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(平14.1.17裁決、裁決事例集No.63 141頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)において、同人が所有するP県Q市R町○番○号に所在の店舗(以下「本件建物」という。)の貸付けに係る賃料の額並びに本件建物に係る租税公課(本件建物の敷地の用に供されている土地に係るものを含む。)及び減価償却費の額(以下、併せて「本件租税公課等の額」という。)が、不動産所得の金額の計算上総収入金額及び必要経費の金額に算入できるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年分、平成10年分及び平成11年分(以下、併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)を受け、各年分の所得税について、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)を、本件調査中の平成13年2月21日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、各年分の所得税について、平成13年3月13日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年4月2日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件建物を、有限会社F(以下「F」という。)に対し、昭和56年8月以降継続して使用させている。
ロ Fは、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社であり、請求人は、その代表取締役を務めている。
ハ 請求人とFとの間において、昭和56年8月1日に本件建物の賃料を月額 200,000円とする旨の建物賃貸借契約書(以下「本件契約書」という。)を作成しているが、それ以後、本件建物の賃料の変更等に関する契約書は作成されていない。
ニ 請求人の各年分の確定申告における不動産所得の総収入金額には、本件建物の賃料が計上されていない。
ホ 請求人は、各年分の確定申告において、本件租税公課等の額として、次表の金額を、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入している。

項目/年分平成9年分平成10年分平成11年分
租税公課288,688円289,316円289,316円
減価償却費837,779859,651789,160

ヘ Fが原処分庁に提出した法人税の確定申告書によれば、Fは、平成6年7月1日から平成7年6月30日までの事業年度(以下「平成7年6月期」という。)以後の事業年度について、本件建物の賃料の支払がなく、また、本件建物の賃料について未払金として計上していない。

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2 主張

(1)請求人

 本件各更正処分は、次のとおり違法であるから、いずれもその全部を取り消すべきである。
イ 請求人は、本件建物を昭和56年8月1日からFに対し貸付けを行っており、平成6年分までは、不動産所得の金額の計算上、本件建物の賃料を年額2,400,000円として総収入金額に計上するとともに、本件租税公課等の額を必要経費に算入して確定申告をしていたが、Fの経営が思わしくないため、平成7年分以後は、本件建物の賃料を零円とするとともに、本件租税公課等の額を必要経費に算入して申告したところ、本件調査の際に、調査担当職員から、実際に本件建物をFが店舗として使用しているにもかかわらず、賃料の支払がないのは不合理であるとの指摘を受けたので、原処分庁所属の法人税担当職員(以下「法人税担当職員」という。)の指導に基づき、各年分の本件建物の賃料を年額600,000円とする本件各修正申告書を平成13年2月21日に原処分庁へ提出した。
ロ これに対して、原処分庁は、本件建物の貸付けは無償で行われており使用貸借であると認定し、各年分の不動産所得について、〔1〕本件各修正申告書により加算した本件建物の賃料600,000円を減算するとともに、〔2〕本件租税公課等の額を必要経費の額から減算する本件各更正処分を行ったが、これは従来からの経理慣行に反する処分であり、実際に、Fが本件建物を使用していることを踏まえると、Fにおいて未払賃料を計上し、その金額を請求人において未収賃料があったとして申告するのが合理的な処理と考えられる。

