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(平20.12.1、裁決事例集No.76 368頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の父から贈与を受けたP国Q区(以下「Q区」という。)所在の法人への出資に係る贈与税について、原処分庁が、Q区所在の法人が出資したP国R市所在の関連会社が有する土地使用権等の相続税評価額について貸借対照表上の価額に基づき計算し、Q区所在の法人の純資産の価額を算出して、決定処分等をしたのに対し、請求人が、当該土地使用権等の相続税評価額は零円とすべきであるとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分の贈与税について、申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成19年7月5日付で、別表1の「決定処分等」欄のとおり、贈与税の決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、平成19年9月3日に本件決定処分及び本件賦課決定処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年12月3日付で棄却の異議決定をしたことから、異議決定を経た後の上記各処分を不服として、同月28日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、特別の定めのあるものを除き、贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ロ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56・直審(資)17、国税庁長官通達。ただし、平成18年10月27日課評2−27・課資2−8・課審6−10による改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)5−2《国外財産の評価》は、国外にある財産の価額についても、この通達に定める評価方法により評価することとし、この通達の定めによって評価することができない財産については、この通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する旨定め、その注書において、この通達の定めによって評価することができない財産については、課税上弊害がない限り、その財産の取得価額を基にその財産が所在する地域若しくは国におけるその財産と同一種類の財産の一般的な価格動向に基づき時点修正して求めた価額又は課税時期後にその財産を譲渡した場合における譲渡価額を基に課税時期現在の価額として算出した価額により評価することができる旨定めている。
ハ 評価通達185《純資産価額》は、評価通達179《取引相場のない株式の評価の原則》の「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」は、課税時期における各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額(この場合、評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という。)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとし、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする。)の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び相続税評価額による純資産の価額から帳簿価額による純資産の価額を差し引いた残額がある場合の当該残額に対する法人税額等に相当する金額(評価通達186−2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》は、当該残額に清算所得に対する法人税等の税率の合計に相当する割合である42%を乗じて計算した金額としており、以下「清算所得に係る法人税等相当額」という。)を控除した金額(以下「純資産価額」という。)を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする旨定めている(以下、評価通達185の定める評価方法を「純資産価額方式」という。)。

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成18年6月16日、請求人の父であり、○○市○○町○○番地に所在するF社の代表取締役でもあるGから、Q区に所在するH社への出資○○○○口(以下「本件出資」という。)の贈与を受けた(以下、本件出資の贈与を受けた平成18年6月16日を「本件受贈日」という。)。
ロ H社関係
(イ) H社は、○○を主な事業目的としたF社のグループ企業で、非上場の法人である。
(ロ) H社が出資しているJ社、K社及びL社(以下、J社及びK社と併せて「本件各関連会社」という。)は、いずれもP国R市所在のF社のグループ企業であり、非上場の法人である。
(ハ) H社の本件各関連会社への出資額は、本件受贈日の直前に終了した事業年度(以下、「本件直前期」といい、本件直前期の末日を「本件直前期末」という。)である2004年(平成16年)10月1日から2005年(平成17年)9月30日までの事業年度の貸借対照表によれば、J社が○○○○ドル、K社が○○○○ドル、L社が○○○○ドルである。
(ニ) H社の本件直前期末の貸借対照表に記載された金額を本件受贈日におけるM銀行の対顧客直物電信買相場(TTB)1ドル当たりの金額○○○○円により邦貨換算をすると、別表2のとおりとなり、H社の本件各関連会社への出資額は、J社が○○○○円、K社が○○○○円、L社が○○○○円である。
(ホ) 本件各関連会社の本件直前期である2005年(平成17年)1月1日から2005年(平成17年)12月31日までの事業年度(以下「2005年(平成17年)12月期」という。)に係るものとして作成された「2005年度財務諸表付注」と題する書類(以下「財務諸表の注記事項」という。)によれば、H社の本件各関連会社への出資割合は、J社が○○分の○○、K社が○○分の○○、L社が○○分の○○である。
ハ 本件各関連会社の邦貨換算した貸借対照表
 本件各関連会社の本件直前期末の貸借対照表に記載された金額を本件受贈日におけるM銀行のP国通貨参考相場(TTB)1P国通貨当たりの金額○○○○円により邦貨換算をすると、別表3ないし別表5のとおりとなる(以下、別表4及び別表5に記載された各土地使用権を併せて「本件土地使用権」、別表4に記載された建物・構築物を「本件建物」、別表3及び別表4に記載された各機械設備を併せて「本件機械設備」、別表4及び別表5に記載された各建設仮勘定を併せて「本件建設中資産」といい、これらすべてを併せて「本件各資産」という)。
ニ 請求人とH社及び本件各関連会社の関係
 請求人は、本件受贈日において、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社であるH社及び本件各関連会社の同族関係を判定する上での基礎となる株主であり、評価通達188《同族株主以外の株主等が取得した株式》に定める同族株主に当たる。

