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(平15.11.5裁決、裁決事例集No.66 224頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、会社員である審査請求人(以下「請求人」という。)の譲渡所得につき、居住用財産として租税特別措置法(平成13年法第7号改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第36条の6《特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例》に規定する特例(以下「本件特例」という。)が認められるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年2月8日にZ県P市p町○○番○及び○に所在する土地195.73平方メートル                      (以下「本件土地」という。)を譲渡したとして、この譲渡に係る譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額の計算上、本件特例を適用し、平成11年分の所得税の確定申告書(分離課税用)(以下「本件申告書」という。)に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までにK税務署長へ申告した。
ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査の結果、本件譲渡所得の金額の計算上、本件特例を受けることができないとして、平成14年9月30日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成14年11月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成15年2月19日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年3月17日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 措置法第36条の6第1項は、個人が、その有する家屋又は土地等で、その年の1月1日において同法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第3項に規定する所有期間が10年を超えるもののうち、次に掲げるもの(以下「譲渡資産」という。)を譲渡した場合において、国内にある当該個人の居住の用に供する家屋又は土地等(以下「買換資産」という。)を取得し、かつ、当該取得の日から当該譲渡の日の属する年の翌年12月31日までの間に当該個人の居住の用に供したときは、譲渡資産の譲渡による収入金額が買換資産の取得価額以下である場合にあっては譲渡資産の譲渡がなかったものとする旨規定している。
(イ)個人がその居住の用に供している家屋(個人がその居住の用に供している期間として10年以上のものに限る。)で国内にあるもの。(第1号)
(ロ)上記(イ)に掲げる家屋で個人の居住の用に供されなくなったもの(個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡されるものに限る。)。(第2号)
(ハ)上記(イ)及び(ロ)に掲げる家屋及び当該家屋の敷地の用に供されている土地等。(第3号)
ロ 租税特別措置法関係通達(以下「措置法通達」という。)36の6−12《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用》は、その者が譲渡した家屋若しくは土地等が措置法第36条の6第1項各号に掲げる譲渡資産に該当するかどうか又はこれらの資産の譲渡が同項に規定する「譲渡」に該当するかどうかの判定等については、同通達31の3−2《居住用家屋の範囲》、同通達31の3−5《居住用土地等のみの譲渡》等に準じて取り扱うものとする旨定め、また、同通達31の3−2は、措置法第31条の3第2項に規定する「その居住の用に供している家屋」とは、その者が生活の拠点として利用している家屋をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する旨定めている。
ハ 国税通則法(以下「通則法」という。)第21条《納税申告書の提出先等》第1項は、納税申告書は、その提出の際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない旨規定し、同条第2項は、所得税等に係る納税申告書について、当該申告書に係る納税義務の成立の時以後その納税地に異動があった場合においては、納税者が誤って旧納税地を所轄する税務署長等に当該申告書を提出したときは、その提出を受けた税務署長は、当該申告書を受理することができ、この場合においては、当該申告書は、現在の納税地を所轄する税務署長に提出されたものとみなす旨規定し、また、同条第3項は、第2項の納税申告書を受理した税務署長は、当該申告書を現在の納税地の所轄する税務署長に送付し、かつ、その旨をその提出をした者に通知しなければならない旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成元年9月29日に死亡した祖母かつ養母であるLから本件土地及びZ県P市p町○○番○に所在する家屋(以下「本件家屋」という。)等を相続し、この相続に係る相続税を納付するため、M税務署長に対し、特例物納土地を本件土地、特例物納対象税額を25,056,000円とする旨記載した相続税特例物納申請書を平成6年4月15日に提出したところ、当該税務署長は、平成11年2月8日付で、本件土地を152,070,480円で収納し、この収納額から特例物納許可価額25,056,000円を差し引いた127,014,480円が過誤納額である旨記載した相続税特例物納許可通知書を送付した。
