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(平6.12.22、裁決事例集No.48 19頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、パチンコ業を営んでいた者であるが、昭和59年分、昭和60年分、昭和61年分及び昭和62年分(以下、併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、平成元年2月6日付で昭和59年分以降の所得税の青色申告の承認の取消処分をした。
 次いで、請求人は、同表の「修正申告等」欄のとおり記載した昭和60年分、昭和61年分及び昭和62年分の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成元年3月27日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成元年8月4日付で同表の「修正申告等」欄のとおりの重加算税の賦課決定処分、同表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、青色申告の承認の取消処分を除くこれらの処分を不服として、平成元年10月3日に異議申立てをしたところ、3月を経過しても異議決定がされなかったため、異議決定を経ないで平成2年6月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 簿外経費について
 請求人は、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)において、請求人の備付帳簿に記載していない経費(以下「簿外経費」という。)が存することについて、その事実を主張することを第一の目的として、正確性を欠いた概数で主張したところ、原処分庁は、簿外の旅費交通費、接待費及び慶弔費(以下、併せて「本件認定旅費交通費等」という。)を別表2の「原処分庁認定額」欄のとおり各年分の必要経費の額に算入した。
 しかしながら、次に述べるとおり、パチンコ営業に係る仕入金額の水増しによって得た資金を使い、更に多額の簿外の旅費交通費、接待費及び慶弔費(以下、併せて「本件旅費交通費等」という。)並びに本件調査において主張せず、帳簿に記載しなかった有限会社M(以下「M社」という。)からの借入金に係る利子割引料(以下「本件利子割引料」という。)を支払っているから、本件旅費交通費等及び本件利子割引料も事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入すべきである。
(イ) 旅費交通費、接待費及び慶弔費について
 請求人は、パチンコ器製造メーカー等の重要人物及び同業者等からの情報収集を目的として簿外の旅費交通費及び接待費を支払ったこと、また、従業員及び取引先等に対する香典、祝金等として簿外の慶弔費を支払ったことを、いずれも確かな記憶に基づいて別表2の「簿外支出の額」欄のとおり算定した。
 したがって、別表2の「差引主張額」欄のとおり、本件旅費交通費等についても、事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入すべきである。
(ロ) 利子割引料について
 請求人は、本件利子割引料が存するにもかかわらず、相手方に迷惑がかかることを気遣い、本件調査においては、この主張をしなかったが、次のとおりその氏名及び金額を明らかにしたので、別表2の「簿外の利子割引料の額」欄のとおり、本件利子割引料を事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入すべきである。
A 請求人は、昭和57年6月にP市内でパチンコ店「N」(以下「N」という。)を開店するに当たり、Nを法人組織にする約束で、同年1月から3月にかけて、数名の者(以下「出資者ら」という。)から1億2,000万円の出資金(以下「本件出資金」という。)を受け入れた。
B しかしながら、請求人は、Nを法人組織にしなかったため約束不履行として問題となり、出資者らと交渉の結果、本件出資金を集約したM社を債権者として、本件出資金を株主出資ではなく、請求人の個人事業の借入金(以下「本件借入金」という。)に変更することになった。
 なお、支払利息については、昭和57年7月1日から起算して、複利計算により月利1パーセントの利息を支払うこととし、その額は別表2の「簿外の利子割引料の額」欄のとおりである。
ロ 貸倒損失について
 次に述べるとおり、請求人が連帯保証した保証債務1,800万円(以下「本件保証債務」という。)は、R地方裁判所(以下「R地裁」という。)の昭和61年12月26日の和解判決で確定しており、事業所得の金額の計算上、その全額を昭和61年分の必要経費の額に算入すべきである。
(イ) 本件保証債務は、請求人の取引先であるSがT信用組合から借り入れ、請求人が連帯保証したものである。
(ロ) R地裁の和解判決の和解条項では、本件保証債務を昭和62年1月から平成元年12月まで、毎月25日に50万円づつ分割して支払うこととなっている。
ハ 加算税の賦課決定処分について
(イ) 以上のとおり、各年分の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、昭和61年分の過少申告加算税及び各年分の重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
(ロ) 請求人は、自主的に本件修正申告書を提出したものであり、昭和60年分及び昭和62年分の修正申告に係る重加算税の賦課決定処分は不当であるから、その全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 簿外経費について
(イ) 旅費交通費、接待費及び慶弔費について
 請求人は、本件調査において主張した簿外の旅費交通費、接待費及び慶弔費は概数によるもので、それ以外に本件旅費交通費等を支払っているから、事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入すべき旨主張する。
 しかしながら、本件旅費交通費等は、その支払先、支払目的等が著しくあいまいで、かつ支払回数及び金額が著しく多いことに加え、これらは専ら請求人自身の記憶に基づくものであって、これを裏付ける証拠資料を確認することができないから、事業所得の金額の計算上、必要経費の額として認めることはできない。
 なお、原処分庁は、請求人の本件調査における主張に基づき、帳簿に記載されていない旅費交通費、接待費及び慶弔費を調査し、別表2の「原処分庁認定額」欄のとおり本件認定旅費交通費等を必要経費の額として認めている。
(ロ) 利子割引料について
 請求人は、本件利子割引料が存するから、事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入すべき旨主張する。
 しかしながら、本件調査においては、これを主張せず、また、本件出資金及び本件借入金の存在を認めるに足る証拠資料も確認できないから、本件利子割引料を、事業所得の金額の計算上、必要経費の額として認めることはできない。
ロ 貸倒損失について
 請求人は、本件保証債務を債務が確定した昭和61年分の貸倒損失として、事業所得の金額の計算上、その全額を必要経費の額に算入すべき旨主張する。
 しかしながら、保証債務に係る貸倒損失については、所得税法第51条((資産損失の必要経費算入))第2項、同施行令第141条((必要経費に算入される損失の生ずる事由))第2号に保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなった場合に、必要経費の額に算入すると規定されている。
 すなわち、保証債務については、現実にこれを履行した後でなければ貸倒金の対象とすることができないこととされている。
 そうすると、本件保証債務は、昭和61年12月26日のR地裁の和解判決により確定したことをもって、直ちに事業所得の金額の計算上、昭和61年分の必要経費の額に算入することはできない。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、昭和61年分の更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
ニ 重加算税の賦課決定処分について
(イ) 以上のとおり、各年分の更正処分は適法であり、また、請求人は、各年分の事業所得の金額の計算上、仕入金額の水増し計上等の仮装をし、これに基づき所得金額を過少に算定した納税申告書を提出しており、このことは、国税通則法第68条((重加算税))第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、同項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。
(ロ) 本件修正申告書は、昭和63年4月7日に調査担当職員が請求人の所得税調査に着手したことにより、更正があるべきことを予知して提出されたものと認められる。
 したがって、国税通則法第65条第5項の規定の適用はないとした原処分に何ら違法な点はなく、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件旅費交通費等及び本件利子割引料が各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入すべきか否かに争いがあるので、以下審理する。
 なお、請求人が、パチンコ営業に係る仕入金額を水増し計上していたことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

