別紙2

当事者双方の主張

 徴収法第39条かっこ書にいう「受けた利益の限度」の額の算定に当たり本件相続税を控除すべきか否かについて

原処分庁 請求人
 次のとおり、控除すべきでない。  次のとおり、控除すべきである。
(1) 本件相続税の性質について
 相続時精算課税制度は、「納税者の選択により将来相続関係に入る特定の親子間の資産移転について、贈与時には相続時精算課税に係る贈与税を納付し、その後、その贈与をした者の相続開始時には、相続時精算課税制度に係る贈与により取得した財産と相続又は遺贈により取得した財産を合計した価額を基に計算した相続税額から既に支払った相続時精算課税制度に係る贈与税を控除した金額を納付することにより、贈与税・相続税を通じた納税をすることができる」制度であり、飽くまで相続税の算出を行うものであるから贈与税の精算と解する余地はない。
(1) 本件相続税の性質について
 相続時精算課税制度は、同制度の趣旨(贈与時の非課税枠の拡大と税率を一律20%とすることにより生前における贈与による資産の移転の円滑化に資する)に照らすと、相続を停止条件として相続税の申告手続で贈与税を精算する義務が予定されているものである。このことは、相続時精算課税制度について「相続時精算課税制度においては、制度創設の趣旨を踏まえ、相続時の精算を前提として贈与時の税負担を大幅に軽減することとされている。したがって、相続時における財産の取得の有無にかかわらず、相続時精算課税制度の適用を受ける贈与により取得した財産について特定贈与者の死亡に係る相続税の計算上精算される必要がある。」と解説されていることからも明らかであるから、相続税申告を経由した実質的な贈与税の精算と解すべきである。
 そして、徴収法第39条は、滞納者の親族が滞納者から財産上の利益を受けた時は、その「受けた利益の限度」で第二次納税義務を負うものとしており、本件の場合、同条所定の「受けた利益の限度」の算定に当たり、本件相続税を控除すべきか否かが問題になるところ、最高裁昭和51年10月8日第二小法廷判決において「国税徴収法第39条にいう『受けた利益の限度の額』は、当該受益の時を基準として算定すべきものであるから、その算定上受益財産の価額から控除すべき出捐は、右受益の時においてその存否及び数額が法律上客観的に確定しているものであることを要すると解するのが相当である。」と判示(以下「最高裁昭和51年判決」という。)していることからすると、飽くまでも受けた利益の限度の額の算定は受益の時を基準として客観的に判断すべきであり、そうすると本件相続税は、受益後の事後的支出であるから控除すべきではないと解すべきである。  そして、徴収法基本通達第39条関係12の(7)において、「上記(6)の対価又は費用には、その金額が確定していなくても、1その存在が確実と認められるものについては、2納付通知書を発する時の現況によって確実と認められる範囲の金額を含めるものとする。」旨定めているところ、本件の場合は、原処分庁が、本件納付告知処分の段階で、贈与者(本件滞納者)の死亡と相続人の不存在(相続人全員の相続放棄)の事実を既に知悉していたのであるから、本件相続税の存在は確実であるとともに、その税額がいくらになるかを推定することは可能であったから、本件相続税は当然に受けた利益から控除すべきものである。
 また、徴収法基本通達第39条関係12の(6)のロは、「(前略)その物の譲受けと直接関係のあるものの額」を控除するとし、その物の譲受けに直接関係しない限り控除しないことを明確にしているところ、本件相続税は、第二次納税義務の追求の起因となった無償譲渡に係る財産に対して課税されたものではあるが、飽くまで、本件滞納者の死亡によって開始した相続に係る相続税として課税されたものであり、上記無償譲渡による財産の譲受けそのものに関して課税されたものではないことから、徴収法基本通達第39条関係12の(6)のロの「譲受けと直接関係のあるもの」には該当しないことは明らかである。  なお、徴収法基本通達第39条関係12の(6)は、受益財産を保有あるいはその譲受けを基因として課された固定資産税や市町村民税等はその物の譲受けに直接関係しないから控除できない旨を明らかにしたものであって、本件相続税のように実質的には贈与税の精算に当たる支出について定めたものではない。
