したものと認められる。
 したがって、本件各K社支払金に係る所得税については、請求人が補償することになるから、本件各K社支払金について源泉徴収に係る所得税の額をグロスアップ計算で算出したことは適法である。
本件K社契約書第11条の4は、請求人が契約により購入したソフトウエアを事業で利用する上で、将来的に第三者から何らかの請求があったとしても、K社は責任を負わないとする事業に関する賠償責任の免責を定めた条文であり、税金の支払を免除するものではない。そもそも請求人は、本件K社契約において源泉徴収に係る所得税が課税されることを予見しておらず、当該条項に税金を負担する意図は含まれていない。
 したがって、本件各K社支払金について源泉徴収に係る所得税の額をグロスアップ計算で算出したことは誤りである。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各支払金は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当するか否か。)について

  • イ はじめに
     別紙2の3のとおり、所得税法第162条第1項は、租税条約において国内源泉所得につき同法第161条の規定と異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける者については、同条の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その租税条約に定めるところによる旨規定し、その租税条約が同条第1項第6号から第16号までの規定に代わって国内源泉所得を定めているときは、この法律中これらの号に規定する事項に関する部分の適用については、その租税条約により国内源泉所得とされたものをもってこれに対応するこれらの号に掲げる国内源泉所得とみなす旨規定している。
     次に、別紙2の8及び10のとおり、日印租税条約第12条は、第2項において、技術上の役務に対する料金が生じた締約国においても当該締約国の法令に従って租税を課することができる旨規定し、同条第6項において、技術上の役務に対する料金は、その支払者が一方の締約国の居住者である場合には、当該一方の締約国内において生じたものとされる旨規定している。
     これらのことからすると、日本法人が、インド法人に対して、インド国内において提供を受けた技術上の役務に対する料金を支払う場合には、当該料金は、日印租税条約第12条第2項及び第6項の規定により、日本の法令に従って租税を課すことができるとともに、日本国内において生じたものとされることから、日本の法令たる所得税法第162条第1項の規定により同法第161条第1項第6号に規定する国内源泉所得とみなされることとなり、そしてその結果、当該料金を支払った日本法人には、同法第212条等の規定に基づき源泉徴収に係る所得税を納付する義務があることとなる。
     また、別紙2の9のとおり、日印租税条約第12条第4項は、同条において、「技術上の役務に対する料金」とは、経営的若しくは技術的性質の役務又はコンサルタントの役務の対価としての全ての支払金をいう旨規定しており、ここにいう技術的性質の役務の対価にはソフトウエア開発に対して支払う対価が含まれることから、本件においては、本件各支払金がこれらの支払金に該当するか否かについて検討することとする。
  • ロ 本件各J社支払金について
    • (イ) 認定事実
       請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。  
      • A 請求人とJ社との間で、業務に関する契約書は作成していないものの、請求人とJ社の開発担当者は、開発フローを共有しており、請求人の開発担当者からJ社の開発担当者に対して、工程ごとに細分化された業務の一部が割り振られ、請求人とJ社の開発担当者は、協働でソフトウエアの開発作業を行っている。
      • B 本件J社請求書において摘要項目を記載する欄には、要旨「ソフトウエア開発、製品開発に関するサービスの料金」と記載されている。
         また、本件J社請求書の金額の内訳を示す書面である「○○請求書明細」によれば、本件各J社支払金は、J社の各月に発生した給与、賃料、旅費交通費等の合計額に○%の利益を加えた金額として算出されている。
    • (ロ) 検討
       J社は、上記1の(3)のロのとおり、ソフトウエア等の開発を事業目的とするLLPであり、インドLLP法に基づき設立された法人であるところ、インドLLP法上、J社は請求人とは別個の法的主体であることから、請求人のインドにおける支店とは認められず、また、請求人とJ社を一体とみなすことはできない。
       次に、上記(イ)のAのとおり、請求人とJ社の開発担当者は、開発フローを共有し、請求人の開発担当者からJ社の開発担当者に対して業務の一部が割り振られていることからすれば、請求人とJ社は、請求人の指揮管理の下で、協働でソフトウエアの開発業務を行っているものと認められる。
       これらのことからすれば、請求人とJ社との間で業務に関する契約書は作成していないものの、請求人とJ社との間でソフトウエアの開発業務に係る役務提供に関する合意があり、ソフトウエアの開発を事業目的とするJ社は、当該合意に基づきソフトウエアの開発業務を行っているものと認められる。
       したがって、当該ソフトウエアの開発業務に係る役務は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術的性質の役務」に該当する。