(1) 簿外経費について

イ 旅費交通費、接待費及び慶弔費について
(イ) 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件旅費交通費等をその事業の経理に係る帳簿に記載していないこと(争いがない。)。
B 請求人は本件旅費交通費等の支出を主張し計数説明資料(以下「本件計数説明資料」という。)を提出したが、請求人は、当審判所に対して、同資料に記載された本件旅費交通費等の支払の事実を証明する領収書等の証拠資料を一切提示していないこと。
C 請求人は、本件計数説明資料に記載した本件旅費交通費等の支払の事実を裏付けるものは請求人の記憶のみであると自認していること。
D 本件計数説明資料には、宿泊先のホテル名等の記載はあるものの、その他の支払先及び接待の相手先の記載がなく、請求人は、当審判所に対して支払先等を明らかにしていないこと。
E 本件計数説明資料には、ホテル等に宿泊する際には、偽名を使って宿泊した旨記載しているが、請求人は、当審判所に対してその使用した氏名を明らかにしていないこと。
F 請求人は、本件計数説明資料に、昭和60年6月から昭和62年7月までの間に延べ18回にわたり、Uホテルに宿泊した旨記載しているが、Uホテルが営業を開始したのは昭和62年8月20日であり、請求人が宿泊したとする当時同ホテルは営業していなかったこと。
G 請求人は、本件計数説明資料に、昭和60年10月上旬に東京、神戸、新潟、福井及び金沢方面へ出向き、延べ3泊10日にわたりパチンコメーカーの要人等を接待した旨記載しているが、昭和60年9月30日から同年10月7日まで日本国外にいた事実が認められること。
H 請求人は、各年分の事業所得の金額の計算上、旅費交通費及び接待費(慶弔費を含む。)の額として、次表のとおりの額を必要経費に算入して申告していること。

