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(平7.12.6裁決、裁決事例集No.50 35頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、昭和62年分の所得税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおりの記載をして、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成5年3月10日付で次表の「更正」欄のとおりの更正処分及び「賦課決定」欄のとおりの賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成5年4月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年6月28日付で次表の「異議決定」欄のとおり原処分の一部を取り消す異議決定をした。

(単位 円)
区分項目金額
確定申告総所得金額(不動産所得の金額)1,155,000
 課税長期譲渡所得の金額64,989,000
 納付すべき税額14,499,000
更正総所得金額(不動産所得の金額)1,155,000
 課税長期譲渡所得の金額131,835,000
 納付すべき税額36,014,900
賦課決定重加算税の額7,528,500
異議決定総所得金額(不動産所得の金額)1,155,000
 課税長期譲渡所得の金額131,605,000
 納付すべき税額33,649,800
 重加算税の額6,702,500

 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年7月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、昭和62年10月8日に、P市R町1丁目902番1所在の宅地(以下「本件土地」という。)を、F(以下「F」という。)に99,354,000円で譲渡したので、その譲渡価額を基として課税長期譲渡所得の金額を64,989,000円として申告した。
 原処分庁は、これに対し、本件土地に係る請求人とFとの取引は仮装のものであり、請求人は、本件土地を株式会社G(以下「G社」という。)に171,300,000円で譲渡したとして更正処分をした。
 しかしながら、本件土地は、次のとおり、Fに譲渡したものであり、譲渡価額は99,354,000円であるので、原処分庁の認定は、事実誤認をしている。
(イ)請求人は、昭和62年8月ころ、請求人が役員となっているH株式会社(以下「H社」という。)への貸付資金調達のため、本件土地を売却することとし、請求人に代わって請求人の夫であるJ(以下「J」という。)が本件土地の売却交渉に当たることとした。
(ロ)Jは、昭和62年8月ころに不動産業者である株式会社K(以下「K社」という。)の代表取締役であるL(以下「L」という。)から「あなたが本件土地の所有者ですか」という照会の電話があり、その後さらに「本件土地を分けてほしい」という電話を受けたが、この時には本件土地をFに売却すると決めていたので、「すでにFに売却の承諾書を渡してあるからだめだ」と言って断った。
(ハ)本件土地の譲渡価額は、99,354,000円とし、昭和62年10月8日に本件土地の不動産売買契約書(以下「売買契約書甲」という。)を作成した。
(ニ)本件土地の譲渡代金は、請求人がFから、昭和62年10月8日に本件土地の譲渡に係る手付金として3,000,000円の小切手(以下「手付小切手」という。)を受領し、残金は同月31日にW銀行P支店応接室において、権利書等と引替えに82,650,000円の小切手及び13,704,000円の現金を受領した。
(ホ)原処分庁は、売買契約書甲に記載されている本件土地の面積が、請求人がM測量事務所に測量を依頼し、同事務所が昭和62年10月10日に行った測量(以下「本件測量」という。)の実測面積であることを理由に、売買契約書甲は仮装のものであると認定しているが、請求人はM測量事務所に測量を依頼した事実はなく、売買契約書甲に記載されている本件土地の面積はN株式会社(以下「N社」という。)に測量させた面積である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は違法であるから、その全部の取消しに伴い、重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張
原処分は、次の理由により適法である。

