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(平6.6.1、裁決事例集No.47 205頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年分の所得税について、青色申告書以外の申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年4月6日付で次表の「原処分」欄記載のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分 確定申告 原処分
総所得金額 7,451,483 7,451,483
内訳 不動産所得の金額 176,483 176,483
給与所得の金額 7,275,000 7,275,000
分離課税の長期譲渡所得の金額 13,220,200 65,101,000
納付すべき税額 2,591,800 14,223,100
過少申告加算税の額 - 1,573,500

 請求人は、上記各処分を不服として平成4年6月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月30日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成4年10月26日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ) 請求人は、請求人が昭和49年1月8日に相続によって取得した、P市R町字○○1181番2所在の山林2,863平方メートルのうち、528平方メートルの土地について、A株式会社(以下「A社」という。)に、賃貸期間を平成元年1月8日から平成6年1月7日まで、使用目的を進入道路、駐車場及び看板表示場所として賃貸(以下「本件賃貸借」という。)をした。
 その後、請求人は、本件賃貸借をした土地の一部328平方メートルについて、平成元年1月26日付でP市R町字○○1181番6の土地(以下「本件土地」という。)として分筆登記し、同年10月26日付でA社に69,580,000円で譲渡(以下「本件譲渡」という。)をした。
 また、請求人は、平成2年中に倉庫を取得する予定であり、これを賃貸の用に供する予定であった。
 そこで、請求人は、本件譲渡に係る分離課税の長期譲渡所得の金額(以下「本件長期譲渡所得の金額」という。)の計算上、租税特別措置法(平成2年法律第13号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第37条((特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例))の規定(以下「特定の事業用資産の買換えの特例」という。)を適用し、本件長期譲渡所得の金額を13,220,200円として申告した。
(ロ) 原処分庁は、これに対し、本件賃貸借が相当期間継続して行うことを予定していたものではなく、その行為は一時的なものであるから、租税特別措置法施行令(平成3年政令第88号による改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第25条((特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例))第2項に規定する事業に準ずるものには当たらず、更に、本件土地は空閑地であるから、本件土地は、特定の事業用資産の買換えの特例に規定する事業の用に供していた資産とは認められないとして、本件長期譲渡所得の金額を65,101,000円とする更正処分をした。
(ハ) しかしながら、本件土地は、立木を伐採し進入用道路として舗装工事がされているから、空閑地ではなく、本件賃貸借は、相当長期間継続することを予定していたものであって、措置法施行令第25条第2項に規定する事業に準ずるものに当たるので、本件土地は、特定の事業用資産の買換えの特例に規定する事業の用に供していた資産に当たる。
(ニ) また、本件譲渡は、本件賃貸借の前に予定されていたものでなく、請求人が、平成元年10月にやむを得ずこれを決意したことによるものであり、本件賃貸借が、本件譲渡までの間の一時的な賃貸ではないことは、次に述べる本件譲渡に至った経緯から明らかである。
A 請求人は、昭和63年10月にA社から本件土地を買いたいとの売買交渉を受けたが、これに対して何ら応答しなかった。
B 上記Aの売買交渉において、請求人が、A社に、坪単価などの譲渡についての条件の申込みをした事実はなく、A社と本件譲渡の仲介人であるB商事の間で同条件についての話があったにすぎない。
