ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.76 >> (平20.10.2、裁決事例集No.76 450頁)

(平20.10.2、裁決事例集No.76 450頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人D、同E及び同F(以下それぞれ、「請求人D」、「請求人E」及び「請求人F」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)が、相続財産である宅地について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用があるとして相続税の申告をしたところ、原処分庁が、相続の開始の直前において、被相続人が当該宅地を居住の用に供していたとはいえないから、上記特例の適用はできないとして更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、被相続人は介護のため老人ホームに入所していたのであり、当該宅地はなお居住の用に供していた宅地に該当するとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人D及び請求人Eは、平成16年6月○日に死亡したG(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ロ 次いで、請求人らは、原処分庁所属の職員の調査を受け、平成19年1月24日、請求人D及び請求人Eは、別表1の「修正申告等」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を、また、請求人Fは、同表の「期限後申告等」欄のとおり記載した申告書(以下「本件期限後申告書」という。)を、それぞれ原処分庁へ提出した。
ハ これに対し、原処分庁は、平成19年2月27日付で、請求人D及び請求人Eに対し、別表1の「修正申告等」欄のとおりの過少申告加算税の各賦課決定処分をし、また、請求人Fに対して、同表の「期限後申告等」欄のとおりの無申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 更に、原処分庁は、平成19年6月27日付で、請求人らに対し、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)、過少申告加算税の各賦課決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をした(以下、過少申告加算税の各賦課決定処分と無申告加算税の賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。)。
ホ 請求人らは、平成19年7月18日、上記ニの各処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月17日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人らは、平成19年11月12日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。
 なお、請求人らは、請求人Dを総代として選任し、同月21日、その旨を届け出た。

トップに戻る

(3) 関係法令

 租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第69条の4第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続又は遺贈に係る被相続人若しくは当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(以下「被相続人等」という。)の事業の用若しくは居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。)で財務省令に定める建物若しくは構築物の敷地の用に供されているもので政令で定めるもの(以下「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係るすべての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択したもの(以下「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下「小規模宅地等」という。)に限り、相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次に掲げる小規模宅地等の区分に応じ、次に定める割合を乗じて計算した金額とする旨規定している(以下「本件特例」という。)。
イ 特定事業用宅地等である小規模宅地等、特定居住用宅地等である小規模宅地等、国営事業用宅地等である小規模宅地等及び特定同族会社事業用宅地等である小規模宅地等
 100分の20
ロ 上記イに掲げる小規模宅地等以外の小規模宅地等
 100分の50

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によって認められる事実、又は、各事実末尾記載の証拠により容易に認定できる事実である。
イ 本件被相続人(明治○年○月○日生)の共同相続人は、養子である請求人D及び請求人E(以下「請求人Dら」という。)の2名であり、請求人Fは、本件相続に係る受遺者である。
ロ 本件修正申告書及び本件期限後申告書に記載された相続財産の種類及びその価額並びに債務控除の金額は、要旨別表2のとおりである。
 当該相続財産のうち、別表2記載の土地(P市p1町○丁目○番の宅地495.86平方メートル、以下「本件宅地」という。)は、本件被相続人が昭和48年12月に新築した家屋(P市p1町○丁目○番地所在の家屋66平方メートル、以下「本件家屋」という。)の敷地である。
 本件被相続人は、本件家屋の新築後、同家屋に一人で居住しており、また、本件相続の開始時に同人が生計を一にする親族はなかった(請求人Dの当審判所に対する答述)。
ハ 本件被相続人は、平成13年5月15日に、H社が運営する、厚生労働省類型・介護付終身利用型有料老人ホームである「○○○○」(Q市q町○丁目○番地所在、以下「本件老人ホーム」という。)にショートステイ(短期入所サービス)で入所した。
ニ 本件被相続人は、平成13年6月1日付で、H社との間で、入所契約(以下「本件入所契約」という。)を締結し、本件老人ホームに入所した。
 本件入所契約は、H社が、本件被相続人が心身共に充実安定した生活を送ることを目的として、同人に対し、本件老人ホームの専用居室及び共用施設(浴室、サウナ、集会所、茶室、図書室及び食堂等)を終身利用させ、介護サービスを提供することを定めていた。一方、同契約では、本件被相続人が、H社に対し、入所預り金○○○○円を支払い、本件入所契約に定めるところを承認し必要な費用を支払うべきことも定めていた。
ホ 請求人らは、本件申告書、本件修正申告書及び本件期限後申告書において、本件宅地は、本件相続の開始の直前において、本件被相続人の居住の用に供されており、そのうち200平方メートルについて本件特例の適用があるとして、その課税価格を計算した。
 これに対し、原処分庁は、本件相続の開始の直前における生活の拠点は本件老人ホームであり、本件宅地は本件特例の対象となる宅地に該当しないとして、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分をした。