イ 更正処分について
(イ)本件土地の譲渡先及び譲渡価額
 本件土地の譲渡先及び譲渡価額について調査したところ、次のことが認められる。
A 本件土地は、請求人がFに譲渡したとし、FがG社に転売した売買契約書(以下「売買契約書乙」という。)が作成されていること。
B 請求人がFに99,354,000円で譲渡したとする売買契約書甲の内容は、次のとおりであること。
(A)売買契約締結日は、昭和62年10月8日である。
(B)売買物件は、P市R町一丁目902番1土地56.65平方メートルである。
C 売買契約書甲の契約締結日は昭和62年10月8日となっているにもかかわらず、同契約書に記載されている本件土地の面積は昭和62年10月10日に行われた本件測量の実測面積56.65平方メートルが記載されていること。
D 本件測量は、M測量事務所により行われていること。
E 本件測量の測量代金130,000円は、昭和62年10月29日に請求人がM測量事務所に支払っていること。
F FがG社に対して発行した領収証によれば、本件土地の譲渡代金は171,300,000円であること。
G 昭和62年10月31日にG社が売主に渡したX銀行Y支店振出の82,650,000円の小切手は、同日、同行Z支店の請求人名義の普通預金の口座番号△△△の口座(以下「X請求人A口座」という。)に入金されていること。
H 昭和62年10月31日にW銀行P支店のG社名義の普通預金口座から88,650,000円が出金されていること。
I X銀行I支店の次長であったA(以下「A」という。)は、原処分庁の請求人に対する所得税の調査(以下「本件調査」という。)において、次のとおり申述している。
(A)私が、X銀行Z支店の融資担当の支店長代理であった昭和62年10月ころ、JからP駅近くの土地を売却するので代金の受渡しに立ち会ってほしいとの依頼があった。
(B)私は、上記(A)の依頼に際し、Jから土地は約17坪であり、坪当たり10,000,000円で売却すると聞いた。
(C)代金の受渡しはP市内の銀行の応接室で行われ、その場には私、請求人及びJが同席した。
J Lは、異議申立てに係る調査において、次のとおり申述していること。
(A)私は、昭和62年9月ころに、本件土地の売買の話をJに持ちかけ、その際、本件土地の近隣の土地が坪当たり11,000,000円で売買されたことを話した。
(B)私は、Jと本件土地について数回売買交渉を行った結果、坪当たり10,000,000円で売買取引をすることとなった。
(C)本件土地の売買契約締結の直前になって、Jから本件土地をFに売却したと言ってきた。
K 昭和62年10月5日に開設されたX銀行Z支店のF名義の普通預金口座(以下「XF口座」という。)に、次表のとおり入金があること。

(単位 円)
入金年月日入金額
昭和62年11月2日15,000,000
昭和62年11月6日8,010,000
昭和62年11月13日6,970,000

L XF口座から昭和63年3月24日に出金された17,000,000円は、同日、同店のB名義の普通預金口座(以下「XB口座」という。)に入金され、同口座から昭和63年4月30日に出金された1,000,000円は、同日、同店のJ名義の普通預金口座に入金されていること。
M Jの親せきにあたるBは、本件調査においてXB口座は自己の口座ではない旨申述していること。
N Fは昭和63年7月6日に警察に逮捕されているが、XF口座は同月18日に解約されていること。
O X銀行Z支店の請求人名義の普通預金口座に、次表のとおり入金があること。

(単位 円)
入金年月日口座番号入金額
昭和62年11月4日××××5,000,000
同日○○○○5,000,000

P 昭和62年11月4日C銀行本店のF名義の普通預金口座(以下「CF口座」という。)に、10,000,000円の入金があること。
Q CF口座は昭和62年10月5日に開設されており、当該口座の開設に伴う普通預金印鑑紙に記載された生年月日はFの生年月日とは相違していること。
 以上のとおり、1売買契約書甲には、昭和62年10月10日の本件測量による実測面積が記載されていることから、仮装の売買契約書と認められること、2本件土地の譲渡代金と認められる入金があるCF口座及びXF口座はいずれも請求人の口座であると認められること、3Aは、原処分庁に対してJから売買代金は坪当たり10,000,000円であると聞いたと申述していること及び4Lは、原処分庁に対してJと数回売買交渉を行った結果、坪当たり10,000,000円で売買することとなったと申述していることから、請求人は、本件土地を昭和62年10月8日にFに99,354,000円で譲渡したのではなく、昭和62年10月31日にG社に171,300,000円で譲渡したものと認められる。
(ロ)昭和62年分の課税総所得金額及び課税長期譲渡所得の金額並びにこれらの計算内容は、次のとおりである。
A 総所得金額
 総所得金額は、請求人の確定申告額のとおり、不動産所得の金額1,155,000円と認められる。
B 長期譲渡所得の金額
 請求人が本件土地を所有していた期間は、昭和62年1月1日現在において5年を超えていると認められるので、本件土地を譲渡したことによる所得は、租税特別措置法第31条(昭和63年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)《長期譲渡所得の課税の特例》に規定する長期譲渡所得となる。
(A)譲渡所得に係る総収入金額
 譲渡所得に係る総収入金額は、上記(イ)のとおり、171,300,000円と認められる。
(B)取得費の額
 取得費の額は、請求人の確定申告額32,465,000円に、取得に係る仲介手数料900,000円を加算した33,365,000円と認められる。
(c)譲渡に要した費用の額
 譲渡に要した費用の額は、K社への仲介手数料5,100,000円、印紙代100,000円及び測量代130,000円の合計額5,330,000円と認められる。
 以上により、昭和62年分の長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位 円)
項目金額
譲渡所得に係る総収入金額1171,300,000
取得費の額233,365,000
譲渡に要した費用の額35,330,000
長期譲渡所得の金額(123)132,605,000