C 本件賃貸借は、A社から申し込まれたものであり、原処分庁が主張するように、請求人が、請求人の母親に本件土地の売買についての了解を得るまでの間の賃貸を同社に申し出た事実はない。
D 本件土地の立木の伐採及び測量並びに分筆の各費用については、請求人が負担すると申し出たが、A社から負担の申出があったことから、同社が負担した。
E 請求人は、平成元年5月12日に、A社から、4,800,000円の小切手を受け取って領収証を発行したが、これは、A社から、1福利厚生施設を建設するための建築許可をS県知事に申請するに当たって、県の人事異動の前に書類を提出したい、2それにはこの建物の進入用道路である本件土地が、A社の所有でなければならないから、形だけ売買したことにしてほしい、3建物を作る目的だけであるから領収証を作成してほしい、との申出があったので、請求人が応じたものである。
F 上記Eの金員は預り金であり、請求人は、これを個人の用途には使用していない。
 なお、当該小切手を取り立てた預金口座が請求人名義となっており、この預金口座から、請求人が経営する株式会社Cの資金として一時流用するために出金したことはあるが、これをもって個人的用途に使用したとはいえない。
G 本件土地の売買契約書の日付が平成元年10月26日となっており、請求人は、本件土地の引渡しを平成元年12月27日として申告したが、これらは形式的なものであり、本件賃貸借は平成2年1月5日まで継続していた。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
 本件賃貸借は、次のとおり賃貸借契約の効力が発生した時における客観的な現況からは、長期に継続して賃貸することを予定したものとは認められず、むしろ、本件土地をA社へ譲渡するまでの間の一時的な賃貸にすぎないとみるのが相当であるから、本件長期譲渡所得の金額の計算において、特定の事業用資産の買換えの特例を適用することはできない。
(イ) 原処分庁が本件について調査をしたところ、次の事実が認められる。
A A社は、請求人に対して昭和63年10月に本件土地を譲渡してほしい旨申し入れしていること。
B 請求人は、昭和63年10月に、A社からの売買交渉に対して、坪当たり300,000円で売買してもよい旨応答していること。
C 請求人は、平成元年1月に、請求人の母から本件土地の売買についての了解を得るまで、本件土地を賃貸する旨A社に申し出て、平成元年1月8日付の本件賃貸借契約を結んでいること。
D 本件土地の立木の伐採及び測量並びに分筆登記の手続は、すべてA社が行っており、その費用も同社が負担していること。
E 請求人は、平成元年5月12日にA社から本件譲渡の手付金として4,800,000円を小切手で受け取り、これについての領収証を発行していること。
 なお、上記の4,800,000円は、平成元年5月12日にD銀行E支店の請求人名義の普通預金口座へ入金され、同日中に出金されていること。
F 本件譲渡に関する売買契約書の日付は、平成元年10月26日となっていること。また、請求人の申告によれば、本件土地の引渡しを行ったのは、平成元年12月27日となっていること。
G 本件土地は、なんの施設等もない空閑地の状態で貸し付けられていること。
(ロ) 措置法第37条第1項に規定する事業に含まれるものとされる、事業に準ずるものとは、措置法施行令第25条第2項において、事業と称するにいたらない不動産の貸付け等で、相当の対価を得て継続的に行うものとすると規定されている。
 このうち、貸付け等を継続的に行っているかの判断は、原則としてその貸付けに係る契約の効力が発生した時において、その貸付けが相当期間継続して行われることが予定されているか否かによると考えられる。
 そうすると、請求人が平成元年5月には本件譲渡の手付金を受け取っていること、本件土地は空閑地の状態で約1年間貸し付けられただけであること、その他上記(イ)の各事実から、本件土地は、賃貸借契約のときに既に譲渡することが予定されており、一時的に貸し付けられたもので継続的に貸し付けることが予定されていたとはいえないのであるから、請求人の事業に準ずるものの用に供したとは認められない。
 以上のことから、本件土地は、措置法第37条第1項の規定に該当する事業の用に供した資産とは認められないこととなるので、特定の事業用資産の買換えの特例の適用は認められないとした本件処分は、適法である。
(ハ) 本件長期譲渡所得の金額
 上記(ロ)のとおり、本件譲渡については特定の事業用資産の買換えの特例の適用はないから、本件譲渡所得の金額は、次表のとおり65,101,000円となる。

