(平成24年1月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が競売で取得した土地の所有権の移転登記を受けた後、納付した登録免許税の課税標準額が当該土地の実測地積を超える地積で計算されていたとして行った還付通知請求について、原処分庁が還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、競売で取得したa市c町○−○所在の土地(以下「本件土地」という。)について、民事執行法第82条《代金納付による登記の嘱託》第1項に規定する嘱託による所有権の移転の登記(以下「本件移転登記」という。)並びに差押え及び抵当権の各登記の抹消を受けるため、登録免許税法第23条《嘱託登記等の場合の納付》第1項の規定に基づき、登録免許税の額○○○○円(内訳:本件移転登記分○○○○円、差押え及び抵当権の各抹消登記分○○○○円)を平成22年8月19日に納付した(以下、この納付税額のうち本件移転登記に係る税額○○○○円を「本件税額」という。)。
ロ 請求人は、本件税額のうち○○○○円が過大な地積部分について課された過誤納金であるとして、平成23年1月25日付で登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定に基づく還付通知請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成23年2月1日付で還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成23年2月4日に審査請求をした。
ホ なお、原処分庁は、平成23年4月1日付人事異動により、E地方法務局登記官GからE地方法務局登記官Hとなった。

(3) 関係法令

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件税額は、登録免許税法附則第7条の規定に基づき、a市の平成22年1月1日現在の固定資産課税台帳に登録された本件土地の課税台帳価格○○○○円(以下「本件課税台帳価格」という。)を課税標準額(1,000円未満の端数切捨て)として計算されたものであり、当該課税台帳に登録された本件土地の地積(以下「本件登録地積」という。)は、登記地積と同じ473.37平方メートルであった。
ロ 請求人は、平成22年8月19日担保不動産競売による売却を原因として、平成22年8月23日に請求人の妻Hと共有(持分各2分の1)で本件移転登記を受けた。
ハ 請求人は、本件土地の地積が実測に基づく358.99平方メートル(以下「本件実測地積」という。)であるとして、平成22年12月10日にE地方法務局において錯誤を原因とする地積の更正登記を申請し、同月17日に本件土地の地積を358.99平方メートルに更正する登記を受けた。

(5) 争点

 本件税額の一部は、過大に納付された過誤納金に当たるか否か。

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2 主張

(1) 請求人

 請求人は、本件移転登記を受けるに当たり、本件登録地積に基づいて算定された本件課税台帳価格を課税標準額として計算した本件税額を納付したが、本件土地の実際の地積は本件実測地積のとおりであるから、本件移転登記に係る登録免許税の課税標準額は、本件課税台帳価格を本件登録地積で除した1平方メートル当たりの単価に本件実測地積を乗じた価額○○○○円(1,000円未満の端数切捨て)とすべきである。
 そうすると、本件税額と上記課税標準額から算定される登録免許税の額との差額は、過大に納付した過誤納金に当たる。