ロ 請求人は、上記イの通知書に記載された過誤納額127,014,480円に基づき「譲渡所得計算明細書(譲渡内容についてのお尋ね)」(以下「本件計算明細書」という。)、「買換え承認申請書」(以下「本件承認申請書」という。)及び本件申告書を作成し、K税務署長に提出した。
 なお、本件申告書の「特例適用条文」欄には、措置法第36条の6及び同法第31条の2と記載されている。
ハ 本件計算明細書には、譲渡物件が本件土地、譲渡代金(収入金額)が127,014,480円、取得費が6,350,724円、並びに本件家屋の取壊料と本件土地の測量代との合計5,102,064円及び平成2年中に支払った立退料1,159,876円(以下「本件立退料」という。)を合計した6,261,940円が譲渡費用である旨記載されている。
 また、本件承認申請書には、譲渡資産が本件土地、並びに買換資産の種類が宅地及び居宅、その適用条文が措置法第36条の6、その取得価額の見積額が127,014,480円、その取得予定年月日が平成12年12月末日である旨記載されている。
ニ 本件家屋の閉鎖登記簿の謄本によれば、本件家屋は、平成元年9月29日付でLから請求人に相続され、平成10年12月31日に取り壊されている。
ホ 請求人の戸籍の附票によれば、請求人、請求人の妻であるN、請求人の長女であるT及び長男であるUの住民票の住所地は、次のとおりである。
(イ)請求人、妻及び長女
A 昭和54年3月4日から平成9年10月23日まではY県Q市q町○番○号の家屋(以下「Q市の借家」という。)の所在地
B 平成9年10月23日から平成12年4月28日までは本件家屋の住所地
C 平成12年4月28日からZ県R市r町○○番地の○の家屋の住所地
(ロ)長男
A 昭和54年3月4日から平成9年10月23日まではQ市の借家の所在地
B 平成9年10月23日から平成10年4月6日までは本件家屋の住所地
C 平成10年4月6日から平成12年3月6日まではX県S市s町○番○−○○号の家屋の住所地
D 平成12年3月6日から同年4月28日までは本件家屋の住所地
E 平成12年4月28日から平成14年6月29日まではZ県R市r町○○番地の○の家屋の住所地
ヘ 本件家屋における平成7年5月から平成10年12月までの電気及び水道の各使用量は、別表2のとおりである。
 なお、本件家屋における電気の使用開始日は平成9年11月7日、その契約解除日は平成10年10月13日であり、また、水道の使用開始日は平成7年4月27日、その中止日は平成10年12月8日である。
ト Q市の借家における平成7年5月から平成10年12月までの電気及び水道の各使用量は、別表3のとおりである。
 なお、Q市の借家における平成7年5月から平成8年6月までの電気の使用量は、データが保存されていなかった。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法又は不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件特例の適用について
 請求人は、幼少の頃から結婚までの30年間、本件家屋に居住し、結婚後はQ市の借家に居住していた。請求人及びその妻は、本件家屋に戻るつもりでいたが、L及び実母であるVが本件家屋に居住し離れなかったので、本件家屋に入居できず、また、請求人の子供の義務教育期間が始まり、子供が転校を嫌がったため転居できなかったので、依然としてQ市の借家に居住していた。
 その後、請求人は、平成9年10月、長男が高校を卒業しZ県内の予備校に通い始めたのを契機に、Q市の借家から本件家屋に住民票を異動したが、それ以前から、請求人及びその長男は、請求人の会社までの通勤がバスで30分と近く、長男の帰宅時間も遅かったので、夕食を外食等で済ませるなどして本件家屋に住んでいた。なお、長女は、既に会社に勤め、Q市の借家の家賃も安かったので、そのままそこを借りて住んでいた。
 居住用財産とは、居住を目的とした財産であるところ、上述の居住事実のほか、祖父母の遺品及び請求人の家族の所持品が仮の住まいであるQ市の借家に入りきらず、本件家屋に保管していたのであり、また、請求人は本件家屋のみを所有し、他の家屋を所有していないのであるから、本件家屋が居住を目的とした財産である。
 そして、本件家屋における電気及び水道の各使用量が少ないとの事実をもって請求人が本件家屋を居住の用に供していなかったとはいえず、また、請求人の本件家屋の居住期間は、出生から結婚するまでの30年間であり、請求人の所有期間は10年以上となるので、本件特例の適用要件を満たしており、更に、請求人が居住していない期間があったとしても、本件譲渡所得が課税されるときにおいて、請求人が1日でも居住していれば本件特例の適用が認められる。
(ロ)居住用財産の判断基準について
