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(平13.4.19裁決、裁決事例集No.61 20頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、航空機の機内清掃等の業務を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、提出した消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の修正申告書及び期限後申告書に係る過少申告加算税及び無申告加算税の賦課決定処分の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成7年7月1日から平成8年6月30日までの課税期間(以下「平成8年6月期課税期間」という。)に係る消費税について、原処分庁所属の職員の調査を受けて、別表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を平成11年11月30日に提出した(以下、この申告書を「本件期限後申告書」という。)。
ロ 請求人は、平成8年7月1日から平成9年6月30日までの課税期間及び平成9年7月1日から平成10年6月30日までの課税期間(以下、順次「平成9年6月期課税期間」及び「平成10年6月期課税期間」といい、これらと平成8年6月期課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)に係る消費税等について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。その後、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受けて、別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書をいずれも平成11年11月30日に提出した(以下、これらの修正申告書を「本件各修正申告書」という。)。
ハ 原処分庁は、平成11年12月24日付けで、本件期限後申告書について、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項に基づき、無申告加算税の額を1,144,500円、本件各修正申告書について、通則法第65条《過少申告加算税》第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項に基づき、過少申告加算税の額をそれぞれ1,281,500円(平成9年6月期課税期間)及び1,857,500円(平成10年6月期課税期間)とする各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年1月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年3月21日付で棄却の異議決定をしたので、同年4月11日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、A空港において、B株式会社(以下「B社」という。)から委託を受けたC株式会社(以下「C社」という。)等からの再委託により、航空機の機内清掃等の業務及び航空貨物取扱等の業務(以下、これらの業務を「ハンドリング業務」という。)を行っている。
ロ 請求人は、C社がB社からの指示に基づいて作成した平成7年1月19日付の「消費税の取扱について」と題する書面(以下「本件文書」という。)により、ハンドリング業務のうち、外航航路に就航している航空機(以下「外航機」という。)の機内清掃等の業務で再委託に係るもの(以下「本件業務」という。)については、消費税が輸出免税(以下「免税」という。)に該当しない旨の連絡を受けている。
ハ 請求人は、平成11年2月4日の税務調査において、原処分庁所属の調査担当職員から、本件各課税期間の本件業務について、消費税等が免税とならない旨指摘されたため、本件期限後申告書及び本件各修正申告書を提出した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人が本件各課税期間の本件業務について消費税等の申告をしなかったのは、次に述べるとおり、原処分庁所属の職員の指導等があったことによるものであり、これは、通則法第65条第4項及び同法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由に該当するから、本件各賦課決定処分はいずれも違法である。
ロ 請求人は、消費税導入当時の平成元年9月2日に、C社の当時の経理課長から、「原処分庁所属の職員の指導によれば、外航機のハンドリング業務については、航空運送事業者との直接取引だけでなく、再委託の場合であっても、消費税の免税に該当する」旨の連絡を受けている。
 また、平成5年11月12日に行われた税務調査において、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)からも、同様に、外航機のハンドリング業務は消費税の免税に該当する旨の回答を得ている。
ハ 請求人は、売上げが年々増加傾向にあったこと及び上記ロの原処分庁所属の職員の指導等に釈然としない点があったことから、平成9年8月25日に、請求人の顧問税理士であるD(以下「D税理士」という。)を通して、原処分庁に対して外航機のハンドリング業務に係る消費税等の取扱いについて質問したところ、原処分庁所属の職員(法人課税第1部門の職員であり、以下「本件法人課税部門職員」という。)から、国内便に係るものは課税売上げとなるが、外航機に係る売上げは免税に該当する旨の回答を得ている。
 なお、この質問の際に、外航機のハンドリング業務が再委託の場合の消費税等の取扱いについての指導は全くなかった。
ニ 請求人が、上記1の(3)のロのとおり、C社から本件文書による連絡を受けたにもかかわらず、本件業務について消費税等の申告をしなかったのは、C社等において、外航機のハンドリング業務に係る消費税の解釈が過去に何度か変更されたことがあり、本件文書についても信頼できなかったためである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由とは、納税者の責めに帰することができない外的事情など、法定申告期限内に申告書を提出することを不可能にする真にやむを得ない理由がある場合をいうと解されるのであり、また、同法第65条第4項に規定する正当な理由とは、納税者の故意又は過失に基づかずして過少申告となった場合のように、当該申告に真にやむを得ない理由がある場合をいうと解される。
ロ ところで、請求人が主張する原処分庁所属の職員による指導については、その事実の存否が明確でなく、その具体的な内容も不明であるため、その指導の事実を認めることができない。
ハ また、請求人は、C社からの本件文書により、本件業務について再委託のため消費税等が免税とならないことを認識した上で、同社に対して本件業務の対価のほかに同対価に係る消費税等を請求している。
ニ 以上のことからすると、請求人は、本件業務について消費税等が免税とならないことを知りながら、原処分庁所属の職員の指導があったとして申告しなかったものであるが、請求人が主張する原処分庁所属の職員による指導については、結局、その指導の際の具体的な状況が明らかでないことから、請求人が本件期限後申告書及び本件各修正申告書を提出したことに、上記イの真にやむを得ない理由があったものとは認められない。
 したがって、請求人が、本件業務について消費税等の申告をしなかったことは、通則法第65条第4項及び同法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由に該当しないから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