       また、請求人は、上記1の(3)のロのとおり、J社が発行した本件J社請求書に基づき本件各J社支払金を支払っているところ、上記(イ)のBのとおり、本件J社請求書には、「ソフトウエア開発、製品開発に関するサービスの料金」と記載されていることからすれば、J社は当該ソフトウエア開発業務に係る役務提供の対価を請求人に請求し、請求人は本件各J社支払金を支払ったものと認められる。
       したがって、本件各J社支払金は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当する。
    • (ハ) 請求人の主張について
       請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(イ)のとおり、J社は、請求人がパートナーとして出資し、設立したLLPであり、法人格を有しているとしても、J社の利益及び損失は持分に応じて請求人に帰属するため、J社は請求人のインド支店的な存在である旨主張し、また、請求人とJ社との間には、何ら契約が存在しておらず、本件各J社支払金は、J社の維持・管理に必要な資金の送付であることから、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」には該当しない旨主張する。
       しかしながら、上記1の(3)のロのとおり、インドLLP法上、J社は請求人とは別個の法的主体であることから、請求人のインドにおける支店とは認められず、請求人がJ社の出資持分の99.9%を保有していたとしても、請求人とJ社を一体とみなすことはできない。また、請求人とJ社との間で契約書を作成していなかったとしても、上記(ロ)のとおり、請求人とJ社との間でソフトウエアの開発業務に係る役務提供に関する合意があり、J社は、当該合意に基づきソフトウエアの開発業務を行っているものと認められるのであるから、請求人の主張は採用することができない。
       また、請求人は、J社の従業員は実質的に請求人の従業員と同等であり、本件各J社支払金は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」から除かれる「支払者のその雇用する者に対する支払金」に該当する旨主張する。
       しかしながら、上記のとおり、J社は請求人とは別個の法的主体であり、J社の従業員は請求人の雇用する者に該当しないことから、請求人の主張はその前提を欠くものである。
       次に、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(ロ)のとおり、本件各J社支払金は、J社の運営維持のために支出した毎月の費用の合計額に○%の利益を付加した金額であり、業務を委託した対価ではない旨主張する。
       しかしながら、上記(ロ)のとおり、請求人は、ソフトウエア開発業務に係る役務提供の対価として本件各J社支払金を支払ったものと認められ、本件各J社支払金が毎月のJ社の費用の合計額に○%の利益を付加した金額であったとしても、それは当該ソフトウエア開発業務に係る役務の対価の算定方法にすぎない。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
  • ハ 本件各K社支払金について
    • (イ) 認定事実
       請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。  
      • A 本件K社契約について
         本件K社契約書には、要旨次の内容が記載されている。
        • (A) 請求人は、K社が独自に開発したソフトウエアを基にカスタマイズされた本件プラットフォームを開発するに当たり、それへの支援を平成29年10月にK社に依頼した(本件K社契約書第1条)。
        • (B) 本件プラットフォームは、請求人及び(又は)K社を含む第三者が請求人のために既に開発した(又は開発中及び開発予定の)ソフトウエアコンポーネントとアルゴリズムで構成されている。本件プラットフォームは、請求人又はその子会社、関連会社が所有し運営するものである(又はそれを予定している。)(本件K社契約書第3条)。
        • (C) 本件K社契約書の付属書A及び付属書B(以下、それぞれ「付属書A」及び「付属書B」という。)は、本件プラットフォームにおける「定義済み機能」の開発/カスタマイズについて、両当事者が相互に合意した包括的な作業範囲を記述している。両当事者は、付属書A及び付属書Bにおいて既に定義されているものを超える追加/増分の作業範囲については、K社による技術的な実現可能性調査が必要となり、作業範囲に基づいて両当事者が相互に合意する追加の費用と時間で実行されることに同意する(本件K社契約書第4条a)。
        • (D) K社は、最終支払までに全ての「定義済み機能」を完成させることに同意する(本件K社契約書第8条《支払》5)。
        • (E) K社は、本件プラットフォームが付属書Aに記載された機能仕様に全ての重要な点において適合することを表明し、保証する。定義された業務範囲(付属書A)が完了し、かつ本件K社契約書第8条による支払を受けた時点で、K社は、本件プラットフォームに関する全てのソフトウエアとソースコードを「現状のまま」譲渡し、K社は、当該ソフトウエアに関する明示又は暗示の保証(商品責任又は特定目的への適合性を含むがこれに限らない。)を一切行わないものとする(本件K社契約書第10条《表明及び保証》8)。
