ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.60 >> (平12.9.19裁決、裁決事例集No.60 185頁)

(平12.9.19裁決、裁決事例集No.60 185頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の金銭貸付け(別表2―1及び別表2―2に記載の金銭貸付けをいい、以下「本件貸付け」という。)に係る損失の金額が、所得税法第27条《事業所得》第1項に規定する事業所得に該当するか、所得税法第35条《雑所得》に規定する雑所得に該当するかを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年分及び9年分(以下、併せて「両年分」という。)の所得税について、本件貸付けに係る損失の金額を、事業所得の金額の計算上生じた損失の金額として、所得税法第69条《損益通算》第1項の規定により他の所得の金額から控除し(以下、この控除を「損益通算」という。)、別表1の「確定申告」欄のとおり両年分の確定申告書を作成して法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、両年分の所得税について、平成10年7月31日付で、本件貸付けに係る損失の金額を、雑所得の金額の計算上生じた損失の金額と認定した上、当該金額については他の所得の金額から控除することは認められないとして、別表1の「更正処分」欄のとおり各更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、原処分の全部の取消しを求めて、平成10年8月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成11年3月3日付でこれを棄却する旨の異議決定をしたので、請求人は、同年4月2日に審査請求をし、原処分全部の取消しを求めた。
 なお、請求人は、所得税法第16条《納税地の特例》の規定に基づき、P県Q市R町2丁目12番21号を納税地としている。

トップに戻る

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成7年12月22日に、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)第4条《登録の申請》第1項に基づいてP県知事に貸金業者の登録を申請し、これに対しP県知事は、同人を平成8年2月15日付で貸金業者として登録した旨通知した。
ロ 請求人は、平成7年及び平成8年において、別表2―1及び別表2―2に記載のとおり金銭を貸し付け、平成9年においては、金銭の貸付けはしていない。
ハ 請求人は、E株式会社(以下「E社」という。)を昭和47年12月23日に設立し、同社の代表取締役に就任したが、同人は、平成2年3月10日に辞任した。
ニ E社は、平成8年4月1日にF地方裁判所から破産宣告を受けた。
ホ 本件貸付けにおける平成8年分の受取利息の金額は、株式会社G(以下「G社」という。)及びE社に係るものが514,028円、個人に係るものが49,479円であり、平成9年分は受取利息の金額がない。また、本件貸付けにより生じた損失の金額は、平成8年分が109,701,294円、平成9年分が925,862円である。
ヘ 請求人は、E社が平成7年6月29日にH金融公庫○○支店から借り入れた48,000,000円及び同年9月29日にI銀行○○支店から借り入れた50,000,000円のため、同人の所有する土地建物に別表3―1及び別表3―2記載のとおり根抵当権を設定し、E社の同借入れのために連帯保証人となっている。
ト 請求人は、平成8年6月3日に同人の所有する土地建物を総額447,179,000円でJ株式会社に譲渡し、当該譲渡代金により下表のとおりE社の債務を返済した。

チ 上記トの債務返済により生じた請求人の求償権については、連帯保証人であるE社の代表取締役Lの所有資産を勘案すると、同人に行使できる状況にない。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、平成2年にE社の代表取締役を辞任した際の退職金80,000,000円及び同年に同社の株式を売却した代金50,000,000円を原資として、不特定多数の法人・個人を顧客とする貸金業の開業を計画した。
