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(平4.9.7、裁決事例集No.44 118頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、内装工事業を営む者であるが、昭和62年分及び昭和63年分(以下「各年分」という。)の所得税の青色の確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成2年2月7日で各年分について、それぞれ次表の「更正等」欄のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
年分
区分
昭和62年分 昭和63年分
確定申告 総所得金額 2,543,153 2,830,321
内訳 事業所得の金額 2,346,213 2,734,917
不動産所得の金額 196,940 95,404
納付すべき税額 173,100 191,700
更正等 総所得金額 5,065,122 4,754,240
内訳 事業所得の金額 4,868,182 4,658,836
不動産所得の金額 196,940 95,404
納付すべき税額 608,100 468,000
過少申告加算税の額 43,000 27,000

 

 請求人は、これらの処分を不服として、平成2年3月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月21日付で異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、平成2年9月5日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正について
 原処分庁は、請求人が、貸倒損失として必要経費の額に算入した昭和62年分1,417,536円及び昭和63年分1,420,214円(以下「本件貸倒損」という。)について、貸倒れの事実がないとしてこれを認めなかったが、次のとおり、事実を誤認している。
(イ) 本件貸倒損は、請求人がA株式会社(以下「A社」という。)から工事代金の支払に代えて受け取ったB株式会社(以下「B社」という。)の振出しに係る次表記載の約束手形6枚(以下「本件約束手形」という。)・額面金額合計5,677,750円の一部で、A社及びB社が共に倒産状態になったため当該工事代金が回収不能となったものである。

 

振出日 額面金額 支払期日
昭和61年10月15日
572,250
昭和62年2月15日
昭和62年11月15日 790,500 昭和62年3月15日
昭和61年12月15日 563,500 昭和62年2月15日
昭和61年12月15日 563,500 昭和62年4月15日
昭和61年1月15日 2,303,000 昭和62年5月15日
昭和62年2月15日 885,000 昭和62年6月15日
合計 5,667,750  

 

(ロ) 請求人は、昭和62年2月下旬に開催されたB社の債権者集会において、同社の代理人であるC弁護士(以下「C弁護士」という。)から、同社の資産状況、支払能力等からみて請求人への配当可能金額は皆無であるとの説明を受けたので、本件約束手形に係る金額の全額が回収不能であると判断したものである。
(ハ) 請求人が、回収不能となった本件約束手形に係る金額を昭和62年分1,417,536円及び昭和63年分1,420,214円と分割の上貸倒損失として処理したのは、その全額を当該事実の発生した年分の必要経費の額に算入した場合、多額の欠損金額を生ずることになり、その結果、請求人の県土木事務所における経営審査のランクが下がり事業に支障をきたすこととなるので、それを避けるためである。
(ニ) 請求人の各年分の事業所得の金額は、原処分に係る事業所得の金額から本件貸倒損を差し引いた、昭和62年分3,450,646円及び昭和63年分3,238,622円である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は各年分とも違法でその一部を取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定もその一部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正について
(イ) 請求人は、本件貸倒損は全く回収不能であることは明らかであるから、これを貸倒損失として各年分の必要経費の額にそれぞれ算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第2項に規定する事業所得の金額の計算上必要経費に算入される貸金等の貸倒れによる損失の金額は、1債権が法律上消滅した場合、2債権が関係者の協議決定により切り捨てられた場合、3債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められた場合において、その債務者に対し、債務免除額を書面により通知したとき、4その債務者の資産状況、支払能力等からみて、その全額の回収ができないことが明らかになった場合である。
 ところで、請求人が貸倒損失の計算の基とした本件約束手形は、不渡りとなった事実は認められるが、いまだ上記1から3のいずれにも該当する事実は認められない。また、B社は、休業状態にあるとはいえ、将来の方針が明確になっておらず、更に、請求人は、B社の資産状況、支払能力等に関する具体的資料を一切提示しない上に、本件約束手形の金額の一部しか貸倒損失として処理していないから上記4にも該当しない。
 したがって、本件約束手形に係る金額を貸倒損失として必要経費の額に算入することはできない。
 また、本件約束手形に係る金額の一部を各年分に分割し貸倒損失として必要経費の額に算入できないことも明らかである。
(ロ) 請求人の各年分の事業所得の金額は、原処分のとおり昭和62年分4,868,182円及び昭和63年分4,658,836円である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は各年分とも適法であり、請求人が過少申告したことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいて各年分の過少申告加算税を賦課決定した処分は適法である。