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2 争点

 本件各資産の相続税評価額はいくらか。

3 主張

請求人 原処分庁
 次のことから、本件各資産の相続税評価額は、零円である。
(1) 本件各資産がP国政府による開発や整理に遭遇した場合、P国においては、日本における借地借家法のような借地人を保護する法律が存在しないため、P国政府から補償を得ることなく即日退去ということがある。
(2) 本件土地使用権の取得のために支払った費用については、土地の使用期限の中途で返還した場合においても、その使用期間に応じて返還されるものではない。
(3) 本件建物には、固定資産税評価額がない。
 次のことから、本件各資産の相続税評価額は、本件各関連会社の帳簿価額に基づき計算された金額によるべきである。
(1) 本件各資産は、現に存しており、P国政府から退去を命じられた事実は認められず、仮にP国政府から退去を命じられたとしても土地使用権が回収される場合には、相応の補償金が支払われる。
(2) P国における土地使用権は、有償若しくは無償で取得する一定期間その土地を使用するために認められた権利であり、その譲渡、賃貸借及び抵当権の設定も可能であることから、資産価値はあるもの と認められる。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地使用権に係る不動産権利証の記載内容
 本件土地使用権に係る不動産権利証であるR市不動産権利証には、「土地○○法、都市○○法、R市○○条例等の関連法律、法規の規定に基づき、土地使用権者及び建物所有権者の合法的な権益を保護するため、権利人による土地並びに構築物及びその付帯物の登記申請を受け、審査及び予備登記を経て、本証を発行するものである。本証は国有地上に存在する不動産権利を証するものである。」旨記載されている。
ロ 本件土地使用権の設定内容
(イ) K社の土地使用権
A 地目    工業用地
B 地番    ○○区○○町○丁目○番地
C 面積    ○○○○平方メートル
D 使用期間  2003年1月7日から2053年1月6日
E 登記年月日 2005年(平成17年)2月1日
(ロ) L社の土地使用権
A 地目    工業用地
B 地番    ○○区○○町○丁目○番地
C 面積    ○○○○平方メートル
D 使用期間  2005年9月6日から2055年9月5日
E 登記年月日 2005年(平成17年)10月25日
ハ 本件土地使用権の金額の内容
(イ) K社の土地使用権
 K社の2005年(平成17年)12月期の財務諸表の注記事項には、土地使用権の金額は2003年(平成15年)から均等償却する旨記載され、2005年(平成17年)に償却計算が行われていることによれば、別表4に記載された土地使用権の金額121,574,876円は、当該土地使用権の取得価額を基に使用期間の経過とともに減価したものとして計上された2005年(平成17年)12月期末の金額である。
(ロ) L社の土地使用権
 L社の2005年(平成17年)12月期の財務諸表の注記事項には、土地使用権の金額は実際発生原価により計上し、取得した月から償却期間内に均等償却する旨記載されているものの、2005年(平成17年)は償却計算が行われていないことによれば、別表5に記載された土地使用権の額273,513,488円は、R市不動産権利証に当該土地使用権の使用期間の始期として記載された2005年(平成17年)9月6日から間もないために減価しなかったものとして計上された2005年(平成17年)12月期末の金額である。
 なお、L社は、当該土地使用権を本件受贈日前3年以内に取得している。
ニ 本件建物の金額の内容
 本件建物の金額である別表4に記載された建物・構築物の金額492,460,365円は、当該建物の取得価額を基に使用期間の経過とともに減価したものとして計上された2005年(平成17年)12月期末の金額である。
 なお、K社は、本件建物を本件受贈日前3年以内に取得している。
ホ 本件建設中資産及び金額の内容
(イ) K社及びL社の2005年(平成17年)12月期の財務諸表の注記事項によれば、建設仮勘定に係る資産は、建設中の工場等の建物及び熱処理炉などの建物と一体となった附属設備である。
(ロ) L社の2005年(平成17年)12月期の財務諸表の注記事項には、建設仮勘定は実際発生原価により計上し、使用可能な状態に達した時点で全額を固定資産に振り替える旨記載され、K社及びL社の各建設仮勘定とも同様の会計処理が行われていると認められることから、本件建設中資産の金額は、別表4に記載された建設仮勘定の金額40,413,193円及び別表5に記載された建設仮勘定の金額857,185,430円の合計額897,598,623円であり、これらの金額は、いずれも2005年(平成17年)12月期末までに本件建設中資産に投下された費用の金額である。
ヘ 本件機械設備の金額の内容
 本件機械設備の金額は、別表3に記載された機械設備の額11,511,869円及び別表4に記載された機械設備の額271,831,196円の合計額283,343,065円であり、これらの金額は、いずれも取得価額を基に使用期間の経過とともに減価したものとして計上された2005年(平成17年)12月期末の金額である。
ト 本件決定処分における本件各資産の相続税評価額の内容
 本件決定処分における本件各資産の相続税評価額は、いずれも、別表3ないし別表5に記載された土地使用権、建物・構築物、建設仮勘定及び機械設備の各金額の合計額と同額である。

