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(平12.11.16裁決、裁決事例集No.60 208頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、医療法人の役員であるが、平成9年分の所得税について、青色の確定申告書(分離課税用)に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対して、平成11年6月7日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成11年7月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年10月27日付でそれぞれ棄却の異議決定をしたので、同年11月26日に審査請求をした。

(2)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年8月7日、EにP県Q市R町1423番町に所在する695.57平方メートルの宅地(以下「本件宅地」という。)及びその宅地上に存する木造瓦葺2階建291.30平方メートルの建物(以下「本件建物」といい、本件宅地と合わせて「本件物件」という。)を総額31,500,000円で譲渡した。
 なお、当該譲渡に係る不動産売買契約書には、物件ごとの金額は記載されていなかった。
ロ 本件建物は、固定資産税の「土地家屋名寄帳兼賦課簿」によると、大正6年に建築された延面積160.38平方メートルの建物と昭和55年に建築された延面積109.83平方メートルの建物(以下「本件旧建物」及び「本件新建物」という。)からなっている。
ハ 請求人は、昭和59年にFから本件物件とP県Q市R町305番1ほかに所在する総面積が1,131平方メートルの畑(以下「本件農地」といい、本件物件と合わせて「本件総物件」という。)とを併せて取得した。
ニ 本件物件の譲渡に要した費用は、印紙代15,000円である。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)本件物件の取得費について
 原処分庁は、分離の課税長期譲渡所得金額を算定するに当たり、本件物件の取得費を過少に計算したが、各物件の取得費は次のとおりである。
A 本件建物
 本件建物は、大正6年に建築され増改築しなければ使用できないほど老朽化した本件旧建物と昭和55年に建築されたものとはいえないほど傷みがひどい状態にあった本件新建物からなっており、いずれもほとんど価値は認められない。
 しかし、本件旧建物は、次のとおり、請求人が昭和59年6月にG診療所として開設するためその一部を増改築しており、それに要した費用は7,849,286円である。
(A)本件旧建物の増改築は、H(屋号はH工務店)に依頼し、G診療所の内装・改築工事の請負い施工の内容を記載した平成12年1月31日付の書面に当人自身が署名している。
(B)また、P県知事に対し、請求人が昭和59年5月に提出したG診療所開設届の写し(以下「本件G診療所開設届」という。)とFが昭和57年11月に診療所を開設するために提出した診療所開設届の写し(以下「本件旧G診療所開設届」という。)に添付された平面図の写しを比較すると、間取りの変更及びレントゲン室の増築がされている。
(C)請求人が昭和61年の本件物件明渡訴訟において証拠として提出した昭和61年3月10日付の弁護士H宛の書簡(以下「本件書簡」という。)の写しには、「建物修理、空調設備800万」と記載されている。
(D)G診療所を開設するに当たり、多くの職員が改築の現場に立ち合いその事実を確認している。
(E)本件旧建物の増改築に要した費用として、L銀行○○支店の請求人名義の普通預金(以下「本件預金」という。)から昭和59年5月30日に3,872,900円及び同年6月18日に3,976,386円をそれぞれ出金している。
B 本件土地
 請求人は、本件総物件を昭和59年3月にFから総額30,000,000円で取得したが、当該金額は、次により、全て本件宅地に係るものである。
(A)本件建物は、上記Aのとおり、ほとんど価値は認められない。
(B)また、本件農地については、進入路がない袋小路になっていること及び請求人において利用できないこと並びに所有権移転の本登記ができないことから、その価値は全く認められない。
(C)本件宅地の取得価額が30,000,000円であることについては、当該宅地の所有権の移転の仮登記日である昭和59年3月13日に手付金として8,000,000円及び本登記日である同年5月24日に残金として22,000,000円を本件預金からそれぞれ出金していることから明らかである。
