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(平8.1.31裁決、裁決事例集No.51 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、外資系証券会社に勤める会社員であるが、平成4年分の所得税について、確定申告書の次表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
 <区分>申告更正
<項目>
総所得金額15,824,55921,299,559
内訳
給与所得の金額21,299,55921,299,559
譲渡所得の金額△5,475,000
還付金の額に相当する税額2,904,840714,840
重加算税の額766,500

(注)△印は、損失金額を示す。
 原処分庁は、これに対し、平成7年3月9日付で上表の「更正」欄のとおりの更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分のうち、重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)に不服があるとして、平成7年4月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月29日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年7月27日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるので、本件賦課決定処分の取消しを求める。
イ 株式会社Gゴルフ(以下「Gゴルフ」という。)の会員権(以下「本件会員権」という。)の譲渡(以下「本件譲渡」という。)の経過は、次のとおりであり、請求人は、故意に取引を仮装したものでもなければ脱税を意図したものでもない。
(イ)請求人は、平成4年当時、Gゴルフがその親会社の倒産に伴い、経営危機に陥る可能性が生じたため、本件会員権の取引相場のあるうちに少しでも有利に本件会員権を売却する意向を持っていた。
(ロ)平成4年12月ころ、請求人の同僚である○○会社のH(以下「H」という。)から株式会社J(以下「J社」という。)のK(以下「K」という。)を紹介された。
 Kから、J社が本件会員権の売却先を探すという申入れがあり、更に次のような説明があった。
A 売却先が見つからない場合は、J社が本件会員権を買い取る。
B ただし、転売先が見つからない場合は、後でJ社から買い戻してくれることが条件である。
C この取引は、一度売買が成立して譲渡損が発生するので、この譲渡の損失は損益通算ができる。
(ハ)上記の話を基に、請求人は平成4年12月10日にJ社と本件会員権の売買契約を締結した。
 この契約の条件は、次のとおりであった。
A 現在買い手がなく、J社が本件会員権を600,000円で買い取る。
B その後、同額でJ社から買い戻してもらう。
C 売買代金は同額の買戻しなので、金銭の移動はなしとする。
D 本件会員権の名義の書換えは必要なし。
 なお、請求人は、この取引が実体を伴わない取引であるとの指摘を受ける不安を感じたため、売却代金の受領、名義書換えをJ社に対し要求したが、J社はこれに応じなかった(売却価格については、その程度と思い交渉はしなかった。)。
ロ 本件譲渡は、結果として取引が成立しなかったことに伴い、売却がなかったものと同様になったもので、当初から計画していたものではない。
ハ 請求人は、次のとおり、計画的、意図的に本件譲渡に関する行為を行ったのではなく、税務に対する知識の不足からこのような行為を行ったといえる。
(イ)仮に、本件譲渡を原処分庁が仮装取引と断定するのであれば、請求人は、Kを信用して同人の指示に全面的に従ったもので、むしろ被害者である。
(ロ)請求人が平成4年12月10日付でJ社に対して本件譲渡の売却代金の領収書を発行しているのは、請求人は、本件譲渡を正常な商取引だと信じていたがゆえにKの要求に従ったにすぎない。
(ハ)本件譲渡について、J社が仕入れ及び売上げに計上していなかった点について、請求人は知る由もない。
(ニ)さらに、Hが計画した他のゴルフ会員権の譲渡が不適正だからといって、他の取引と同様に請求人に重加算税が賦課されるのは不当といえる。
ニ しかるに、原処分庁は、原処分庁が請求人に強要した申述書の下書きを見てもわかるように、当初から重加算税を賦課するための意図を持って調査をしたもので、納税者一人一人の置かれている状況の違いを調査せず、調査不十分のまま推測により重加算税を賦課したものである。
ホ 原処分庁は、本件譲渡は請求人がJ社に対し実体のない仮装取引をさせたと認めるのが相当と推測し、事実を誤認し課税を行うという重大な錯誤をしている。
 過少申告加算税はやむを得ないとしても、重加算税の賦課決定処分は錯誤に基づくものであり、妥当ではないから、請求人は本件賦課決定処分の取消しを求める。

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(2)原処分庁の主張

 本件賦課決定処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人が提出した平成4年分の所得税の確定申告書及びその付属書類によると、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成5年3月16日原処分庁に提出した「ゴルフ会員権の譲渡内容についてのお尋ね」に平成4年12月10日に本件会員権をJ社に600,000円で譲渡した旨記載されていること。
B 本件譲渡にかかわる取得費の額を6,000,000円、譲渡費用の額を75,000円として、差引5,475,000円の譲渡損失を算出していること。