(2) 原処分庁

 登録免許税は、登記、登録等を担税力の間接表現として捉え、登記をしたという行為に対して画一的に課されるものであるから、本件移転登記を受けたことにより、請求人が求めた権利に係る公証行為が実現されている以上、その後、本件土地の地積が過大であることが判明したとしても、登録免許税法第9条の規定に基づき適法に確定した本件税額に何ら影響を与えるものではない。
 したがって、本件税額は、過大に納付されたものではないから、過誤納金に当たらない。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 登録免許税の課税標準
(イ) 登録免許税法第10条第1項に規定する不動産の価額
 登録免許税法第10条第1項は、不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額について、当該登記の時における不動産の価額による旨規定しているところ、当該登記の時における不動産の価額とは、当該登記の時における不動産の客観的交換価値、すなわち時価であると解される。
(ロ) 登録免許税法附則第7条に規定する課税台帳価格
 登録免許税法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額について、同法附則第7条は、当分の間、課税台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定しているが、これは、流通税的な性格を持ち、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する登録免許税において、その課税標準たる不動産の時価を登記官がその都度判断することが容易ではないことから、登記事務の迅速処理を考慮して規定されたものと解される。
(ハ) 登録免許税法第10条第1項に規定する不動産の価額と同法附則第7条に規定する課税台帳価格の関係
 上記(イ)及び(ロ)からすると、簡易迅速な税額確定が求められる登録免許税法においては、課税台帳価格という課税基準を一律に適用することにより課税の公平が担保されることから、同法第10条第1項に規定する課税標準たる不動産の価額は、基本的には課税台帳価格によるべきである。
 しかしながら、課税台帳価格が何らかの理由により不動産の時価を表していない場合には、他の方法により求めた不動産の価額(時価)を登録免許税の課税標準として採用することができると解するのが相当である。
ロ 登録免許税法第31条第1項に規定する過誤納金
 過誤納金とは、目的を欠く国税の納付があったことによる国の不当利得の返還金であって、例えば、申告又は課税処分に基づく納付で、その納付の時には一応適法とみられるものであったが、その申告又は課税処分が誤って過大にされていたため、後になって減額更正等がされ、結果的にみてその納付が目的を欠くことになった場合が過納であり、また、例えば、確定した納付すべき税額を超えて納付があった場合におけるその超える額の納付があった場合のように、当初から明らかに目的を欠く納付であった場合が誤納であると解される。
 この点、不動産登記に係る登録免許税が登記を受けることにより権利が保護される等の利益の背後にある担税力に着目して課されるものであり、その課税標準が当該登記の時における不動産の時価とされていることからすれば、当該不動産の時価を超える課税標準額に基づいて登録免許税が算定され、それが納付された場合、時価を超える課税標準額部分に係る登録免許税の額については、当初から目的を欠く国税の納付があったというべきであるから、誤納金に該当すると解するのが相当である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ J不動産鑑定士は、平成21年5月21日に、本件土地の競売に関する資料としてK地方裁判所民事部に「評価書」と題する書面を提出し、当該書面において、別表1−1から別表1−3まで記載のとおり、a市d町○−○に所在する標準地番号「a○−○」の地価公示標準地(以下「本件公示地」という。)の平成21年1月1日現在の公示価格を規準として、本件土地の1平方メートル当たりの更地価格を47,400円と算定し、この価格に登記地積である本件登録地積を乗じて、本件土地の「更地価格又は建付地価格」を22,438,000円(以下「本件評価額」という。)と算定した。なお、本件公示地の状況は、別表2記載のとおりである。
ロ 本件移転登記時における本件土地の実際の地積は、本件実測地積のとおりであり、本件土地の区画形状は、おおむね別図のとおり不整形地であった。
ハ 登記実務上、土地登記に係る登録免許税は、基本的に固定資産価格通知書があるものは当該通知書に記載された課税台帳価格を課税標準額としているが、分筆等があった土地で分筆等後の地積の状況が課税台帳に反映されていない場合には、分筆等前の土地に係る課税台帳価格を分筆等後の各土地の地積に応じてあん分計算した価額を課税標準額としている。