(単位:円)
区分 金額
収入金額 1 69,580,000
取得費及び譲渡費用 2 3,479,000
特別控除額 3 1,000,000
長期譲渡所得の金額(123 4 65,101,000

ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は相当であり、かつ、確定申告額が過少であったことについて、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があったとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

(1) 更正処分について

 本件長期譲渡所得の金額の計算に当たり、特定の事業用資産の買換えの特例の適用において、本件土地が事業の用に供した資産であるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 次の事実については当事者間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ) A社は、昭和63年10月ころには、請求人に対して本件土地の売買交渉をしていること。
(ロ) 請求人とA社は、平成元年1月8日付で本件賃貸借に関する契約を締結し、この契約に基づき、請求人は、P市R町字○○1181番2のうちの一部の土地をA社に賃貸していること。
(ハ) 上記(ロ)の本件賃貸借に供された土地は、平成元年1月26日付で、P市R町字○○1181番5と、本件土地とに分筆登記されていること。
(ニ) 請求人は、平成元年5月12日にA社から4,800,000円の小切手を受け取ったこと。
(ホ) 請求人とA社は、平成元年10月26日付で本件土地の売買契約を締結し、この契約に基づき、請求人は、本件譲渡をしたこと。
ロ 当審判所が、原処分関係資料及び本件賃貸借に供された土地について調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 前記イの(ロ)の賃貸契約においては、賃貸期間は平成元年1月8日から平成6年1月7日までであったが、請求人及びA社は、これを平成2年1月5日までと変更する確認書を、平成2年2月13日付で作成していること。
(ロ) 請求人は、前記イの(ニ)の小切手を受領した際、「但土地売買契約手付金として、P市R町字○○壱壱八壱番六」と記載した領収証を、A社あてに発行していること。
(ハ) 前記イの(ホ)の売買契約において作成された売買契約書には、売買代金を69,580,000円とし、A社が手付金として請求人に支払った4,800,000円は、売買代金の一部に充当する旨記載されてること。
(ニ) 請求人は、平成元年12月27日付で、「但不動産売買残金として」と記載した64,780,000円の領収証を、A社あてに発行していること。
(ホ) 本件土地を含む本件賃貸借に供された土地は、市街化調整区域内に存し、雑木や下草が自生しているのみで、本件賃貸借前及び本件賃貸借終了後は、他に賃貸されることもなく、格別収益を産み出すような利用はされていなかったこと。
ハ 請求人及びA社のF課長(以下「F課長」という。)の当審判所に対する答述によれば、次の事実が認められる。
(イ) 前記イの(イ)の売買交渉は、A社が福利厚生施設の建設を予定して、この建設用地への進入用道路を取得しなければS県知事の建築許可が得られないことを理由にされたものであること。
(ロ) A社は、本件土地を取得した後は、この土地を道路としてP市へ寄付する予定であったこと。
(ハ) 請求人は、平成元年のはじめころには、前記(イ)及び(ロ)のことについて承知していたこと。
(ニ) 請求人は、前記イの(ハ)の登記の手続に必要な委任状を、平成元年1月26日までにはF課長を通じて、登記申請の代理人である司法書士に交付していること。
 また、請求人は、この登記の完了を平成元年2月10日には確認していること。
ニ ところで、措置法第37条第1項の規定は、事業又は事業に準ずるものとして政令で定めるものの用に供していた資産の譲渡であることが適用要件の一つであり、また、措置法施行令第25条第2項において事業に準ずるものとは、事業と称するにいたらない不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものと規定されている。
ホ そこで、これを本件についてみると次のとおりである。
(イ) まず、本件譲渡までの経緯は、前記イないしハの各事実を総合すると次のとおりであったことが認められる。
A 請求人は、F課長から請求人に対してされた本件土地の売買交渉の段階において、昭和63年10月には、A社が、既に有する土地に福利厚生施設を建築するための許可をS県知事から受けるに当たって、その土地への進入用道路として本件土地を取得しなければならない旨を、また、平成元年のはじめころには、A社が、本件土地を取得した後は、本件土地を道路としてP市へ寄付する予定であるということを承知していた。
B その後、請求人は平成元年の1月8日から本件賃貸借をして、ほぼ同時期に、司法書士に委任して本件賃貸借に供した土地を分筆登記した。
C また、その後においても本件土地の売買交渉は継続され、請求人は、平成元年5月12日に、本件譲渡の手付金として4,800,000円を受け取り、同年10月に請求人とA社との間で譲渡契約を締結した。
 なお、請求人は、平成元年5月12日にA社から受け取った4,800,000円は、預り金であると主張するが、前記ロの(ロ)ないし(ニ)のとおり、平成元年10月26日に請求人とA社が締結した本件土地の売買契約においては、4,800,000円は本件譲渡の手付金とされていること、請求人は、本件譲渡に係る売買代金69,580,000円から4,800,000円を除いた64,780,000円の領収証を、「不動産売買残金として」と記載して発行していることから、4,800,000円は、請求人が本件譲渡代金の一部として受領したものであることは明らかであるので、この点に関する請求人の主張は、採用できない。
(ロ) そうすると、請求人は、昭和63年10月ころからA社が本件土地を取得しなければならない事情を承知の上、平成元年1月から本件賃貸借をし、本件賃貸借を継続するのであれば通常必要ではない本件土地の分筆登記を、この賃貸とほぼ同時期にしているのであるから、この分筆登記は、その後の本件譲渡の準備のために行ったと認めるのが相当であるから、むしろ本件賃貸借を開始した当時における請求人の真意は、本件土地の譲渡を前提としたものであると推認され、請求人が本件譲渡を決意した時期が、請求人が主張する平成元年10月であるとは到底認められない。
(ハ) したがって、本件土地は、相当長期間継続して賃貸することを予定したものではなく、本件譲渡が成立するまでの間、一時的にA社に賃貸したにすぎないものと認めるのが相当であり、このことは、事業と称するにいたる不動産の貸付けに当たるとはいえず、また、措置法施行令第25条第2項に規定する相当の対価を得て継続的に行う事業に準ずるものにも該当しないから、請求人のその余の主張について審理するまでもなく、本件譲渡は、措置法第37条第1項に規定する事業の用に供していた資産の譲渡に該当すると認めることはできない。
ヘ 以上により、本件長期譲渡所得の金額の計算において、特定の事業用資産の買換えの特例の適用を認めないとした更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり更正処分は相当であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定処分は相当である。

(3) その他

 原処分のその余の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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