 したがって、相続時精算課税制度を選択していたがために発生した本件相続税は、受益後の支出であったとしても贈与税の精算分と解し、受益に関連する租税として、原処分庁が請求人の贈与税の修正申告に係る納付税額を「譲受けのために支払った費用」と認め原処分の一部を取り消したのと同様に、受けた利益の限度の額の計算上控除すべきである。
(2) 本件相続税の控除を認めないことは過重な負担ではない
 徴収法第39条の第二次納税義務は、「納税者の財産につき滞納処分を執行しても、なおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、形式的には財産が第三者に帰属しているとはいえ、実質的にはこれを否認して、納税者にその財産が帰属していると認めても公平を失しないような場合に、その形式的な財産帰属を否定して、私法秩序を乱すことを避けつつ、その形式的に財産が帰属している第三者に対し補充的、第二次的に納税者の納税義務を負担させることにより租税徴収の確保を図ろうとする制度」(大阪高裁昭和48年11月8日判決)であって、相続時精算課税制度とは趣旨・目的を異にしているものである。
 そして、最高裁昭和51年判決も、「国税徴収法の前記規定(注:徴収法第39条の規定)が、滞納国税の徴収を確保するため、滞納者の親族その他の特殊関係者に対し、その受けた利益が現存しなくてもなお『受けた利益の限度』において第二次納税義務を負わせている趣旨にかんがみれば、上記(1)のように解したからといって、所論(注:第二次納税義務の制度は、主たる納税義務に対し第二次的、すなわち附従的・補充的に納税義務を負担させることにより、税負担の公平と徴税手続の合理化を図るために認められているものであるから、第二次納税義務を課することにより第三者にその受けた利益以上の負担をかける結果となること、すなわち、第三者の固有の資産から持ち出しさせることまでも目的とするものではなく、そのような結果となることは不合理であり、到底許されないものといわなければならないとの上告理由)のいうように特殊関係者に対して不合理な税負担を強いるものであるとすることはできない。」と判示している。
 なお、第二次納税義務の限度額の算定に当たり、贈与税が控除されており、納付すべき本件相続税の額の計算に当たっても同贈与税額は控除されているのであって、過重な負担となるものではない。
(2) 本件相続税の控除を認めないことは過重な負担になる
 本来、徴収法第39条の第二次納税義務は、納税者と一定の関係にある者に対して、本来の納税義務者の租税について補充的、附従的に第二次納税義務を負わせることにより、徴収手続の合理化を図るために認められた制度であることからすると、第二次納税義務を課すことにより、第三者に受益以上の負担をかけること、すなわち、第三者の固有財産の持ち出しまでをも目的としたものではない。
 この考え方は、「第二次納税義務を課することにより(中略)第三者の固有の資産から持ち出しをさせることまでも目的とするものではなく、そのような結果になることは不合理であり、とうてい許されないものといわなければならない。」と判示した東京地裁昭和50年3月24日判決のほか、同旨のものとして「『第二次納税義務の意義は、あたかも不当利得返還制度におけるが如く、租税債権は無償譲受人等のいわば純利益の範囲において満足を図ることを予定したものと観念し、(中略)無償譲受人等の純利益について返還を求めることにある。』ことからすれば、徴収法第39条における第二次納税義務の告知に当たっては、『租税債権者の保護と無償譲受人等の権利の保護とが衡平の理念に従って調整されなければならず、原則として無償譲受人等の固有の財産的損失において租税の満足が許されるべきものではないと考えられることから(中略)無償譲受人等の支払った対価その他受益財産の取得に関して支出した費用を控除した額、と解すべきであろう。』」があり、広く認知されているところである。
 したがって、仮に本件相続税が、受けた利益の限度の額の計算上控除できないとすれば請求人が負うべき第二次納税義務は、請求人の受益額を超えて請求人の固有の財産にまで及ぶことが明白であるから、本件納付告知処分は、不当である。

トップに戻る