 措置法第31条の3第2項は、居住用財産とは、居住の用に供している家屋又は土地等である旨規定しているのみであるにもかかわらず、原処分庁は、措置法通達31の3−2の「居住の用に供している家屋とは、その者が生活の拠点として利用している家屋」という判断基準を勝手に採用し、居住用財産の解釈を法令によらず当該通達によって意図的に狭く解している。
 そもそも、措置法第31条の3の規定が設けられた趣旨は、居住用財産を譲渡した者の所得税の軽減を図ることにより、居住用財産の買換えが円滑に行われ、かつ、よりよい住環境を求めることができるよう税制面からバックアップするために設けられたもので、憲法第25条の国民の生存権、同法第29条の国民の財産権及び同法第30条の納税の義務などを踏まえ解釈すると、居住用財産の買換え等が円滑に行われることが国民の生活権を守ることになり、担税力が低いことから低税率とされていると考えられる。
 そして、措置法通達31の3−2の留意事項で、納税者が転勤等の事情のためやむを得ず単身で他に起居している場合の当該納税者が所有する家屋は、居住の用に供している家屋に該当するとしているのは、国民感情や納税者の個別事情に配慮した法の運用であり、特例を受けるための一時目的入居などの場合を排除しているのは、法の趣旨に反する所得税の減免や法の網をくぐろうとする者を防ぐために定められたものである。
(ハ)措置法第36条の2の適用について
 本件譲渡所得には、本件特例の適用が認められるほか、次の理由から措置法第36条の2《相続等により取得した居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例》の規定についても適用がある。
A 所有期間が10年を超え、居住期間も30年以上であり、被相続人が居住の用に供していたものである。
B 申告相談の担当者から本件特例の説明しか受けておらず、本件申告書に措置法第36条の2の記載及び同条に規定する関係書類の提出がなかったことは、同条第5項に規定する「やむを得ない事情」に該当する。
(ニ)申告相談等について
 請求人は、平成12年3月14日に、W税務署の相談担当職員から本件申告書及び本件承認申請書の記載方法の指導を受け、こられの書類を作成しK税務署に提出したが、その申告相談時において、本件特例の適用が無理だというような話は一切なく、また、請求人は、平成12年12月に買換資産を取得したが、K税務署から買換え承認に関する返事がないので、当然買換え承認が認められたものと判断した。
 本件申告書及び本件承認申請書は、税務署職員の指導に基づき作成したもので、つまり、当該職員が本件特例の適用を受けられるとの判断に基づき記載したのであるから、本件更正処分は誤指導に基づく処分である。
 また、本件承認申請書の注意書きで、納税者に4月以内の修正申告又は更正の請求を求めているのであるから、本件特例の適用を受けられないのであれば、速やかにその旨を回答すべきであり、これを長期間放置し、2年半後に本件特例の適用を受けることができないとした本件更正処分は不当である。
(ホ)納税申告書の送付通知について
 原処分庁は、通則法第21条第3項に規定する通知を請求人に対して行っておらず、このように基本的な手続を怠っているのであるから、本件更正処分は根本から疑われなければならない。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分は、上記イのとおり違法又は不当であり、その全部が取り消されるべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件特例の適用について
 本件特例にいう「その居住の用に供している家屋」とは、その者が実質的に生活の本拠として利用している家屋をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定するものと解されているのであり、原処分庁が当該判断基準を勝手に作り上げたものではない。
 そして、この判断基準に基づき総合的に判断したところ、請求人が、本件家屋を相続した後に時折使用していたことは否定しないが、〔1〕請求人の子供の通学状況は、昭和56年から平成9年までQ市の借家から通学していること、〔2〕Q市の借家の電気・水道の各使用量には、変化がなく、逆に、本件家屋の電気の使用開始は平成9年11月7日、水道の使用開始は平成7年4月27日であり、電気・水道はほとんど使用されていないこと、〔3〕請求人の通勤先への通勤届けは、Q市の借家でなされていることからすれば、請求人の生活の本拠は、昭和54年3月に住民票を異動させたQ市の借家にあると認めるのが相当であり、本件家屋が請求人の実質的に生活の拠点として利用している家屋とは認められないと判断したものである。
 また、個人が家屋を有していることと、これをその実質的な生活関係の拠点としていることとは、別個の問題であり、上述のとおり、本件家屋は、請求人の実質的な生活関係の拠点とは認められないことからすれば、請求人が本件家屋のみを有し、他の家屋を所有していなかったからといって、本件特例が適用されることにはならない。
 したがって、本件譲渡所得の計算上、本件特例の適用はないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)居住用家屋の判断基準について