      • B 付属書Aには、これまでに開発された本件プラットフォーム及び平成30年8月以降の新規開発要請について記載されており、付属書Bには、本件プラットフォームの基本機能が記載されている。
    • (ロ) 検討  
      • A 本件プラットフォームは、上記(イ)のAの(B)のとおり、請求人のために開発された(開発中及び開発予定を含む。)ソフトウエアコンポーネント及びアルゴリズムで構成されているところ、請求人は、同(A)のとおり、本件プラットフォームの開発の支援を平成29年10月にK社に依頼している。
      • B また、上記(イ)のBのとおり、本件プラットフォームの開発内容及び新規開発要請並びに基本機能を記載した付属書A及び付属書Bは、同Aの(C)のとおり、本件プラットフォームにおける「定義済み機能」の開発及びカスタマイズについて、請求人とK社が相互に合意した包括的な作業範囲を記述しているところ、付属書A及び付属書Bにおいて既に定義されているものを超える追加/増分の作業範囲については、K社による技術的な実現可能性調査を経た上で、請求人とK社が相互に合意する追加の費用と時間で実行されることとされており、付属書A及び付属書Bにおいて既に定義されている範囲を超える作業が生じた場合には、請求人とK社が別途合意した上で、K社が作業を行う旨合意したものと認められる。
         そうすると、付属書A及び付属書Bは、請求人とK社との間で、本件プラットフォームの開発におけるK社の業務の範囲を定めたものであると認められる。
      • C さらに、上記(イ)のAの(D)のとおり、K社は、最終支払までに全ての「定義済み機能」を完成させることとされており、同(E)のとおり、当該支払を受けた時点で本件プラットフォームに関する全てのソフトウエア等を請求人に引き渡すこととされている。
      • D 以上によれば、本件K社契約は、請求人がK社に対して、本件プラットフォームの開発の支援を依頼し、K社は、本件プラットフォームの開発に関して、原則として付属書A及び付属書Bにおいて定義された範囲の業務を行い、対価の最終支払までに当該定義された範囲の業務の全てを完了させ、本件プラットフォームに関する全てのソフトウエア等を請求人に引き渡す旨定めた契約であると認められる。
      • E これらの事実からすれば、本件プラットフォームの開発に関してK社が行った業務に係る役務は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術的性質の役務」に該当し、その対価として支払った本件各K社支払金は、同項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当する。
    • (ハ) 請求人の主張について
       請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、本件K社契約は、K社が開発した既存のソフトウエアに日本で利用するための機能を追加して完成した本件プラットフォームを請求人が購入する契約であり、本件各K社支払金は、そのソフトウエア購入代金と機能追加に係るカスタマイズ代金であるから、ソフトウエアの譲渡対価である旨主張する。
       しかしながら、上記(ロ)のとおり、本件K社契約は、請求人がK社に対して、本件プラットフォームの開発の支援を依頼し、K社が本件プラットフォームの開発に関して、定義された範囲の業務の全てを完了させるものであって、本件プラットフォームに関する全てのソフトウエア等を請求人に引き渡す旨の条項があったとしても、当該業務に係る役務の対価である本件各K社支払金は、ソフトウエアの譲渡対価ではないことから、請求人の主張には理由がない。
  • ニ 本件各L社支払金について
    • (イ) 認定事実
       請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。  
      • A L社について
         請求人と本件L社契約を締結したL社は、アプリケーション、ウェブサイト、その他の媒体の設計・開発サービスを顧客に対し提供する事業を営んでいる法人である。
      • B 本件L社契約について
         本件L社契約書には、要旨次の内容が記載されている。
        • (A) 請求人は、本件L社契約に基づき両当事者間で締結された付属書1(以下「本件L社付属書」という。)に記載されている、ウェブサイト及びモバイルアプリの設計及び開発に関するサービスの提供を受けるためにL社に打診した(本件L社契約書前文第3条)。
        • (B) L社は、「ウェブサイトUX/UIデザイン及びフロントエンド開発」及び「モバイルアプリUX/UIデザイン」につき、請求人チーム等と協働している。L社は、それが使いやすく、専門的、魅力的、かつ、請求人のブランドビジョンに合致したものになるように、インターフェイスをデザインし、開発する(本件L社付属書の「要求事項」)。
        • (C) 成果物は、タスクフロー、ワイヤーフレーム(ウェブ、モバイル)、UI画面(ウェブ、モバイル等)及びフロントエンド開発・HTML等である(本件L社付属書の「成果物」)。
    • (ロ) 検討
       請求人は、上記(イ)のA及び上記1の(3)のニのとおり、アプリケーション及びウェブサイト等の設計・開発サービスを事業とするL社との間で、本件L社契約を締結し、L社に対してウェブサイト及びモバイルアプリの設計及び開発に関するサービスの提供を依頼している。