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(2) 評価通達によることの合理性及び評価通達5−2の定めの相当性

イ 相続税法第22条に規定する時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されている。
 しかし、贈与税の課税対象となる財産は、多種多様であり、当該財産の客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、相続税法に特別の定めがある場合を除き、贈与税の課税価格の計算の基礎となる財産を評価するための一般的な基準である評価通達に基づき、画一的な評価方法によって贈与を受けた財産を評価することとしている。
 ところで、このように画一的な評価方法により評価する趣旨は、贈与を受けた財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式や基礎資料の選択の仕方等により評価額が異なり、その格差が生じる結果となることを避け難く、また、納税者の申告手続及び課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価することが、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解されるので、このような課税実務上の取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
ロ 評価通達5−2は、前記1の(3)のロのとおり定めており、この取扱いは、国外財産の評価について、評価に際して参考となる資料の入手が困難な場合が多いことから、評価通達に準じた方法として、一般的に取得時におけるその財産の時価を表しているとみることができる取得価額等に基づき時点修正をして求めた金額により評価できるとするもので、上記イの画一的な評価方法によることの趣旨に沿ったものであり、当審判所においても相当と認められる。

(3) 本件出資及び本件各関連会社への出資の評価方法

 上記(2)のとおり、相続税法第22条に規定する時価を評価通達の定めにより評価することは相当と認められるので、評価通達により本件出資及び本件各関連会社への出資を評価することとなるが、本件出資及び本件各関連会社への出資は、前記1の(4)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、非上場の法人への出資であるから、取引相場のない出資に当たり、このような出資の評価方法については、評価通達180《類似業種比準価額》の類似業種比準価額方式又は純資産価額方式による旨定められているところ、P国Q区及びP国R市所在の法人への出資について、日本国内の上場株式の資産、利益及び配当の平均値と比較して評価する類似業種比準価額方式によることには疑義がないわけではなく、また、純資産価額方式により評価することについて、請求人及び原処分庁とも争いがないことから、本件においては、本件出資及び本件各関連会社への出資の評価方法は純資産価額方式によることが相当である。