C 以上のことから、本件物件の取得費は、本件建物の増改築費7,849,286円から譲渡時までの減価償却費相当額5,212,907円を控除した2,636,379円と本件宅地の取得価額30,000,000円の合計金額32,636,379円となる。
 なお、原処分庁は、本件物件の取得費の計算に当たり、その計算の基礎となる取得価額が不明であるとして、一般的な土地及び建物の取引状況を基に推計により算定しているが、当該物件には、Fが経営していた時の患者がついていることから、付加価値があり通常の価額より割高になっている。
 したがって、これらの特殊事情を考慮していない原処分庁の算定方法は納得できない。
(ロ)分離の課税長期譲渡所得金額について
 請求人の分離の課税長期譲渡所得金額は、本件物件の譲渡価額31,500,000円から上記(イ)の取得費32,636,379円及び譲渡に要した費用15,000円を控除すると、別表2の「請求人主張額」欄に記載したとおり△1,151,379円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 更正処分について
(イ)本件物件の取得費について
 本件物件の取得費については、請求人からその取得に要した費用を明確にする資料の提出はなく、また、原処分の調査(以下「本件調査」という。)によっても実際に要した費用を明らかにできなかったことから、合理的な算定方法によらざるを得ない。
 ところで、土地と建物を一括して譲渡し、そのいずれの取得価額も不明である場合の土地・建物の取得費を算定する方法には、〔1〕租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》を適用する方法、〔2〕土地の取得価額は土地の取得時の売買実例から算定し、建物の取得価額は譲渡価額の総額から土地の譲渡時の売買実例価格を差し引いて算出された建物の譲渡価額から減価償却費を控除する方法、〔3〕土地と建物の固定資産税評価額を基に算定する方法及び〔4〕建物の取得価額を着工建築物構造別単価(別紙1)(以下「建築物単価」という。)から算定し、土地については市街地価格指数(別紙2)を基に算定する方法などが考えられる。
 しかし、〔1〕の方法によれば、本件物件の取得費が一定率で計算され実額等がまったく反映されないこと、〔2〕の方法によれば、土地の譲渡及び取得に係る売買実例がなく世情を反映した確実な指標とする合理的理由が見当たらないこと、〔3〕の方法によれば、画一的で個別事情が反映されず、実勢価額が形成されないことが考えられるなど、これらの方法を用いて算定することには合理的理由が見当たらない。
 そこで、〔4〕の方法によれば、取得費の算定の基になる建築物単価がN調査会(以下「調査会」という。)が公表した統計的な数値であることから、市場価格を反映したより近似値の取得費が計算できることになり、合理的であると言える。
 したがって、〔4〕の方法により、本件物件の取得費を計算すると、次のとおりである。
A 本件建物
(A)本件新建物
 本件新建物は、昭和55年に建築されたものであり、請求人が取得した同59年には築後4年を経過したのみで、通常の損傷を客観的に判断する必要はあるものの一般的に建物の価値は現存する。
 そうすると、本件新建物の取得費は、別表3の「原処分庁主張額」欄のとおり、調査会が公表している昭和55年のP県の1平方メートル当たりの建築物単価(木造)96,200円に当該建物の床面積109.83平方メートル及び着工建築物工事費補正率0.983(別紙1)を乗じて算定した金額10,386,030円から、所得税法施行令(以下「施行令」という。)第120条《減価償却資産の償却の方法》第1項第1号イ(1)及び施行令第129条《減価償却資産の耐用年数、償却費及び残存価額の規定するところにより計算した減価償却費相当額4,106,406円を控除した6,279,624円となる。
(B)本件旧建物
 本件旧建物は、請求人が昭和59年に取得した時点においては、損傷がはなはだしく、更に法定耐用年数を経過しており価値はない。
 なお、請求人は、昭和59年に本件旧建物を増改築したので、その費用を取得費とすべきである旨主張するが、次のとおり、増改築したとの主張は認められない。
a 本件建物は、昭和57年10月16日に年月日不詳新築として保存登記された以後増改築の登記が行われていない。
b 請求人が本件旧建物の増改築に要した費用を証するものとして提出した本件書簡は、請求人から依頼を受けた弁護士との間に交わされたものにすぎず、また、本件書簡には直接証拠となるような添付書類もないことから、本件旧建物の改築費用を直接証明するものとはいえない。
