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(平14.6.27裁決、裁決事例集No.63 674頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、地方公共団体の特別会計である審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税の控除対象仕入税額の計算に際し、他会計からの繰入金(以下「本件繰入金」という。)の使途が特定されているとして、仕入税額控除の再計算を行い更正の請求をしたことの適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年4月1日から平成12年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ロ その後、請求人は、平成12年12月4日に控除対象仕入税額及び控除不足還付税額を別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成13年3月5日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成13年5月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月7日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年9月10日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 消費税法(平成12年法律第26号による改正前のもの。以下同じ。)第60条《国、地方公共団体等に対する特例》第4項は、国若しくは地方公共団体(特別会計を設けて事業を行う場合に限る。以下同じ。)、別表第三に掲げる法人又は人格のない社団等が課税仕入れを行う場合において、当該課税仕入れの日の属する課税期間において資産の譲渡等の対価以外の収入(政令で定める収入を除く。以下「特定収入」という。)があり、かつ、当該特定収入の合計額が当該課税期間における資産の譲渡等の対価の額の合計額に当該特定収入の合計額を加算した金額に比し僅少でない場合として政令で定める場合に該当するときは、当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、第30条《仕入れに係る消費税額の控除》から第36条《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》までの規定にかかわらず、これらの規定により計算した場合における当該課税仕入れ等の税額の合計額から特定収入に係る課税仕入れ等の税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した残額に相当する金額とする旨規定している。
ロ 消費税法第60条第4項に規定する政令で定める収入は、消費税法施行令第75条《国、地方公共団体等の仕入れに係る消費税額の特例》第1項第6号イは、法令又は交付要綱等(国、地方公共団体又は特別の法律により設立された法人から資産の譲渡等の対価以外の収入(以下「本件収入」という。)を受ける際にこれらの者が作成した本件収入の使途を定めた文書をいう。以下同じ。)において、課税仕入れに係る支払対価の額に係る支出、課税貨物の引取価額に係る支出及び借入金等の返済金又は償還金に係る支出以外の支出(以下「特定支出」という。)のためにのみ使用することとされている収入とする旨、また、同条同項第6号ロは、国又は地方公共団体が合理的な方法により本件収入の使途を明らかにした文書において、特定支出のためにのみ使用することとされている収入とする旨規定している。
ハ 消費税法第60条第4項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、消費税法施行令第75条第4項第2号は、仕入れに係る消費税額を法第30条第2項第1号に定める方法により計算する場合は、〔1〕当該課税期間における特定収入のうち法令等において課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額に105分の4を乗じて計算した金額、〔2〕当該課税期間における特定収入のうち法令等において課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額に105分の4を乗じて計算した金額に、課税売上割合(国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合をいう。以下同じ。)を乗じて計算した金額及び〔3〕当該課税期間における課税仕入れ等の税額の合計額から〔1〕及び〔2〕の金額との合計額を控除した残額に、調整割合(当該課税期間における資産の譲渡等の対価の額の合計額に当該課税期間における課税仕入れ等に係る特定収入以外の特定収入(以下「使途不特定の特定収入」という。)の合計額を加算した金額のうちに当該使途不特定の特定収入の合計額の占める割合をいう。以下同じ。)を乗じて計算した金額の合計額とする旨規定している。