(4) 本件各資産の相続税評価額の計算等

イ 本件各資産の財産価値の有無
(イ) 本件土地使用権は、上記(1)のイのR市不動産権利証の記載によれば、○○○○年(平成○○年)○月○日にP国で施行された土地○○法及び○○○○年(平成○○年)○月○日にP国で施行された都市○○法の規定に基づき、K社及びL社の権益を保護するため、登記されたものと認められる。そして、土地○○法第○条は、法に従って登記された土地使用権は、法律の保護を受ける侵害できない権利である旨規定し、また、都市○○法第○条は、土地使用者が土地使用権の上に存する不動産を譲渡し、抵当に供する場合は、当該土地使用権を同時に譲渡し、又は抵当に供する旨規定していることからすれば、本件土地使用権は、譲渡及び抵当権の設定が可能な財産であると認められ、また、上記(1)のロのとおり、K社及びL社により工業用地として現に有効に利用されている。
 したがって、本件土地使用権は財産価値があると認められる。
(ロ) 本件建物、本件建設中資産及び本件機械設備は、本件各関連会社において、その製造活動に使用されており、あるいは、使用され得るのであるから、当該各資産は、いずれも財産価値があると認められる。
(ハ) 以上によれば、本件各資産は、いずれも財産価値があると認められる。
(ニ) これに対し、請求人は、前記3の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、都市○○法第○条は、国(P国)が社会公共利益の必要に基づき土地使用権を期限前に回収した場合は、土地使用者が土地を使用した実際の年限及び土地開発の実情に基づき、相応する補償を与えることができると規定していることから、法令上、本件土地使用権が、国(P国)により退去を命じられる等により期限前に回収される場合には、国(P国)から本件土地使用権及びその上に存する建物等について相応の補償がなされるものと認められる。
 また、多くの既存の物権法秩序に関する制度を確認し集約するものとして○○○○年(平成○○年)○月○日にP国で施行された物権法が、土地使用権を建設用地使用権と命名した上で、譲渡、交換、出資、贈与及び抵当権の設定が可能な財産である旨規定するとともに、建設用地使用権の使用期間が満了する前に、公共の利益のために当該土地を引き上げる場合、当該土地の上に存する家屋及びその他の不動産に対して補償を与えなければならない旨規定していることからすると、本件土地使用権の性格は、本件受贈日及びその後においても変わっておらず、本件土地使用権以外の本件各資産への補償についても同様であると認めるのが相当である。そして、投資が、国内外にかかわらず、将来における財産価値減少の危険や財産価値増加の期待等種々の要素を検討した上でなされるものであることからすれば、財産価値減少の危険という一面のみをもって、当該法人が有する資産の相続税評価額が零円であると認めることはできない。
 したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。
ロ 本件各資産の相続税評価額
 そこで、本件決定処分における本件各資産の相続税評価額について検討すると、次のとおりである。
(イ) 本件土地使用権
A K社の土地使用権
 土地の上に存する権利の評価方法である評価通達27《借地権の評価》又は同通達27−2《定期借地権等の評価》は、いずれもその権利が設定されている土地の自用地の価額を基に評価する旨定めているものの、K社の土地使用権に係る自用地の価額を明らかにすることができないから、これらによることができず、さらに、土地使用権に係る売買実例価額、精通者意見価格等についても明らかにすることができないので、前記1の(3)のロにより、当該土地使用権の取得価額を基にP国における土地使用権の価格動向に基づき時点修正して求めた価額により評価することとなる。
 しかしながら、P国における土地使用権の価格動向については把握することができないことから、上記(2)のロにより、K社の土地使用権の相続税評価額は、その取得時における時価を表していると認められる取得価額を基に時点修正して求めた価額、すなわち使用期間に応じて減価させた金額によることが相当である。
 K社の本件直前期末の貸借対照表(別表4)に記載された土地使用権の金額は、上記(1)のハの(イ)のとおり、その取得価額を基に使用期間に応ずる減価を反映したものとなっており、加えて、本件直前期末から本件受贈日までの間は6か月に満たないことから、K社の本件直前期末の貸借対照表(別表4)に記載された土地使用権の金額を本件受贈日における相続税評価額とみても、これを不合理とする特段の事情は認められない。
 そうすると、K社の土地使用権の相続税評価額は、121,574,876円である。
B L社の土地使用権
 上記(1)のハの(ロ)のとおり、L社が土地使用権を本件受贈日前3年以内に取得しているので、L社の土地使用権は、前記1の(3)のハの評価通達185のかっこ書の定めにより、本件受贈日における通常の取引価額に相当する金額により評価することとなる。