トップに戻る

2 主張

(1) 請求人ら

 次のとおり、本件家屋は、本件相続の開始の直前における本件被相続人の生活の拠点であり、本件被相続人の居住の用に供されていたのであるから、課税価格に算入すべき本件宅地の価額の計算に当たっては、本件特例の適用を認めるべきである。
イ 本件被相続人が本件老人ホームに入所したのは、本件被相続人を本件家屋で介護することが困難になったためであること及び併設されている病院で十分な治療が受けられることからである。
 したがって、本件老人ホームの一室は、病院の一室に代わるものであり、介護を要する者にとって通常の日常生活が送れる場所ではないから、生活の拠点とはなりえない。
ロ 本件被相続人は介護を受けるために本件老人ホームに入所しており、元気になって本件家屋に帰ることを望んでいたため、本件家屋は、いつでも本件被相続人が生活できるように維持管理されていた。
 したがって、本件被相続人が本件老人ホームで起居していたことは一時的なことであるから、本件被相続人の生活の拠点は、本件老人ホームへは移動しておらず、本件家屋に置かれていたとみるべきである。
ハ 本件被相続人の住民票、健康保険証及び介護保険証に記載された住所は、本件家屋の所在地であり、当該保険に係る保険料はP市に支払い、保険給付も受けていた。

(2) 原処分庁

イ 本件特例の適用の対象となる特例対象宅地等は、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋の敷地等であるところ、1本件被相続人は、本件老人ホームへの入所期間中において、一時的な入院以外は外泊及び外出をしていないこと、2本件被相続人は、本件入所契約により、本件老人ホームに係る施設の終身利用に係る権利(終身利用権)を取得していること、及び3本件老人ホームの居室は、通常の生活ができる施設を有していると認められること等の事実を総合勘案すると、本件被相続人の生活の拠点は、本件老人ホームに入所した平成13年5月15日から本件相続の開始日まで本件老人ホームに存していたと認められる。
 なお、本件被相続人に対する介護施設への入所の必要性は存したかもしれないが、本件老人ホームに入所してからの通院状況及び本件老人ホームは医療施設ではないこと等の事実を総合勘案すると、本件老人ホームの入所を病院施設の入院と同視することはできない。
ロ 本件特例の適用について
 上記イのとおり、本件被相続人の生活の拠点は、平成13年5月15日の本件老人ホームへの入所から本件相続の開始の直前まで本件老人ホームに存していたと認められる。
 そして、本件老人ホームへの入所は一時的なものではなく、また、病院施設への入院と同視することもできないから、本件宅地は特例対象宅地等に該当しない。
 したがって、本件特例の適用を受けることはできない。

