(平成24年3月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、取得した建物の所有権移転登記の申請に際して納付した登録免許税について、登記官が認定した課税標準である建物の価額は過大であり登録免許税の過誤納があるとして、原処分庁に対して税務署長への還付通知をすべき旨の請求をしたところ、原処分庁が、過誤納の事実は認められないとして、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成22年6月○日の登記により納付された登録免許税について、審査請求(平成23年5月24日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 以下、平成22年6月○日の登記により納付された登録免許税に係る還付通知の請求に対して平成23年5月24日付でされた還付通知をすべき理由がない旨の通知処分を「本件通知処分」という。

(3) 関係法令等

イ 登録免許税法第9条《課税標準及び税率》は、登録免許税の課税標準及び税率は、登記の区分に応じ、同法別表第一の課税標準欄に掲げる金額(不動産の所有権の移転の登記においては不動産の価額)及び同表の税率欄に掲げる割合による旨規定している。
ロ 登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項は、同法別表第一第1号に掲げる不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額による旨規定している。
 なお、登録免許税法別表第一の第1号の(二)のハには、その他の原因による所有権の移転の登記が掲げられており、売買を原因とする所有権の移転の登記はこれに該当する。
ハ 登録免許税法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、同法別表第一の第1号に掲げる不動産の登記の場合における同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在において地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に掲げる固定資産課税台帳(以下「課税台帳」という。)に登録された当該不動産の価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定している。
ニ 登録免許税法施行令附則第3項は、同法附則第7条に規定する政令で定める価額は、課税台帳に登録された価格のある不動産については、登記の申請の日がその年の1月1日から3月31日までの期間内であるものは、その年の前年12月31日現在において課税台帳に登録された当該不動産の価格に100分の100を乗じて計算した金額とし、登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在において課税台帳に登録された当該不動産の価格に100分の100を乗じて計算した金額とし、課税台帳に登録された価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産で課税台帳に登録された価格のあるものの上記申請の日の区分に応じて計算した金額を基礎として当該登記に係る登記機関が認定した価額とする旨規定している。
ホ 登録免許税法施行令附則第4項は、同法別表第一の第1号に掲げる登記で不動産の価額を課税標準とするものについて登録免許税を課税する場合において、登記官が当該登記の目的となる不動産について増築、改築、損壊、地目の変換その他これらに類する特別の事情があるため同法施行令附則第3項の規定により計算した金額に相当する価額を課税標準の額とすることを適当でないと認めるときは、同項の規定に関わらず、同法附則第7条に規定する政令で定める価額は、同法施行令附則第3項の規定により計算した金額を基礎とし当該事情を考慮して当該登記官が認定した価額とする旨規定している。
