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(平14.2.26裁決、裁決事例集No.63 160頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、所得税法第72条《雑損控除》に定める雑損控除を行うに当たり、会社員である審査請求人(以下「請求人」という。)所有の自動車(以下「本件車両」という。)が「生活に通常必要な動産」に当たるか否かが主として争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおりである(以下、別表の〔2〕欄の平成12年6月2日付の更正処分を「本件更正処分」といい、同表の〔6〕欄の同年10月31日付の更正をすべき理由がない旨の通知処分を「本件通知処分」という。)。
 なお、本件通知処分に対する異議申立てについて、異議審理庁が、国税通則法第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第1項の規定に該当するものとして、平成13年3月9日に当審判所長あてに送付してきたので、同条第3項の規定により、同日本件通知処分についての審査請求がされたものとみなされた。
 そこで、本件更正処分に対する審査請求と本件通知処分に対する審査請求を併合審理する。

(3)関係法令等

イ 所得税法第72条第1項は、同法第62条《生活に通常必要でない資産の災害による損失》第1項に規定する「生活に通常必要でない資産」を、雑損控除の対象となる資産から除く旨規定している。
ロ 所得税法第62条第1項は、同法施行令第178条《生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等》第1項に規定する「生活に通常必要でない資産」について受けた損失の金額を譲渡所得から控除する旨規定している。
ハ 所得税法施行令第178条第1項第3号は、「生活の用に供する動産」で同令第25条《譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲》に定める動産に該当しないものは、「生活に通常必要でない資産」である旨規定している。
ニ 所得税法施行令第25条は、「生活に通常必要な動産」のうち、1個又は1組の価額が30万円を超える貴石製品等以外のものが譲渡所得について非課税とされる生活用動産である旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件車両は、平成11年9月24日に台風18号による水害で被災した。
ロ 本件車両には、〔1〕○○製キーボード、〔2〕○○製コンパクトディスクプレーヤー、〔3〕子供用服5点、〔4〕○○製ファミリーコンピューター本体、〔5〕○○製ファミリーコンピューターソフト、〔6〕傘、食器、椅子他1式、〔7〕懐中電灯2点、〔8〕シートカバー、マット12点及び〔9〕空気清浄機の積載物(以下、これら〔1〕ないし〔9〕を併せて「本件車両積載物」という。)があり、本件車両と同様、水害で被災した。
ハ 請求人の自宅から勤務先までの距離は300メートル弱、また、請求人の自宅はP市の中心部に位置しており、○○駅までの距離は400メートル弱である。

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2 主張

(1)請求人の主張

イ 本件更正処分について
 本件更正処分は、次の理由により違法・不当であるから、その全部の取消しを求める。
(イ)調査手続等について
 本件更正処分に係る調査手続等は、次のとおり違法・不当である。
A 原処分庁は、請求人からほとんど話を聞くことなく本件更正処分をしており、十分な調査、審理を行っていない。
B 異議審理に係る調査の担当者は、異議審理に係る調査において時と場所を考えない再三再四の出頭要請を行った。
(ロ)雑損控除について
 雑損控除の対象となる被災した「生活に通常必要な動産」及びその損失の金額並びに所得税法第2条《定義》第1項第26号に定める雑損失の金額は、下記のとおりである。
A 被災した「生活に通常必要な動産」及びその損失の金額
(A)本件車両
a 本件車両は、いじめやその他の理由によりやむを得ず子供を遠隔地の中学校へ転校させたため、その通学の際の送迎に主として使用していたものであり、他に交通手段もなく、しかも、義務教育を受けている子供の通学の送迎に使用していたものであるし、仕事で使うこともあったから、当然に「生活に通常必要な動産」である。
b 本件車両の損失の金額は、本件車両を修理して使用するよりも新たに購入した方が安いことから、代わりに購入した車(以下「購入車両」という。)の価額によるべきであり、購入車両の購入価額2,600,000円、購入車両の登録費用34,225円及び本件車両の登録抹消費用3,200円の合計額2,637,425円である。
c また、保険会社から支払を受けた保険金額の中には、代車費用に係る補償が含まれていることから、代車費用そのものではないが、代車を調達するよりも処分を予定していた軽自動車を修理し検査を受けて使用する方が安くなるので、そのために支出した費用223,135円を代車費用に見合うものとして、損失の金額に含めるべきである。
d したがって、本件車両の損失の金額は、上記b及びcの合計額2,860,560円である。
(B)本件車両積載物
a 本件車両積載物は、すべて「生活に通常必要な動産」である。
b 本件車両積載物の損失の金額は、請求人が取得価額、所有期間等を考慮して見積もった価額で、〔1〕○○製キーボード40,000円、〔2〕○○製コンパクトディスクプレーヤー50,000円、〔3〕子供用服5点50,000円、〔4〕○○製ファミリーコンピューター本体19,000円、〔5〕○○製ファミリーコンピューターソフト15,000円、〔6〕傘、食器、椅子他1式30,000円、〔7〕懐中電灯2点 6,000円、〔8〕シートカバー、マット12点70,000円及び〔9〕空気清浄機35,000円の合計額の315,000円である。
B 雑損失の金額
 雑損失の金額は、損失の金額である上記Aの(A)のd及び(B)のbの合計額3,175,560円から保険金で補てんされた1,510,000円を差し引いた 1,665,560円から、請求人の総所得金額の10%である 861,880円を控除した残額の803,680円であるので、少なくとも本件更正処分は取り消されるべきである。
ロ 本件通知処分について
 雑損失の金額は、上記イの(ロ)のBのとおり803,680円であるので、本件通知処分の一部の取消しを求める。