ロ 請求人は、下記のとおり、貸金業者として登録しており、チラシの配布により広く一般の顧客を求めるとともに、人的・物的設備を備えて貸金業を営み、その結果、多数の者から借入れの申込みを受けている。
(イ)請求人は、平成7年12月22日に貸金業者の登録を申請した際に、登録申請書の同人が使用する商号又は名称欄にM・ローンと記載すべきところを誤ってG社と記載したため、使用する商号をM・ローンとする変更届出書を登録後に提出した。
(ロ)請求人は、平成6年10月28日に貸金業の事業所とするため、G社が同人から賃借しているP県Q市S町4丁目所在の建物を同社と共同使用することとした。
(ハ)請求人は、平成6年10月28日に、G社との間で上記(ロ)の建物に係る建物賃貸借契約書の第11条の特約に基づき、G社から受領する建物賃貸料とG社に支払う事務委託費及び事務所使用料との相殺に関し「事務委託費等の相殺契約」を締結した。
(ニ)請求人は、平成6年10月末ごろに、使用する商号をM・ローンと明記した営業チラシの原稿の企画をE社に依頼した。
 また、請求人は、平成7年の初めごろに、N株式会社(以下「N社」という。)に対して、同チラシの校正とE社の商品カタログとを併せてE社からの発注分として納品するよう協力を要請し、N社の承諾を得た上でE社にチラシの作成を発注した。
 なお、請求人は、営業チラシの制作代金として、E社に対し平成7年10月25日に銀行振込により119,742円を支払ったほか、N社に対し、平成8年2月29日に自己破産したE社に代わり275,731円を支払った。
(ホ)請求人は、借入申込者の信用調査に係る資料を迅速に収集するため、平成6年11月30日に株式会社Oの発刊する「××××情報」の購読会員になるとともに、同社に借入申込者の信用調査を依頼し、その結果を融資審査の判断資料として活用した。
(ヘ)請求人は、P県及びT県下の私鉄沿線の商店街を中心に、平成7年2月2日から平成8年8月末までの間に46,140枚の営業チラシを配布して380件の借入申込みを受け、更に平成8年9月1日から平成10年4月29日までの間に39,000枚の営業チラシを配布して約90件の借入申込みを受けた。
ハ 請求人は、E社の代表取締役を辞任し、同社の株式もすべて売却したことから、請求人と同社とは金銭貸借関係だけで特別の関係はない。
ニ 請求人がE社に対する貸付金の利率を年3%から5%と低くしたのは、平成7年2月15日付の請求人を譲渡担保権者、E社を譲渡担保権設定者とする集合物譲渡担保契約(以下、この契約を「本件譲渡担保契約」といい、この契約書を「本件譲渡担保契約書」という。)に基づきE社の商品及び金型を担保としている上、同社の代表取締役Lを連帯保証人としているからである。
ホ 請求人は、E社に対する貸付金については、本件譲渡担保契約、平成7年2月15日付の請求人を質権者、E社を質権設定者とする金銭貸借質権設定契約(以下、この契約を「本件質権設定契約」といい、この契約書を「本件質権設定契約書」という。)及び手形の受領により保全措置を講じている。
ヘ 請求人は、E社が平成7年6月29日付でH金融公庫○○支店から借り入れた48,000,000円及び同年9月29日付でI銀行○○支店から借り入れた50,000,000円についての連帯保証人となっているが、その報酬として、E社の受取手形を優先的に割り引く権利を得た。
ト 請求人は、E社に対する貸付金について、F地方裁判所に破産債権の届出を行うなど粘り強く努力したが、回収できなかった。
チ 請求人は、平成9年においても貸金業を行っているが、度重なる事務所の移転等により十分な営業活動ができず貸付けの実績がなかったものであり、現在もかねてから準備していた営業チラシを配布し、新規の顧客開拓に奔走している。
リ 以上のとおり、本件貸付けに係る所得は、所得税法第27条第1項に規定する事業所得に該当する。
ヌ 請求人は、本件更正処分のうち上記主張以外の部分については争わない。

トップに戻る

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 所得税法第27条第1項及び所得税法施行令第63条《事業の範囲》に規定する事業とは、その業務の営利性・有償性・継続性・反復性の有無のみならず、取引自体が事業としてなじみ得るか否か、取引の目的、自己の危険と計算における企画遂行性の有無、その取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、資金調達方法、その者の職業・経歴・社会的地位・生活状況、相当期間安定した収益が得られる可能性が存するか否かなどの諸点を総合勘案し、一般社会通念により事業と認められる社会的客観性が具備されているものと解するのが相当である。