(2)原処分庁

 本件各更正処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得をいうと規定し、同条第2項は、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とすると規定している。そして、所得税法第2条《定義》第1項第19号は、減価償却資産の定義として、不動産所得等の基因となり、又は不動産所得等を生ずべき業務の用に供される建物等で償却をすべきものと規定している。
ロ したがって、不動産の貸付けによる所得とは、当事者の一方が相手方に不動産等を使用収益させて、その対価を得ることを目的とする行為から生ずる所得をいうものと解するのが相当であるところ、建物の貸付けにより生ずる費用が不動産所得の必要経費に該当するためには、その建物が営利を目的とする対価を伴った貸付けとして業務の用に供されているもの、すなわち建物の貸借関係がいわば賃貸借と認められるものであることが必要である。他方、無償で建物の貸付けが行われている場合には、その建物は、営利を目的とする貸付けとして業務の用に供されているものには該当せず、このような営利を目的としない建物の貸借関係、すなわち使用貸借の場合には、その費用は不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されないこととなる。
ハ これを本件に照らしてみると、請求人は、各年分において、本件建物をFに無償で貸し付けていることから、請求人が営利を目的として本件建物をFに貸し付けているということはできず、請求人とFとの間における本件建物の貸借関係は、使用貸借であると認めるのが相当である。
 したがって、本件租税公課等の額については、これらを請求人の各年分の不動産所得の金額の計算上、その必要経費の額から除外することとなる。
ニ また、請求人は、法人税担当職員の合理的な考えである指導に従って未収家賃計上もれとして本件各修正申告書を提出しているから、本件各更正処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、不動産所得の総収入金額の収入すべき金額は、原則として、契約又は慣習により支払日が定められているものについてはその支払日、支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日とされているところ、請求人は、各年分において、本件建物の賃料を不動産所得の総収入金額に計上しておらず、他方、Fにしても、本件建物の賃料を支払ったという事実、また、本件建物の賃料について未払金経理をしているという事実も認められない。
 したがって、各年分において、請求人とFとの間に、本件建物について不動産所得を生ずべき賃貸借契約があったとは認められず、請求人は、単に、本件調査において、調査担当職員から本件建物の賃借関係が使用貸借であると指摘されたことにより、本件建物の賃料を年額600,000円とする本件各修正申告書を提出したにすぎないものであり、本件各修正申告書の提出があったことをもって、各年分において、本件建物について賃貸借契約があったことになるものではない。
ホ なお、請求人は、本件各修正申告書の提出に関して、法人税担当職員から得た合理的な考えである指導に従ったものであるとも主張するが、法人税担当職員は、請求人の顧問税理士である代理人に対し、法人が未払賃料を経理していなかった場合の過年度分の賃料についての法人税の取扱いを一般論で指導したものであり、本件建物の無償使用を前提として行った本件各更正処分とは、その内容が異なることから、このことを理由として本件各更正処分の違法を主張することは失当である。
ヘ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がない。