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(2)原処分庁の主張

イ 本件更正処分について
 本件更正処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
(イ)調査手続等について
A 原処分庁は、調査、審理の上、本件更正処分を行っており、違法・不当な点はないから、請求人の主張には理由がない。
B 異議審理手続は適法に行われている上、異議審理手続の違法・不当を理由として原処分の取消しを求めることはできないから、請求人の主張は失当である。
(ロ)雑損控除について
A 雑損控除の対象となる「生活に通常必要な動産」とは、通常の社会生活を営むのに社会通念上必要とされる動産のことであると解されている。
 したがって、当該資産が「生活に通常必要な動産」に当たるか否かは、当該動産の用途、使用状況等を考慮し、そのような状況が通常の社会生活を営むのに必要であるか否かを一般社会通念に基づいて判断するものとされている。
 そして、自家用自動車については、他に代替交通機関がなく、やむを得ず自家用自動車を使用せざるを得ない場合で、専ら通勤用にのみ使用していれば、「生活に通常必要な動産」として、雑損控除を行うことができると解されている。
 これを本件について見ると、請求人は本件車両を通勤には使用しておらず、子供の通学の送迎に使用していたとしても「生活に通常必要な動産」には該当しないから、雑損控除を行うことはできない。
B 本件車両積載物のうち、子供用服5点50,000円、傘、食器、椅子他1式30,000円及び懐中電灯2点6,000円については「生活に通常必要な動産」に該当すると認められるが、その他の本件車両積載物については、それが「生活に通常必要な動産」に該当する理由を明らかにしていないのであるから、雑損控除は認められない。
 そうすると、雑損控除の対象となる本件車両積載物の損失額は、86,000円である。
C 雑損失の金額は、雑損控除の対象となる損失額である上記Bの86,000円から総所得金額の10分の1の金額に相当する861,880円を控除すると零円となるから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件通知処分について
 雑損失の金額は、上記イの(ロ)のCのとおり零円となるから、本件通知処分は適法である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)本件更正処分について