ヘ H法務局長は、登録免許税法施行令附則第3項に規定する課税台帳に登録された価格のない不動産について登記機関が認定する価額及び同法施行令附則第4項に規定する特別の事情がある場合の不動産について同法施行令附則第3項の規定により計算した金額を基礎とし当該事情を考慮して登記官が認定する価額の基準として、登録免許税課税標準額認定基準(昭和48年3月19日付登第91号のH法務局長通達。平成21年3月25日付登第1405号による改正後のもの。以下「本件通達」という。)を定めているところ、まる1本件通達の第2の2の(5)及び別表(1)の注8は、固定資産の価格の定められている建物で、その種類・構造及び床面積について課税台帳の記載と登記簿の記載とが相違する場合に、建物の床面積の増加が、固定資産の価格決定後の増築によることが明らかなときは、増築部分について固定資産の価格の定まっていない場合の例により算出する旨、まる2本件通達の第2の本文及び第2の2の(1)は、固定資産の価格の定まっていない建物については、本件通達の別表(2)の「H法務局管内新築建物課税標準価格認定基準表(基準年度:平成21年度)」(以下「本件認定基準表」という。)により算出した額を建物の価額とする旨、まる3本件認定基準表の注書は、本件認定基準表により難い場合は、類似する建物との均衡を考慮して個別具体的に認定することとする旨、まる4本件通達の第4の(1)は、この基準に定めがない場合、又はこの基準により難い場合には、登記官が実地調査をし、客観的な資料に基づき、必要に応じて市町村の意見を聞いて建物の価額を認定する旨各定めている。
 なお、本件認定基準表には、建物の種類、構造別に床面積1平方メートル当たりの単価が定められており、建物の種類が「事務所」、建物の構造が「鉄骨造」の床面積1平方メートル当たりの単価は76,000円と定められている。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 建物の取得等
 請求人は、平成22年4月22日、売主K社ほか2名との間で、a市b町○丁目所在の建物(別表2の増築前の建物。以下「本件建物」という。)及びその敷地を売買代金33,500,000円で買い受ける旨の売買契約を締結した。
 本件建物の南側には未登記の開放型物置(屋根と壁を有し、西側部分が開放されているもの。以下「本件物置」という。)が設置されていたところ、上記売買契約において、両当事者は、売買物件の引渡しまでに、請求人において、本件物置を切断して柱を補強する工事等を行うほか、別紙のA及びBの部分(本件物置の一部)に床、壁等を設けて本件建物と一体となる事務所の増築工事を行うことなどを合意した(以下、当該増築工事により増築された事務所を「本件事務所部分」という。)。
 なお、本件建物及び本件事務所部分の状況は、別紙のとおりであり、本件事務所部分はA室及びB室の二つの部屋で構成されている。
ロ 建物の増築工事等
 請求人は、上記イの合意に基づき、平成22年6月12日までに、本件物置を切断して柱を補強し、本件建物と一体となる事務所の増築工事等を行った。
 そして、本件建物について、別表2のとおり、平成22年6月14日、増築等を原因として表示の変更登記がなされた。
ハ 所有権移転登記申請等
 請求人は、平成22年6月○日、増築後の本件建物について、同日売買を原因とする所有権移転登記を受けることを目的とし、所有権移転登記申請書に登録免許税の「課税価格」を○○○○円及び登録免許税の額を○○○○円とそれぞれ記載して、代理人の司法書士法人を通じて、電子情報処理組織を使用する方法(不動産登記法第18条《申請の方法》第1号)により、本件建物の所有権移転登記申請書をH法務局a支局に提出するとともに、同日、いわゆる歳入金電子納付システム(登録免許税法第24条の2《電子情報処理組織による登記等の申請等の場合の納付の特例》第1項、同法施行規則第23条《電子情報処理組織による登記等の申請等の場合の納付方法等》第1項)を利用して当該登記につき課されるべき登録免許税の額○○○○円を納付した。
 これに対し、H法務局a支局の登記官は、本件事務所部分の価額を4,361,640円(本件認定基準表を適用して認定した価額)と認定し、平成22年1月1日現在において課税台帳に登録された本件建物の価格に100分の100を乗じて計算した金額○○○○円に上記認定した価額を加算して、登録免許税の課税標準たる増築後の本件建物の価額を○○○○円(課税標準の額○○○○円)と認定し、これに対する登録免許税の額○○○○円が納付されていることを確認して、同年6月29日、本件建物の所有権移転登記を行った(以下、この登記を「本件登記」という。)。
ニ 本件建物に係る課税台帳の登録価格等
 本件登記の申請時点において、本件建物に係る課税台帳には、本件建物について、利用区分(種類)が「倉庫」、構造が「鉄骨スレート平」、床面積が「319.65平方メートル」と記載されており、平成22年1月1日現在において課税台帳に登録された本件建物の価格は○○○○円であったが、本件事務所部分の増築後、a市長は、本件建物に係る課税台帳に、本件事務所部分に係る平成23年度の価格を1,650,093円として登録した。