(単位:円)
区分 昭和59年分 昭和60年分 昭和61年分 昭和62年分
旅費交通費 1,195,880 1,243,590 1,552,550 1,650,570
接待費 1,697,312 1,975,496 2,893,681 5,401,205

(注) 上表の「接待費」には、慶弔費を含んでいる。


I 本件認定旅費交通費等に関し、原処分庁は、請求人が本件調査において帳簿に記載されていないと主張した経費の額について、慶弔費は既に必要経費の額に算入しているもの及び必要経費として認められないものを除いた額を認め、また旅費交通費及び接待費はその主張した額の全額を認め、別表2の「原処分庁認定額」欄のとおり必要経費の額に算入していること。
J 原処分庁が、本件認定旅費交通費等を算入した後の旅費交通費、接待費及び慶弔費の経費率(収入金額に対する各経費合計額の割合)は、類似同業者の平均に比べて、昭和62年分が1.9倍ないし昭和61年分が9.8倍と高いものであること。
(ロ) 本件旅費交通費等は、事業経理に係る帳簿に記載されていない簿外経費であること(上記(イ)のA)、また、本件認定旅費交通費等を算入後の請求人の旅費交通費等の経費率が類似同業者の平均に比し既に極めて高いこと(上記(イ)のJ)に加え、本件旅費交通費等の額は、上記帳簿に記載された旅費交通費、接待費及び慶弔費並びに本件認定旅費交通費等に比し著しく高額であること(上記(イ)のH及びJ)からみて、本件旅費交通費等の存在を認めるためには、請求人が資料等を提示して合理的な説明をし、その存在を明らかにする必要があるというべきである。
(ハ) しかるに、本件説明資料については、上記(イ)のD、E、F及びGのとおり、その内容に不自然、不合理な点が認められ、また、請求人は、本件説明資料は請求人の記憶のみに基づくものであると自認し(上記(イ)のC)、他に同資料を裏付ける領収書等の証拠資料を一切提示しない。
 また、当審判所の調査によっても、本件旅費交通費等の存在を認めるに足る資料等はない。
(ニ) したがって、当審判所としては、本件旅費交通費等の存在を認めることはできず、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ロ 利子割引料について
 請求人は、本件借入金が存するから、本件利子割引料を事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入すべき旨主張するので、以下審理する。
 なお、原処分庁が、本件調査において請求人の帳簿書類等に基づき別表3のとおり必要経費の額に算入した利子割引料の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ) 請求人が、平成5年7月9日に当審判所に提出した利息の計算明細等を記載した上申書(以下「本件上申書」という。)には、次のことが記載されている。
A 請求人は、昭和57年1月から3月にかけて、本件出資金として1億2,000万円を受け入れたこと。
B 本件出資金を本件借入金に変更し、元金に対し月利1パーセントの利息を複利計算にて支払うこと。
C 各年分の支払利息の金額は、別表2の「簿外の利子割引料の額」欄のとおりであること。
D 支払済みの利息額は、昭和58年中に4回にわたり、総額で5,251,378円、昭和59年中に1回で1,365,711円であり、それ以外は未払であること。
(ロ) 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件借入金及びその支払利息は、請求人の事業経理に係る帳簿に記載されていないこと(争いがない。)。
B 請求人は、当審判所に対しN開店のための本件出資金を本件借入金に変更した旨答述しているが、本件出資金に係る出資者らの住所、氏名を明らかにしていないほか、本件出資金が存すること及び本件借入金に変更した事実を認めるに足りる証拠資料を提示していないこと。
C 請求人は、当審判所に対し、本件出資金と銀行借入金7,000万円をもってNのパチンコ器、機械設備等及び簿外経費の支払に当てた旨答述しているが、本件出資金が請求人の事業の用に供されたことを証明するに足りる証拠資料を提示していないこと。
D 請求人が本件調査において原処分庁に留置された昭和57年度の減価償却計算表によれば、パチンコ器及び機械設備の取得価額は、3,115万円とされていること。
 なお、Nの土地は借地であり、建物は請求人の実父であるLが不動産の売却代金で建設したものであること。
E 請求人が、本件調査においてNの会計担当者が作成したと申述している昭和57年12月末の試算表においても、本件出資金及び本件借入金の存在が確認できないこと。
F M社が、平成6年11月9日に当審判所に提出した金銭消費貸借契約証書の写し(以下「本件契約書」という。)には、次のことが記載されていること。