 本件特例は、本来その譲渡の時点で課税されるべき譲渡資産の値上がり益を買換取得した居住用財産に引き継ぐことにより、将来この居住用財産がさらに譲渡されるときまで課税を繰り延べるものであり、非居住用財産の譲渡の場合と比べれば明らかなとおり、特則・例外規定である。
 そして、租税法律主義の見地から、一般に租税法の規定はみだりに拡張解釈すべきものではなく、中でも特則・例外規定である非課税要件規定については、租税負担公平の原則から不公平の拡大を防止するため、解釈の狭義性、厳格性が要請されるものと解されているところである。
 そこで、本件特例で規定する「居住の用に供している家屋」とは、譲渡の時若しくはこれに近い時期までに、その者がある程度の期間継続的に居住する意思をもってこれに起居し、生活の本拠として利用している家屋をいうと解するのが相当であるところ、上記(イ)の〔1〕から〔3〕までの各事実により、本件家屋は、本件特例の対象となる「居住の用に供している家屋」には当たらないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)措置法第36条の2の適用について
 措置法第36条の2の規定も「居住の用に供している家屋」を要件としているところ、本件家屋は、「居住の用に供している家屋」には当たらないことから、「やむを得ない事情」があるか否かを判断するまでもなく、同法の規定の適用はないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)申告相談等について
 納税相談は、納税者の申し立てた事実を前提として行うものであるところ、平成12年3月14日のW税務署職員による納税相談記事によれば、相談担当者は、本件特例の要件である本件家屋の居住事実を請求人に確認し、請求人から本件家屋を居住用財産として使用していた旨主張があったことから、本件特例を適用するための必要な申告手続を説明していること、そして上記(イ)で述べたとおり、本件家屋は請求人の生活の本拠とは認められないことからすれば、本件申告書を受理したことをもって本件特例の適用が認められることの理由にはならない。
 また、通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過するまでは更正処分をすることができる旨規定しているから、本件更正処分が更正期間内に行われている以上、2年半以上経過して行った本件更正処分が違法となるものではないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)納税申告書の送付通知について
 通則法第21条は、上記1の(3)のハのとおり規定されているところ、請求人は、納税申告書をその住所地、Y県Q市q町○番○号を所轄するK税務署へ平成12年3月15日に提出しており、その提出先は誤っていない。
 そして、通則法第21条第3項で規定する通知は、納税申告書を提出した以後、納税地を異動し、誤って旧納税地を所轄する税務署長に納税申告書を提出した場合に、その提出した者に通知を行うものであり、これらに当たらない請求人に対しては、通知義務はないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ヘ)本件更正処分について
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、請求人の平成11年分の所得税については、本件特例の適用はなく、その納付すべき税額は、別表4の「原処分庁」欄のとおり20,497,200円となるから、これと同額で行った本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分は、上記イのとおり適法であり、請求人の場合、過少申告となったことについて通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないので、同条第1項及び第2項の規定により行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件は、本件譲渡所得の計算上、本件特例の適用が認められるか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の長女及び長男が通学していた学校等は、次のとおりである。
A 長女
(A)昭和55年4月から昭和61年3月までQ市立a小学校
(B)昭和61年4月から平成元年3月までQ市立b中学校
(C)平成元年4月から平成4年3月までc高等学校(Y県所在)
(D)平成4年4月から平成6年3月までd短期大学(Z県所在)
B 長男
(A)昭和60年4月から平成3年3月までQ市立a小学校
(B)平成3年4月から平成6年3月までQ市立b中学校
(C)平成6年4月から平成9年3月までY県立e高等学校
(D)平成9年4月から平成10年3月まで浪人
(E)平成10年4月から平成12年3月までf大学(X県所在)
(ロ)Q市の借家の賃貸人は、平成12年4月まで請求人に当該家屋を59,000円で貸していた。
(ハ)請求人が本件土地に隣接する土地所有者と境界線及びブロック塀の確認をしている「境界線に関する確認書」及び「塀に関する確認書」の各書面、並びに請求人が○○財務局長に提出した平成10年12月8日付の「埋設物がない旨の確認書」によれば、請求人は、同人の住所を「P市p町○−○」と記載しているが、請求人がM税務署長に提出した、本件土地に係る私道部分の間口を広げることになった旨記載された平成10年11月23日の書面、並びに同月15日付の「筆界確認書」によれば、請求人は、同人の住所を「Y県Q市q町○−○」と記載していることから、請求人は、本件家屋の所在地が住所であると認識していなかったことが認められる。