ニ 消費税法基本通達(平成7年12月25日付課消2−25ほか4課共同国税庁長官通達「消費税法基本通達の制定について」。以下「基本通達」という。)16−2−2《国、地方公共団体の特別会計が受け入れる補助金等の使途の特定方法等》は、国、地方公共団体の特別会計において特定収入がある場合における消費税法施行令第75条第1項第6号における収入の使途の特定の方法は、〔1〕法令又は交付要綱等に基づく補助金等(補助金、負担金、他会計からの繰入金その他これらに類するものをいう。以下同じ。)で当該法令又は交付要綱等において使途が明らかにされているものは、当該法令又は交付要綱等により明らかにされているところによる、〔2〕法令又は交付要綱等がある補助金等で当該法令又は交付要綱等においてその使途の細部が不明なもののうち、その使途の大要が判明するものについては、国又は地方公共団体の長が消費税法施行令第75条第1項第6号ロに規定する文書においてその使途の大要の範囲内で合理的計算に基づき細部を特定し、税務署長に提出する、〔3〕〔1〕及び〔2〕により使途が特定できない場合において、補助金等の使途が予算書若しくは予算関係書類又は決算書若しくは決算関係書類で明らかなものについては、国又は地方公共団体の長がこれらの書類を消費税法施行令第75条第1項第6号ロに規定する文書に添付して税務署長に提出し、その文書においてその使途を明らかにする旨定めている。
ホ 国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第3号は、納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額(当該税額に更正があった場合には、当該更正後の税額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があった場合には、更正通知書)に還付金の額に相当する税額の記載がなかったときには、納税申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求をすることができる旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの。)第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第4項の規定に基づき平成8年1月31日に平成8年4月1日から平成9年3月31日までの課税期間を適用開始課税期間とする「消費税課税事業者選択届出書」を原処分庁に提出している。
ロ 本件申告書には、次の書類が添付されている。
(イ)平成11年度消費税計算書
(ロ)特定収入に係る調整税額計算表 付表1資産の譲渡等の対価の額の計算表
(ハ)同上             付表2特定収入の金額及びその内訳表
(ニ)同上             付表3特定収入割合の計算表
(ホ)同上             付表4調整割合の計算表
(ヘ)同上             付表5調整後税額の計算表
(ト)平成11年度P町公共下水道事業特別会計歳入歳出決算書
(チ)平成11年度P町公共下水道事業特別会計歳入歳出決算事項別明細書
ハ 本件申告書に添付された上記ロの(ハ)の「特定収入に係る調整税額計算表付表2特定収入の金額及びその内訳表」には、特定収入としての本件繰入金の金額65,799,000円の内訳は、特定収入のうち課税仕入れ等にのみ使途が特定されている収入(以下「課税仕入れ等に係る特定収入」という。)の金額27,500,000円及び使途不特定の特定収入の金額38,299,000円である旨記載されている。
ニ 本件更正の請求に係る請求書(以下「本件更正の請求書」という。)には、次の書類が添付されている。
(イ)平成11年度P町公共下水道事業特別会計消費税計算書
(ロ)平成11年度P町公共下水道事業特別会計歳出内訳表
(ハ)平成11年度P町公共下水道事業特別会計歳入歳出決算書
(ニ)平成11年度P町公共下水道事業特別会計歳入歳出決算事項別明細書

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、本件課税期間の消費税等の確定申告書を提出するに当たり、消費税法第60条第4項及び消費税法施行令第75条第4項第1号の規定に基づく仕入控除税額の調整計算において、特定収入である本件繰入金の使途の特定を誤り、本件繰入金の一部を使途不特定の特定収入として取り扱い、調整割合を算定し、これを適用して申告をした。
