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(平13.6.28裁決、裁決事例集No.61 322頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が譲渡した家屋及び土地について、居住用財産としての特別控除が認められるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 本件の審査請求(平成13年2月14日請求)に至る経緯及び内容は、別表1に記載のとおりである。

(3)基礎事実

 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、Hとの間で、平成11年4月27日に、請求人の所有するP市Q町R4丁目41番地8所在の建物60.32平方メートル(以下「本件家屋」という。)及び本件家屋の敷地の用に供していた宅地58.44平方メートル(以下、これらを併せて「本件譲渡物件」という。)を24,000,000円で譲渡する旨の契約を締結した。
ロ 請求人は、平成11年分の所得税について、本件譲渡物件が居住用財産であるとして、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定(以下、この規定による特別措置を「本件特例」という。)の適用を受けるため、確定申告書の「特例適用条文」欄に「措法35条」と記載して、住民票を添付することなく、法定申告期限までに申告した。
ハ 請求人の住民登録の住所は、昭和41年8月1日以降現在に至るまで、S市T町5丁目2番5号であり、請求人は、同住所地に本件家屋とは別の家屋(以下「S市の家屋」という。)を所有していた。
ニ 請求人の母であるJ(以下「J」という。)の住民登録の住所は、昭和9年11月6日から特別養護老人ホームK(以下「本件老人ホーム」という。)の所在地であるP市W1丁目4番7号に転出した平成10年5月28日まで、本件譲渡物件の所在地にあったが、Jは平成11年6月29日に死亡した。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、昭和41年から現在に至るまで住民票の住所をS市の家屋の所在地としていたことが認められるところ、別表2に記載のとおり、S市の家屋に係る平成8年6月から平成11年6月までの電気及びガスの使用量は、請求人夫婦が通常の生活を送るのに十分なものであり、各年分ごとの使用量にも大きな変動は認められない。
 これに反し、請求人夫婦が居住していたと主張する本件家屋に係る電気及びガスの使用量は、S市の家屋の使用量を大きく下回っている。
(ロ)請求人は、L税務署の調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)に対して、請求人が本件家屋に居住していたと主張する間のS市の家屋の利用状況について、〔1〕請求人は月に1、2回行き、〔2〕請求人の妻であるM(以下「M」という。)は週のうち1、2回行き、〔3〕Y市に住む請求人の長男が見に行ったり、また、休日には長男の家族が泊まっていくこともあった旨申述した。
 この申述によれば、S市の家屋の電気及びガスの使用量は、通常の生活をしている場合に比較して、その使用量が大きく減少するはずであり、一方、本件家屋の電気及びガスの使用量は、S市の家屋と比較して多く使用されることになるのが当然である。
 しかしながら、電気及びガスの使用量の状況は、前記(イ)のとおり、請求人の申述内容と明らかに矛盾するものといわざるを得ず、請求人の主張は合理的なものとは認められない。
(ハ)請求人は、Jの看護のため、平成の初めころから平成11年6月まで、Mと共に本件家屋に居住していた旨主張するが、本件家屋の近隣住民の中には、請求人夫婦及び請求人の兄弟が交替でJの看護のため本件家屋に出入りしていた旨を申述した者はいるが、請求人夫婦が本件家屋に引っ越し、Jと同居していた旨を申述した者はいない。
 他方、S市の家屋の近隣住民の中には、請求人夫婦がS市の家屋に居住していた旨を申述した者はいるが、同家屋を引っ越した旨を申述した者はいない。
 したがって、本件家屋の近隣住民とS市の家屋の近隣住民との申述には、相互に矛盾する点は認められない。
(ニ)なお、請求人は、本件家屋に居住していた旨の民生委員による証明書(以下「本件証明書」という。)を原処分庁に提出しているが、同証明書は、請求人が下書きしたものをそのまま民生委員が書き写して発行したものであり、同証明書をもって直ちに請求人が本件家屋に居住していたものとまではいえない。
