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(平14.3.20裁決、裁決事例集No.63 202頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産仲介業及びホテル旅館業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、帳簿に記載していない預金口座を利用して収入を除外し、これにより得た資金を請求人の代表者が当該預金口座から払戻ししていたことが、当該代表者に対する賞与の支給であったのか、それとも借入金の返済であったのかが、主たる争点となった事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年6月1日から平成9年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に所得の金額を○○○円及び納付すべき税額を○○○円と記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成12年7月7日付で、本件事業年度の法人税について別表1記載のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに平成8年7月から同年12月及び平成9年1月から同年6月までの各期間分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、別表2記載のとおりの各納税告知処分(以下「本件告知処分」という。)及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、本件更正処分に対しては、平成12年7月11日に審査請求をし、本件告知処分及び本件賦課決定処分に対しては、平成12年8月15日に異議申立てをした。
ニ 異議審理庁は、本件告知処分及び本件賦課決定処分に対する異議申立てについて、国税通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、平成12年9月19日付で請求人に同意を求めたところ、請求人は同月25日に同意したので、同日審査請求がされたものとみなされた。
ホ その後、原処分庁は、平成14年3月4日付で本件更正処分を取り消した。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、F株式会社○○営業部(以下「F」という。)と平成8年5月10日付けで、Fが所有するビル2棟のテナント需要調査業務及びテナントの入居確保のための活動(以下「本件調査業務等」という。)を行うことを約した業務委託契約書を取り交わした。
ロ 請求人は、Fに対し、本件調査業務等の報酬として、平成8年7月8日及び同年8月1日付でそれぞれ360,500円(内消費税10,500円)、同年9月3日付で288,383円(内消費税8,399円)並びに同年11月1日付で本件調査業務等に係る広告料として288,400円(内消費税8,400円)をそれぞれ請求し、また、別途締結した同年2月10日付「情報提供料支払確認書〈B〉」の約定に基づき、同年9月19日付で当該約定に係る対価745,084円(内消費税21,701円)を請求した。
 なお、これらに係るいずれの請求書にも、その送金先として、請求人の帳簿に記載されていないH銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(以下「本件普通預金」という。)が指定されている。
ハ 請求人は、本件事業年度中において、上記ロの請求に基づいて本件普通預金に振込入金された次表「振込入金」欄記載の売上金額合計2,042,867円及び本件普通預金に係る利息収入291円並びに本件普通預金から払戻しされた次表「払戻金」欄記載の金額(以下「本件払戻金」という。)をいずれもその帳簿に記載していない。

ニ 請求人は、その帳簿にGからの借入金について記帳しているが、本件払戻金を借入金の返済に充てたとする経理処理はしていない。
ホ 請求人は、平成9年8月からGに対し役員報酬を支給しているが、それ以前においては報酬の支給についての定めはなく、請求人の帳簿にも請求人がGに対し報酬又は賞与を支給したとする記載はない。
ヘ 本件告知処分は、本件払戻金が請求人からGに対し支給された賞与に当たるとしてなされたものである。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件告知処分について
 請求人は、本件普通預金に本件調査業務等に係る収入を振り込ませる方法で売上げを除外し、その除外した資金を請求人備付けの帳簿に記載せず出金しているところ、請求人の代表取締役であるGは、原処分の調査を担当した職員に対し、売上げを除外して得た資金は、個人的な借入金の返済に充てた旨の申述をしており、本件払戻金は、請求人がGに対し支給した賞与と認めるのが相当であるから、本件告知処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 請求人は、売上げを除外し、それによって得た資金を請求人備付けの帳簿に記載しないでGに賞与として支給していたと認められ、このことは、国税通則法第68条《重加算税》第3項に規定する「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかったとき」に該当するので、同項に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(2)請求人の主張

 本件更正処分は、その理由附記に不備があり違法であるから、その全部の取消しを、また、本件告知処分及び本件賦課決定処分は、それぞれ次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 本件告知処分について
(イ)本件払戻金の使途は、Gに対する借入金の返済である。
 このことは、本件に係る調査の際、請求人は本件払戻金をGからの借入金の一部返済金として支出した旨を主張していたし、Gも請求人から貸付金の一部返済を受けた旨を主張していたのであるから、原処分庁が、本件払戻金を賞与と認定するには、本件払戻金が借入金の返済であることを否定するだけの積極的・合理的な理由がなければならないし、本件払戻金は借入金の返済であるとの請求人及びGの主張に対し、その不合理を主張しなければならない。
(ロ)請求人は、過去、Gに対し報酬・賞与・給与等を支給した実績はなく、役務提供の対価その他名目のいかんを問わず、利益の供与をしたこともない。
 むしろ、Gは、経営不振が続くなか、請求人のオーナーとして、無償で役務の提供と事業資金の貸付けをしていた。
(ハ)なお、貸借関係が存在する相手に対し、貸金の返還と報酬の受領とのいずれかの選択権を有する場合、貸主における合理的な判断は、貸金の返還であることはいうまでもなく、原処分庁が、特段の理由もなく、一方的な判断により本件払戻金を賞与と認定した行為は、憲法に規定する租税法律主義に反し、判例(東京高等裁判所昭和56年6月19日判決、福岡高等裁判所昭和52年9月29日判決)を無視した裁量行政といわざるを得ない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件告知処分は違法であり取り消されるべきであるから、本件賦課決定処分も取り消されるべきである。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件審査請求に係る本件更正処分は、上記1の(2)のホのとおり、平成14年3月4日付で原処分庁において取り消されているから、本件審査請求はその対象を欠くものである。