c また、請求人は、本件旧建物の増改築の事実を証するものとして、〔1〕Kが内装・改築工事を請負い施行した旨を証明する書類があること、〔2〕本件G診療所開設届と本件旧G診療所開設届に添付された平面図の写しを比較すると、その内容が異なっていること及び〔3〕G診療所の開設に立ち会った職員が増改築の事実を確認していることを主張するが、これらのことは本件調査の際に請求人が立証していなかったことから、その適否について確認することはできない。
B 本件宅地
(A)本件宅地の取得費は、別表4の「原処分庁主張額」欄のとおり、本件物件の譲渡価額31,500,000円から上記Aの(A)の本件新建物の取得費6,279,624円を控除した25,220,376円に、当該宅地の譲渡時の平成9年9月の六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)6,826に対する取得時の昭和59年3月の当該価格指数5,241の割合を乗じて計算した19,364,194円になる。
(B)これに対し、請求人は、本件総物件の取得に要した費用は30,000,000円であると主張する。
 このうち、本件建物及び本件農地の価値はないので同金額の全てが本件宅地の取得に要した費用である旨主張するが、次のとおり、その主張は認められない。
a 上記取得に要したとする30,000,000円の費用については、そのことを明らかにする資料を提出しなかったので、その金額を確認することができない。
b さらに、本件新建物及び本件農地は、次のとおり、その価値が全くないとはいえない。
(a)本件新建物は、前記Aの(A)で記述したとおり、その取得価額が認められる。
(b)本件農地は、請求人に未だ移転登記されていないことを理由として価値がない旨主張するが、昭和59年5月24日に請求人に移転登記がされており、その面積も1,131平方メートルと広大で道路に隣接しており、客観的にその利用価値は十分認められる。
C 以上のことから、本件物件の取得費は、所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項の取得による本件宅地の取得費19,364,194円、第2項による本件新建物の取得費6,279,624円の合計金額25,643,818円となる。
 なお、請求人は、本件物件の取得時には患者付きで購入していることから、通常の価額より割高である旨主張するが、具体的な付加価値の金額を認定することはできない。
(ロ)分離の課税長期譲渡所得金額について
 請求人の平成9年分の分離の課税長期譲渡所得金額は、本件物件の譲渡価額31,500,000円から上記(イ)のCの本件物件の取得費25,643,818円及び前記1の(2)のニの譲渡に要した費用15,000円並びに措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項に規定する特別控除額1,000,000円を控除すると、別表2の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり4,841,182円となり、本件更正処分に係る金額と同額になるので、本件更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件は、本件物件の取得費について争いがあるので、以下審理する。
イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件宅地は、昭和59年3月13日に売買を原因として、また、本件農地は、同年5月24日に売買を原因として、それぞれ同年5月25日に本登記及び移転登記がされている。
(ロ)本件建物は、登記原因を年月日不詳新築として、昭和57年10月16日に保存登記されて以後現在まで増改築した旨の登記の事実はない。
(ハ)請求人は、当審判所に対して、本件宅地の取得費が30,000,000円であること並びに本件旧建物の増改築の事実及びその費用が7,849,286円であることを証するものとして、次の資料を提出している。
A Kが自書署名している平成12年1月31日付の標題のない書面には、K工務店がG診療所の内装・改築工事を請負い施行した旨の記載がある。
B 本件G診療所開設届には、請求人が昭和59年6月1日に本件建物のうちの木造瓦葺1階建の延面積54.72平方メートルをG診療所として開設する旨記載がある。
 また、本件G診療所開設届と本件旧G診療所開設届に添付されたそれぞれの平面図の写しによると、間取りが変更されている。
C 本件書簡の写しには、G診療所の土地、建物及び医療機材等の売却予定価格として、建物修理、空調設備800万の記載がある。
D 本件預金の元帳の写しによれば、昭和59年3月13日に8,000,000円及び同年5月24日に22,000,000円の出金があり、更に昭和59年5月30日に3,872,900円及び同年6月8日に3,976,386円の出金がある。
 なお、いずれの金額もその支払先の記載はない。