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3 判断

 不動産所得の金額の計算上、本件建物の貸付けに係る総収入金額及び必要経費について争いがあるので、以下審理する。

(1)本件各更正処分について

イ 認定事実
(イ)請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A Fは、本件契約書に基づき、平成5年7月1日から平成6年6月30日までの事業年度(以下「平成6年6月期」という。)までは本件建物の賃料として月額200,000円を支払っていたが、景気が悪くなり賃料を支払えない状況が続いたため、平成6年7月以後は本件建物の賃料を零円とした。
B 本件各修正申告書において本件建物の賃料を年額600,000円(月額50,000円)としたのは、以前に比べて物価が下がり、一般に家賃の額も減少していることを踏まえ、Fが支払える金額を考慮した上で、総合的に検討したものである。
C 本件建物の賃料を月額50,000円とするという建物賃貸借契約書は作成していない。
(ロ)当審判所において、平成13年6月11日に、Fの法人税の確定申告書及び決算書を確認したところ、本件建物の賃料の支払状況は別表2のとおりであり、Fは、平成7年6月期以後の各事業年度において、本件建物の賃料の支払がなく、また、本件建物の賃料について未払金として経理していない。
(ハ)当審判所で原処分関係資料を調査したところ、調査担当職員は、請求人の顧問税理士である代理人に対して、本件建物の貸付けは使用貸借に当たるので、本件租税公課等の額は、各年分の不動産所得の必要経費に算入できない旨の指摘を再三にわたって行っている。
ロ 法令の規定
 所得税法第26条第1項は、不動産所得とは、不動産等の貸付けによる所得をいう旨規定し、同条第2項は、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とすると規定している。
 したがって、不動産等の貸付けによる賃料が不動産所得の総収入金額に算入されるためには、当該賃料が不動産等の貸付けによる所得に該当することを要するところ、不動産等の貸付けによる所得とは、当事者の一方が相手方に不動産等を使用収益させて、その対価を得ることを目的とする行為から生ずる所得をいうものと解されるから、不動産等の貸付けが賃貸借から生ずる賃料はこれに該当し、対価を伴わない使用貸借は不動産等の貸付けによる所得に該当しないこととなる。
 また、所得税法第37条《必要経費》第1項では、不動産所得等の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、これらの所得の総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。
 したがって、所得税法第26条第1項に規定する不動産所得とは不動産等の貸付けによる所得をいうことから、必要経費に算入すべきとされる不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額については、その不動産等が、不動産等の貸付けによる所得を生ずべき業務の用に供されたものであることを要すると解するのが相当である。そのため、対価を伴わない使用貸借の場合、その不動産は不動産等の貸付けによる所得を生ずべき業務の用に供された資産とはいえず、当該不動産に係る費用は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されない。
ハ 本件建物の貸付けについて
 上記1の(3)及び上記イの事実並びに上記ロの法令の規定を踏まえて、本件建物の貸付けについてみると、次のとおりである。
(イ)Fは、本件契約書に基づき、平成6年6月期までは本件建物の賃料を損金の額に算入していること、また、請求人は、不動産所得の金額の計算上、本件契約書に基づき、本件建物の賃料を総収入金額に計上するとともに、本件租税公課等の額を必要経費に算入していることから、本件建物の貸付けは、平成6年6月までは、賃貸借契約に基づくものであると認められる。
(ロ)次に、平成6年7月以後の本件建物の貸付けについては、Fの代表取締役でもある請求人が、上記イの(イ)のAのとおり答述し、また、上記2の(1)のイのとおり同旨の主張もしていることから、本件建物の賃料を零円とすることについて、請求人とF双方の合意があったものと認められる。
 そして、本件建物の賃料を零円とする上記合意に基づいて、〔1〕請求人は、Fから本件建物の賃料を受け取っていないことから、各年分の所得税の確定申告において、本件建物の賃料を不動産所得の総収入金額に計上しておらず、また、〔2〕Fは、上記イの(ロ)のとおり、本件建物の賃料の支払がなく、また、本件建物の賃料について未払金として計上していないものと認められる。
 したがって、平成6年7月以後の本件建物の貸付けは無償で行われていることが明らかであることから、同月以後の本件建物の貸付けは、請求人及びF双方の合意に基づく、使用貸借とみるのが相当である。
(ハ)請求人は、法人税担当職員の指導に基づき、Fが未払賃料を計上して、その金額を請求人において未収賃料として申告するのが合理的な処理であると考え、本件建物の賃料を年額600,000円とする本件各修正申告書を提出したのであるから、本件各修正申告書に係る本件建物の賃料の額及び本件租税公課等の額を減算した本件各更正処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、〔1〕上記イの(イ)のCのとおり、請求人とFの間で、本件建物の賃料を月額50,000円とする建物賃貸借契約書が作成されていないこと、〔2〕当審判所において、本件各修正申告書が提出された後の平成13年6月11日に、Fの法人税の確定申告書及び決算書を確認したところ、上記イの(ロ)のとおり、Fは本件建物の賃料についてその支払がなく、また、本件建物の賃料について未払金として計上していないことが認められるので、各年分において、請求人とFとの間に本件建物の賃料を月額50,000円とする建物賃貸借契約(以下「月額50,000円の賃貸借契約」という。)が締結されているものと認めることはできない。
 そうすると、本件各修正申告書は、月額50,000円の賃貸借契約を前提に提出されたものではなく、本件建物の貸付けは使用貸借である旨の本件調査担当職員の指摘により提出されたものと認めるのが相当であって、また、本件各修正申告書の提出をもって、月額50,000円の賃貸借契約が締結されたとみることもできないから、上記(ロ)のとおり、各年分における本件建物の貸付けは、使用貸借とみるのが相当である。
 また、請求人は、法人税担当職員の指導に基づいて、本件各修正申告書を提出した旨主張するが、法人が未払賃料を計上して個人が未収賃料を計上すべき旨の法人税担当職員の指導は、賃貸借関係に基づく不動産の貸付けを前提としたものと考えられ、本件建物の貸付けとはその前提条件が異なるので、本件各更正処分の適否の判断において、請求人の主張を採用することはできない。
(ニ)以上のとおり、各年分における本件建物の貸付けは、賃貸借関係にあるとは認められず、同族会社に対する貸付けゆえに行われた使用貸借であると認められるから、上記ロのとおり、本件不動産の貸付けは、不動産所得とされる不動産等の貸付けに該当せず、本件租税公課等の額を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 したがって、本件各修正申告書に係る本件建物の賃料の額及び本件租税公課等の額を減算した本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であり、請求人の場合、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づきされた本件各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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