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(平12.11.8裁決、裁決事例集No.60 237頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、勤務医師である審査請求人(以下「請求人」という。)が、法定申告期限を徒過した後に提出した平成10年分の所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)について、本件申告書が無効であるか否か、無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)及び延滞税のお知らせ(以下「本件お知らせ」という。)の適否を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 本件の審査請求(平成12年3月21日請求)に至る経緯等は、別表1のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 原処分庁は、請求人に係る満期保険金等が申告漏れである事実を把握したため、平成11年7月下旬に、「平成10年分の一時所得(生保満期金)についてお尋ねしたい」とする来署案内のはがき(以下「本件はがき」という。)を、請求人に対して送付した。
ロ 請求人は、平成11年8月9日にE税務署へ出署したところ、原処分庁の担当職員から、F生命保険相互会社(以下「F生命」という。)との生命保険契約(以下「本件契約」という。)に基づく満期保険金等(以下「本件保険金」という。)について、申告の必要がある旨の説明を受け、同日、本件申告書を提出した。
ハ 原処分庁は、本件申告書が期限後申告であったことから、請求人に対し、平成11年9月24日付で無申告加算税の賦課決定処分を行うとともに、同年12月24日付で延滞税のお知らせを送付した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件申告書について
(イ)請求人は、原処分庁から本件はがきの送付を受けて出署した際に、担当職員から本件保険金について申告の必要があり、また、延滞税が日々加算される旨の説明を受けたが、本件保険金を所得として申告しなければならないとする法的根拠及び契約の理論上の解約がなかったにもかかわらず、なぜ所得が発生するのかについての説明がなかったことから、本来、申告の必要がなかったものであるが、延滞税の増加を止めるためにやむを得ず本件申告書を提出した。
 本件申告書は無効であり、その取消しを求める。
(ロ)また、本件契約は、貯蓄を目的とした個人財産の運用を委託するものであり、この点で20年間の契約期間を通じて「自由保険(一時払)及び据置」からなる一貫した単一の契約である。
 そして、「据置」は、時間的及び金額的に連続して運用の途上にある金銭運用委託契約であり、10年間の本件契約に連続して発効しており、本件契約を解約した事実はなく、本件保険金も受け取ってはおらず、所得が発生したという事実はない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件申告書は無効であるから、本件申告書により納付すべき税額に対して賦課された本件賦課決定処分は取り消されるべきである。
ハ 延滞税のお知らせについて
 前記イのとおり、本件申告書は無効であり、本件申告書により納付した税額に対して延滞税を徴収することは違法であるから、本件お知らせは取り消されるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 本件賦課決定処分について
 本件申告書は、法定申告期限後に提出されたものであり、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められず、また、同条第3項に規定する「更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」にも該当しないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。
ロ 本件申告書について
(イ)不服申立ては、税務署長が行った処分に対して、当該処分が違法であるとしてその是正を求めるものであるところ、所得税の期限後申告については、国税に関する法律に基づく処分は何ら行われておらず、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》に規定する不服申立ての対象となる処分は存在しないから、この部分に関する審査請求は不適法なものである。
(ロ)本件保険金は、所得税法の規定上、一時所得に係る総収入金額に算入すべきものであり、その収入すべき時期は、その支払を受けるべき事実が生じた日となる。
 そして、この収入すべき時期は、例え据置契約を生命保険会社と締結していたとしても変更されるものではない。
ハ 延滞税のお知らせについて
 延滞税は、通則法(平成11年法律第10号による改正前のもの。)第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第7号の規定により、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税とされている。
 したがって、国税に関する法律に基づく処分は何ら行われておらず、通則法第75条に規定する不服申立ての対象となる処分は存在しないから、この部分に関する審査請求は不適法なものである。

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3 判断

(1)本件賦課決定処分について

イ 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該申告に基づき納付すべき税額に百分の十五の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、ただし書において、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合はこの限りでない旨規定している。
 また、通則法第66条第3項は、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該納付すべき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ロ これを本件についてみると、前記1の(3)の基礎事実によれば、法定申告期限後の平成11年8月9日に本件申告書を提出したことが認められ、このことについて、通則法第66条第1項ただし書及び第3項に該当する事由は認められないから、本件賦課決定処分は適法なものである。

