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(平7.7.31裁決、裁決事例集No.50 151頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年分の所得税について青色申告書以外の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成5年5月14日付で次表の「原処分」欄記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分確定申告原処分
総所得金額1,847,4991,847,499
内訳
 不動産所得の金額1,027,4991,027,499
 給与所得の金額820,000820,000
分離長期譲渡所得の金額11,234,66946,323,750
納付すべき税額2,328,8009,662,700
過少申告加算税の額983,000

 請求人は、上記各処分を不服として平成5年5月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月6日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年9月3日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、請求人が昭和42年4月12日に相続によって取得したP市R町1117番1所在の土地100平方メートル(以下「本件土地」という。)を平成3年1月29日付でF株式会社に51,425,000円で譲渡した。
 そこで、請求人は、この本件土地の譲渡(以下「本件譲渡」という。)に係る分離課税の長期譲渡所得(以下「本件長期譲渡所得」という。)の金額の計算に当たり、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》の規定(以下「買換えの特例」という。)を適用して本件長期譲渡所得の金額を11,234,669円として申告したところ、原処分庁は、本件土地が措置法第37条第1項に定める事業の用に供しているもの(以下「事業の用に供しているもの」という。)に該当しないとして、本件長期譲渡所得の金額を46,323,750円とする更正処分をした。
(ロ)しかし、本件土地は、事業の用に供しているものに該当するから本件譲渡につき買換えの特例の適用を認めるべきである。
 また、請求人は、農業を営みそこから生じる所得により親子3人の生活を賄ってきたものであること及び今までに農業関係の役員を勤め国の減反政策に協力してきたことを考慮すれば、原処分庁は、本件譲渡につき買換えの特例の適用を認めるべきである。
 なお、本件譲渡につき買換えの特例の適用を認めないとする原処分庁の事実認定には、次のとおり誤りがある。
A 請求人は、P市が昭和60年から昭和62年6月ごろまでに行った本件土地に隣接する道路の新設工事のために従来の水路が遮断され、稲の植え付けができなくなったので、不本意ながら休耕の申請をしたものであること。
B 上記Aの道路工事の後は、本件土地を埋立てして畑作によって大根・白菜を作ってきたこと。
C 水田農業確立助成金は、米の生産調整という政策に従って米の作付が可能であるにもかかわらず休耕することに対する米生産調整奨励補助金と同趣旨のものであるから、昭和62年度水田農業確立助成金を受けているからといって、本件土地が事業の用に供しているものに該当しないとはいえないこと。
D 原処分庁は、昭和63年1月9日の航空写真によれば、本件土地を農地として利用していた事実は認められないと主張するが、撮影が行われたのは冬期であり、撮影されているのは、白菜を収穫した跡地だと推測されること。
(ハ)仮に買換えの特例を適用して本件長期譲渡所得の金額を計算できないとしても、原処分の調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)は、原処分の調査において、請求人に対し、「譲渡関係及び建築関係等一切の調査、法律要件は満たされています。オーケーです。万一問題があれば、今年の11月末までに代理人のG宛に連絡します。なければ是認です。」と述べ、本件土地が買換えの特例の適用を受けられるかのような説明をした。
 その後、平成4年11月末日までに、原処分庁から請求人に対して本件譲渡についての買換えの特例の適用の可否について何らの連絡もなかったので、請求人は、買換えの特例の適用を受けられるものと信じた。
 したがって、原処分庁には、本件譲渡について、買換えの特例の適用を受けられるべきものとして取り扱うべき信義則上の義務がある。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、請求人が農地として耕作していた本件土地は、事業の用に供しているものに該当する旨主張する。
 しかし、本件土地の利用状況は、次の事実からすれば営利を目的として継続的に利用していたものとはいえないから、事業の用に供しているものに該当しない。
A 請求人は、本件土地を含む次表の土地を休耕する旨記載した昭和62年度の転作等実施計画書(水田預託申込書)を昭和62年2月にP市役所に提出していること。

所在地面積開始年度
P市Q町738番590平方メートル昭和61年
P市R町1120番198平方メートル昭和61年
P市R町1117番100平方メートル昭和61年

 また、本件土地に隣接する道路の新設工事期間は、昭和60年2月15日から同年3月25日までであったこと。
B 請求人は、P市を通じて国から昭和62年度の水田確立助成金を、昭和62年11月30日に2,616円、昭和63年3月23日に2,616円受領しているが、この助成金は、生産を農業協同組合に預託したことに基づいて支払われたものであるから、本件土地を事業の用に供していたとは認められないこと。
C 昭和63年1月9日の航空写真によれば、本件土地を農地として利用していた事実は認められないこと。
(ロ)以上のとおり、本件譲渡について買換えの特例の適用は認められないので、本件長期譲渡所得の金額は次表の(5)欄記載のとおりとなる。

(単位 円)
区分調査額
譲渡価額(1)51,425,000
取得費(2)2,571,250
譲渡費用(3)1,530,000
特別控除額(4)1,000,000
譲渡所得の金額(5)46,323,750
((1)-(2)-(3)-(4))