(1)関係法令について

イ 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、当該納税者に対し、当該申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。
 この無申告加算税は、申告納税制度を維持するためには納税者により期限内に適正な申告が自主的にされることが不可欠であることにかんがみて、申告書の提出が期限内にされなかった場合の行政上の制裁として、申告書が法定申告期限後に提出されたという客観的事実のみにより課されるものであり、また、正当な理由があると認められる場合とは、無申告加算税を課することが納税者にとって不当又は酷となる特殊な事情、例えば、災害、交通や通信の途絶等納税者の責めに帰することのできない外的事情など、法定申告期限内に申告書を提出することを不可能にする真にやむを得ない理由がある場合をいうと解するのが相当である。
ロ 通則法第65条第1項及び第4項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、正当な理由があると認められるものがある場合を除き、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨、また、同条第2項は、第1項に規定する納付すべき税額が期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分に係る過少申告加算税の額は、第1項の過少申告加算税の額にさらにその超える部分に相当する金額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
 この過少申告加算税は、当初から適法な申告をした者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するため、適法な申告をしなかった納税者に対して行政上の制裁として、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課されるものであり、また、正当な理由があると認められるものがある場合とは、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意過失に基づかずして過少申告となった場合のように、当該過少申告が真にやむを得ない理由によるものとされ、納税者に過少申告加算税を課することが不当又は酷となる場合をいうと解される。

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(2)請求人の主張について

イ 請求人は、平成元年9月2日に、C社の当時の経理課長から、原処分庁所属の職員の指導によれば、外航機のハンドリング業務については再委託であっても消費税の免税に該当する旨連絡を受けたと主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、上記経理課長からの伝聞に基づくものであり、具体的な根拠に欠けるものである上、当審判所の調査によれば、上記経理課長が指導を受けたとする原処分庁所属の職員は、当時の相談記録がなく、その相談の事実及び内容を確認できない旨答述していることに照らしてみると、当時の具体的な相談及び指導の内容が明らかでない以上、当該職員が本件業務について再委託であっても消費税の免税に該当する旨の指導を行ったとする事実を認めることはできない。
 また、請求人は、平成5年11月12日の税務調査において、本件調査担当職員から、外航機のハンドリング業務について消費税の免税に該当する旨回答を受けたと主張する。
 この点について、本件調査担当職員は、当審判所に対し、税務調査の際に、請求人から外航機のハンドリング業務に係る消費税について、元請先のB社の指導に基づき免税の経理処理をしているとの説明を受け、それ以上の確認を行わないまま、調査を終了した旨答述している。
 ところで、税務官庁が、税務調査において、納税者の経理処理について、特に指摘をしなかったからといって、当該経理処理を公的あるいは確定的に是認したものでないことは明らかであり、その後の税務調査において、当該経理処理の誤りが判明した場合に、その是正を求めることはむしろ当然である。
 そうすると、本件調査担当職員が請求人の消費税に係る経理処理を是正しなかった事実のみをもって、請求人に対して誤った指導を行ったというのは相当でない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、平成9年8月25日に、D税理士を通して、原処分庁に対してハンドリング業務に係る消費税等の取扱いについて質問したところ、本件法人課税部門職員から、外航機に係るものは免税となる旨回答を受けたと主張する。
 しかしながら、D税理士は、当審判所に対し、原処分庁に消費税等の取扱いについて質問する際に、本件文書の存在やその内容、本件業務が再委託であること及び本件業務の対価に係る消費税等を既に請求し、受領していること等について、本件法人課税部門職員に説明しなかった旨答述している。
 そうすると、請求人の事業内容やC社との取引状況について十分な説明のないD税理士の質問に対して、本件法人課税部門職員が一般論として外航機に係るものは免税になる旨回答したものと認められるのであり、これをもって、請求人に対して誤った指導を行ったということにはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、C社から本件文書による連絡を受けたにもかかわらず、消費税等の申告をしなかったのは、C社等において、外航機のハンドリング業務に係る消費税の解釈が何度か変更されたことがあり、本件文書の信頼性に欠けるところがあったためである旨主張する。
 しかしながら、C社等において、外航機のハンドリング業務に係る消費税の取扱いを過去に変更した事実があるとしても、申告納税制度の下における消費税等の申告については、納税者たる請求人が自らの判断と責任において、その課税標準及び税額等を決定し、申告することが必要であるところ、請求人は、C社から、本件業務について消費税の免税に該当しない旨の連絡を受け、さらに、消費税の請求をするように求められたため、平成6年10月以降、現在に至るまで本件業務の対価に係る消費税等を請求し、受領しているのであり、このことからみると、請求人は、本件文書を信頼していたものと認められる。
 そうすると、請求人は、本件業務について、本件文書に記載のとおり、再委託のため消費税等が免税にならないことを認識していたにもかかわらず、請求人自らの判断と責任により、あえて消費税等の申告をしなかったというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)本件各賦課決定処分について

イ 上記(2)のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がないのであり、また、原処分庁所属の職員が請求人に対して誤った指導を行ったという事実も認められないことから、本件期限後申告書及び本件各修正申告書の提出については、上記(1)のとおり、通則法第66条第1項ただし書及び同法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当しない。
ロ したがって、通則法第66条第1項、同法第65条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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