ロ 請求人等の答述
 請求人、本件家屋の近隣住民及びW税務署所属の申告相談担当職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)請求人
A 本件家屋は、木造2階建ての1階が5部屋、2階が3部屋で、相続した際には、2階部分を間貸ししていた。
B Q市の借家は、木造2階建ての1階が6畳、4畳半及び約2畳のキッチンで、2階が6畳である。
C 請求人が、本格的に本件家屋に居住しはじめたのは平成9年10月からであるが、それ以前から本件家屋に行ったり来たりしていた。請求人の妻は、本件家屋とQ市の借家を行ったり来たりしていた。
D 本件家屋には、冷蔵庫、テレビ、洗濯機等の電化製品がそろっていたので、Q市の借家から本件家屋へ家財道具等を運ぶことをしなかった。また、本件家屋の電化製品を使うこともなく、洗濯はQ市の借家で行い、風呂は本件家屋近くの銭湯を利用していた。
E 本件家屋にあった仏壇、書籍などの大量の荷物は、本件家屋の取り壊しの際に、運送料がかかる程の荷物を運ばず、泣く泣く廃棄した。
F 請求人の勤務先は、Z県g市h町○番地に所在するJ出版株式会社であり、同社に提出している通勤届けは、Q市の借家から勤務先までである。しかし、実際は、本件家屋から都バスで通勤していた。
G 本件家屋の家賃収入は母が全額受領し、本件立退料も母が支払ったので、なぜ立退料を支払ったのか理由は分からない。
H 相続税特例物納申請に際して、本件土地に係る私道部分の間口が足りなかったことから、平成10年7月に隣家が私道部分の一部の交換を承諾してくれた。
(ロ)本件家屋の近隣住民
A 請求人は、本件家屋で生まれ、結婚するまで住んでいた。請求人は、結婚してから母屋の隣の離れに住む予定だったが、全く住んでいなかった。
B 本件家屋に住んでいたLとVは、昭和60年ごろに2人でm市の方に転居した。
C 本件家屋は戦前からの建物で、人が住まなくなって長いため、玄関前の柿木やびわの実も自然に落下し、くもの巣が張り巡らされているような状態であった。時折門灯が点くことがあったが、住んでいるようすはなかった。
D 請求人から転居の挨拶もないし、町内会にも入っていない。ごくまれに門灯が点いていたので、請求人が来ていたことがあったかもしれないが、住んでいなかった。
(ハ)W税務署所属の申告相談担当職員
 請求人と面接したことは記憶にないが、申告相談の際に作成した相談記録によれば、請求人が本件家屋に住民票を異動する前から居住していた旨主張するので、本件申告書の記載方法を説明し、住民票を異動する前から住んでいたかどうかを確認できるもの、例えば公共料金等の使用状況がわかる書類等を本件申告書の提出先であるK税務署に当該申告書とともに提出するよう伝えたと思う。
ハ 関係法令等の解釈
 措置法第36条の6第1項の規定は、上記1の(3)のイのとおりであるところ、本件特例の規定は、住替えによる居住水準の向上等を図るという住宅政策上の観点、及び土地政策との整合性を図る観点にも配慮して創設されたものと解される。
 そして、本件特例に規定する「居住の用に供している家屋」とは、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた財産をいい、これに当たるか否かは、家屋への入居目的、居住期間、その者及び配偶者等の日常生活の状況、家屋の構造等の諸事情を総合的に判断して決めるべきであると解するのが相当である(横浜地裁平成9年4月30日判決、平成7年(行ウ)第4号課税処分取消請求事件)。
ニ 本件特例の適用について
 請求人は、本件家屋は居住を目的とした財産であり、本件特例の適用要件を満たしている旨主張する。
 しかしながら、本件家屋及びQ市の借家の間取りは、上記ロの(イ)のA及びBのとおりであり、また、請求人の生活状況は、上記イの(イ)及び(ロ)の各事実並びに上記ロの(イ)のCからEの答述のとおりであるところ、〔1〕本件家屋における電気の使用量は、上記1の(4)のヘ及びトのとおり、平成9年11月7日から平成10年10月13日までの契約期間で毎月僅少であるものの、Q市の借家における電気の使用量は、本件家屋のそれに比べて毎月相当量の使用があること、〔2〕電気の使用量と同様に水道の使用量を比べると、本件家屋の水道の使用量は、平成7年9月以降ほとんど使用されていないものの、Q市の借家の水道の使用量は、毎月相当量の使用があること、〔3〕請求人の通勤届けは、上記ロの(イ)のFのとおり、Q市の借家から勤務先までであること、〔4〕請求人は、上記イの(ハ)のとおり、本件家屋の所在地が住所であると認識していなかったこと、及び〔5〕本件家屋の近隣住民は、上記ロの(ロ)のとおり、当審判所に対し、請求人が本件家屋に来ていたことがあったかもしれないが、住んでいなかった旨答述していることからすると、請求人が、本件家屋をQ市の借家に代えて生活の本拠として居住の用に供していたものとは認められない。
 なお、請求人は、当審判所に対して、本件家屋に居住していた事実として、平成10年7月12日に実施された参議院議員選挙に係る長女名義の投票所入場券、及び同年8月5日付のS市役所から長男宛ての国民年金被保険者の適用についての通知書を提出しているが、これらの書類は、住民票を本件家屋の所在地に異動したことにより通知されるものであることから、これらをもって請求人が居住していたとする証拠にはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 居住用財産の判断基準について
