(平成25年9月18日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が平成24年7月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)を法定納期限後に納付したことについて、原処分庁が、不納付加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該納付は国税通則法(以下「通則法」という。)第67条《不納付加算税》第3項に規定する法定納期限までに納付する意思があったと認められる場合として政令に定める場合に該当してされたものであり、不納付加算税は課されないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、別表1−1の「期限後納付」欄のとおり、平成24年7月分の源泉所得税を法定納期限後である平成24年8月13日に納付した。また、当該源泉所得税の納付状況は、別表1−2のとおりである。
 以下、同日に納付した源泉所得税のうち、俸給・給料等、生命・損害保険契約等に基づく年金及び定期積金の給付補填金等に係る源泉所得税の各納付を併せて「本件各納付」という。
ロ 原処分庁は、本件各納付に対し、平成24年9月28日付で、別表1−1の「賦課決定処分」欄のとおりとする不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成24年10月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成25年1月25日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成25年2月21日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 通則法第67条第1項は、源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には、税務署長は、当該納税者から、同法第36条第1項第2号(源泉徴収による国税の納税の告知)の規定による納税の告知(以下「納税の告知」という。)に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する旨規定している。また、同項ただし書は、当該告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、不納付加算税を徴収しない旨規定している。
ロ 通則法第67条第2項は、源泉徴収による国税が納税の告知を受けることなくその法定納期限後に納付された場合において、その納付が、当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないときは、その納付された税額に係る同条第1項の不納付加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付された税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ハ 通則法第67条第3項は、同条第1項の規定は、同条第2項の規定に該当する納付がされた場合において、その納付が法定納期限までに納付する意思があったと認められる場合として政令で定める場合に該当してされたものであり、かつ、当該納付に係る源泉徴収による国税が法定納期限から1月を経過する日までに納付されたものであるときは、適用しない旨規定している。
ニ 国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)第27条の2《期限内申告書を提出する意思等があったと認められる場合》第2項は、通則法第67条第3項に規定する法定納期限までに納付する意思があったと認められる場合として政令で定める場合は、同項に規定する納付に係る法定納期限の属する月の前月の末日から起算して1年前の日までの間に法定納期限が到来する源泉徴収による国税について、次の(イ)及び(ロ)のいずれにも該当する場合とする旨規定している。
(イ) 納税の告知(通則法第67条第1項ただし書に該当する場合における納税の告知を除く。)を受けたことがない場合(第1号)
(ロ) 納税の告知を受けることなく法定納期限後に納付された事実(通則法第67条第1項ただし書に該当する場合における法定納期限後に納付された事実を除く。)がない場合(第2号)
ホ 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項は、居住者が、国内において、住宅の用に供する家屋で政令に定めるものの新築等をして、これらの家屋を平成11年1月1日から平成25年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合において、その者が当該住宅の取得等に係る一定の借入金又は債務(以下「住宅借入金等」という。)の金額を有するときは、当該居住の用に供した日の属する年以後10年間の各年のうち、その者のその年分の合計所得金額が3千万円以下である年については、その年分の所得税の額から、住宅借入金等特別税額控除額を控除する旨規定している(以下、この制度を「住宅借入金等特別控除」という。)。
ヘ 措置法第41条の2の2《年末調整に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項は、同法第41条第1項の規定の適用を受けた居住者が、同法第41条の2の2第1項の規定の適用を受けようとする旨その他所定の事項を記載した申告書をその給与等の支払者を経由してその給与等に係る所得税の納税地の所轄税務署長に提出したときは、所得税法第190条《年末調整》の規定の適用については、同条第2号に掲げる税額は、当該税額に相当する金額から措置法第41条第1項の規定による控除される金額に相当する金額を控除した金額に相当する金額とする旨規定し、また、同法第41条の2の2第3項は、同条第1項に規定する申告書をその提出の際に経由すべき同項の給与等の支払者が受け取ったときは、当該申告書は、その受け取った日に同項に規定する税務署長に提出されたものとみなす旨規定している。
