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(平15.8.8裁決、裁決事例集No.66 363頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対する国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》第2項の規定に基づく告知処分が、同条第1項に規定する〔1〕滞納者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(以下「譲渡担保財産」という。)を対象としたものであるか否か、及び〔2〕滞納者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるものであるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、G株式会社(P市Q町○番地所在、以下「滞納会社」という。)に係る滞納国税のうち、別表1記載の滞納国税を徴収するため、同社の別表2−1及び別表2−2の「第三債務者」欄に記載の各社(以下「本件各第三債務者」という。)に対して有する売掛金債権(以下「本件各債権」という。)が同社と請求人との間の集合債権譲渡担保契約(以下「本件契約」という。)に基づく譲渡担保財産であるとして、譲渡担保財産の権利者(以下「譲渡担保権者」という。)である請求人に対して、平成14年4月3日付で徴収法第24条第2項の規定に基づき、譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分(以下「本件告知処分」という。)をし、請求人の所在地を管轄するL税務署長及び滞納会社に対して、その旨を通知した。
ロ 原処分庁は、本件告知処分によっても別表1記載の滞納国税が納付されなかったことから、平成14年4月17日付で本件各債権のうち、別表3に記載した株式会社H(以下「H社」という。)に対する売掛金債権(以下「本件差押債権」という。)を差し押さえるとともに、請求人及びH社に対し、その旨を通知した(以下、この差押処分を「本件差押処分」という。)。
 なお、原処分庁は、本件差押処分に係る差押調書の「差押財産」欄に文言の記載誤りがあったため、平成14年4月18日付で請求人及びH社に対し、更正通知書を送付した。
ハ 原処分庁は、J社会保険事務所長が平成14年3月27日付で本件差押債権を差し押さえていることから、同年4月18日付で同事務所長に対し、交付要求(以下「本件交付要求処分」という。)をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として平成14年5月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月19日付で棄却の異議決定をしたので、同年9月19日に審査請求をした。
 なお、原処分庁は、J社会保険事務所長が平成15年3月10日付で本件差押債権の差押えを取り消したことによって、同月28日付で本件交付要求処分を解除し、それに伴って、請求人は、同年5月1日に本件交付要求処分に係る審査請求を取り下げた。

(3)関係法令

イ 徴収法第24条は、譲渡担保権者の物的納税責任について、要旨次のとおり規定している。
(第1項)納税者が国税を滞納した場合において、譲渡担保財産があるときは、その者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足(以下「徴収不足」という。)すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができる。
(第2項)税務署長は、前項の規定により徴収しようとするときは、譲渡担保権者に対し、徴収しようとする金額その他必要な事項を記載した書面により告知しなければならない。
(第3項)前項の告知書を発した日から10日を経過した日までにその徴収しようとする金額が完納されていないときは、徴収職員は、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができる。
(第5項)第2項の規定による告知をした後、納税者の財産の譲渡により担保される債権(以下「被担保債権」という。)が債務不履行その他弁済以外の理由により消滅した場合においても、なお譲渡担保財産として存続するものとみなして、第3項の規定を適用する。
(第6項)第1項の規定は、国税の法定納期限等以前に、担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転の登記がある場合又は譲渡担保権者が国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている事実を、その財産の売却決定の前日までに、証明した場合には、適用しない。
ロ 民法第467条は、指名債権譲渡の対抗要件について、要旨次のとおり規定している。
(第1項)指名債権の譲渡は、譲渡人がこれを債務者に通知し又は債務者がこれを承諾しなければ、債務者その他の第三者には対抗することができない。