C 所得控除の額
 所得控除の額は、請求人の確定申告額のとおり、330,000円と認められる。
D 課税長期譲渡所得の金額
 長期譲渡所得の金額132,605,000円から長期譲渡所得の特別控除額1,000,000円を控除した131,605,000円となる。
 以上により、昭和62年分の課税総所得金額及び課税長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位 円)
項目金額 
総所得金額11,155,000
課税長期譲渡所得の金額2131,605,000
所得控除の額3330,000

3の金額を12から順に控除
 課税総所得金額           825,000
 (千円未満の端数切捨て)
 課税長期譲渡所得の金額     131,605,000
 (千円未満の端数切捨て)
 したがって、上記の金額と同額でした昭和62年分の更正処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
(イ)請求人は、本件土地をG社に171,300,000円で譲渡したにもかかわらず、売買契約書甲を作成して、本件土地を99,354,000円でFに譲渡したかのごとく仮装して、譲渡価額を過少に計上し、本件土地の譲渡に係る譲渡所得の金額を過少に申告していたものと認められる。
 このような行為は、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
(ロ)重加算税の基礎となる税額は19,150,000円(一万円未満の端数切捨て)となり、国税通則法第68条第1項の規定に基づき重加算税の額を計算すると6,702,500円となる。
 したがって、重加算税の金額を上記金額と同額でした賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件土地に係る譲渡先及び譲渡価額について争いがあるので、調査・審理したところ次のとおりである。
イ 本件土地の譲渡先及び譲渡価額について
(イ)次のことについては、当事者間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A 売買契約書甲には、契約日は昭和62年10月8日、売買物件はP市R町一丁目902‐1土地56.65平方メートル、売主は請求人、買主はF、売買金額は99,354,000円、手付金は契約日に3,000,000円、残金の決済及び物件の授受は昭和62年10月末日と記載されていること。
B XB口座は、Jが開設し管理している預金口座であること。
(ロ)請求人の提示資料及び原処分関係資料等を基に当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A Fは、生年月日が昭和11年5月13日であり、住民登録の住所地はQ市S町348番地であるが、同所には居住しておらず所在不明であること。
B CF口座の普通預金印鑑紙には、Fの生年月日が昭和11年7月1日と記載されていること。
C CF口座に使用されている印章とXF口座に使用されている印章とは印影が同一であること。
D Fは、昭和63年3月14日に、分離課税の短期譲渡所得の金額及び申告納税額を記載した昭和62年分の所得税の確定申告書を所轄税務署長に提出して申告納税額のごく一部のみを納付し、残額は滞納していること。
E XB口座の昭和63年3月24日付の17,500,000円の入金伝票とXF口座の同日付の17,000,000円の出金伝票は、取扱時間及び通番が同一であることから同一人が入出金を行ったものであること。
F CF口座へ、昭和62年10月7日に現金3,000,000円が入金され、同日同口座から3,000,000円を出金してC銀行本店振出の小切手が作成され、この小切手は昭和62年10月8日午前9時30分にX請求人A口座に入金されていること。
G M測量事務所が作成した確定測量図には、場所はP市R町一丁目902番1、測量年月日は昭和62年10月10日、計算上の面積は56.648392平方メートル、実測値は56.64平方メートルと記載されていること。
H M測量事務所の請求人あての測量代金の請求書控には、日付は昭和62年10月、請求金額は130,000円と記載されていること。