ト 平成12年7月3日付課法7−9ほか3課共同「源泉所得税の不納付加算税の取扱いについて」(事務運営指針)(平成24年12月21日付課法8−5ほか3課共同による改正前のもの。以下「本件事務運営指針」という。)の第1《不納付加算税の取扱い(源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合)》の1の(2)は、通則法第67条の規定の適用に当たり、給与所得者の扶養控除等申告書、給与所得者の配偶者特別控除申告書又は給与所得者の保険料控除申告書等に基づいてした控除が過大であった等の場合において、これらの申告書に基づき控除したことにつき源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由があると認められないときは、同条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合として取り扱う旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成23年12月分の源泉所得税を法定納期限(平成24年1月10日)までに納付した。
ロ 請求人は、原処分庁が平成24年1月16日から行った調査(以下「本件調査」という。)において、原処分庁所属の調査担当職員から、請求人が行った別表2−1ないし別表2−6の記載に係る請求人の各従業員(以下、これらを併せて「本件各従業員」という。)の年末調整について、措置法第41条第1項に規定する住宅借入金等特別税額控除額(以下「本件控除額」という。)が過大である旨の指摘を受けたことから、本件各従業員の本件控除額を再計算した上、平成19年12月分、平成20年12月分、平成21年12月分、平成22年12月分及び平成23年12月分の各月分の源泉所得税の不足額について、別表3の「納付税額」欄のとおりであるとして、いずれも納税の告知を受けることなく法定納期限後の平成24年3月12日に納付した(以下、当該納付した各月分の源泉所得税の額のうち平成23年12月分の納付を「本件自主納付」という。)。
ハ 本件各従業員は、別表2−1ないし別表2−6の「年分」欄の各年分の年末調整の際に、同各表の「住宅借入金等の年末残高」欄の金額、「居住開始年月日」欄の日付のほか、家屋又は土地等の取得対価の額等、所定の項目を記載した給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書(以下、本件各従業員が請求人に対し提出した当該申告書を併せて「本件各申告書」という。)とともに、本件各従業員が借入先から交付を受けた同各表の住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書(以下「本件年末残高等証明書」といい、本件各従業員が請求人に対し提出した本件年末残高等証明書を併せて「本件各年末残高等証明書」という。)をそれぞれ提出した。
 なお、本件年末残高等証明書には、要旨次の事項が記載されている。
(イ) 住宅取得資金に係る借入れ等をしている者の氏名及び住所
(ロ) 住宅借入金等の内訳
(ハ) 住宅借入金等の金額(年末残高、当初金額及び当初借入年月日)
(ニ) 償還期間又は賦払期間
(ホ) 住宅借入金等の債権者の名称及び所在地
ニ 本件各従業員のうちEが提出した、平成22年9月30日付の本件年末残高等証明書の「ローン名」欄及び「摘要」欄には、それぞれ「住宅ローン(借換)」及び「平成22年2月15日 9,800,000円を返済、借換え」との記載があり、平成23年9月30日付の本件年末残高等証明書の「ローン名」欄には「住宅ローン(借換)」との記載がある。
 また、Fが提出した平成23年分の本件年末残高等証明書の「ローン名」欄には「住宅ローン(借換)」との記載がある。
ホ 国税庁が発行した「平成23年分 年末調整のしかた」の「3 年末調整のしかた」の「2 諸控除額の確認」の「2−4 (特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書の受理と内容の確認」の「(2) 住宅借入金等特別控除申告書の内容の確認」の「注意事項」の5には、「住宅借入金等特別控除の適用を受けている人が、住宅借入金等の借換えをした場合において、借換えによる新たな住宅借入金等(一定の要件を満たすものに限ります。)の当初金額が借換え直前の当初住宅借入金等残高を上回っている場合には、その借換えをした年以降の各年において次により計算した金額を住宅借入金等の年末残高として記載します。」と記載され、次の算式が記載されている。
〔算式〕
本年の住宅借入金等の年末残高×借換え直前の当初住宅借入金等残高/借換えによる新たな住宅借入金等の当初金額
ヘ 本件各納付は、上記(2)のイのとおり、平成24年8月13日に行われており、同年7月分の源泉所得税の法定納期限である同年8月10日から1月を経過する日までに納付されたものである。
 また、請求人は、上記法定納期限の属する月の前月の末日である平成24年7月31日から起算して1年前の日である平成23年7月31日までの間に法定納期限が到来する源泉所得税の額について、上記ロのとおり、本件自主納付に係る平成23年12月分の源泉所得税の額を法定納期限(平成24年1月10日)後である平成24年3月12日に納付したことを除き、いずれも法定納期限内に納付しており、また、原処分庁から納税の告知を受けたことがない。