(第2項)前項の通知又は承諾は確定日付のある証書によらなければ、債務者以外の第三者には対抗することができない。
ハ 債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「債権譲渡特例法」という。)第2条《債権の譲渡の対抗要件の特例等》は、要旨次のとおり規定している。
(第1項)法人が債権(指名債権であって金銭の支払を目的とするものに限る。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記(以下「債権譲渡登記」という。)がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、民法第467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなすこととし、この場合において、債権譲渡登記の日付をもって確定日付とする。
(第2項)債権譲渡登記がされた場合において、当該債権の譲渡及びその譲渡につき当該登記がされたことについて、譲渡人若しくは譲受人が当該債権の債務者に債権譲渡特例法第8条《登記事項概要証明書等の交付》第2項に規定する登記事項証明書を交付して通知をし、又は当該債務者が承諾をしたときは、当該債務者についても、前記(第1項)と同様に通知があったものとみなす。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人及び滞納会社は、平成13年9月19日及び同年10月22日に要旨次のとおりの本件契約(以下、本件契約に係る書面を「本件契約書」という。)をそれぞれ締結した。
(イ)滞納会社は、請求人に対し、現在負担し並びに将来負担する商品買掛金債務を担保するため、本件各第三債務者に対して同社が現在有し並びに将来有する商品売掛金債権591,000,000円(平成13年9月19日付本件契約書)及び127,000,000円(平成13年10月22日付本件契約書)の合計額を限度として、請求人に譲渡する(以下「本件各債権譲渡」という。)。
(ロ)請求人及び滞納会社は、同社が本件各第三債務者との間の商品売買取引に基づき売掛金債権を取得する都度、本件各債権譲渡の効力が生じることを確認する。
(ハ)請求人は、滞納会社から書面による申出があり、その申出を承諾した場合、同社から譲り受けた債権の取立てを同社に委任することができる。この場合、滞納会社は直接、本件各第三債務者から当該債権を取り立てること及び当該取立金を自己の資金として使用することができる。
(ニ)滞納会社は、次のいずれかに該当した場合、請求人からの通知、催告なしに請求人に対する前記(イ)の債務について期限の利益を失い、直ちに債務全額を請求人に支払う。
A 本件契約その他請求人との契約に違反したとき。
B 振出しまたは引き受けた手形あるいは小切手が不渡りとなったとき。
C 破産、特別清算手続開始、民事再生手続開始、会社整理もしくは会社更生手続開始の申立てをなし、または受けたとき。
D 徴収法もしくはこれに準ずる公租公課の滞納処分を受けたとき。
E その他、滞納会社の資産、信用状態が悪化し、またはそのおそれがあると認められる相当の事由があるとき。
(ホ)請求人及び滞納会社は、本件契約締結後直ちに共同して、債権譲渡特例法に基づき、前記(イ)の債権譲渡について、存続期間を5年とする債権譲渡登記を行う。
(ヘ)請求人は、本件各第三債務者より支払を受けた場合、適当と認められる順序、方法により、滞納会社の請求人に対する債務の弁済の一部又は全部に充当することができる。
ロ 本件契約に基づき譲渡担保が設定された日は、本件告知処分の対象となる滞納国税の法定納期限等(別表1の「法定納期限等」欄に記載のとおり。)の後である。
ハ 請求人及び滞納会社は、本件契約に基づき平成13年9月20日及び同年10月23日、登記原因を譲渡担保とする債権譲渡登記(以下「本件登記」という。)を行った。
ニ 滞納会社は、平成13年11月29日、K地方裁判所に対し、民事再生法に基づく手続の開始を申し立て、同年12月17日、同手続の開始決定を受けた。
ホ 請求人は、H社に対し、平成13年11月29日の書留内容証明郵便で、本件差押債権の譲渡を受け本件登記を行ったこと及び担保権を実行したことを記載した「債権譲渡通知書」を送付するとともに、「ご連絡」と題する書面に登記事項証明書を同封して送付し、いずれもH社には同年12月1日に到達した。
ヘ 滞納会社は、平成14年3月28日にK地方裁判所から民事再生手続廃止の決定を受けた。
ト 滞納会社は、平成14年4月26日にK地方裁判所から破産宣告を受けた。
チ 滞納会社の破産管財人(以下「破産管財人」という。)は、平成14年5月31日、請求人を被告として否認請求訴訟(平成○年(○)第○○号)をK地方裁判所に提起し、現在も訴訟係属中である。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件告知処分の要件
(イ)譲渡担保財産であるか否か