I M測量事務所の代表者であるD(以下「D」という。)のX銀行O支店の普通預金通帳には、日付欄に昭和62年10月29日、入金欄に130,000円、摘要欄に「××××(請求人名)」と記載された取引記録があること。
J X請求人A口座から昭和62年10月29日付で130,000円が出金されていること。
K 売買契約書乙には、契約年月日が昭和62年10月31日、売買物件はP市R町一丁目902番1宅地実測面積56.64平方メートル、登記簿地積56.79平方メートル、売主はF、買主はG社、媒介業者はK社及びE、売買代金は「昭和62年10月10日付M測量事務所の実測面積による取引金額171,300,000円」及び「売買代金の支払は所有権移転登記申請と同時」と記載されていること。
L 請求人が本件土地の測量をN社に依頼した証拠として提出した領収書には、領収日付は昭和57年7月1日、領収金額は47,000円、但書は「P市R町一丁目902番1実測(56.65平方メートル)の土地測量代金として」、発行者はN社と記載されていること。
M N社については、次の事実が認められる。
(A)N社は、商業登記簿によると昭和40年2月1日に設立され、代表取締役はT、取締役には請求人及びJらが就任し、その後、昭和56年2月27日にU株式会社に商号変更し、平成元年12月3日に商法第406条の3第1項の規定により解散していること。
(B)N社の代表取締役であったTは、昭和57年当時、病気により入院したため会社は休業状態となっていたこと。
(ハ)Jは、当審判所に対し次のとおり答述している。
A 本件土地売買代金の手付金3,000,000円は、昭和62年10月8日の昼ころ、私の立会いの下にFから請求人が小切手で受け取っていること。
B Fから、本件土地の権利書等及び売買代金残額の受渡しは、昭和62年10月31日にW銀行P支店応接室で行うとの連絡を受けたため、当日私は、請求人及びAと同行して出向いた。
 代金決済の場に同席した者は、買主側がF、司法書士及び銀行員と思われる2人がおり、売主側は私と請求人及びAであり、権利書、印鑑証明書及び昭和55年に本件土地を購入した際に売主からもらった測量図と昭和58年ころに測量した測量図を渡し、司法書士の求めに応じて請求人は委任状へ署名押印をするとともに中間省略登記の書類に署名押印をしたこと。そして、残金の決済は領収書と引換えにFから82,650,000円の小切手と13,704,000円の現金を私が受け取り、帰路にX銀行Z支店に立寄って小切手は預金するようAに渡し、現金は自宅へ持ち帰ったこと。
C Z市に住んでいるので本件土地の相場が分からないため、売却する前に本件土地の近辺の人3名に尋ねたところ、V社のおばさんからは坪当たり5,000,000円ぐらいと聞いた。
 そして、Z市のN社やP市のイ社にも本件土地の売却を依頼したが、Fが一番早くに買うことを決めてくれたので、坪当たり5,800,000円として99,354,000円で取引することにしたこと。
D 昭和62年8月ころに、Lから本件土地の所有者を尋ねる旨の照会の電話をうけ、その後さらに、本件土地を譲ってほしい旨の電話を受けたが、この時点では本件土地をFに売却することを決めていたので断ったことがあるだけで、Lと本件土地の売却交渉は一切していないこと。
E 本件土地を売却する前に、Fから面積が少しでも違うと金額が大きいのでもう一度測量をしてほしいと言われたが、昭和55年ころに本件土地を購入した際に、売主からもらった測量図と昭和58年ころにN社に頼んで測量してもらった測量図の2枚が存在するので、測量するならFの方でしてほしい旨断ったこと。
(ニ)Lは、当審判所に対し次のとおり答述している。
A 私は、昭和62年9月のはじめころに、Jに本件土地に隣接する角地が坪11,000,000円で売れたことを話し、本件土地の売却を勧めたところ、この時にはJから売るとの返事はもらえなかったが、その後、Jと買主G社の不動産仲介業者であるロ社のE(以下「E」という。)との間に仲介に入って、売買契約日までに4回か5回交渉したこと。
B 本件土地の売買金額はJとEとが合意して坪当たり10,000,000円と決まったものであるが、売買契約締結の直前になってJから本件土地をFに売却したと知らされたが、その後もJと売買交渉を行い、私は、Fとは一切売買交渉をしていないこと。
