(平成24年6月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第40条の4《居住者に係る特定外国子会社等の留保金額の総収入金額算入》第1項を適用して、審査請求人(以下「請求人」という。)が株式を保有する外国法人に係る課税対象留保金額に相当する金額を請求人の雑所得に係る収入金額とみなして所得税の決定処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁の行った課税対象留保金額を算定する上での未処分所得の金額の計算に誤りがあるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年分の所得税について確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成23年3月10日付で総所得金額を○○○○円(内訳、給与所得の金額○○○○円、雑所得の金額○○○○円)、納付すべき税額を○○○○円とする決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成23年4月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月24日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成23年7月20日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 措置法第40条の4第1項は、居住者に係る外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(以下「本店所在地国」という。)におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低い外国関係会社(以下「特定外国子会社等」という。)が、各事業年度において、その未処分所得の金額に当該未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当又は剰余金の分配の額に関する調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合には、その適用対象留保金額のうちその者の有する当該特定外国子会社等の株式等に対応するものとしてその株式等の請求権の内容を勘案して計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。)に相当する金額は、その者の雑所得に係る収入金額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日の属する年分のその者の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する旨規定している。
ロ 措置法第40条の4第2項第2号は、同条第1項の未処分所得の金額とは、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額を基礎として、政令で定めるところにより、当該各事業年度開始の日前7年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額に係る調整を加えた金額をいう旨規定している。
ハ 租税特別措置法施行令(平成18年政令第135号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)第25条の20《特定外国子会社等の未処分所得の金額の計算》第1項は、措置法第40条の4第2項第2号に規定する政令で定める基準により計算した金額は、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額に係る措置法施行令第39条の15《特定外国子会社等の未処分所得の金額の計算》第1項第1号及び第2号に掲げる金額の合計額から当該所得の金額に係る同項第3号に掲げる金額を控除した残額とする旨規定している。
ニ 措置法施行令第25条の20第5項は、措置法第40条の4第2項第2号に規定する欠損の金額に係る調整を加えた金額は、第1項若しくは第2項又は第3項の規定により算出される所得の金額から当該各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度(特定外国子会社等に該当しなかった事業年度を除く。)において生じた欠損金額の合計額に相当する金額を控除した金額とする旨規定している。
ホ 租税特別措置法関係通達(法人税編)(平成21年12月28日付課法2−5ほか1課共同による改正前のもの。以下「措置法通達」という。)66の6−10《法人税法等の規定の例に準じて計算する場合の取扱い》の(2)は、措置法施行令第39条の15第1項第1号の規定により内国法人に係る特定外国子会社等の未処分所得の金額につき法人税法及び措置法の規定の例に準じて計算する場合には、減価償却費等の損金算入等確定した決算における経理を要件として適用することとされている規定については、特定外国子会社等がその決算において行った経理のほか、内国法人が措置法第66条の6《内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入》の規定の適用に当たり当該特定外国子会社等の決算を修正して作成した当該特定外国子会社等に係る損益計算書等において行った経理をもって当該要件を満たすものとして取り扱う旨を定めており、居住者に係る特定外国子会社等の未処分所得の金額を計算する場合においても法人に対する取扱いと特に異なる取扱いをする理由もないので、同様に取り扱うものとされている。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ シンガポール共和国を本店所在地とする株式会社であるC社は、所有する油そう船(以下「本件油そう船」という。)を平成11年4月頃から裸用船として第三者に貸し付け、平成16年12月に売却した。
 なお、以下において、C社の平成10年10月1日から平成11年9月30日まで、同年10月1日から平成12年9月30日まで、同年10月1日から平成13年9月30日まで、同年10月1日から平成14年9月30日まで、同年10月1日から平成15年9月30日まで、同年10月1日から平成16年9月30日まで及び同年10月1日から平成17年9月30日までの各事業年度を、順次「平成11年9月期」などという。
ロ 請求人は、平成11年9月期ないし平成17年9月期を通じて、C社の発行済株式総数500,000株のうち499,999株を保有していた。
ハ C社は、平成11年9月期及び平成12年9月期においては特定外国子会社等に該当していなかったが、シンガポール共和国における法人の所得に対し課される税の税率の引下げに伴い、平成13年9月期ないし平成17年9月期においては特定外国子会社等に該当することとなった。
ニ C社は、平成11年9月期ないし平成17年9月期の各決算を行い、財務諸表を作成し、公認会計士の監査及び株主全員の承認を受けた。なお、これらの財務諸表には損益計算書(以下、これらを「C社損益計算書」という。)が含まれている。
ホ 原処分庁は、C社の未処分所得の金額を平成13年9月期ないし平成17年9月期の各C社損益計算書上の損益計算に基づいて計算し、請求人の平成17年分の雑所得に係る収入金額とみなす課税対象留保金額を○○○○円と算定した。
ヘ 請求人は、C社の未処分所得の金額を計算することを目的として、表題を「日本法令によるC社損益計算書」とする平成11年9月期ないし平成17年9月期の各損益計算書を異議調査時に作成し、異議審理庁に提出した(以下、これらを「請求人作成損益計算書」という。)。
ト C社損益計算書及び請求人作成損益計算書の内容は、別表1の各欄のとおりである。