(5) 争点

 本件登記の時における登録免許税の課税標準たる増築後の本件建物の価額はいくらか。

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2 主張

請求人 原処分庁
 請求人は、別紙の本件事務所部分の太線部分の外壁及び本件事務所部分を覆う屋根は、既存の未登記の鉄骨造りの本件物置のものを使用し、他方、本件事務所部分の床、天井及び内装並びに別紙の点線部分の壁は新しい材料を使用して、本件事務所部分の増築工事をしたものである。
 このような古い材料と新しい材料を使用して増築した本件事務所部分の状況は、実地調査を行えば容易に確認できるところ、本件登記の時に近時した平成22年7月にa市役所の担当職員が実地調査を行って本件事務所部分を確認し、その調査結果に基づいて、a市長は本件建物に係る課税台帳に平成23年度の本件事務所部分の価格を1,650,093円と登録したのであるから、本件登記の時における本件事務所部分の価額は、上記価額1,650,093円となる。
 したがって、本件登記の時における登録免許税の課税標準たる増築後の本件建物の価額は、本件建物に係る課税台帳に登録された平成22年度の本件建物の価格○○○○円と本件事務所部分に係る上記価額1,650,093円とを合計した金額○○○○円となる。
 登録免許税法附則第7条及び同法施行令附則第3項第2号によれば、建物の所有権移転登記に係る登録免許税の課税標準たる当該建物の価額は、登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在において課税台帳に登録された当該建物の価格に100分の100を乗じて計算した金額によることができるとされているところ、本件登記が申請された日の年の1月1日(平成22年1月1日)現在において、本件建物に係る課税台帳の登録価格は○○○○円であった。
 しかし、本件建物は平成22年6月12日に本件事務所部分が増築され、登録免許税法施行令附則第4項に規定する増築の事情が認められたため、増築後の本件建物の価額は、本件事務所部分の価額を登記官が認定し、その認定した価額を本件建物に係る上記登録価格に加算して算出することが必要となった。
 そして、増築の事情が認められる場合の建物の価額は、本件通達に従って増築部分の価額を算定することになるところ、原処分庁は、本件通達の定めに従い、本件認定基準表を適用して、「鉄骨造」の「事務所」の床面積1平方メートル当たりの単価76,000円に本件事務所部分の床面積57.39平方メートルを乗じて、本件事務所部分の価額を4,361,640円と認定した。
 したがって、本件登記の時における登録免許税の課税標準たる増築後の本件建物の価額は、平成22年1月1日現在において課税台帳に登録された本件建物の価格に100分の100を乗じて計算した金額○○○○円と本件事務所部分に係る上記価額4,361,640円とを合計した金額○○○○円となる。

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3 判断

(1) 争点について

イ 法令解釈
 不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準たる不動産の価額については、登録免許税法第10条第1項で、当該登記の時における不動産の価額である旨規定され、当該登記の時における不動産の価額とは、当該登記の時における当該不動産の客観的交換価値、すなわち時価と解されるところ、同項の不動産の価額について、同法附則第7条は、当該課税標準たる不動産の価額は、当分の間、登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在において課税台帳に登録された当該不動産の価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定し、これを受けて、同法施行令附則第3項は、同法附則第7条に規定する政令で定める価額は、課税台帳に登録された価格のある不動産で、登記の申請の日がその年の1月1日から3月31日までの期間内であるものは、その年の前年12月31日現在において課税台帳に登録された当該不動産の価格に100分の100を乗じて計算した金額とし、登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在において課税台帳に登録された当該不動産の価格に100分の100を乗じて計算した金額とする旨各規定している。