       その具体的な内容は、本件L社付属書に定められているところ、上記(イ)のBの(B)のとおり、本件L社付属書の「要求事項」からすれば、L社が請求人から依頼を受けたのは、ウェブサイトのUX/UIデザイン及びフロントエンド開発並びにモバイルアプリのUX/UIデザインであり、L社は、それが請求人の要求を満たすように、インターフェイスをデザインし、開発することを求められたものと認められる。
       また、上記(イ)のBの(C)のとおり、本件L社付属書の「成果物」によれば、本件L社契約における成果物は、タスクフロー、ワイヤーフレーム(ウェブ、モバイル)、UI画面(ウェブ、モバイル等)及びフロントエンド開発・HTML等であり、これらの成果物は、いずれもウェブサイト又はモバイルアプリの作成過程で作成されるものであり、ウェブサイト又はモバイルアプリに関する技術及び知識がなければ作成し得ないものと認められる。
       これらのことからすれば、本件L社契約において、請求人は、アプリケーション及びウェブサイト等の設計・開発サービス等を事業とするL社に対してウェブサイト又はモバイルアプリに関する技術及び知識がなければできない役務を依頼し、L社は、本件L社契約に合意された役務を行ったのであるから、L社が行った役務は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術的性質の役務」に該当し、その対価として支払った本件各L社支払金は、同項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当する。
    • (ハ) 請求人の主張について
       請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のハのとおり、請求人は、ウェブサイトのUI/UXデザイン及び制作並びにモバイルアプリのUI/UXデザインをL社に依頼したところ、ウェブサイトの制作については請求人が求める成果物の納品がなされなかったことから対価を支払っておらず、本件各L社支払金は、ウェブサイト及びアプリケーションのデザインの対価であり、デザインはコンピュータプログラムとは関係ないことから、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当しない旨主張する。
       しかしながら、別紙2の9のとおり、日印租税条約第12条第4項は、「技術上の役務に対する料金」とは、「技術者その他の人員によって提供される役務を含む経営的若しくは技術的性質の役務又はコンサルタントの役務の対価としての全ての支払金」である旨規定し、その範囲をプログラミングサービスの提供に限定していない。仮に、請求人が主張するように、ウェブサイトの制作について請求人が求める成果物の納品まではされなかったとしても、上記(ロ)のとおり、請求人は、L社からウェブサイト又はモバイルアプリに関する技術及び知識がなければできない役務の提供を受け、当該役務は「技術的性質の役務」に該当すると認められるのであるから、請求人の主張には理由がない。
  • ホ 小括
     以上のとおり、本件各支払金は、いずれも日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当する。

(2) 争点2(本件各K社支払金について源泉徴収に係る所得税の額をグロスアップ計算で算出すべきか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件K社契約における業務の対価に関する事項は、本件K社契約書第8条に定められているところ、同条の8は、請求人は、日本以外の外国法域における売上税を一切納付しないものとする旨定められており、本件K社契約において、上記定め以外に税金の負担についての定めはない。
    • (ロ) 本件K社契約書第11条《補償及び責任》の4は、請求人は、今後、その顧客を含む第三者からのいかなる請求、責任及び費用(弁護士費用を含む。)からもK社を補償するものとする旨定められている。
  • ロ 検討
     本件通達は、給与等その他の源泉徴収の対象となるものの支払額が税引手取額で定められている場合には、源泉徴収税額をグロスアップ計算により計算することに留意する旨定めているところ、当該通達の取扱いは、支払額が税引手取額で定められている場合の源泉徴収税額の計算方法を明らかにしたものであり、当審判所においても相当と認められる。
     本件K社契約における業務の対価に関する事項は、上記イの(イ)のとおり、本件K社契約書第8条に定められているところ、同条の8において売上税に関する取決めはあるものの、本件K社契約には源泉徴収に係る所得税に関する条項はなく、その他、本件K社契約に関して、K社に支払う金銭とは別に請求人が源泉徴収に係る所得税を負担することを約したと認められる取決めはない。
     そうすると、本件K社契約には、請求人が支払う業務の対価の額は本件各K社支払金の額であると定められているものと認められ、本件各K社支払金の額に源泉徴収に係る所得税の額を加算した金額を業務の対価の額であると定められているものとは認められない。
     したがって、本件K社契約においては、業務の対価が本件通達に定める「支払額が税引手取額で定められている」ものとは認められず、本件各K社支払金について、源泉徴収に係る所得税の額をグロスアップ計算で算出することはできない。