(ニ)請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 本件物件を購入した際に作成した不動産売買契約書の保存はない。
B 請求人が提出した所有権移転仮登記済証の写しに、本件宅地の課税価格が1,562,945円、本件建物の課税価格が4,910,545円と記載しているのは、固定資産税の課税価格である。
C 本件建物のうち、本件新建物は従事員の居宅として使用し、また、本件旧建物はその一部をG診療所として利用していた。
D G診療所は、床はPタイル、天井壁面はクロス張、柱は合板張りにし、それに、トイレ及び食堂を新設した。
 このほかに、20平方メートルほどのレントゲン室を増築した。
E G診療所は、昭和59年6月に開設した。
(ホ)Kは、当審判所に対し、標題が売上帳となっている金銭出納帳(以下「本件金銭出納帳」という。)を提出した。
 本件金銭出納帳には、「G診療所ヨリ」として昭和59年7月19日に3,999,400円及び同年8月27日に583,030円の入金の記載がある。
(ヘ)Kは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 前記(ハ)のAの標題のない書面については、その内容に間違いがないことを確認の上、自書署名した。
B G診療所の内装・改築工事の内容は、概ね、次のとおりであった。
(A)診療所の床はPタイルに張り替え、天井壁面はクロス張りにし、その他の間仕切り工事による内部のレイアウトの変更等をした。
 なお、レントゲン室については改装等はしておらず、また、増築した記憶もない。
(B)本件旧建物のうちG診療所以外の建物部分については、看護婦が利用する食堂の改装、縁側サッシの取り替え及び天井板の張り替えをした。
C 上記Bの(A)及び(B)の改築に係る工事代金は、前記(ホ)の本件金銭出納帳に記載したとおりで、これは過去から日々の取引を記載していたもののうち、昭和59年7月19日の3,999,400円と同年8月27日の583,030円の合計4,582,430円である。
ロ ところで、所得税法第38条第1項の譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。また、同条第2項において、譲渡所得の起因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間に係る償却費相当額を控除した金額とする旨規定している。
ハ そこで、前記イの事実を上記ロの法令に照らし検討すると、次のとおりである。
(イ)本件物件の取得費について
 本件物件の取得費の算定に当たっては、本件建物のうち改築として明らかにその額が認定できるものについてはそれによることとする。
 しかしながら、取得時期は判明しているが取得価額を直接証する契約書等の資料(請求人提出の資料で採用できないものも含む。)の提出がなく、その額が不明なものについては、その費用を実額により算定することができないから、その部分については、推計の方法によって算定せざるをえない。
 そして、このような場合の土地・建物の取得費については、前記2の(2)のイの(イ)での原処分庁主張のとおり、各種の計算方法が考えられるところ、原処分庁が採用した計算方法は、本件新建物の取得費については、調査会が公表している統計的な数値である建築物単価を基に建築価格を算定し、その価額から譲渡時までの減価償却費相当額を控除しているものであり、実勢価額の近似値と認められる時価相当額を推定していること、また、本件宅地の取得費については、本件物件の譲渡価額の総額から実勢価額の近似値と認められる当該建物の取得費を差し引いた額に、Mが調査し公表している六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)の譲渡時に対する取得時の当該価格指数の割合を乗じて時価相当額を推定していることから、いずれも合理性があり、当審判所においても、これを不相当とする理由は認められない。
A 本件旧建物に係る改築部分の取得費の額
 請求人は、昭和59年6月の増改築に係る取得費について、前記2の(1)のイの(イ)のAで7,849,286円であると主張するが、いずれも、〔1〕支払先の記載がないこと及び〔2〕本件書簡に記載されている800万円は売却予定価格を示したのであることから採用できない。
 しかしながら、当審判所の調査において、Kから提出された本件金銭出納帳は同人が過去から日々の取引を継続的に記帳したものであることから、この金銭出納帳の記載事項については信ぴょう性が認められるし、当審判所に対する同人の答述も具体性があり、その内容は十分信用することができる。