 そして、登録免許税法施行令附則第4項は、登記官が登記の目的となる不動産について増築、改築、損壊、地目の変換その他これらに類する特別の事情があるため同法施行令附則第3項の規定により計算した金額に相当する価額を課税標準の額とすることが適当でないと認めるときは、同項の規定に関わらず、同法附則第7条に規定する政令で定める価額は、同法施行令附則第3項の規定により計算した金額を基礎とし当該事情を考慮して当該登記官が認定した価額とする旨規定し、このような場合に価額を認定する基準として、本件通達は、まる1固定資産の価格の定められている建物で、その種類・構造及び床面積について課税台帳の記載と登記簿の記載とが相違する場合に、建物の床面積の増加が、固定資産の価格決定後の増築によることが明らかなときは、増築部分について固定資産の価格の定まっていない場合の例により算出する旨、まる2固定資産の価格の定まっていない建物については、本件認定基準表により算出した額を建物の価額とする旨、まる3本件認定基準表により難い場合は、類似する建物との均衡を考慮して個別具体的に認定することとする旨、まる4この基準に定めがない場合、又はこの基準により難い場合には、登記官が実地調査をし、客観的な資料に基づき、必要に応じて市町村の意見を聞いて建物の価額を認定する旨定めている。
 このように、登録免許税法附則第7条及び同法施行令附則第3項の規定が、不動産の登記の場合における課税標準たる当該不動産の価額を基本的には課税台帳に登録された価格を用いることとしたのは、簡易迅速な税額の確定が求められる登録免許税について、登記申請の都度、登記官において個々の不動産の価額を評価するのは、実際的でないばかりか、その評価が区々となり課税の公平に反するおそれがあることから、課税台帳に登録された価格という課税基準を一律に適用することにより、課税の公平が担保されるとの考えに基づくものと解される。
 そして、登記実務上、登記の目的となる建物について登録免許税法施行令附則第4項に規定する特別の事情が認められる場合には、同項に規定する不動産の価額を本件通達の定めに基づき認定することになるが、簡易迅速な税額の確定が求められる登録免許税について課税の公平を担保するという観点から、本件通達が定めた本件認定基準表を一律に適用して計算することは相当であると認められる。
 ただし、登記の目的となる建物が、本件通達に定める本件認定基準表の作成に当たり選定された建物と類似しているとは認められず、本件認定基準表により難い場合には、課税の公平を図るために、類似する建物との均衡を考慮し登記の目的となる建物の登記の時の価額を個別具体的に認定し、類似する建物が存在しない場合又は類似する建物が把握できない場合には、他の方法により求めた登記の時の価額を課税標準たる建物の価額(時価)とすることができるものと解するのが相当であり、本件通達の第4の(1)(上記1の(3)のヘのまる4)もこれを定めたものとして相当と認められる。
ロ 認定事実
(イ) 本件事務所部分に係る増築工事等
 本件事務所部分の増築の状況に関する請求人の代表者であるGの当審判所に対する答述及び当審判所の調査によれば、本件事務所部分の増築工事の状況等は、次の内容であったことが認められる。
A 本件事務所部分の増築状況等
 本件事務所部分は、本件物置の屋根を本件事務所部分の屋根とし、本件建物の外壁及び本件物置の外壁を別紙の本件事務所部分の太線部分の壁としてそれぞれ使用し、別紙の本件事務所部分の点線部分の外壁等、本件事務所部分の各室の天井、床及び内装については新しい建材を使用して、増築されたこと、また、増築工事により、本件事務所部分を除き本件建物の構造が変更されていないことが認められる。
 なお、本件事務所部分の増築工事等を行った施工業者作成の請求人宛の請求書から、本件物置を切断して柱を補強し、本件物置と一体となる事務所の増築工事等に係る代金は5,266,920円であったと認められるが、当該施工業者は、当審判所に対し、当該代金は、本件物置を切断して柱を補強し、本件建物と一体となる事務所の増築工事等を一括して請求したものであり、本件事務所部分のみの工事代金を算定したことがない旨答述していることから、本件事務所部分のみの工事代金を認定することはできない。
B 本件事務所部分の床面積