(A) 契約締結日は、昭和57年7月1日であること。
(B) 借主は請求人、貸主はM社、保証人は請求人の妻であるWであること。
(C) 貸付金額は、1億2,000万円、利息は年利12パーセントであること。
(D) 契約証書は3通作成し、借主、貸主、保証人がそれぞれ1通を保管すること。
G M社は、請求人が所有する不動産に対して、次のとおり、譲渡担保を原因として所有権を同社に移転する登記手続をしたこと。
(A) 平成元年12月6日及び同月7日に、同年9月22日の譲渡担保を原因とする所有権移転登記手続をしたこと。
(B) さらに、登記の原因日付に錯誤があったとして、平成2年12月27日に、譲渡担保の日付を昭和63年9月22日に変更する所有権移転登記の更正手続を行ったこと。
H 請求人は、次のとおり、M社を発信人・請求人を名あて人とする本件借入金の返済を求める平成5年7月4日付の催告書(以下「本件催告書」という。)を当審判所に提出していること。
(A) 請求人に融資したのは、昭和57年7月1日であること。
(B) 月利1パーセントの複利で計算した各年分の支払利息の金額(別表2の「簿外の利子割引料の額」欄と同額)の記載があること。
(C) M社の会社印及び代表者の押印はなく、総務担当者の押印のみがあること。
I 本件契約書によれば、本件借入金の利息の利率は、年利12パーセントとなっているが、本件上申書及び本件催告書に記載された利率は、月利1パーセントの複利計算となっており、両者の記載は合致しないこと。
J 請求人は、当審判所に対し、月利1パーセントの複利計算による1か月の利息として、5回にわたり総額6,617,089円をM社に支払った旨答述しているが、支払の事実を証明する証拠資料を提示していないこと。
K 請求人は、本件借入金及び本件利子割引料の存在及び必要経費の額への算入について、本件調査において主張していず、また、本件審査請求に係る原処分の取消請求訴訟においても主張していないこと。
(ハ) ところで、事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、所得税法第37条((必要経費))第1項において、「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずるべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする」と規定されている。
 したがって、事業所得の計算上必要経費に算入できる費用の額は、事業所得を生ずべき業務について生じた費用で、その年において費用として支払うべき債務が確定しているものであることが必要である。
 すなわち、本件利子割引料が必要経費に該当するためには、本件借入金が事業の用に供されるものであることが前提要件となる。
(ニ) これを本件についてみると、請求人は、当審判所に対する答述においてN開店のための本件出資金を本件借入金に変更した旨述べているが、請求人は、当審判所に対して、本件出資金に係る出資者の住所、氏名を明らかにしていないほか、本件出資金が存すること及び本件借入金に変更した事実を認めるに足りる証拠資料を提示していない。さらに、請求人は、当審判所に対し、本件出資金と銀行借入金の7,000万円をもってNのパチンコ器、機械設備等及び簿外経費の支払に充てた旨答述しているが、原処分庁に留置された昭和57年分の減価償却計算表によればパチンコ器及び機械設備の取得価額は3,115万円とされていること、また、Nの土地は借地であり建物は請求人の実父であるLが不動産の売却代金で建設したものであることが認められることから、Nの開店資金は、銀行借入金の7,000万円の範囲内でも賄うことが可能と推定され、本件出資金がNの開店資金のためのものであるという請求人の答述を、直ちに採用することはできない。
 また、上記(ロ)のGの譲渡担保を原因とする所有権移転登記の事実から、請求人がM社に対して何らかの債務を有している可能性を排除することはできないが、請求人は、当審判所に対して譲渡担保の原因となる債務についての具体的な証拠資料を提示しないので、この債務の発生原因及び使途等について確認することができない。
(ホ) そうすると、仮に本件借入金が存在したとしても、本件借入金が請求人の事業経理に係る帳簿に記載されていないこと(上記(ロ)のA)、上記(ロ)のEの試算表においても本件出資金又は本件借入金の存在が確認できないこと、及び上記(ロ)のKに記載の事実に照らし、本件借入金は、上記(ハ)の事業の用に供されたものとは直ちに認め難いところ、請求人は、上記(ニ)のとおり、当審判所に対して本件借入金を事業の用に供したと認めるに足りる証拠資料を提示しないのであるから、本件借入金に係る本件利子割引料を必要経費に算入すべきであるという請求人の主張は、採用することができない。