(5) 争点

 本件各納付は、通則法第67条第3項に規定する「その納付が法定納期限までに納付する意思があったと認められる場合として政令で定める場合」に該当してされたものに当たるか否か(本件各納付は、本件自主納付がされた事実が存在するから、通則法施行令第27条の2第2項第2号本文に規定する「納税の告知を受けることなく法定納期限後に納付された事実がない場合」に該当しないが、同号括弧書で同号本文から除外される、本件自主納付に係る源泉所得税について通則法第67条第1項ただし書に規定する「法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。)。

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2 主張

(1) 請求人

イ 本件自主納付は、住宅借入金等の借換えの際の新たな住宅借入金等の当初金額が借換え直前の当初住宅借入金等残高を上回る金額となる場合の借換え(以下、この借換えを「借増し」という。)を行った本件各従業員が、誤って借増し後の住宅借入金等の年末残高を本件各申告書に記載していたことに起因して行われたものであり、請求人は本件各申告書の年末残高と本件各年末残高等証明書の年末残高が一致していたことから特に申告内容に不審な点等を見いだせず、本件各申告書に記載された年末残高に基づいて本件控除額の計算を行ったものであるが、原処分庁が主張する確認の方法は、極めて技術的・専門的な方法であり、税務署等による特段の指導もない中で、形式的審査義務のみを負う源泉徴収義務者が自発的にこの点までの確認に気が付き、これを行うことは極めて困難である。
 したがって、本件各従業員の本件控除額が過大となったことに請求人の責めに帰すべき事由はない。
 このことは、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」として取り扱うべき場合を定める本件事務運営指針の第1の1の(2)の「給与所得者の扶養控除等申告書、給与所得者の配偶者特別控除申告書又は給与所得者の保険料控除申告書等に基づいてした控除が過大であった等の場合において、これらの申告書に基づき控除したことにつき源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由があると認められないとき」に該当する。
ロ したがって、本件自主納付に係る源泉所得税について、通則法第67条第1項ただし書に規定する「法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合」に該当するから、本件各納付は、同条第3項に規定する「その納付が法定納期限までに納付する意思があったと認められる場合として政令で定める場合」に該当してされたものに当たる。

(2) 原処分庁

イ 本件自主納付は、住宅借入金等特別控除の適用を受けた本件各従業員が、住宅借入金等の借換えをしたことを本件控除額の計算に反映させていなかったことによるものであるが、本件各申告書の記載内容をみると、住宅借入金等の各年末残高は本件各年末残高等証明書に記載された各年分の住宅取得資金に係る借入金の年末残高となっている一方で、居住開始年月日は、本件各年末残高等証明書の当初借入年月日や償還期間の記載内容と明らかに異なり、一見して本件各従業員が住宅借入金等の借換えをしたことが明らかなものである。
 また、請求人の年末調整の担当者は、年末調整の際に参考にした「年末調整のしかた」に住宅借入金等を借増しした場合の計算方法の記載があることから、住宅借入金等特別控除において住宅借入金等の借換えがあった場合に調整計算が必要であること自体は認識していたものの、具体的にどのように確認するかその方法を了知しておらず、その確認方法について税務署に問い合わせることもせず、単に本件各申告書と本件各年末残高等証明書に記載されている住宅借入金等の年末残高が一致していることのみを確認していたことからすると、請求人の確認は不十分であったことが認められ、本件各従業員の本件控除額に計算誤りがあったことについて、請求人の責めに帰すべき事由がないとは認められない。
ロ したがって、本件自主納付に係る源泉所得税について、通則法第67条第1項ただし書に規定する「法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合」に該当しないから、本件各納付は、同条第3項に規定する「その納付が法定納期限までに納付する意思があったと認められる場合として政令で定める場合」に該当してされたものに当たらない。