(5) 争点

 C社の未処分所得の金額は、C社損益計算書上の損益計算ではなく、請求人作成損益計算書上の損益計算に基づいて計算するべきか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 措置法第40条の4第2項第2号に規定する特定外国子会社等の各事業年度の決算とは、特定外国子会社等の本店所在地国における会計上の決算をいうものであるから、C社の未処分所得の金額はC社損益計算書上の損益計算に基づいて計算するべきである。

(2) 請求人

 以下の事情を参酌すれば、措置法第40条の4第2項第2号に規定する特定外国子会社等の各事業年度の決算とは、特定外国子会社等の株主のために特定外国子会社等の未処分所得の金額を計算することを目的として行った損益の計算をいうものであるから、C社の未処分所得の金額は請求人作成損益計算書上の損益計算に基づいて計算するべきである。
イ シンガポール共和国では事業年度の終了の日から6か月以内に開催される株主総会において決算を承認すべきとされていることから、C社のように9月30日を事業年度の終了の日とする特定外国子会社等においては、我が国の所得税の確定申告期限である翌年の3月15日までに、株主総会の承認を受けた決算によりC社の未処分所得の金額を計算することは不可能である。
ロ C社は、本件油そう船の取得から売却までの間の各事業年度の損益を通算すると赤字であり、請求人は租税回避行為を行っていないのであるから、平成17年9月期の未処分所得の金額だけを捉えた原処分は、租税回避行為を防止するという措置法第40条の4第1項の目的に反するものである。

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3 判断

(1) 法令等解釈

イ 措置法第40条の4第2項第2号に規定する「特定外国子会社等の各事業年度の決算」について
 措置法第40条の4第2項第2号が、上記1の(3)のロのとおり特定外国子会社等の未処分所得の金額を「特定外国子会社等の各事業年度の決算」に基づき計算することとしている趣旨は、特定外国子会社等については、その本店所在地国における会計制度が様々であり、我が国の確定した決算のような概念になじまないものがあるとしても、法人である以上は、利害関係者に対して財政状態及び経営成績を明らかにするために何らかの形で決算自体は行われることとなるから、その決算に基づいて計算した金額を未処分所得の金額の計算の基礎とすることにより、納税者による恣意的な未処分所得の金額の計算を抑制しようとしたものと解される。
 そのような趣旨からすると、措置法第40条の4第2項第2号に規定する「特定外国子会社等の各事業年度の決算」とは、特定外国子会社等が利害関係者に対して財政状態及び経営成績を明らかにするために行った決算を意味すると解するのが相当である。
 そして、決算とは、財務諸表を作成する一連の手続をいうところ、財務諸表は、その形式においては目的に応じて種々であり得ても、その内容においては実質的に単一のものでなければならず、また、会計制度は、法人にその財政状態及び経営成績を利害関係者に対して適正に開示させることを目的として定められているものであることからすると、特定外国子会社等がその本店所在地国における会計制度に従って行った決算がある場合には、その決算を措置法第40条の4第2項第2号に規定する「特定外国子会社等の各事業年度の決算」であると認めるのが相当である。
ロ 措置法通達66の6−10の(2)について
 措置法通達66の6−10の(2)が、上記1の(3)のホのとおり定めている趣旨は、我が国の法人税法が、例えば、減価償却費や圧縮損の損金算入につき確定した決算における経理を要件としているところ、我が国と本店所在地国との会計制度の違いにより特定外国子会社等がそれらを決算において費用として経理することが期待できない場合もあり得ることから、未処分所得の金額の計算に当たっては、特定外国子会社等の決算における経理によるべきことを原則としつつも、納税者がその決算を修正して作成した損益計算書における経理も損金経理の要件を満たすとしたものであり、その取扱いは、当審判所においても相当なものと認められる。
 そのような趣旨に鑑みれば、同通達は、特定外国子会社等が減価償却費等を決算において費用として経理しているにも関わらず、納税者が、その額を恣意的に変更した損益計算書を作成することにより、未処分所得の金額を調整することまで許容したものと解することはできない。