ロ そこで、本件貸付けから生じた所得が事業所得に該当するか否かを判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、平成8年2月15日に貸金業者として登録されているが、本件貸付けは、すべて登録前に行われている。また、その貸付先は、E社及びG社以外については個人の7名に対する延べ8件、貸付総額は1,600,000円で、登録後においては新たな貸付先は認められない。
(ロ)請求人が原処分庁に提出したチラシ(以下「本件チラシ」という。)については、いずれもM・ローンの商号が印刷されているので、M・ローンという商号が決定された後に作成されたこととなるが、請求人は、貸金業の登録を申請する際に使用する商号がないとし、その後、平成8年5月14日に当該商号を決定したとしてこれを登録する申請をしていることから、平成7年中に本件チラシを作成したとするには矛盾がある。
(ハ)本件チラシの制作費用に係る2枚の請求書(以下「本件請求書」という。)は、同請求書を作成したE社の経理部長が請求人の指示により作成したものであり、また、本件チラシを作成したとするN社は、本件チラシに係る代金をE社に請求していないこと等から、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は請求書に記載されている内容が確認できず、本件チラシの一部が平成7年中に作成されたことが明らかでない。
(ニ)請求人が本件貸付けに係る広告宣伝により貸付けを実行した以外に法人及び個人から106件の借入申込みがあったとして原処分庁に提出した借入申込書(以下「本件借入申込書」という。)を基に本件調査担当職員が調査した結果によると、借入申込みがあったとする106件のうち、57件についてはその事実がないと回答しており、また、本件借入申込書に記載されている個人又は法人の代表者の生年月日がいずれも真実の生年月日と異なっている。さらに、同57件以外の本件借入申込書に記載された申込者についてはその存在を確認できない者が多数あり、上記回答等の事実に照らし合わせると、本件借入申込書に記載された申込者から借入れの申込みがされたとは認め難い。
(ホ)E社はG社の子会社であり、請求人はG社の代表取締役であることから、請求人は、E社に対し製品のデザインを指導するほか、損益計算書等の提示を求めたり、売掛金である絵画の売却代金を貸付金とすることをE社に求め、これに同社が応じていたことが認められる。また、請求人は、平成7年2月1日付の請求人を貸主、E社を借主とする限度貸付契約(以下、この契約を「本件限度貸付契約」といい、この契約書を「本件限度貸付契約書」という。)を締結しながら、E社の借入金に係る連帯保証人になり、これに対し請求人は報酬を得ていないことを併せ考えると、請求人は、E社に対して営利を目的に金銭を貸し付けたとは認め難い。
(ヘ)請求人が金融機関から借り入れた資金が、貸金業者として不特定多数の者に対する貸付金に充てられているとの事実が確認できないことなどから、当該借入金が貸金業者としての資金調達であるか明らかでない。
(ト)以上のことから、請求人は、貸金業としての業務実態が明らかでないばかりか、本件貸付けの大部分は請求人の関係会社に係るものであり、その実態は、G社に対するものは請求人が同社の代表取締役として資金を貸し付けたものであり、また、E社に対するものは、貸金業の遂行というよりは、むしろ、絵画の売掛金の回収を目的として又はE社の親会社であるG社の利害を考慮してE社に資金を貸し付けたと推認できる。
(チ)したがって、本件貸付けのうち営利を目的として行われていると認められるのは、上記(イ)の7名延べ8件で、その貸付金の総額は1,600,000円と少額であり、請求人は、両年分においてG社の代表取締役であるとともに、主に給与収入を生活の糧としていると認められることから、本件貸付けは両年分において、いまだ事業といえる規模で営まれていないとするのが相当である。
ニ そうすると、請求人の両年分の総所得金額及び平成8年分の長期譲渡所得の金額は、別表1の「更正処分」欄のとおりとなり、これらの金額は、いずれも本件更正処分の金額と同額となるので、本件更正処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)本件更正処分について