C 請求人は、平成4年分の所得税について、上記の譲渡損失5,475,000円を給与所得と損益通算して、還付される税額を2,904,840円と算出していること。
(ロ)J社の取締役であったK(平成6年2月まで在任。以下同じ。)は、原処分庁の調査担当職員に対して要旨次のとおり申述している。
A 平成4年12月ころ、Hからゴルフクラブの会員権を売って、買い戻したことにした計算書を作成して欲しいとの依頼があり、Kは、これを承諾した。
B Kは、上記計算書の作成に係る手数料を受領したが、ゴルフ会員権の買い代金の支払及び売り代金の受領はなかった。
C Kは、脱会届等の通常の取引に必要な書類は作成したが、Gゴルフに対して、当該書類を提出、あるいは、連絡等は一切行っていない。
D Hの紹介により、請求人との間で、本件会員権について、Hが行った取引と同様の取引を行った。
(ハ)原処分庁が調査したところ、次の事実が判明した。
A 本件会員権の名義変更は行われていないこと。
B 平成4年12月10日付で本件会員権について、売主を請求人、買主をJ社、売買金額を600,000円とする会員権取引計算書(以下「計算書a」という。)が作成されていること。
C 平成5年1月11日付で本件会員権について、売主をJ社、買主を請求人、売買金額を600,000円とする会員権取引計算書(以下「計算書b」という。)が作成されていること。
D J社は、本件会員権の取引について、仕入れ及び売上げを計上せず手数料収入のみを計上していること。
E 請求人は、平成4年12月10日付でJ社に対して、本件会員権の売却代金の領収書を発行していること。
F 請求人が原処分庁に提出した事情説明書によれば、次のとおりである。
(A)請求人は、Gゴルフの親会社が不渡りにより倒産したため、本件会員権の取引相場のあるうちに売却しようとしたが、取引相場は下がる一方で売買は成立しなかった。
(B)請求人は、平成4年11月ころ、Kに本件会員権の売却を依頼したところ、J社が買手を探し、買手がいない場合はJ社が買い取る、そして、その後請求人がJ社から買い戻すように言われ、これにより生ずる譲渡損失は損益通算できる旨説明された。
(C)請求人は、平成4年12月10日、本件会員権を買い戻すことを条件にJ社に売却した。
(D)請求人は、本件会員権に係る取引に際して、売却代金の支払がないことに不安を覚えたが、結局金銭の授受はなかった。
(E)請求人は、本件会員権の売買価格についてKと協議することはなく、Kからの一方的な言い値により決定した。
ロ 以上の点を踏まえると、次のように判断される。
(イ)請求人が主張するとおり、本件譲渡が実体を伴う譲渡であれば、請求人とJ社の間で本件会員権の売買価格について協議することが相当である。
 しかし、両者は価格について何らの協議も行っておらず、Kからの一方的な提示によって決まっていることからみても、本件譲渡は実体を伴っていない譲渡と認めるのが相当である。
(ロ)請求人は、本件会員権の相場の下落により、譲渡という手段で少しでも損失額を抑えようとすることが、もはやできないと考え、当該含み損を解消する手段として、虚偽の売買を仮装するためにKをして実体の伴わない計算書a及びbを作成させたと認めるのが相当である。
(ハ)したがって、請求人は、本件譲渡が実体を伴わない譲渡であることを十分認識した上で作成されたこれらの虚構に基づき、内容虚偽の本件申告書を作成して、納付すべき所得税額を殊更過少にして、不当に納税義務を免れようとしたと認めるのが相当である。
ハ 請求人が行った本件譲渡に係る一連の行為は、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課決定要件を満たすことが明らかであり、本件賦課決定処分を行ったことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡に係る取引について、請求人に隠ぺい又は仮装があったかどうかであるので、以下審理する。
(1)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
 請求人が提出した平成4年分の所得税の確定申告書及びその付属書類(ゴルフ会員権の譲渡内容についてのお尋ね)によれば、
イ 請求人は、平成4年12月10日に本件会員権をJ社に600,000円で譲渡した。
ロ 請求人は、本件譲渡に係る収入金額を600,000円、取得費の額を6,000,000円、譲渡費用の額を75,000円として、差引5,475,000円の譲渡損失を算出した。
ハ 請求人は、平成4年分の所得税について、上記の譲渡損失5,475,000円を給与所得と損益通算して、還付される税額を2,904,840円と算出した。
旨が記載されていること。
(2)原処分関係資料によれば、次の事実が認められる。
イ J社の取締役であったKは、原処分庁の調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述していること。
(イ)平成4年12月ころ、Hからゴルフクラブの会員権を売って、買い戻したことにした計算書を作成して欲しいとの話があり、承諾したこと。
(ロ)上記計算書の作成に係る手数料は受領したが、ゴルフ会員権の買い代金の支払及び売り代金の受領はなかったこと。
(ハ)このゴルフ会員権の売買に伴う脱会届等の通常の取引に必要な書類は作成したが、Gゴルフに対して、当該書類を提出、あるいは、連絡等は一切行っていないこと。
(ニ)Hの紹介により、本件会員権について、請求人との間でHが行った取引と同様の取引を行ったこと。
ロ 本件会員権の名義変更は行われていないこと。
ハ 平成4年12月10日付で本件会員権について、売主を請求人、買主をJ社、売買金額を600,000円とする計算書aが作成されており、請求人の確認の署名があること。