(ホ)さらに、請求人は、〔1〕市役所及び郵便局に住居の異動届出を行っておらず、〔2〕平成8年分及び平成9年分の所得税の確定申告書の住所をS市の家屋の所在地とし、〔3〕これらの確定申告において、Jを扶養控除の対象としているが、その際、同人を「同居老人扶養親族等」としておらず、〔4〕Jの本件老人ホームへの入所に際して、P市役所によって同人のそれまでの居住状況が「独居老人」として認定されていることが認められるが、それらは、いずれも請求人が本件家屋においてJと同居していたことを示すものではなく、むしろそれに反することを示すものというべきである。
(ヘ)以上を総合して判断すれば、Jは、本件老人ホームに入所するまで本件家屋に居住していたところ、請求人が他の兄弟と交替でJの看護のため本件家屋に出入りしていたことは認められ、また、本件家屋に寝泊まりしたこともあったとしても、それはあくまでも母親の看護を目的とした一時的あるいは臨時的なものであったというほかなく、それをもって請求人が本件家屋を生活の拠点としていたものと認めることはできない。
 そうすると、本件家屋は、請求人が生活の拠点として利用している家屋に当たらないと判断されるから、居住用財産には該当せず、本件譲渡物件の譲渡について本件特例を適用することはできない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり原処分は適法であり、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は、適法である。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 本件譲渡物件は、次のとおり居住用財産であるから、その譲渡については本件特例を適用すべきである。
(イ)Jは、長年にわたり本件家屋に居住していたが、歩行困難な状態に陥り、また、痴呆症となったため、同人を看護する必要が生じ、請求人及びMは、平成の初めころから平成11年6月まで本件家屋に居住していた。
(ロ)請求人夫婦が本件家屋に居住していた間、S市の家屋については、請求人が月に1回程度行くほか、請求人の長男、次男及びその家族が適宜留守居等をしていた。
(ハ)S市の家屋に係る電気及びガスの使用量については、〔1〕請求人の子供の住居が近距離にあることから、子供がS市の家屋に適宜出入りしていたこと、〔2〕食事及び洗濯等については、本件家屋が近距離であったことから持ち込んだりしていたこと、〔3〕小家族のため余り煮炊きはしていないことから、大きな変動がないのも当然である。
(ニ)本件家屋及びS市の家屋の近隣住民は、請求人は引っ越しをしていないと述べているようであるが、双方の家屋が近距離にあるため、必要の都度生活品を持ち込み居住していたものであり、近隣住民には、その間の請求人の家庭の事情まで分かるはずがない。
(ホ)民生委員による本件証明書は、請求人が強制して書かせたものではなく、民生委員が文章としてまとめにくいとのことなので、請求人がその要旨を下書きして渡したものであり、民生委員がそのまま書き写したものである。
(ヘ)原処分庁が主張する〔1〕市役所及び郵便局等へ住所の異動届を提出していないこと、〔2〕請求人の確定申告書の提出先が原処分庁であること、〔3〕P市役所が、本件老人ホームへの入所に際して、Jの居住状況を「独居老人」と認定していること、〔4〕引越業者に引っ越しを依頼していないこと等については、本件家屋からS市の家屋まで電車で15分程度の近距離に位置しているため、あえて異動の手続き等をしなかっただけのことである。
 また、これらは本件特例の適用要件ではないから、本件特例の適用を認めるべきである。
(ト)なお、法律の適用に当たっては多少の問題があるかもしれないが、請求人自身も老人であるにもかかわらず、寝たきりの痴呆老人の看護のために生活を共にしていたものであり、その肉体的、経済的な悲惨さを理解してもらいたい。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
上記イのとおり、原処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)平成8年6月から平成11年6月までの本件家屋及びS市の家屋に係る電気、ガス及び水道(水道についてはS市の家屋を除く。)の各使用量は、別表2に記載のとおりである。
 なお、本件家屋に係るガスについては、平成10年6月1日に閉栓された。
(ロ)平成8年6月から平成11年6月までの間の、「家計調査報告(現総務省統計局発行)」によるP市における1世帯当たりの1か月平均の電気、ガス及び水道の各使用量は、別表3に記載のとおりである。
(ハ)請求人の平成8年分及び平成9年分の所得税の確定申告書に記載された住所は、いずれもS市の家屋の住所地であった。