 本件審査請求の争点は、両年分の本件貸付けに係る所得の種類の区分であるので、以下審理する。
イ 認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成6年10月28日に、G社との間で、G社が同人から賃借しているP県Q市S町4丁目所在の建物に係る建物賃貸借契約書の第11条の特約に基づき、G社から受領する建物賃貸料とG社に支払う事務委託費及び事務所使用料との相殺に関し「事務委託費等の相殺契約」を締結し、当該建物をG社と共同使用している。
(ロ)請求人は、平成7年から平成9年までにおいてG社の代表取締役であり、また、G社の平成8年2月末現在の発行済株式数は96,000株であり、請求人、請求人の配偶者、長女、長男、次男及び三男が各16,000株を保有し、請求人及びその親族が全株式を保有している。
(ハ)請求人は、E社の代表取締役を辞任後も同社の創業者及びG社の代表取締役として、E社に対する影響力を有していたものと認められることのほか、E社の平成7年3月末現在の発行済株式数は320,000株であり、そのうちG社が210,000株を保有し、E社の発行済株式数の65.6%を保有していることから、E社は、G社の子会社と認められる。
(ニ)請求人は、平成8年2月15日に貸金業者として登録されているが、本件貸付けは、すべて登録前に行われている。また、原処分庁が金銭貸付け否定の根拠としている本件借入申込書の信用性については、以下のとおりと認められる。
A 本件借入申込書に係る個人名のもの68件のうち57件については、同申込書に記載されている住所で申込者の住民登録がない。また、68件についてM・ローン又は請求人との取引の有無は、〔1〕借入申込みの事実なし29件、〔2〕あて所に尋ねあたらず等による郵便の返戻35件及び〔3〕未回答4件である。
B 本件借入申込書に係る法人名のもの38件について、M・ローン又は請求人との取引の有無は、〔1〕借入申込みの事実なし28件、〔2〕転居先不明による郵便物の返戻1件、〔3〕未回答2件及び〔4〕所在地が不明等7件である。
C 上記A及びBで借入申込みの事実なしとする57件の本件借入申込書に記載されている申込者又は代表者の生年月日は、いずれも真実の生年月日と異なる。
(ホ)本件チラシについては、いずれもM・ローンの商号が印刷されているが、請求人は、平成7年12月21日に貸金業法による貸金業者としての登録申請書の「商号又は名称」欄に該当なしと記載した同申請書をP県知事に提出し、その後、請求人はM・ローンと商号が決定したとして平成8年5月14日に変更届出書を提出していること及び本件請求書のうちの平成7年9月30日付の請求書の金額は、平成7年10月25日に請求人からE社名義のK銀行○○支店の普通預金口座に振り込まれているが、平成8年2月19日付の請求書の金額が請求人から同社に支払われたか否かについては、請求人の提出資料、原処分庁の提出資料及び当審判所の調査によっても不明であることなどから、本件チラシが、平成7年中に作成されたか確認ができない。
(ヘ)本件限度貸付契約書によると、請求人はE社に対し、貸付限度額を250,000,000円、弁済期限を平成17年2月28日、貸付利息を年5%で金銭を貸し付ける旨記載されている。
(ト)本件譲渡担保契約書によると、担保物の明細は下記のとおり記載されている。
A オリジナル商品全部及びそのパーツ部品   金65,000,000円(生産原価)
B 旧プロパー商品全部と試作商品全部     金10,000,000円(簿価)
C 仕入商品(輸入家具・インテリア商品全部) 金25,000,000円(仕入原価)
D 金型136型(外注貸出分を含む。)全型 金155,000,000円(外注製作価格)
(チ)本件質権設定契約書によると、質権を設定した保険証券は下記のとおり記載されているが、請求人は、一般の貸金業者であれば当然に自己の債権回収を保全するため、X海上火災保険株式会社(以下「X海上」という。)に民法第364条に規定する質権の設定を通知し又はX海上が質権の設定を承諾することで指名債権質の対抗要件を具備するところ、これをしていない。

A 保険会社 X海上
証券番号○○○○―○○○○○○―○
保険の種類火災
保険期間平成6年12月6日から平成7年12月6日、以後継続
保険の目的店舗総合(商品、製品、半製品、仕用品、原材料)
保険の金額100,000,000円
B 保険会社 X海上