C 昭和62年10月31日のW銀行P支店の応接室には、私のほかに、社員の△△、J夫婦、F、E、G社の代表取締役である○○(以下「○○」という。)とその社員及び銀行員ら10名ほどが集まった。そして、売買代金の現金は、ジュラルミンのケースに入れて運び込まれ、Jが連れてきた銀行員がその現金を数えていたこと。
(ホ)○○は当審判所に対し、Eの紹介で本件土地を購入したが、契約日である昭和62年10月31日に、社員の□□と共にW銀行P支店の応接室へ小切手で82,650,000円、現金で88,650,000円を持参して、土地購入代金として支払った。この時に、Lが約束の時間に遅れEに叱られていたこと及びM測量事務所の本件土地の確定測量図を受け取った旨答述している。
(ヘ)Eは、当審判所に対し次のとおり答述している。
A Lから、本件土地を本件土地の隣地と一緒に売ってほしい旨の依頼を受け、G社が本件土地を坪10,000,000円で買い取ることとして、昭和62年10月31日にW銀行P支店の応接室で契約を行い、○○から売買代金を受け取って、Lに渡したこと。
B 中間省略登記の同意書がないと裁判で無理に中間省略登記させられたとの異議申立てをされる場合があるから同意書をとるよう弁護士から指導をうけていたため、その場に同席していたFからはG社あての中間省略登記の同意書に、また、請求人にはG社あての念書に、上記契約の際に、それぞれ署名押印してもらったこと。
(ト)V社の××は当審判所に対し、P市R町一丁目902番1所在の本件宅地は自宅近辺であるが、自宅近辺の土地の相場については、以前から関心もなく承知していない。また、これまでにも、他人から、これら自宅近辺の土地の相場を聞かれたことも、話したこともない旨答述している。
(チ)Dは、当審判所に対し次のとおり答述している。
A 私は、Lの依頼で、H社の事務所においてLをJに引き合わせたこと。
B その後、Jから私に本件土地の測量依頼があり、昭和62年10月10日に本件測量を行ったこと。
C 昭和62年10月15日か16日ころに、Jに実測面積は、56.64平方メートルであると説明して確定測量図を渡したこと。
(リ)Aは当審判所に対し、次のとおり答述している。
A 私がX銀行Z支店に赴任して間もない昭和62年9月下旬に、Jから本件土地を坪当たり10,000,000円で売るから、根抵当権の解除と売買代金の受渡しに立ち会ってもらいたいと依頼されたため、本件土地の売買予定価額を坪数に10,000,000円を乗じた171,700千円と記載した根抵当権解除の行内文書を作成したこと。
B 私は、本件土地に係る売買代金の受渡しの立会いのため、昭和62年10月末ころに、Jの運転する車で請求人と私の3人でP市内の銀行へ行き、そこで、現金を数えたが1千万円、2千万円程度の少額のものではなかった。そして、その現金を私の鞄に詰めて、Jの運転する車で請求人と私の3人がX銀行Z支店に戻り、小切手1枚を預かり、現金は鞄ごとJが持ち帰ったこと。
(ヌ)上記(イ)ないし(リ)の事実及び答述に基づき、本件土地の譲渡先及び譲渡価額について判断すると、次のとおりである。
A 本件土地の取引については、上記(チ)のAのとおり、LがDの紹介によりJと知り合い、上記(ニ)のAのとおり昭和62年9月のはじめころ、本件土地に隣接する角地が坪当たり11,000,000円で売れたことを話して、本件土地の売却を勧めたことが認められ、その後にLは、JとEとの間に入って、売買交渉が4回から5回持たれ、本件土地の売買金額は、坪当たり10,000,000円でJとEが合意したことが認められる。
B その後、上記(チ)のB及びC並びに上記(ロ)のGないしJのとおり、DはJの依頼に基づいて、昭和62年10月10日に本件測量を行い同月15日か16日ころにJに確定測量図を渡し、測量代は請求人がX請求人A口座から昭和62年10月29日に130,000円を出金の上、同日、請求人名によりX銀行O支店のD名義の普通預金口座へ130,000円を振込入金したことが認められる。
C ところで、上記(ニ)のBのとおり、Jは売買契約の直前になって、Lに本件土地はFに売ったことを申し出ているが、Lはその後もJを相手に本件土地の売買交渉をしていることが認められる。