  • ハ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、請求人とK社との間においては、本件K社契約書第11条の4により、いかなる請求、責任及び費用からも請求人がK社を補償することについての合意がされているため、本件各K社支払金に係る所得税については、請求人が補償することになるから、源泉徴収に係る所得税の額をグロスアップ計算で算出したことは適法である旨主張する。
     しかしながら、原処分庁がグロスアップ計算の根拠として掲げる本件K社契約書第11条は、契約を締結するに当たって、当該契約の履行に際しての契約違反や第三者からの訴訟等に備えて契約書に盛り込まれる条項であると認められ、同条により請求人が源泉徴収に係る所得税を負担することを合意したものとは認められず、本件K社契約における業務の対価は、上記イの(イ)のとおり、本件各K社支払金の額と認められるから、原処分庁の主張には理由がない。

(3) 本件各納税告知処分の適法性について

上記(1)のホのとおり、本件各支払金は日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に該当し、請求人は、本件各支払金につき源泉徴収義務を負うものの、上記(2)のロのとおり、本件各K社支払金について源泉徴収に係る所得税の額をグロスアップ計算で算出することはできない。
 また、上記1の(4)のロのとおり、本件各インド法人は、請求人を経由して、租税条約等実施特例法施行省令第2条第1項に規定する届出書を提出しているから、これを前提に所得税法第212条第1項、租税条約等実施特例法第3条の2第1項、日印租税条約第12条第2項及び東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第33条《復興特別所得税に係る所得税法の適用の特例等》第9項第1号の規定により徴収税額を計算することになる。
 以上に基づき、当審判所で請求人の納付すべき源泉徴収に係る所得税及び不納付加算税の額を計算すると、別表3「審判所認定額」のとおりとなり、このうち、平成30年6月、平成31年1月、令和元年6月、令和元年11月、令和2年3月、令和2年4月、令和2年7月から令和2年10月まで、令和2年12月から令和3年7月まで、令和3年9月、令和3年10月及び令和3年12月から令和4年3月までの各月分は、いずれも本件各納税告知処分の額と同額であり、平成29年10月、平成30年1月、平成30年3月、平成30年7月、平成30年11月、平成31年2月から令和元年5月まで、令和元年7月から令和元年10月まで、令和元年12月から令和2年2月まで、令和2年5月、令和2年6月及び令和2年11月の各月分は、いずれも本件各納税告知処分の額を下回る。
 なお、本件各納税告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各納税告知処分のうち、平成29年10月、平成30年1月、平成30年3月、平成30年7月、平成30年11月、平成31年2月から令和元年5月まで、令和元年7月から令和元年10月まで、令和元年12月から令和2年2月まで、令和2年5月、令和2年6月及び令和2年11月の各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分は、それぞれその一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり、取り消すべきであるが、これらの各月分を除く本件各納税告知処分は、本件各支払金以外に係る納税告知処分を含め、それぞれ適法である。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件各納税告知処分のうち、平成29年10月、平成30年1月、平成30年3月、平成30年7月、平成30年11月、平成31年2月から令和元年5月まで、令和元年7月から令和元年10月まで、令和元年12月から令和2年2月まで、令和2年5月、令和2年6月及び令和2年11月の各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分は、それぞれその一部を取り消すべきであるところ、不納付加算税の各賦課決定処分の基礎となる税額は、それぞれ別表3の「源泉所得税の額」欄のとおりとなる。また、当該源泉徴収に係る所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、請求人の不納付加算税の額はそれぞれ別表3の「不納付加算税の額」欄のとおりとなるところ、このうち、平成30年3月、平成30年7月、平成30年11月、平成31年2月から令和元年5月まで、令和元年7月から令和元年10月まで、令和元年12月、令和2年2月、令和2年5月、令和2年6月及び令和2年11月の各月分については、いずれも本件各賦課決定処分の額を下回り、これらの各月分以外のものは、いずれも本件各賦課決定処分の額と同額となる。
 したがって、本件各賦課決定処分のうち、平成30年3月、平成30年7月、平成30年11月、平成31年2月から令和元年5月まで、令和元年7月から令和元年10月まで、令和元年12月、令和2年2月、令和2年5月、令和2年6月及び令和2年11月の各月分については、別紙1「取消額等計算書」のとおり、それぞれその一部を取り消すべきであるが、これらの各月分を除く本件各賦課決定処分は、本件各支払金以外に係る賦課決定処分を含め、それぞれ適法である。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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