証券番号○○○○―○○○○○○―○
保険の種類火災
保険期間平成6年11月16日から平成7年11月16日、以後継続
保険の目的店舗総合(機械設備、什器備品)
保険の金額80,000,000円

(リ)G社の平成7年5月29日付及び平成7年9月4日付の各取締役会議事録によると、E社がH金融公庫○○支店から借り入れた48,000,000円及びI銀行○○支店から借り入れた50,000,000円についてE社が返済不能となった場合には、共同担保提供者であるG社に一切の負担をかけることなく請求人が返済する旨記載され、更に請求人は、G社に対し各同日付で同旨について記載されている各念書を提出して、事前にG社に対する求償権を放棄している。
(ヌ)平成2年4月1日から平成3年3月31日までの事業年度(以下「平成3年3月期」という。その他の事業年度についても同様の例による。)から平成7年3月期の事業年度までの各事業年度のE社の法人税申告書によると、営業利益及び経常利益の推移は下表のとおりである。

(ル)請求人は、当審判所に対して要旨次のとおり答述した。
A 請求人とE社は、本件譲渡担保契約を締結したが、金型等を担保とした理由については、金型はE社にとって財産であり、金型がないと同社は事業活動ができなくなるので、これを担保にすることにより同社が請求人から金を借りたという認識を高めさせることとしたものである。
B E社は平成8年4月にF地方裁判所から破産宣告を受けたが、請求人は本件譲渡担保契約に基づく担保権の実行については、破産した会社の商品は価値がなくなること、平成8年2月のE社事務所からの出火の際に放水した水が商品パッケージにかかりその修復するための費用がかかり過ぎること及び担保物の搬出に係る運賃等を勘案すると、経済的に引き合わないことからしていない。なお、請求人は、弁護士とも相談して破産管財人が同担保物を一括して処分することを黙認した。
C 請求人は、E社に対する50,000,000円の債権を担保するため、本件質権設定契約を締結したが、平成8年2月のE社事務所の火災による火災保険金については質権設定の実効はなかった。
 火災保険の対象物は、E社の業務に必要な什器備品であるが、金型は、一つの価額が300,000円以上のものについては個別に保険を掛けないと保険金はおりない。また、購入した機械を除きリースの機械は保険の対象外であり、海外からの輸入品も対象外である。E社がX海上に保険金の請求をして同社に火災保険金がおりれば質権者である請求人に支払われるが、保険の対象物が破産管財人によって処分されたためX海上もE社の被害の状況を評価できないので、将来にわたって火災保険金が支払われることはない。
D 請求人は、E社が平成7年6月29日にH金融公庫○○支店から借り入れた48,000,000円及び平成7年9月29日にI銀行○○支店から借り入れた50,000,000円の連帯保証人になっているが、これに関する報酬としては、E社の受取手形を優先的に割り引くことを約束したことによる当該割引料である。それ以外の報酬はないが手形の割引によって効率的に利息を稼げた。
(ヲ)請求人は、平成7年分の所得税の確定申告について、個人に対する貸付けに係る収入が申告漏れとなっていたことを本件調査担当職員から指摘され、平成10年7月16日に修正申告書を原処分庁に提出している。また、請求人は、平成10年分の所得税の確定申告において、金銭貸付けに係る所得の申告は行っていない。
ロ ところで、金銭貸付けによる所得が所得税法第27条第1項に規定する事業所得に該当するか、所得税法第35条に規定する雑所得に該当するかを判定するに当たっては、租税負担の公平を図るため、所得を事業、雑所得等に分類し、その種類に応じた課税を定めている法の趣旨、目的に照らし、当該金銭貸付行為の具体的態様等に応じてその性格を客観的に判断すべきものである。すなわち、金銭貸付行為に事業性が認められるためには、それが営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる態様で行われるものであることが必要であると解されるが、その判断に当たっては、金銭貸付行為を行うに至った経緯と目的、貸付資金の調達方法、貸付金の利息約定の有無及び利率の高低、貸付先及び貸付口数の多寡、貸付先との関係の濃淡、契約書等の作成状況、人的・物的設備の状況、帳簿等の具備状況、担保権の設定の有無、貸付けのための広告宣伝の状況、関係官庁・団体への届出等の有無、貸付債権回収の努力その他諸般の事情を総合勘案し、社会通念に照らして事業としての営利性、継続性、客観性等が認められるか否かを検討することが相当と認められる。