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3 判断

  双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1) 更正について

 本件審査請求の争点は、本件約束手形について貸倒れの事実が発生したか否か及びその時期はいつであるかにあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ) A社及びB社はいずれも同族会社であり、A社の代表取締役D男(以下「D男」という。)は、B社の代表取締役でもあること。
 なお、A社は、B社の発注する工事を専属して請負っており、請求人は、A社から工事を請負う関係にあること。
(ロ) 昭和62年6月30日現在のB社の貸借対照表によると、同社の支払手形の残高は461,404,377円であり、そのうち、請求人を受取人とする手形は6枚で額面金額の合計は5,677,750円であること。
(ハ) 請求人は、上記6枚の手形のうち、昭和62年4月15日までに支払期日が到来した4枚について、請求人の取引銀行である○○銀行を経由してその支払場所である△△銀行××支店へそれぞれの支払期日に呈示したが、いずれもその支払を拒絶され、また、同日後に支払期日が到来した2枚については、B社が銀行取引停止となったため支払場所に呈示しなかったこと。
 なお、請求人は、これらの不渡りとなった各手形を所持していること。
ロ 請求人は、当審判所に対して、本件約束手形の写し、和議債権一覧表の写し、「B社の和議申立事件の件ご報告」と題する書簡の写し等を提出した。
 そこで、当審判所がこれらの請求人提出資料、原処分関係資料、請求人及び関係者を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) B社は、昭和62年2月16日にP地方裁判所に和議の申立てをしたが、同年12月9日にこれを取り下げたこと。
(ロ) B社は、昭和62年11月11日にP県知事から宅地建物取引業者免許を取り消されていること。
(ハ) B社及びA社は、昭和61年7月1日から昭和62年6月30日までの事業年度終了後現在に至るまで一切の営業活動を行っておらず、また、法人税の申告もしていないこと。
(ニ) C弁護士は、昭和62年9月3日付で、B社の和議整理委員であるE公認会計士にあてた「B社の和議申立事件の件ご報告」と題する書簡において、「B社の所有する物件の処分にしても抵当債務の支払、延滞公租公課の支払がせいぜいということで、一般債権者への支払のための資金の確保等全くままならず…」と記述しており、当審判所の調査によっても、その記述のとおりの事実が認められること。
(ホ) A社の発注に係る大口工事代金の支払は、原則として、B社を振出人、工事施工者を受取人とする約束手形による決済方法が恒常的に行われ、請求人をはじめ他のA社の取引先もこれを容認していることから、請求人のA社に対する工事代金に係る債権は、手形振出人であるB社に対する手形債権に代えられて消滅していること。
 なお、A社は、B社の和議申請と同時に、その連鎖で営業不能に陥り、残余財産はなく、債務の支払能力もないこと。
(ヘ) D男は、当審判所に対し、B社及びA社とも一般債権者へ分配できる残余財産はなく、今後も分配する予定もない旨答述し、当審判所の調査によっても、両社に債務の弁済能力があるとは認められないこと。
ハ ところで、所得税法第51条第2項によれば、その事業の遂行上生じた債権の貸倒れにより生じた損失の額は、その損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すると規定されている。この場合、資産損失となる債権の貸倒れとして認められるのは、債務者が破産しあるいは私的整理にゆだねられた場合などのほか、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、債権者が債権放棄などその債権を整理する意向を表明したとき、又は債務者の事業閉鎖、所在不明その他これに準ずべき事情が生じ、その債務者の資産状況、支払能力などからみてその債権全額の回収の見込みがないことが確実になった場合であると解されている。
ニ これを本件についてみると、B社は、上記イ及びロの事実から、昭和62年2月16日に和議の申立てをしたが、一般債権者への支払のための資金等の確保ができず、また、同年11月11日には営業上欠かすことのできない宅地建物取引業免許の取消処分を受けたこともあって、和議による負債整理は到底不可能となり、和議を取り下げざるを得なかったことが認められる。
 したがって、遅くともB社が和議の申立てを取り下げた昭和62年12月9日ごろには、本件約束手形に係る金員が回収不能となったものと認めるのが相当である。
 よって、本件約束手形に係る金額5,677,750円は、昭和62年分の貸倒損失として必要経費の額に算入すべきである。
 なお、請求人は、営業対策上等から本件約束手形に係る金額を分割の上貸倒損失として処理したことは正当である旨主張するが、貸倒損失は、所得税法第51条第2項の規定により当該貸倒れの事実が発生した年分の必要経費にその全額を算入すべきものであるから、これを複数の年分にわたって適宜分割して計上することはできない。
ホ そうすると、昭和62年分の事業所得の金額は、更正に係る事業所得の金額4,868,182円から、貸倒損失の金額5,677,750円を差し引いた809,568円の損失となり、更正の金額を下回るから、同年分の更正の全部を取り消すのが相当である。
 また、昭和63年分については、上記のとおり本件約束手形に係る全額を昭和62年分の事業所得の金額の計算上貸倒損失として必要経費に算入することとなる結果、昭和63年分の事業所得の金額の計算上貸倒損失の対象となる貸金等が存在しないこととなるから、同年分の更正は相当である。

(3) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、昭和62年分の更正について取り消されたことにより、同年分の過少申告加算税の賦課決定については、その全部を取り消すのが相当であるが、昭和63年分の更正は適法であり、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った昭和63年分の過少申告加算税の賦課決定は相当である。

(4) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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