 本件差押債権は、以下のとおり、本件告知処分時において、請求人に移転(帰属)していたものであり、譲渡担保財産ではないから、本件告知処分は違法である。
A 請求人は、本件登記を経た上で、平成13年11月29日にH社に対し、本件差押債権の譲渡及び担保権の実行を通知するとともに登記事項証明書を交付していることから、本件差押債権の譲渡は、H社に対して対抗要件を具備したこととなり、本件差押債権は請求人に確定的に帰属している。
B 原処分庁は、前記1の(4)のイの(ヘ)の約定をもって、譲渡担保の対象債権が確定的に請求人に移転していない根拠としているが、これは単に被担保債権への充当の順序・方法を定めただけのことであり、第三債務者からの取立てが完了するまで、請求人に譲渡担保の対象債権が確定的に移転しないことまで定めているわけではない。
(ロ)徴収不足であるか否か
 滞納会社は、以下のとおり、原処分庁が滞納国税を徴収できる財産を有しているから、徴収法第24条第1項に規定する徴収不足の要件を満たしておらず、本件告知処分は違法である。
A 滞納会社は、破産管財人がK地方裁判所へ提出した平成14年8月21日付の報告書(以下「本件報告書」という。)によれば、破産宣告を受けた時点において、担保の対象になっている本件各債権及び不動産のほかに現金約5,920,000円、預貯金約360,000円、売掛金約970,000円、未収金約6,360,000円、車両運搬具約120,000円相当、機械器具約780,000円相当、電話加入権約70,000円相当、差入保証金約150,000円、保険の解約返戻金約3,660,000円(うち原処分庁が差し押さえたもの約3,550,000円)など合計約18,390,000円の財産を有しており、ましてや、滞納会社には、本件告知処分時において、それ以上の財産が存在していたことが容易に推認できる。
B 滞納会社の所有する不動産には、抵当権が設定されているものの、破産管財人が抵当権者の任意売却に協力した場合、その対価として、相当額の「協力金」を得る可能性があり、既に破産財団は、R市所在の不動産に関する「協力金」として約5,000,000円ないし6,000,000円を得られる見込みである。
ロ 本件告知処分の不当性
 原処分庁は、請求人と破産管財人との間で、売掛金債権が破産法の否認権の行使の対象になるか否かの訴訟の決着がつく前に、滞納会社ではなく第二次納税義務者(譲渡担保権者)にすぎない請求人に対して本件告知処分を行ったことは、法律関係をいたずらに複雑にするものであり、不当である。
ハ 本件差押処分
 本件告知処分は、前記イのとおり、違法であるから、これに基づいて行われた本件差押処分も違法である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件告知処分の要件
(イ)譲渡担保財産であるか否か
 本件契約によれば、前記1の(4)のイの(ヘ)のとおり、請求人が、第三債務者より支払を受けた場合、滞納会社の請求人に対する債務の弁済の一部又は全部に充当することができる旨定めている。
 しかしながら、本件差押債権は、いまだH社から請求人に支払われておらず、請求人の滞納会社に対する被担保債権が消滅していないことから、本件告知処分時において、譲渡担保財産であると認められる。
(ロ)徴収不足であるか否か
 原処分庁は、滞納会社の滞納国税を徴収するために同社に対して適法な財産調査を実施した上で、差押可能な財産は差し押さえており、本件告知処分時において、滞納国税に充てることができる(ほかに差し押さえるべき)財産は皆無であり、滞納会社の財産につき滞納処分を執行しても、滞納国税の総額(本件告知処分の対象となっていない滞納国税を含む。以下同じ。)に不足すると認められた。
 なお、徴収不足の判定は、滞納処分を現実に執行した結果に基づいて行う必要はない。
ロ 本件告知処分の不当性
 本件告知処分は、上記イのとおり、国税徴収手続として適法に執行されたものであり、法律関係をいたずらに複雑にするものであるとの請求人の主張には理由がない。
 なお、否認権訴訟の判決結果は、差押権者である国を拘束しないから、本件告知処分には直接影響しない。
ハ 本件差押処分
 本件告知処分は、前記イのとおり、適法なものであるから、これに基づいて行われた本件差押処分も何ら瑕疵はなく適法である。

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3 判断

(1)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、本件告知処分時までに本件差押債権をH社から取り立てて被担保債権の弁済に充当していない。
ロ 滞納会社の滞納国税の総額は、本件告知処分時(平成14年4月3日)において、19,149,495円である。
ハ 原処分庁は、本件告知処分時までに滞納会社の財産調査に基づき、次の財産を差し押さえた。
(イ)取引先銀行に対して有する普通預金の払戻請求権。
(ロ)生命保険相互会社に対して有する生命保険契約に基づく保険金の払戻請求権及び剰余金配当請求権。
ニ 原処分庁は、財産調査により把握した不動産のうち、R市所在の宅地及び建物を本件告知処分後に差押えを行ったが、それ以外の不動産については、先行差押え及び破産登記がされており、差押えをしなかった。