ハ そこで本件について検討すると、以下のとおりである。
(イ)G社及びE社に対する金銭貸付けについて
A 請求人は、平成2年3月にE社の代表取締役を辞任し、同社の株式をすべて売却したことから、請求人と同社とは特別の関係がない旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)及び(ハ)のほか上記1の(3)のヘのとおり、〔1〕E社がH金融公庫○○支店及びI銀行○○支店から合計98,000,000円の借入れの連帯保証人となっていること、〔2〕別表3―1及び別表3―2記載のとおり同人所有の土地建物にE社のために根抵当権を設定していること及び〔3〕上記イの(ル)のDの請求人の答述によれば、E社から物上保証人としての保証料を得ていないと認められることからみると、請求人とE社とは、貸金業における一般的な貸付人と借受人の関係ではなく、特殊の関係にあったと認められる。
B 請求人は、E社に対する貸付金については、本件譲渡担保契約、本件質権設定契約及び手形の受領により保全措置を講じている旨主張する。
 確かに、請求人はE社への貸付けに伴いE社から手形を一部受領している事実は認められるものの、本件譲渡担保契約に係る担保物は、担保権が実行される状況においては外注製作価格等に比べて極めて低廉な価格で処分されることが通常であることからすると、請求人が当審判所に答述したとおり、同担保物は正にE社に請求人から金を借りたという認識を持たせるためのもので、本件譲渡担保契約設定時においては、到底貸付限度額を担保する財産的価値が存していたとは認められず、また、本件質権設定契約において、請求人は、E社に対する50,000,000円の債権回収を保全するための指名債権質の対抗要件を具備していないことなどからすると、請求人のE社への金銭貸付けに係る担保は、形式的なもので実質を伴うものでないと認められる。
C 請求人のE社に対する貸付金の利率は、別表2―1のとおり年3%から5%であるが、請求人は、本件譲渡担保契約に基づきE社の金型等を担保としている上、同社の代表取締役Lを連帯保証人としていることから、無担保貸付による利率より低くしたものである旨主張する。
 しかしながら、本件譲渡担保契約に係る担保物は、上記Bのとおり、形式的なもので実質を伴うものでないこと及び上記1の(3)のチのとおり、Lには保証能力がないことなどからすると、3%から5%の貸付金利は、社会通念に照らして一般の貸金業者が金銭を貸し付けた場合の利率に比べて低すぎるといえる。これは請求人とE社との関係が、上記Aのとおり特殊の関係にあったからであると認められる。
D また、請求人のG社に対する貸付金の利率についても、別表2―1のとおり年5%であるが、社会通念に照らして一般の貸金業者が無担保で金銭を貸し付ける場合の利率と比べて低すぎるといえる。これは請求人がG社の代表取締役であるほか、同社は請求人及びその親族が出資額の100%を保有する同族会社であることから、これをなし得たものと認められる。
E 以上の結果から、E社に対する金銭貸付行為は、〔1〕上記Aのとおり請求人と特殊の関係にあること、〔2〕保証料を得ることなくE社のH金融公庫、I銀行からの借入れにおける連帯保証人となり、さらに、請求人所有の土地建物に根抵当権を設定し、同社の債務を返済するため同土地建物を譲渡していること、〔3〕担保価値のないと認められる動産を形式的に担保とし、また、本件質権設定契約の締結に当たっては民法第364条に規定する指名債権質の対抗要件を具備していないこと、〔4〕貸付金利が低すぎること、加えて〔5〕上記イの(ヌ)のとおり、営業利益が平成3年3月期以降、経常利益が平成5年3月期以降連年損失であることから、同社は自力で市中銀行から融資を受けられる状況になかったと認められること等を総合的に勘案すると、請求人の同社への金銭貸付行為は、社会通念に照らして一般の貸金業者では到底考えられない行為、すなわち、同人がE社の創業者であり、かつ、親会社であるG社の代表取締役としての立場において、E社の経営危機を回避するために行ったとみるのが相当である。
 また、請求人のG社に対する金銭貸付行為は、〔1〕請求人とG社が特殊の関係にあること、〔2〕貸付金利が低すぎることを勘案すると、請求人がG社との特殊の関係の下で資金を供与していたものとみるのが相当である。