 しかしながら、本件受贈日におけるL社の土地使用権の通常の取引価額に相当する金額については把握することができないことから、当該土地使用権の相続税評価額は、その取得時における時価を表していると認められる取得価額を使用期間に応じて減価させた金額によることが相当である。
 L社の本件直前期末の貸借対照表(別表5)に記載された土地使用権の金額は、上記(1)のハの(ロ)のとおり、R市不動産権利証に記載された当該土地使用権の使用期間の始期から間もないため取得価額が減価しないものとして計上された本件直前期末の金額であり、加えて、本件直前期末から本件受贈日までの間は6か月に満たないことから、L社の本件直前期末の貸借対照表(別表5)に記載された土地使用権の金額を本件受贈日における通常の取引価額に相当する金額とみても、これを不合理とする特段の事情は認められない。
 そうすると、L社の土地使用権の相続税評価額は、273,513,488円である。
C 以上によれば、本件土地使用権の相続税評価額は、上記A及びBの合計額395,088,364円であり、本件決定処分の相続税評価額と同額である。
(ロ) 本件建物
 本件建物は、上記(1)のニのとおり、K社が本件受贈日前3年以内に取得したものであるから、前記1の(3)のハの評価通達185のかっこ書の定めにより、本件受贈日における通常の取引価額に相当する金額により評価することとなる。
 しかしながら、本件受贈日における本件建物の通常の取引価額に相当する金額については把握することができないことから、本件建物の相続税評価額は、その取得時の時価を表していると認められる取得価額を使用期間に応じて減価させた金額によることが相当である。
 K社の本件直前期末の貸借対照表(別表4)に記載された本件建物の金額は、上記(1)のニのとおり、本件建物の取得価額に基づきその使用期間に応ずる減価を反映したものとなっており、加えて、本件直前期末から本件受贈日までの間は6か月に満たないことから、K社の本件直前期末の貸借対照表(別表4)に記載された本件建物の金額を本件受贈日における通常の取引価額に相当する金額とみても、これを不合理とする特段の事情は認められない。
 そうすると、本件建物の相続税評価額は、492,460,365円であり、本件決定処分の相続税評価額と同額である。
(ハ) 本件建設中資産
 本件建設中資産は、上記(1)のホの(イ)のとおり、建設中の建物及び建物と一体となった附属設備であり、その金額は、上記(1)のホの(ロ)のとおり、本件直前期末までに本件建設中資産に投下された費用の金額である。
 ところで、評価通達91《建築中の家屋の評価》は、建築中の家屋の価額をその家屋の費用現価の100分の70に相当する金額によって評価する旨、評価通達92《附属設備等の評価》の(1)は、家屋と構造上一体となっている設備は家屋の価額に含めて評価する旨、それぞれ定めているので、これらによれば、本件建設中資産の相続税評価額は、K社及びL社の本件直前期末の各貸借対照表(別表4及び別表5)に記載された建設仮勘定の額の100分の70に相当する金額となる。
 そうすると、本件建設中資産の相続税評価額は、K社が28,289,235円、L社が600,029,801円となるので、これらを合計した628,319,036円であり、本件決定処分は、K社及びL社の本件直前期末の各貸借対照表(別表4及び別表5)に記載された建設仮勘定の金額に100分の70を乗じないで計算しているので、その計算には誤りがある。
(ニ) 本件機械設備
 本件機械設備は、評価通達129《一般動産の評価》の定めにより、本件受贈日における調達価額に相当する金額により評価することとなるが、これが明らかでない場合には、本件機械設備と同種及び同規格の新品の本件受贈日における小売価額から、取得の時から課税時期までの期間の償却費の合計額又は減価の額を控除した金額により評価することとなる。
 しかしながら、本件受贈日における本件機械設備の調達価額に相当する金額並びに本件機械設備と同種及び同規格の新品の小売価額については把握することができないことから、本件機械設備の相続税評価額は、その取得時の時価を表していると認められる取得価額を使用期間に応じて減価させた金額によることが相当である。
 J社及びK社の本件直前期末の各貸借対照表(別表3及び別表4)に記載された機械設備の金額は、上記(1)のヘのとおり、本件機械設備の取得価額に基づき使用期間に応ずる減価を反映したものとなっており、加えて、J社及びK社の本件直前期末から本件受贈日までの間は6か月に満たないことから、J社及びK社の本件直前期末の各貸借対照表(別表3及び別表4)に記載された機械設備の金額を本件受贈日における調達価額に相当する金額とみても、これを不合理とする特段の事情は認められない。
 そうすると、本件機械設備の相続税評価額は、J社及びK社の本件直前期末の各貸借対照表(別表3及び別表4)に記載された機械設備の金額の合計額283,343,065円であり、本件決定処分の相続税評価額と同額である。
(ホ) 以上によれば、本件各資産の相続税評価額は、上記(イ)ないし(ニ)の合計額1,799,210,830円であり、これは本件決定処分の本件各資産の相続税評価額を下回る。