ニ 平成5年1月11日付で本件会員権について、売主をJ社、買主を請求人、売買金額を600,000円とする計算書bが作成されており、請求人の確認の署名、押印があること。
ホ J社の総勘定元帳によれば、J社は本件会員権の取引について、仕入れ及び売上げの双方とも計上はなく、平成5年1月11日にGゴルフの手数料収入として1件当たり75,000円が4件計上されていること。
ヘ ゴルフ会員権の譲渡の際に作成する、ゴルフ会員権譲渡通知書、一般名義書換申請書、紛失届及び委任状の各用紙には、住所・氏名欄のみに請求人の住所・氏名の記載、押印があり、作成日等他の事項については記載がないこと。
ト 請求人は、平成4年12月10日付でJ社に対して、本件会員権の売却代金600,000円から手数料75,000円を差し引いた525,000円の領収書を発行していること。
チ 請求人は、原処分庁の調査担当職員に対し、平成6年12月15日に要旨次のとおりの事情説明書を提出していること。
(イ)請求人は、Gゴルフの親会社であるL株式会社が不渡り倒産したため、本件会員権の取引相場のあるうちに本件会員権を売却しようとしたが、取引相場は下がる一方で売買は成立しなかったこと。
(ロ)請求人は、平成4年11月ころ、Kに本件会員権の売却を依頼したところ、同人から、J社が本件会員権の買手を探し、買手がいない場合はJ社が本件会員権を買い取る、そして、その後請求人が買い戻すようにと言われ、これにより生ずる譲渡損失は損益通算できる旨説明されたこと。
(ハ)請求人は、平成4年12月10日、本件会員権を買い戻すことを条件にJ社に売却したこと。
(ニ)請求人は、本件会員権に係る取引に際して、売却代金の支払がないことに不安を覚えたが、結局金銭の授受はなかったこと。
(ホ)請求人は、本件会員権の売買価格についてKと協議することはなく、同人からの一方的な言い値により決定したこと。
(3)ところで、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の制裁措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持することにある。
 そして、加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して課する刑事罰とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課す行政上の制裁措置である。
 このような制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装が有り、その隠ぺい又は仮装を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解される。
(4)上記(2)の事実を上記(3)に照らして判断すると、a上記(2)のト及びチの(ニ)のとおり、請求人は、本件会員権に係る取引に金銭の授受がなかったにもかかわらず、本件会員権の売却代金とする領収書を発行していること、b上記(2)のロないしヘのとおり、本件譲渡に関する会員権取引の関係書類が作成されているものの実際に本件会員権の名義変更は行われていないこと、(c)上記(2)のホのとおり、本件会員権の取引相手であるJ社の経理処理は、本件譲渡に関し仕入れ及び売上げの計上がないこと及び(d)上記(1)のとおり、請求人は本件会員権をJ社に譲渡して損失が生じた旨の申告をしていることなどから、請求人は、実体のない売買を売買があるかのように仮装し、これに基づき納付すべき税額を過少に記載して、内容虚偽の確定申告書を提出したものと認められる。
 すなわち、請求人は、(a)上記(2)のチの(ロ)のとおり、本件会員権の売却により譲渡損失を生じさせれば損益通算ができることを承知の上で、(b)上記(2)のチの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件会員権を売却代金と同額で買い戻すことを条件として、その売却代金を受領することなしに、平成4年12月10日付の計算書aをもって本件会員権を売却することとし、(c)上記(2)のニのとおり、平成5年1月11日付の計算書bをもって、本件会員権を売却代金と同額で買い戻しているのであるから、請求人は、本件会員権の売買により、実質的な損失は生じていないことを十分承知しているにもかかわらず、計算書aの作成をもってその損失が生じたとして申告しているのであり、このことは、損益通算を行うためのみの目的で本件会員権の譲渡取引があったかのような仮装をしたことに基づき申告したことにほかならないものである。
 そうすると、請求人のこれらの行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するものというべきである。
 よって、原処分庁が、国税通則法第68条第1項の規定を適用して本件賦課決定処分をしたことは適法である。
(5)請求人は、本件譲渡は当初から計画していたものではなく、税務の知識不足から行った行為であり、原処分庁は調査不十分のまま仮装取引と認定する重大な錯誤をしている旨主張するので、以下検討する。
 重加算税の賦課要件は、上述のとおり、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものか否かであるので、その行為の意図及び税務の知識の有無までは必要としていないと解される。
 また、請求人は、原処分庁は納税者の個々の状況の違いを十分に調査せず、仮装行為の認定をする重大な錯誤をしている旨主張するが、上記(4)のとおり、当審判所の調査によっても請求人の行為は仮装行為と認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は見当たらない。

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