(3) 本件への当てはめ

イ 本件土地の課税標準額について
 争点(本件税額の一部が過大に納付された過誤納金に当たるか否か)を検討する前提として、本件課税台帳価格が本件土地の時価を超えているか否かの検討を要することから、以下この点について検討する。
 なお、本件土地の課税標準額は、上記(1)イのとおり、本件移転登記時における本件土地の時価となるところ、土地の時価とは、必ずしも一義的に確定され得るものではなく、一定の幅をもった概念であるから、時価の算定に当たり、合理性のある算定方法が複数ある場合には、それぞれの算定方法に従って算出された各価額の範囲をもって時価相当額と解すべきであり、本件土地の課税標準額がいくらであるかについては、その範囲内で検討する必要がある。
(イ) 本件土地の価額について
A 本件評価額の算定方法及び算定過程に準じて算出した本件土地の価額について
 本件評価額の算定方法は、上記(2)イのとおり、本件公示地の公示価格を規準としているところ、地価公示標準地の公示価格は、一般の土地取引の指標として公表されるものであることから、その算定方法には一応の合理性があると認められる。
 また、本件評価額の算定過程をみると、本件土地の周辺に本件土地の状況に類似する地価公示標準地等が他にあるとは認められず、本件土地と本件公示地は、別表2記載のとおり、接面道路等の状況に相違があるものの、その周辺の利用状況や公法上の規制等が類似しており、これらの相違については地域格差及び個別格差等で補正可能な範囲にあると認められ、別表1−1記載の「ア 標準画地更地価格」を査定する際に採用した「地域格差 100/130」については、別表2の「正面路線価」欄に記載された本件土地及び本件公示地が面する各路線の正面路線価(L国税局長が財産評価基準書で定めた路線価)の比率(47,000円/61,000円)と大差がなく、別表1−1記載の「イ 個別格差 80%」については、本件土地が上記(2)ロのとおり不整形地であり、相続税法等における土地の評価において一般的な評価基準とされている財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達)の定めに従って算定される本件土地の不整形地補正率(0.82)と比較してほぼ同じであることからすると、いずれの補正も適正になされているものと認められ、その他の補正率等においても不合理な点があるとは認められない。よって、本件評価額の算定過程には合理性があるといえる。
 そうすると、上記のとおり合理性のある本件評価額の算定方法及び算定過程に準じ、評価時点を本件移転登記時、地積を本件実測地積として算定した価額は、本件土地の時価として相当であると認められるところ、その価額は、別表3記載のとおり16,099,624円となる。
B 取引事例に比準して算定した本件土地の価額について
 土地の時価を算定する方法として、時価形成の基礎となる実際の取引事例に比準して算定する方法についても合理性があると認められるから、この算定方法により算出された本件土地の価額は、本件土地の時価として相当であると認められるところ、その価額を別表4−1及び別表4−2記載のとおり本件土地と状況が類似する土地の取引事例に比準して算定すると、14,638,535円及び14,446,116円となる。
(ロ) 本件土地の課税標準額について
 上記(イ)のとおり、合理的な方法によって算定された本件土地の時価相当額は、およそ14,400,000円から16,100,000円までの範囲内であると認められる。そうすると、上記(イ)で算定された本件土地の価額をいずれも上回る本件課税台帳価格(○○○○円)は、本件土地の時価を超えているというべきであるから、これを課税標準額とすべきではない。
 他方、請求人が主張する、本件課税台帳価格を本件登録地積で除し、これに本件実測地積を乗じる方法によって算定される課税標準額○○○○円は、上記(イ)の本件土地の価額の範囲内にあり、上記(2)ハのとおり、分筆後の地積の状況が課税台帳に反映されていない場合に分筆前の土地の課税台帳価格を分筆後の地積に応じてあん分計算するという登記実務上の課税標準額の計算方法と同様の方法によって算定されている。
 したがって、かかる事情の下においては、請求人主張の課税標準額の計算方法を採用することによる計算上の不合理又は課税上の弊害等があるとは認められず、むしろ、本件課税台帳価格に基づいて統一的に課税標準額を算定することにより納税者間の負担の公平が保たれ、上記(1)イ(ロ)の規定の趣旨にもかなうものと認められるから、当該計算方法により算定される価額○○○○円をもって本件土地の時価とし、上記(1)イ(ハ)のとおり、当該価額をもって登録免許税法第10条第1項に規定する課税標準たる不動産の価額とするのが相当である。
ロ 争点(本件税額の一部が過大に納付された過誤納金に当たるか否か)について
 上記イ(ロ)のとおり、本件移転登記に係る登録免許税の課税標準額は、○○○○円とするのが相当であるから、この課税標準額に基づいて登録免許税の額を計算すると○○○○円となる。
 そうすると、本件税額○○○○円のうち○○○○円を超える○○○○円については、「当初から目的を欠く国税の納付があった」といえるから、登録免許税法第31条第1項第3号に規定する過誤納金(誤納金)に当たると認められる。

(4) 本件通知処分について

 上記(3)ロのとおり、本件税額のうち○○○○円は誤納金に当たると認められるから、本件通知処分の全部を取り消すのが相当である。

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