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(5) 本件出資の相続税評価額

イ 本件出資及び本件各関連会社の純資産価額の計算方法
(イ) 「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」と題する通達(平成2年12月27日直評23・直資2−293、国税庁長官通達。ただし、平成18年12月22日課評2−31・課資2−10・課審6−14による改正前のものをいう。)の「第5表1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の2の(4)は、課税時期における資産及び負債の金額により行うこととされている1株当たりの純資産価額の計算について、評価会社が課税時期において仮決算を行っていないため、課税時期における資産及び負債の金額が明確でない場合において、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため純資産価額の計算に影響が少ないと認められるときは、直前期末の資産及び負債の相続税評価額及び帳簿価額により純資産価額を計算しても差し支えない旨定めており、この取扱いは、課税時期における純資産価額が明確でない場合の合理的な算定方法として、当審判所においても相当であると認められる。
 H社及び本件各関連会社は、本件受贈日において仮決算を行っておらず、また、本件直前期末から本件受贈日の間に、これらの資産及び負債について著しく増減があったことを示す資料もなく、相続税評価額の計算に影響があるとは認められないことから、H社及び本件各関連会社の純資産価額は、本件直前期末の貸借対照表に記載された資産及び負債の金額を基に計算することが相当である。
(ロ) なお、H社の純資産価額については、同社の本件直前期末の資産の金額に、同社の本件直前期末から本件受贈日までの間に確定したJ社及びK社からの配当金の金額に前記1の(4)のロの(ホ)のH社の出資割合を乗じた金額を加算して計算することとなり、その加算する金額は、J社○○○○円及びK社○○○○円の合計額○○○○円である。
ロ 本件各関連会社の純資産価額
 上記イの(イ)により、本件各関連会社の純資産価額は、上記(4)のロの(ホ)の本件各資産の相続税評価額及び本件各関連会社の本件直前期末の各貸借対照表(別表3ないし別表5)を基に計算することとなるから、その純資産価額は、別表6ないし別表8の「課税時期現在の純資産価額」欄に記載された金額となり、J社が○○○○円、K社が○○○○円、L社が○○○○円である。
ハ H社の本件各関連会社への出資の相続税評価額
 H社の本件各関連会社への出資の相続税評価額は、上記ロの金額に、前記1の(4)のロの(ホ)のH社の本件各関連会社への出資割合をそれぞれ乗じて計算した金額となり、J社が○○○○円、K社が○○○○円、L社が○○○○円である。
ニ H社の出資1口当たりの純資産価額
 前記1の(3)のハ記載の評価通達185の定めにより、H社の純資産価額は、H社の本件直前期末の貸借対照表(別表2)に記載された本件各関連会社への出資金以外の資産の金額に、上記イの(ロ)のJ社及びK社からの配当金の金額及び上記ハのH社の本件各関連会社への出資の相続税評価額を加算し、H社の本件直前期末の貸借対照表(別表2)に記載された負債の金額の合計額及び清算所得に係る法人税等相当額を控除することになるところ、H社が所在するQ区においては、清算所得に対する法人税等の課税が行われないことから、H社の純資産価額の計算においては清算所得に係る法人税等相当額の控除を行わないことが相当である。
 そうすると、H社の純資産価額は、別表9のとおり、○○○○円となり、H社の出資1口当たりの純資産価額は、この金額を総出資口数○○○○口で除した1,590円となる。
ホ したがって、本件出資の相続税評価額は、上記ニのH社の出資1口当たりの純資産価額1,590円に、請求人が受贈した口数○○○○口を乗じた金額となり、○○○○円である。

(6) 本件決定処分及び本件賦課決定処分について

 本件出資に係る贈与税の課税価格は、上記(5)のホと同額の○○○○円であり、これに基づき納付すべき税額及び無申告加算税の額を計算すると、別表10の「審判所認定額」欄のとおり、納付すべき税額は○○○○円、無申告加算税の額は○○○○円となり、これらの金額は、本件決定処分の納付すべき税額及び本件賦課決定処分の無申告加算税の額をいずれも下回るから、原処分はいずれもその一部を取り消すべきである。

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