イ 調査手続等について
(イ)認定事実
 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、以下の事実が認められる。
A 原処分庁所属の職員(以下「原処分庁職員」という。)は、請求人から提出された確定申告書及びそれに添付された災害を受けた資産の明細書(以下、これらを併せて「本件申告書等」という。)を審査したところ、本件申告書等には雑損失の金額が629,300円である旨記載されているが、本件申告書等に記載された損失金額 2,199,300円から保険金などで補てんされる金額1,510,000円を差し引くと差引損失額が679,300円となり、これから、請求人の総所得金額8,618,805円の10%に相当する金額861,880円を差し引くと雑損失の金額が零円となることを確認した。
B このため、原処分庁職員は、平成12年3月30日にF税務署で請求人と面談した際に、また、同月31日に請求人に電話をした際に、雑損控除の内容について請求人に質問した上、本件申告書等の記載内容では雑損失の金額が零円となることを説明し、修正申告書の提出をしょうようしたが、請求人はこれに応じなかった。
C そこで、原処分庁は、平成12年6月2日付で雑損控除を行うことができないとする本件更正処分をした。
(ロ)国税通則法第24条《更正》には、税務署長は、課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、納税申告書にかかる課税標準等を更正する旨規定されているところ、この調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念であり、そして、この調査の方法、時期などその具体的な手続については、何ら規定されておらず、その点では、課税庁に広範な裁量権が認められており、課税庁が内部において既に収集した資料を検討して正当な課税標準を認定することも、その裁量権の範囲内であり、本条に規定する調査に含まれると解するのが相当である。
(ハ)これを本件についてみると、上記(イ)のA及びBのとおり、原処分庁職員は、雑損失の金額の適否について、本件申告書等を検討するとともに、請求人に対しても質問検査を実施して、雑損失の金額の適否を認定していることが認められることから、本件更正処分が調査に基づかないで行われたものであるとすることはできない。
 したがって、本件更正処分が十分な調査、審理に基づかない違法・不当なものである旨の請求人の主張には理由がない。
(ニ)さらに、請求人は、異議審理に係る調査の担当者が、異議審理に係る調査において、時と場所を考えないで再三再四の出頭要請を行ったのは違法・不当である旨主張する。
 しかしながら、異議審理手続の違法又は不当は原処分の取消事由には当たらないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 雑損控除について
(イ)認定事実
 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人の子Lは、平成11年5月6日にG町役場に転入届を提出し、P市Q町○番○−○号から請求人の妻Hの実家(以下「実家」という。)であるR県G町○○番地の○○に住所を異動させた。
B G町立K中学校(以下「K中学校」という。)の関係人は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(A)Lは平成11年5月7日からK中学校に在学していた。
(B)Lは翌年3月に卒業するまで実家から歩いて通学していた。
(C)実家からK中学校までは1キロメートル弱の距離である。
C 請求人は、当審判所に対し、本件車両積載物のうちシートカバー、マット及び空気清浄機については、本件車両に取り付けた付属品であった旨答述した。
D 請求人が当審判所に提出したM株式会社からの保険金支払明細によれば、請求人は、〔1〕車両損害について1,260,000円、〔2〕身の回り品損害について100,000円、〔3〕代車費用として150,000円の合計1,510,000円の保険金を受領している。
(ロ)所得税法第9条《非課税所得》第1項第9号、同法施行令第25条及び同令第178条第1項を総合すると、所得税法第72条第1項の規定を適用できる「生活に通常必要な動産」とは「家具、じゅう器、衣服」及びこれらに類似する生活用資産であって、通常の社会生活を営むのに必要とされる資産をいうものと解するのが相当である。
(ハ)そこで、本件車両が請求人の「生活に通常必要な動産」に該当するか否かを、上記1の(4)のハ並びに3の(1)のロの(イ)のA及びBの事実に照らして判断すると次のとおりである。
A Lは、K中学校へ実家から歩いて通学していたことが認められるから、本件車両が通学の際の送迎に通常使用されていたとする請求人の主張を採用することはできない上、本件車両が通勤用に使用されていないこと、請求人の住所地はP市の中心に位置し交通の便が特に悪いとも認められないことなどを総合的に判断すると、本件車両が通常の社会生活を営むのに必要なものであるとはいえず、本件車両は、所得税法に定められた「生活に通常必要な動産」ということはできない。
B この点につき、請求人は、本件車両を仕事にも使用した旨主張する。
 しかしながら、自動車を勤務先における業務の用に供することは、通常雇用契約の性質上使用者の負担においてなされるべきことであって、雇用契約における定め等特段の事情の認められない本件においては、被用者である請求人において業務の用に供する義務があったということはできず、何らかの理由により本件車両を仕事に使用したとしても、生活に通常必要なものとしての本件車両の使用ではないといわざるを得ない。
C そうすると、請求人が主張する本件車両の損失の金額2,860,560円は、いずれも雑損控除の対象となる損失の金額に該当しないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)次に、本件車両積載物について、当審判所が調査したところ、請求人が主張するこれらの損失の金額はそれぞれ適正と認められる。
 しかしながら、本件車両積載物のうち、シートカバー、マット及び空気清浄機については、上記(イ)のCのとおり、本件車両の付属品と認められるから、本件車両と同様、「生活に通常必要な動産」といえず、これらの損失の金額105,000円は雑損控除の対象となる損失の金額に該当しない。
 また、シートカバー、マット及び空気清浄機を除いた本件車両積載物(以下「その他の本件車両積載物」という。)については、レジャー用品も含まれているのではないかとの疑念も残るところであるが、仮に、その他の本件車両積載物がすべて「生活に通常必要な動産」であったとしても、その他の本件車両積載物の損失の金額210,000円から上記(イ)のDの請求人が本件車両積載物について受領した保険金100,000円を差し引き、さらに、請求人の総所得金額等の合計額の10分の1の金額に相当する 861,880円を控除すると、雑損失の金額は零円となる。
 そうすると、その他の本件車両積載物が「生活に通常必要な動産」であるかどうかを判断するまでもなく、雑損控除を行うことはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)以上のとおりであり、本件車両及び本件車両積載物の損失について雑損控除を行うことはできないから、原処分庁が行った本件更正処分は適法である。

(2)本件通知処分について

 上記(1)のロの(ホ)のとおり、本件車両及び本件車両積載物の損失について雑損控除を行うことはできないから、原処分庁が行った本件通知処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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