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(平14.3.29裁決、裁決事例集No.63 11頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、給与所得者である審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、原処分庁の納税相談の担当職員(以下「相談担当職員」という。)の指導に従った租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第41条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》(以下「住宅取得等特別控除」という。)の規定の適用及び措置法第41条の2《年末調整に係る住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》の規定の適用が適法か否かが主として争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年分の所得税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した(以下、この申告を「本件確定申告」といい、本件確定申告に係る確定申告書を「本件確定申告書」という。)。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年4月25日付で次表の「更正処分」欄及び「決定処分」欄のとおりの平成10年分の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び平成11年分の決定処分(以下、「本件決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)をした。

ハ 請求人は、本件各処分を不服として、平成13年5月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月27日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年7月6日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、財団法人F(以下「F」という。)から住宅取得資金を借り入れた(以下、この住宅取得資金を「本件借入金」という。)。
ロ Fは、本件借入金に係る租税特別措置法施行令(平成11年政令第120号による改正前のもの。)第26条の2《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除に関する証明書等》第1項に規定された住宅借入金等の金額その他の事項を証する書類を請求人に交付した(以下、この書類を「本件証明書」という。)。
ハ 本件証明書には、本件借入金が措置法第41条第1項第1号に規定する借入金に該当する旨記載されている。
ニ 請求人は、住宅取得等特別控除の適用を受けるため、本件証明書を添付した本件確定申告書を原処分庁に提出した。
ホ 請求人は、平成11年分の請求人の給与所得に係る年末調整で、措置法第41条の2の規定による住宅取得等特別控除の適用を受けた。

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2 主張

(1)請求人の主張

イ 本件各処分について
 本件各処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
 請求人は、相談担当職員の指導に従い、住宅取得等特別控除の適用を受けるために必要な書類を添付して本件確定申告書を原処分庁に提出した。
 また、平成11年分の請求人の給与所得に係る年末調整において、住宅取得等特別控除の適用を受けるために必要な書類を請求人の源泉徴収義務者に提出した。
 このように、いずれの年分も必要書類を提出して住宅取得等特別控除の適用を受けることが確定しているが、原処分庁は、本件確定申告後2年以上経過してから、請求人に住宅取得等特別控除の適用がない旨指摘し、本件各処分を行った。
 しかしながら、本件各処分は、本件確定申告において、相談担当職員が適切な指導を行わなかったことにあるから、その責任は原処分庁にある。
ロ 延滞税について
 上記イのとおり、本件各処分は、相談担当職員が適切な指導を行わなかったことにあるから、原処分庁は請求人に延滞税の納付を請求すべきでない。
(2)原処分庁の主張
 本件各処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件借入金は、措置法第41条第1項第1号ないし第4号に規定する借入金又は債務の金額に該当しないことから、請求人は住宅取得等特別控除の適用を受けることができない。
ロ 原処分庁は、上記イのとおり、請求人は住宅取得等特別控除の適用を受けることができないので、請求人に対して本件確定申告書を修正するよう指導した後、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》に規定された期間内に、本件更正処分については同法第24条《更正》の、本件決定処分については同法第25条《決定》の規定に基づき行ったものであるから、本件各処分に違法な点はない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件各処分の適否及び延滞税を納付すべきか否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ Fは、○○県下の教職員、教育関係者及び県民の教養を高め、その福祉の増進をはかることを目的に設立された財団法人であり、措置法第41条第1項第1号ないし第4号に規定する住宅の取得等に要する資金の貸付けを行う者には該当しない。
ロ 本件証明書は、租税特別措置法施行規則(平成11年大蔵省令第35号による改正前のもの。以下同じ。)別表第8に規定された書式で作成され、また、同規則第18条の22《住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書》第2項に規定された事項が記載されている。
ハ 請求人の平成11年分の総所得金額は、Gから支給を受けた給料及び賞与6,221,081円に係る給与所得4,336,000円のみである。
 この給与及び賞与の源泉徴収に係る所得税は、所得税法第183条《源泉徴収義務》及び同法第190条《年末調整》の規定により納付されている。