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(2) 貸倒損失について

 請求人は、保証債務の額を保証債務が確定した昭和61年分の貸倒損失として、全額を必要経費の額に算入すべきである旨主張し、必要経費の額に算入すべき年分に争いがあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ) 本件保証債務は、請求人が漆器販売業をも営んでいたころの取引先であるSの借入金(貸主はT信用組合)に対し、請求人が連帯保証した請求人の事業に関連した債務であること。
(ロ) R地裁の和解調書において、本件保証債務が確定したのは、昭和61年12月26日であること。
(ハ) 請求人は、個人営業を昭和63年8月31日に廃業していること。
ロ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) Sは、昭和58年5月ごろから行方不明で、かつ処分する資産もないことから、請求人は本件保証債務の履行に伴う求償権を行使できないこと。
(ロ) 本件保証債務の1,800万円について、請求人がT信用組合に弁済した金額は、遅延損害金も含めて昭和62年中に450万円、昭和63年中に300万円、平成元年中に1,125万円であること。
(ハ) 原処分庁は、請求人が昭和62年に履行した保証債務額450万円を同年分の必要経費として認めていること。
(ニ) 請求人は、昭和63年中に弁済した保証債務300万円については昭和63年分の確定申告により、また、平成元年中に弁済した保証債務1,125万円については、昭和63年分の更正の請求により、所得税法第63条((事業を廃止した場合の必要経費の特例))の適用を求め、それぞれ弁済額の全額を必要経費として認められていること。
ハ  ところで、保証債務に係る貸倒損失については、所得税法第51条第2項及び同法施行令第141条第2号において、保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなった場合に、必要経費に算入する旨規定されている。
 すなわち、必要経費の額に算入できる時期は、保証債務を履行し、かつ、求償権の行使ができなくなった時であると解されている。
ニ したがって、本件保証債務については、上記(イ)の事実により求償権の行使ができなくなったことが認められるから、実際に保証債務を履行した年分の事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入するべきであり、保証債務が確定した年分の必要経費に全額算入すべきとの請求人の主張は採用できず、昭和62年に実際に保証債務を履行した450万円のみを同年分の貸倒損失として事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入した原処分は相当である。

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(3) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、各年分の更正処分は相当であり、かつ、昭和61年分の更正処分により納付すべき税額のうち、重加算税の賦課決定の対象となった税額及び青色申告の承認取消処分によって必要経費に算入できないこととなる青色事業専従者給与額等に係る部分の税額以外の税額を過少に申告したことについて、請求人には、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定した原処分は相当である。

(4) 重加算税の賦課決定処分について

イ 更正処分に係る賦課決定処分について
 以上のとおり、各年分の更正処分は相当であり、また、請求人は、各年分の事業所得の金額の計算上、パチンコ営業に係る仕入金額を水増し計上するなどにより所得を隠ぺいし、又は仮装し、これに基づき確定申告書を提出したこと(以下「隠ぺい・仮装の事実」という。)を自認し、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
 したがって、これらの請求人の行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するというべきであるから、これらの事実に係る部分の税額について、同項の規定に基づいて各年分の更正処分に係る重加算税を賦課決定した原処分は相当である。
ロ 修正申告に係る賦課決定処分について
 請求人は、自主的に本件修正申告書を提出したものであると主張するが、当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁が調査に着手したのは、昭和63年4月7日であること。
(ロ) 請求人が本件修正申告書を提出したのは、平成元年3月27日であること。
 したがって、原処分庁の職員の調査を受けた後に本件修正申告書を提出したことは明らかであるから、本件修正申告は、更正があるべきことを予知してされたものであり、国税通則法第65条第5項の規定は適用されず、かつ、隠ぺい・仮装の事実については、上記イに記したところと同様であって、これを認めることができるから、国税通則法第68条第1項の規定に基づいて昭和60年分及び昭和62年分の修正申告に係る重加算税を賦課決定した原処分は相当である。

(5) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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