 この計算過程は次のとおりである。
A 譲渡価額、取得費及び譲渡費用は、請求人が平成3年分所得税の確定申告書に添付した「譲渡資産などの内訳書」に記載した金額である。
B 特別控除額は、措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項に規定する1,000,000円である。
(ハ)また、調査担当職員は、原処分の調査において、買換えの特例が受けられないことを説明して修正申告をするように指導しており、本件土地が買換えの特例の適用を受けられるかのような説明をして「オーケーです。」とか「是認です。」などの発言をした事実はない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は適法であり、かつ、確定申告額が過少であったことについて国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 本件土地が措置法第37条第1項に規定する事業用資産に該当するかどうかについて争いがあるので、以下審理する。
(イ)当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地の登記簿上の地目は、田であること。
B 本件土地の固定資産税台帳における現況地目は、昭和57年度から平成3年度までは、田であり、本件譲渡に際し、同年度中に農地法第5条の農地転用のための権利移動の許可を受け、平成4年度以後の同台帳における現況地目は、雑種地とされていること。
C 昭和58年ころから同61年ころまでにかけて、本件土地の周辺においてP市が施工する道路工事が行われ、その一環として、本件土地に隣接する区間の工事は、昭和58年8月15日から同年10月20日ころまでにわたって実施され、その過程において、請求人が従来本件土地を水田として耕作するために使用していた水路が遮断されて使用不能となったこと。また、その後、同61年中に、全区間の当該道路工事が終了し、水路の復元が可能となったが、その当時及びその後、請求人から同市側に対し、当該水路の復元を求める申出等が行われず、その復元はされなかったこと。
D 本件土地の隣接地において昭和60年ころからタクシー業を営むH株式会社P営業所にその営業開始当時から勤務している事務員は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
(A)本件土地は、昭和60年の営業開始当時から空地になっていたような気もするが、はっきりしない。
(B)本件土地で耕作しているのを見たことはない。
E 請求人から本件土地を購入したF株式会社の代表取締役Jは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
(A)購入時の本件土地は、少なくとも水田ではなく、良く覚えていないが、何も耕作しておらず、空地のような感じだった。
(B)本件土地の高さは、道路と同じだった。
F 請求人は、水田農業確立対策実施要綱(農林水産事務次官依命通達)に基づき、本件土地につき、農協への水田預託(転作を目的として水田を農協等の団体に預託することをいう。以下同じ。)をすることを内容とする昭和62年度転作等実施計画書(水田預託申込書)をP市農業協同組合を経由してP市長に提出し、これに基づき、水田農業確立助成金の交付を受けたが、昭和63年度以後については、この計画書が提出されていないこと。また、この計画書の提出に基づく水田預託の受入れに際しては、水田預託の対象となる水田の現況確認は行われていないこと。
G 水田を畑に転換する場合の一時的な埋立ては、基本的には、農地法に基づく農地の転用に該当し、同法の許可を要するものであるが、現実には、その許可手続を経ていない事例が見られることにかんがみ、一種の便法として、S県農林部長の通達により、耕作期間にかかることのないおおむね1か月以内に工事が完了する埋立てにつき、農業委員会に届け出るよう行政指導がなされているところ、本件土地については、上記Bの平成3年度中の農地転用のための権利移動の許可を除き、農地法の許可申請も農業委員会への届出もなされていないこと。
(ロ)請求人は、平成6年2月17日、当審判所に対し、次のとおり答述している。
A 本件土地は、元は水田で、用水路も備えていたが、昭和58年に本件土地の隣接地をP市に市道用地として買収されてから、間もなく、本件土地の周辺で道路工事が始まり、その工事によって、用水路がなくなってしまい、本件土地を水田として利用することはできなくなった。
B 私が買収された土地そのものの道路工事は、昭和60年ころ施行されたが、本件土地周辺の道路工事全体は、昭和59年ころから昭和62年ころにかけて施行されたと記憶している。
C 私は、この道路工事が終わってから、本件土地に土を盛って、自家用の大根や白菜を植えたが、年を取ってきたし、体調も思わしくなくなり、自宅から離れている本件土地まで行って畑仕事をするのがつらくなったので、本件土地での畑作も長くは続かず、遅くとも昭和63年11月ないし12月ころの収穫期を最後に、本件土地の耕作を止め、それからは、本件土地を何にも使わないで放置していた。
D ただし、私は、その後も本件土地の草刈りだけはして管理していた。これは、草を刈らないで放置すると市の環境保全部公害課に注意されるからである。
E 私が本件土地の耕作を止めた時点では、本件土地を処分しようとか、何かに使おうとかいう予定はなかった。
F その後、本件土地が空地になって遊んでいるためか、いろいろな人から本件土地を売ってくれと言われるようになったが、私は、本件土地を売却する決心がつかず、断わっていた。
