(平成24年4月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、医療法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、損金の額に算入した建物附属設備に係る減価償却費と収入から減算した過去に過大計上したとする診療報酬等相当額について、原処分庁が当該建物附属設備は架空の資産であり、また、当該診療報酬等相当額は収入から減算することができないとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が更正の理由付記に不備があるなどとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年1月1日から平成17年12月31日まで、平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年3月31日まで、平成19年4月1日から平成20年3月31日まで、平成20年4月1日から平成21年3月31日まで及び平成21年4月1日から平成22年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成17年12月期」、「平成18年12月期」、「平成19年3月期」、「平成20年3月期」、「平成21年3月期」及び「平成22年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)を受け、本件各事業年度の法人税について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書を平成22年12月16日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対して、平成22年12月22日付で別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの重加算税の各賦課決定処分をした。
ニ さらに、原処分庁は、平成23年2月22日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、平成17年12月期の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分並びに平成18年12月期、平成19年3月期、平成20年3月期、平成21年3月期及び平成22年3月期の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分をした(以下、平成23年2月22日付の各更正処分を併せて「本件各更正処分」といい、同日付の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。)。
ホ 請求人は、上記ニの各処分を不服として国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成23年4月14日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 原処分庁は、請求人が保存する「固定資産台帳兼減価償却額明細書(総合版)」と題する帳簿書類(以下「本件固定資産台帳」という。)に記載された固定資産のうち、別表2に記載の各建物附属設備(以下「本件各建物附属設備」という。)は架空の資産であるとして、これらに係る本件各事業年度の減価償却費は損金の額に算入することができないとして本件各更正処分を行った。
ロ 原処分庁は、請求人が平成17年12月31日付で行った別表3の仕訳日記帳の決算修正仕訳について、当該決算修正仕訳により減算された国保収入(請求人が帳簿書類において勘定科目を「国保収入」としているF連合会からの診療報酬等をいう。以下同じ。)は減算することができないとして平成17年12月期の更正処分を行った。
ハ 本件各更正処分の通知書(以下「本件各更正通知書」という。)に付記されている上記イ及びロに関する更正の理由は、別紙2のとおりである。

(5) 争点

  1. 争点1 本件各更正通知書に付記された更正の理由に不備があるか否か。
  2. 争点2 本件各建物附属設備に係る減価償却費を損金の額に算入することができるか否か。
  3. 争点3 過去の事業年度において過大に申告したとする国保収入相当額を、その後の事業年度の国保収入から減算して課税所得の金額を計算することが認められるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙3のとおりである。