 したがって、昭和59年6月に改築した取得費は、前記イの(ヘ)のCのとおり4,582,430円となる。本件旧建物について、昭和57年10月16日に保存登記された以降、増改築した旨の登記がないことも、以上の認定を何ら左右するものではない。
 そうすると、改築部分の取得費は、改築の金額4,582,430円から残存価額(458,243円)を差し引いた4,124,187円に、病院用木造建物の耐用年数18年の定額法による償却率0.055及び経過年数12分の158か月(昭和59年6月から平成9年8月までの期間)を乗じて計算した減価償却費2,986,598円を控除した金額1,595,832円となる。
 なお、本件旧建物は、大正6年に建築されたものであり、請求人及び原処分庁双方において価値がないことについて争いはなく、当審判所においても同様と認められる。
B 前記2の(2)のイの(イ)に掲げる〔4〕の方法によって算定した取得費の額
(A)本件新建物の取得費の額
 本件新建物の取得費の算定方法について、原処分庁は、前記2の(2)のイの(イ)のAの(A)のとおり主張するが、当審判所の調査によっても、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、その計算過程及びその結果の金額が相当であると認められるから、その金額は6,279,624円となる。
 なお、請求人は、昭和55年に建築された建物とはいえないほど傷みがひどい状態にあり、ほとんど価値がない旨主張するが、譲渡時においては、築後4年を経過したに過ぎず、建物の損傷はさほど認められないことから、上記の金額によることが適当と考えられる。
(B)本件宅地の取得費の額
 本件宅地の取得費については、前記(イ)のとおり、実額で算定することができないので、取得時の時価相当額を推計することとなるが、原処分庁は、これについて、別表4の「原処分庁主張額」欄のとおり、本件物件の譲渡価額から本件新建物の取得費のみを控除した金額を基に、当該宅地の譲渡時と取得時の価格指数の割合を乗じて算定している。
 しかしながら、本件宅地の取得費は、本件物件の譲渡価額31,500,000円から、前記Aの改築部分の取得費1,595,832円と上記(A)の本件新建物の取得費6,279,624円の合計7,875,456円を控除するのが相当であり、その残額23,624,544円を宅地の譲渡価額として、この金額に六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)の割合6,826(譲渡時)分の5,241(取得時)を乗じると18,138,915円となる。
 なお、請求人は、当該物件の取得費は30,000,000円である旨主張するが、そのことを明らかにする資料の提出がなく、前記イの(ハ)のDでも明らかなとおりその支払先も不明であるうえ、当審判所の調査によっても本件農地が無価値であるとは認められないから、請求人の当該主張は採用することができず、当審判所においては上記の金額によることが妥当と考えられる。
C 本件物件の取得費の額
 以上のことから、本件物件の取得費の額は、前記Aの1,595,832円及び上記Bの(A)及び(B)の6,279,624円と18,138,915円の合計額26,014,371円となる。
(ロ)分離の課税長期譲渡所得金額について
 請求人の平成9年分の分離の課税長期譲渡所得金額は、本件物件の譲渡価額31,500,000円から上記(イ)のCの取得費26,014,371円及び譲渡に要した費用15,000円並びに措置法第31条第4項に規定する特別控除額1,000,000円を控除すると、別表2の「審判所認定額」欄に記載のとおり、4,470,000円(千円未満の端数切捨て)となる。
(ハ)課税される所得金額について
 請求人の平成9年分の分離の課税長期譲渡所得金額以外の所得の合計金額11,208,000円については請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められるところ、課税される所得金額は、課税総所得金額が8,385,000円、分離の課税長期譲渡所得金額が4,470,000円となり、この金額は、本件更正処分に係る分離の課税長期譲渡所得金額を下回るので、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、本件更正によりその一部が取り消されたことに伴い1,150,000円となるが、通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税の額を算定すると114,000円となる。
 したがって、この金額は原処分の金額に満たないから、本件賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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