G そうこうするうちに、平成2年中ころになり、M不動産という不動産屋をやっているKから、本件土地をF株式会社が買いたいと言っていると言われ、私は、ついに本件土地を手放す決心をし、Kの仲介で同会社に本件土地を譲渡した。
(ハ)ところで、措置法第37条第1項は、買換えの特例の適用について、譲渡資産を事業の用に供していることをその要件のひとつとしており、農業もその「事業」に該当するものである。
 また、措置法は、一定の政策目的から定められた特則・例外規定であり、その適用の要件がきめ細かく規定されているものであるから、その解釈適用は、厳格にされなければならないものである。
(ニ)このことを本件について見るに、次のとおりである。
A まず、本件土地については、原処分庁が主張するように、昭和63年1月9日に財団法人Lが撮影した航空写真が存するが、当該写真は、本件土地に農作物が植えられていたかどうかを把握するに十分なものではなく、また、本件土地の状況についての関係人の答述も、上記(イ)のD及びEのとおり、必ずしも明確なものではない。
 しかし、上記(イ)のAないしCの各事実及び同Fのとおり昭和62年度について本件土地につき転作等実施計画書(水田預託申込書)が提出され、請求人が耕作しなかったことが明らかであり、昭和63年度以後は、それが提出されず、水田を前提とした預託の対象にすらされていないことを総合すれば、本件土地は、本件譲渡の数年前から少なくとも田として利用しうる状況になかったことが認められ、さらに、畑作を含め一切農業の用に供されていなかったのではないかとの疑念を払拭できないところである。
 なお、請求人は、水田農業確立助成金は、昭和46年度から昭和50年度まで実施された米生産調整及び稲作転換対策実施要綱(農林事務次官依命通達)に基づく米生産調整奨励補助金と同趣旨のものであって、当該助成金を受けて農協に水田預託した期間においても、農業の用に供しているものと評価されるべきものであるかのように主張する(上記2の(1)のイの(ロ)のC)が、当審判所の調査によれば、水田農業確立対策実施要綱に基づく水田預託は、農業経営者が自ら耕作しないとの意思決定の下に将来他人に使用貸借等によって貸し付けて転作させることを目的に農協等と契約するものであるから、この水田預託が行われている期間は、請求人自らの意思に基づいて耕作することを停止したものと認められ、この点に関する請求人の主張は採用できない。
B 請求人は、上記(ロ)のとおり、昭和62年ころから昭和63年にかけて本件土地に土を盛って、自家用の大根や白菜を植えた旨答述するところ、上記(イ)のGのとおり本件土地について水田を埋め立てて畑に転換するために必要な許可申請等の措置が講じられていないこと、請求人自身も昭和62年当時本件土地を「水田」とする前提の下に上記(イ)のFのとおり転作等実施計画書(水田預託申込書)を提出していることに照らし、この答述部分の信用性には疑問もあるが、上記(ロ)の答述が全体として自己に不利益な事項も含め具体的かつ詳細に述べたものであって十分信用できること(ただし、道路工事の実施時期については、確たる資料に基づく供述ではなく、あくまで記憶に基づいて述べたものであることから、必ずしも正確ではなく、その点については、上記(イ)のCの認定がより正確である。)から、当該部分のみ信用性を否定して排除するに足りない。
C そこで、上記Aの認定及び上記(ロ)の請求人の答述を総合すれば、本件土地においては、道路工事が終了した昭和61年以後、あくまで自己使用目的で一時的に畑作が行われた可能性は否定し切れないものの、平成元年以後は、畑作が行われることなく、請求人は、本件土地を農業の用に供する意思を放棄したことが認められる。
 そうすると、請求人は、本件譲渡当時、本件土地を農業の用に供していなかったものと認められ、これに反する証拠は見当たらない。
D 請求人は、仮に本件土地を農業の用に供していたと認められないとしても、長年農業を営み、減反政策などの国の農業政策に協力してきたことを考慮して買換えの特例を認めるべきであると主張するかのようであるが、上記(ハ)のとおり措置法の解釈適用が厳格にされなければならないことに照らし、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 次に、請求人は、原処分庁には本件土地の譲渡について買換えの特例の適用を受けられるべきものとして取り扱うべき信義則上の義務がある旨主張するが、当審判所の調査によれば、調査担当職員は、原処分の調査において請求人が取得した貸家は買換資産として認められるが、請求人が譲渡した本件土地は事業の用に供しているものに該当しないから買換えの特例の適用が受けられないことを請求人に説明していることが認められ、これと矛盾する「譲渡関係及び建築関係等一切の調査、法律要件は満たされています。オーケーです。万一問題があれば、今年の11月末までに代理人のG宛に連絡します。なければ是認です。」という発言をした事実は認められず、かつ、他にこれを認めるに足りる証拠もないことから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ハ 以上のとおり、本件土地は事業の用に供されているものに該当せず、かつ、請求人のいう信義則に基づく行政上の配慮等の必要性もないことは明らかであるから、請求人の本件長期譲渡所得の金額を計算すると、原処分庁の主張のイの(ロ)の表の(5)欄記載のとおり46,323,750円となる。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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