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(平4.12.9、裁決事例集No.44 337頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に不動産所得の金額を150,000円、分離課税の長期譲渡所得の金額を24,860,999円及び納付すべき税額を4,932,000円と記載して法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、これに対し平成2年7月31日付で不動産所得の金額を150,000円、分離課税の長期譲渡所得の金額を67,341,724円、納付すべき税額を14,785,200円とする更正及び過少申告加算税の額を1,231,000円とする賦課決定をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成2年9月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成2年12月26日付で不動産所得の金額を150,000円、分離課税の長期譲渡所得の金額を65,928,051円、納付すべき税額を14,432,000円及び過少申告加算税の額を1,178,000円とする一部取消しの決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成3年1月21日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
 請求人は、昭和62年5月13日に死亡した請求人の父○○(以下「被相続人」という。)が居住用及び駐車場としての賃貸業(以下「本件事業」という。)の用に供していた××市△△町2丁目1001番2、同所1002番1及び同所同番3の宅地(以下「本件物件」という。)を他の相続人(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)と共に相続し、請求人らは、これを平成元年4月14日に譲渡した。
 請求人は、請求人に帰属する譲渡収入金額75,023,106円のうち57,542,722円に対応する土地(以下「本件土地」という。)の譲渡による譲渡所得の金額について租税特別措置法(以下「措置法」という。)第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》(以下「本件特例」という。)の規定を適用して申告したところ、原処分庁は、本件土地は、相続開始後、本件事業を停止していて事業に継続性がなく、譲渡の日において事業の用に供している資産に該当しないから、本件特例の規定の適用はないとして更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。
 しかしながら、本件土地は、次のとおり譲渡の日において事業用資産としての性格を失っていないから、本件譲渡には本件特例を認めるべきである。
(イ) 請求人らは、被相続人から本件物件を相続し、また、本件物件に係る本件事業を承継している。
(ロ) 本件物件は、相続開始当時、被相続人の三女の夫A男(以下「A男」という。)の名義を借りて登記されていたものであるが、A男は、被相続人からの真正な登記名義の回復の求めに応じなかったので、請求人が土地所有権移転登記請求の訴訟を提起したところ、不法にも本件土地に係る賃貸借契約を解除して本件事業を停止したもので、このことは請求人の意思によるものではなく、不可抗力であり、かつ、請求人は、裁判によってA男の不法な行為が排除されるまでの期間は、当該行為を排除するための法的手続きに費やされたものであり、確かに、この期間は本件土地を事業の用に供することはなかったが、非事業用にも転用することはなかったのであるから、事業の継続性は失われていない。
(ハ) 請求人は、昭和62年分の所得税の確定申告書に不動産所得の金額を記載して提出しているが、このことは請求人が被相続人から本件事業の継続性及び収益性を引き継いでいるという証拠である。
(ニ) 請求人が本件土地を譲渡した時点において事業の用に供していなかったとしても、既に事業の用に供していた資産については、事業の用に供しなくなった時点で、すぐに非事業用資産に転化するのではなく、相当の期間はいまだ事業用資産としての性格を失うものではないと解されており、また、実務上も同様に取り扱われていること、更に、相当の期間についても事業用資産の性格、事業の用に供しなくなった理由及び買換えの準備活動の状況を総合的に勘案して判断すべきであり、本件の場合、事業の用に供しなくなった理由がA男の不法な行為によるものであることから、これが相当の期間の判断基準としての比重は極めて高く重要な要素を有しており、請求人は、これらを基準にして本件特例の規定を適用したものである。
(ホ) 法令通達の解釈は、国税庁長官が国税局長にあてた昭和44年5月1日付直審(法)25(例規)「法人税基本通達の制定について」通達(以下「法人税基本通達」という。)の趣旨に従い、納税者個々の事実関係によって行われるべきであるところ、請求人は、以上の事実関係から本件特例を適用できるものと判断したものであり、その判断は正当かつ妥当であり、法令通達を安易に拡張して解釈したものではない。
(ヘ) 請求人は、申告の指導を受けるためP税務署に出向いた際、P税務署長あてに「事業用資産の買替えのご認定について(お伺い)」と題する文書(以下「本件お伺い文書」という。)を提出して担当職員に事実関係を説明し、申告の指導を受けている。
 たとえ、本件お伺い文書が法令に定められていないものであったとしても、税務当局と納税者との間の課税上の疑義については、久しくアグリーメント方式により解釈する方法が採用され、慣行として定着しているところ、本件お伺い文書に対し何ら通知もないことは、お伺いどおり承認されたものとみなすのが相当である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法に行われており、請求人の主張には理由がない。
イ 更正について