(2)本件申告書について

 請求人は本件申告書の無効を主張するが、通則法第75条第3項は、国税に関する法律に基づく処分について、異議決定を経た後になお不服がある者は国税不服審判所長に対して審査請求ができる旨規定しているところ、請求人の申告行為は私人の公法上の行為であり、国税に関する法律に基づく処分に当たらず、審査請求の対象となる処分は存在しないから、本件申告書の無効の確認を求める審査請求は、不適法というべきである。
 なお、請求人の主張を、本件申告書の記載内容が請求人の錯誤に基づくもので無効であるとの主張と解したとしても、所得税法が申告納税方式を採用し、確定申告書記載の過誤の是正につき更正の請求という特別の方法を設けた趣旨にかんがみると、確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないとすれば納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合がなれけば、法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは許されないと解されるところ、本件において、上記特別の事情を認めることはできない。

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(3)延滞税のお知らせについて

 延滞税は、通則法第15条第3項に規定するところにより、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であり、本件お知らせは、延滞税の賦課決定でも納税の請求手続でもなく、単に延滞税の納税義務の存する旨の通知にすぎず、同法第75条に規定する処分には当たらないことから、審査請求の対象となる処分は存在せず、本件お知らせに関する審査請求は不適法というべきである。
(4)なお、請求人は、本件保険金は本件契約から据置契約に至る一貫した単一の契約に係るものであって、本件保険金を受け取ってはおらず、所得が発生したものではない旨主張するので、以下検討する。
イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、昭和63年にF生命との間で、同人を被保険者及び保険金受取人として別表2に記載した内容による3件の生命保険契約を締結した。
 なお、これらの保険の種類はいずれも養老保険(商品名は自由保険)であって、保険料の払込方法はいずれも一時払であり、保険期間はいずれも10年であった。
(ロ)F生命は、これら保険契約について平成10年中に保険期間満了日が到来することから、事前に満期保険金請求書兼据置申込書の用紙を請求人に送付した。
(ハ)そして、請求人は、上記の申込書に、本件保険金の受取方法として〔1〕全額据置する、〔2〕一部据置する、〔3〕全額一時金で受取るの選択肢の中から〔1〕を指定して、署名押印の上、いずれも据置申込手続を行った。
(ニ)F生命は、上記の申込に基づいて本件保険金の据置を開始した。
 なお、F生命の「保険金据置に関する約定」によると、据置契約とは満期保険金の全額もしくは一部を据置き、据置期間満了又は請求時に保険会社所定の利息とともに請求人が受け取る契約である。
(ホ)F生命G支社の担当者は、当審判所に対して「本件保険金は、契約者と受取人が同一の場合は一時所得となり、本件保険金を据置く場合も同様であり、このことはパンフレット等にも説明されている。」旨を答述した。
ロ 所得税法第34条《一時所得》第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。
 そして、所得税法施行令第183条《生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等》第2項では、生命保険契約等に基づく一時金の支払を受ける居住者のその支払を受ける年分の当該一時金に係る一時所得の金額の計算について規定している。
 さらに、所得税法第36条《収入金額》第1項は、各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額について、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しているところ、同項にいう収入すべき金額とは法律上収入すべき権利の確定した金額をいうものと解されている。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
 前記イの各認定事実によれば、本件契約は養老保険契約であり、本件保険金は被保険者である請求人が保険期間満了日まで生存していたことによって支払を受けるべき満期保険金等であることが認められる。
 また、据置契約は、本件保険金を原資として、請求人の意思によって新たに締結されたものであり、本件契約とは別個の預金契約であると認められる。
 そうすると、本件保険金は、本件契約の保険期間満了後、請求人側に現実に金員が支払われることなく、新たに締結した別個の契約に引き継がれたものにすぎないと認められ、別表2のとおりいずれも平成10年中にその支払を受けるべき権利が確定していることが認められるから、平成10年分の一時所得となり、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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