 なお、上記不動産のすべてには、国税に優先する担保権の設定がされている。
ホ 原処分庁は、平成14年5月14日付で、破産管財人に対し、滞納会社の滞納国税の総額を徴収するために交付要求をしている。
ヘ 請求人は、当審判所に対して、本件契約は、滞納会社が債務不履行等一定の事由により、請求人に対する期限の利益を失い、直ちに債務全額を請求人に支払うことを取り決めたものであって、具体的な支払方法まで合意したものではない旨答述した。
ト 破産管財人は、当審判所に対して、本件報告書に記載のある滞納会社の代表者に対する未収家賃(約6,360,000円)は、当該代表者からの借入金等があることから、回収は見込めず、回収は行っていない旨答述した。
(2)本件告知処分の要件
イ 譲渡担保財産であるか否か
(イ)徴収法第24条第1項は、「その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(譲渡担保財産)があるとき」と規定しており、同条の適用は譲渡担保財産の存在が前提であることが明らかである。
 一般に、譲渡担保権は弁済や担保権の実行による被担保債権の消滅に伴い消滅すると解されており、徴収法第24条第5項が「告知後は、納税者の財産の譲渡により担保される債権が債務不履行その他弁済以外の理由により消滅した場合においても、なお譲渡担保財産として存続するものとみなして」と規定していることからすると、同条も通常は被担保債権が消滅した場合には譲渡担保権が消滅し、「譲渡担保財産」は存在しなくなることを前提に規定されているものと解すべきである。
(ロ)最高裁判所昭和62年2月12日第1小法廷判決(昭和60年(オ)第568号・民集41巻1号67頁)は、不動産の譲渡担保契約の事例において、〔1〕被担保債権の弁済期経過後であっても、債権者が目的不動産を適正に評価してその所有権を自己に帰属させる帰属清算型の譲渡担保の場合は、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしても、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、債務者は受戻権(目的財産の所有権)を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができるのであるから、債権者が単に意思表示をしただけでは、いまだ債務消滅の効果を生ぜず、したがって清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定しないものというべきである、〔2〕もっとも、債権者が清算金の支払等をせず、かつ、債務者も債務の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者はその時点で受戻権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生する、と判示している。
 この判示からすると、譲渡担保の実行の完了時期は、被担保債権消滅の時と解されるのであり、譲渡担保権者がその意思表示により担保権の実行を開始しても、実行が完了するまで、すなわち譲渡担保財産の適正な評価や換価処分の上、清算等を行い、消滅する被担保債権の額が確定して消滅するまでは譲渡担保権は消滅せず、したがって、譲渡担保権の設定された財産は「譲渡担保財産」として存続するものと解される。
(ハ)そして、この理は、譲渡担保財産が債権である場合にも当てはまると解されるところ、譲渡担保財産が債権の場合、譲渡担保権者としては担保権の実行として現実に譲渡債権から回収した金額と同額の被担保債権を消滅させるというのが通常の意思であると解されることからすると、当事者間でこれと異なる特段の合意がない限り、譲渡担保権者が第三債務者から現実に譲渡債権を取り立てて被担保債権の弁済に充当するまでは、消滅する被担保債権の額が確定せず、清算等もできないことから、その時点までは担保権の実行は完了せず、徴収法第24条にいう「譲渡担保財産」として存続すると解するのが相当である。
(ニ)これを本件についてみると、本件契約においては、前記1の(4)のイの(ニ)及び(ヘ)のとおり、滞納会社は一定の事由が生じた場合、請求人に対する期限の利益を失い債務全額を支払わなければならない旨、及び請求人が第三債務者から支払を受けたときは、請求人は適当と認められる順序、方法により債務の一部又は全部に充当できる旨の合意はあるものの、前記(1)のヘのとおり、本件契約書には譲渡担保権の実行方法や実行の完了時期に関する明確な定めは存在せず、この点に関する請求人と滞納会社との間の特段の合意の存在は認められない。
 また、請求人は、前記(1)のイのとおり、本件告知処分時までに請求人において担保権の実行として本件差押債権を取り立てて被担保債権の弁済に充当した事実も認められない。
 したがって、本件告知処分時において、いまだ本件契約に基づく譲渡担保権の実行は完了しておらず、本件差押債権は、徴収法第24条にいう「譲渡担保財産」であったと認められる。
