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(平12.5.22裁決、裁決事例集No.59 137頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、ワラントの権利行使期間が徒過し失効したことによる損失(以下「失効損失」という。)を他の株式等に係る譲渡所得の金額の計算上控除することができるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり。

(3)基礎事実

 以下の事実は、審査請求人(以下「請求人」という。)及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人が平成3年に取得し、平成7年の権利行使期限までに権利を行使せずに失効したワラント(以下「本件ワラント」という。)の明細は、次表のとおりである。

ロ 請求人が、租税特別措置法(平成10年法律第107号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第37条の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》の規定に基づき申告した平成7年分の株式等に係る譲渡所得の金額(以下「本件所得金額」という。)の内容は、次表のとおりである。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ ワラントは、その性質上、発行会社の株価が一定の価格以下となると、譲渡することが困難となる。
 そして、ワラントを著しく低い価額で譲渡した場合の損失は、株式等に係る譲渡所得の金額の計算上控除することができるにもかかわらず、その失効損失については控除することができないとすると、所得税法上、課税の公平を保つことはできない。
ロ また、法人税法においては、ワラントの失効損失は、法人税法施行令第68条《資産の評価損の計上ができる場合》の規定により、評価損として、所得金額の計算上損金に算入されるものと認識されていることから、担税力に即した公平な課税を図る所得税法においても、失効損失について同様に取り扱うべきである。
ハ したがって、本件ワラントの取得価額は、本件ワラントの失効損失(以下「本件失効損失」という。)というべきであるから、本件所得金額の計算上、取得費又は譲渡費用として控除すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 株式等に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費及び譲渡費用は、譲渡した株式等の取得に要した金額及び当該株式等を譲渡するための費用に限られるところ、本件ワラントを譲渡した事実は認められないこと等から、本件失効損失を、本件所得金額の計算上、取得費又は譲渡費用として控除することはできない。
ロ 株式等の価額が著しく低下したことによる、いわゆる評価損については、所得税法上、これを控除することができる旨の規定はなく、また、法人税法第33条《資産の評価損の損金不算入等》第2項及び法人税法施行令第68条の規定を準用する旨の規定もないことから、評価損として本件失効損失を本件所得金額の計算上控除することはできない。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 所得税法第33条《譲渡所得》第3項及び措置法第37条の10第6項第3号の規定によれば、株式等に係る譲渡所得の金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額並びにその年中に支払うべきその資産を取得するために要した負債の利子の合計額を控除して算定するものとされている。
ロ ところで、ワラントとは、発行会社の株式を、一定の期間(権利行使期間)内に、一定の価格(権利行使価格)で、一定量購入することのできる権利(証券)であって、権利行使時に発行会社の株価が権利行使価格を上回らないと無価値となるハイリスク・ハイリターンの金融商品である。
 そして、ワラントの失効とは、権利行使期間の徒過により当該権利が消滅することであり、資産の譲渡には該当しないものである。
 そうすると、本件ワラントの譲渡はないのであるから、本件所得金額の計算上、本件ワラントの取得価額を取得費として控除することはできないし、また、当該取得価額は、G株式会社及び株式会社Hの株式を譲渡するために要した費用でもないから、本件所得金額の計算上、譲渡費用として控除することもできないのであって、失効損失というべき本件ワラントの取得価額を本件所得金額の計算上控除すべきであるとの請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人は、ワラントを著しく低い価額で譲渡した場合との課税の公平上、失効損失は株式等に係る所得金額の計算上控除されるべきである旨主張するが、請求人の主張には税法上の根拠がないから、理由がない。
ハ また、請求人は、本件失効損失については、法人税法上損金として取り扱われていることから、所得税法においても同様に、損金として取り扱われるべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法には、法人税法の取扱いを準用する旨の規定はないことから、請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおりであるから、本件失効損失を本件所得金額の計算上、取得費用又は譲渡費用として控除することはできず、更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は相当である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

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