トップに戻る

3 判断

(1) 本件各更正処分について

イ 法令解釈
 本件特例は、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた小規模な宅地については、一般に、それが相続人の生活基盤の維持のために欠くことができないものであって、相続人において事業の用又は居住の用を廃してこれを処分することに相当の制約があるのが通常であることから、相続税の課税上、特別の配慮を加えることとしたものと解されるところ、本件特例の適用対象となる措置法第69条の4第1項に規定する被相続人等の居住の用に供されていた宅地等とは、相続開始の直前において、被相続人等が現に居住の用に供していた宅地等をいうものと解され、当該特例対象宅地等を敷地とする建物が現に存在し、これを居住の用に供している場合がこれに当たると解される。
 ただし、被相続人の相続開始の直前に当該建物を居住の用に供していない場合であっても、当該建物が一時的に空き家になっていると認められる客観的事情、例えば、相続開始前に病気療養のため入院していたなどの事情があれば、その建物が入院後他の用途に供されているなど、空き家を再び居住の用に供する予定がなかったと認めるに足りる特段の事情がない限り、社会通念上、被相続人の生活の拠点がなおその建物に置かれていたと解することができ、当該建物を居住の用に供していると認めるのが相当である。
ロ 認定事実
 上記1の(4)の事実、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件被相続人は、上記1の(4)のロのとおり、本件家屋の新築後、同家屋に一人で居住していた。
(ロ) 本件被相続人は、風邪をこじらせ、平成13年3月27日から同月31日まで、P市p2町所在のJ病院に入院した。同病院を退院した後、本件被相続人は、昼夜が逆転した生活を送るようになり、食べ物をあまり摂らなくなり、介護を要する状態になった。そのため、請求人Dらは、本件家屋へ通って本件被相続人の介護に当たっていたが、本件被相続人の要介護状態は改善せず、本件家屋で本件被相続人の介護を続けるのが困難となった。
 そこで、請求人Dらは、ケアマネージャーの助言を受け、病院が併設されている介護施設を探した。
(以上につき、請求人Dの当審判所に対する答述、同人の原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対する申述)
(ハ) 請求人Dが、本件老人ホームへ入所に関する相談をしたところ、ショートステイで体験利用できるとの提案があったので、上記1の(4)のハのとおり、本件被相続人は、ショートステイで入所し、更に、本件老人ホームで安定して面倒を見てもらうために、上記1の(4)のニのとおり、本件入所契約を締結した。
 本件入所契約は、介護付終身利用型の契約であり、本件被相続人が自己都合により解除したとき、他の入居者の生活又は健康に重大な影響を及ぼすおそれ(ただし、認知症と病気の人を除く。)などの解除事由があり、本件老人ホームが解除したときなど契約の終了事由に該当しない限り、本件被相続人は終身にわたって施設利用及び介護サービスの提供を受けられた。
 本件入所契約では、上記1の(4)のニのとおり、入所時に、預り金○○○○円を支払うことが定められていたが、この預り金は、1年ごとに○○○○円ずつ償却され、3年経過後には契約終了等の事由が生じても返還されないこととされていた。
 本件入所契約の手続は、請求人Dらが本件被相続人に代わって行ったが、上記預り金は、契約時に○○○○円、平成13年7月26日に○○○○円を本件被相続人の預金から支払った。
 また、本件被相続人は、本件老人ホーム入所時、○○○と○○○の症状があり、歩行、入浴、排泄、食事等の日常生活動作について介護を必要とする状態で要介護認定を受けており、介護保険及び健康保険から給付が受けられたことから、請求人Dらは、本件老人ホームの月額利用料は、これらの給付金で賄うこととし、それで不足する分は本件被相続人の年金から支払うこととした。
(以上につき、本件入所契約に係る契約書、H社発行の領収書、請求人Dの当審判所に対する答述、本件老人ホーム事務局職員の調査担当職員及び異議申立てに係る異議調査担当職員に対する各申述)
(ニ) H社は、介護保険法上の特定施設入居者介護事業者の指定を受けており、同社が運営する本件老人ホームは、入居者に対して施設を利用させるとともに、介護サービスを提供しており、その入居対象者は65歳以上で、要介護1から5の介護が必要な者でも終身入居可能な施設である。本件老人ホームには、K病院が隣接しており、入居者は同病院の診療を受けることができる。
 本件老人ホームの専用居室(一般居室と介護居室があり、面積は37.54平方メートル以上である。)には、風呂、トイレ、造り付けのクローゼット、ベッド、椅子、流し、湯沸かし用の電熱器が備え付けてあり、生活に必要なものがそろっている。また、入居者のための食堂、浴室、茶室、和室、ラウンジ及び機能訓練室などの共用施設を有している。
 本件老人ホームの入居者は、次の介護サービス等の提供が受けられる。
A 1食事の提供、2シーツ交換、居室清掃、洗濯などの入居者の生活上必要とされるサービス及び3健康診断、生活相談、機能訓練などの健康管理に関するサービスなど、月額利用料に含まれるサービス
B 歩行、食事、排泄、入浴及び衣服の着脱などの日常生活動作に係る介助など、介護保険給付及び介護費用により本件老人ホームが提供する介護サービス
C 月額利用料に含まれないおむつ代など、実費負担の必要なサービス
(以上につき、本件老人ホームの「入居の案内」、「有料老人ホーム重要事項説明書」)
(ホ) 本件被相続人は、本件老人ホームに入所後、L病院に2回入院した(平成15年3月16日から同月20日まで、平成16年5月5日から同年6月○日に死亡するまで)以外には、外泊及び外出をしたことはなく、本件家屋に戻ったことも一切なかった(本件老人ホームの介護記録、請求人Dの調査担当職員に対する申述)。
 本件老人ホームには、生活に必要なものが一式そろっていたので、本件被相続人が本件老人ホームに入所した後も、本件家屋に家財道具は置いたままであり、本件家屋の電気、ガス、水道及び電話は、本件被相続人が居住していた状態のまま契約を継続していた。本件被相続人が本件老人ホームに入所している間、本件家屋は、第三者に賃貸されておらず、空き家であった。