 したがって、請求人のG社及びE社に対する金銭貸付行為は、いずれも営利を目的とした事業として行われているとは認められない。
(ロ)上記(イ)以外に対する金銭貸付けについて
A 請求人は、貸金業者として登録しており、P県及びT県下の私鉄沿線の商店街を中心に平成7年以降多くの営業チラシを配布するとともに、G社の事務所を共同使用するほか、請求人がG社から受領する建物賃貸料と同人がG社に支払う事務委託費及び事務所使用料との相殺に関し「事務委託費等の相殺契約」を締結するなど、人的・物的設備を備え、さらに、平成9年においても貸金業を行っているが、度重なる事務所の移転により十分な営業活動ができず金銭貸付けの実績がなかった旨主張する。
 しかしながら、本件借入申込書に記載されている事項については、上記イの(ニ)のAからCのとおり、同申込書に個人名が記載されている68件のうち、57件については申込者の住所で住民登録がなく、また、同様にM・ローン又は請求人との取引の有無については、68件のうち、〔1〕借入申込みした事実なし29件、〔2〕あて所に尋ねあたらず等による郵便物の返戻35件及び〔3〕未回答4件となっている。また、借入申込みした事実なしと回答した29件すべての者の生年月日が真実の生年月日と異なっていることが認められる。
 ところで、一般的にいわゆる消費者金融業者が金銭を貸し付ける場合には、借入申込者の身元、勤務先を確認するため、借入申込者の身分証明書・社会保険証・自動車運転免許証等の提示を求めるのが通例であることからすると、借入申込者が身分証明書等を確認されると、一見して借入申込書に記載した住所、生年月日が同人のものと相違していることが判明するようなことを記載するとは考えることができない。そして、これに、上記の本件借入申込書に記載されている事項と照らし合わせると、本件借入申込書に記載された者から借入申込みがされたとすることには疑問があり、にわかに信用することはできない。
 そうすると、請求人の上記(イ)以外に対する金銭貸付けは、度重なる事務所の移転により十分な営業活動ができなかったことを踏まえても、〔1〕平成7年における7名延べ8件でその総額は1,600,000円であり、平成8年及び平成9年においては新たな金銭貸付けはないこと、〔2〕平成8年分の受取利息の金額は、平成7年に係る貸付金が平成8年に返済された際の49,479円であり少額であること、〔3〕請求人は、平成7年分の所得税の確定申告において、本件調査担当職員に指摘されるまでは個人への金銭貸付けに係る収入金額が申告漏れとなっていたこと、〔4〕平成9年分及び平成10年分の金銭貸付に係る収入金額はないこと及び〔5〕請求人は、主にG社の代表取締役としての給与収入により生活を維持していることなどから総合判断すると、請求人の上記(イ)以外に対する金銭貸付行為は、貸付口数の多寡、反復継続性等を客観的にみて、事業所得を生ずべき事業というまでには至っていないというべきである。
B なお、請求人の主張する、〔1〕貸金業者として登録していること、〔2〕人的・物的設備を備えて金銭貸付けを行っていることは、金銭の貸付行為が所得税法上の事業に該当するか否かの判断要素の一部ではあるが、本件においては、この判断要素の一部に関する事実のみをもって、上記Aの判断を覆すに足るものではない。
ニ 以上の結果、請求人のE社及びG社に対する金銭貸付行為は、営利を目的とした事業として行ったとは認められず、また、E社及びG社以外に対する金銭貸付行為も、事業所得を生ずべき事業というまでには至っていないと認められる。
 したがって、本件貸付けに係る損失は、所得税法第27条第1項に規定する事業所得には該当せず、また、同法第23条《利子所得》から第34条《雑所得》までに規定するいずれの所得にも該当しないことから、同法第35条第1項に規定する雑所得に該当し、この雑所得の金額の計算上生ずる損失の額については、同法第69条第1項の規定により損益通算することはできないことから、その損失の額はないものとして総所得金額を算定した原処分庁の判断は相当と認められる。
ホ 以上のとおりであるから、請求人の主張には理由がなく、本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の説額計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした両年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

トップに戻る