(2)本件更正処分について

イ 請求人は、必要書類を提出して住宅取得等特別控除の適用を受けることが確定した本件確定申告から2年以上経過しているにもかかわらず、原処分庁が本件更正処分を行った。これは、相談担当職員が適切な指導を行わなかったことに起因しその責任は原処分庁にあるから、違法である旨主張する。
ロ ところで、原処分庁は、確定申告期において、納税者に対して納税者が提示した資料に基づき当該納税者の説明の範囲内において、所得金額の計算や確定申告書の記載方法などを指導、助言する納税相談を行っているのであるが、そもそも、申告納税制度の下では、原則として、税法に適合した納税義務の実現は、納税者自らの判断と責任において行われるべきものである。
 また、国税通則法第24条には、税務署長は納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったときは、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨、同法第70条第1項には、更正はその更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においては行うことができない旨それぞれ規定されている。
ハ これを本件についてみると、上記(1)のイのとおり、Fは住宅の取得等に要する資金の貸付けを行う者に該当しないところ、上記(1)のロのとおり、本件証明書は法定の書式で作成され、法令の規定に基づいた事項が記載されており、相談担当職員は、本件証明書に基づいて請求人を指導したことが認められる。
 しかしながら、上記ロのとおり、申告納税制度の下では納税者は自らの判断と責任において確定申告を行い、税法に適合した確定申告書を提出する注意義務があることから、納税者に納税者間の平等、課税の公平という要請を犠牲にしてもなお課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情がない以上、確定申告書の内容を税法に適合したものに是正すべきであると解される。
 そして、上記(1)のイのとおり、本件更正処分は、請求人の住宅取得等特別控除がその適用要件を具備しないことから行なわれたこと及び上記1の(2)のロのとおり、国税通則法第70条第1項に規定された期間内に同法第24条の規定に基づき行われたことから、適法な処分と認められる。
 このことからすれば、本件更正処分により、原処分庁は請求人に対し救済に値する程度の不利益を与えたものとはいえず、申告内容の誤りを是正しなければ、請求人は本来納付すべき正当な税額を免れることとなり、租税平等の原則に反し相当でない。
ニ したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

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(3)本件決定処分について

イ 原処分庁は、本件決定処分は国税通則法第25条の規定に基づき行った旨主張する。
ロ ところで、国税通則法第25条には、税務署長は納税申告書を提出する義務があると認められる者が当該申告書を提出しなかった場合には、当該申告書に係る課税標準等及び税額等を決定する旨規定されている。
 そして、納税申告書を提出する義務については、所得税法第120条《確定所得申告》第1項で、居住者は、その年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が所得控除の額の合計額を超える場合において、当該総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額から所得控除の額の合計額を控除した額に対する税額が配当控除の額を超えるときは、確定申告書を提出しなければならない旨規定されている。
 しかし、給与所得者については、所得税法第121条《確定所得申告を要しない場合》で、その年中に支払を受けるべき給与等の額が 2,000万円以下である給与所得を有する居住者で、一の給与等の支払者から給与等の支払を受け、かつ、当該給与等の全部について同法第183条及び同法第190条の規定による所得税を徴収された又はされるべきものは、同法第120条第1項に規定された申告書を提出することを要しない旨規定されている。
ハ これを本件についてみると、請求人は、上記(1)のハのとおり、所得税法第121条に規定された確定申告書の提出を要しない場合に該当し、所得税法第120条第1項に規定する確定申告書を提出しなければならない場合に該当しないことから、国税通則法第25条に規定する納税申告書を提出する義務があるとは認められず、原処分庁は同条を根拠とする決定処分を行うことはできない。
 なお、源泉徴収制度に関して、国と直接の租税債権債務関係に立つ者は源泉徴収義務者であり、国と給与等の受給者の間には租税債権債務関係は生じないものと解されている。
 したがって、給与についてその支払者が行った所得税の源泉徴収に誤りがあり、徴収額が不足する場合には、税務署長は、所得税法第221条《源泉徴収に係る所得税の徴収》の規定により源泉徴収義務者たる給与の支払者からその不足分を徴収し、給与の支払者は、同法第222条《不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等》の規定により源泉納税義務者たる給与の受給者にその不足分を請求することになる。
ニ 以上のことから、本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(4)延滞税について

イ 請求人は、本件各処分がなされた原因は原処分庁にあるから請求人に延滞税の納付を請求すべきでない旨主張する。
ロ しかしながら、延滞税は、国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第6号及び同法第60条《延滞税》の規定により、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであり、同法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》に規定する国税に関する法律に基づく処分に該当しない。
ハ したがって、原処分庁は延滞税を請求すべきでないとする請求人の主張は、対象とされる処分の存在を欠く不適法なものと認められる。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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