 請求人は、原処分庁は、居住用財産の解釈を法令によらず、措置法通達により意図的に狭く解して判断している旨主張する。
 しかしながら、本件特例の趣旨は、上記ハのとおりであるところ、本件特例は、措置法第36条の6第1項に規定する要件に該当する場合において、譲渡資産の取得価額を買換資産に引継ぐことによる課税の繰延べを与える租税優遇措置に当たるものであるから、本件特例の適用に当たっては、その要件を厳格に解釈する必要があり、みだりに拡張解釈することは許されない。
 そして、本件特例に規定する「居住の用に供している家屋」とは、上記ハのとおりであるところ、本件の場合、上記ニのとおり、請求人が本件家屋を居住の用に供したものと認められないと判断したものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 措置法第36条の2の適用について
 請求人は、本件譲渡所得は、措置法第36条の2の規定についても適用がある旨主張する。
 しかしながら、措置法第36条の2の規定も「居住の用に供している家屋」を要件とするところ、この「居住の用に供している家屋」も、上記ハのとおりであると解するのが相当であり、本件の場合、上記ニのとおり、請求人が本件家屋を居住の用に供したものと認められないと判断したものであるから、「やむを得ない事情」があるか否かを判断するまでもなく、措置法第36条の2の適用はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 申告相談等について
(イ)請求人は、本件申告書及び本件承認申請書は、税務署職員の指導に基づき作成したものであるので、本件更正処分は誤指導に基づく処分である旨主張する。
 しかしながら、W税務署の申告相談担当職員は、上記ロの(ハ)のとおり、請求人が本件家屋に住民票を異動する前から居住していた旨主張するので、本件申告書の記載方法を説明した旨答述していることから、当該職員の誤指導があったとは認められない。
 また、本件承認申請書の承認の手続がなされなかったとしても、本件の場合、上記ニのとおり、本件家屋が本件特例の適用要件である居住の用に供していたものとは認められないのであるから、当該承認申請書の承認は、本件更正処分に影響を及ぼすものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、本件特例の適用を受けられないことを長期間放置し、2年半後に本件特例の適用を受けることができないとした本件更正処分は不当である旨主張する。
 しかしながら、通則法第70条第1項は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においては、することができない旨規定しているところ、本件更正処分は、法定申告期限である平成12年3月15日から3年以内である平成14年9月30日に行われているのであるから、本件更正処分が違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)納税申告書の送付通知について
 請求人は、原処分庁は、通則法第21条第3項に規定する通知を請求人に行っていないことから、本件更正処分は根本から疑わしいものである旨主張する。
 しかしながら、通則法第21条第3項は、上記1の(3)のハのとおり、納税申告書を提出する者が、誤って旧所轄税務署長に当該申告書を提出した場合の旧所轄税務署長の通知を規定するものであるところ、本件の場合、請求人が納税申告書を提出すべき税務署はK税務署であり、請求人は本件申告書を当該税務署に提出したのであるから、原処分庁は、通則法第21条第3項に規定する通知を請求人に通知する義務はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 本件更正処分の適否について
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件譲渡所得の金額の計算上、本件特例の適用は認められない。
 そして、本件譲渡所得の金額について検討したところ、本件立退料は、上記1の(4)のハのとおり、平成2年中に支払われていること、及び請求人は、上記ロの(イ)のGのとおり、本件立退料は母が支払ったものである旨答述していることからすると、本件立退料は、所得税法第33条《譲渡所得》第3項に規定する「その資産の譲渡に要した費用の額」に該当しないとするのが相当と認められ、このことから請求人の納付すべき税額を計算すると、別表4のとおり、20,729,200円となり、この金額は、本件更正処分の納付すべき税額20,497,200円を上回ることになるから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(1)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づく本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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