(平成24年2月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、断熱保温板金工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)を受け、所得税並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税及び地方消費税を併せて「消費税等」という。)の期限後申告をしたところ、原処分庁が、請求人は事業所得の金額並びに消費税の課税標準額を容易に知り得る状況にあり、確定申告をすべきことを十分に認識していたにも関わらず確定申告をしなかったことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすなどとして、所得税及び消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、隠ぺい又は仮装の事実はないとして、それらの全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成17年分ないし平成21年分(以下、併せて「本件各年分」という。)の所得税並びに平成20年1月1日から平成20年12月31日まで及び平成21年1月1日から平成21年12月31日までの各課税期間(以下、併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を不服として、平成23年4月26日に審査請求をしているが、この審査請求に至る経緯は、別表1及び2のとおりである。

(3) 関係法令

イ 通則法第66条《無申告加算税》
 第1項第1号は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該期限後申告に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨、ただし、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定し、第2項は、前項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額が50万円を超えるときは、同項の無申告加算税の額は、同項の規定に関わらず、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額(同項に規定する納付すべき税額が当該超える部分に相当する税額に満たないときは、当該納付すべき税額)に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨それぞれ規定している。
ロ 通則法第68条
 第2項は、通則法第66条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。
イ 請求人の住所等
 請求人の住所は、平成14年12月3日に、m県d市e町○−○からf市g町○−○に移され、平成17年7月12日にh市i町○−○に移され、その後、平成18年2月1日に肩書地に移された。これに伴い、請求人の納税地の所轄税務署長は、F税務署長からG税務署長を経てE税務署長となった。
ロ 請求人の事業の概要
 請求人は、平成18年3月までは、請求人の父Hから毎月定額で仕事を請け負っていたが、同年4月に、Hの事業を引き継ぎ、請求人名義のJという屋号で、Hの取引先であったK社から工事を請け負うようになり、断熱保温板金工事業を個人で営むようになった。
 なお、請求人が個人で営むようになった後の請求人の売上先は、K社1社のみであり、同社への売上代金は、全てL銀行j支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件預金口座」という。)に振り込まれていた。
ハ 請求人の青色申告承認申請書の提出状況及び平成16年分の所得税の確定申告の状況
 請求人は、F税務署長に対し、平成10年3月16日に、所得税の青色申告承認申請書を提出し、平成10年分以降の所得税の青色申告の承認を受けており、平成16年分の所得税の確定申告は、青色の確定申告書により法定申告期限内に行われた。

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2 争点

 請求人が法定申告期限までに本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件は満たされているといえるか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
(1) 所得税
 請求人は、次のとおり、本件各年分の事業所得の総収入金額及び必要経費を計算し、自らの所得金額を容易に知り得る状況にあり、また、所得税の確定申告をすべきこと及び所得金額を十分に認識していたにも関わらず、申告していない事実を隠ぺいした上、自己の租税負担を回避するために記帳及び申告をしていないことが認められ、原処分庁所属の徴収担当職員(以下「本件徴収担当職員」という。)から申告をしていないことを指摘されたにも関わらず、申告しなかったことは、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件は満たされているといえる。
イ 請求人は、確定申告をすると払わなければいけない税金が出てしまうこと及びk町商工会へ申告書類を持って行くと借入金があることがk町商工会に分かってしまうことから、所得税の確定申告をしなかったものであり、所得税の確定申告をすべきことを十分に認識していた。
ロ 請求人は、a市役所の職員が行った市民税の問い合わせに対して、「税務署で青色申告をしている」旨回答し、申告していない事実を意図的に隠ぺいした。
ハ 請求人は、平成18年3月まで毎月約30万円の所得があり、平成18年4月以降は毎月60万円の所得があったことを認識していた。
ニ 請求人は、平成18年6月に本件徴収担当職員から申告をしていないことを指摘されたにも関わらず、申告しなかったことは、「その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)に該当する。
(1) 所得税
 請求人は、経理に詳しくないのでどうやって申告すればよいか分からなかったため、法定申告期限までに確定申告書を提出できなかったのであり、所得を隠そうとして申告しなかったのではないから、隠ぺい又は仮装の事実はなく、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件は満たされているといえない。
(2) 消費税等
 請求人は、上記(1)に加え、売上先から消費税を受け取っており、売上金額が1,000万円を超えると、2年後に消費税等の確定申告をすべきことを十分に認識していたにも関わらず、申告をしなかったものであり、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件は満たされているといえる。
(2) 消費税等 
 請求人は、売上金額が3,000万円を超えた場合に確定申告が必要だと理解していたことに加え、経理に詳しくないのでどうやって申告すればよいか分からなかったため、法定申告期限までに確定申告書を提出できなかったのであり、隠ぺい又は仮装の事実はなく、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件は満たされているといえない。