なお、両年分とも、Jについては、「同居老人扶養親族等以外の者」として扶養控除の対象としていた。
(ニ)Jは、平成10年5月28日に本件老人ホームに措置入所したが、その際、P市役所は、同人のそれまでの居住状況を「独居生活者」と認定した。
(ホ)請求人は、調査担当職員に対し、次のとおり申述した。
A 請求人は、本件家屋に住んでいるJの看病のため、本件家屋で生活せざるを得なかった。
B 平成の初めころから、本件家屋には請求人夫婦、J及び請求人の弟であるN(以下「N」という。)の4人が暮らしていたが、Nは平成8年7月13日に死亡した。
C 本件家屋に居住している間、請求人は月に1、2回、Mは週のうち1、2回S市の家屋へ行っていた。
D 請求人が本件家屋に居住している間、請求人の長男がS市の家屋を見に行ったり、また、休日には長男の家族が泊っていくこともあった。
E 本件家屋とS市の家屋とは、電車で15分と近かったため、請求人は、引っ越しをするために業者に依頼したことはなく、必要の都度、請求人や息子の車で生活用品等を運び込んだ。
 また、双方の家屋が近距離に位置し、不便がないため、市役所や郵便局への住所変更の届出は行わなかった。
(ヘ)本件家屋の近隣住民A、B、C及びDは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
A 住民Aは、〔1〕本件家屋には、JとNが一緒に住んでいたが、Nが死亡してからはJが一人暮らしをしていた、〔2〕Jの面倒はJの子供達が交替で見ていた、〔3〕請求人夫婦も看病に来て本件家屋に泊まることはあったが、引っ越してきたり、荷物を運んできた様子はない旨申述した。
B 住民B及びCは、Jが一人暮らしであったため、Jの子供達が交替で面倒を見にきていたが、本件家屋に誰かが引っ越してきて同居していた様子はない旨申述した。
C 住民Dは、Nが死亡した後、昼間はJの娘達が食事や身の回りの世話を行い、夜間はJの息子達が交替で本件家屋に寝泊まりに来ていた旨申述した。
(ト)S市の家屋の近隣住民E、F及びGは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
A 住民Eは、請求人が本件家屋に引っ越したという話は聞いていないし、S市の家屋に居住していると思っていた旨申述した。
B 住民Fは、請求人が、〔1〕引っ越しをした様子や引っ越しのあいさつはなかった、〔2〕たまに留守にしている様子はあったが、洗濯物等が干してあるのはよく見掛けた、〔3〕1か月以上もS市の家屋を空けている様子はなかった旨申述した。
C 住民Gは、〔1〕請求人夫婦は、S市の家屋にずっと住んでいたと思う、〔2〕請求人の定年後は、Mと二人で歩いているのを週に1回くらいの割で見掛けた旨申述した。
ロ ところで、措置法第35条第1項は、個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地の譲渡をした場合等において、これらの家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した場合には、当該個人がその年の前年又は前々年において既にこの項の適用を受けている場合を除き、課税譲渡所得の計算上、3,000万円までを特別控除額として控除する旨規定している。
 これは、居住用財産を譲渡した場合には、これに代替する新たな居住用財産を取得しなければならなくなるのが通常であるなど、一般の譲渡に比べて特殊な事情があり、担税力も高くないこと等を考慮して設けられた租税負担の軽減規定であり、その適用に当たっては、他の納税者との公平の観点から明確性が要求されていると解される。
 そして、租税特別措置法施行令第20条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第2項及び同第23条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項において、居住の用に供している家屋を2以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる1の家屋に限るものとする旨規定しているところ、居住の用に供している家屋とは、譲渡の時若しくはこれに近い時期までに、その者がある程度の期間継続的に真に居住の意思をもってこれに居住し、生活の拠点として利用している家屋であり、生活の拠点として利用している家屋であるかどうかは、その者及び配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況、その他の事情を総合的に勘案し、社会通念に照らして判断すべきものであると解される。