D 上記(ロ)のFのとおり、昭和62年10月8日付の、X請求人A口座への手付小切手3,000,000円の入金については、CF口座振出しの小切手であるが、(a)上記(ロ)のA及びBのとおり、Fは昭和11年5月13日生であるが、印鑑紙に記載されている生年月日は昭和11年7月1日となっており、Fの生年月日と相違すること、(b)上記(ロ)のCのとおり、CF口座とXF口座に使用されている印章は同一であること、(c)上記(イ)のBのとおり、Jが開設して管理していたと自認しているXB口座とXF口座は、上記(ロ)のEのとおり、昭和63年3月24日の両口座の入出金を同一人が行ったものであることから推認すれば、CF口座とXF口座はいずれもXB口座と同様にJが管理していたものと認められ、Jの管理する預金から同人が手付小切手の作成等を行ったものと認められる。
E 昭和62年10月31日W銀行P支店の応接室には、上記(ハ)ないし(ヘ)及び(リ)のことから、請求人、J、A、L、K社の社員△△、F、E、○○及びG社の□□社員ら10名ほどが集まって、本件土地の取引が行われ、出席関係者の間で取り交わされた契約書は上記(ロ)のKの売買契約書乙であり、その売買取引金額は坪当たり10,000,000円で、実測面積により、17.13(坪)を乗じた171,300,000円となっており、E、L及びJとの間で売買交渉が成立した金額となっている。
F しかし、売買契約書乙の売主欄がFであることから、上記(ヘ)のBのとおり、EはG社側の弁護士の指導によりFには中間省略登記の同意書及び請求人にはG社あての念書に、それぞれ署名押印を求めたことが認められる。
G また、上記(ホ)のとおり、○○も社員の□□と共に昭和62年10月31日にW銀行P支店の応接室へ出向き、Eに小切手82,650,000円、現金で88,650,000円を渡し、EはLに当該小切手及び現金を渡し、この時、○○はM測量事務所の本件土地の確定測量図を受け取っている。
H 次に、上記(リ)のBのとおり、J夫婦に同行したAは現金を確認し、その現金を鞄に詰めてJ夫婦とX銀行Z支店に戻り、請求人から預かった小切手を請求人名義の預金に入金したが、現金はJが鞄ごと持ち帰ったこと、しかも、その現金は、1千万円や2千万円ではなかったことが認められる。
 上記AないしHの取引の経過から、請求人はJに本件土地の売買に関する交渉を任せ、Jは上記AのとおりEと交渉し、本件土地を坪当たり10,000,000円、総額171,300,000円で売買の約束をし、昭和62年10月31日W銀行P支店の応接室において、上記E及びGのとおり、本件土地についての売買取引を行ったものと認めるのが相当である。
 ところで、請求人は、昭和62年8月ころLから本件土地の売買交渉を受けた際、Fに売却を承諾済であった旨主張し、Jは、上記(ハ)のとおりLとは交渉をしていないと答述しているが、(a)上記A及びCのとおり、昭和62年9月ころL及びEと本件土地の売買交渉を行っていること、(b)上記(ト)のとおり、××は、本件土地近辺の土地相場について全く知らないこと、(c)上記(リ)のAのとおり、Aに昭和62年9月下旬ころ本件土地を坪当たり10,000,000円で売るから、本件土地についている根抵当権を解除してもらいたいと申し出ていること及び(d)上記EないしGのとおり、昭和62年10月31日のW銀行P支店の応接室における取引の場にLほか関係者とともに同席し、かつ、その場で、請求人はG社あての念書に署名押印していることが認められ、Jの答述は信用できず、また、請求人の主張も採用できない。
 また、請求人は、上記(ロ)のLのとおり、本件土地の測量はM測量事務所に依頼した事実はなく、N社に測量させたものである旨主張してN社の領収書を提出したが、(a)上記Bのとおり、請求人は、昭和62年10月29日に本件測量の代金130,000円をM測量事務所に支払っていること及び(b)N社の領収日付は昭和57年7月1日になっているが、上記(ロ)のMのとおり、N社は昭和56年2月27日にU株式会社と商号変更している上に、同社は昭和57年当時は休業状態となっていたことからN社が測量したとは認めがたく、請求人から同社が作成した測量図など他に証する資料の提出もないことから、請求人の主張は採用できない。