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4 判断

(1) 法令解釈

 通則法第66条第1項に規定する無申告加算税は、申告納税制度を維持するためには、納税者により期限内に適正な申告が自主的にされることが不可欠であることに鑑みて、申告書の提出が期限内にされなかった場合の行政上の措置として課されるものであり、同法第68条第2項に規定する重加算税は、同法第66条第1項に規定する無申告加算税に代えて課されるものであるところ、この重加算税の制度は、納税者が納税申告書を提出しないことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の措置をすることによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。したがって、重加算税を課するためには、納税者が納税申告書を提出しなかったことそのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、納税申告書を提出しなかったこととは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせて納税申告書を提出しなかったことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から納税申告書を提出しないことによって租税負担を免れることを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき納税申告書を提出しなかったような場合には、重加算税の上記の賦課要件が満たされるものと解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件調査の経過
(イ) 平成22年7月14日の事前通知の際の状況
 請求人は、本件調査担当職員から本件調査の事前通知があった際に、平成17年分以降の所得税の確定申告をしていないこと、帳簿の記帳がないこと、売上げの請求書の控えはあるが集計していないこと、経費については全く未整理であることを申し出て、本件調査担当職員から、臨場調査の日までに、保存してある書類をノートのようなものに書き出して集計するように指示された。
(ロ) 最初の臨場調査の際の状況
 請求人は、都合により当初の臨場調査の日を3週間ほど延期したが、平成22年8月25日には、本件調査担当職員の指示に従い、本件各年分の事業所得の総収入金額及び必要経費の額についておおむね月別に集計したノート(以下「本件集計ノート」という。)、平成18年3月31日から平成22年8月10日までの売上げに係る請求書の控え(2冊)、平成19年5月から平成22年7月までの給料支払明細書の控え(3冊)、従業員全員の出勤状況を記載した平成18年3月、同年10月、平成19年4月から平成20年5月まで及び同年7月から平成22年8月までの間の出勤簿、平成19年分ないし平成21年分の給料賃金以外の必要経費に係る領収書、見積書の控え並びに本件預金口座の使用中の通帳を提示した。
 なお、請求人が記帳したものは、本件集計ノート以外にはなかったが、請求人は、本件調査に終始協力的であった。
(ハ) 帳簿書類の作成・保存状況等
 上記(ロ)のとおり、請求人は本件各年分の事業所得の金額を算定する上で必要となる書類等を全て保存していたわけではなく、また、本件調査担当職員の要請に基づいて短期間で作成可能であった本件集計ノートを請求人が本件各年分の法定申告期限までに作成していなかったが、これらの理由について、本件調査担当職員は請求人から聴き取っていない。
ロ 平成22年8月25日の臨場調査の際の本件調査担当職員に対する請求人の申述内容
(イ) 経理に詳しくないため、k町商工会に書類を持って行き申告をすると、サラ金等の借入金があることがk町商工会に分かってしまい、払わなければいけない税金も出てしまうので、確定申告をしなければならないことは分かっていたが、平成17年分以降一度も確定申告をしていない。