ハ これを本件について見ると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件家屋に居住していた間のS市の家屋に関し、〔1〕請求人は月に1、2回、Mは週のうち1、2回S市の家屋へ行き、〔2〕請求人の長男が留守宅を見に行ったり、休日には泊まって行くことがあり、〔3〕食事及び洗濯等は、近距離であるため持ち込んだりしていた、〔4〕小家族のため余り煮炊きはしていない旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)及び(ロ)の認定事実によれば、S市の家屋における電気及びガスの使用量は、別表3に記載した「家計調査報告」によるP市における1世帯当たりの平均使用量と比較してもほぼ同数値であり、請求人夫婦が通常の生活を送るのに十分なものであることが認められる。
 他方、請求人夫婦が居住していたと主張する本件家屋における電気、ガス及び水道の契約者名義はJであり、その各使用量は、別表3の各使用量を大きく下回っていることが認められる。
 そして、S市の家屋と本件家屋の電気及びガスの使用量を比較すると、本件家屋の方が著しく少ないことが認められる。
 そうすると、請求人夫婦が本件家屋で日常生活を営んでいたとするには極めて不自然であるといわなければならず、請求人夫婦が本件家屋を生活の拠点としていたという請求人の主張をそのまま採用することには、多大の疑問がある。
 さらに、上記イの(ヘ)及び(ト)のとおり、双方の家屋の近隣住民の申述は、いずれも、請求人がJの看護のため本件家屋へ度々出入りしていたことはあるが、本件家屋を生活の拠点として利用してはいなかったとするものであるところ、これらは相互に矛盾する点がない上、上記の電気、ガス及び水道の使用量の状況とも合致するものであって、その信用性は高いと認められる。
 これに対し、請求人は、近隣住民には請求人の家庭の事情まで分かるはずがない旨主張するが、調査担当職員は、双方の家屋からそれぞれ比較的近距離に居住する複数の住民を無作為に抽出して、必要な範囲内で公正な聞き取りを実施していると認められ、その内容についても信頼が置けるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)なお、請求人は、本件家屋に居住していたことを証するものとして、民生委員が作成した本件証明書を原処分庁に提出しているが、本件証明書の証明事項の内容については、請求人が下書きして民生委員に渡したものを、民生委員がそのまま書き写して発行したものであることを請求人も自認している上、上記の近隣住民らの申述内容とも合致していないのであるから、本件証明書をもって直ちに請求人が本件家屋に居住していたと判断することはできない。
(ハ)また、請求人は、原処分庁が主張する、〔1〕住民票等の異動届、〔2〕確定申告書の提出先、〔3〕P市役所が認定したJの居住状況及び〔4〕本件家屋への引っ越しの事実の有無は、いずれも本件特例の適用要件とはされていないから、本件特例の適用が認められるべきである旨主張するが、請求人が生活の拠点として本件家屋に居住していたかどうかを判断する上では、これらの事実関係も総合判断の資料となり得ることが明らかであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ニ 以上のとおり、〔1〕電気及びガス等の使用量の状況という客観的数値、〔2〕本件家屋及びS市の家屋の近隣住民の申述内容、〔3〕請求人の住民登録の状況、〔4〕平成8年分及び平成9年分の所得税の確定申告書の記載内容、〔5〕Jの居住状況に係るP市役所の認定などを併せて判断すると、請求人が主として居住の用に供していたのはS市の家屋であり、本件家屋は、仮に使用していたとしても、一時的あるいは臨時的なものであったと判断するのが相当である。
 そうすると、原処分庁が、本件譲渡物件は居住用財産とは認められないから、本件の譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用できないとした更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記のとおり、本件の更正処分は適法であり、また、本件の更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は、適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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