 増築等を原因とした本件建物に係る表示の変更登記申請書に添付された増築工事の施工業者の工事施工証明書、本件建物に係る課税台帳及びその裏面記載の1階平面図によれば、本件事務所部分の床面積は57.74平方メートルであると認められる。
 なお、本件建物に係る所有権移転登記申請書に添付された建物図面の家屋明細書には、本件事務所部分の床面積を57.39平方メートルとする記載があるが、H法務局a支局に備え付けられた建物平面図にはその記載はなく、その求積表に記載された床面積の計算式にも疑問があること、増築工事の施工業者の工事施工証明書、本件建物に係る課税台帳及びその裏面記載の1階平面図には、いずれも本件事務所部分の床面積が57.74平方メートルと記載されていることなどを考慮すれば、本件事務所部分の床面積は57.74平方メートルと認めるのが相当である。
C 増築登記後の本件事務所部分の状況
 Gの当審判所に対する答述によれば、増築登記後、後記(ニ)のAにおけるa市役所の担当職員の実地調査までの間に、本件事務所部分を変更する工事等は行われなかったことが認められる。
(ロ) 登記官が行った本件事務所部分の価額の認定
 H法務局a支局登記官Lの当審判所に対する答述から、同支局の登記官は、本件登記の申請に係る登録免許税を算出するに際し、まる1上記1の(4)のニのとおり、平成22年1月1日現在において課税台帳に登録された本件建物の価格は○○○○円であるから、登録免許税法施行令附則第3項の規定により計算した増築後の本件建物の価額は○○○○円となるが、上記1の(4)のロ及びニのとおり、本件建物には同年4月22日から同年6月12日までの間に増築が行われたという事情があるため、同法施行令附則第4項の規定により、同法施行令附則第3項の規定により計算した金額に相当する価額を増築後の本件建物の課税標準の額とすることが適当でないと認めたこと、そこで、まる2同法施行令附則第4項の規定により、同法施行令附則第3項の規定により計算した金額を基礎とし、増築という事情を考慮して本件建物の価額を認定することとし、具体的には、本件建物は、別表2のとおり、増築工事後、その種類が「倉庫」から「工場・事務所」に変更されているが、増築工事が本件事務所部分を除く本件建物の構造を変更するものではなく、その価格の認定には影響しないことから、平成22年1月1日現在において課税台帳に登録された本件建物の価格に100分の100を乗じて計算した金額に、増築された本件事務所部分の価額を加算して増築後の本件建物の価額を算定することとしたこと、まる3本件通達は、上記イのとおり、建物の床面積の増加が固定資産の価格決定後の増築によることが明らかなときは、増築部分について固定資産の価格の定まっていない場合の例により算出する旨定め、固定資産の価格の定まっていない建物については、本件認定基準表により算出した額を建物の価額とする旨定めていることから、本件事務所部分の床面積を本件建物に係る所有権移転登記申請書に添付された建物図面の家屋明細書から57.39平方メートルと認定した上、この床面積に本件認定基準表に記載された種類を「事務所」、構造を「鉄骨造」とする床面積1平方メートル当たりの単価76,000円を乗じて、上記1の(4)のハのとおり、本件事務所部分の価額を4,361,640円と認定したことが認められる。
 また、H法務局民事行政部不動産登記部門統括登記官Mの当審判所に対する答述から、本件認定基準表に記載された建物の種類、構造ごとの床面積1平方メートル当たりの単価は、評価額のない新築建物について適用されることを前提に、新築建物に係る関係市町村の固定資産の評価及び固定資産評価基準の評価の動向を参考として、平均的な新築建物の価額として定められた数値と認められる。
(ハ) 増築後の本件建物と類似した建物
 当審判所がH法務局a支局及びa市役所において調査したところ、平成22年1月1日現在において、課税台帳に登録された建物のうち、一部について既存の壁等を使用して増築された事務所で、建物の種類及び構造が増築後の本件建物と類似する建物は把握することができない。
(ニ) 本件事務所部分に係るa市役所の評価
A a市役所の担当職員が作成した本件事務所部分に係る評価計算書等によれば、同職員は、平成22年7月23日、本件建物について実地調査を行い、Gから増築部分の状況に関して聴取調査等を行った上、固定資産評価基準に定める「部分別による再建築費評点数の算出方法」に従って、構造、基礎、間仕切骨組、外部仕上げ、内部仕上げ、床仕上げ、天井仕上げ等の評点項目ごとの標準評点数に各種補正(既存の建物等を使用した部分に係る経年減点補正を含む。)を施して補正後評点をそれぞれ算定し、同年6月12日時点(増築時点)の本件事務所部分の再建築費評点を1,527,271点と算定したことが認められる。