ロ 請求人は、これに気付き上記1の(4)のニの書類により本件繰入金の使途を特定し、これらの書類を本件更正の請求書に添付して本件更正の請求をしたところ、原処分庁は、これに対し、本件繰入金は、これらの書類ではその使途が明らかにされていないとし、その全額を使途不特定の特定収入であるとして本件通知処分を行った。
ハ 本件繰入金については、当特別会計の財源である国庫補助金収入及び町債収入の使途は定められているので、国庫補助金収入及び町債収入から支出された費用の不足分の支出に充てられることから、その使途を特定した文書がないとしても、消費税法及び基本通達等によりその使途を明らかにすることができるから、本件繰入金の全額が課税仕入れ等に係る特定収入となる。
 そうすると、本件繰入金についてその使途を特定した文書はないが、本件申告書において本件繰入金の一部を使途不特定の特定収入としていたことは、本件繰入金の使途の特定を誤ったものであり、このことから本件申告書の控除不足還付税額が過少となったものである。
 したがって、原処分庁は本件更正の請求を認めるべきであり、これを認めなかった本件通知処分は取り消されるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次に述べるとおり、いずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件課税期間における資産の譲渡等の対価の額はなく課税売上割合は0パーセントであり、かつ、調整割合は100パーセントである。
(ロ)本件更正の請求において、本件繰入金の全額が課税仕入れ等に係る特定収入であるとしたことについて、使途不特定の特定収入はないとの前提から間接的に使途を特定したものであり、具体的な文書等により、その使途を特定したものではない。
(ハ)消費税法施行令第75条第1項第6号ロの規定によると、合理的な方法により特定収入の使途を明らかにした文書において、特定支出のためにのみ使用することとされている収入については特定収入から除かれることとなるが、請求人が本件更正の請求書に添付した書類及びその他関係書類を確認したところ、本件繰入金について、合理的な方法により特定支出のためにのみ使用することについて、文書において明らかにしている部分はない。
(ニ)請求人は、本件申告書において、本件繰入金の使途の特定について、基本通達16−2−2を適用しておらず、また、同通達に定める使途を特定した文書を原処分庁に対して提出していない。
ロ 本件収入の使途の特定について上記1の(3)のロのとおり合理的な方法により、本件収入の使途を明らかにした文書において特定支出のためにのみ使用されている場合には、特定収入に該当しないこととなり、基本通達16−2−2においては、国又は地方公共団体の補助金等の使途の特定方法を具体的に定めている。
ハ また、上記1の(3)のホのとおり、通則法第23条第1項第3号の規定は、更正の請求ができる場合について、納税申告書に記載した還付金に相当する税額が過少であり、当該過少となったことが課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと、又は当該計算に誤りがあったことに基づいていることとされている。
ニ これを本件についてみると、上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件繰入金については、文書により使途が特定されておらず、その全額が使途不特定の特定収入に該当し、また、請求人の本件課税期間の課税売上割合及び調整割合は、上記イの(イ)のとおりであるから、消費税法第60条第4項及び消費税法施行令第75条第4項第2号の規定に基づき、本件課税期間における控除対象仕入税額の計算をすると、別表2及び別表3の「異議調査後の額」の欄のとおり、特定収入に係る課税仕入れ等の税額として控除する金額は、調整前の課税仕入れ等の税額と同額となり、控除対象仕入税額は零円となる。
 そうすると、請求人は、本件繰入金の全額が使途の特定されている特定収入であることを理由に本件更正の請求をしているが、前述のとおり、本件繰入金の全額について消費税法施行令第75条第1項ロの規定及び基本通達16−2−2に定めるその使途を具体的に特定した文書がないにもかかわらず、本件申告書においてその一部を課税仕入れ等に係る特定収入に区分し、調整割合を適用して控除対象仕入税額を零円と記載しているから、本件申告書において記載した還付金の額が過少となっている事実は認められないので、通則法第23条第1項第3号に規定する更正の請求ができる事由に当たらない。
ホ したがって、本件繰入金についてその使途を特定した文書はないが、本件申告書において本件繰入金の一部を使途不特定の特定収入としていたことは、本件繰入金の使途の特定を誤ったものであり、このことから本件申告書の控除不足還付税額が過少となったものであるとの請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件繰入金の使途の特定に誤りがあったとする本件更正の請求の理由の適否にあるので、以下審理する。