(イ) 原処分庁が、調査審理したところ次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和62年5月13日に死亡した被相続人から本件物件を他の相続人と共に相続により取得したこと。
B 相続開始当時、本件物件は、A男の名義で登記されていたこと。
C A男は、昭和62年7月に本件土地に係る賃貸借契約を解除したこと。
D 請求人は、昭和62年8月8日付でA男を被告として本件物件の真正な登記名義の回復を求めて訴訟を提起したこと。
E A男は、昭和63年11月4日に上記Dの訴訟に係る判決に基づき本件物件の名義を被相続人に変更したこと。
F 昭和63年11月16日に成立したR家庭裁判所の遺産分割調停事件に係る調停(以下「本件調停」という。)に基づき請求人らは、本件物件をそれぞれ持分4分の1の割合で共有取得し、その旨の相続登記を行ったこと。
G 請求人らは、本件土地をA男が本件土地に係る賃貸借契約を解除した後は、一度も事業の用に供することなく平成元年4月14日に譲渡したこと。
(ロ) 以上により判断すると、本件土地は請求人らが譲渡した当時、事業の用に供されていたとはいえないので、本件特例の規定の適用を認めなかった更正処分は適法である。
(ハ) 請求人は、本件事業を停止した理由が請求人の意思に基づくものではなく、A男の不法行為によるものであるから、本件土地を事業の用に供している資産と認めるべきである旨主張するが、措置法には事業を停止するに至った事情を勘案する旨の規定はない。
(ニ) 請求人は、被相続人から本件事業の継続性、収益性を引き継いでいると主張するが、たとえ被相続人から本件事業の継続性、収益性を引き継いだとしても、A男が本件土地に係る賃貸借契約を解除した後は一度も事業の用に供することなく譲渡したことに変わりはないから、本件土地の譲渡は本件特例に規定する事業用資産の譲渡に該当しない。
(ホ) 請求人は、法令通達の解釈に当たっては、法人税基本通達の趣旨に従うべきである旨主張するが、本件特例の規定は、本来課せられるべき税負担を特別の配慮から軽減する規定であるから、その解釈適用は税負担の公平の原則から厳格になされるべきものであって、安易にこれを拡張して解釈することは許されないものと解される。
(ヘ) 本件お伺い文書については、法令に定めがなく、法令に基づき税務署長に提出する諸申請書と同等に扱うべき理由はない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定したことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件土地が本件特例に規定する事業の用に供している資産に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1) 更正について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ) 請求人らは、本件物件を昭和62年5月13日に死亡した被相続人から相続により取得したこと。
(ロ) 相続開始当時、本件物件は、A男の名義で登記されていたこと。
(ハ) A男は、昭和62年7月、本件土地に係る賃貸借契約を解除したこと。
(ニ) 請求人は、昭和62年8月8日付でA男を被告として本件物件の真正なる登記名義の回復を原因とする訴訟(土地所有権移転請求事件)をR地裁に提起したこと。
(ホ) A男は、昭和63年11月4日に上記(ニ)の訴訟に係る判決に基づき本件物件の登記名義を被相続人に回復したこと。
(ヘ) 請求人らは、本件調停に基づき、本件物件をそれぞれ持分4分の1の割合で共有取得し、その旨の相続登記を行ったこと。
(ト) 請求人らは、A男が昭和62年7月に本件土地に係る駐車場の賃貸借契約を解除した後は、賃貸することはなかったこと。
(チ) 請求人らは、平成元年4月14日付で売主を請求人ら、買主を株式会社B(以下「B社」という。)及び有限会社C(以下「C社」という。)とする本件物件に係る土地売買契約を締結したこと。
ロ また、原処分関係資料、請求人提出資料、本件物件の登記簿謄本、関係人及び請求人の答述並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 昭和33年ごろに被相続人は本件物件を○○株式会社から取得したが、登記はA男の名義を借用してなされたこと、また、被相続人は、本件物件の一部を自己の生計の資とするために昭和50年ごろからA男の名義により本件事業の用に供してきたこと。
(ロ) 被相続人の長男の妻D女(以下「D女」という。)の答述によれば、本件事業の管理運営については、被相続人又はD女が行い、その賃貸料収入についてはA男の不動産所得に係る収入金額として所得税の申告をしていたが、その税金相当分は被相続人が負担しており、また、本件事業の用に供していた本件土地の固定資産税については被相続人が自ら支払っていたこと。
(ハ) 請求人は、A男に対し相続開始後、昭和62年6月29日付の「不動産登記委任状について」と題する文書により、本件物件を被相続人又は相続人の名義とするための必要な手続を要求したが、その後、請求人とA男との間に争いを生じ、その過程でA男が本件土地に係る駐車場の賃貸借契約を解除し、昭和62年7月14日以降本件事業を停止したこと。
(ニ) 請求人らは、本件調停が成立して所有権を取得した後、本件調停の調停条項の6に基づき作成された「合意書」と題する文書(以下「本件合意書」という。)により、直ちに仲介業者に本件物件の売却の媒介を依頼し、その結果、平成元年4月14日付でB社及びC社に300,092,424円で譲渡する契約を締結したこと。
(ホ) 上記(ニ)の譲渡代金300,092,424円のうち、請求人に配分される額は、その4分の1に相当する75,023,106円であること。
(ヘ) 請求人は、平成元年7月28日付で○○市□□町306番117所在の宅地及び建物を夫と共同で取得(請求人の持分5分の4)する契約を締結し、当該宅地及び建物を同年10月8日付で△△株式会社に賃貸する契約を締結したこと。
