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(平15.12.9裁決、裁決事例集No.66 40頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、所得税法第125条《年の中途で死亡した場合の確定申告》に規定する被相続人A(以下「被相続人」という。)の所得税の確定申告書を、相続人がその法定申告期限までに提出しなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当するか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 平成14年2月5日に死亡した被相続人の共同相続人は、被相続人に係る平成14年分の所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)に、別表の「確定申告」欄のとおり、被相続人の妻Bが被相続人の所得税の納付税額をすべて継承する旨記載して、平成15年2月27日に申告をした。
ロ 原処分庁は、これに対し本件申告書の法定申告期限は、平成14年6月5日であり、本件申告書は、その法定申告期限を経過して提出されたとして、平成15年4月14日付で別表の「賦課決定処分」欄のとおり、無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ Bは、この処分を不服として平成15年5月20日付で異議申立てをしたところ、異議審理庁は、Bが継承すべき被相続人に係る平成14年分の所得税額は、法定相続分である2分の1が正しいとし、平成15年7月7日付で別表の「異議決定」欄のとおり本件賦課決定処分について一部取消しの異議決定をした。
ニ 平成15年6月5日にBが死亡したため、不服申立人の地位を継承した審査請求人であるCほか3名(以下「請求人ら」という。)が、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年8月4日付で審査請求をした。
 なお、請求人らは、Cを総代として選任し、その旨を平成15年8月4日に届け出た。

(3)基礎事実

 基礎事実は、別紙「争点整理表」の「1争いのない事実」欄のとおりである。

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2 争点及び争点に対する当事者双方の主張

 本件審査請求の争点は、別紙の「争点整理表」の「2争点」欄のとおりであり、この点に関する請求人ら及び原処分庁の主張は、別紙「争点整理表」の「3争点に対する当事者双方の主張」欄のとおりである。

3 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 総代Cは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
(イ)自分は、被相続人の土地の買主との売買交渉をしており、被相続人の譲渡所得の確定申告が必要であることは承知していたが、翌年の3月15日までにすれば良いと思っていた。
(ロ)被相続人は、平成14年2月5日に死亡し、同日相続の開始があったことを知った。
ロ 本件申告書は、調査があったことにより決定があるべきことを予知して提出されたものでない。
ハ 原処分庁には、広報資料として、「タックスアンサ−」、「暮らしの税情報」、「税金ってなに?」が常備されており、これらの広報資料には、年の中途で死亡した場合の確定申告の期限についての記載がある。
(2)通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、その期限後申告により納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定しており、また、同条第1項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由」があると認められる場合は、無申告加算税を課さない旨規定している。
 この「正当な理由」があると認められる場合とは、無申告加算税が、申告納税方式により納付の確定することとなる国税につき、法定申告期限内に納税申告書を提出させ、もって国税の適正な納付の保証を図ることを目的として、納税者に課せられた税法上の義務の不履行に対する一種の行政上の措置であるとの趣旨から、このような措置により課すことが不当又は酷ならしめるような特段の事情があると認められる場合、例えば、風水害等の災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰せられない外的事情により申告書を提出できなかった場合をいい、申告納税制度の下においては、納税者の税法の不知、誤解等に基づく場合はこれに該当しないと解すべきである。
(3)上記(2)に照らして本件について検討すると、まず、本件申告書の提出期限を知らなかったとする請求人らの主張については、税法の不知を理由とするものであるから、上記(2)のとおり、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合には該当しないというべきである。
 また、税務官庁による国民への公知義務の懈怠との請求人らの主張については、もともと申告納税制度の下においては、申告は、本来、納税義務のある者が自らの判断と責任においてなすべきものであるから、無申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があると認められるか否かが税務官庁の広報活動の有無により左右されるものではない。
 そして、本件申告書が法定申告期限後に提出されるに至ったのは、上記(1)のイのとおり、Cが本件申告書の法定申告期限を翌年3月15日であると誤解していたことによるものと推認されるから、上記(2)のとおり「正当な理由」があると認められないことは明らかである。しかも、上記(1)のハのとおり、そもそも原処分庁には、年の中途で死亡した場合の確定申告の期限が掲載された各種の広報資料なども常備されているし、請求人らにおいて申告等に疑問な点があれば、最寄りの税務官庁に問い合わせることなどもできたのである。
 以上のことからすると、請求人らが主張する当該事情は、上記(2)の「正当な理由」があると認められる場合には該当しない。
 したがって、これらの点に関する請求人らの主張には理由がない。
(4)上記1の(3)のとおり、本件申告書はその法定申告期限を経過してから提出されたものであり、上記(3)のとおり、その申告期限までに提出されなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められず、また、上記(1)のロのとおり、本件申告書の提出は、原処分庁の調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものではないと認められるので、同条第1項及び第3項の規定に基づきなされた異議決定を経た後の本件賦課決定処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分について、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 争点整理表

1 争いのない事実

(1)被相続人は平成14年1月30日にP市Q町○○番地の宅地327.27平方メートルを23,716,500円で譲渡している。
(2)被相続人は、平成14年2月5日に死亡し、その法定相続人は、妻B、長男D、次男C、三男E、四男Fの5名である。
(3)本件申告書に添付されている、「死亡した者の平成 年分所得税の確定申告書付表」の相続人等に関する事項の、Bの欄には、「指定」に○が付され、5分の5が相続分として表示されているが、被相続人の遺言はない。
(4)Bは、平成15年6月5日に死亡し、その法定相続人は、D、C、E、Fの4名である。
(5)本件申告書は、法定申告期限である平成14年6月5日を経過してから提出されたものである。

2 争点

 本件の争点は、所得税法第125条に規定する本件申告書を、相続人がその法定申告期限までに提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当するか否かである。

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