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3 判断

(1) 法令解釈

 不納付加算税は、源泉所得税の不納付による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に徴収及び納付した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、源泉所得税の不納付による納税義務違反の発生を防止し、適正な徴収納付の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 この趣旨に照らせば、源泉所得税の不納付があっても例外的に不納付加算税が課されない場合として通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような不納付加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
 なお、本件事務運営指針の第1の1の(2)は、給与所得者の扶養控除等申告書等に基づいてした控除が過大であった等の場合において、これらの申告書に基づき控除したことにつき源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由があると認められないときは、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる旨定めており、この取扱いは源泉所得税の不納付加算税の徴収に関する取扱基準の整備を図る趣旨から定められていることからすると、当審判所においても相当と認める。

(2) 請求人における事務処理に関する担当者の申述等

イ 請求人の経理部経費・資金グループ長であるGは、平成24年12月26日に異議審理庁所属の調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
(イ) 従業員の住宅借入金等特別控除に係る年末調整の事務及び手続等については、人事部において行っている。
(ロ) 人事部の各担当者は、年末調整の際に、単に給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書と住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書に記載されている住宅借入金等の各年末残高が一致していることのみを確認している。
(ハ) 給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書の記載内容については、形式的なチェックを行い、同申告書に記載された住宅借入金等の年末残高と金融機関が発行した住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書の年末残高が突合していれば控除を認めている。
(ニ) 人事部の各担当者は、住宅借入金等を増額して借換えた場合の調整計算について知っていたが、書面(年末残高証明書など)でどのように確認するのかは理解していないようだった。
ロ 請求人の人事部における年末調整の担当者の一人であるH(以下「本件担当者」という。)は、平成25年1月10日に異議審理庁所属の調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
(イ) 人事部は、税務署で配布している「年末調整のしかた」を参考に、給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書の記入見本を作成し、従業員に配付している。なお、当該記入見本は本件控除額の計算をチェックする人事部の各担当者に対しても交付し、チェック項目の意思統一を行っている。
(ロ) 人事部は毎年11月20日頃までに、各従業員が作成した給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書及び住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書の提出を受け、12月の初旬にかけて、当該各申告書及び当該各年末残高等証明書を照合して、記入見本どおりに記載されているかどうかを確認する。
(ハ) 「平成23年分 年末調整のしかた」に、上記1の(4)のホの記載があるので、借換えというケースがあることは知っていた。その一方で、借換えがあった場合の税法上の取扱いについては、その具体的な確認方法や計算方法は、本件調査の際に指摘を受けて認識した。
(ニ) 本件調査以前は、従業員から請求人に提出された申告書等について、借換えのケースに該当するものがあることをチェックすることは想定していなかったので、税務署に質問したことはなかった。
ハ 本件担当者は、平成25年6月12日に当審判所に対し、住宅借入金等特別控除の適用を受ける従業員が、住宅借入金等の借換えをし、それが借増しに該当すれば、「年末調整のしかた」に記載された上記1の(4)のホの調整計算をしなければならないことは認識していたが、当該従業員から借増しをしたとの申告があって、初めて調整計算をしなければならないことを把握し、それについて対応する必要があるという認識であった旨答述した。
ニ 上記イ及びロの各申述並びにハの答述の内容は、いずれも概ね整合している。また、平成23年の年末調整の際に、請求人の人事部が従業員に配付した平成23年分給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書の記入見本(以下「本件記入見本」という。)には、住宅購入のための当初借入以降に借換えを行った場合の記入要領は記載されていない事実が認められるところ、これは、上記イ及びロの各申述並びにハの答述における請求人の人事部における借換えがあった場合の取扱いの内容とも符合している。加えて、同申述等を疑うべき理由は見当たらないことからすれば、同申述等はいずれも信用することができる。
 よって、同申述等のとおりの事実関係を認めることができる。