 これに対し、請求人は、前記1の(4)のホの事実をもって、本件告知処分時において、本件各債権が既に確定的に請求人に移転しており、譲渡担保財産ではない旨主張する。
 しかしながら、本件契約に基づいて債権譲渡特例法第2条第1項の登記及び同法第2条第2項の債務者に対する登記事項証明書の交付が行われた場合、その登記等により本件各債権に係る第三者対抗要件及び債務者対抗要件が具備されることになるものの、これをもって直ちに譲渡担保権の実行が完了したことにはならず、譲渡担保財産はなお存在していると解される。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
ロ 徴収不足であるか否か
(イ)譲渡担保権者が物的納税責任を負うのは、徴収法第24条第1項の規定により、譲渡担保設定者(滞納会社)の財産について滞納処分を執行しても、なお徴収すべき国税に不足すると認められる場合に限られており、税務署長は、あらかじめ譲渡担保設定者の財産を調査することを要し、ほかの財産をもってしては、徴収不能と認められる場合に限って、譲渡担保権者に物的納税責任を負わせることができると解される。
 そして、同項に規定する「国税に不足すると認められるとき」とは、同条第2項の告知書を発するときの現況において、納税者に帰属する財産で滞納処分により徴収できるものの価額が納税者の滞納国税の総額に満たないと認められることをいい、その判定は、滞納処分を現実に執行した結果に基づいてする必要はないと解するのを相当とする。
(ロ)これを本件についてみると、原処分庁は、前記(1)のハ及びニのとおり、本件告知処分時までに滞納会社の財産調査を行い、差押可能な財産について差押えを行っており、ほかに滞納国税に充てるべき十分な財産がなく、しかも、当該差押えにより徴収できる価額が滞納国税の総額に満たないことから、徴収法第24条第1項に規定する「徴収すべき国税に不足すると認められるとき」に該当するとして本件告知処分をしたことが認められる。
 これに対し、請求人は、前記2の(1)のイの(ロ)のA及びBのとおり、滞納会社の財産から滞納国税を徴収できたはずであり、本件告知処分が徴収法第24条第1項に規定する徴収不足の要件を満たしていない旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張する本件報告書の財産については、前記(1)のトのとおり、滞納会社の代表者からの借入金と相殺されるべき未収家賃(約6,360,000円)が含まれており、当該財産の価額(約18,390,000円)が直ちに滞納会社から徴収できる価額と認めることはできず、仮に当該財産の価額を滞納会社から徴収できる価額とみても、前記(1)のロのとおり、本件告知処分時の同社の滞納国税の総額は、当該財産の価額を上回っていることが認められる。
 また、「協力金」が得られる見込みがあるとされる滞納会社の不動産には、前記(1)のニのとおり、国税に優先する担保権の設定がされているため、本件告知処分時において、当該不動産は滞納処分の執行によっても徴収できる価額の見込みがない財産であると認められ、しかも、「協力金」は、破産宣告後において、破産管財人が破産財団に属する不動産の処分を行う過程で得られるものであることからしても、本件告知処分の要件である徴収不足の認定に影響を与えるものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ハ 本件告知処分の適法性に関するその他の要件の充足については、請求人及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
 したがって、本件告知処分は適法である。
(3)本件告知処分の不当性
 原処分庁は、上記(2)のとおり、請求人に対して、本件告知処分を適法に行っており、また、滞納会社が破産宣告を受けた後は、徴収法第82条《交付要求の手続》第1項の規定に基づき、前記(1)のホのとおり、破産管財人に対して交付要求をするなど国税徴収手続を適正に執行している。
 これに対し、請求人は、現在、本件契約について、破産管財人との間で破産法上の否認権行使の対象となるか否かが争われているにもかかわらず、その判決の出る前になされた本件告知処分は不当である旨主張する。
 しかしながら、否認権行使の効果は、否認権の行使により、否認の対象となった債権譲渡行為が破産管財人と請求人との間でさかのぼって無効となり、破産財団の財産は、その行為がなかった状態に当然に復元するにすぎず、そうすると、否認権訴訟の裁判の結果が第三者である原処分庁の行った本件告知処分の適法性に影響を及ぼすものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(4)本件差押処分
 本件告知処分は、上記(2)のとおり、適法であるから、本件告知処分に基づいて行われた本件差押処分も適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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