 なお、固定資産評価基準においては、標準評点数及び補正率は、同年中に取得したものは全て同じ標準評点数及び補正率が適用される。
B 本件建物の課税台帳によれば、a市長は、本件事務所部分について、取得年月日を平成22年6月12日、再建築費評点を1,527,271点、平成23年度の価格(平成23年1月1日現在の価格)を1,650,093円(再建築費評点1,527,271点に固定資産評価基準に定められた1年の経年減点補正率0.9822及び評点1点当たりの価額1.1円を乗じて算定したもの)として、課税台帳へ登録したことが認められる。
ハ 判断
(イ) 増築後の本件建物の価額について
A 上記1の(4)のハのとおり、本件登記の申請の日は平成22年6月○日であるから、増築後の本件建物の価額は、登録免許税法施行令附則第3項の規定により、同年1月1日現在において課税台帳に登録された価格に100分の100を乗じて計算した金額となるところ、上記1の(4)のニのとおり、同日現在において課税台帳に登録された本件建物の価格は○○○○円であるため、同項の規定により計算した金額は○○○○円となるが、上記1の(4)のロのとおり、本件建物について、同年6月12日までに増築工事が行われているため、同法施行令附則第4項に基づき、同法施行令附則第3項の規定により計算した価額を課税標準の額とすることは適当ではないと認められるから、増築後の本件建物の価額は、同法施行令附則第3項の規定により計算した金額を基礎とし増築の事情を考慮して登記官が認定した価額となる。
 そして、本件建物は、別表2のとおり、増築工事後、その種類が「倉庫」から「工場・事務所」に変更されているが、上記ロの(イ)のAのとおり、増築工事は本件事務所部分を除く本件建物の構造を変更するものではなく、その価格の認定には影響しないものと考えられるから、登記官が、登録免許税法施行令附則第3項の規定により計算した金額を基礎とし増築の事情を考慮して増築後の本件建物の価額を認定するに当たり、上記ロの(ロ)のとおり、平成22年1月1日現在において課税台帳に登録された本件建物の価格に100分の100を乗じて計算した金額に、増築された本件事務所部分の価額を加算して増築後の本件建物の価額とすることとしたことは、同法施行令附則第4項の規定に照らして相当である。
B 上記1の(4)のロ及びニのとおり、増築工事により本件建物の床面積が増加したことが認められるが、当該増築工事は、平成22年1月1日現在において課税台帳に登録された本件建物の価格の決定(当該価格は基準年度である平成21年度に決定されたもの)後に行われたことが明らかであるから、本件通達の適用に当たり、上記1の(3)のヘのまる1及びまる2のとおり、本件事務所部分の価額は、固定資産の価格の定まっていない場合の例により算出することとなり、この場合、本件認定基準表により算出することとなるが、本件事務所部分は、上記ロの(イ)のAのとおり、屋根の全部及び壁の相当の部分を既存建物等の屋根及び壁を使用して増築されたものであるのに対し、上記ロの(ロ)のとおり、本件認定基準表に記載された建物の種類、構造ごとの床面積1平方メートル当たりの単価は、評価額のない新築建物について適用されることを前提に、新築建物に係る関係市町村の固定資産の評価及び固定資産評価基準の評価の動向を参考として、平均的な新築建物の価額として定められた数値と認められるから、本件事務所部分の評価は、本件認定基準表により難い場合であると認められる。
 このように本件認定基準表により難い場合、本件認定基準表の注書に基づき、類似する建物との均衡を考慮し増築後の本件建物の登記の時の価額を個別具体的に認定することとなるが、上記ロの(ハ)のとおり、増築後の本件建物と類似する建物は把握することができないから、他の方法により求めた本件登記の時の価額を課税標準たる増築後の本件建物の価額とするのが相当である。
C 増築された本件事務所部分の価額を算定するに当たり、上記Bにいう他の方法を検討すると、上記1の(4)のロのとおり、本件建物に施された増築工事により本件事務所部分が出現したものであることからすれば、当該増築工事に要した費用の額が通常の取引における客観的な価額であると認められる場合には、増築工事等に要した費用のうち本件事務所部分に係る費用の額を基礎として本件事務所部分の価額を算定する方法が最適であると考えられるが、上記ロの(イ)のAのとおり、本件事務所部分の工事代金を認定することができない上、本件事務所部分は、既存の建物等の屋根と壁を使用して増築工事が行われていることから、この方法を採用することはできない。