(3) 当てはめ

イ 本件自主納付が期限後納付となった原因は、上記1の(4)のロのとおり、本件控除額が過大であったことにある。そして、その計算の基礎となる平成23年分の本件各申告書の記載内容をみると、上記1の(4)のハのとおり、確かに、住宅借入金等の各年末残高は、平成23年分の本件各年末残高等証明書に記載された住宅取得資金に係る借入金の年末残高と一致しているが、その一方で、居住開始年月日は、平成23年分の本件各年末残高等証明書の当初借入年月日や償還期間の始期についての記載内容と年単位での乖離があり、明らかに整合していない。
 そうすると、請求人は年末調整に当たり、本件各申告書に記載された居住開始年月日が、本件各年末残高等証明書の当初借入年月日と整合しているか否かのチェックを行えば、本件各従業員が住宅借入金等の借換えをしたことを確認できたにもかかわらず、そのチェックを行っていなかったものであって、請求人は、本件各従業員のいずれもが住宅借入金等の借換えをしていたことを了知できる状態にあったということができる。
ロ また、上記1の(4)のニのとおり、本件各従業員のうちEが提出した平成22年9月30日付及び平成23年9月30日付の各本件年末残高等証明書の「ローン名」欄、並びにFが提出した平成23年分の本件年末残高等証明書の「ローン名」欄には、それぞれ「住宅ローン(借換)」と記載されているほか、Eが提出した平成22年9月30日付の本件年末残高等証明書の摘要欄には「平成22年2月15日 9,800,000円を返済、借換え」と記載されているところ、上記(2)のロ及びハの申述等からすると、人事部の各担当者はこれらの記載を見落としていたか留意していなかったものであって、請求人は、E及びFが住宅借入金等の借換えをしていたことを了知できる状態にあったということができる。
ハ 本件担当者は、上記1の(4)のホの「平成23年分 年末調整のしかた」において、借換えがあった場合における注意事項が記載されていることから、当該借換えが借増しに該当する場合には別途調整計算をする必要があることを認識していたにもかかわらず、請求人の人事部においては、本件記入見本に、上記(2)のニのとおり、当該借換えがあった場合の記入要領の記載をせず、請求人の従業員に対して周知をしていなかった上、当該人事部の各担当者は、上記(2)のイの(ロ)の申述のとおり、単に本件各申告書と本件各年末残高等証明書に記載されている各住宅借入金等の年末残高が一致していることのみを確認して、従業員の借増しの有無はもとより、借換えの有無のチェックも行っていなかったことが認められる。
ニ 上記イないしハからすれば、請求人は、源泉徴収義務者として本件各従業員から提出された事項に関して通常程度の注意ないし確認等を行いさえすれば、借換えの有無、ひいては借増しの有無を確実に把握して、借換えをした年以後、適切に本件控除額の計算を行うことができたということができる。そうすると、本件控除額が過大になったことについて、請求人の責めに帰すべき事由があるというべきである。
 したがって、本件自主納付について、本件事務運営指針第1の1の(2)の「源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由があると認められないとき」には該当しない。そして、当初から適切に本件控除額の計算を行うことができたということができる以上、本件自主納付に係る源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、上記(1)に示す「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情」があったということはできないから、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。
ホ 結論
 したがって、本件自主納付は、通則法施行令第27条の2第2項第2号括弧書に規定する場合に該当せず、また、同号本文に規定する「納税の告知を受けることなく法定納期限後に納付された事実がない場合」に該当しないことは、上記1の(4)のヘのとおりであるから、本件各納付は、通則法第67条第3項に規定する「法定納期限までに納付する意思があったと認められる場合として政令で定める場合」に該当してされたものには当たらない。

(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、上記2の(1)のイのとおり、原処分庁の主張する確認方法は、極めて技術的・専門的な方法であり、税務署等による特段の指導もない中で、形式的審査義務のみを負う源泉徴収義務者が自発的にこの点までの確認に気が付き、これを行うことは極めて困難であるから源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由がない旨主張する。
ロ しかしながら、上記(3)のニのとおり、請求人は、源泉徴収義務者として通常程度の注意ないし確認等を行いさえすれば、適切に本件控除額の計算を行うことができ、ひいては、本件自主納付に係る源泉所得税を法定納期限内に納付することもできたというべきであって、このような通常程度の注意ないし確認等を要する方法をもって、極めて技術的・専門的な方法と評価することはできない。
 したがって、請求人の主張はその前提を異にするものであって、採用することができない。

(5) 本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件各納付は、通則法第67条第3項に規定する「その納付が法定納期限までに納付する意思があったと認められる場合として政令で定める場合」に該当してされたものには当たらず、また、平成24年7月分の源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、同条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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