 さらに、請求人は、上記(イ)のAのとおり、本件土地は昭和62年10月8日に99,354,000円でFに譲渡し、同日に手付小切手を受領したと主張し、昭和62年10月8日付売買契約書甲を提出したが、(a)上記Dのとおり、手付小切手はJが管理する預金口座から出金されて作成されたと認められ、Fが本件土地取引に当たり自己資金を捻出しているとは認められないこと、(b)Fは、G社への本件土地売却に当たり、L及びEと売買金額について交渉した事実が全く認められないこと、(c)上記(ロ)のDのとおり、Fは、本件土地の譲渡について確定申告しているが、ごく一部のみしか納税していないこと及び(d)上記AないしHまでの取引の経過などから、Fは、本件取引に際して、Jから本件取引に際して名目的な中間取引者になることを依頼されて、請求人との間に売買契約書甲を作成し、その直後に売買契約書乙によりG社への譲渡人となったものと推認され、請求人がFに本件土地を譲渡し、FがG社側に売却したとは到底認められないことから、請求人がFに本件土地を譲渡したとする請求人の主張は採用できない。
 以上のことから、請求人は、JにFを本件土地の譲受人として介在させて、売買契約書甲をもって実態のない不動産売買を行い、さらに、Fを譲渡人とし、G社との間で売買契約書乙により実体の伴わない内容虚偽の契約を行ったものであり、請求人が、本件土地を171,300,000円でG社へ譲渡したものと認めることが相当である。
ロ 昭和62年分の課税総所得金額及び課税長期譲渡所得の金額並びにこれらの計算内容は、次のとおりである。
(イ)総所得金額
 総所得金額は、請求人の確定申告額のとおり、不動産所得の金額1,155,000円と認められる。
(ロ)長期譲渡所得の金額
 請求人が本件土地を所有していた期間は、昭和62年1月1日現在において5年を超えていると認められるので、本件土地を譲渡したことによる所得は、租税特別措置法第31条第1項に規定する分離課税の長期譲渡所得となる。
A 譲渡所得に係る総収入金額
 譲渡所得に係る総収入金額は、上記イのとおり、171,300,000円と認められる。
B 取得費の額
 取得費の額は、請求人の確定申告額32,465,000円に、取得に係る仲介手数料900,000円を加算した33,365,000円と認められる。
C 譲渡に要した費用の額
 譲渡に要した費用の額は、K社への仲介手数料5,100,000円、印紙代100,000円及び測量代130,000円の合計額5,330,000円と認められる。
 以上により、昭和62年分の長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位 円)
項目金額
譲渡所得に係る総収入金額1171,300,000
取得費の額233,365,000
譲渡に要した費用の額35,330,000
長期譲渡所得の金額(123)132,605,000

(ハ)所得控除の額
 所得控除の額は、請求人の確定申告額のとおり、330,000円と認められる。
(ニ)課税長期譲渡所得の金額
 長期譲渡所得の金額132,605,000円から長期譲渡所得の特別控除額1,000,000円を控除した131,605,000円となる。
 以上により、昭和62年分の課税総所得金額及び課税長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位 円)
項目金額
総所得金額11,155,000
課税長期譲渡所得の金額2131,605,000
所得控除の額3330,000

3の金額を12から順に控除
 課税総所得金額           825,000
 (千円未満の端数切捨て)
 課税長期譲渡所得の金額     131,605,000
(千円未満の端数切捨て)
 したがって、上記ロの金額と同額でされた昭和62年分の更正処分は適法である。

(2)重加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、請求人は本件土地を171,300,000円でG社へ譲渡したにもかかわらず、中間譲受人としてFを介在させて売買契約書甲を作成することにより、同人に99,354,000円で譲渡したかのごとく本件土地の譲渡価額を過少に仮装し、譲渡所得の金額を過少に申告していたことが認められる。
 このことは、国税通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、同項の規定に基づいてされた重加算税の賦課決定処分は相当である。

(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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