(ロ) a市役所の職員から市民税について何回か問い合わせがあったが、税務署に青色申告している旨説明すると、それ以降の連絡はなくなった。
(ハ) Hから仕事を請けていた平成18年3月までは、月に40万円の収入があり、手元に30万円くらいが残った。同年4月以降は、月に40万円くらい妻に渡し、自分も月に20万円くらい使うので、月に60万円くらいはもうけがあったと思う。
(ニ) 消費税等について売上先から消費税を受け取っており、売上げが1,000万円を超えると、2年後に消費税等の確定申告をしなければならないことは分かっていた。
ハ k町商工会の請求人に対する指導状況
 k町商工会は、請求人に対し、平成15年分及び平成16年分の所得税について、確定申告の前に、本人の集計に基づいて指導をしていたが、平成17年分以降の所得税については指導をしていない。
ニ 本件徴収担当職員による指摘等
(イ) G税務署の徴収担当職員は、平成18年5月15日に、請求人から電話により、平成17年7月13日付でa市に転居した旨の申出とともに、当時の滞納税額とその納付方法の質問を受け、まる1G税務署長と原処分庁に対し、「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」を提出する必要があること、まる2原処分庁に対し、平成17年分の所得税の確定申告書を提出するように伝え、その後、原処分庁に対し、徴収の引継ぎをした。
(ロ) 徴収の引継ぎを受けた原処分庁は、請求人に対して、その旨を通知したところ、平成18年6月21日に、請求人からの電話連絡を受けた本件徴収担当職員は、請求人から、納税について相談したい旨及び平成17年分の所得税の確定申告をしたい旨の申出を受け、平成18年6月末までに、確定申告をするために必要な書類を持参してE税務署に出向くよう伝えた。
 なお、この際、本件徴収担当職員が請求人に対し具体的に指摘した事項は、明らかでない。
ホ 本件調査の結果行われた期限後申告における本件各年分の事業所得の金額並びに本件各課税期間の課税標準額及び課税仕入れに係る消費税額の算定内容
(イ) 事業所得の金額
 事業所得の金額は、次のAからBを控除して算定された。
A 総収入金額
 総収入金額は、上記イの(ロ)の請求書の控え及び本件集計ノートのほか、本件調査担当職員が本件預金口座の入出金状況を照会した結果に基づき、算定された。
B 必要経費の額
 必要経費の額は、次の(A)ないし(C)の合計額とされた。
(A) 給料賃金及び支払手数料の各金額
 給料賃金及び支払手数料の各金額は、本件集計ノート及び本件調査担当職員が請求人から聴き取った内容に基づき、算定された。
(B) 上記(A)以外の金額
 平成17年分及び平成18年1月から同年3月までの間の上記(A)以外の各金額は、前記1の(4)のハのとおり、青色申告書により確定申告された平成16年分の総収入金額に上記(A)以外の金額が占める割合に基づいて、平成18年4月から同年12月までの間並びに平成19年分及び平成20年分の上記(A)以外の各金額は、上記Aの平成21年分の総収入金額に上記(A)以外の金額が占める割合に基づいて、それぞれ算定された。
(C) 青色申告特別控除額
 青色申告特別控除額は、いずれも100,000円とされた。
(ロ) 課税標準額及び課税仕入れに係る消費税額
A 課税標準額
 課税標準額は、上記(イ)のAの総収入金額が全て課税資産の譲渡等の対価の額に該当するとして、当該課税資産の譲渡等の対価の額に105分の100を乗じ、1,000円未満を切り捨てて算定された。
B 課税仕入れに係る消費税額
 課税仕入れに係る消費税額は、上記(イ)のBの(A)の給料賃金並びに租税公課及び損害保険料を除く必要経費の額が全て課税仕入れの額に該当するとして、当該課税仕入れの額に105分の4を乗じて算定された。

