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(平8.5.20裁決、裁決事例集No.51 658頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成5年10月22日に死亡したFの相続人であるが、この相続開始に係る相続税の申告書に課税価格1,625,070,000円、納付すべき税額736,607,900円と記載して、法定申告期限内の平成6年5月23日に申告をするとともに、納付すべき税額のうち、32,976,231円を納付し、延納を求める税額300,000,000円と記載した相続税延納申請書並びに物納を求める税額403,631,669円及び物納申請財産として次表のとおり物件を記載した相続税物納申請書を原処分庁に提出した。

(単位 円、平方メートル)
物件所在地地目面積価格
P市R町40番山林19621,469,056
P市T町89番山林1,163225,592,563
P市T町90番796
Q市S町91番山林2,647156,570,050

 原処分庁は、物納申請財産のうちP市R町40番所在の地目山林(現況地目は雑種地)面積196平方メートル(以下「本件物納申請土地」という。)について、平成7年4月18日付で、相続税物納申請財産変更要求通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、本件通知処分を不服として、平成7年6月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月21日付で棄却する旨の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、不服があるとして、平成7年9月19日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 原処分庁は、本件物納申請土地を管理又は処分をするのに不適当な財産であると認定して、物納財産の変更を求める本件通知処分をしたが、本件物納申請土地は、次の理由により、管理又は処分をするのに不適当な財産には当たらない。
(イ)本件物納申請土地は、間口約2メートル、奥行約58メートルの東西方向に長い不整形な土地であるが、過去に旧○○街道から県道への連絡道路を設置する際、その候補地となっていたことがある。最終的に連絡道路は他所に設置されたが、設置された連絡道路は左折禁止などの交通規制があり不便で、本件物納申請土地の方が場所的に自動車の交通の利便を向上させるのに適しており、近隣における道路事情の悪さを改善するために、南側に隣接する水路と一体で道路として活用することが可能であり、処分をするのに困難な土地とはいえない。
また、国が本件物納申請土地の所有権者となった場合は、近隣住民に家庭菜園として利用させることで、食料が自給され、適度の農作業により健康の増進が図れるなどの効果が期待でき、管理も容易である。
(ロ)さらに、本件物納申請土地の処分が容易か否かは、その売却価格によるので、売却ができるまで価格を下げることにより容易に処分ができる。
ロ 本件物納申請土地が本件相続税の課税対象となった財産であるにもかかわらず、管理又は処分の困難を理由に物納を拒否するのは、極めて不公正で信義則に反する。

(2)原処分庁の主張

原処分は、次の理由により適法である。
イ 請求人は、本件物納申請土地については、(a)道路又は家庭菜園として管理、活用することが可能である、(b)売却価格を売却ができるまで下げることにより容易に処分ができる旨主張するが、相続税の物納は、単に物納財産を国に帰属させることを目的として設けられたものではなく、相続税の納付の手段として、収納後、国がこれを処分(売却)
し、その代金をもって財政収入に充て、金銭で税の納付があった場合と同等の経済的利益を得ることを真の目的としており、請求人の主張するように処分ができるまで価格を下げればよいというものではない。
ロ 請求人は、本件相続税の課税対象となった財産について物納を拒否するのは、極めて不公正で信義則に反する旨主張するが、相続税の物納は、相続税法第41条《物納の要件》の規定による一定の要件を具備した場合に、同法第42条《物納の手続及び許可》の手続によって許可されるものであり、この要件及び手続を欠く場合には、相続税の課税対象となった財産であっても、物納を許可することはできないものである。
ハ ところで、本件物納申請土地は、形状等から地形が狭長であるなど単独での利用が困難な土地であるため、相続税法第42条第2項ただし書に規定する「当該申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める度合」に該当するので、物納財産として不適当と判断したものである。

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3 判断

(1)本件物納申請土地が、物納財産として適しているかどうかに争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件物納申請土地は、東側の国有道路敷と接している正面が約2メートル、奥行が約58メートル、背面が約4メートルの東西に細長く不整形であること。
(ロ)本件物納申請土地は、南側が国有堤とう敷と、北側が市有用悪水路敷と、西側が第三者の所有地とそれぞれ接していること。
(ハ)本件物納申請土地は、東側の国有道路敷及び南側の国有堤とう敷との高底差が約2メートルあること。
ロ ところで、相続税の納税については、(a)相続税法第41条第1項において、納付すべき相続税を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、税務署長は、納税義務者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができると規定し、(b)同法第42条第2項のただし書きにおいて、当該申請に係る物納財産が管理又は処分するのに不適当であると認める場合は、その変更を求め、当該申請者が同条第4項の規定による申請を提出するのをまって許可又は却下することができると規定している。
 これらの規定は、相続税の物納は金銭納付の特例として設けられているものであるから、国が金銭に代えて物納財産を収納した場合にも金銭納付と同等の財政的効果をあげ得るものであることを要するとの趣旨に基づくものである。
 したがって、同法第42条第2項のただし書きに規定する「申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合」とは、国が物納財産を管理又は処分することにより、金銭で相続税の納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができないと認められる場合と解するのが相当と認められる。
ハ これを、本件についてみると次のとおりである。
(イ)本件物納申請土地は、前記イのとおり間口が約2メートル、奥行が約58メートルと細長く不整形な地形をしており、東側の国有道路敷及び南側の国有堤とう敷との高低差が約2メートルあり、単独で通常の用途に供することができない土地であることから、物納財産として管理又は処分をするのに不適当なものであると認めるのが相当である。
 したがって、原処分庁が本件物納申請土地を物納財産として不適当と判断し、その変更を求めた本件通知処分は適法である。
(ロ)なお、請求人は、本件物納申請土地については道路又は家庭菜園として利用することが可能であり、また、処分が容易か否かは、その売却価格の設定による旨主張するが、相続税の物納の趣旨は前記ロのとおりであるから、請求人の主張は、いずれも採用することはできない。
(2)次に、請求人は、本件物納申請土地が相続税の課税対象となった財産であるにもかかわらず、原処分庁が、管理又は処分の困難を理由に物納を拒否したことは極めて不公正で信義則に反する旨主張するので、以下審理する。
イ 平成7年4月18日付の相続税物納申請財産変更要求通知書によれば、変更を求める理由として「当該物納財産は形状等から地形狭長等単独利用困難な土地であるため、当該財産のみでは管理又は処分をするのに不適当な財産であると認められる。」と記載されている。
ロ 相続税は、相続により取得した財産を課税対象として課税されるものであり、金銭で納付することを原則としているが、前記(1)のロのとおり、相続税法第41条の規定では、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、税務署長は、納税者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができることとなっている。
 請求人は、本件物納申請土地が本件相続税の課税対象となっていることをもって、本件通知処分が不公正で信義則に反する旨主張するが、相続税の物納が金銭納付の特例として設けられている趣旨及び原処分庁が本件物納申請土地を上記イの理由により管理又は処分をするのに不適当な財産であると認めて、相続税法第42条第2項ただし書の規定に基づき物納財産の変更を求めた事実に照らせば、本件通知処分を不公正で信義則に反しているということはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(3)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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