D そこで、その他の方法で本件事務所部分の価額を検討すると、次のとおりである。
 地方税法上、課税台帳には、同法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項に規定する固定資産評価基準によって決定された価格を登録するものとされているが、固定資産評価基準において、建物の価額は、いわゆる再建築価額法(建物の再建築価額を基準とし、建物の物理的又は時の経過による損耗の程度等による減価を考慮して評価する方法)により評価する方法が採用されており、この方法が建物の客観的価格を算出する方法として基本的・普遍的なものであり、客観性を有する評価方法であることに鑑みれば、課税台帳に登録された建物の価格も、一般的に、建物の適正な時価を表象していると認めることができる。
 そうすると、本件登記の時における本件事務所部分の価額が固定資産評価基準に基づいて算定されている場合には、その価額は時価を表象しているといえる。
 これを本件についてみると、上記ロの(ニ)のAのとおり、a市長は、平成22年7月23日に実地調査を行った本件事務所部分について、固定資産評価基準に従って同年6月12日(増築)時点の再建築費評点を1,527,271点と算定しているところ、固定資産評価基準に従って建物の評価を行う場合に適用する標準評点数及び補正率は、同年中に取得したものは全て同じ標準評点数及び補正率が適用されることになるから、本件登記の時における本件事務所部分の再建築費評点も1,527,271点となる。
 そして、上記再建築費評点1,527,271点を基に、固定資産評価基準に定められた評点1点当たりの価額1.1円を乗じて、本件登記の時における本件事務所部分の価額を算定すると、その価額は1,679,998円となる。
E 以上から、本件登記の時における登録免許税の課税標準たる増築後の本件建物の価額は、平成22年1月1日現在において課税台帳に登録された本件建物の価格に100分の100を乗じて計算した金額○○○○円に増築された本件事務所部分の価額1,679,998円を加算した金額○○○○円となる。
(ロ) 請求人の主張について
 請求人は、上記2の「請求人」欄のとおり主張するが、本件登記の時における登録免許税の課税標準たる増築後の本件建物の価額は、本件登記の時(平成22年6月○日)における価額によるべきところ、請求人が主張する本件事務所部分の価額1,650,093円は、上記ロの(ニ)のBのとおり、増築時の再建築費評点を基に1年の経年減点補正率等を乗じて算定した平成23年1月1日現在の価格(課税台帳に登録された平成23年度の価格)を基にした価額であるから、当該価額を本件登記の時における本件事務所部分の価額と認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 本件通知処分について

 上記(1)のハの(イ)のEのとおり、本件登記の時における登録免許税の課税標準たる増築後の本件建物の価額は○○○○円となるから、課税標準の額は○○○○円(国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第1項に基づき1,000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)となる。
 そして、本件登記の時における登録免許税の納付すべき税額は、上記課税標準の額○○○○円に登録免許税法第9条に基づく税率1,000分の20を乗じて計算した金額○○○○円から、平成23年法律第82号による改正前の租税特別措置法第84条の5《電子情報処理組織による登記の申請の場合の登録免許税額の特別控除》本文及び第1号に基づく特別控除額5,000円を控除した金額○○○○円となる。
 そうすると、本件登記の時における登録免許税の額○○○○円は、請求人が既に納付した登録免許税の額○○○○円を下回るから、本件通知処分は、課税標準の額○○○○円及び登録免許税の額○○○○円を超える部分につき取り消されるべきである。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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