 なお、本件被相続人の住民登録は、昭和48年12月21日から死亡するまでの間、本件家屋の所在地にあり、本件老人ホーム入所後も移動されなかった。
(以上につき、請求人Dの調査担当職員に対する申述及び当審判所に対する答述、本件被相続人の住民票除票)
ハ 本件被相続人の相続の開始の直前において、上記ロの(ホ)のとおり、本件家屋は現に居住の用に供していなかったので、本件老人ホームへの入所が本件家屋を空き家にしていたのが一時的であるとする客観的事情に該当するかを検討すると、以下のとおりである。
 まず、本件老人ホームへの入所の目的は、上記ロの(ロ)、(ハ)のとおり、本件被相続人が、歩行、入浴、排泄、食事等の日常生活動作について介護を必要とし、単身生活ができない状態で、要介護認定を受けており、同居していない請求人Dら親族において介護することが困難であったことから、ケアマネージャーの助言などを受けて、本件老人ホームに入所するに至ったものであり、本件被相続人の介護を目的としたものであったと認められる。
 そして、上記ロの(ハ)、(ニ)のとおり、本件老人ホームは、要介護1から5の介護が必要な者でも終身入居可能な介護付終身利用型有料老人ホームであり、入所者は、終身にわたって十分な広さと生活に必要な施設を完備した専用居室を利用でき、食事、家事、健康管理などに関するサービス、歩行、食事、排泄、入浴及び衣服の着脱などの日常生活動作に係る介助など、生活全般にわたる介護サービスの提供を受けることができたのであるから、本件被相続人は本件老人ホームで終身生活することが可能であった。また、上記ロの(ハ)のとおり、本件被相続人は、入所の対価として、3年間で○○○○円全額が償却される預り金を入所時に本件被相続人の預金から支払っており、その他月額利用料は、介護保険及び健康保険からの給付金及び本件被相続人の年金で賄うことができたから、経済的にも本件被相続人は終身にわたって本件老人ホームを利用することが可能であった。
 しかも、実際に、上記ロの(ホ)のとおり、本件被相続人は、相続開始まで本件老人ホームから、入院治療を受けた以外に外出したことはなく、同ホームで生活していた。
 そうすると、本件被相続人は、本件入所契約により、終身の介護を受けることを前提として、本件老人ホームに入所したものといわざるを得ず、本件老人ホームへの入所は、客観的に見て一時的なものであったとはいえない。
 したがって、本件相続の開始の直前において、本件被相続人が本件家屋を居住の用に供していたとはいえない。
ニ 請求人らは、本件老人ホームの一室は、病院の一室に代わるものであり、介護を要する者にとって通常の日常生活が送れる場所ではないから、生活の拠点とはなりえないと主張する。
 しかしながら、上記ロの(ニ)のとおり、本件老人ホームは、終身利用を前提とした施設であり、最低37.54平方メートル以上の専用居室と、日常生活に必要な設備を備えており、生活全般にわたる介護サービスの提供が受けられたものであるから、通常の日常生活が送れる場所ではないとはいえない。
 また、請求人らは、本件被相続人は介護を受けるために本件老人ホームに入所しており、元気になって本件家屋に帰ることを望んでいたため、本件家屋は、いつでも本件被相続人が生活できるように維持管理されていたとも主張する。
 しかし、上記イのとおり、相続の開始の直前に現に居住の用に供していなくても、一時的に空き家になっていると認められる客観的事情がある場合には、生活の拠点がなお当該空き家にあると解されるのは、例えば、入院治療の場合には、客観的に見て、短期間で治療が終了し帰宅することを予定していると認められ、社会通念上、当該空き家になお生活の拠点が置かれているといえるからと解される。ところが、本件被相続人は、上記ロの(ハ)のとおり、本件老人ホーム入所時、歩行、入浴、排泄、食事等の日常生活動作について介護を必要とする状態で要介護認定を受け、○○○と○○○の症状があり、その介護のために本件入所契約を締結したのであり、契約の内容は、本件被相続人から解除を申し出るなどしなければ終身利用できるものであり、将来の入所費用も本件被相続人の介護保険、年金等によって賄うことが予定されていた。このような本件入所契約の締結に至る経緯及びその内容に照らすと、本件入所契約に基づく入所は、施設利用及び介護サービスの終期が定められたショートステイとは異なり、客観的に見て短期間の施設利用及び介護サービスの終了後に帰宅が予定されていたとはいえない。
 そして、一時的に空き家となっているか否かの判断は、上記イのとおり、客観的事情の有無で判断すべきものであるから、たとえ本件被相続人が帰宅を望んでいたとしても、本件老人ホームへの入所が客観的に見て一時的なものであったとはいえない。
 そうすると、本件被相続人の住民登録を本件家屋所在地のままとし、家財道具を残し、電気ガス水道等の契約を継続して、本件家屋を将来居住の用に供する状態を保持していたとしても、本件被相続人が、本件相続の開始の直前において、本件家屋を居住の用に供していたとはいえない。
ホ 上記ハ及びニのとおり、本件相続の開始の直前において、本件被相続人は本件家屋を居住の用に供していたとは認められないから、課税価格に算入すべき本件宅地の計算に当たり本件特例の適用はできない。これに基づき、請求人らの課税価格及び納付すべき相続税額を計算すると、これらの金額は、いずれも別表3の原処分庁主張額と同額となるから、本件各更正処分は適法である。

トップに戻る

(2) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人D及び請求人Eには、国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの。)第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、また、請求人Fには、同法第66条第2項により準用される同法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同法第65条第1項及び第66条第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る