(1)請求人の担当者であるP町役場○○課長のD、同役場同課課長補佐のE及び同役場同課○○係主任のFは、当審判所に対し、本件繰入金について、消費税法施行令第75条第1項第6号イに規定する本件収入の使途を明らかにした交付要綱等の文書及び同条同項第6号ロに規定する合理的な方法により本件収入の使途を明らかにした文書としてP町長が作成したものはない旨答述している。
(2)ところで、消費税法施行令第75条第1項第6号ロの規定は、本件収入の使途の特定については、その使途を明らかにした文書によるとされていることから、国若しくは地方公共団体の特別会計が消費税等の確定申告の課税仕入れ等の税額を計算するためには、少なくとも確定申告時までに、消費税法施行令第75条第1項第6号イ及びロに規定する文書が存在しなければならないと解するのが相当である。
 また、本件収入の使途を明らかにする場合の使途の特定方法については、上記1の(3)のニのとおり、基本通達16−2−2において、法令又は交付要綱等において、補助金等の使途が特定できない場合には、補助金等の使途が予算書若しくは予算関係書類又は決算書若しくは決算関係書類で明らかなものについては、国又は地方公共団体の長がこれらの書類を消費税法施行令第75条第1項第6号ロに規定する文書に添付して税務署長に提出し、その文書においてその使途の特定を明らかにする方法を示しており、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
 そうすると、基本通達16−2−2による取扱いを行うためには、補助金等の使途が特定されている予算書等の添付が必要であり、その使途が特定されていない単なる予算書等の添付では不十分であると解される。
(3)請求人は、本件繰入金については、その使途を特定した文書がないとしても消費税法及び基本通達等によりその使途を明らかにすることができるから、本件繰入金の全額が課税仕入れ等に係る特定収入となり、本件申告書において本件繰入金の一部を使途不特定の特定収入としていたことは本件繰入金の使途の特定を誤ったものであるから、原処分庁は本件更正の請求を認めるべきである旨主張する。
 そこで、上記1の(4)の各事実及び上記(1)の答述を上記1の(3)のホ及び上記(2)に照らして判断すると、請求人は、本件繰入金を上記1の(4)のハのとおり課税仕入れ等に係る特定収入と使途不特定の特定収入に区分しているが、上記1の(4)のロの本件申告書に添付された書類及び上記1の(4)のニの本件更正の請求書に添付された書類は、〔1〕本件課税期間の請求人の支出が、課税仕入れに係る支払対価の額に係る支出とそれ以外のものに係る支出に区分されていないものであること及び〔2〕その財源が国庫補助金及び本件繰入金並びに町債に区分されておらずこれらの収入の使途が特定されていないものであることから、本件繰入金について合理的な方法によりその使途を明らかにしたものとは認められず、消費税法施行令第75条第1項第6号イ及びロに規定する本件収入の使途を明らかにした文書並びに基本通達16−2−2に定める本件収入の使途を明らかにした文書には該当しないと認められる。
 また、本件繰入金について消費税法施行令第75条第1項第6号イ及びロに規定する本件収入の使途を明らかにした文書が確定申告時までに存在しないことは、上記(1)の請求人の担当者らの答述からも明らかである。
 そうすると、本件繰入金について、消費税法施行令第75条第1項第6号イ及びロに規定する本件収入の使途を明らかにした文書並びに基本通達16−2−2に定める本件収入の使途を明らかにした文書が存在しないことから、本件繰入金は、その全額が使途不特定の特定収入に該当することとするのが相当である。
 したがって、本件申告書において、課税仕入れ等に係る特定収入である本件繰入金の一部を誤って使途不特定の特定収入としていたという請求人の主張には理由がない。
(4)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、請求人の本件課税期間における資産の譲渡等の対価の額はなく、課税売上割合は0パーセントであり、かつ、調整割合は100パーセントと認められる。
(5)以上の結果、本件課税期間に係る控除対象仕入税額は、上記1の(3)のハ及び上記(4)によれば消費税法施行令第75条第4項第2号の規定を適用し算出すると零円となり、これは本件申告書に記載された額と同額であることから、通則法第23条第1項第3号に規定する更正の請求をすることができる場合には該当しないこととなり、本件更正の請求に対し、その理由がないとした原処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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