(3) 本件への当てはめ

イ 確定申告の必要性の認識及び無申告の意図について
 上記(2)のロの(ハ)のとおり、請求人は、Hから仕事を請けていた平成18年3月までは、月に40万円の収入があり、手元に30万円くらいが残り、同年4月以降は、月に40万円くらい妻に渡し、自分も月に20万円くらい使うので、月に60万円くらいはもうけがあったと思う旨申述していることから、請求人は、所得金額について認識していたものと認められる上、前記1の(4)のロ及びハのとおり、請求人は、Hから事業を引き継ぐ以前の平成16年分において、青色申告書により所得税の確定申告を法定申告期限内にしており、また、上記(2)のロの(イ)のとおり、平成17年分以降の確定申告をしなくなった理由は、k町商工会にサラ金等の借入金があることがk町商工会に分かってしまい、払わなければいけない税金も出てしまうことである旨申述するところ、同ハのとおり、平成16年分の確定申告がk町商工会の指導に基づきなされたものと認められることからすれば、上記各申述について特に信用性を疑うべき理由もなく、また、同ロの(ニ)のとおり、消費税等については、売上先から消費税を受け取っており、売上げが1,000万円を超えると、2年後に消費税等の確定申告をしなければならないことは分かっていた旨申述していることから、請求人は、確定申告の必要性を認識しており、また、請求人が申告しなかった理由の一つとして租税の負担を免れるという点があったものと認められる。
ロ 隠ぺい、仮装と評価すべき行為の有無について
 上記イのとおり、請求人は、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の確定申告をしなければならないことを十分に認識していたにも関わらず、それらの負担を免れるため法定申告期限までに確定申告をしなかったものであると認められる。しかしながら、以下のとおり、請求人には、隠ぺい、仮装と評価すべき行為は認められない。
 原処分庁は、請求人が、上記(2)のロの(ロ)のとおり、a市役所の職員から市民税について何回か問い合わせがあったが、税務署に青色申告している旨説明すると、それ以降の連絡はなくなった旨申述していることを踏まえて、前記3の「原処分庁」欄の(1)のロのとおり、請求人は、a市役所の職員が行った市民税の問い合わせに対して、「税務署で青色申告をしている」旨回答し、申告していない事実を意図的に隠ぺいした旨主張するが、前記1の(4)のハのとおり、請求人が少なくとも平成16年分の所得税は青色申告書で確定申告しているのは事実であり、また、確かに請求人は本件各年分の所得税は確定申告をしておらず、この点をもって、事実と異なる話をしたともいえるが、その話の相手方はa市役所の職員であるから、そのことをもって、積極的な隠ぺい、仮装行為があり、その隠ぺい、仮装したところに基づいて申告しなかったものともいえないし、租税負担を免れる意図を外部からもうかがい得る特段の行動と評価することもできない。
 その他、原処分庁は、前記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、請求人が売上先から消費税を受け取っており、売上金額が1,000万円を超えると、2年後に消費税等の確定申告をすべきことを十分に認識していたにも関わらず、申告をしなかった、同欄の(1)のニのとおり、請求人は、平成18年6月に本件徴収担当職員から申告をしていないことを指摘されたにも関わらず、申告しなかった、などと主張するが、いずれによっても、請求人が納税申告書を提出しなかったこととは別に、積極的な隠ぺい、仮装行為が存在し、これに合わせて納税申告書を提出しなかったものとはいえず、租税負担を免れる意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったともいえない。
 そして、前記1の(4)のロのとおり、請求人の売上先は、K社1社のみであり、同社への売上代金は、全て請求人名義の本件預金口座に振り込まれており、上記(2)のイの(イ)のとおり、請求人は、本件調査担当職員から本件調査の事前通知があった際に、平成17年分以降の所得税の確定申告をしていないこと、帳簿の記帳がないこと、売上げの請求書の控えはあるが集計していないこと、経費については全く未整理であることを申し出て、本件調査担当職員から、臨場調査の日までに、保存してある書類をノートのようなものに書き出して集計するように指示され、同(ロ)のとおり、請求人は、最初の臨場調査が行われた平成22年8月25日には、本件調査担当職員の指示に従い、本件集計ノートのほか、保存されていた全ての書類を提示し、請求人が記帳したものは、本件集計ノート以外にはなかったが、請求人は、本件調査に終始協力的であったことが認められる。
 さらに、上記(2)のホのとおり、本件調査の結果行われた期限後申告における本件各年分の事業所得の金額並びに本件各課税期間の課税標準額及び課税仕入れに係る消費税額は、本件集計ノート及び本件調査担当職員が請求人から聴き取った内容あるいは平成16年分の確定申告内容に基づいて算定されたものである。
 また、上記(2)のイの(ハ)のとおり、請求人は本件各年分の事業所得の金額を算定する上で必要となる書類等を全て保存していたわけではなく、本件調査担当職員の要請に基づいて短期間で作成可能であった本件集計ノートを請求人が本件各年分の法定申告期限までに作成していなかったが、これらの理由について、本件調査担当職員は請求人から聴き取っておらず、当審判所の調査によっても、請求人が意図的にこれらを破棄したことなどをうかがわせる事実は認められない。
 これらの事情からしても、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等について、請求人が納税申告書を提出しなかったこととは別に、積極的な隠ぺい、仮装行為が存在し、これに合わせて納税申告書を提出しなかったものとは認められず、租税負担を免れる意図を外部からもうかがい得る特段の行動があるとも認められない。
 以上によれば、原処分庁の各主張はいずれも採用することができず、また、それらの主張の根拠としている各事実とその他の事実を総合してみても、申告とは別に隠ぺい、仮装と評価すべき行為があるとは認められないので、請求人が法定申告期限までに本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件が満たされているとはいえない。

(4) 本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性

 前記1の(3)のロのとおり、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等に係る重加算税は、無申告加算税に代えて賦課されるものであるところ、上記(3)のロのとおり、請求人が法定申告期限までに本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件が満たされているとはいえず、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の期限内申告書の提出がなかったことについて、同イのとおり、請求人が申告しなかった理由の一つとして租税の負担を免れるという点があったものと認められるのであるから、同法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」には該当しない。そうすると、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課要件は満たされていることとなり、これらの無申告加算税相当額を算定すると、別表3のとおりとなる。
 したがって、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分のうち、平成17年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分は、その全部が取り消されるべきであり、それ以外の重加算税の各賦課決定処分は、いずれも無申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消されるべきである。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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