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3 判断

(1) 本件各更正通知書に付記された更正の理由に不備があるか否か(争点1)。

イ 法令解釈
 法人税法は、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障している。
 このような青色申告制度の趣旨からすると、法人税法第130条第2項が、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準等の更正をする場合に、更正通知書にその更正の理由を付記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重及び合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方である納税者に知らせて不服申立ての便宜を与えるとの趣旨によるものと解されている。
 ところで、青色申告に対する更正処分の態様は、まる1帳簿書類の記載自体を認めないで更正処分を行う場合、まる2事実に対する法的評価につき納税者と見解を異にして更正処分を行う場合など様々であるが、個々の更正処分につき要求される理由付記の程度は、上記の法人税法第130条第2項の規定の趣旨と当該更正処分の具体的態様に照らし決せられるべきであるところ、処分の理由は、他の事情から納税者がこれを了知していたか否かに関わりなく、更正通知書に付記された更正の理由の文面から明らかであることが必要であり、記載すべき理由付記の程度は、上記まる1の帳簿の記載自体を認めないで更正処分を行う場合においては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示する必要があり、また、上記まる2の法的評価の相違による更正処分の場合には、それがいかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判別することができる程度に理由が表示されていれば足り、それ以上に当該法的評価の根拠を示すことや資料を摘示することは要しないと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
(イ) 「減価償却費の損金不算入額」に係る付記理由について
A 本件各更正通知書に付記された「減価償却費の損金不算入額」に係る更正の理由には、別紙2のとおり、資産の種類等を記載した表によって減価償却費のうち損金の額に算入されない部分を特定した上で、本件各建物附属設備は架空の資産であり、これらに係る減価償却費は損金の額に算入されない旨記載されている。
 そうすると、「減価償却費の損金不算入額」に係る更正処分の具体的態様は、請求人の帳簿書類である本件固定資産台帳の記載を認めず、本件各建物附属設備は現実には存在しない架空の資産であると判断したものであるから、帳簿の記載自体を認めないで更正処分を行う場合に該当するものと認められるところ、原処分庁が本件各建物附属設備に係る減価償却費を損金の額に算入することができないとして更正するに至った根拠、すなわち、どのような根拠で本件各建物附属設備を架空の資産であると判断したのかについての資料が一切摘示されていないのみならず、そのように判断した判断過程の具体的な説明も記載されていない。したがって、「減価償却費の損金不算入額」に係る更正の理由付記は、法人税法第130条第2項に規定する要件を満たさない違法なものである。
B この点について原処分庁は、架空の資産である本件各建物附属設備に係る減価償却費を損金の額に算入していたという事実に対し、架空の資産に係る減価償却費は損金の額に算入されないという法的評価を行ったもので、事実に対する法的評価につき見解の相違による更正処分を行う場合に該当する旨主張し、また、本件各建物附属設備が架空の資産であることについては、請求人の帳簿書類の記載内容等からすれば、当該更正の理由により当該資産を特定することで請求人においても当然に認識されるのであるから、当該資産が架空であることの理由までを記載する必要がない旨を主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、「減価償却費の損金不算入額」に係る更正処分の具体的態様は帳簿の記載自体を認めないで更正処分を行う場合に該当すること、また、上記イのとおり、処分の理由は、飽くまでも更正通知書に付記されている更正の理由の文面から明らかであることが必要であることから、原処分庁の主張にはいずれも理由がない。
(ロ) 「国保収入計上もれ」に係る付記理由について
A 平成17年12月期の更正通知書に付記された「国保収入計上もれ」に係る更正の理由をみると、別紙2のとおり、更正の対象が平成17年12月31日付の「国保収入」勘定科目から○○○○円を減算した決算修正仕訳であることの事実は記載されているが、平成17年12月期の国保収入から当該金額を減算することができないことについての理由は何ら記載されておらず、また、資料の摘示もされていない。
 処分の理由については、上記イのとおり、更正通知書に付記された更正の理由の文面から明らかであることが必要であることからすると、「国保収入計上もれ」に係る更正の理由付記は、原処分庁が平成17年12月期の国保収入から○○○○円を減算することができないとする処分の理由が何ら記載されていない不十分なものといわざるを得ず、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨を充足しているとは認められない。したがって、「国保収入計上もれ」に係る更正の理由付記は、法人税法第130条第2項に規定する要件を満たさない違法なものである。
B この点について原処分庁は、平成17年12月期において国保収入から減算すべきものとは認められないという法的評価を行ったもので、法的評価につき見解の相違による更正処分を行う場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、「国保収入計上もれ」に係る更正の理由付記は、前段部分に更正の対象となる事実は記載されているものの、後段部分は平成17年12月期において国保収入から減算すべきものとは認められないと記載されているだけで、認められないとする理由は記載されていないことから、仮に原処分庁が主張するとおり、「国保収入計上もれ」に係る更正処分が法的評価につき見解の相違によるものであるとしても、更正の理由付記としては要件を満たしていないといわざるを得ず、原処分庁の主張を採用することはできない。

(2) 本件各更正処分及び本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分に係る理由付記は、上記(1)のとおり、法人税法第130条第2項に規定する要件を満たさない違法なものと認められることから、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分については、争点2及び争点3について判断するまでもなく、これらを取り消すべきである。

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