(2)本件告知処分について

 本件払戻金が、請求人からGに対し支給された賞与であるのか、それとも借入金の返済であるのかについて争いがあるので、以下審理する。
イ Gの答述
 Gは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ)本件普通預金はGが管理しており、本件払戻金は、Gが銀行の窓口又はキャッシュカードを利用して現金で払戻ししたものであるが、その使途は、最終的にはFの元営業部長ほかからの個人的な借入金の返済に充てた。
(ロ)原処分庁は、答弁書において「Gは、本件払戻金を個人的に費消したと述べた」としているが、私としては、請求人に対する貸付金の返済を受けて、個人的な借入金の返済等に充てたと主張したつもりである。
ロ ところで、所得税法第28条《給与所得》第1項の規定によれば、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいうとされている。
 この場合の給与等とは、一定の勤務関係に基づき、その勤務に対して受ける報酬をいうものと解されるから、雇用契約に基づいて支払われる対価のみならず、法人との関係が委任ないし準委任とされる法人役員が、その勤務について受ける報酬などもこれに該当するというべきであり、また、給与等の支払者がその支払の事実を帳簿に記載しているか否かを問わないとものと解される。
ハ 本件の場合、Gは、当審判所に対し、上記イのとおり、本件払戻金はGが本件普通預金から払い戻し、個人的な借入金の返済に充てた旨答述しており、本件払戻金の最終的な使途はGの個人的な借入金の返済資金であったと認められることから、本件普通預金から払戻しされた金員は、当該払戻しをもってGに帰属することとなったと解するのが相当と認められるところ、当該払戻しが、請求人からGに対する給与等の支払としてなされたものであったのか、それとも借入金の返済としてなされたものであったのかについては、〔1〕Gが請求人の代表者として、その経営全般を掌握していること、〔2〕G自らが本件普通預金を管理して預入、払戻しを行っていたこと及び〔3〕請求人の帳簿に本件普通預金に係る入出金が記載されておらず、本件払戻金をGからの借入金の返済に充てたとする経理処理もしていないことなどの事実から、給与等の支払としてなされたものと解するのが相当である。
ニ これについて、請求人は、過去、Gに対し報酬・賞与・給与等を支給した実績はなく、役務提供の対価その他名目のいかんを問わず、利益の供与をしたこともなく、また、貸借関係が存在する相手に対し、貸金の返還と報酬の受領とのいずれかの選択権を有する場合、貸主における合理的な判断は貸金の返還であるから、本件払戻金の使途は、請求人の代表者であるGへの借入金の返済である旨主張する。
 しかしながら、過去の報酬等の支給実績は、本件払戻金が給与等に該当するか否かの判断に影響を与えるものではなく、上記1の(3)のニのとおり、請求人がGから借入れをしていた事実はあるものの、貸金の返還と報酬の受領のいずれが貸主における判断として合理的であるかを一概に決めることはできず、請求人の帳簿に本件払戻金をGからの借入金の返済に充てたとする記載がなく、かかる記載が誤りであるとするに足る客観的な証拠又は合理的な説明もない上、当審判所の調査によっても、他に請求人の主張を裏付けるに足る証拠も認められない以上、本件払戻金の支払が借入金の返済であったと認めることはできないというべきである。
ホ なお、請求人は、本件払戻金を賞与と認定した行為は憲法に規定する租税法律主義に違反し、また、判例を無視したものである旨主張するが、憲法違反の判断は、当審判所の権限に属さないことであるので審理の限りではなく、また、請求人の引用する判決は、本件と事案を異にするものであるから、請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上のとおり、本件払戻金は、請求人がGに支給した給与等であると認められるところ、所得税法第185条《賞与以外の給与等に係る徴収税額》の規定によれば、源泉徴収税額を計算する場合の賞与以外の給与等とは、毎月、毎半年、毎旬などのようにあらかじめその支給期が定められているものとされており、上記1の(3)のホの事実によれば、Gに対し支給された本件払戻金は、支給期が定められている定期の給与等には当たらないと認められるから、賞与に該当すると解するのが相当である。
ト そうすると、本件払戻金については、所得税法第186条《賞与に係る徴収税額》の規定に従って源泉徴収すべきこととなるところ、その徴収すべき税額は、当審判所の調査によっても本件告知処分に係る税額と同額となるから、本件告知処分は適法である。

(3)本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件告知処分は適法であり、請求人は、その帳簿に記載されていない本件普通預金に入金された収入金を除外し、これによって得た資金のうちから、Gに対し、本件払戻金の額に相当する簿外の賞与を支給することにより、当該賞与に係る源泉所得税の納付の義務を免れていたものと認められ、このことは、国税通則法第68条第3項に規定する「納税者が事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかったとき」に該当するから、同項の規定に基づきされた本件賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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