(ト) 請求人は、平成元年分の所得税の確定申告書に前記(ホ)の譲渡代金をもって平成元年8月17日に事業用資産を取得したとして、本件特例の規定の適用を受ける旨の譲渡所得計算明細書を添付して、原処分庁に提出したこと。
ハ ところで、措置法第37条第1項にいう「事業の用に供している」か否かは、個人がその有する資産を譲渡する時点で判断すべきであり、その事業の用に供しているか否かの範囲については、その資産を譲渡する際に現実に事業(措置法施行令第25条第2項にいう事業に準ずるものを含む。以下同じ。)の用に供しているもののほか、その資産を譲渡するために現実に事業の用に供することを停止した後においても相当の期間内に止まる限りはいまだ事業用資産としての従前の性格を失うものでないと解するのが相当であって、どの程度の期間が相当であるかは個々の事実関係について当該資産の種類、構造等の特性、事業の用に供さなくなった理由、その後における当該資産の現状及び使用目的等を総合して判断すべきである。
ニ これを本件について、前記イ及びロに掲げる諸事実に照らして総合的に検討すると、本件土地は、相続開始後の昭和62年7月にA男によって賃貸借契約を解除された後は現実に事業の用に供することを停止していること、また、請求人らは、被相続人に登記名義が回復された昭和63年11月4日以降においても、本件土地を新たに賃貸することもなく、空閑地のまま放置していたこと、更に、本件調停成立後、直ちに作成した本件合意書の合意事項に従って、本件土地を譲渡するため不動産業者に媒介を依頼し、平成元年4月14日付で譲渡する契約を締結していることが認められる。そうすると、請求人らが本件土地を譲渡する時点において現実に事業の用に供していなかったことは明らかであり、また、譲渡するために現実に事業の用に供することを停止したという事実も認められない。
 したがって、本件土地は、本件特例に規定する事業の用に供している資産に該当しない。
ホ 請求人は、本件物件を相続により取得して譲渡するまでの経緯を説明し、本件土地は、A男が勝手に行った不法な行為により駐車場としての事業の用に供することを停止されたものであって、請求人は、昭和62年分の所得税の確定申告書に本件土地の賃貸による所得を不動産所得と記載して申告していること、また、本件土地を事業の用に供することはなかったが、非事業用に転用することもなかったのであるから事業の継続性及び収益性は失われておらず、本件土地は事業用資産としての性格は失われていないこと、更に、譲渡した時点において現実に事業の用に供していなかったとしても、既に事業の用に供されていた資産については、事業用資産の性格、現実の供用停止の理由、停止中における買換えの準備活動状況を総合して判断すべきであることなどにより、本件の場合、本件土地が事業用資産としての性格を失っていると解することはできない旨主張する。
 しかしながら、本件土地が事業の用に供している資産であるというためには、事業を行う意図が近い将来において実現されることが客観的に明白であったという状況が必要であるところ、本件の場合には、そのような状況も認められず、結局、請求人らは、本件土地をいささかも事業の用に供することなく譲渡していることが認められる。
 そうすると、本件土地の駐車場としての事業への供用は、賃貸借契約を解除した時点をもって終了し、本件土地は、その時点で本件特例に規定する事業の用に供している資産としての性格を失ったと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 請求人は、法令通達の解釈は、法人税基本通達の趣旨に従って行われるべきであるから、請求人が平成元年分の所得税の申告に当たり、本件土地に係る譲渡所得の金額について、本件特例の規定を適用したことは正当かつ妥当であり、本件特例の規定の適用に関し、法令通達を安易に拡張して解釈したものではない旨主張する。
 しかしながら、措置法第37条第1項にいう「事業の用に供している」か否かは、個人がその有する資産を譲渡する時点で判断すべきであるところ、請求人らが本件土地を譲渡する時点において現実に事業の用に供していなかったことは、前記ニ及びホのとおりであり、否定できない事実である。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 請求人は、P税務署長あてに本件お伺い文書を提出して担当職員に事実関係を説明し、申告の指導を受けているところであり、本件お伺い文書は、法令に基づき税務署長に提出する諸申請書と同等若しくはこれに準ずる文書として取り扱われるものと解釈され、また、税務当局と納税者との間の課税上の疑義については、久しくアグリーメント方式によって解釈する方法が採用され、慣行として既に定着しているところであるところ、本件お伺い文書に対し何ら通知もないことは、お伺いどおり承認されたものとみなすのが相当である旨主張する。
 当審判所が調査したところによれば、請求人は担当職員に面接し、本件お伺い文書を提出している事実が認められる。
 しかしながら、本件お伺い文書はもとより法律的な根拠がなく、当該文書を納税者が法令に基づき税務署長に提出する諸申請書と同等若しくはこれに準ずる文書として取り扱わなければならない法令上の規定はないから、請求人の主張には理由がない。
 また、当審判所の調査によれば、仮に請求人の主張するような解釈方法があったとしても、本件の解釈について請求人と税務署長との間に合意があったとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 以上により本件土地は、譲渡する時点において本件特例に規定する事業の用に供していた資産とは認められないから、本件更正は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、本件更正は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(3)その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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