(2) 当てはめ

イ C社損益計算書は、上記1の(4)のニのとおり、公認会計士の監査及び株主全員の承認を受けるなど、C社の本店所在地国であるシンガポール共和国の会計制度に基づき行われた決算により作成されたものであると認められることから、C社が利害関係者に対して財政状態及び経営成績を明らかにするために行った決算、すなわち措置法第40条の4第2項第2号に規定する「特定外国子会社等の各事業年度の決算」により作成されたものと認められる。
 これに対し、請求人作成損益計算書は、上記1の(4)のヘのとおり、請求人が異議調査時に作成したものであって、C社が、利害関係者に対して財政状態及び経営成績を明らかにするために行った決算により作成されたものではないため、措置法第40条の4第2項第2号に規定する「特定外国子会社等の各事業年度の決算」により作成されたものと認めることはできない。
 また、措置法通達66の6−10の(2)は、上記(1)のロのとおり、特定外国子会社等が減価償却費等を決算において費用として経理しているにも関わらず、納税者が、その額を恣意的に変更した損益計算書を作成することにより、未処分所得の金額を調整することまで許容したものと解することはできないところ、請求人作成損益計算書は、C社が決算において行った減価償却費の計算に関わらず、別表1の「請求人作成損益計算書」欄のとおり、平成11年9月期ないし平成16年9月期の各期の欠損金額が零シンガポールドルになるまで当該各事業年度の本件油そう船の減価償却費を減額したものであり、C社の未処分所得の金額を恣意的に調整するために作成されたものにすぎないため、請求人作成損益計算書における経理を措置法通達66の6−10の(2)によって損金経理の要件を満たすものとして取り扱うこともできない。
 したがって、C社の未処分所得の金額は、請求人作成損益計算書上の損益計算ではなく、C社損益計算書上の損益計算に基づいて計算すべきであり、請求人の主張は採用することができない。
ロ 請求人は、上記2の(2)のイのとおり、C社の未処分所得の金額は、株主総会の承認を受けた決算により計算することは不可能であるから、請求人作成損益計算書上の損益計算により計算することが認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイのとおり、措置法第40条の4第2項第2号に規定する「特定外国子会社等の各事業年度の決算」とは、特定外国子会社等が利害関係者に対して財政状態及び経営成績を明らかにするために行った決算と解され、株主総会の承認を受けた決算であることが必要とされているわけではないため、特定外国子会社等の決算が請求人の所得税の確定申告期限である3月15日までに株主総会の承認を得られないとしても、その決算に基づいてC社の未処分所得の金額を計算することは可能であり、仮にC社の未処分所得の金額の計算の基礎とした決算が、後に株主総会の承認を得た決算とその内容を異とすることとなった場合には、提出した申告について修正申告若しくは更正の請求を行うことができることから、この点において請求人の主張には理由がない。
ハ また、請求人は、上記2の(2)のロのとおり、C社の各事業年度の損益を通算すると赤字であり、租税回避行為を行っていないのであるから、請求人作成損益計算書上の損益計算によりC社の未処分所得の金額を計算することが認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、措置法第40条の4第1項は特定外国子会社等に未処分所得の金額がある場合に課税することを規定しているところ、C社は、上記1の(4)のハのとおり、特定外国子会社等に該当し、未処分所得の金額の計算については、上記1の(3)のニのとおり、措置法施行令第25条の20第5項は未処分所得の金額の計算に当たり欠損金額を繰り越すことができる年数を限定し、また、特定外国子会社等に該当した事業年度において生じた欠損金額に限り控除することを認めていることからも明らかなように、特定外国子会社等の未処分所得の金額は、特定外国子会社等に該当しない事業年度を含めた、全ての事業年度の損益を通算して計算するものではないので、この点においても請求人の主張には理由がない。

(3) 本件決定処分について

 上記(2)のとおり、C社の未処分所得の金額は、C社損益計算書上の損益計算に基づいて計算するべきであるが、原処分におけるC社の平成17年9月期の適用対象留保金額の計算には、平成13年9月期ないし平成16年9月期で、それぞれ損金の額に算入した法人所得税の額を加算していない誤りがあったため、当審判所において再計算した結果、適用対象留保金額は、別表2のまる10欄の「審判所認定額」欄のとおり○○○○シンガポールドルとなる。
 そして、円換算後の課税対象留保金額は、別表2のまる14欄の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円となり、当該金額は、請求人の雑所得に係る収入金額とみなされ、請求人の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入することとなる。
 そうすると、請求人の平成17年分の総所得金額は○○○○円(内訳、給与所得の金額○○○○円、雑所得の金額○○○○円)、納付すべき税額は○○○○円となり、これらの額はいずれも本件決定処分の額を上回るから、本件決定処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件決定処分は適法であり、また、請求人には、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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